強盗福岡7

強盗福岡7

福岡高等裁判所/平成17年(う)第398号

主文
1 検察官の被告人B及び同Cに対する各控訴を棄却する。
2 原判決中被告人Aに関する部分を破棄する。
同被告人を懲役15年に処する。
同被告人に対し,原審における未決勾留日数中530日をその刑に算入する。

理由
第1 事案の概要
1 公訴事実の概要等
 
本件は,被告人Cに対する強盗殺人,銃刀法違反被告事件(平成14年4月26日付け起訴状記載の公訴事実第1,以下「大阪事件」ともいう。)と,被告人3名に対する各住居侵入,強盗殺人(認定罪名強盗致死),強盗殺人未遂(認定罪名強盗致傷),銃刀法違反被告事件(被告人Aに対する平成14年2月27日付け起訴状記載の公訴事実,被告人Bに対する同年3月1日付け起訴状記載の公訴事実及び被告人Cに対する同年4月26日付け起訴状記載の公訴事実第2,以下「大分事件」ともいう。)からなり,各公訴事実の概要は次のとおりである。
(1)大阪事件
 
被告人Cは,Eと共謀の上,いわゆるホテトル嬢から金銭及びキャッシュカードを強取しようと企て,平成13年12月26日午後4時30分ころ,大阪市内のビジネスホテルの一室で,当時35歳の被害女性に対し,被告人Cが,遊客を装って滞在中の同ホテル内の客室に誘い込み,その場で,刃体の長さ約15センチメートルのペティナイフをその頸部及び胸部に突き付けるなどして脅迫した上,その両手首及び両足首をクラフトテープで緊縛するなどの暴行を加えて,その反抗を抑圧し,同女所有のキャッシュカード2枚を強取し,引き続き,犯行の発覚をおそれて,口封じのため,同女に対し,殺意をもって,上記ペティナイフで,その左側胸部及び頸部等を十数回突き刺すなどして,その場で,同女を心・肺刺創により失血死させて殺害し,その際,業務その他正当な理由による場合でないのに,上記ペティナイフ1丁を携帯した。
(2)大分事件
 
被告人3名は,D及びE(以下,これら5名をまとめて「被告人ら」ともいう。)と共謀の上,被害者夫婦から金銭及びキャッシュカード等を強取しようと企て,平成14年1月18日午前2時10分ころ,大分県内の被害者夫婦方に,施錠されていない脇玄関から侵入した上,2階寝室(以下「2階寝室」という。)で,就寝中の当時71歳の妻(以下「女性被害者」ともいう。)に対して,「金出せ」と申し向けながら,その顔面等を,長さ約45.5センチメートルの木製棒及び手拳で多数回殴打する等の暴行を加え,さらに,殺意をもって,刃体の長さ約21.2センチメートルの刺身包丁で,その左側頭部を切り付けた上,胸部及び腹部を突き刺すなどしたが,同女に全治34日間を要する頭部裂傷及び切傷,顔面打撲,胸部刺傷,腹部刺傷を負わせるにとどまり,殺害の目的を遂げず,引き続き,同所において,当時73歳の夫(以下「男性被害者」ともいう。)に対し,殺意をもって,刃体の長さ約21.2センチメートルの刺身包丁で,その左腰部を突き刺して,その場で,同人を,左腰部貫通刺創に基づく腹大動脈,上腸間膜動脈及び腹腔動脈損傷により失血死させて殺害し,その際,業務その他正当な理由による場合でないのに,上記刺身包丁を含めて同種の刺身包丁合計3丁を携帯した。
(3)争点等
 
大阪事件は,前記のとおり,被告人Cのみに関係する事件であるが,同被告人は,捜査・公判を通じて事実関係を認めており,他の関係証拠に照らしても,事実関係はほとんど明白である(なお,大阪事件は,Eとの共謀に基づく犯行であるが,その犯行は被告人Cがすべて単独で実行している。)。
 
一方,大分事件は,被告人3名全員に関係する事件であるが,被告人3名いずれも,原審公判において,自らは被害者夫婦を刺身包丁で刺しておらず,殺意はなかった旨供述し,被告人らの各弁護人いずれも,被告人3名には被害者夫婦殺害の共謀はなく,殺意もなかったとした上で,被告人A及び同Cの各弁護人は,それぞれ両被告人について,銃刀法違反罪の成立はおおむね争わないものの,強盗致死傷罪の責任を負うにとどまると主張し,さらに,被告人Bの弁護人は,同被告人は,犯行現場近くまで同行したものの,犯行時には屋外で待機していたので,被害者らの死傷の結果について過失がなく,共同正犯ともいえないから,強盗罪の幇助犯の限度で責任を負うにとどまり,刺身包丁の携帯に関する共謀も成立していないから,銃刀法違反罪については無罪であるなどと主張していた。
2 原判決の要旨
(1)原判決は,大阪事件については,原判示「罪となるべき事実第1」として,おおむね公訴事実と同旨の事実を認定したが,大分事件については,被告人3名については,住居侵入及び銃刀法違反の各罪については公訴事実どおりの犯行を認めたものの,強盗殺人罪及び同未遂罪の共同正犯は成立せず,強盗致死傷罪の共同正犯が成立するにとどまるとして,原判示「罪となるべき事実第2」のとおりに認定した。その理由の要旨は,以下のとおりである。
(2)大分事件の犯行に至る経緯,犯行状況等についての被告人3名の供述が食い違うとして検討を加え,まず,被告人Cの捜査段階の供述については,極めて具体的かつ詳細で,迫真性に富み,当時の記憶に忠実に供述していると認められ,同被告人は,公判においても,記憶が薄れている部分はあるものの,被害者夫婦の殺害を考えたことがあるか否かの点を除けば,その供述は,捜査段階からほぼ一貫しており,本件現場及びその付近から刺身包丁3丁や手提げバッグに入ったロープ等が発見された状況等の客観的事実と符合する上,被害者夫婦方の下見の際に同人方付近で被告人Cらを目撃した者や,被告人Bの部屋で被告人Cらと会った者等の第三者の供述とも合致し,被告人Bの捜査段階の供述ともおおむね合致している。したがって,被告人Cの供述は,被害者夫婦の殺害を考えたことがあるか否かの点を留保しても,犯行に至る経緯や犯行状況に関する部分は十分に信用することができる。また,被告人Bの捜査段階の供述も具体的かつ詳細で一貫している上,迫真性に富み,供述態度も真摯であり,携帯電話の発着信状況等の客観的事実と符合する上,同被告人の部屋で被告人Cらと会った者や,被害者夫婦方への出発直前に話をした交際相手等の供述と一致するほか,被告人Cの供述ともおおむね合致しているので,一応信用することができる。しかし,被告人Bの,D及びEが刺身包丁を盗んできたときにこれを見たが,強盗と結びつけて考えたことはなく,捜査段階の供述は事実に反しているとの公判供述は信用性に乏しい。そして,被告人Aの捜査段階の供述は,多くの点で,信用できる被告人Cの供述及び被告人Bの捜査段階の供述に反する上,本件当時,刺身包丁等を持っていなかったと供述する点からは,被告人Aを含む4人が被害者夫婦方に侵入し,本件現場及びその付近から刺身包丁3丁及び木製棒1本が発見されているという客観的事実を合理的に説明することができず,被告人Aが捜査段階において真摯に供述したかについても疑問があるので,同被告人に不利益な部分や,被告人Cの供述及び被告人Bの捜査段階の供述に合致する限度で信用でき,その余の部分は信用性に乏しく,被告人Aの公判供述についても,前記被告人Cの供述及び被告人Bの捜査段階の供述に反するのみならず,二転三転したり,それ自体不自然であったり,客観的事実に反する点が含まれる上,捜査段階より更に自己に有利な方向に変遷するなど,公判において,不誠実な供述を繰り返しているといわざるを得ず,その信用性は乏しい。
 
そこで,被告人Cの供述及び被告人Bの捜査段階の供述を中心として、大分事件の犯行に至る経緯及び犯行状況等を認定すべきであるとして,被告人らの間で最終的に成立した謀議は,明示的に被害者夫婦を包丁等で殺害することを内容としておらず,被害者夫婦を包丁で脅してキャッシュカード等を奪って,キャッシュカードの暗証番号を聞き出し,その後,同キャッシュカードを使って金融機関から現金を引き出して領得しようとするもので,被害者夫婦が抵抗した場合や,現金の引き出しに成功した後,被害者夫婦をどうするかについて話し合った形跡は全くうかがわれない。そして,被告人らは,綿密に謀議を重ねて強盗の実行方法や役割分担を詳細に決定するなど,犯行計画を練り上げているが,被告人らにおいて,計画どおりに被告人C,同A,D及びEの4人で被害者夫婦方に侵入し,高齢の被害者夫婦を刺身包丁で脅せば,被害者夫婦は抵抗せず,犯行が成功する可能性が高いと考え,被害者夫婦が抵抗する事態を想定していなかったとしても格別不自然ではない。現に,女性被害者が悲鳴を上げるなどし,階下から男性被害者の声が聞こえるや,ほどなくE及び被告人Cは犯行継続の意思を失って被害者夫婦方から逃げ出し,被告人Cは,その後二度にわたり被害者夫婦方内に戻って,D及び被告人Aに対して逃げるように促し,Dもこれに応じていったんは逃げ出すなどしており,これらの事情は,被告人らにとって,被害者夫婦がそれほど抵抗することは予想外の事態であったことを裏付ける。そうすると,被告人らの間で,被害者夫婦が抵抗するなどした場合や,現金の引出しに成功した後に被害者夫婦を殺害する旨の明示又は黙示の共謀が成立していたと認めることはできない。
 
これに対し,検察官は,被告人らの間に被害者夫婦の殺害に関する共謀が成立し,かつ,被告人らに殺意があったとする根拠として,深夜に多数の極めて危険な凶器を準備して被害者夫婦方に侵入していることや,犯行計画自体に身元発覚の危険があり,検挙等を免れるためには被害者夫婦を殺害する必要があったことなどの事情をも主張する。しかし,これらの事情を総合しても,上記共謀ないし殺意があった可能性があるというにとどまる。ところで,被告人Cは,捜査段階において,刃物を使った強盗の計画に参加する以上,被害者夫婦が抵抗したり,騒いだり,警察に通報しそうになった場合には,自分たちが逮捕されないようにするため,被害者夫婦を持っている刃物で刺し殺すこともあるだろうと思っていたし,自らも,そのような場合には,持っていた刃物で被害者夫婦を殺害するつもりであった旨供述しているが,その後の同被告人の原審公判供述から判断すると,同被告人が,取調官から理詰めの質問を受け,大分事件で殺意があろうとなかろうと自分は死刑になる可能性が非常に高いと思っていたという当時の心境と相まって,なげやりな気持ちも手伝って,その意に沿う供述をしてしまった可能性が否定できず,その点に関する同被告人の供述の信用性は十分でない。 
 
さらに,被害者夫婦を刺身包丁で死傷した実行犯が,被告人A,D及びEのうちのだれであるかは特定できないものの,その実行犯と被告人3名との間で,被害者夫婦の殺害に関して現場共謀が成立したか否かについても検討すると,(1)被告人Cは,被害者夫婦が包丁で刺される場面を目撃しておらず,男性被害者と向き合い,いすを互いにつかんで押し合っていたDに対し,逃げろと声をかけたが,これをもって,男性被害者を殺して逃げろという趣旨とは考え難く,(2)被告人Aについては,実行犯が被害者夫婦を刺そうとしている状況を認識していたと認めるに足りる証拠はなく,(3)被告人Bは,被害者夫婦方に侵入していないから,いずれの被告人についても上記現場共謀の成立は認められない。
 
したがって,被告人らにつき,被害者夫婦の殺害に関する事前又は現場共謀の成立,さらには,実行犯としての殺意の存在を認めるには合理的な疑いがあるといわざるを得ないから,被告人らに強盗殺人罪及び同未遂罪の共同正犯は成立せず,強盗致死傷罪の共同正犯が成立するにとどまる。
(3)さらに,原判決は,被告人Bの,〔1〕強盗の共同正犯の成否,〔2〕被害者夫婦の死傷の結果についての責任の有無,〔3〕刺身包丁の携帯に関する共謀の成否及び故意の有無についても検討し,いずれの点についても肯定した上で,被告人3名について,それぞれ住居侵入,強盗致死傷,銃刀法違反の各罪の共同正犯が成立するとし,検察官の,被告人Cに対する死刑の,被告人Aに対する無期懲役の,被告人Bに対する懲役15年の各求刑に対し,被告人C及び同Aをいずれも無期懲役に,被告人Bを懲役14年に処した。第2 各控訴の趣意
 
検察官の被告人3名に対する各控訴の趣意は,検察官中尾英明作成の控訴趣意書に,これに対する答弁は,被告人Bの関係では,弁護人塩川泰徳が提出した答弁書に,被告人Aの控訴の趣意は,弁護人武藤糾明提出の控訴趣意書(なお,同弁護人は,当審第1回公判期日において,控訴趣意書第1中,5ないし8項は事実誤認に関する主張であるが,その余は情状に関する主張であると釈明した。)にそれぞれ記載されたとおりであるから,これらを引用するが,それらの要旨は以下のとおりである。
1 検察官の控訴趣意
(1)大分事件についての被告人3名に対する事実誤認
 
原判決は,被告人3名につき,被害者夫婦の殺害に関する共謀の成立及び殺意の存在を認めるには合理的な疑いがあるとして,被告人らに,強盗殺人罪及び同未遂罪の共同正犯の成立を認めず,強盗致死傷罪の共同正犯が成立するにとどまると認定しているが,被告人らには,それぞれについて,少なくとも被害者夫婦に対する未必の殺意が認められ,また,被告人らの間には,事前に被害者夫婦殺害についての黙示の共謀が成立していたから,被告人3名に強盗殺人罪及び同未遂罪の共同正犯が成立するというべきであり,原判決は,証拠の評価を誤り,その結果,事実を誤認したもので,その誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである。
(2)被告人Cについての量刑不当
 
原判決は,検察官が,被告人Cについて死刑を求刑したのに対し,同被告人を無期懲役に処しているが,原判決の大分事件についての前記の事実誤認が是正された場合はもとより,原判決の認定事実を前提としても,軽きに失して不当である上,最高裁昭和56年(あ)第1505号同58年7月8日第二小法廷判決・刑集37巻6号609頁及びその後の最高裁判所判決の集積によって示された死刑適用に関する判例に著しく違反する判断をした誤りがある。
2 被告人Aの控訴趣意
(1)事実誤認
 
原判決は,被告人Aが,〔1〕自ら刺身包丁1丁を携帯し,被害者夫婦方の2階寝室内で,Eが,女性被害者に対し,包丁を示して「金出せ。」と言った際,被告人Cとともに女性被害者の足を押さえつけたり,同女の顔面等を何度も手拳で殴打した,〔2〕共犯者らと共謀の上,自ら携帯した1丁を含め刺身包丁3丁を携帯した,などと認定しているが,〔1〕の事実はなく,被告人Aは刺身包丁は携帯していなかったし,〔2〕についても,刺身包丁3丁の携帯に関する共謀には加わっておらず,被告人Cが刺身包丁1丁を携帯していたのを認識していただけであるから,被告人Aには,せいぜい刺身包丁1丁を携帯した限度で共同正犯が成立するにとどまるから,原判示の住居侵入,強盗致死傷及び銃刀法違反(ただし,刺身包丁1丁の不法携帯の限度)の各共同正犯が成立することは免れないとしても,これらの事実誤認が判決に影響を及ぼすことは明らかである。
(2)量刑不当
 
原判決は,被告人Aを,検察官の求刑どおり無期懲役に処しているが,上記のような事実誤認がある上,被告人Aは,大分事件の犯行において,自動車を提供し,これを運転する役にすぎず,被告人Bに対し,この事件に関わるのはやめようと言い続けるなど,その犯行への関与は極めて消極的であって,犯行への関与の程度と刑とが均衡を欠いている上,原判決直前に原審弁護人を通じて遺族の代理人に謝罪の手紙を交付していることや,大阪事件という別の強盗殺人事件をも敢行した被告人Cと同じ無期懲役に処することは,共犯者間の刑の均衡を著しく失するものであり,これらの事情にも照らせば,刑が不当に重過ぎ,酌量減軽した上で有期懲役刑に処すべきである。
3 なお,被告人Bについては,同被告人側から控訴申立てがないところ,検察官の同被告人に対する事実誤認の控訴趣意に対する前記答弁の趣旨によれば,同被告人は,当審段階に至って,原判決の大分事件に関する事実認定を大筋で受入れた上で,原判決の住居侵入,強盗致死傷及び銃刀法違反(刺身包丁3丁の携帯)の各罪の共同正犯の成立を認めているものと解される(同被告人の当審被告人質問によっても,同被告人について同様の態度がうかがえる。)。
第3 検討
 
そこで,記録及び証拠物を調査し,当審における事実取調べの結果並びに検察官及び被告人3名の当審弁護人の各弁論をも併せて検討する。
1 検察官の控訴趣意中,大分事件における被告人3名に対する事実誤認の主張について

 被告人3名に強盗殺人罪及び同未遂罪の共同正犯が成立せず,強盗致死傷罪の共同正犯が成立するにとどまることは,原判決が,(事実認定の補足説明)第1ないし第4において,詳細に認定・判示するとおりであり,原判決に,所論の事実の誤認は認められない。以下,所論にかんがみ,補足して説明する。
(1)所論は,〔1〕被害者夫婦が受けた傷害の部位・程度,犯行に使用された凶器である刺身包丁の形状等に照らせば,この刺身包丁で,女性被害者を負傷させ,さらに男性被害者を刺して死亡させた実行犯が殺意を有していたことは明らかであり,仮に被告人3名がそれらの実行犯でないとしても,被告人らは,犯行前日までに凶器である刺身包丁3丁を目にしており,高齢の被害者夫婦よりはるかに年齢も若く,体力的に比較にならないほど勝っており,何らの凶器を使用せずとも同人らの抵抗を容易に排除できるにもかかわらず,一見して容易に人を殺傷する能力・機能を有していると認められる刺身包丁を3丁も準備して本件犯行に及び,しかも,現に凶器として犯行に使用しているから,当初から被害者夫婦を殺害する可能性が極めて高いことを認識・認容していたと認められる,〔2〕被告人らの計画は,被害者夫婦方に午前2時に侵入し,同人らからキャッシュカードを奪って,その暗証番号を聞き出し,金融機関から預金を引き出すというものであるが,深夜,就寝中に多数の人間によって襲われた被害者夫婦が,恐怖と驚がくの余り悲鳴を上げて抵抗し,その抵抗の態様や程度によって,被害者夫婦を制圧する必要性が生じ,そのための制圧の程度も高度なものになることは容易に予想できたものと考えられる。加えて,男性被害者は,Dが大学に入学するときの身元保証人であり,さらに,被害者夫婦は,D及び被告人Bが大学時代,同人らをアルバイトとして雇用したこともあったから,被告人らとは当然顔見知りであり,犯行の着手から金融機関が業務を開始する午前9時までの約7時間にもわたって被害者夫婦を監禁などすれば,被告人らの身元が発覚するおそれがそれだけ高くなるから,被告人らにおいて,身元が発覚し,逮捕されることを免れるためには,いずれ被害者夫婦を殺害する必要性を強く認識していたと認められる,などと主張する。

 そこで検討するに,〔1〕まず,犯行に使用された刺身包丁3丁は,いずれも刃体の長さ約21.2センチメートルと極めて鋭利な同一種類の凶器で,現実に被害者夫婦を死傷させるのに使用された刺身包丁はこのうちの1丁である。そして,これにより,女性被害者の左胸部には腹腔内に達するほどの深さの刺創が,腹部には胃に達するほどの深さの刺創がそれぞれ生じ,さらに,男性被害者の左腰部には,背後から刺身包丁全体が柄の部分まで刺入され,刃先が身体前部に露出する貫通刺創が生じており,女性被害者の検察官調書(原審検甲第364号)及び警察官調書(同第27号ないし第30号),被告人Aの検察官調書(原審検乙第17号),同Cの原審公判供述,検察官調書(同第56号)等によれば,犯行当時,侵入した被害者夫婦方の暗い2階寝室6畳間で,被告人Aらに対し被害者夫婦が激しく抵抗するなど混乱した状況の中で,女性被害者と男性被害者が短時間のうちに次々に刺されたことがうかがわれるものの,被告人Bを除く被告人らのうちの誰が被害者夫婦を刺したのか,また,2人を刺した者が同一人なのか否か,さらには,その実行犯がどのような態様で被害者夫婦を刺したのかについては,関係証拠上明らかになっていない。特に,本件では,DとEが犯行後中国に帰国して逃亡中であり,しかも,証拠関係に照らすと,上記実行犯の可能性が高いのはその中のDであるといえるが,それを確定するにも同人の弁解を聞く必要があり,いずれにしても捜査が完了していないとみる余地のある現状では,これらの事実を的確に認定することができない。男性被害者の前記貫通刺創についても,結果からみると,一撃で致命傷を与えるほどの強度の攻撃であったとみることも可能であるが,刺創はただの1か所にとどまり,実行者が男性被害者を殺害すべく,過たずに特定の部位を狙って一突きしたというより,激しく揉み合ううちに倒れ込んだ際,その力も加わって深く刺さってしまった可能性も必ずしも否定できず,前記のとおり,凶器が非常に鋭利なもので,被害者夫婦の傷害の部位・程度が生命に危険を及ぼす重大なものであったとしても,そのことから直ちに実行者に殺意があったと認定するにはなお不十分である。
〔2〕確かに,被告人3名は,上記刺身包丁を犯行に用いることを認識していたから,被害者夫婦を殺傷してしまう可能性を全く想定しなかったかどうかについては疑問も残るが,前記のとおり,凶器の殺傷能力の点から,直ちに被告人らが死の結果を認容していたとまで認めることはできない上,原判決が認定・判示し,記録上も肯認することができるとおり,被告人らの謀議の内容には,被害者夫婦が抵抗した場合や犯行後にその発覚を防ぐために被害者夫婦を殺害することを明示的に含んでおらず,また,犯行時,特に被告人CやEが,女性被害者が悲鳴を上げ,階下から男性被害者の声が聞こえるや屋外に逃げ出し,その後,被告人Cが,屋内に残るD及び被告人Aに対し,二度にわたり,逃げるように促すなどしていることに照らすと,被告人らが,被害者夫婦が抵抗した場合や犯行後にその発覚を防ぐために被害者夫婦を殺害することを認容していたとは認め難く,そのような内容を黙示的にでも謀議の内容としていたとは認められない。
 
また,被告人らには,自分たちの身元が発覚し,逮捕される危険を免れたいとの動機があったことはうかがわれるが,そのことから直ちに被害者夫婦に対する殺意を認めることはできない上,被告人らは,被害者夫婦と面識のある被告人Bを屋外で待機させたり,その後の監禁中も同人と被害者夫婦が接触しない計画になっており,また,各自,目出し帽により顔を隠した上で深夜に被害者夫婦の寝込みを襲うなど,身元が発覚しないようにしているから,被告人らにおいて,黙示的にであれ,身元発覚を防ぎ,逮捕を免れるために被害者夫婦を殺害することまで共謀していたと認めることはできない。
(2)また,所論は,被告人3名には,それぞれに少なくとも未必的殺意が認められるとして,〔1〕被告人Cは,確定的殺意をもって被害者を殺害した大阪事件からわずか3週間後に大分事件を敢行し,Eから,大阪事件の際,Eも同様の強盗殺人事件を敢行した旨聞かされ,それを信用していたから,Eから大分事件への加担を求められた時点で,被害者を殺害する可能性が高い強盗計画であると認識していたはずであり,また,大阪事件で凶器として使用したペティナイフより刃体も長く,殺傷能力の高い刺身包丁3丁をEから見せられていたから,被害者夫婦殺害の危険性が高いことを十分に理解・認容していたと認められる上,被害者夫婦に対する殺意を認める同被告人の捜査段階における供述も信用性が高い,〔2〕被告人Aは,捜査段階において,被害者夫婦殺害の可能性を認識していたと供述しているから,同被告人が,被害者夫婦殺害についての未必の故意を有していたことは明らかである,〔3〕被告人Bは,犯行前に,前記刺身包丁を見た後,このような鋭利な刃物を用いれば,被害者夫婦を殺害するかもしれないと怖くなり,Dに対し,強盗計画から離脱する旨いったん表明したが,その後,被告人Aらから説得されて,再び犯行に加わり,運転手役として現場に赴いているのであって,このような経緯に照らし,被告人Bが,被害者夫婦に対する未必の殺意を有していたことは明らかである,などと主張する。
 
しかし,〔1〕被告人Cについては,明らかに被害者夫婦を死傷させた実行犯とは認められない上,前記のとおり,Eらとともにいったん被害者夫婦方2階寝室まで侵入したものの,ほどなく屋外に逃げ出した上,他の共犯者に逃げるように促すなどしているのであって,このような犯行時の消極的な言動からすると,被告人Cが,被害者夫婦を殺害する結果を認容していたと認めるには合理的疑いが残るといわざるを得ない。確かに,被告人Cの検察官調書(原審検乙第57号,第59号,第61号,第62号)中には,被害者夫婦に対する殺意を認める旨の供述記載があるが,同被告人は,原・当審公判においては,殺害行為に及ぶことは全く想定していなかった旨各供述しており,犯行時の同被告人の前記言動や前記のとおりの捜査段階で供述したときの心情などに照らし,殺意を認める上記供述記載はただちに信用できない。
また,〔2〕被告人Aについては,確かに,同被告人の検察官調書(原審検乙第15号)によれば,同被告人が,検察官から,1月中旬という時期に高齢の被害者夫婦を監禁場所に置き去りにすればどうなるかと質問されて,同被告人が,被害者夫婦が凍死したり,飢え死にすると思った旨供述しているものの,これは理詰めの質問によって答えを誘導された感が強く,その供述をもって,直ちに同被告人に被害者夫婦殺害についての未必の故意を認定することはできないし,そもそも,現実には,被告人らの間で,このような点について謀議した形跡もない。さらに,〔3〕被告人Bについては,確かに,関係証拠によれば,所論指摘の共犯関係からの離脱と復帰の経緯に関する事実関係が認められるが,前記のとおり,そもそも被告人らの間に被害者夫婦を殺害する旨の共謀が成立していたとは認められないから,共犯関係に復帰した事実関係から,直ちに同被告人の被害者夫婦殺害についての未必の故意を認定することはできないというべきである。
(3)したがって,大分事件の事実誤認に関する検察官の所論はいずれも採用できず,この点に関する論旨は理由がない。
2 被告人Aの控訴趣意中,事実誤認の主張について
 
原判決が,大分事件について挙示する各証拠によれば,犯行時,被告人A,同C及びEが刺身包丁を各1丁ずつ携帯し,木製棒を持ったDとともに4名で被害者夫婦方に侵入した上,引き続き2階寝室に入ったところ,女性被害者が悲鳴を上げたため,上記4人で同女に駆け寄り,Dが,同女の頭部を木製棒で何度も殴打し,Eが,同女の方に刺身包丁の刃先を向け,日本語で「金出せ。」と言い,被告人C及び同Aが,同女の足を押さえつけたが,その際,被告人Aらが,同女の顔面等を手拳等で何度も殴打した事実が認められる。これらの事実関係に照らすと,被告人Aに,原判示の強盗致死傷及び銃刀法違反の各事実が認められる。
 
所論は,被告人Aの原・当審公判における各供述が信用できるとして,るる主張するが,被害者夫婦に対する殺意や同人ら殺害の共謀に関する点を除き,被告人Cの捜査・公判における供述及び被告人Bの捜査段階の供述が信用でき,これに反する被告人Aの捜査・公判における供述が信用できないことは,原判決が(事実認定の補足説明)の第3で詳細かつ適切に認定・判示するとおりであって,所論は到底採用できない。
 
したがって,被告人Aの弁護人の大分事件に関する事実誤認に関する論旨は理由がない。
3 検察官の控訴趣意中,被告人Cに対する量刑不当の主張について
 
大阪事件における各犯行の経緯・動機,態様及び強盗殺人の結果等については,原判決が(罪となるべき事実第1の犯行に至る経緯等),(罪となるべき事実第1)及び(量刑の理由)の2で詳細に認定・判示するとおりである。被告人Cは,両親の貯金と親戚からの借金による多額の援助を受けて日本へ留学しながら,まじめに勉強せず,わずか1年余りで学業を放棄し,アルバイトも長続きせず,報酬目当てに中国人女性と日本に留学中の中国人男性との偽装結婚を企てるなど不良な生活態度を続け,中国にいる母からの送金も無計画に使い果たし,生活費に窮するや,Eから大阪市内での強盗を持ち掛けられて安易に同調し,当座の生活資金等を得るために被害者からキャッシュカード等を強取して暗証番号を聞き出した上で同人を殺害するという犯行を計画したもので,その発想自体,身勝手・短絡的であって,このような経緯や動機に酌量の余地は全くない。そして,被告人Cは,Eと共謀の上,それぞれの宿泊ホテルの部屋に各対象を誘い込んで計画を実行に移すことにし,被告人Cは,本件被害者に対し,遊客を装って宿泊していたホテルの部屋に誘い込み,その両手首及び両足首をクラフトテープで緊縛して,キャッシュカード2枚を強取した上(なお,同被告人が被害者から聞き出した暗証番号は虚偽のものであって,同被告人らが同キャッシュカードを使って金銭を引き出すことはできなかった。),口封じのため,鋭利なナイフで,抵抗できない状態にある被害者の左胸部等を,多数回にわたって執ように強くかつ深く突き刺して殺害しており,被害者の受傷状況や出血状況から明らかなとおり,被害者殺害の態様は残虐非道であって,誠に凶悪である。そして,被告人Cの上記凶行により,被害者は35歳の若さで尊い生命を奪われており,被害者が絶命するまでの間に味わった肉体的苦痛や無念さには想像を絶するものがあり,結果が極めて重大であることはいうまでもないが、同被告人は,被害者の遺族に対する慰謝の措置を何ら講じておらず,被害者の夫は,事件から相当期間を経過した当審時においても,妻を失った精神的苦痛にさいなまれており,同被告人に対して一貫して死刑を強く望んでいる。しかも,被告人Cは,被害者を殺害した後,室内の指紋を拭き取って証拠隠滅を図るなど,冷酷で狡猾な行動に出ており,犯行後の行動も悪質であり,更にこのような残虐非道な犯罪が社会に与えた衝撃や不安をも併せると,この事件の被告人Cの犯情が非常に悪いことは明らかである。
 
次に,大分事件における各犯行の経緯・動機,態様及び強盗致死傷の結果等についても,原判決が(罪となるべき事実第2の犯行に至る経緯等),(罪となるべき事実第2)並びに(量刑の理由)の3及び6でおおむね認定・判示するとおりである。被告人らは,何度も謀議を重ね,各人の役割分担を決めるとともに,被害者夫婦方付近や現金を引き出す金融機関等の下見を繰り返し,犯行に使用する凶器やロープ,手袋や目出し帽等を万引きして用意するなど,周到に計画・準備した組織的犯行であり,深夜,刃体の長さ約21.2センチメートルの刺身包丁3丁等を携帯して本来安全であるべき被害者夫婦の住居内に侵入し,目を覚まして悲鳴を上げた女性被害者に対し,その頭部や顔面等を木製棒や素手で多数回殴打するなどの強力な暴行を加え,さらに,被害者夫婦を刺身包丁で次々に突き刺しており,強盗の態様は誠に凶悪である。被害者夫婦に何らの落ち度もないのに,女性被害者は重傷を負わされ,男性被害者は尊い命を奪われたものである。特に,被害者夫婦は,老後を幸せに暮らしていた極めて善良な町民であった上,男性被害者が,中国において終戦を迎えた後,帰国するまでの間に中国人に助けられたことについて感謝の念を抱き続け,その恩返しの気持ちから,多くの中国人留学生の留学をあっせんしたり,アルバイト等の世話をして面倒をみるようになり,そのうち,男性被害者は,「中国人留学生の父」とも呼ばれ,中国にある日本語学校の名誉校長を務めるなど,被害者夫婦は日中友好親善に尽力していたものである。したがって,本件は,まさに恩を仇で返すような行為であって,誠に許し難い犯行というべきである。 
本件で,女性被害者は,自宅で就寝中に突然襲われ,多大な恐怖感を感じた上に,長年連れ添った夫を理不尽にも奪われているのであって,その悲しみや怒りから峻烈な処罰感情を表し,被告人Cらに対し死刑を強く求めている。また,被害者夫婦の子供や兄弟ら遺族も,男性被害者を失った悲しみや,事件後も次々に不幸に見舞われたこと等から峻烈な処罰感情を表し,被告人Cらの死刑を強く求めているが,それにもかかわらず,被告人Cは,女性被害者や遺族に対し,慰謝の措置を何ら講じていない。さらに,この事件が地域住民や社会に大きな衝撃と恐怖を与えたこと等の事情をも考慮すると,この事件の犯情もすこぶる悪い。
 
このように,各事件の重大性,殊に被害者2名が死亡し,1名が重傷を負ったという結果の重大性や,被告人Cが,大阪事件という凶悪事件を犯しながら,わずか3週間余り後に再び大分事件のような重大な犯行に及んでいること,大分事件の女性被害者や両事件で死亡した被害者の遺族の処罰感情,各事件の社会的影響の大きさからすると,同被告人の刑事責任は極めて重く,量刑に当たって,死刑を選択することも十分あり得ると考える。

 しかし,死刑が人間の生命を奪う極刑であり,窮極の刑罰であることにかんがみると,その適用は慎重に行われなければならず,「犯行の罪質,動機,態様ことに殺害の手段方法の執拗性・残虐性,結果の重大性ことに殺害された被害者の数,遺族の被害感情,社会的影響,犯人の年齢,前科,犯行後の情状等各般の情状を併せ考察したとき,その罪責が誠に重大であって,罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむをえないと認められる場合には,死刑の選択も許されるものといわなければならない」(最高裁昭和56年(あ)第1505号同58年7月8日第二小法廷判決・刑集37巻6号609頁),との最高裁判決の趣旨を正しくくみ取る必要がある。そして,被告人Cには,大分事件の被害者夫婦に対する殺意やその共謀が認められず,同事件においては,被告人Aらとともに,上記刺身包丁を携帯して被害者夫婦方に侵入し,女性被害者の足を押さえ付けるなど強盗の実行行為に及んではいるものの,それ以上の暴行行為に及んでおらず,まして被害者夫婦を刺身包丁で突き刺したりもしておらず,男性被害者の大きな声が聞こえるや,いち早く屋外に逃走して仲間にも逃走を呼びかけるなど,同事件遂行の全体からみれば,消極的な言動にとどまっている。また,同事件の犯行を発案し,被害者夫婦方を狙うことを始め,被害者夫婦を監禁した上でキャッシュカードの暗証番号を聞き出して,そのキャッシュカードを使って金融機関から現金を引き出すという犯行のほぼ全体を立案するとともに犯行日をも決定し,これらを被告人3名に指示・説明したのは主にEとDであり,被告人Cに電話をかけて犯行に誘い込んだのもEとDであり,刺身包丁や木の棒といった凶器のほか,懐中電灯,目出し帽,手袋等の同事件に使用するものを万引きして調達したのもEとDであり,犯行後,被告人Cらに証拠物件の廃棄を指示したのはDであり,これらの事実にも照らすと,同事件の主犯がEとDであることは明らかである。さらに,被告人Cは,前記のとおり,被害者やその遺族らに対して慰謝の措置は全く講じていないが,捜査・公判を通じて詳細に事実関係を供述し,被告人なりに謝罪と反省の情を示している。その他,被告人Cは,犯行当時未成年であるが,本件で当初少年保護事件として家庭裁判所に係属していた際に作成された鑑別結果通知書や少年調査票等を参考にすると,人格的にやや未熟で社会認識や現実認識が甘く,他の影響を受けやすい意志薄弱な資質傾向が認められるものの,矯正教育を受入れる素地があり,教育の可能性を有していること等,被告人のために酌むべき事情も認められる。
 
そこで,以上を総合すると,大分事件の女性被害者や両事件で死亡した被害者の遺族らの被告人Cに死刑を求める心情や訴えには重いものがあるが,同被告人について,死刑を選択することには,なおちゅうちょせざるを得ず,同被告人に対し,自己の犯した罪の重大さ,深刻さを改めて深く自覚させ,生涯にわたって亡くなった被害者の冥福を祈らせるとともに,被害者夫婦に対するしょく罪と反省の日々を送らせるのが相当であるとして,同被告人を無期懲役に処した原判決の量刑が不当に軽すぎるとまではいえない。結局論旨は理由がないというべきである。
4 被告人Aの控訴趣意中,量刑不当の主張について
 
大分事件の犯情がすこぶる悪いことは,被告人Cについて述べたとおりであり,その事件の実行共同正犯である被告人Aの刑事責任が重大であることは明らかである。所論は,被告人Aは,友人の被告人Bとの人間関係を維持するために断り切れずに犯行に加担したにすぎず,実際の行動としても,自動車を提供し,運転手役を務めたにすぎないなどとして,犯行への関与が消極的であったと主張するが,被告人Aが,犯行に必須の自動車を提供しただけでなく,被告人Cらとともに,刺身包丁を携帯して被害者夫婦方に侵入し,女性被害者の足を押さえ付けるなど強盗の実行行為に及んでいると認められることは前記のとおりであって,被告人Aの犯行への関与が消極的であったとは到底いえず,被告人Bの仲立ちで犯行に加担するに至った点があることも,格別有利な事情としてしん酌することはできない。
 
しかし,前記のとおり,関係証拠上,被害者夫婦を死傷させた人物を特定することはできず,被告人Aが犯行時に女性被害者ともみ合っていた事実や,同被告人が履いていたジーパンや靴に血が付着していた事実があるにせよ,被告人Cは,犯行後,Dが「自分が男性被害者を刺した」旨述べていたと当審に至るまで一貫して供述し,同被告人の供述が基本的に信用できるものであることに照らすと,被告人Aが,被害者夫婦を刺身包丁で死傷させたと認めるには合理的疑いが残る。また,大分事件の主犯はEとDである。したがって,前記のとおり,犯情がすこぶる悪く,被告人Aの刑事責任が重大であり,大分事件の強盗致死傷罪等の実行正犯である以上,被害者夫婦方に侵入せずに屋外の車内で待機していた被告人Bより刑事責任が重いとみるべきではあるが,被告人Bも,EやDに対し,被害者夫婦方の場所を教え,謀議の際には中国語を解さない被告人Aの通訳を務め,自らはいったん共謀関係から離脱したものの,被告人Aが共謀関係から離脱するのを引き止めるなど犯行遂行の上でそれなりに重要な役割を果たしていることにかんがみると,被害者夫婦を刺身包丁で刺したとは認められない被告人Aと同Bとの間に,無期懲役と有期懲役とを分けるほどに犯情の軽重に径庭があるとはいい難く,他方,非常に凶悪な大阪事件をも犯している被告人Cについて無期懲役に処することとの均衡も考慮せざるを得ない。被告人Aは,捜査段階から原・当審公判に至るまで不自然な弁解を繰り返し反省の情が薄いともいえるが,その一方で同被告人なりに反省の情も示しており,同被告人に日本での前科・前歴がないこと,同被告人の父が遺族に対する謝罪の意を表していること等,同被告人のために酌むべき事情をも併せ考慮すると,同被告人について無期懲役を選択するのは,同種事犯の量刑と比較しても,いささか酷であるといわざるを得ない。そして,当審における事実取調べの結果によれば,被告人Aが,原判決宣告直前に,原審弁護人を通じて男性被害者の遺族の民事代理人に対し,謝罪の手紙を交付しており,原判決後,十分な金額とはいえないものの,父の援助を得て女性被害者及び被害者夫婦の3人の娘に対し被害弁償の一部として350万円を支払ったこと等の新たな事実も認められ,原判決後のこれらの事情をも併せると,原判決の量刑は,重過ぎて酷に失するといわざるを得ず,同被告人については,酌量減軽した有期懲役に処するのが相当である。論旨は理由がある。
第4 結論
1 以上より,検察官の被告人B及び同Cに対する各控訴は理由がないので,いずれも刑訴法396条によりこれを棄却し,同法181条3項本文により当審における訴訟費用を被告人B及び同Cにいずれも負担させないこととする。
2 そして,原判決中,被告人Aに関する部分を刑訴法397条,381条により破棄した上,同法400条ただし書により更に判決することとし,原判決が適法に認定した事実に法令を適用すると,原判示第2の1の所為のうち,住居侵入の点は刑法60条,130条前段に,強盗致死の点は刑法60条,平成16年法律第156号(刑法等の一部を改正する法律)附則3条1項により同法による改正前の刑法240条後段に,強盗致傷の点は刑法60条,上記改正前の刑法240条前段(有期懲役刑の長期につき,刑法6条,10条により同改正前の刑法12条1項)に,原判示第2の2の所為は,刑法60条,平成18年法律第41号による改正前の銃砲刀剣類所持等取締法32条4号,22条にそれぞれ該当するが,原判示第2の1の住居侵入と強盗致死及び強盗致傷との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので,刑法54条1項後段,10条により結局以上を1罪として最も重い強盗致死罪の刑で処断することとし,原判示第2の1の罪につき所定刑中無期懲役刑を,同第2の2につき懲役刑をそれぞれ選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるが,原判示第2の1の罪につき無期懲役刑を選択したので,同法46条2項本文により他の刑を科さないこととし,なお犯情を考慮し,同法66条,71条,68条2号を適用して酌量減軽をした刑期(その長期は,行為時においては上記改正前の刑法12条1項に,裁判時においてはその改正後の刑法14条1項によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。)の範囲内で,上記の諸事情を総合考慮の上,被告人Aを懲役15年に処し,原審における未決勾留日数の算入については刑法21条を,原審及び当審における訴訟費用を被告人Aに負担させないことについて刑訴法181条1項ただし書をそれぞれ適用する。
 
よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 正木勝彦 裁判官 平島正道 裁判官 柴田厚司)

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