その他福岡11(道路交通法)

その他福岡11(道路交通法)

福岡高等裁判所宮崎支部/平成15年(う)第30号

主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役2月に処する。

理由
第1 控訴の趣意
 
本件控訴の趣意は,検察官原島肇作成の控訴趣意書に記載のとおりであり,これに対する答弁は,弁護人吉田孝夫作成の答弁書に記載のとおりであるから,これらを引用する。
 
論旨は,要するに,原判決は,(1)酒気帯び運転の公訴事実について,被告人が呼気1リットルにつき0.25ミリグラム以上のアルコールを身体に保有していたのに,これを認定するに足りる証拠がないとして無罪とした点で,判決に影響を及ぼす事実の誤認があり,(2)仮に,(1)の公訴事実について無罪であるとすると,赤信号無視の公訴事実については,反則金納付の通告をせずに公訴が提起されたものとして公訴を棄却しなければならないところ,これを看過して被告人を罰金に処している点で,刑事訴訟法378条2号の違法がある,というのである。
第2 当裁判所の判断
1 そこで,一件記録及び当審における事実取調べの結果に基づいて検討するに,被告人が,平成14年5月26日午前5時20分ころ,宮崎県a市b町の道路で,酒気を帯び,当時の政令で定める呼気1リットルにつき0.25ミリグラム以上のアルコールを身体に保有した状態で普通乗用自動車を運転した事実は,証拠により優に認め得るものである。

 すなわち,関係証拠によると,被告人は,平成14年5月25日ころ,宮崎県c郡d町内のダム建設工事に従事し,同町内の作業所内宿舎に宿泊していたが,翌26日の仕事が休みであったことから,同県a市内で飲酒しようと思い,同月25日午後10時ころ、自家用車を運転して同市内へ赴いたこと,そして,午後10時30分ころから午後11時30分ころまで,スナック「A」で,ビール中瓶(500ミリリットル)1本分と酎ハイ2杯分を,翌26日午前零時前後ころから午前1時過ぎころまでの間,スナック「B」で,少なくともビール中瓶1本分を飲酒したこと,「B」を出た時点で,足下がふらついていたこと,そこで,そのまま車を運転して帰ることを諦め,車内で仮眠をとったこと,同日午前5時過ぎころに目を覚まし,アルコールが身体に残っているのを自覚したが,この時間帯であれば警察官に発見されないものと思い,宿舎に向かって車の運転を開始したこと,その直後ころに,パトカーで警ら中の警官から停止を命じられ,そのパトカーから警官が降りて近づいて来るのを認めると,飲酒運転が発覚するのを免れようとし,車を急発進させて逃走したこと,そして,パトカーに追跡されると,高速度で走行し,原判決認定の犯罪事実(以下「原判示」という。)のように,交差点の赤信号の表示を無視するなどして,1キロメートル以上逃走を続けた末に,ハンドル操作を誤り,橋の欄干に衝突させる自損事故を起こして停止するに至ったこと,被告人を追跡していたC及びD警察官は,パトカーを降りて職務質問のために被告人に近づくと,強い酒臭を感じ,被告人に対して呼気検査に応ずるよう求めたこと,被告人は,当初は,なおも飲酒運転の発覚を免れようとして,これに応じなかったが,病院で治療を受けた後,警察署へ行く途中で,その求めに応じ,同日午前7時50分ころ,呼気検査を受けたこと,同検査に使用された器具は,北川式飲酒検知管SD型であり,D警察官は,その検知管内の薬剤が変色した部分にマークシールの測定線を合わせて貼ったうえで,これを被告人に見せて確認させ,酒気帯び鑑識カードに,その測定濃度を呼気1リットル当たり0.25ミリグラム以上である旨記入したこと,その検知管には,0.25と0.3の間にマークシールの測定線(赤線)が入っていること,被告人は,その後の取調べにおいても,上記検知管を見せられ,0.25と0.3の間の上記測定線を再度確認し,その事実を了解していること,上記の検出された数値は,飲酒後6時間以上,運転行為後2時間以上経過した時点のものであり,被告人がその間に飲酒をしていないことの各事実が認められ,これらによると,被告人が,本件運転当時,呼気1リットルにつき0.25ミリグラム以上のアルコールを身体に保有していたことは明らかというべきであり,上記警察官らが上記検査にあたって被告人にうがいをさせたか否か,原裁判所で上記検知管を取り調べた際の検知剤の変色状況,上記検知管の保管状況,上記測定数値に関するD警察官の記憶等の,弁護人や原判決が挙げる事情は,いずれも上記認定を何ら左右するものではない。
 
なお,弁護人は,原審が,酒気帯び鑑識カードを証拠として採用している点を非難するが,記録によると,原審は,その作成者の捜査官を尋問したうえ,刑事訴訟法321条3項により同カードを証拠採用し,その後,同カードのうち実質的に捜査報告書としての性質を有する「質問応答状況欄」部分について証拠排除決定をしていることが明らかであり,上記非難は当たらないものというべきである。 
したがって,被告人が上記運転行為当時,呼気1リットルにつき0.25ミリグラム以上のアルコールを身体に保有していたと認定しなかった原判決には,判決に影響を及ぼす事実の誤認があるといわなければならない。論旨(1)は理由がある。
2 以上のとおり,論旨(1)は理由があり,被告人には公訴事実のとおりの酒気帯び運転の罪が成立し,論旨(2)は,その主張の前提を欠くこととなる。
 
よって,刑事訴訟法397条1項,382条により原判決を破棄し,同法400条但書に則り,更に判決する。
(原判示事実に加え,当裁判所が認定した罪となるべき事実)
 
被告人は,酒気を帯び,呼気1リットルにつき0.25ミリグラム以上のアルコールを身体に保有する状態で,平成14年5月26日午前5時20分ころ,宮崎県a市b町e号f番地付近道路において,普通乗用自動車を運転した。
(累犯前科)
(省略)
(法令の適用)
 
原判示の被告人の所為は,道路交通法119条1項1号の2,7条,4条1項,同法施行令2条1項に,当裁判所の認定した前記所為は,平成13年法律第51号による改正前の道路交通法119条1項7号の2,65条1項,平成14年政令第24号による改正前の道路交通法施行令44条の3にそれぞれ該当するところ,各罪につき所定刑中懲役刑を選択し,前記の前科があるので刑法56条1項,57条により,上記各罪の刑についてそれぞれ再犯の加重をし,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により,犯情の重い当裁判所認定の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役2月に処し,原審及び当審における訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項但書を適用して,これを被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
 
本件は,被告人が,スナックで飲酒するために繁華街まで自家用車を運転して赴き,飲酒してから約4時間後,酒気がいまだ抜け切らない状態にあることを十分自覚しながら,車の運転を開始し,その後,警察官に呼び止められると,逃走し,信号を無視して高速度で走行し,運転を誤って橋の欄干に自車を衝突させてようやく停止するに至ったという酒気帯び運転,信号無視の事案であり,その経過や動機に酌量すべきものが全くなく,その態様が大胆かつ悪質で,他人を巻き込んだ大事故につながりかねない非常に危険なものである。
 
被告人は,昭和53年から平成6年にかけて,3回の服役歴を有するほか,交通関係事件でも度々検挙されて処罰を受けており,本件犯行の約10日前にも,上記指定速度違反で略式命令を受けながら本件犯行を敢行していることなども考慮すると,被告人の規範意識の鈍麻は顕著で,再犯の虞が極めて高いというべきである。
 
そうすると,被告人が,本件検挙後,一貫して反省の意を表し,今後,飲酒運転を決してしない旨述べていることや,被告人の元妻が原審に証人として出廷し,今後の被告人に対する監督を誓っていることなどの被告人のために酌むべき事情を考慮しても,主文掲記の実刑は免れ得ないものといわざるを得ない。
第3 結論
 
よって,主文のとおり判決する。
平成15年7月17日
福岡高等裁判所宮崎支部
裁判長裁判官 岩垂正起 裁判官 村越一浩 裁判官 飯淵健司

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