強盗福岡8

強盗福岡8

福岡地方裁判所/平成13年(わ)第472号

主文
被告人を懲役3年6月に処する。
未決勾留日数中280日をその刑に算入する。
訴訟費用は被告人の負担とする。

理由
(犯行に至る経緯)
1 被告人とA,Bの関係
 
被告人は,暴力団C組の組長だった者であり,Aは,暴力団D組の構成員であるが,両名は,少年時代に互いに暴走族に加入していたこともあって親しい間柄であった。
 
Bは,被告人と同じ暴走族の後輩であり,C組の構成員である。
2 Eに入店した経緯
(1)Aは,平成9年夏ころ,所属するD組の上部団体であるFがG組の組員に射殺される事件があったことから,G組系暴力団であるH組に対する報復を考えるようになり,被告人に対し,「H組の人間を探している。どこに居るか知らないか。」などと尋ねていた。
(2)被告人,A及びBは,平成9年9月22日から翌23日にかけての深夜ころから,福岡市内の飲み屋で飲酒した後,被告人がAを自動車に同乗させ,Bが別の自動車に乗って,中洲方面に向かった。
 
Aは,その途中,被告人に対し,「Eに行こうか。」などと言った。被告人及びAは,福岡市a区bc丁目d番e号Iビル4階ゲーム喫茶「E」がH組が面倒を見ている店であることを知っていた。そこで,被告人は,Aが店の者に因縁を付けて嫌がらせをするつもりでいると思いつつ,Aと一緒に行ってAの身の上に何かあれば助けてやろうという気持ちで,Eに付いて行った。そして,被告人は,Bに対しても,携帯電話で電話をかけ,Eに行くよう指示をした。
(3)被告人ら3名は,Eのビル前付近路上に自動車を停め,ビル内に入り,平成9年9月23日午前6時30分ころ,Eに入店した。
3 E入店後の状況
 
被告人ら3名がE店内に入ると,同店従業員のJがカウンター内で勤務しており,常連客のKが店内入り口付近のゲーム機で遊んでいた。
 
そしてAは,カウンターの前付近に向かい,Jに対し,「この店はだれが面倒を見ているのか。」,「分からないなら,店長を呼べ。」などと言って責任者を呼ぶように迫り,被告人も「はようゆったほうがいいぞ。」などと,Aと同じような口調で言ったが,Jは,連絡を取ろうとはしなかった。
4 Aの暴行状況
(1)Aは,カウンターの中に入ってJの胸倉をつかんで,「店長を呼べ。」と再度言ったが,Jは,「連絡はとれません。知りません。」などと言って拒絶した。Aは,Jの態度に怒り,いきなりその顔面や頭部等を,手拳やガラスコップ,ガラス製灰皿を用いて,複数回にわたり殴打した。その間,Jは,しゃがみ込んで顔面をかばうように両腕を構える姿勢となった。
(2)Aの上記暴行により,Jは,頭部等に傷を負って大量に出血し,少なくとも,加療約2週間を要する左側頭部,頭頂部,後頭部及び右下口唇部の各挫創並びに右側頭部挫傷の傷害を負った。
(3)その後,Aは,いったん暴行を中断し,Jから離れてトイレに入った後,再度カウンター内に戻った。Aが,Jに対し,「店長を呼べ。」などと言うと,Jはこれに応じ,事務室内に入って連絡先を書いたメモが入った財布を取り出した。Aは,Jからその財布を取り上げた。
(犯罪事実)
 
Aは,Jから取り上げた財布の中身を見た後,前記暴行により畏怖しているJから店の売上金を強取しようと企て,平成9年9月23日午前6時40分ころ,前記ゲーム喫茶「E」のカウンター奥の事務室内において,Jに対し,「もっとあるだろうが,店の売上金はどこにある。」などと脅迫した。そのころ,上記事務室付近まで近寄って来ていた被告人も,このようなAの言動を見て,AがJから売上金を強取しようとしていることを知って,Aに加勢しようと考え,ここに被告人及びAは暗黙のうちに意思を相通じて,こもごも,「売上金はどこにあるんか。ないわけなかろうが。」,「金は他にもあろうが。」などと脅迫した。これらによりその反抗を抑圧されたJから,AがJの管理に係る現金約100万円を受け取って強取した。
(証拠)(括弧内の甲乙の番号は証拠等関係カードの検察官請求証拠の番号)
〈省略〉
(補足説明)
第1 公訴事実の要旨及び争点
1 本件公訴事実の要旨は,「被告人は,Aと共謀の上,平成9年9月23日午前6時40分ころから午前7時ころまでの間,福岡市a区bc丁目d番e号Iビル4階ゲーム喫茶『E』において,同店従業員J(以下「被害者」という。)に対し,こもごも,『この店はどこの組が面倒みとるのか。店長を呼べ。』などと因縁を付け,被害者の頭部,顔面を手拳及びガラス製灰皿等で多数回殴打する暴行(以下「第1暴行」という。)を加え,よって,同人に加療約2週間を要する左側頭部挫創等の傷害を負わせ,さらに,同暴行により畏怖している被害者から現金を強取しようと企て,被害者に対し,こもごも,『売上金はどこにあるんか。ないわけなかろうが。』,『金は他にもあろうが。』などと言いながら,特殊警棒で被害者の右前腕部等を数回殴打するなどの暴行(以下「第2暴行」という。)を加えてその反抗を抑圧した上,被害者からその管理に係る現金約100万円を強取し,その際,同暴行により被害者に加療約1週間を要する右前腕部挫傷の傷害を負わせた。」というものである。
2 被告人は,上記公訴事実に関し,「公訴事実記載の日時場所に居たことは間違いないが,公訴事実に記載された暴行を振るったり,暴力的な言葉も言っていない。被害者に傷害を負わせていない。被害者から現金を強取していない。Aとの共謀もない。」旨供述し,弁護人も,被告人の供述に基づき,被告人は,強盗の実行行為をしておらず,強盗の共謀もないから,無罪である旨主張する。
3 この点,当裁判所は,〔1〕被告人が被害者に対する売上金の要求を行ったという強盗の実行行為及びAとの間の共謀の事実は認められると判断した。しかしながら,他方,〔2〕第1暴行については,被告人とAの間の共謀が認められず,また,〔3〕第2暴行は強盗の実行行為ではない上,被害者の右前腕部挫傷の傷害の発生時期が不明であり,第2暴行により生じたと特定できないと判断して,判示のとおり認定した。
 
以下,その理由につき,本件事実経過に沿って説明する。
第2 第1暴行の共謀
 
まず,公訴事実では,第1暴行について,被告人とAとの間で共謀があったとされるが,当裁判所は,以下の理由により,共謀を認定することはできないと判断した。
1 事前共謀の有無
 
第1暴行の状況に関する認定事実は,犯行に至る経緯として冒頭に判示したとおりであり,被告人は,第1暴行の段階では,被害者に対し何らの実行行為を行っていないから,共謀共同正犯の成否が問題となる。
この点,認定事実によれば,被告人とAは,E入店直前まで飲酒するなど行動を共にしていたが,その際,両名の間に,Eの店員に対し暴行を加える旨の謀議があったと認定できる証拠は存在しない。
2 現場共謀の成否
 
そこで,現場共謀の成否について検討する。
(1)確かに,関係証拠によれば,被告人は,Aが因縁を付け,嫌がらせをするなどの目的であることを認識した上で,Aの身の上に何かあれば助けてやろうなどと考えEまで同行していること,E入店後,被告人は,Aらとともにカウンターの前付近に向かい,Aが,被害者に,「この店はだれが面倒を見ているのか。」,「分からないなら,店長を呼べ。」などと言って迫っている際,「はようゆったほうがいいぞ。」などとAと同じような口調で言っていること,さらに,Aが被害者の態度に怒ってカウンター内に入って被害者を殴打し始めると,被告人もカウンター内に入ろうとしてBに止められていること(なお,後記のとおり,殴打行為との正確な先後関係は不明である。)が認められる。
これらの事実からすれば,被告人が,Aと意思を通じて被害者に暴行を加えようとした疑いはある。
(2)しかしながら,関係証拠からは,以下の事実を指摘できる。
ア 第1暴行への加担意思を明らかにした時期
 
被告人がカウンターの中に入ろうとして,Aの第1暴行に対する加担意思を明らかにした時期については,被害者が,公判廷において,「そのとき間違いなく出血していました。だから灰皿で殴られて,それを見て多分Bが『はやくよばんと殺されるぞ。』と言ったと思います。それで,とにかくいったんAから離れたときに,〔Bが被告人を〕羽交い締めしているところを見たと思います。」などと,第1暴行の終了後のことであったとも解される供述をしている。
そして,この供述内容は,第1暴行におけるAの暴行が,いきなり素手やガラスコップ,ガラス製灰皿で何度も殴りつけたという激しいものである上,短時間(被害者は2分以内と供述している。)のうちに終了した突発的行動であって,被告人が加担する十分な余裕もなかったという客観的状況と符合している。
そうすると,被告人が第1暴行への加担意思を明らかにしたのが,第1暴行の終了後のことであった可能性が否定できない。
イ Aの共同実行の意思
 
また,たとえ,被告人が第1暴行への加担意思を明らかにしたのが,第1暴行が終了する前であったとしても,Aの側から見れば,Aは,もっぱら被害者に向かって激しい暴行を加えていたのであるから,その間,被告人が,背後のカウンター外で,カウンターの中に入ろうとしていたことまで認識できていなかった可能性があり,この時点でAに被告人との共同実行の意思があったのかという点についても疑問が残る。
ウ 被告人の動機
 
さらに,動機の点を検討すると,Aは,所属するD組の上部団体であるF組組長が同じ組内のG組組員に射殺されていたことから,G組系の暴力団であるH組に対する報復を企てて,H組が面倒を見ているEに因縁を付けようとしていたものである。これに対し,被告人は,C組の暴力団組長であり,F組組長が射殺された事件は被告人にとって直接の利害関係はないから,Eの店員である被害者に対し,被告人自身が積極的に因縁を付けて,何らかの行動に出なければならないような強い動機は認められない。
したがって,被告人が,Aの第1暴行の開始直前に被害者に対し,Aに加勢して「はようゆったほうがいいぞ。」などと迫ってはいても,この時点でそれを超えて被害者に対する暴行までを意欲し,あるいは,Aの第1暴行を予期し,容認していなかったと見る余地がある。
3 以上によれば,第1暴行について,被告人とAの間の共謀を認定するには合理的な疑いを容れる余地がある。
なお,第1暴行の傷害は,公訴事実では,その後の強盗致傷とは,混合的な包括1罪として起訴されたものと解されるから,理由中に無罪であることを判示するに止め,主文では無罪の言渡しをしないこととする。
第3 強盗の犯行状況
 
被告人は,第1の2のとおり,公訴事実について,強盗の実行行為をしたことがなく,Aとの共謀もなかった旨供述し,弁護人も同旨の主張をするので検討する。
1 被害者の公判供述の概要
 
被害者は,この点に関し,公判廷において,「Aの暴行を避けるため店長を呼ぶことにし,その旨Aに言って,カウンター奥の事務所入り口横付近で,連絡先メモを入れた財布を取り出した。これに対し,Aは,被害者に近付いてその財布を取上げた上,『もっとあるだろうが,店の売上金はどこにある。』などと現金を要求してきた。すると,被告人がカウンター奥の事務室扉付近まで入ってきて,Aの後ろ付近に立ち,『店の売上金はどこにあるのか。』などと言って現金を要求してきた。」,「第1暴行の際の暴行を受けた上,A及び被告人に脅迫されて抵抗することができず,Aに対し,ズボンの後ポケットに入っていた売上金約100万円入りの財布を手渡した。」旨供述している。
2 被害者供述の信用性
 
この点,関係証拠を検討しても,被告人に強盗の実行行為があったことの直接証拠は,被害者の上記公判供述以外には見当たらないから,その供述の信用性は慎重に検討する必要がある。
(1)供述状況
 
そこで,被害者の捜査段階での供述状況を見るに,
ア 被害者は,事件後救急病院に運ばれ,L病院で入院加療を受け,平成9年10月2日同病院を退院したが,同病院入院中に供述調書4通(平成9年9月23日付〔甲43ないし45〕及び同月24日付〔甲46〕)が作成されたほか,退院後も多数の供述調書が作成されている。
その後,被害者は,平成11年3月25日には公判廷に証人として出廷して供述し,さらに,事件後3年以上が経過した平成13年4月16日には検察官調書(甲54)が作成されており,3年以上の期間にわたり,本件被害状況等について順次詳細な供述をしたものである。
イ この点,確かに被害者の供述については,当初の平成9年9月23日付警察官調書(甲43ないし45)や同月24日付警察官調書(甲46)の記載内容とその後の供述調書の記載内容を対比してみると,Aのガラス製灰皿での殴打等の状況につき,細部では何度も変遷し,また,次第に詳細になっている部分が多く見受けられる。
ウ しかし,被害者の売上金強取の場面に関する供述状況については,
(ア)事件当日である平成9年9月23日付の警察官調書(甲44)では,「更にAと被告人は『金は他にもあろうが。』と更に今度はお金の要求をしますので,この時私は店の準備金110万円位を別の財布に入れて持っていましたが,私のお金では無いので,『もうありません。』と断ったのです。すると,Aと被告人は『貴様売り上げ金があろうが。』,『金が無いで商売出来るか・・・。』,『殺すぞ貴様』と怒鳴られ,更に二人から殴られましたので,私の右後ろのズボンのポケットに入れていた財布を確かAに差し出して,暴力を振るうのを止めて貰ったのです。」との供述記載がある。
(イ)次いで,翌24日付の警察官調書(甲46)には,「そのあと被告人から,『金はほかにもあろうが,店の売上金があろうが,どこか。』」と言ってすごみましたので,この売上金をとられたら店長に申し訳が立たないと思い,『ありません。』と言うと,今度はAの男が『ない訳がなかろうが。』と言って,又,げん骨でなぐられたり,足蹴りされたりしました。」との供述記載が認められる。
(ウ)そして,その後の被害者の供述調書においても,被告人がAとともに,売上金を要求してきた旨の一貫した供述記載が認められる。
エ 以上によれば,被害者は,Aの単独ではなく,被告人がAとともに売上金を要求したことについて,事件当日から現在まで一貫して供述しているということができる。
このような供述状況は,被告人が売上金の要求行為を行ったとする被害者の供述部分の真実性を強く裏付けていると評価できるから,イで検討した供述の変遷状況を考慮して検討しても,その信用性を覆すには至らないというべきである。
(2)K供述との整合性
ア Kは,Eの常連客であり,本件犯行状況の一部を目撃したものであるが,公判廷において,被告人の強盗の実行行為の有無に関し,「Aの『金を出せ。』という声が聞こえ,それを加勢する『早う出さんか。』という声がカウンターの外あたりから聞こえた。BはKの近くにいたことが多かったので,被告人の声だと思う。」,「被告人がカウンターの中に入ったところは見ていないが,中に入ろうとしているところはあったと思う。」などと供述している。
イ この点,上記K供述は,Aの声以外に被告人と思われる現金を要求する声が聞こえたと供述する点で,被害者の公判供述を裏付けるものである。
確かに,Kは,ちらちらと後ろを見て状況を確認していた以外には,音や声を聞いていたというものに過ぎず,その供述内容には,断片的であいまいな部分も含むが,Kは,Eの店内にいて本件の一部始終に立ち会ったものであり,全くの第三者でもあることからすると,その供述の信用性は高いというべきである。
ウ 弁護人は,Kの,売上金を要求する被告人の声を聞いた,との公判供述は,捜査段階の供述調書には供述記載が見当たらず,事件から時間が経過したAの公判での証人尋問において初めて供述を開始したものであって,不自然である旨主張する。
しかし,Kの証人尋問調書(甲62・第110項ないし第112項)によれば,その供述状況は,
「問 具体的に,お金の要求というのは,どういう言葉だったか覚えていますか。
答 売上げがあるやろうがとか,丁度そのころ隣の店の音がかなり騒々しくなってきて,はっきりは聞こえなかったんですが,売上げがどうのこうのとか,そういうふうな感じで聞こえました。
問 その売上げがどうのこうのということを言っていたのは,Aですか。
答 はい,Aと,外の2人も,初め暴力振るうときとか同じように,みんなで言ってたような気がします。
問 その中で,一番主になって言ってたのはだれですか。
答 Aだったと思います。」
というものであって,Kが,A以外の者が売上金要求をした旨供述を開始した経緯には,誘導尋問等によって供述が意図的に引き出された形跡は見受けられない(むしろ,上記供述がAの公判における証人尋問におけるものであることを考えると,尋問者は,Aが売上金を要求したことを引き出そうとしていたと思われる。)。
したがって,Kの捜査段階の供述状況は,上記のKの公判供述の信用性を減殺する事情と見ることはできない。
(3)被告人の犯行後の状況
 
さらに,被害者は,被告人が強盗の実行行為後,事務室内にあった円筒形の灰皿をつかんで被害者に投げつけ,カウンターから出る際にも,カウンターの内側のガラス戸棚を足で蹴り,店内のゲーム機を壊すなどした後,3人で店を出ていった旨供述しているところ,この供述内容は,実況見分調書(甲63)によって認められる事件後の店内の状況と合致している(後記認定事実〔第4の1(1)〕)。
このような被告人の犯行後の行動状況は,被告人がAの暴行により負傷した状態にあった被害者に対して売上金を要求したとする被告人の行動像とよく符合しており,被害者の供述の信用性を裏付けるものである。
(4)被害者の供述態度
 
加えて,被害者は,第2回公判期日において,「正直に言うと,4年前の話で,私の中では終わったことというか,もう過ぎたことですので,あと,直接の恨みとか怒りとかいうのですと,今回の被告人よりも,直接私を殴打したAの方に主に思いがありますので,今回のことに関しては,特に,まだ怒ってるとか,恨んでるとか,そういう感情は余りないです。」(第216項),「本人が反省していて,二度とこのようなことをしないというのでしたら,私はもう許してもいいと思っています。」(第218項)などと供述している。
このような供述内容に照らすと,現在では,被害者が被告人に対する処罰感情をそれほど強く有していないと思われるところであり,偽証罪に問われる危険をあえて犯してまで,被告人を陥れようとまでの動機をうかがうことはできない。
したがって,この点も被害者の供述の信用性を補強するものである。
(5)以上の検討に照らすと,前記1の被害者供述は十分信用できる。
3 被告人の弁解,B及びAの各公判供述の信用性
(1)これに対し,被告人は,捜査公判を通じ,一貫して,強盗の実行行為はしておらず,Aとの共謀もない旨弁解しており,他方,A及びBも公判廷でこれに沿う供述をするので検討する。
(2)この点,被告人,B及びAの各公判供述については,以下の事情を指摘できる。
ア まず,目撃者であるKが,被告人がゲーム機を壊していたことや売上金を要求する被告人と思われる声がしていた旨供述し,この点は,被告人の弁解,B及びAの供述と全くそぐわない。Kがゲーム喫茶の客に過ぎず,全くの第三者であることを考えると,上記のようなK供述との食い違いは,被告人らの供述の信用性を大きく減殺する事情と見るのが相当である。
イ また,被告人の弁解と,A及びBの供述とを相互に対比してみても,その供述内容は,Eに来店した経緯,第1暴行の状況,被告人がAの第1暴行を止めた際の態様,Aが事務室内に入ったときの状況等,本件事実経過のほぼ全般に渡って,矛盾点,相違点が認められる。
ウ さらに,BとAは,被告人と少年時代からの親しい間柄の兄弟分であり,被告人をかばう虚偽の供述をする動機が十分認められる。
(3)以上によれば,被告人,A及びBの供述はいずれも信用できない。
4 強盗の実行行為及び共謀の有無
 
そこで,前記1の被害者供述を前提に,強盗の実行行為及び共謀の有無について検討する。
(1)この点,被害者供述に係る事実経過によれば,被告人は,被害者が第1暴行により負傷し畏怖した状態にあること、その後Aが事務室内で売上金を要求していることを十分認識しながら,Aのすぐ後ろに立って,「店の売上金はどこにあるのか。」などと,被害者に売上金を要求していることが認められる。
(2)このような被告人の行動状況に照らして考えると,被告人の売上金の要求行為が強盗の実行行為に当たることは明らかであり,さらに,被告人とAは,互いの行為を十分認識しながらこの行動をしたもので,暗黙のうちに互いに意思を通じて,犯行を行ったというべきであって,強盗の現場共謀も十分認められる。 
(3)したがって,被告人について強盗の実行行為及び共謀の事実は十分認定できる。
第4 第2暴行と強盗致傷の成否
 
さらに前記公訴事実(第1の1)では,Aは売上金を受け取る前に特殊警棒で被害者を殴打し,その際,被害者に右前腕部挫傷の傷害が発生したというものである。
しかし,この点についても,当裁判所は,以下の理由により,Aが被害者を特殊警棒で殴ったのは,売上金を受け取った後であり,また,上記傷害の発生時期も不明なため,第2暴行の際に傷害が発生したと認定できないと判断した。
1 認定事実
 
この点に関する当裁判所の認定事実は,以下の通りである。
(1)第2暴行の状況
 
前記第3の強盗の犯行後,Aは事務室にあった特殊警棒を手にとって,「何かこれは。」などと言いながら,しゃがみ込んで両腕を頭の前に構えた姿勢にあった被害者を数回殴りつけた。
 
その後,被告人は,事務室内にあった円筒形の灰皿をつかんで被害者に投げつけ,カウンターから出る際にも,カウンターの内側のガラス戸棚を足で蹴り,店内のゲーム機を壊すなどした後,3人で店を出ていった。
(2)被害者の負傷状況
 
被害者は,救急車で救急病院に運ばれ,加療約2週間を要する左側頭部,頭頂部,後頭部,右下口唇部挫創及び右側頭部挫傷の傷害,並びに,加療約1週間の右前腕部挫傷の傷害との診断を受けた。
上記傷害のうち,頭頂部,後頭部等の挫創は,合計8か所の縫合を要するものであり,右側頭部及び右前腕部の挫傷は,腫脹がある程度の傷害であった。
2 第2暴行の時期
(1)認定事実に対し,Aは,公判廷において,被害者から売上金を奪うまでの状況に関し,「トイレから出てきたとき,店長に連絡を取るように言ったが,被害者が拒否したので,カウンターの流しの水屋に置いてあった警棒を手にとって暴行を加えた。被害者を事務室内に押し込む形になった。」などと,特殊警棒による殴打(第2暴行)の時期が売上金の強取の前であった旨供述をしている。
(2)しかしながら,Aの供述については,前記のとおり,全体的に信用性が乏しく,暴行態様に関する供述のみを信用することはできない。
また,被害者は,公判廷において,売上金を渡した後,事務室奥の壁面に接着した状態でしゃがみ込んだ状態で,Aから警棒で殴られた旨供述をしているところ,この供述内容は,事件後,同事務室奥の壁面に多量の血痕が付着していたという客観的状況と符合しており(実況見分調書〔甲63〕),信用性が高いというべきである。
そうすると,Aが警棒で被害者を殴打したのは,売上金強取の後であったと認定するのが相当であり,第2暴行が売上金強取に向けられた強盗の実行行為にはあたらない。
(3)なお,第2暴行における被告人及びAの状況については,被害者の供述によれば,Aが特殊警棒を手にとって,「何かこれは。」などと言いながら殴りつけ,その後被告人が事務室内にあった円筒形の灰皿をつかんで投げつけたというものである。そうすると,第2暴行は,被告人及びAが売上金を強取したが,被害者の態度に対する腹立ちがおさまりきれないでなしたものと見ることができるから,強盗とは別個の機会になされた暴行と解するのが相当である。
3 傷害の発生時期
 
なお,公訴事実では,右前腕部挫傷が第2暴行により生じたとされているので,右前腕部挫傷の発生時期についても検討しておく。
(1)被害者の公判供述
 
この点,被害者は,公判廷において,「Aは売上金を受け取った後に,事務室内のソファーの上にあった警棒を『何かこれは。』と言って右手に持って殴りつけてきた。その際,左手で体をかばっており,警棒で主に左手を殴られた。右腕の傷がどこでできたかはあまり記憶にない。警棒が当たった傷かもしれないが,灰皿が当たってできた可能性もある。」旨供述しており,その供述内容からは,傷害の発生時期は十分特定することはできない(なお,被害者は,第2回公判において,第2暴行の際に右前腕部挫傷の傷害が生じた旨供述しているが,これは検察官の誘導によるものであり,その後の第2回及び第10回公判の補充尋問において,再度確認すると,上記のように供述内容を訂正したものである。)。
(2)暴行を受けた際の状況
 
次いで,被害者の暴行を受けた際の状況を見るに,前記認定事実によれば,被害者は,第1暴行の際,しゃがみ込んで顔や頭付近にまで腕を上げて頭部を防御する姿勢にあった。これに対し,Aは,頭部付近へ多数回にわたり相当強度の暴行を加えており,その際,素手での殴打のほか,ガラス製灰皿,ガラスコップ等が凶器として使用されている。そして,右前腕部挫傷の傷害の程度は,腫脹が認められる程度のもので比較的軽度の傷害である。
このような被害者の体勢,Aの暴行態様,凶器として使用された物の性状及び傷害の程度等の事情から考えると,第1暴行の段階で,被害者が頭を庇って防御した右前腕付近にガラス製灰皿等が当たって腫脹ができた可能性も十分考えられる。したがって,右前腕部挫傷の傷害の発生した時期が,第2暴行の際であると断定することはできないというべきである。
(3)以上によれば,被害者の右前腕部挫傷の傷害の発生時期は不明と見るのが相当であって,第2暴行の際に発生した傷害と特定することはできない。
第5 結論
 
以上のとおりであって,被告人については判示事実の強盗罪を認定した。
(法令の適用)
罰条 刑法60条,236条1項
酌量減軽 刑法66条,71条,68条3号
未決勾留日数の算入 刑法21条
訴訟費用の負担 刑事訴訟法181条1項本文
(量刑事情)
 
本件は,暴力団組長である被告人が,親交のある暴力団構成員のAにおいて,対立する暴力団組織と関係のあるゲーム喫茶で,同店従業員である被害者に対し因縁を付け,ガラス製灰皿等で殴りつける暴行を加えた上,被害者から同店の売上金を強取しようとしたのに対し,被害者に対する恨みなどは何らないにもかかわらず,これに加勢して強盗の犯行に及んだものである。本件犯行動機は,暴力団特有の論理に基づく安易かつ無軌道なもので,酌量の余地はない。
 
また,その犯行態様は,被告人は,被害者がAの激しい暴行を受けて血まみれとなり,抵抗できない状態にあったのを十分認識しながら,自らも店の売上金を要求したという容赦のないものであって,悪質である。さらに,被害額が約100万円と多額であり,犯行結果も軽視できない。
 
以上の犯行状況に加え,被告人が平成6年ころから暴力団組員として活動する中で本件犯行に及んだことに鑑みると,被告人の反社会的性向は著しいと認められる。しかも,被告人は,捜査公判を通じ,不自然不合理な弁解に終始しており,真摯な反省の情がうかがわれない。
 
しかしながら,本件で主導的な立場にあったのはAであり、強取した売上金の全てをAが処分して,被告人は分配を受けていないこと,被害者の被告人に対する処罰感情が,現段階ではかなり薄まっているとうかがわれること,Aの所属する暴力団とゲーム喫茶の関係する暴力団との間で示談が成立しており,被告人もその際50万円を支払っていることなど,被告人にとって酌むべき事情も認められる。
 
そこで,以上の事情を総合考慮して,酌量減軽の上,主文のとおり判決した。 
(求刑 懲役7年)
平成14年6月11日
福岡地方裁判所第3刑事部
裁判長裁判官 陶山博生 裁判官 國井恒志 裁判官 岡崎忠之

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