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強盗福岡1

強盗福岡1

福岡地方裁判所/平成六年(わ)第七六五、七八〇、八四八号

主文
被告人を懲役六月に処する。
未決勾留日数中、右刑期に満つるまでの分をその刑に算入する。
本件公訴事実中、強盗未遂、強盗及び銃砲刀剣類所持等取締法違反の点については、被告人は無罪。

理由
(犯罪事実)
被告人は、脅迫の目的で、平成六年五月二九日午後七時一〇分ころ、福岡市○○区○町△番△号の△所在の○○方敷地内に、開放されていた車庫出入口から侵入し、もって、故なく人の住居に侵入したものである。
(証拠)
一 第一回公判調書中の被告人の供述部分
一 被告人の検察官調書(検11)、警察官調書(検10)
一 ○○の警察官調書二通(検3、4)
一 写真撮影報告書(検7)
(累犯前科)

一 事実
1 昭和六二年一二月四日熊本地方裁判所宣告
傷害罪により懲役一年四月
平成二年四月一日右刑の執行終了
2 平成三年二月五日福岡地方裁判所宣告
業務上過失致死、道路交通法違反の罪により懲役八月(1の刑の執行終了後の犯行)
平成三年九月四日右刑の執行終了
二 証拠
前科調書(検15)、判決書謄本(検19)
(適用法令)
罰条
平成七年法律第九一号による改正前の刑法(以下「改正前の刑法」という。)一三〇条前段
刑種の選択
懲役刑を選択
累犯加重
改正前の刑法五九条、五六条一項、五七条(三犯)
未決勾留日数の算入
改正前の刑法二一条
訴訟費用の不負担
刑事訴訟法一八一条一項ただし書
(一部無罪の理由)
一 本件公訴事実中、強盗未遂、強盗及び銃砲刀剣類所持等取締法違反の点は、被告人が、
1 平成六年四月一四日午前零時ころ、福岡市○○区○町△丁目△番△号所在の○○一階M福岡○店において、同店従業員Xに対し、所携の刃体の長さ約一四・七センチメートルの文化包丁等を突き付け、「金を出せ」などと申し向けて脅迫し、その反抗を抑圧して金品を強取しようとしたが、同人に騒がれたため逃走し、その目的を遂げず、
2 業務その他正当な理由による場合でないのに、前記日時ころ、前記場所において、前記刃体の長さ約一四・七センチメートルの文化包丁一本を携帯し、
3 前同日午前三時二五分ころ、福岡市○○区○△丁目△番△号所在の○○一階N○○店において、同店従業員Yに対し、所携の包丁様の刃物を突き付け、「刺すぞ」などと申し向けて脅迫し、その反抗を抑圧した上、同店経営者Z所有の現金四万八八八〇円ほか四点(時価合計二六三円相当)を強取し
たというものである。
被告人は、本件各犯行について身に覚えがない旨一貫して否認しており、本件の争点は被告人と犯人との同一性である。
二 関係証拠によると、以下の各事実が明らかに認められる。
1 平成六年四月一四日午前零時ころ、福岡市○○区○町△丁目△番△号所在の○○一階のM福岡○店において、強盗未遂及び銃砲刀剣類所持等取締法違反被疑事件が発生した(以下「M事件」という。)。
M事件の犯人は、マスクで顔を隠し、野球帽をかぶってフード付きの白っぽいコートを着ており、軍手様の手袋をはめた両手に一本ずつ包丁を持っていた。犯人は、同店に入るや、カウンター内中央レジ付近に立っていた同店従業員Xに対して包丁を突き付け、「金を出せ」などと言ったが、Xが「強盗」と言いながらカウンター奥のバックルームに逃げ込もうとしたところ、何も取らずに店外に走り去った。
そして、この模様は、同店内に設置された防犯カメラによってビデオテープ(平成六年押第一四一号の1、以下「符号1」などという。)に録画された。
2 M事件発生から約三時間後の平成六年四月一四日午前三時二五分ころ、福岡市○○区○○△丁目△番△号所在の○○一階N○○店において、強盗事件が発生した(以下「N事件」という。)。
N事件の犯人も、マスクで顔を隠し、野球帽の上からフードをかぶせた白っぽいコートを着ており、軍手様の手袋をはめていた。犯人は、カウンター出入口付近に来た同店従業員Yに対して右手に持った包丁を突き付け「金を出せ」などと脅迫しながらYをカウンター奥に追いつめ、Yにレジを開けさせると、レジの中にあった現金四万八八八〇円を奪い取り、更にカウンターの外に出た後、カウンターの上に陳列してあったどら焼き、串団子をもわしづかみにして、店を出て行った。
そして、この模様は、同店内に設置された防犯カメラによってビデオテープ(符号2)に録画された。
これらの事実からも明らかなように、M事件及びN事件は時間的、場所的に近接して発生した同種事件であって、犯人の風采もよく似ているといえる。また、後に検討するとおり、右手小指が一部欠損していること、特徴が一致する白っぽいコートの下に黒っぽいコートを重ね着していること、身長が一七〇センチメートル前後であることなど犯人の特徴も極めて類似していることが認められる。そうすると、二つの事件の犯人は同一人物であると認めるのが相当である。
三 犯人と被告人との同一性に関する検察官の主張
M事件及びN事件の犯人は、マスクで顔を隠すなどしていたため、犯行を直接目撃した店員二名は、いずれも犯人を認識できる程度に見ていない。したがって、本件においては、情況証拠によって犯人と被告人の同一性を判断するしかないところ、検察官は、ビデオテープ(符号1及び2)に録画された犯人の画像(以下「M事件の犯人画像」などという。)について画像解析の専門家が解析したところによると、〔1〕M事件の犯人画像から、犯人の右頬の部分に黒子状のものが確認でき、この黒子は被告人の右頬にある黒子と位置や大きさが一致すること、〔2〕M事件の犯人画像から認められる犯人の顔の顎の輪郭、耳の位置、喉仏の位置、頬のへこむ部分が被告人のそれと一致すること、〔3〕犯人の両手小指には部分的な欠損があると認められるところ(M事件の犯人画像では両手小指が欠損、N事件の犯人画像では右手小指が欠損)、被告人は、左手小指第二関節から欠損、右手小指第一関節から欠損していること、〔4〕M事件の犯人画像から推定される犯人の身長は、靴を履いて一六九センチメートルないし一七四センチメートルであり、N事件の犯人画像から推定される犯人の身長は、靴を履いて約一七〇センチメートルであるところ、被告人の身長は一七一・一センチメートルであること、〔5〕犯人は白っぽいコートを着ており、M事件及びN事件の犯人画像から認められる白っぽいコートのフードの形、フードの襟の部分の形、袖のベルトの形、ポケットの形や位置等の特徴が被告人方から押収された白色ハーフコートの特徴と一致しており、また、犯人の白っぽいコートと被告人の白色ハーフコートは、輝度の点で同一製品であること、〔6〕犯人は白っぽいコートの下に黒っぽいコートを重ね着しており、M事件の犯人画像から認められる黒っぽいコートの側面下部が二つに分かれたサイドベンツ型であること等の特徴が被告人方から押収された黒っぽいコートの特徴と一致すること、〔7〕M事件の犯人画像から推定される犯人が右手に持っていた包丁の刃の長さは一三・九一センチメートルであるところ、被告人方から押収された包丁の刃の長さは一四・二五センチメートルであり、ほぼ一致すること、〔8〕N事件の犯人画像から推定される犯人の履いていた靴の長さは二六・九八センチメートルであるところ、被告人方から押収された靴の長さは二七・二センチメートルであり、また、犯人の靴の甲の部分に立体的な飾りがあるという特徴も被告人方から押収された靴の特徴と一致することが認められ、これらの事実に照らしてみると、犯人と被告人との同一性は優に認められると主張するので、以下、この点について最初に検討する。
四 犯人画像の解析結果に関する検察官の主張の検討
1 黒子について
○○大学芸術学部写真学科助教授Oは、捜査機関からの嘱託により、M事件及びN事件の犯人画像の解析及び犯人と被告人との異同に関する鑑定を行い、鑑定書(検甲三六)を作成した。
右鑑定書によると,M事件の犯人画像をコンピュータに取り込み、画像処理を行った後、ビデオプリンターにより出力したプリント(鑑定書添付のプリント3)上で、犯人の右頬にある三角形の影(プリント3で丸く囲んだ部分)の中に黒子があることが認められ、その位置と大きさが被告人の右頬にある黒子と一致したという。そして、Oは、公判でも、右プリント上で黒子が見える旨強調している。
しかし、鑑定書添付のプリント3を一見したところ、黒子の存在は必ずしも明らかではない。たしかに、平成八年一一月二一日付けの検証調書添付の写真〔3〕及び〔4〕によると、コンピュータに取り込んだ犯人の画像についてコントラスト処理を繰り返した結果、犯人の右頬にわずかかに黒い部分が残ったこと、したがって、この部分がその周囲と比較してより黒いことが認められ、画像処理の専門家であるOが、コントラスト処理をするまでもなく、このような黒さの違いを見分けた可能性は否定し得ないが、右事実は、あくまで、黒く残った部分がその周囲と比較してより黒かったということを意味するだけで、このことからただちにそれが黒子であるとまでは断定できないというべきである。そして、この点に関連して、Oと同じく画像解析の専門家であり、当裁判所が犯人画像の解析に関する鑑定を依頼した○○大学情報技術センター所長Pは、「この撮影距離、画面及び顔の位置からすると黒目程度の大きさの黒子でないと見えにくい。犯人の右頬にある三角形の影の中に影と異質な部分があるという判断はしない。」などと供述しており(証人P尋問調書(以下「P」という。)二九四以下)、Oとは明らかに見解を異にしている。 
また、Oは、〔1〕防犯ビデオは蛍光灯照明の下で撮影されているため、影の濃度は高くなく、黒子のようにもともと色が黒いものは、影よりも濃度が高くなっていること、〔2〕影がまとまった点状に出てくることはあり得ず、また、点状の影を作るものも存在していないことから、丸くて黒い点状のものは黒子としか考えられない旨供述している(証人O尋問調書(以下「O期日外」という。)一四以下)。しかし、コントラスト処理を繰り返した写真全体を見ると、Oが黒子であるという部分以外にもこれと同じような黒い点状の部分があることが認められ、特に、犯人の着ている白っぽいコート上には、影の一部としか考えられないような黒い部分が残っていることからすると、Oの〔1〕の根拠は必ずしも説得力のあるものではない。さらに、前記検証調書添付の写真を詳細に見ると、Oが黒子であるという部分自体、決してきれいな丸形ではなく、ハート形であることからしても、これがまとまった点状の影であるというOの前提にも疑問がある上、Oが黒子であるという部分は、もともと犯人のマスクの影の一部分であって、コントラスト処理を繰り返した結果残った白っぽいコートの影と同じく、右マスクの影の最も黒い部分が残った可能性も否定できないのであるから、Oの〔2〕の根拠も首肯することができない。
これらのことに加えて、Oが、鑑定嘱託を受けた際、対照資料として被告人の顔写真を受領し、犯人画像を解析する前に被告人の右頬に黒子があることを認識した上で、犯人の右頬に黒子が写っているかどうかを確認するという作業をしたと供述しており(O期日外一九五)、Oが鑑定をする以前に、あるいは遅くとも鑑定のための作業を開始した早い段階で、被告人がM事件の犯人であるという予断をもってしまい、犯人の右頬に黒子があるはずだという先入観を抱いてしまったのではないかとの疑問を払拭できないことも併せ考えると、O鑑定及びこれを補充するO供述は犯人の右頬に黒子があることの説明としてはなお不十分であって、Oが黒子であるという部分は犯人のマスクによって形成された影の一部にすぎないという可能性も否定できないといわざるを得ない。
したがって、検察官の主張する〔1〕の事実は、証拠上認めることができない。
2 犯人の顔の顎の輪郭等の特徴について
O鑑定書によると、M事件の犯人画像から作成したプリントの犯人の顔の上に、被告人の顔写真を透明フイルムに転写して倍率を調整したものを、顎及び耳の線を基準に重ね合わせて見た結果(鑑定書添付のプリント2)、犯人の顎の輪郭、耳の位置、喉仏の位置及び頬のへこむ部分が被告人と一致したという(なお、平成八年一一月二一日付け検証調書添付の写真〔9〕は、コンピュータのモニター上で同様の処理をした結果をプリントアウトしたものである。)。
しかし、防犯ビデオの撮影角度と被告人の顔写真の撮影角度とは明らかに異なっているのであるから、右のような方法の妥当性には重大な疑問がある。この点、Oは、撮影角度を調整したとも供述しているが(O期日外三二)、他方で撮影角度が違うことを前提とした説明もしており(O期日外四八、二一五)、結果的には撮影角度を完全に一致させることはできなかったものと認められる。また、鑑定書添付のプリント2を見る限り、犯人の顎及び耳の線は必ずしも明確ではなく、重ね合わせの基準として適当とは認め難い(検証調書添付の写真〔9〕では顎に接する線と眉毛付近の骨の部分から垂直に下ろした線との交点を基準にしたということであるが、やはり明確性を欠いているといわざるを得ない。)。しかも、Oによれば、このような重ね合わせによって顎の輪郭等が一致した反面、耳の上部の形は一致せず、また、被告人の頭頂部は犯人の帽子の最上部よりも上にはみ出す結果になったというのである。この点、Oは、耳の上部の形については、犯人の耳はマスクのストラップによって引っ張られて変形している可能性があるなどと説明しているが(第八回公判調書中の証人Oの供述部分(以下「O〔8〕」などという。)二一四以下、O〔9〕八三以下)、第一一回公判調書と一体になる検証調書によると、被告人がマスクの掛け紐を掛けた場合、耳たぶの下端が若干前に動く程度であることが認められ、Oの推測に合理的な根拠があるとは考えられない。また、Oは、頭頂部がはみ出したというのは大きさ(長さ)に関する問題であるから撮影角度の違いによる影響を受けるが、顎の線というような形に関しては撮影角度の違いによる変化はないと考えてよいなどと説明しているが(O期日外二一六)、その根拠は必ずしも明らかではない。
これらのことからすると、顎の輪郭等が一致したというO鑑定をたやすく信用することはできない。
したがって、検察官の主張する〔2〕の事実も、証拠上認めることができず、この点については、せいぜい、マスクをかけた犯人の横顔は被告人の横顔と似ているといえるにすぎない。
3 両手小指の欠損について
O鑑定書によると、M事件の犯人画像において、犯人の軍手をはめた手の小指部分が、凶器を握っているにもかかわらず、いずれもまっすぐ伸びたようになっていること、このうち左手の小指部分は半分くらいまでふくらんでいることが認められ、また、N事件の犯人画像において、犯人の軍手をはめた右手小指部分が、包丁を握っているにもかかわらず、途中にくぼみがあり、その先が曲がらずに伸びていることが認められる。また、P鑑定人も、鑑定書(検甲八四)において、犯人の包丁を握る手袋を着用した両手の小指に不自然な点が多く見られるなどと指摘しており、証人として尋問を受けた際、この特徴が二つの事件の犯人画像に共通であった旨供述している。
他方、被告人の左手小指が第二関節から欠損し、右手小指が第一関節から欠損していることは証拠上明らかである。
したがって、検察官の主張する〔3〕の事実は、証拠上もこれを認めることができる。
なお、Oは、M事件の犯人画像をコンピュータに取り込み、モニターで繰り返し見た結果、犯人の右手の小指は動きにある程度ついてきているのに対して、左手の小指は手全体の動きに対してほとんどついてこないことから、小指の欠損の状況として、右手の方が左手よりも残っている指の部分が長いと推測できると供述している。(O期日外九一、一六五)。
しかし、Oは、他方で、右の点について、指のない状況を作ることができないために、小指に部分的に欠損がある場合の軍手の動きを実験することができないから、確信をもっていえないとも述べている(O期日外一七五)のみならず、当初、第一関節から欠損している場合と第二関節から欠損してる場合との区別はできない旨供述していたものである(O〔6〕一二四以下、三一五以下)。
したがって、犯人の小指の欠損の状況が左右で異なるというO供述の信用性には疑問を入れる余地があるといわなければならない。
4 身長について
(一)O鑑定書によると、M事件の犯人画像から作成したプリント(鑑定書添付のプリント1)上、ビデオカメラのレンズ、犯人の頭頂部及びレジ上のディスプレイの先端部が一直線になることが認められ、これを前提に三角法を用いて計算した結果、犯人の身長は靴を履いた状態で一六九センチメートルから一七四センチメートルになるという。
この計算の過程には明白な誤りがあるが(添付図面の線分トハの長さは四四八・九センチメートルではなく、四六九・七八センチメートルが正しい。)、結果的に正しい比率を用いており、右誤りは結論に影響していない。
しかし、プリント1に写っている犯人の頭頂部をもって、その身長を測定する場合の起点とした根拠が明らかでない上、主任弁護人がM事件の犯人画像における犯人の頭頂部の動きを検証した結果を記載した書面(弁一二ないし一四)によると、犯人がカウンターの外から中に移動するわずかな時間で犯人の頭頂部がかなり上下動していることが認められる。また、ビデオカメラのレンズ、犯人の頭頂部及びレジ上のディスプレイの先端部が一直線になるという前提は、プリント上所与のものではなく、Oが犯人の頭頂部を右に画面上平行移動した結果であるが、M事件の現場であるM福岡○○店では、防犯カメラは、その中心部において高さ二三七・四センチメートルの位置に俯瞰撮影するよう設置され、そのレンズは、被写体である犯人と対峙する位置にはなく上下左右に撮影角度がついていることから、画像処理上犯人の頭頂部を画面の面と平行に移動した場合、実際に平行移動した場合との間に微妙な誤差が生じざるを得ない。しかるに、Oは、この点の誤差について何ら検討を加えておらず、誤差の程度・修正の要否についても明らかでない。これらのことからすると、M事件の犯人画像からの身長の推定に関する前記O鑑定は、推定結果の正確性及び推定された数値が犯人の身長を反映しているかどうかについて疑問の余地があるので、採用することができない。
(二)また、O鑑定書によると、N事件の犯人画像から作成したプリント(鑑定書添付のプリント6)上で測定した犯人の身長に、カウンターの幅を利用して算出した倍率を適用した結果、犯人の実際の身長は約一七〇センチメートルになるという。
しかし、右プリントにおいて、犯人の身長の倍率とカウンターの幅の倍率とが同一であることを認めるに足りる証拠はない。すなわち、右プリントを見ると、カメラから遠くにある物体ほど小さく写っており、レンズと被写体との距離が被写体の倍率に影響を及ぼしていることが明らかであるのみならず、主任弁護人作成のOに対する照会書(弁一〇)及びこれに添付された写真1ないし3によると、距離が同じであっても、撮影角度によっては倍率が異なる可能性があることが認められる。これに対して、Oは、〔1〕犯人の立っている位置をプリント上で左に平行移動した位置でカウンターの幅を測定しているので大きな誤差はない(鑑定書一〇頁)、〔2〕カウンターの高さは日本人の平均的身長の約半分であり、この部分の倍率を適用することで誤差が少なくなる(O作成の照会回答書、弁一一)などと述べているが、〔1〕については、前記(二)で述べた平行移動と同様の問題があり(もっとも、O自身二、三センチメートルの誤差がでることを認めているが、何故誤差が二、三センチメートルといえるかについては明らかでない。)、〔2〕については、同倍率を適用できる根拠としては、大まかすぎて採用できない上、撮影角度がついている場合、画像上の上下の長さと実際の長さとの間に違いがでてくることを考慮に入れていない点で失当である。そうすると、N事件の犯人画像からの身長の推定に関する前記O鑑定も採用することができない。
(三)以上のとおりであるから、O鑑定を前提とする検察官の〔4〕の主張をそのまま認めることはできない。しかしながら、他方、M事件において、目撃者であるXは、「自分の身長は一七一センチメートルだが、男(犯人)の身長も自分とほぼ同じだった。」と供述している。また、N事件において、目撃者であるYは、犯人の身長について、「自分(一六三センチメートル)より少し高くて、一七五センチメートルくらいだと思う。」と供述している。Xの目撃時間はごくわずかであるが、自分と同程度の身長であるという判断基準は比較的正確であるといえる。また、Yの目撃時間はXに比べると長く、少なくとも自分より背が高いという点については信用性が高いといえる。そうすると、これらの供述によって、犯人の身長は一七〇センチメートル前後であると認めるのが相当である。そして、被告人の身長が一七一・一センチメートルであることは証拠上(検甲三八)明らかであるから、検察官の主張する〔4〕の事実とほぼ同一の事実が認められるといえる。
5 犯人が着ていた白っぽいコートと被告人の白色ハーフコート(符号6)との異同について
O鑑定及びO供述によると、犯人が着ていた白っぽいコートは、前合わせの部分にボタンがあり、内側はファスナーで止める形のもので、袖にベルトがついていること、フードの襟部分がかなり大きいこと、コート下部に大きな蓋付きのポケットがあることが認められ(O〔5〕一一一、〔8〕九八)、これらの特徴は被告人の白色ハーフコート(符号6)の特徴と一致している。
また、O鑑定及びP鑑定によると、画像処理の専門家であるOもPも、右二つのコートの形状に関し積極的に異なる部分を全く見いだせなかったことが認められる。
さらに、P鑑定によると、犯人のコートの色と被告人のコートの色がよく似ていることも認められる。
そして、O鑑定及びP鑑定は結論として、犯人が着ていた白っぽいコートと被告人の白色ハーフコートが同一の製品であるという。
しかし、犯人のコートに関する情報量には制約がある上、前記のような形状の特徴も、それだけで製品が特定できるほどに特異なものであるとまでは認められない(これらの形状が他の製品と区別する上でどの程度特異なものかは証拠上不明である。)。しかも、防犯ビデオの白黒画像からは犯人のコートの色を明確に特定することができないため、二つのコートの色が同一であることも認められない。この点について、Pは、多数の色チャートを用いた再現実験によって犯人のコートの色を相当程度絞り込み、また、被告人のコートを用いた再現実験によって被告人のコートの輝度値の範囲が犯人のコートの輝度値の範囲内にあることを確認しているが(P一七一)、それでも、ベージュ系や明るいグレーのコートで同じような結果になる可能性があることを認めている(P二〇三)。また、Oは、プリント上で測定した犯人のコートの長さに、M事件ではレジ上部、N事件ではカウンターの幅を利用して算出した倍率を適用して実際のコートの長さを推定したところ、被告人のコートの長さと一致したとしているが、この手法はN事件で犯人の身長を推定したのと同一の手法であるから、右推定結果を採用することはできない。
これらのことからすると、画像処理の専門家であるO及びPが、二つのコートの形状に関し積極的に異なる部分を全く見いだせなかったとしている点を考慮しても、二つのコートが同一の製品であるとまでは認めるに足りず、これらが同一の製品であるというO鑑定及びP鑑定の結論は採用できないというべきである。
したがって、検察官の〔5〕の主張のうち、犯人の白っぽいコートの特徴と被告人の白色ハーフコートの特徴が一致しているという点は認められるが、両者が同一製品であるという点は認められない。
6 犯人が着ていた黒っぽいコートと被告人の黒色コート(符号7)との異同について
O鑑定及びP鑑定によると、犯人は、白っぽいコートの下に黒っぽいコートを重ね着しており、この黒っぽいコートは、下部側面が二つに分かれたサイドベンツ型で、ボタン状のものがついていることが認められ、これらの特徴は被告人の黒色コート(符号7)の特徴と一致している。
したがって、検察官の主張する〔6〕の事実を認めることができる。
また、写真撮影報告書(検甲四五)によると、押収してある被告人のコート二着(符号6及び7)を被告人自身に重ね着させた結果、黒色コートの袖は白色ハーフコートの袖の下に隠れて見えなかったこと、白色ハーフコートから黒色コートの裾部分がはみ出し、黒色コートのサイドベンツが確認可能であったことが認められ、これらの特徴も犯人の特徴と一致している。
なお、Oは、犯人の白っぽいコートからはみ出している黒っぽいコートの裾部分の長さをプリントから推定したところほぼ一〇センチメートルとなったと鑑定しているが、これもN事件における犯人の身長の推定と同一の手法でなされており、右推定結果を採用することはできない。
7 犯人が持っていた包丁と被告人の包丁との異同について
Oは、M事件で犯人が右手に持っていた包丁の刃の長さをプリントから推定したところ一三・九一センチメートルであって、押収してある被告人の包丁の刃の長さが一四・二五センチメートルであることとほぼ一致したと鑑定しているが、これも基本的にはN事件における犯人の身長の推定と同一の手法でなされており(角度による補正が加えられているが、同じような状況を再現して実験上の角度を測定しており、その正確性を検証することは不可能である。)、右推定結果を採用することはできない。
したがって、O鑑定を前提とする検察官の〔7〕の主張は認められない。
しかしながら、押収してある包丁(符号3)とO鑑定書添付のプリント1を見比べると、M事件で犯人が右手に持っていた包丁の刃先の形は、被告人方にあった包丁の刃先の形と似ていることが認められる。
また、被告人の元内妻であるQ女の供述によると、平成六年三月末ころまでは、被告人方には押収してある包丁のほかに出刃包丁が一本あったこと、出刃包丁は、鉄製でさびた感じのもので、もう一本の包丁と比較するとやや大きめだったが、刃の形は同じだったことが認められるところ(証人Q女尋問調書(以下「Q女」という。)二〇六以下、四三三以下)、Q女のいう出刃包丁の特徴は、Xが「犯人が左手に持っていた包丁は、ちょっと古いもので、白く濁ったような光り方をしており、押収してある包丁よりも大きかった。」(Xの証人尋問調書六三以下、二一二以下)と供述してることや、「犯人が持っていた包丁は、少しさびている感じで、押収してある包丁よりも大きかった気もするがよく分からない。形は同じような感じだった。」(Xの証人尋問調書(以下「X」という。)四二、一八〇以下、二四三以下)と供述していることと概ね合致しているといえる。
8 犯人がはいていた靴と被告人の短靴(符号12)との異同について
O鑑定及びP鑑定によると、N事件において犯人がはいていた靴は、足の甲の部分が大きく開いた形をしており、足の甲の上の部分に何か立体的な飾りがあり、足の甲の側面部分にはっきりした形は分からないが立体的ではない白っぽい飾りがあること、靴の色と比較して飾りの色が少し明るいことが認められ、これらの特徴は被告人の短靴(符号12)と一致している。
なお、Oは、犯人の靴の長さをプリントから推定したところ二六・九八センチメートルであって、被告人の靴の長さが二七・二センチメートルであることとほぼ一致したと鑑定しているが、これもN事件における犯人の身長の推定と同一の手法でなされており、右推定結果を採用することはできない。
したがって、検察官の〔8〕の主張のうち、犯人の靴の特徴と被告人の靴の特徴が一致しているという点は認められるが、二つの靴の長さがほぼ一致したという点は認められない。
9 小括
犯人画像の解析結果によって犯人と被告人との同一性は優に認められるという検察官の主張の根幹をなしているのは、〔1〕及び〔2〕の点であると考えられるところ、前記1及び2で述べたように証拠上、これらの事実を認めることはできず、かろうじて犯人の横顔と被告人の横顔とが似ているといえるにとどまるのであるから、この事実のみでは被告人と犯行を結びつける決め手とはならないといわざるを得ない。
そして、検察官の主張する〔3〕ないし〔8〕の点について、前記3ないし8の各事実が認められるのであるが、まず、身長一七〇センチメートル前後の成人男性が多数存在すること、両手小指が部分的に欠損している成人男性が相当数存在することはいずれも公知の事実であるから、これらの特徴が一致したというだけで犯人が被告人であると断定することはできない。つぎに、犯人の着衣及び所持品と似た物を被告人が所持していたという事実は、同じような物が多数存在する可能性が十分にあり、同じような物を持っている人間が被告人以外にどの程度いるか見当もつかないような状況では、せいぜい、被告人が犯人であるとしても矛盾しないという程度の事情であるとしかいえない。
したがって、前記認定の各事実を総合しても、それだけで犯人と被告人との同一性を認めることは困難であるといわなければならず、これを認定するに足りる間接事実の有無を更に検討しなければならない。
五 検察官の主張するその他の間接事実
1 Q女供述について
(一)被告人の元内妻であるQ女の期日外尋問における供述要旨は,以下のとおりである。
(1)Q女は、平成三年九月ころ、職場で知り合った被告人と一緒に暮らし始めたが、平成六年三月末ころ、子供を連れて家を出て被告人と別れた。 
(2)被告人は、甘党であり、特に小豆類が好物であった。
(3)被告人は、平成六年一月ころから、人の足音がすると、「犬(被告人を陥れる誰か)がいる。」などと言って、テーブルの上に置いてある包丁を二本持って玄関まで走って行ったり、一本か二本かはっきりしないが外出時に包丁を紙袋などに入れて持ち歩くといった行動をとるようになった。
(4)Q女は、平成六年四月一四日の夕方ころ、テレビでM事件のニュースを見て、犯人の格好が白のコートに帽子をかぶっているという点で普通見ていた被告人の格好と同じで、背格好も一緒だった上に、被告人が以前強盗のようなことをしないといけないなどと話していたことを思い出し、被告人が犯人ではないかと疑った。そこで、Q女は、この日の夜中に被告人方を訪れて、被告人に対し、「コンビニ強盗があったけど、あんたじゃないと。」と問い質した。すると、被告人はしばらく黙っていたが、やがて「何で。」と聞き返してきた。Q女が、「いや、そっくりやし、服もあのコートじゃない。」などと言うと、被告人は、「似た奴もおるんやね。」と答えた。
(5)N事件の防犯ビデオ(符号2)に録音された犯人の声を聞いてみると、犯人が「貴様」という言い方の特徴が、被告人が怒ったときに相手に対して「貴様」と言っていた口癖と似ていると思う。
(二)検察官は、前記Q女供述のうち、(3)ないし(5)について、被告人が犯人であることを強く示す重要な証拠であると主張している。
しかし、まず、(3)の点について、Q女供述によると、被告人が包丁を持ち歩いていたのは、被害妄想に基づくものであって、強盗の機会を狙っていたものではないと認められ、また、コンビニ強盗の手段として包丁を突き付けることは、誰もが最も容易に考えつき、かつ実行可能な方法であるから、被告人の犯人性を積極的に推認させるものとはいい難い。
つぎに、(4)の点についてみるに、たしかに、Q女は被告人の元内妻であり、本件犯行当日の夕方、事件について全く予断のない状態で、M事件に関するテレビニュースを見ただけで被告人が犯人ではないかと疑っており、このことは被告人の犯人性を強く推認させるようにも思われる。
しかし、Q女が述べているコート、帽子及び背格好といった特徴だけでは犯人を特定する根拠に乏しい上、被告人が以前強盗のようなことをしないといけないなどと話していたという点についても、Q女によると、被告人が、平成五年一月ころと平成六年一月ころに、「このままではいけないから、ちょっと大きいことせないかんな。」「借金も返さなきゃいけないから。」「銀行を襲う。」などと言っていたことを指すものであって、本件との関連性は薄い。また、Q女が被告人を問い質した状況からすると、Q女自身、テレビニュースを見ただけでは被告人が犯人であるという確信を持てなかったことは明らかである。これらのことからすると、いかにQ女が被告人の元内妻とはいえ、Q女の直感的な印象だけをことさらに重視することはできない。
そして、Q女から問い質されたときの被告人の言動も被告人が犯人であることを自認するものとは認められない。
さらに、(5)の点についても、「貴様」という言い方が被告人特有のものであるとまでは認められないこと、被告人の声色や口調と似た言い方をする人が他に存在する可能性も否定し得ないことを考慮すると、重視することはできない。
なお、N事件で犯人がわざわざどら焼きと串団子を奪っているからといって、(2)の点が意味を持つとはいい難い。
2 X及びYの各供述について
検察官は、犯行を直接目撃した店員であるX及びYが、公判で、押収してある被告人の白色ハーフコートを示されて、犯人が着用していたものとよく似ているという点では口をそろえて明言していることが、被告人の犯人性を指し示す有力な証拠であると主張する。
しかし、犯人の着ていた白っぽいコートと被告人の白色ハーフコートとがよく似ていることは、前記のとおり客観的に認められる事実であって、これと同旨のX及びYの各供述に独立の証拠価値があるとは認められない。
3 被告人の負債状況について
(一)関係証拠によると、以下の事実が認められる。
(1)被告人は平成三年末ころ、賭博の負金を支払うため、知人のRから現金六四〇万円及び額面五〇〇万円の手形を借りたが、現金三〇万円を返済しただけで、残金は借金として残っている。
(2)被告人は、平成二年一〇月と平成四年八月にサラ金から合計約六七万円の借金をしているが、これも未払いのままである。
(3)被告人は、Rからの借金を気にかけており、Q女に対して、「Rさんにはほんと申し訳ないことをしているから、あの人だけにはちゃんと返さないかんからね。」などと話していた。
(4)被告人は、平成六年一月ころから仕事に行かなくなり、本件当時、パチンコ店やゲーム屋に入り浸っていた。
(二)検察官は、前記認定のとおり、被告人が本件当時多額の借金を抱えていたことが本件犯行の動機であると主張している。
しかし、Q女供述によると、本件犯行前ころ、被告人がRないしサラ金業者から借金の返済を請求された事実はないというのであるから、被告人が多額の借金を抱えていたことが直ちに本件犯行の動機に結び付くとは限らない。
また、本件犯行態様に照らしてみると、生活費に窮した挙げ句の犯行であることが推認されるところ、被告人が本件当時定職に就かずパチンコ店等に入り浸っていたことからすると、被告人がこのころ生活費に窮していた可能性も否定し得ないというべきであるが、これを具体的に裏付ける証拠はない。
これらのことからすると、本件において、被告人が犯人であることを明らかに推認させるような動機は認められないといわざるを得ない。
4 被告人の犯行前後の不自然な言動について
(一)関係証拠によると、以下の事実が認められる。
(1)被告人は、本件について警察官からポリグラフ検査を受けるように言われた際、ポリグラフ検査承諾書を破り捨てて検査を拒否した。
(2)警察官は、被告人と犯人とを比較する資料を収集するため、押収してあるコートを被告人に着させるなどして、被告人の写真を撮影した。その際、被告人は、頬をふくらませたり唇をとがらせるなどして人相を変えようとした。また、手にはめた軍手の小指部分を薬指で握り込んだ(なお、検察官は、当裁判所が実施した検証の際、被告人が右同様の小指部分を握り込もうとしていた旨主張しているが、これを認めるに足りる証拠はない。)。
(3)検察官は、被告人の声紋と犯人の声紋との異同に関する声紋鑑定を証拠として請求したが、被告人は協力を拒否した。また、検察官は、M福岡○○店における実況見分の結果に基づいて、M事件発生当時、同店に設置されていた防犯ビデオの高さ、仰角、ねじれ等の状況を再現し、押収してある白色のハーフコート等を着用させた被告人に、M事件の犯人と同様の姿勢を取らせた上で、これをビデオに撮影し(被告人の身体に対する検証)、撮影された被告人の容ぼうの画像と防犯ビデオに撮影されているM事件の犯人の容ぼうの画像との異同識別について、適当な専門家に鑑定させるという証拠調べを請求したが、被告人はこれらについても協力を拒否した。
(二)検察官は、前記(一)の各事実について、被告人が犯人でないならば決してなさないはずの不自然極まりない行動、態度であり、被告人がこのような行動、態度を取るということは、とりもなおさず被告人が犯人であることの証左であると主張している。なるほど、被告人が犯人でないというのであれば、被告人がポリグラフ検査や犯行状況再現あるいは声紋鑑定等に積極的に協力をして、自己の無実を明らかにすべきであると考えられ、これらを拒否していることは、被告人にやましいところがあるためであると疑われてもやむを得ないのである。しかし、それはあくまでも疑いの程度を出るものではないのであって、被告人と犯行とを結びつける決め手とすることはできない。
六 その他の事情
1 犯人がかぶっていた帽子と被告人の帽子との異同について
福岡県警察科学捜査研究所技術吏員S作成の鑑定書(検甲一一一)及びSの公判供述によると、犯人がかぶっていた帽子は、ひさしが付いたベースボールキャップ型の帽子であり、帽子の正面、中央部に模様があること、模様の部分は周辺の生地よりも明度が高いことが認められ、これらの特徴はカラーネガフィルムに写っていた被告人のかぶっていた帽子(鑑定書(検甲一一一)の写真第4、第5号)と一致している。また、右鑑定書によると、犯人の帽子の模様は、画像が不鮮明なため判然としないが、三つのブロックに分けることが可能であり、各ブロックと被告人の帽子の模様であるアルファベットの一部との間に対応性があることが認められる。
しかしながら、Yは、犯人の帽子の色について、紺色より少し明るく青っぽかったと思うと供述しているところ(Y一四八以下)Q女は、被告人の帽子の色は真っ黒だったと思うと供述している(Q女三六六)のであるから、前記の帽子の正面の模様の対応関係を重視するのは相当ではない。
2 犯人が身につけていたマスク及び軍手と被告人のマスク(符号8)及び軍手(符号11)との異同について
P鑑定によると、犯人が身につけていたマスク及び軍手と被告人方から押収された白色マスク(符号8)及び軍手(滑り止めの付いていないもの)(符号11の〔2〕)との間に積極的に異なる部分はないことが認められるが、これらの物はいずれも特徴がない。
3 アリバイについて
被告人は、Q女が家を出ていった後は一人で暮らしており、本件当時は昼ころ自転車で家を出て「○○○○」というパチンコ店に行き、午後一一時ころまでパチンコをして、それから二時間程度中州のゲーム屋「○○○」で遊んだ後、家に帰って寝るという生活の繰り返しだったと供述している(被告人〔17〕五〇以下、〔18〕一六〇以下)。しかし、右供述は本件犯行当日の行動に関する具体的な記憶として述べられているわけではなく、そのころは大体そうだったという程度のものにすぎない。また、被告人の供述以外に本件犯行当日の被告人の行動を裏付ける証拠もない。したがって、被告人には本件に関するアリバイは認められない。
しかしながら、被告人にアリバイがないという事実は、たんに被告人に犯行の機会があったことを意味するにすぎない。しかも、被告人の当時の生活状況と本件の発生時刻からすると、本件において被告人にアリバイが成立しないことはむしろ当然ともいえる。そうすると、被告人にアリバイが成立しなかったこと自体を重視して、被告人の犯人性を積極的に推認することはできないといわざるを得ない。
七 結論
以上のとおりであるから、本件において取り調べた証拠から認められる前記の個々の事実によって被告人が犯人であると断定することはできないのである。また、右各事実を総合しても、被告人が本件の犯人である疑いは相当濃厚であるものの、それが合理的な疑いを越えて確信に達するためには、いまひとつ決め手に欠けるものがあると判断せざるを得ない。
よって、本件公訴事実中、強盗未遂、強盗及び銃砲刀剣類所持等取締法違反の点については犯罪の証明がないことになるから、刑事訴訟法三三六条後段により被告人に対し無罪の言渡しをする。
(求刑 懲役一〇年)

平成一〇年三月一六日
福岡地方裁判所第二刑事部
裁判長裁判官 陶山博生 裁判官 重富朗 裁判官 柴田寿宏

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