その他福岡8(収賄)

その他福岡8(収賄)

福岡地方裁判所/平成13年(わ)第1810号等

主文
1 被告人Aを懲役4年に処する。
同被告人に対し,未決勾留日数のうち270日をその刑に算入する。
同被告人から,金1,800万円を追徴する。
2 被告人Bを懲役2年10か月に処する。
同被告人に対し,未決勾留日数のうち180日をその刑に算入する。
同被告人から,金870万円を追徴する。
3 被告人CことDを判示第1の3の各罪について懲役2年に,判示第3の罪について懲役6か月に処する。
同被告人に対し,未決勾留日数のうち130日を判示第1の3の各罪の刑に算入する。
4 被告人Eを懲役3年に処する。
同被告人に対し,未決勾留日数のうち190日をその刑に算入する。
同被告人から,金350万円を追徴する。
5 訴訟費用は被告人A及び被告人CことDの連帯負担とする。

理由
(犯罪事実)
 
被告人Aは,福岡県警察官として,平成4年8月25日から同11年3月3日まで,同県甲警察署O2課ないしP2課に,同月4日から同13年3月28日まで,同県乙警察署Q2課に,同月29日から同年12月13日まで,同署R2課に勤務し,それぞれ同県内における各種犯罪の予防,鎮圧及び捜査,その他公共の安全と秩序の維持等に当たる職務に従事していたもの,被告人Bは,同県警察官として,同6年3月25日から同13年12月13日まで,同県警察本部S2部T2課に勤務し,同県内におけるいわゆるカジノバー等の賭博場に対する捜査等の職務に従事していたもの,被告人Eは,福岡県警察官として,平成8年3月28日から同10年8月26日まで,同県警察本部S2部T2課に勤務し,同県内における暴力団等に係る犯罪の取締りなどに当たる職務に従事し,同月27日から同13年4月30日まで,同県丙警察署U2課に勤務し,同県内における各種犯罪の予防,鎮圧及び捜査,その他公共の安全と秩序の維持等に当たる職務に従事していたもの,被告人CことDは,福岡市内所在のいわゆるカジノバー「M2」等の経営に関与していたものであるが
第1
1 被告人Aは,平成10年8月27日ころ,福岡市a1区b1c1番d1号所在のホテル「A2」3階バー「B2」において,被告人Dから,前記「M2」等に対する同県警察の捜査に関する情報を提供してほしい旨の請託を受け,これに対する報酬の趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら,同月28日ころから同13年10月30日までの間,前後28回にわたり,別表1記載のとおり,現金合計1,710万円の供与を受け,もって自己の職務に関し請託を受けて賄賂を収受した。
2 被告人Bは,平成11年12月16日ころ,福岡市a1区i1j1丁目k1番l1号所在のホテル「D2」1階バー「E2」において,被告人Dから,前記「M2」等に対する同県警察の捜査に関する情報を提供してほしい旨の請託を受け,これに対する報酬の趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら,同12年3月9日ころから同13年10月30日までの間,前後15回にわたり,別表2記載のとおり,現金合計870万円の供与を受け,もって自己の職務に関し請託を受けて賄賂を収受した。
3 被告人Dは
(1)被告人Aに対し,平成11年4月28日ころから同13年10月30日までの間,前後21回にわたり,別表1の番号8から同28までのとおり,前記第1の1記載の請託をした上,その報酬の趣旨のもとに,現金合計1,360万円を供与し,もって同被告人の職務に関し賄賂を供与し
(2)被告人Bに対し,平成12年3月9日ころから同13年10月30日までの間,前後15回にわたり,別表2記載のとおり,前記第1の2記載の請託をした上,その報酬の趣旨のもとに,現金合計870万円を供与し,もって同被告人の職務に関し賄賂を供与した。
第2 被告人Eは,福岡県警察官として,平成10年8月27日から同13年4月30日まで,同県丙警察署U2課に勤務し,同県内における各種犯罪の予防,鎮圧及び捜査,その他公共の安全と秩序の維持等に当たる職務に従事していたものであるが,同10年9月25日ころ,福岡市a1区e1f1丁目g1番h1号所在の飲食店「C2」において,福岡市内所在のいわゆるカジノバー「M2」の経営に関与していた被告人Dから,前記「M2」等に対する同県警察の捜査に関する情報を提供してほしい旨の請託を受け,これに対する報酬の趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら,同日,同所において,同被告人から,被告人Aを介して,現金50万円の供与を受け,もって自己の職務に関し請託を受けて賄賂を収受した。
第3 前記のようにカジノバー「M2」等の経営に関与していた被告人Dは,平成11年9月21日ころ,福岡市a1区i1j1丁目k1番l1号所在のホテル「D2」1階バー「E2」において,同県警察官として,同10年8月27日から同14年2月27日まで,同県丁警察署V2課に勤務し,同県内における各種犯罪の予防,鎮圧及び捜査,その他公共の安全と秩序の維持等に当たる職務に従事していた分離前の相被告人Fに対し,前記「M2」等に対する同県警察の捜査に関する情報を提供してほしい旨請託した上,その報酬の趣旨のもとに,現金100万円を供与し,もって同被告人の職務に関し賄賂を供与した。第4 被告人Eは,平成9年8月12日ころから同12年12月31日ころまでの間,前後6回にわたり,別表3記載のとおり,福岡県久留米市e2町f2番地g2所在の喫茶店「L2」店内ほか4か所において,指定暴力団戊会会長である分離前の相被告人Gから,前記戊会及び同会関係者について同県警察が行う捜査に関する情報を提供するなどの有利かつ便宜な取り計らいを受けたことの謝礼及び将来も同様な取り計らいを受けたいとの趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら,現金合計300万円の供与を受け,もって自己の職務に関し賄賂を収受した。
第5 被告人Aは,平成13年1月12日ころ,福岡市a1区r2s2丁目t2番地u2付近路上に停車中の普通乗用自動車内において,福岡市内所在のいわゆるカジノバー「N2」の経営に関与していた分離前の相被告人I及び同JことKらから,同店に対する福岡県警察の捜査等に関する情報を提供してほしい旨の請託を受け,これに対する報酬の趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら,そのころから同年3月12日ころまでの間,同所ほか1か所において,前後3回にわたり,別表4記載のとおり,現金合計90万円の供与を受け,もって自己の職務に関し請託を受けて賄賂を収受した。 
(証拠の標目)〈略〉
(事実認定の補足説明)
第1 被告人Eの弁護人の主張
 
判示第2につき,被告人Eの弁護人は,被告人Eが,平成10年9月25日ころ,「C2」で,被告人Dから同Aを介して現金50万円の賄賂を受け取った事実(以下「本件賄賂金収受」という。)はないから無罪であるとし,その理由として,〔1〕被告人Aは,「C2」で被告人Eに50万円を渡した状況について,公判廷では,捜査段階と異なる内容を供述している,〔2〕被告人Eが,捜査段階において,事実に反して本件賄賂金収受を認めてしまったのは,(ア)実兄が被告人Dの会社に雇用されていたことについて,取調官から,第三者収賄に該当するから兄が得た給料は全て追徴されるなどと告げられたため,資産もなく病弱な兄に多大な迷惑をかけることを憂慮してしまい,取調官から「これ一本(本件賄賂金収受)に絞り,他の件については刑事事件として扱わない。」との利益誘導を受けたこと,(イ)取調官から,被告人Aを悪者にしたのは被告人Eであると責められて,被告人Aに対して申し訳ないという意識を持っていたこと,(ウ)被告人Eは,取調の当初から,先に逮捕されている被告人A及び同Dが,本件賄賂金収受を供述しているものと早合点し,両名が供述していれば,自分1人が否認しても聞き入れてもらえないと考えたこと,などの心理的な葛藤があったためである,と主張している。 
 
そこで,以下,被告人A及び同Eの供述の信用性について検討する。
第2 当裁判所の判断
1 被告人Aの供述の信用性について
 
被告人Aは,判示第2の犯行当日,「C2」で,被告人Dから渡された100万円のうち50万円を被告人Eに渡した状況につき,捜査段階では,被告人Dから受け取った100万円をズボンの左右のポケットに50万円ずつ入れ,そのうち左ポケットに入れていた50万円を被告人Eの上着の右ポケットに入れて渡した旨供述していた(被告人Aの平成14年2月17日付検察官調書(乙96))が,公判においては,被告人Eに50万円を渡す際,「封筒に入った50万円と裸の50万円を一緒に見せたところ,被告人Eは裸銭のほうを取った。だから被告人Aが,封筒のほうを取って下さいと言ったら,被告人Eは,封筒は邪魔になると言って裸銭のほうを受け取った。」旨供述している(第15回公判35項)ので,この点については被告人Eの弁護人が指摘するとおり被告人Aには供述の変遷が認められる。加えて,被告人Aは,本件賄賂金収受を供述するに至った経緯について,取調官から被告人E自身が認めているとの追及を受けたので自分も認めた旨供述していること(第15回公判14項以下),本件賄賂金収受については,平成14年1月29日付で被告人Eの警察官調書(乙194)が作成されており,これは被告人Aが本件賄賂金収受を認めるよりも先に作成されたものと考えられることなどの事情に照らすと,捜査段階で,本件賄賂金収受については,被告人Eの自白が先行し,その後被告人Aの供述が録取されたことが認められる。
 
そこで検討するに,被告人Aは捜査段階以来,被告人Eが一旦は,その受け取りを拒否するそぶりを見せたという印象的な出来事を含めて50万円を受領したという点では一貫した供述をしている。
 
しかも,被告人Aは,捜査段階で自己の認識(公判で供述した内容)と異なる部分を認めた経緯について,「結局Eさんのことは絶対言うまいと思っていましたけど,現実に本人がこげん言うとるということであれば,少々筋が違ごうとったって,後は,流れはEさんにならざるをえんから,結局Eさんがこんなこと言うてくれと言わないかんから,それを令状請求の調書のときにどうのこうの言うたっちゃ始まらんから,もう黙ってサインしました。」と述べている(第15回公判32項)のであるから,自分が取調官に対して隠してきた被告人Eの判示第2の犯行につき,被告人Eが自供したと聞いて,被告人Eが自供したのであればもうこの事件を取調官に対して隠す必要がないと考えて,金員授受の状況の細かい点については,被告人Eの供述に合わせるという姿勢で臨んだため,細部においては,自己の認識と異なる内容が録取されることは不自然ではないし,被告人Aを通じて50万円を受け取ったという根幹部分の信用性に疑問を生じるものではない。
そうすると,被告人Aの供述が変遷した理由は,被告人Aが,捜査段階で,先になされた被告人Eの供述に合わせるという姿勢で取調べに臨んだため,事案の根幹とはいえない細部については自己の記憶と異なる内容まで認めたものの,公判廷では供述の摺り合わせの要請がなくなったことから,自己の記憶どおりの供述をしたものと認められる。これらの事情に照らせば,捜査段階の供述と公判廷での供述との間に変遷が生じたとしても,捜査段階から一貫して認めている事案の根幹部分についての信用性に影響を及ぼすものではない。更に,被告人Aは,被告人Eが自供したと聞くまでは本件賄賂金収受について供述していなかったのであるから,被告人Aとしては,被告人Eを陥れるために虚偽の供述をする動機も考えられない。
 
以上のことから,被告人Aの供述のうち,少なくとも,平成10年9月25日判示の「C2」において,被告人Dから渡された100万円のうちの50万円を被告人Eに渡したという根幹部分については信用性が認められる。
2 Eの自白の信用性について
(1)供述経過
 
被告人Eの本件についての供述経過についてみると,関係各証拠によれば,被告人Eは,平成14年1月29日に警察官から任意同行を求められ,福岡県警察本部で取調べを受けて,その日のうちに本件賄賂金収受を認め同日付警察官調書(乙194)が作成された。また,被告人Eの妻であるLの同月30日付警察官調書(甲121)によれば,被告人Eは,その日任意取調べを終えて帰宅した際に,妻に対しても「Aが50万円渡してくれた。」と告げて本件賄賂金収受を認める話をしていることが認められる。更に被告人Eは2日目の任意出頭となる平成14年1月30日の取調べでも本件賄賂金収受を認めたことに加え,カジノバーに対する捜査情報の提供とは別の情報提供の見返りとして,被告人Dから5万円を2回ほど受け取ったことがある旨供述している(同日付警察官調書(乙193))。被告人Eは,平成14年1月31日判示第2の犯行により通常逮捕され,以後の取調べでは一貫して本件賄賂金授受を認めていたが,平成14年11月25日の第14回公判期日において,「お金を渡そうとするから,もう要らんと,お前使うとってよかと,それで終わりましたけど。」と供述し(206項),本件賄賂金収受について否認に転じたものである。被告人Eは,捜査段階で本件賄賂金収受を認めた理由として,弁護人主張と同旨の供述をし,公判廷で否認に転じた理由として,被告人Aが,事実に反する,あるいは事実を歪曲した供述をしたことと,同被告人が被告人Eがカジノバー「キングオブキングス」の山田なる人物を紹介する以前から,他のカジノバー経営者から賄賂をもらっていたことを知り,被告人Aに対する負い目がなくなったことなどを挙げている(第15回公判)。

(2)供述調書の信用性
 
判示第2を認めた被告人Eの供述調書(乙88等)は,極めて具体的かつ詳細である。しかも,前記被告人Dの検察官調書によれば,被告人Eは,その後,県警察本部刑事部捜査第四課に勤務している知人から同課の繁忙状況を聞いて,いわゆる安全情報(捜査担当部署が他の事件で忙しく,カジノバーの捜査に手が回らないなど,しばらくは摘発を警戒せずにカジノバーの営業を続けられるという趣旨の情報)を被告人Dに提供していることが認められるところ,このような行動は,賄賂金を受け取ったことに対する見返りと考えるのが合理的である。加えて,被告人Eは,前記のとおり,判示第2の犯行の嫌疑で任意出頭した初日から本件賄賂金収受を自白し,初日の任意取調べを受けて帰宅した際,妻に対しても被告人Aから50万円受け取った旨告げているところ(Lの警察官調書(甲121),第15回公判55項),これは,被告人Eが妻に対して真実を吐露したものと理解できる。このように,被告人Eの供述調書の内容は,具体的かつ自然であることに加えて同被告人自身の現実の言動とも整合するものである。
 
次に,被告人Eの捜査段階における取調状況についてであるが,同被告人自身が供述調書の任意性には問題がないことを認めている(第19回公判213項)上,被告人E自身,取調べ経験の豊富なベテラン警察官であり,自白調書の重要性や取調べの手法等を熟知した上で自白していることなどの事情に照らせば,取調状況に供述の信用性を疑わせるような事情は認められない。
 
被告人Eが兄に迷惑がかかることを回避したいと考えたという心情自体は不合理とは言えないが,以上の事情からすれば,虚偽の自白をすることは考えられないから,公判廷における被告人Eの弁解は,信用できない。被告人Eの本件賄賂金収受についての供述調書は,十分信用性が認められる。
3 結論
 
以上のとおりであり,本件賄賂金収受を否定する被告人Eの弁護人の主張は採用できない。
第3 判示第1につき,請託の趣旨に関する被告人Aや同Dの供述について
 
被告人Aの弁護人は,判示第1の請託の趣旨につき,被告人Aは自己の担当する職務の内容からすれば,カジノバーに対する捜査情報を入手することが不可能であるから,被告人Dがネームバリューのある被告人Aに日頃から金を渡しておけば何かあったときに役に立つかもしれないという抽象的な期待感をもったにすぎない(被告人Aが公判で供述する「安心料」。)と主張し,被告人Aも,「私に金を払うとけば,何となく安心だなと言うことだと思います。」,「捜査情報ということで山本さん(被告人D)から言われたことはありません。」と述べて,自分に対する賄賂は「安心料」であり,請託の趣旨は捜査情報の提供ではなかったかのような弁解を繰り返しており(第9回公判54項以下,223項以下,291項以下,第10回公判451以下等),被告人Dも,「当時は,計画的にAさんに何かを聞き出そうとかいうんじゃなく,そういうもんかなあというふうな始まりやったので,過度な期待とかうんぬんとかとは,また,違ったようにも思うんですが」と述べて,請託の趣旨につき曖昧な供述をしている(第18回公判212項以下)。
 
しかしながら,関係各証拠によれば,被告人Dは,自己が経営するカジノバーの経営を維持し,そこから継続的に多額の収益を挙げるために,警察官に近寄り,贈賄工作を行ったことが認められる。そもそもカジノバーは警察にとっては摘発の対象であって,警察官への接触を試みればかえって摘発を受ける可能性がある上,警察官と接触できても,金員を提供したことが発覚すれば当然贈賄罪の嫌疑がかかり,逮捕される危険がある。そうすると,被告人Dが,あえてかかる危険を冒してまでして警察官と接触するのは,そのようなリスクを上回る利益が得られるからで,かかる利益としては捜査情報を入手して警察の捜査を免れカジノバーの存続を図ること以外に想定しがたいから,前記被告人Dの弁解は,不自然かつ不合理である。しかも,被告人Dは,被告人Aに対して約3年2か月間に多数回にわたり,合計1710万円,被告人Bに対しても1年7か月余りの間に870万円もの大金を供与しており,このような多額の金員が安心料などという曖昧な性質のまま渡されるとは考え難い。また,被告人Aにしても,摘発対象者からの金員供与がいかなる意味を持つかについて,警察官としての一般的な認識を有していたものであり,カジノバーを経営する被告人Dが自己に近づく目的はカジノバーに関する捜査情報を入手する点にあったものと容易に理解できる事柄である。加えて,被告人Dは,平成11年12月被告人Aから福岡県警察本部刑事部捜査第四課に所属する被告人Bを紹介された際には,被告人Bに賄賂として月100万円渡す,被告人Aに対する賄賂額も月50万円から100万円に増額する旨申し出ており,当時捜査第四課に所属していたため,捜査情報を得られる可能性の高い被告人Bを引き込むことに執着していたことが推認されること,被告人D及び同Aも,捜査段階では一貫して請託の趣旨が捜査情報の提供にある旨認めていること,被告人Aは,被告人Bから聞いた「M2」に対する捜査情報を自ら被告人Dに連絡していること(第10回公判16項以下)などの事情に照らすと,被告人A及び同Dの弁解は信用できず,請託の趣旨はカジノバーに関する捜査情報等の提供にあったものと認められる。
(確定裁判)
 
被告人Dは,平成12年9月5日京都地方裁判所で道路交通法違反の罪により懲役4月,3年間執行猶予に処せられ,その裁判は同月20日に確定したものであって,この事実は前科調書(乙36)によって認める。
(適用法令)
罰条
判示第1の1(被告人A),第1の2(被告人B)及び第5(被告人A)の各行為
それぞれ包括して刑法197条1項後段
判示第1の3の各行為(被告人D)
それぞれ包括して同法198条
判示第2の行為(被告人E)
同法197条1項後段
判示第3の行為(被告人D)
同法198条
判示第4の各行為(被告人E)
いずれも同法197条1項前段
刑種の選択 判示第1の3及び第3の各罪につきいずれも懲役刑
併合罪の処理(被告人A)
刑法45条前段,47条本文,10条により犯情の重い判示第1の1の罪の刑に法定の加重
(被告人E)
刑法45条前段,47条本文,10条により犯情の最も重い判示第4の別表3の番号4の罪の刑に法定の加重
(被告人D)
判示第1の3の各罪につき,刑法45条前段,47条本文,10条により犯情の重い判示第1の3の(1)の罪の刑に法定の加重
判示第3につき,前記確定裁判のあった道路交通法違反罪と刑法45条後段の併合罪であるから,同法50条によりまだ裁判を経ていない判示第3の罪について更に処断
未決勾留日数の算入 それぞれ,刑法21条
追徴(被告人A,同B,同E)
それぞれ,刑法197条の5
訴訟費用の負担(被告人A,同D)
刑事訴訟法181条1項本文,182条
(罪数についての補足説明)
1 判示第1の1,第1の2の各受託収賄罪及び第1の3の各贈賄罪の罪数関係について検討するに,被告人Dは,多額の資金を投入してカジノバーを開店し,違法なバカラ賭博等を行って経営を続け多額の利益獲得を目論んでいたものであるから,被告人Dとしては,「M2」等の経営を継続することが極めて重要であり,そのために最も警戒しなければならないのが警察から摘発されることであり,自己の関与する店に対して捜査が行われる旨の情報は極めて重要である反面,格別の対策を講じることなくして捜査情報を事前に入手することは困難であるから,カジノバー経営者としては,警察官に対して定期的に賄賂を贈ることによって継続的な関係を築き,緊急の事態に備えて捜査情報等の提供を依頼しておくことが検挙を免れるための有効な対策となるし,また,捜査情報のみならず,捜査担当部署が他の事件で忙しくカジノバーの捜査にまで手が回らない等のいわゆる安全情報も,警察がカジノバーを摘発するか否かを判断する際の資料となるもので価値が高いと認められるから,被告人Dの被告人A及び被告人Bに対する各請託には,このような情報提供の趣旨が含まれていたものと解される(被告人Dの検察官調書(乙184,191)等)。被告人Dは被告人Aと知り合う前は,あるブローカーに月々の金員を支払って警察の捜査情報等を入手しようとしていたが,うまくいかないため,現職の警察官であり,当時中洲を管轄する甲警察署に所属する被告人Aに接触を試みて初対面の被告人Aと会い,捜査情報等の入手を依頼するとともに,その報酬として毎月50万円を支払う約束をしている。このような経緯も被告人Dの被告人Aに対する依頼の趣旨が捜査情報の提供等にあったことを裏付けている。被告人Aが,その後,福岡県警察本部S2部T2課での経験が長いFや,同課に所属していた被告人Bを紹介したことも,カジノバーに対する捜査情報が入手可能であることを被告人Dに対して印象付ける狙いがあったものと認められる。
 
ところで,被告人Aについては,被告人Dからの請託を受けた後,被告人E,F,被告人Bを紹介するなどしており,F,被告人Bを紹介した際には,賄賂額が増加している。前記のとおり,当初の請託は被告人Dが関与するカジノバーに対する捜査情報の提供にあるところ,被告人Eは被告人Dに紹介される約1か月前の平成10年8月26日まで福岡県警察本部S2部T2課に所属しており,カジノバーの捜査には直接的に関与していなかったものの,同課内に知人も多く,捜査情報に接触しやすい立場にいたことが認めれるし,被告人Bは被告人Dに紹介された当時,福岡県警察本部S2部T2課に所属しており,カジノバーに対する捜査情報と極めて近い位置にいたことが明らかである。そうすると,被告人Aが被告人Dに対して被告人Eや被告人Bを紹介したのは,自分が甲警察署から乙警察署へ異動して,被告人Dからみれば,カジノバーの捜査情報が取れないのではないかと不安を感じていたことから,これらの警察官を通じて捜査情報を入手しようとしたものと認められ,被告人Aと被告人Dとの間の請託内容自体には格別の変更はなかったと考えられる。また,Fの紹介についても,同人が前記T2課や,甲警察署に勤務した経歴があることから,被告人Aは,被告人Dに対して,Fがカジノバーの捜査情報に近いことを話しているから,被告人E,同Bと同様捜査情報の入手のためといえる。被告人Aが,被告人E,被告人B,Fを被告人Dに紹介したことは,その後も被告人Dと被告人Aとの間でそれまでと同様の贈収賄関係が続いたことからすると,請託内容の基本的な趣旨を変更するものではない。このように新たに警察官が加入したとき以外の事情変更として,平成12年5月から約半年間,賄賂の提供が途絶えたこと,再開後の賄賂額が減額されたこと,被告人Aについては他の警察官を紹介したとき以外にも賄賂額が増額されている場合があること(平成11年4月28日,同年12月上旬)が認められるが,賄賂供与の中断とその後の減額は,贈賄者である被告人Dの経済的事情によるものであり,請託の趣旨に影響を及ぼすものではないし,被告人Aについて100万円が供与されている月があることについても,2か月分が一度に供与されたことから生じたものであって,事情の変更ともいえないものである。したがって,請託後に生じた事情によって当初の請託の趣旨に変更を生じたものとみるのは相当でない。これらの事情に照らせば,被告人Dが,被告人Aや被告人Bに対してなした請託は,その後繰り返し行われた賄賂授受を包括一罪と評価する基礎となるものである。
2 なお,被告人A及び同Bの請託時の職務権限についてであるが,平成10年8月下旬当時の被告人Aの具体的職務権限は,福岡県甲警察署O2課W2係主任として風俗営業の許認可に関する事務や行政指導等を行うもので,カジノバーに対する捜査を直接担当していたわけではないが,前記のとおり,カジノバー経営者が欲する情報にはいわゆる安全情報も含まれており,少なくともそのような情報であれば甲警察署に勤務し,ことに約6年間という長期に渡って風俗営業の許可業務等に従事していた被告人Aであれば,何らかの機会を通じるなどして容易に入手し得たと考えられるうえ,被告人Aは,当時,県警察本部S2部T2課に所属していた被告人EやF(Fは平成10年8月27日付で丁警察署に異動)と親交があったことから間接的に捜査情報を入手することも十分可能であったといえる。平成11年12月16日当時の被告人Bは,福岡県警察本部S2部T2課X2主任の地位にあり,当該部署が暴力団犯罪の捜査を重点的に行っており,カジノバー摘発にも関与していることからすれば,被告人B自身の担当事務は捜査自体ではなく庶務的なものであったが,捜査情報の入手が容易であったことは明らかである。したがって,被告人A及び同Bは,被告人Dから請託を受けた当時,いずれも同被告人の関与するカジノバーに対する捜査情報を入手しうる権限を有していたといえる。しかも,カジノバーが比較的短期間のうちに閉店に至っていた当時の状況(第10回公判被告人A124項)からすると,少なくとも被告人Dがカジノバーの経営に関与している期間程度は,被告人A及び同Bが捜査情報を入手し続けられるということも十分予想し得たといえる。
3 以上のとおり,被告人Dから被告人A及び同Bに対して多数回にわたってなされた賄賂の提供は,当初の包括的な請託に基づくものと評価できるから,被告人A及び同Bについてはそれぞれ包括的に受託収賄罪一罪が,被告人Dについては両名に対する関係でそれぞれ包括的に贈賄罪が成立する。
(被告人Eの弁護人の主張に対する判断)
 
被告人Eの弁護人は,被告人Eが被告人Dから金員を収受した収賄容疑での取調中に指定暴力団戊会会長Gからの賄賂の収受を供述した点について,自首が成立すると主張する。
 
そこで判断するに,被告人Eは,Gから金員を収受した収賄被告事件(併合前の平成14年(わ)第340号,414号事件)の公判において,「本件(被告人Dからの収賄事件)調べが終わってですね,ほかにもないかという追及でしたけど。」,「名指しではありませんけどですね,ほかにはないかということで追及はありました。」と供述しているところ(同事件の第5回公判),本件においては,複数の警察官が多数回にわたりカジノバー経営者から賄賂金を受け取っていることから,取調官としては,被告人Eに対しても余罪があることを予想してこのような追及をしたものと推察できる。自己の犯罪事実について捜査官の取調べを受けている者が,その取調べ中,他にも犯罪を犯していないかとの趣旨の問いを受けて更に他の犯罪事実を自供したとしても,捜査官が余罪の嫌疑をもった取調状況下での供述は,自ら進んで犯罪事実を自主的に捜査機関に申告したことにはならず,被告人Eに刑法42条1項の自首は成立しない。したがって,被告人Eの弁護人の主張は採用できない。
(量刑の理由)
1 被告人A,同B及び同Eは,いずれも警察官として,個人の生命,身体及び財産の保護に任じ,犯罪の予防,鎮圧,捜査等公共の安全と秩序の維持にあたることを責務とし,違法行為を取り締まり,厳正,公平に職務を遂行すべき立場にあって,職務の廉潔性,公正さが極めて強く要請されるにもかかわらず,捜査対象となる違法な賭博等の営業を行うカジノバー経営者から金員を収受し,被告人Eについては,これに加えて,その取締りが社会的に強く望まれている暴力団組織の会長からも金員を収受していたものであって,前記被告人3名の行為は,福岡県民の警察捜査活動の公正さに対する信頼を踏みにじり,警察全体の名誉,信頼,威信を著しく失墜させた。贈賄者である被告人Dにおいても,自己の経営するカジノバーを摘発から免れさせて,不法な利益を上げ続けるために,警察対策費と称して,カジノバーの売上金を原資として複数の警察官に対して多額の賄賂を供与していたものであって,利欲に駆られ,県民全体に奉仕すべき警察官を私的な情報提供者として利用してきた。本件は,マスコミにより大きく報道され,警察関係者はもとより社会一般に非常に大きな衝撃を与えており,社会的影響も甚大である。これらのことからすれば,各被告人の行為は,いずれも強い社会的非難が加えられなければならない。 
2 被告人Aについて
 
被告人Aは,カジノバー「M2」等を経営する被告人D,同「N2」の経営に関与していたIら,という二つのカジノバーの業者から賄賂を収受している。被告人Dからは,約3年2か月の間に,28回にわたり,合計1710万円もの現金の供与を受け,加えて,その間に別のカジノバーの経営に関与していたIらからも3か月の間に合計90万円の賄賂を受け取っており,その収賄期間及び収賄金額は,警察官の汚職事件としては他に類を見ないほど長期かつ多額である。被告人Aには,警察官としての倫理観が欠落しており,犯行の常習性は顕著である。被告人Aは,自らが賄賂を収受するだけにとどまらず,被告人Eを,捜査情報提供者として被告人Dに紹介し,さらには,自己が甲警察署から乙警察署に異動したことによる情報不足を補うために同期の警察官であった被告人Bを引き込むなど大胆な同僚引き込み工作を敢行しており,その目的は被告人Dに対して捜査情報を提供することにより同被告人との贈収賄関係を維持することにあったと考えられるから,犯行継続の意思が強固であったことは容易に推認できる。加えて,先輩警察官であったFから被告人Dとの引き合わせを求められるや,これに応じて被告人Dに対して,暗にFに賄賂を供与するように働きかけていること,被告人Bが被告人Dの請託をいったん断ったときには,被告人Bが本心から断るつもりでないことを知りながら,それを被告人Dに伝えることなく,同被告人が被告人Bに女性を紹介すると申し出るや自分に対しても紹介して欲しいなどと要求していること,被告人Dからの賄賂供与が中断された際には,被告人Bが不満を口にしていることを引き合いに出して賄賂金授受の再開を要求していること,自身が尾行されていると感づいたときには賄賂の収受を中断し,その疑念が晴れたと考えるやすぐに被告人Dに連絡を取って賄賂金授受を再開していること,「M2」の競合店である「ラ・フォーレ」についてIから捜査情報の提供を依頼されると,躊躇はしたものの,結局これにも応じて賄賂を受け取っていることなどの諸事情に照らすと,被告人Aの犯行は,捜査対象となって警察から摘発されることを極度に恐れるカジノバーを長期間にわたり金蔓にしてきたといえ,贈収賄関係の始まりこそ業者側から接触を求めたものであるが,以後は積極的に犯行に関与しており,その行状は極めて大胆かつ悪質である。金欲しさによる利欲的な犯行と考えられ,犯行の動機に酌量の余地はない。被告人Aが被告人Dから賄賂を受け取り始めた当時の役職は,生活安全課防犯係主任であり,カジノバーを含む風俗営業全般の営業許可,行政指導等に従事し,カジノバーの実態及び動向を熟知していたといえるから,カジノバーに対する捜査とは職務上直接的な関連性がなくとも,職務と賄賂との関連性は弱いとはいえず,被告人Aがカジノバーに対する捜査を直接担当していなかったことをもって,量刑上被告人Aに過大に有利に評価することはできない。また,犯行発覚後,逮捕されるまでの間に家族や知人に罪証隠滅工作を働きかけており,犯行後の情状も芳しくない。これらによれば,被告人Aの刑事責任は,重大である。 
 
そうすると,カジノバー関係者と警察官との親密な関係は被告人Aが関与する以前から存在しており,そのことや被告人Eとの交際を深めるなかで被告人Aとしても業者から金員を受け取ることに対して心理的な抵抗感が薄れていったという事情が窺え,その意味では被告人A1人に重い責任を負わせるのは妥当とはいえないこと,被告人Aは,自己の犯行を自供し,事案の全容解明に協力して,それなりに反省の情を示していること,平成13年12月13日付で懲戒免職となり,その犯行がマスコミに大きく取上げられ,一般市民から強い非難を浴びるなど既に相応の社会的制裁を受けていること,被告人Aには前科前歴がないことなど,被告人Aのために酌むべき事情が認められる。
 
そこで,以上の諸事情を総合考慮することになるが,被告人Aに有利な諸事情を十分考慮しても,同被告人に対しては厳しい処罰をもって臨まざるを得ない。
3 被告人Bについて
 
被告人Bは,被告人Dから,約1年8か月の間に,前後15回にわたり,合計870万円もの多額の金員を収受しているのであり,収賄期間及び金額からすると,被告人Aと同様,犯行の常習性は顕著である。被告人Bは,被告人Dから請託を受けた当時から発覚に至るまで,福岡県警察本部S2部T2課に所属しており,同課が暴力団犯罪の摘発・捜査を所管事務とし,暴力団の資金源の一つと目されるカジノバーに対しても捜査活動を行っていたこと,以前は,知能犯係にも所属したことから,贈収賄事犯にも精通していたことなどの経歴に照らせば,職務に対する背信性も甚だしいものがある。加えて,前記のとおり,請託を受けた当時の役職からすれば,職務と賄賂との関連性も極めて強く,警察官としての職業倫理の鈍磨もまた著しい。被告人Bは,被告人Dから最初に請託を受けたときに,言葉の上では一旦断ったものの,内心では当初から賄賂を受け取ることを決めており,被告人Dから月に100万円の賄賂金供与を提案され,さらに女性の紹介を受けた上で請託を承諾し,その後は賄賂金の収受を続けたこと,被告人Dが自分のことを情報提供者として重視していることを十分認識しつつ,高額の賄賂の見返りとして,職務中に同僚警察官の会話から「M2」に対する捜索情報を聞きつけるや,そのことを被告人Dに伝達していることなどの事情からすると,被告人Bは積極的に犯行に関与している。また,被告人Bが,賄賂金を受け取るようになった動機は,単なる金欲しさであって,酌量の余地はない。これらの事情に照らすと,被告人Bの刑事責任は重いと言わざるを得ない。
 
そうすると,被告人Bが賄賂金を受け取るようになった経緯として,被告人Aから情報提供者として引き込まれた面があり,被告人Dからも懐柔工作を受けたことが認められること,一貫して犯罪事実を認めて反省の情を示していること,平成13年12月13日付で懲戒免職となり,その犯行がマスコミに大きく取上げられ,一般市民からも強い非難を浴びるなど既に相応の社会的制裁を受けていること,前科前歴がないことなど,被告人Bのために酌むべき事情が認められる。
 
しかしながら,被告人Bに有利な諸事情を十分考慮しても,厳しい刑罰をもって臨まざるを得ない。
4 被告人Eについて
(1)Gからの収賄事件について
 
被告人Eは,約38年間の警察官人生のうち約26年間を刑事として勤務し,さらにそのうち約15年間は暴力団犯罪捜査に専従してきた警察官でありながら,指定暴力団戊会の幹事長であったGと取調べを通じて懇意になった上に,自己が異動で再び戊会に対する捜査を担当することになると,同会会長を襲名していたGに自分から連絡を取って転勤の挨拶をし,折り返し同人から連絡を受けて面会を求められるや,情報が取れるかもしれないなどと期待しつつ何ら躊躇することなくこれに応じ,面会した際にはこともあろうに現金の供与を受け,以後捜査情報の漏洩と現金収受を繰り返していたものであって,職務に対する背信性は極めて強く,この点で厳しい非難が加えられる。収賄期間及び金額も3年4か月余りの間に,前後6回にわたり,合計300万円と長期かつ多額に及ぶものであり,職業倫理の鈍磨も甚だしい。暴力団の会長であるGから賄賂を受け取っていた理由について,被告人Eは,職務上情報欲しさの余り賄賂の供与を断り切れなかった旨の弁解をしているが,酌量の余地は乏しい。被告人Eは,賄賂金の見返りとして,戊会本部に対して捜索が行われることをGに伝えたほか,同人の関心事であった戊会構成員の失踪事件に関する捜査の進捗状況について情報を提供するなど,具体的に職務と関連する情報を提供しているのであって,非常に悪質である。
(2)被告人Dからの収賄事件について
 
被告人Dからの賄賂金額は50万円であり,被告人Aや同Bと比較すれば低いが,カジノバー関係者からの金員の受領はこれが初めてではなく,以前にはカジノバー関係者からの金員の受領を繰り返していたことからすれば,単発的な犯行とみることはできない。被告人Eは,本件に限っていえば被告人Aから紹介を受ける形で被告人Dと知り合っているが,以前は,被告人E自身がカジノバー関係者と付き合う都合上,風俗営業の許可業務等に精通していた被告人Aを利用することを企て,被告人Aが先輩警察官である被告人Eの依頼を無下に断ることができない立場にあることを認識しつつ,接待を繰り返して被告人Aを業者との親密な関係に取り込み,それによって同被告人の警察官としての自覚,規範意識を鈍磨させる大きな要因を作り,本件のような巨額の贈収賄事件の発生を助長したのであって,その経緯は非難される。犯行の動機に酌量の余地はない。
(3)以上述べた諸事情に照らすと,被告人Eの刑事責任も重い。
 
そうすると,被告人Eは,自己やその家族に暴力団関係者から危害が加えられるやもしれないことを承知で,あえて,Gからの収賄事件を自供し,そのことがGの検挙につながっており,その点では強い反省悔悟の念が認められること,Gに対する情報提供によって,実際に捜査が妨害された事実は窺われないこと,被告人Eは,約38年間にわたり警察官として職務に精励し,重大事件の解決にも貢献してきたこと,平成14年2月7日付で懲戒免職となり,その犯行がマスコミに大きく取り上げられ,一般市民から強い非難を浴びるなど既に相応の社会的制裁を受けていること,前科前歴がないこと,被告人Eの早期の社会復帰を望む家族がいることなど,被告人Eのために酌むべき事情が認められる。しかしながら,被告人Eに有利な諸事情を十分斟酌しても,厳しい処罰をもって臨まざるを得ない。
5 被告人Dについて
 
被告人Dは,平成11年4月から同13年10月30日までの2年半余りの間に,3名の警察官に対して,合計2,330万円もの賄賂金を供与したものである。被告人Dがこれほど多額の賄賂金を供与してきた理由は,結局のところ,警察の捜査情報等を得ることによって自己の経営するカジノバーを摘発から免れさせ,その経営を継続することで,長期間にわたって,多額の不法の利益獲得を目論んだことにあり,利欲的な動機に酌量の余地はない。そもそもカジノバーは暴力団の資金源ともなることが多いため,警察が内偵捜査を重ねて地道な検挙を行っているのに,被告人Dはカジノバーの不法な売上げの中から警察官に対して多額の賄賂金を渡して捜査情報を入手し,検挙を免れることを企図しているのであって,大胆かつ悪質である。加えて,被告人Dは,被告人Aが乙警察署に異動したことによる情報不足に不安を感じるや,被告人Eに対して甲警察署の警察官の紹介を打診していること,被告人AからFの紹介を受けた際には,Iとの関係を懸念して躊躇したものの,FとIとの関係が断絶されていれば被告人Aの勧めるとおり有力な情報源となり得ると考えたことから被告人Aに対する額の倍に当たる100万円という高額の賄賂金を供与していること,被告人Aから福岡県警察本部S2部T2課に所属していた被告人Bの紹介を受けるや,賄賂金額としてやはり100万円を提示した上,二度にわたって女性を紹介するなど執拗なまでに被告人Bを情報提供者として取り込もうとしていることなどからすると,捜査情報の入手が強く期待できる警察官に対してはあらゆる手段を講じてその倫理観,職業意識を麻痺させ,情報提供者として取り込もうという意図が推認できるのであって,その犯行態様は極めて悪辣かつ狡猾である。また,被告人Bから犯行発覚の連絡を受けると,謝礼金を払うことを約束して口封じを図っていることからも,最後まで警察官を金で操って自己の犯行を隠蔽しようとする卑劣さが窺える。これらのことからすれば,被告人Dの刑事責任は重いと言わなければならない。
 
そうすると,被告人Dがカジノバーの経営に着手したときには,既に業者と警察官との親密な関係が存在しており,そのことが被告人Dにとっても,警察官に賄賂を贈ることに対する心理的抵抗を弱めたという一面があること,Fに対する贈賄事件(判示第3)は警察官からの要求型の犯行であり,被告人Dとしては,付き合いの長い被告人Aからの紹介を断り切れなかったという面があること,被告人A及び同Bとの関係についても,最初に働きかけたのは被告人Dであるが,その後はむしろ被告人A及び同Bの方が関係継続に対して積極的であったことが窺われること,犯行がマスコミに大きく取り上げられ,社会から強い非難を浴びるなど既に相応の社会的制裁を受けていること,逮捕後は全面的に自供して反省の情を示していること,被告人Dの妻や知人が今後の監督を誓っていること,子供たちが被告人Dの帰りを待っていることなど,被告人Dのために酌むべき事情も認められるが,被告人Dに対しても,厳しい処罰をもって臨まざるを得ない。
 
よって,主文のとおり判決する。
(求刑 被告人Aにつき懲役6年,追徴金1,800万円,被告人Bにつき懲役4年,追徴金870万円,被告人Eにつき懲役4年6月,追徴金350万円,被告人Dにつき,判示第1の3の各罪につき懲役2年6月,第3の罪につき懲役1年)

福岡地方裁判所第2刑事部
裁判長裁判官 林秀文 裁判官 一木泰造 裁判官 矢崎豊

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