恐喝福岡1

恐喝福岡1

福岡高等裁判所宮崎支部/平成14年(う)第55号

主文
原判決を破棄する。
被告人は無罪。

理由
第1 控訴の趣意等
 
本件控訴の趣意は,弁護人和久田修(主任)及び同岩井信連名作成の控訴趣意書(「控訴趣意書正誤表」による訂正後のもの)に記載されたとおりであり,これに対する答弁は,検察官樋口生治作成の答弁書に記載のとおりであるから,これらを引用する。
 
上記控訴の趣意は,理由不備ないし齟齬,訴訟手続の法令違反,事実誤認と多岐にわたるところ,原審において,専ら被告人がB女に対し,みかじめ料名下に金員を喝取しようとしたか否かが争われて原判決の判断が示され,控訴趣意もこれに最も力点が置かれている。
 
そこで以下,控訴趣意のその余の論旨に対する判断に先立ち,最も中心的な争点である事実誤認の点について検討を加えることとする。
 
控訴の趣意のうち,事実誤認をいう点は,要するに,被告人が,B女に対して,みかじめ料名下に金員を喝取しようと企てたり,畏怖させるに足りるような害悪の告知をしたこともないのに,原判決が証拠判断を誤り,その事実を認定する誤りを犯しており,これが判決に影響を及ぼすことが明らかである,というのである。
第2 事実誤認の論旨についての当裁判所の判断
 
以下,平成13年の月日については,適宜,元号の表示を省略する。
 
なお,被告人ないし証人の公判供述ないし証言については,その尋問が行われた原審又は当審の公判期日の回数を表示する。
1 公訴事実と原判決の認定
 
本件公訴事実は,被告人は,「暴力団五代目C組三代目D一家二代目E会会長であるが,B女(当時48年)が経営するスナック「F」に係るいわゆるみかじめ料名下に同女から金員を喝取しようと企て,平成13年3月28日午後8時20分ころ,宮崎県都城市a町b街区c号dビル1階の被告人が経営するスナック「G」において,被告人と同所に呼び寄せた上記E会幹部のHの間に同女を座らせた上,上記Hに向かって,「ママは店を閉めると言っている。そんなことされたら俺達の収入がなくなるやろうがコラーッ。ましてや怪我をさせたら俺達に協力してもらえんやろうが。」と怒鳴りつけ,更に同女に対し,「「F」はどうするんだ。フィリピン人を使っている店はみんな出している。」「相場は5万だけど,3万でいいだろう。」等と語気鋭く申し向けて金員の交付を要求し,この要求に応じなければ,同女の身体,上記「F」の営業等に危害を加えかねない気勢を示して脅迫し,同女から金員を喝取しようとしたが,同女が警察に届け出たため,その目的を遂げなかった。」というものである。
 
原判決は,本件公訴事実に沿って,「被告人が,B女に対して上記金員喝取を企て,上記日時場所において,B女が被告人と上記Hの間に座っている状態の下,Hに向かって,「ママは店を閉めると言うとるぞ。カタギをいじめたら,俺らは飯が食われんじゃないか。」と語気鋭く申し向け,更にB女に対し,「新しい店の方が(は)どうするのか。」,「外人を使っているのなら,宮崎の方では相場は5万だけど,都城では3万でいいんやないか。」等と申し向けて金員の交付を要求し,この要求に応じなければ,同女の身体,「F」の営業等に危害を加えかねない気勢を示して脅迫し,同女から金員を喝取しようとした」との事実を認定している。
2 事実経過
(1)関係証拠によると,以下の事実が認められる(記録から明らかな事実を含む。)。

 被告人は,昭和55年ころから宮崎県都城市を根城とする暴力団に所属して過ごし,平成12年10月,その組織を引き継ぎ,五代目C組三代目D一家二代目E会の会長となり,20名前後の配下(組員)を擁していた。
 
なお,都城市には,E会と同系統に所属する暴力団I組が存在した。
 
Hは,昭和63年ころから被告人の先代のJの舎弟となり,被告人がE会の会長になると,その舎弟として幹部の一人になった。
 
そして,平成12年12月以降,同市a町所在のeビル1階の,B女が経営していたスナック喫茶「K」に出入りするようになった。
 
B女は,その供述によると,昭和50年代の初めころに結婚して宮崎市に住み,子ももうけたが,二,三年で離婚し,その後,飲食店のホステスをした後,昭和54年ころから,都城市や宮崎市で喫茶店を営み,平成12年6月ころ,「K」を開店し,ゲーム機を置いて営業を始めた。
 
その間,平成8年ころ,Lと再婚したが,間もなく離婚し,「K」を開店したころは,再び同人と同居しており,同人が同店の店長(マスター)を務めていた。
「K」には,暴力団関係者が少なからず出入りしていた。
 
B女とHは,昭和53年ころ,B女がホステスをし,Hが都城市内の小料理店で板前をしていたころに知り合い,その後,約20年間,顔を合わせることがなかったが,平成12年12月,偶々,再会し,上記のように,Hが「K」に出入りするようになった。
 
Hは,やがて,B女に対して,自らがE会に所属し,会長である被告人の下で活動している旨のことを話すようになった。
 
しかし,当時,無職で,暴力団員としての決まった収入(しのぎ)もなく,経済的に余裕のない生活をしており,少なくとも,B女から,2回,金員を借用し,そのうちの5万円は返済できずに過ごした。
 
B女と被告人も,被告人が先代の上記Jが率いていたM会の若衆として活動していた当時に知り合い,B女が,二,三日間,被告人を運転手として雇い,小遣いを与えたりしたこともあったが,その後,約20年間,顔を合わせることがなく過ごしていた。
 
B女が「K」に置いていたゲーム機の中の,少なくとも2台は賃借したもので,1台は,知り合いのNの紹介を受けた者から,1台は,かつての暴力団関係者から借り受けたものであった。
 
Nの夫は,宮崎市内を根城とする暴力団N組(以下「N組」という。)の組長であった。
 
N組も,E会と同じ暴力団五代目C組三代目D一家に直属していた。
 
B女は,遅くとも,平成13年2月ころ,「K」を閉め,或いはLに譲って宮崎市内で同様の店を開くことを考え,Lと一緒に,Nや,N組の若頭代行のOの案内を得て,同市内で,それに適う店を探すなどしていた。
 
その一方で,3月1日に都城市内の別の場所にスナック「F」を開店すべく準備し,フィリピン女性数名を雇って,同月10日に同店を開き,その1人のPをママにして,同女にその営業を任せることになった。
 
Hは,その間に「K」に置かれたゲーム機に賃借しているものがあることを知ると,2月中旬ころから,B女に対して,同店のゲーム機を自分ないしE会から購入することを勧めるようになった。
 
E会では,組員がみかじめ料を得ようとするときは,予め,会長である被告人に報告することになっていた。
 
そして,Hは,被告人に対して,B女にゲーム機を購入させる積もりである旨や,同女が新しく開店する店(「F」)の面倒を見る積もりである旨の報告をしていた。
 
被告人とHは,2月26日,一緒に「K」へ赴き,被告人とB女は,再会して会話を交わし,被告人は,B女に対して,「F」の開店祝いの花輪を出してやる旨の発言をした。

 しかし,その後,被告人が上記花輪を実際に出すことはなく経過した。
 
B女は,やがて,Hに,同人が購入を勧めるゲーム機を見せるよう応答するようになり,Hは,被告人に,B女にゲーム機を購入するつもりがある旨の報告し,そのゲーム機の調達を頼んだ。
 
被告人は,E会の若頭のQにそのゲーム機の調達を指示し,その旨をHに伝えた。
 
ところが,翌3月20日前後ころ,Lが,B女に対し,「K」と同じビルでフィリピン人ホステスを雇ってスナック(「R」)を営んでいたSから,Hや被告人が「K」を食おう(食い物にしよう)とする話をしていたと聞かされた旨を耳に入れることになった。
 
B女は,Lの話を聞いて警戒感を強くし,Hに上記のゲーム機の購入を断るに至った。

 被告人は,そのころ,Hに,B女がゲーム機を購入するという話はどうなったのか質した。
 
Hは,以後,B女から上記のようにゲーム機の購入を断られながらも,同女に対してその購入を執拗に求めて迫り,同女が応じないと,E会の威勢を示しながら粗暴な言動に及び,同女から来訪を拒まれて「K」を閉店されても,押しかけてそのドアを叩くことなどをするようになった。
 
B女は,そのころ,Nに,Hの上記のような要求や言動に困っている旨訴え,対処法を相談した。
 
Nは,それを受けて,OにHへの対処を指示した。
 
Hは,3月28日(以下「当日」という。)午前3時ころ,「K」ヘ赴き,Sを同店に呼びつけ,B女の前で,自ら(H)や,被告人が,同店を食おうとしている話があるのかを質し,弁明するSを叱りつけるなどした。
 
また,自らと親交のあったスナック「T」のママUを呼びつけ,同女の前で,B女に対し,UがB女から聞いたとする,Hが「K」でテーブルを叩くなどして暴れた事実の有無を質した。
 
B女は,そのような事実がなかった旨を,Uも,B女からそのような話を聞いたことがなかった旨をそれぞれ述べてその場を取り繕った。
 
しかし,UがB女とHの仲を疑うような発言をしたことから,B女が腹を立ててHに退去を求め,2人は,口論となった末,掴み合いとなり,HがB女に,その左手指を捻る暴行を加えて,安静加療約50日を要する左小指中節骨骨折の傷害を負わせる(以下「本件負傷」という。)に至った。
 
B女は,その後間もない同日未明,市郡医師会病院で本件負傷に対する応急手当てを受けた後,午前8時過ぎころ,都城市内のf整形外科病院でV医師の診療を受け,その際,同医師に対して,本件負傷について,帰宅途上に,滑って怪我をした旨説明し,同医師から診断書の交付を受けた。
 
その間,同日午前8時3分ころ,Nに電話をかけて本件負傷を知らせて同女と会話を交わした(1分45秒間)。
 
そして,上記診療を受けて間もない同日午前9時40分ころ,Oに電話をかけて,21分余りの会話を交わし,その後の同日午前11時39分ころ,再び,Nに電話をかけて会話を交わした(32秒間)。
 
B女は,その後間もない同日午前11時52分ころ,「K」の店舗賃借の仲介業者であるW不動産に電話をかけ,社長の兄Wと本件負傷に関わる会話を交わし(6分間),その後の同日午後1時34分ころにも,Wに電話をかけて会話を交わし(3分51秒間),同人から被告人の携帯電話の番号を教わった。
 
Wは,被告人と交流があり,B女から最初の電話を受けて間もないころ,被告人に電話をかけ,HがB女に怪我をさせたことを知らせ,B女の電話番号を教えた。
 
被告人は,上記Wの電話を受けた後の同日午後零時30分ころ,Hに電話をかけ,B女を負傷させたことについて質し,Hは,そのいきさつを説明し,B女が先に掴みかかってきた旨の弁明をした(4分24秒間)。
 
B女は,上記Wとの2回目の電話を終えて間もない同日午後1時39分ころ,被告人に電話をかけ,応答が得られないと,その直後にNに電話をかけて会話を交わし(2分間余り),さらに,E会の事務所に電話をかけ,被告人への連絡を求めた。
 
被告人は,上記事務所からの連絡を受けて,同日午後1時47分ころ,B女に電話をかけ,2人は,16分間余りの会話を交わした。
 
その電話で,B女は,少なくとも,本件負傷に関わることを訴えてHの行動を非難し,その結果,B女と被告人は,同日夜に会うことにした。
 
なお,B女は,被告人との2人の会合を望んでHが加わることを嫌がり,その旨を被告人に伝えた。
 
B女は,その直後ころの同日午後2時4分ころ,Oに(1分33秒間),その後の同日午後2時48分ころ,W不動産に(46秒間),続いてNに(6分24秒間)それぞれ電話をかけた。
 
一方,被告人とHは,同日午後5時51分ころに被告人がHに(1分41秒間),午後6時ころにHが被告人に(56秒間),午後6時54分ころに被告人がHに(32秒間)それぞれ電話をかけて連絡を交わし,被告人は,Hに対し,午後8時に被告人が経営するスナック「G」でB女と会合する旨を伝え,同席するよう指示した。
 
B女と被告人は,そのころ,電話で連絡を交わし,被告人がHに伝えたとおり,同日午後8時に「G」で会合することにした。
 
B女は,上記約束の時刻ころ,「G」へ赴き,同店前で待機していた被告人の案内を受けて同店に入り,2人は,ボックス席のソファーに並んで,被告人がB女の右側に座り,話を交わした。
「G」は,当時,開店前で,その従業員が鍵を開け,その後間もなく,退出した。
 
その後,少なくとも,被告人は,B女に「K」用のゲーム機を買う積もりがないのか質し,B女は,そのゲーム機は要らないので買わない旨,Hの自らに対する上記のような所業に耐えられないので「K」を閉める旨答えた。
 
被告人は,B女からその応答を受けると,同女に対してそのゲーム機のことをそれ以上に質すことはしなかった。
 
被告人は,やがて,B女の前で,自らないし上記従業員を介してHに電話をかけて来訪を促し,B女は,それに特に抵抗を示さなかった。
 
その間,B女は,被告人に,I組の者から「K」のみかじめ料を要求された旨の話をし,被告人は,これを受けて関係者に電話をかけ,I組にそのようなことをやめさせるよう指示した。
 
また,被告人にOから電話がかかり,Oは,Nからの伝言として「K」に関するHの言動に対する善処を依頼し,被告人は,了承した旨応答した。
 
被告人とB女が会談を始めてから15分ないし20分位の後,Hが来訪し,上記ソファーのB女の左側に座った。
 
被告人は,Hに向かって,同人がB女に負傷させたことを厳しい口調で責め,Hは,頭を下げて被告人に謝った。
 
被告人は,また,Hに対して,B女が「K」を閉めると言っている旨申し向けて叱りつけた。
 
そして,その後,その場で,「F」のような外国人女性を雇っている店の1か月のみかじめ料の相場が5万円であるが,「F」については,3万円でよい旨の発言をした。
 
しかし,その場で,「F」に係るみかじめ料の金額や支払方法等が具体的に決められることはなく,被告人は,HとB女に対して,具体的なことは2人で話し合って決めればよい旨の発言をした。
 
その被告人の発言で,3人は,会合を終え,同日午後8時30分過ぎころ,「G」を出た。
 
B女とHは,その後,一緒に「F」へ赴き,20分前後,同店で過ごして別れたが,その間,B女は,Hにビール中瓶1本を振る舞い,2人は,上記のみかじめ料についての具体的な話を交わすことはなかった。
 
B女は,その後間もない午後8時56分ころ,被告人に電話をかけ,Hから借金の申込みを受けた旨を訴えた(59秒間)。
 
Hは,その後間もない午後8時59分ころ,被告人に電話をかけた(24秒間)後,被告人が経営する別のスナック「X」へ赴いて被告人と合流し,2人は,「F」に関して,B女からみかじめ料を貰うことを前提に,同店に額(絵)を入れることの話を交わしたが,上記のみかじめ料の金額についての会話は交わさなかった。
 
被告人は,そのころの同日午後9時4分ころ,B女に電話をかけた(31秒間)。
 
一方,B女は,Hと別れた後,同日午後10時9分ころ,Oに電話をかけて2分余りの会話を交わした。
 
また,その後,Lや,Nら周囲の関係者に対して,被告人から,本件負傷に対する15万円の治療費を受け取った旨の偽りの報告をし,Lには,その金員の中のものとして1万円を与えた。
 
そして,3月29日,「F」用の花輪を,被告人の妻が営む有限会社「Y」名で業者(Z社)に注文し,その代金1万円は,Hが支払った。
 
B女は,また,Hとは,3月29日から31日にかけて9回,そのうち,30日と31日には,15分間余りの電話を各1回し,Nには,同月30日に電話をかけて18分間余りの会話を交わしたのを含め,以後,翌4月17日にかけて20回の電話をかけ,Oにも,4月7日(2回),15日(1回),16日(2回)の電話をかけた。
 
B女は,その後,4月17日まで上記f整形外科病院に通院して本件負傷の診療を受け,その間の同月11日,診断書の交付を受けた。
 
そして,遅くとも同月17日に都城警察署へ相談に赴き,捜査官に対して,当日午前4時ころ,「K」において,Hから,自らが経営する店でフィリピン人を働かせていることを理由に,みかじめ料として3万円を要求されている旨訴えた。
 
B女は,同月19日,都城市内のg整形外科医院で診療を受け,本件負傷についての診断書の交付を受けた。
 
そして,同日,都城警察署へ赴き,上記診断書を含む3通を提出し,本件負傷についての被害届を提出し,同署の捜査官は,B女の本件負傷状況を写真撮影し,「K」店内において,B女を立ち会わせて実況見分を行い,B女は,本件負傷に至った経過を説明した。

 上記被害届の内容は,同署の捜査官がB女の説明を受けて記入したが,その被害模様欄には,B女がHから「K」と「F」の両店についてみかじめ料を要求されて脅された末,当日未明に「K」で暴行を受けて本件負傷をした旨記載されている。
 
B女は,さらに,2日後の同月21日,都城警察署へ赴き,Hと被告人から本件にかかる恐喝を受けた旨の被害届を提出した。
 
上記被害届の内容も,同署の捜査官がB女の説明を受けて記入し,その被害模様欄には,当日夜に「G」でHと被告人の2人から脅されて,「F」のみかじめ料を要求された旨記載されているが,その脅迫の具体的態様や,そのみかじめ料の額は記載されていない。
 
その後の5月19日,Hは,本件負傷及び本件のB女に対する恐喝未遂の公訴事実の犯行を被告人と共謀して行ったとする被疑事実により,被告人は,本件公訴事実の恐喝未遂の犯行をHと共謀のうえ行ったとする被疑事実により,ともに逮捕されるに至り,両名は,いずれも引き続き身柄を拘束され,6月8日,Hは,本件負傷にかかる公訴事実で,被告人は,前記の本件公訴事実で起訴されるに至った。
 
その間,当日以降,被告人らが逮捕されるまでの間に,被告人ないしHがB女に対して「F」のみかじめ料の支払を求めることはなかった。
 
一方,B女は,捜査官に対し,本件負傷の被害届を出した経過について,上記f整形外科病院から,本件負傷の治療費を賄う保険金額が,自ら転んで負傷した場合と他から傷害された場合で異なる旨を説明され,警察署への被害申告を勧められたからである旨,本件にかかる恐喝未遂の被害届を出した経過については,捜査官から本件負傷にかかる事情を聞かれるうち,被告人からみかじめ料を要求されたことを話すことになった旨の供述をしていた。
 
そして,〔1〕当日夜に「G」で被告人と会合するに至った経緯について,被告人から,当日午後7時ころに,突然に電話を受けて一方的に呼び出された旨や,〔2〕「G」で,被告人から本件負傷の治療費として茶封筒に入れた15万円を渡され,その後にこれを返した旨の偽りを述べ,〔1〕の偽りの供述は,被告人とHが逮捕された日以後に訂正したが,〔2〕の偽りの供述は,その後も維持し,被告人らが起訴される前日の6月7日,検察官に対して,上記の被告人から金員を受領した事実がないことを打ち明けながらも,なお,被告人から,茶封筒を渡され,「俺から慰謝料を貰ったことにしろ。俺が慰謝料を出したとHに言えば,Hも「K」に行かんやろ。」と言われた旨の新たな偽りの事実を述べた。
 
しかも,その間,上記被害届を出して間もない4月24日ころに被告人に電話をかけて23分間の会話を交わし,上記の自らの捜査官に対する供述内容を伝え,被告人に対して,捜査官にそれに符合した供述をするよう求め,しかし,断られていた。
 
なお,B女は,その供述によると,捜査官からの勧めを受けて,5月3日ころから6月11日ころにかけてh整形外科病院に入院したが,その間,外出してNと会ったり,同女の夫のN組組長も交えて食事を共にしたこともあった。
 
また,当日後,少なくとも4月中は「K」の営業を続け,平成14年10月の秋ころに宮崎市内でスナック喫茶「α」を開店し,「K」と同様,ゲーム機を置いて営業を始め,Nの息子を同店の従業員に雇い入れた。
 
そして,上記各被害届に係る捜査が開始された後に,H及び被告人の両名に対して本件負傷に基づく治療費や休業補償の賠償金として,少なくとも270万円を求めるに至った。
 
関係証拠によると,以上の事実が認められる。
(2)なお,上記認定の事実経過に反するB女及び被告人の供述が存するところ、これらは,いずれも,その後,自らその内容を訂正したり,それまで述べていなかったことを唐突に付加するなどしたもので,客観的な事実経過や他の関係者の証言ないし供述に照らしてもこれを措信できないものであるが,後記のとおり,その供述者の供述全体の信用性を判断するうえで参考となるので,摘示しておくことにする。
ア B女は,当審公判(3)において,最初に警察に相談に行くまで,Hが暴力団員であることさえも定かには知らなかった旨証言している。 
 
しかしながら,上記証言は,上記認定の事実経過,殊に,Hと被告人が2月26日に一緒に「K」を訪ねてB女に会った事実や,B女が当日以前からHが被告人の配下であることを知っていた旨のB女自身及びHの捜査段階及び原審公判における供述,当審公判(8)におけるB女の,Hが同女にゲーム機の購入を迫った際にも被告人の名前を使っていた旨の証言や,被告人の捜査段階及び公判における供述等に照らして,到底措信し得ない。
イ B女は,原審公判(3)において,被告人が,2月26日に「K」を訪ねた際に,B女に対し,同店でのゲーム機の購入について,「Hから聞いて知っているけど,安くていいから。」と言った旨証言し,捜査官に対しても,被告人がその際に「ゲーム機のことはHに任せてあるので,Hと話し合って値段など決めてくれ。」と言った旨述べている。
 
しかしながら,B女は,この点について,最終的には,当審公判(8)において,被告人が上記のような発言をしたことはなかった旨述べ,捜査官に対して,これに沿った供述もしており,これらの供述に沿う,Hの原審公判における証言及び被告人の捜査段階からの一貫した供述等に照らしても,上記のB女の原審公判における証言は措信し得ない。
ウ B女は,捜査段階において,当日前にHから「F」のみかじめ料も要求されていた旨供述し,Hも,捜査官に対して,これに沿った供述をしている。
 
しかしながら,上記のB女とHの各供述は,いずれも,その具体的な経過や内容が曖昧なものであるところ,B女は,最終的には,当審公判(8)において,当日以前のHからの要求は,専ら「K」に関する話で,「F」に係るみかじめ料を要求されたことはなかった旨証言し,Hも,その点については,後記3(2)のように,原審公判において,そのみかじめ料については,B女が「F」を開店したころ,同女から同店のみかじめ料の相場を尋ねられて応答したのみである旨証言しており,また,捜査段階でも同様の供述もしており,これらの供述や,前記認定のその前後の事実経過等にも照らすと,上記のB女とHの供述のように,Hが当日以前からB女に明確な形で「F」のみかじめ料を要求していた事実は認められず,その事実があったとする上記各供述は措信し得ない。
エ B女は,原審公判(5,7)において,当日夜,「G」で被告人と会談中にHが突然来訪したので驚いた旨証言している。
 
しかしながら,その点については,B女は,原審(6)及び当審公判(8)において,「G」で,被告人が,自らないし従業員を介して,Hに電話をかけて来訪を促した旨証言して,自ら上記証言を訂正しており,これに沿う,被告人及びHの捜査段階及び公判における一貫した供述に照らすと,上記のB女の原審における,Hが突然来訪した旨の証言は,到底措信し得ない。
オ B女は,原審公判(3)において,当日夜,「G」で被告人に対して「K」を閉める旨応答したのは,自分が被告人に「K」用のゲーム機を買う積もりはなく,リ-スで賄う旨応答すると,被告人から「Hから聞いていると思うけど,都城でゲームするんだったら,1台につき1万ずつ払ってもらう。」とみかじめ料を要求されたからである旨証言している。
 
しかしながら,被告人は,捜査段階から一貫して,そのような経過はなかった旨の供述をしており,B女自身も,捜査段階でも,当審公判でもそのような経緯があったことには一切触れておらず,前記認定のその前後の経過等に照らしても,上記のB女の原審証言は措信し得ない。
カ 被告人は,原審(11)及び当審公判(4)において,上記「G」での会合で,Hが現れる前に,B女との間で「F」の営業のことや,同店のみかじめ料に関する会話をしていた旨述べている。
 
しかしながら,B女と被告人のいずれも,捜査段階では,Hが上記会合に加わる前にそのような会話はなされなかった旨の供述をしており,その点について,B女の供述内容は,公判に至っても変わるところがないところ,被告人自身も,最終的には,当審公判(7,9)において,上記の,Hが現れる前にB女と「F」に関する会話をした旨の公判供述が自らの記憶違いによるものであった旨を述べるに至っており,これらの供述に照らすと,上記の原審(11)及び当審公判(4)における被告人の供述は措信し得ないものというほかない。
キ B女は,当審公判(8)において,被告人が,前記の「F」のような店のみかじめ料の相場が5万円であるが,同店については3万円でいい旨の発言したのに続けて,自分(B女)に対し,本件負傷個所を指さしながら「こういう風にならないように俺達に面倒をみさせた方がいい。」と言い,Hも,「3万円位だったら,ママ払えるだろう,」などと発言した旨証言している。
 
しかしながら,Hがその場でB女に対してそのような発言をしたことについては,B女の上記証言がなされる前には,H,被告人のいずれも,またB女自身も,捜査段階及び公判において,全く言及しておらず,上記のB女の当審における証言は,唐突に過ぎ,到底措信し得ない。
ク B女は,原審公判(5,7)において,上記の被告人の「F」のみかじめ料は3万円でいい旨の発言に対して,「はい,分かりました。」と答えた旨証言している。
 
しかしながら,被告人は,捜査段階においても,原審及び当審公判においても,一貫して,被告人が上記のみかじめ料の額を口にすると,Hが被告人に対して,すでに,B女との間でそのみかじめ料を一,二万円にすることを話している旨の発言をし,被告人がこれを受けて,それならば,そのみかじめ料については2人で決めれば良い旨答えてその話を切り上げた旨,それに対して,B女が返答しなかった旨述べ,Hも,捜査段階及び原審公判においてこれに沿う供述をしているところ,B女自身も,捜査段階では両名に沿った供述をして,「G」で被告人に上記みかじめ料の支払を了承する返答をした旨の供述はしておらず,最終的には,当審公判(8)において,被告人の上記発言に対して「少し考えさせて貰います。」と答えて,上記みかじめ料の額は,その場では決まらなかった旨の証言をするに至っており,これらの供述や,前記認定のその後の事実経過等に照らすと,上記B女の,「F」のみかじめ料の支払やその額がその場で決まった旨の証言は措信し得ない。
ケ B女は,当審公判(8)において,被告人が,「G」で,最後に,Hに対して,「F」のみかじめ料を月末に集金に行けと言った旨証言している。
 
しかしながら,被告人がその場でHに対してそのような発言をしたことについては,B女の上記証言がなされる前には,H,被告人,B女のいずれも,捜査段階及び公判において,全く言及しておらず,これらの供述等に照らすと,上記B女の当審における証言は,唐突に過ぎ,到底措信し得ない。
コ B女は,当日後に「F」用に注文した花輪の名義人が「Y」となったことについて,原審公判(6)では,Hから頼まれてその花輪を注文すると,「Y」名義になっていた旨証言するが,同証言は,B女自身の当審公判(8)における,花輪の名義人を被告人の組の名前にすると困るので,被告人が営む会社名にさせて貰った旨の証言等に照らして措信し得ない。
3 被告人とB女の当日のやり取りをめぐる関係者の供述
(1)B女の供述
 
B女は,原審公判(3,5ないし7)において,以下のように証言している。
 
当日正午ころ,W不動産に電話をかけ,Wに「K」の手伝い人の紹介を求め,その際,Hから暴行を受けたことも話した。
 
そして,Wから,その被害のことで警察に行くのか質され,考慮中である旨答えると,折り返し電話をするので待っていて欲しい旨言われ,その後,Wから電話があり,警察に行くのはやめた方が良い旨,会長(被告人)に電話するようになどと言われて,被告人の電話番号を知らされ,被告人に電話をかけさせるとも言われ,自分(B女)の電話番号も尋ねられてこれをWに教えた。
 
その後,被告人から受けた電話で,被告人に対して,Hに店への出入りを断ったことから指を折られることになった旨を訴えて声を詰まらせると,被告人は,「今,声が詰まったね。声が詰まるということは,意するものなんかがあるね。」と言い,今夜会いたいので,夜電話すると言った。
 
午後7時ころ,被告人から電話があり,「G」に来るように言われた。
 
自分は,Hを「K」に来させないようにするために被告人に会って頼もうと考えて行くことにした。
「G」では,被告人からは,本件負傷についての話はなく,「今回のことは大体Hから聞いているけど,どうしてゲーム機は要らないのか。」と質された。
 
いきなりゲーム機のことを話題にされたことから,むっとして黙っていると,被告人は,さらに,「じゃ,ゲーム機を買わなかったら,どうするんだ。」と質してきた。
 
自分は,「K」は閉める旨答え,被告人が「じゃ,ゲーム喫茶はしないのか。」と尋ねるので,「都城ではしません。」と答え,被告人が,何処でするのか尋ねるので,「宮崎でします。」と答えた。
 
被告人は,「K」を閉めるなら,それでいいと言った。
 
その後,Hが「遅れてすみません。」と言って「G」に入って来て,自分の左横に座った。
 
被告人は,Hに対し,激しい口調で,「こういう怪我をさせると,俺達の仕事が巧くいかないじゃないか。」と叱りつけ,Hは,頭を下げて被告人に謝った。
 
被告人は,続いて,Hに対し,普通の口調で,「もう,ママが「K」は閉めると言っているから,「K」の方はもういいじゃないか。」と言い,自分に対し,「今度はスナック(「F」)の件なんだけど,そちらの方は誰かに面倒を見て貰っているか。」と尋ねてきた。
「いいえ。」と答えると,被告人は,「ほかのところからみて貰うんだったら,何かあったときにすぐ来れないだろうから,Hに面倒みて貰ってくれ。」,「通常,フィリピン人とか外国人を雇えば,皆納めている。」と言い,「通常,これ位だけど。」と言って指5本を示し,「ママは知らない人間じゃないから,3万でいい。」と言って指3本を示して「F」のみかじめ料を,月額を示して要求した。
 
被告人は,「じゃ,あとは,Hとどのようにするか話し合ってくれ。」と言い,Hに向かって「花輪でも出しておけ。」と言った。
 
その後,Hから,「F」を見たことがないので,連れて行って欲しいと言われ,同人を連れて「F」へ赴いた。
 
本件負傷の被害届が遅れたのは,Uから止めるように頼まれたからである。
 
しかし,当日から2週間後にf整形外科病院でレントゲン撮影を受けた折,V医師から,本件負傷について,治療費が高くなるので,警察へ行って本当のことを話すように促されたことから,都城警察署へ相談に赴き,Hから暴行を受けたことを話すことになった。
 
その翌日,自宅に刑事が来て,更に詳しい説明を求められ,2日後に再び同署へ赴いて事情聴取を受けるうち,自分が捜査官に,外国人を雇う店はみかじめ料を支払っているのか質問したことから,当日夜に被告人からそのみかじめ料を要求された旨を話すことになり,捜査官から,その被害届を出すように言われて,これに応ずることになった。
 
B女は,原審公判において,以上のように述べ,当審公判(3,5,7,8)においても,概ねこれに沿った証言をし,さらに,以下のように述べている。
 
当日,病院で診療を受けた後のNとの電話で,同女から,被告人に電話をかけて,謝罪させるように言われた。
 
その後,Wに電話をかけた結果,被告人の携帯電話の番号を教えられて,被告人に電話をかけることになった。
 
その後,Nに電話をかけてE会の事務所の電話番号を教わり,同事務所に電話をかけた。
 
被告人から受けた最初の約16分間の電話で,自分は,Hに怪我をさせられたことを訴え,被告人からは,大体のことはHから聞いて知っている旨,詳しいことを聞きたいので会って欲しい旨のことを言われた。
 
その後,W,N,Lらに電話をかけて,被告人との電話の内容を報告した。
 
その後,被告人から再び電話を受けて「G」へ赴くことになった。
 
被告人から電話を受けた際は,いずれも,Lが傍らにいて,その電話の内容を把握しており,同人から「G」への同行の申し出を受けたが,断った。
「G」へ赴いたのは,Hを来させないようにするためと,被告人がそれまでに同人に指示を与えていたのかを確かめたかったからである。
「G」では,被告人が本件負傷について話さずにゲーム機の話を始めたので,自分は,「怪我をさせたから謝りたいと言って呼び出したんじゃありませんか。」と言った。
 
しかし,被告人は,「それはもういいから。」と遮った。
 
その後,Hが現れるまでに,「F」や,自分が宮崎に店を出すことに関する話は交わされなかった。
 
Hが現れてから,被告人から「F」のみかじめ料を要求されたが,具体的に決まらず,被告人は,Hに対し,後は自分(B女)と話をするように言った。
 
その被告人の発言は,Hに対して,ママ(B女)がみかじめ料を出してくれるよう説得し,その金額を自分(H)で決めろと指示した趣旨のものだった。
 
4月11日に診断書の交付を受けたのは,自分が入っていた任意保険の保険金を請求するためにしたことである。
 
本件負傷についてのHに対する被害届を出すことが遅れたのは,Uのほかに,Nからも止めるように言われていたからであり,出したのは,4月12日に,医師から,国民健康保険の適用が違うので,警察署へ届け出るように勧められて警察署へ相談に赴くことになったからである。
 
本件のみかじめ料を要求されたことについては,Hにも怒りを覚えており,同人が被告人と一緒に起訴されなかったのは不思議である。
(2)Hの供述
 
Hは,捜査官に対して以下のように述べている。
 
当日昼,目を覚ましたころ,被告人から電話がかかり,「夕べ,何かあったんか。」と聞かれた。
 
当時,寝ぼけていたので,良く覚えていないが,B女の手を捻ったことを聞かれているものと思い,簡単な報告をした。
 
夕方6時ころ,被告人から再び電話があり,B女が骨折をしているが,どうしてそんなことをしたのか尋ねてきた。
 
自分は,B女の方から向かってきたので,そのようなことになってしまった旨の説明をした。
 
被告人は,「明日でも段取りつけるから,「K」のママと会って話してみるか。」と言った。
 
その後,また,被告人から電話があり,「こういう話は早い方がいいから,8時ころ待ち合わせをするから,お前も来いよ。「G」で。」と言った。
 
午後8時15分ないし20分ころに「G」へ赴くと,被告人から「そこに座れ。」と言われ,B女の隣に座った。
 
被告人は,自分(H)に対し,「お前,飲んじょったやろ。ママ,怪我したと言うとるぞ。」と言った。
 
自分は,B女に対し,「あんたがせんけりゃ,俺もせんかったね。」と言った。
 
しかし,被告人は,自分に対し,「ママは店を閉めると言うとるぞ。堅気をいじめたら,俺らは,飯が食われんじゃないか。」と叱りつけてきた。
 
自分は,言い返すことはできず,黙って頭を下げた。
 
被告人は,その後,B女に対して新しい店についてどうするのか質した。また,その後,自分に対して「外人を使っているのなら,宮崎の方では相場は5万だけど,都城では3万でいいんやないか。」と言った。
 
自分は,被告人が,B女に「F」のみかじめ料として3万円を要求しているものと思い,その件については,自分が,B女との間で話をつけるべきことであるのに,しくじって,同女に怪我までさせてしまうことになり,それを被告人が纏めてくれようとしているものと分かり,被告人の手を煩わせたことを申し訳なく思った。
 
そこで,被告人に対し,「俺は,1万,2万でいいとママに言うちょったですよ。」と,B女にそのみかじめ料を払うことを促す言い方で答えた。
 
B女は,下を向いており,何も答えなかった。
 
自分が上記のように言うと,被告人は,自分(H)に対し,「後は2人で話せばいいわ。知らん仲じゃないんだから。」と言って立ち上がった。
 
被告人と分かれた後,B女と2人で「F」へ行ったが,同店では,同女に指を折ったことを謝り,B女からビールを勧められて中瓶1本を飲んだだけで,20分から25分位で店を出て同女と別れた。
 
その後,「X」へ行き,そこにいた被告人に「来月から面倒をみるということで話はつきました。」と報告し,「いろいろ面倒をかけました。」と礼を言った。
 
被告人は,「額(絵)か何かリースする形にすればいいんじゃないか。」とアドバイスしてくれた。
 
自分は,「分かりました。」と答えたが,その後,その額を「F」へ持って行くことはしなかった。
 
Hは,捜査官に対し,以上のように述べている。
 
そして,原審公判(7,8)においては,以下のように述べている。
 
3月初旬ころ,B女から「F」を開店し,フィリピン人女性を雇い,その1人の,邦人と結婚している女性をママにする旨の話を聞いた。
 
そして,そのころ,B女から「池ちゃん,店をするから,5万円も落とせば良かっちゃろう。」と言われたので,自分は,「その話を私にくれるんやったら,1万か2万のことやわ。」と答えた。
 
しかし,その後,B女とは,そのみかじめ料のことについて,それ以上に具体的な話をしたことはなかった。
 
その後,被告人にも,B女が新しい店を始めるらしいと話した。
 
当日午後8時ころ,「G」へ,B女に謝罪する積もりで赴き,被告人から促されてB女の脇に座った。
 
その後,被告人から「堅気をいじめたら,俺達も,飯が食われんが。ママが店を閉めると言うとるが。」と,怒った様な態度で言われた。
 
自分は,「すみません。」と謝った。
 
しかし,自分は,B女からは,その前から,同女が「K」をやめてLに譲り,自らは宮崎市に店を出す話を聞いていた。
 
被告人は,B女に対し,「そう言えば,ママは,新しい店を始めるらしいね。」と尋ねた。
 
B女は,宮崎の店は宮崎の方で頼むので,都城の方(「F」)をよろしく頼む旨答えた。
 
被告人は,自分(H)に対し,「宮崎は5万だが,都城は3万だ。のう,H。」と言った。
 
自分は,「兄貴,正直言って,1万か2万て言うてますから。」と答えた。
 
B女は,何も言わなかった。
 
被告人は,「もう,そこまで決めとるなら,お前達は知らん仲じゃないから,2人で話をすればいいわ。」と言った。
 
その後,B女と2人で「F」へ赴いたが,同店で,B女とは,ビールの中瓶を2人で飲み,自分が本件負傷の様子を聞き,その傷を早く治すように申し向けたり,「F」の開店祝いの花輪の話をしただけで,「F」のみかじめ料のことは話題にならなかった。
 
B女と別れた後,被告人と会ったが,上記みかじめ料のことについては,何も報告せず,被告人は,「F」のみかじめ料を1万円とすることを前提にして,同店に額(絵)をリースすることの話をした。
 
被告人と,B女からみかじめ料を取ることを共謀したことはない。
(3)被告人の供述
 
被告人は,捜査官に対して以下のように述べている。
 
Hと一緒に「K」へ行く前に,Hから,面倒をみてくれという店がある旨,そのママが自分(被告人)が20歳のころに,自分を運転手として使ったことがあったことから知っていると言っている旨,その「K」といういう店のママが,ゲーム機をリースで面倒をみて欲しいと言っていたが,結局,買取りの方がいいと言っている旨,今使っているゲーム機にN組が関係している様子である旨のことを聞かされていた。
 
自分は,Hの話を受けて,Qに,そのゲーム機の調達を指示した。
 
その後,Hに,そのゲーム機のことについて質すと,Hは,B女が一緒に暮らしている男に未だそのことを話していないと言っている旨答えた。そのころ,Hと一緒に「K」へ行き,そのママがB女であることを知り,同女と30分位話をした。
 
当日昼ころ,Wから電話を受け,HがB女と揉めて怪我をさせた旨や,自分(被告人)と連絡を取りたがっている旨を知らされた。
 
そこで,WからB女の電話番号を聞き,Wに自分の携帯電話番号も教え,B女に伝えるよう頼んだ。
 
当日午後,最初にB女と交わした電話で,B女は,やや興奮した感じで,Hが同女に急に掴みかかってきて怪我をさせられた旨,これまでも,同人から喧しく言われたり,金を借りに来られたりしており,こんなことをされたら,店も閉めなければならなくなる旨のことを訴えた。
 
自分は,B女に,Hが同女にそのような暴行に及んだ経過を尋ねたが,同女は,Hから一方的に暴行を加えられたと主張して譲らなかった。
 
自分は,「Hとも一緒に話をせんと分からん。」と答えた。
 
B女は,Hとは会いたくないと言い,「Hさんは,会長の指示で来たと言っていましたが,そんな指示したのですか。」と尋ねてきた。
 
自分は,「そんなことは言わんやろ。」,「ゲーム機のことは聞いた。」と答え,「ゲーム機は要らんのやね。」と尋ねた。
 
B女は,「店は閉めますから,ゲーム機は要りません。こんな怪我をさせられたら店はやれませんから。Nさんにも連絡しましたから,こっちに上がってきますよ。」と高飛車な言い方をした。
 
自分は,後に引けない気持ちになり,「Nと喧嘩させる積もりか。2人の話やろ。Nには関係ないやろ。」と少し声を上げて応答した。
 
しかし,B女は,病院で本件負傷の原因を自ら転倒したものと説明したが,医師に不審を抱かれ,事情を説明すると,警察に届けるように言われた旨のことを言い出した。
 
自分は,「Hも,何かがなければ,そんなことはせんやろ。」などと言い,B女は,「いいや,掴みかかってきた。」と言って譲らなかった。
 
自分は,Hも交えて話し合うことを提案したが,B女は,Hとは会いたくないと答え,自分(被告人)と2人だけで会うことを求めた。
 
そして,その夜,同女と会うことになった。
 
その電話の感じでは,B女は,Hの言動を,自分(被告人)がHに指示して,同女にみかじめ料や,ゲーム機の購入を要求しているものと受け止め,今回,Hから怪我をさせられたのを機に,自分(被告人)に対して,Hを「K」に来させないようにさせることを考えている様子だった。
 
その後,Hに電話し,B女に怪我をさせたことについて質すと,Hが「向こうが掴みかかってきたんですわ。」などと説明した。
 
自分は,Hに,B女との会合に同席するよう指示した。
 
その夜,「G」にB女を迎えて会談した。
自分は,先ず,B女に怪我の様子を尋ね,B女は,Hに指を折られたと言って,包帯を巻いた左手を見せた。
 
そして,「こんな怪我をさせられたら,店を閉めるしかありません。酔っ払って来られて,喧しく言われて,今度は怪我をさせられました。」と,Hのことを昼の電話と同じ口調で訴えた。
 
自分は,「ママが掴みかかってきたとHは言いよるよ。」とHの言い分を伝えた。
 
しかし,B女は,なおも,Hが一方的に掴みかかってきたと言って譲らなかった。
 
そして,「もう,こんなこつされては店はやれません。閉めないかんようになります。」と言った。
 
そこで,自分は,「ゲーム機はどんげすっとかね。店を閉めるんやったら,ゲーム機は要らんね。」と質した。
 
B女は,「「K」は閉めますから、ゲーム機は要りません。」と答えた。
 
そして,「会長(被告人)は私を食う(食い物にする)積もりだったのですか。」と尋ね,自分が否定すると,「HがB女を食おうと言っていた。」と話している人がいると言った。 
 
自分は,「俺は,Hにゲーム機のことを言うたんや。」と弁明した。
 
B女は,なおも,「Hさんは,会長の指示で来たと言っていました。指示したんですか。」と尋ねた。
 
しかし,自分が同女に「ゲーム機はママの方から頼んだとやろ。」と質すと,黙って答えなかった。
 
B女は,また,「病院でも,警察に行った方がいいんじゃないかと言われたんやけど,Hさんのことは前から知っているし,もうこんなことがなかったら警察には言いません。」とも言った。
 
自分は,「そんなことはさせんが。」と答えた。
 
そのころ,Hが入ってきた。
 
自分は,Hに対し,「H,骨が折れちょるやないか。店も閉めると言うちょるぞ。俺達は堅気さんから飯を食わしてもろちょるんやぞ。」と叱りつけた。
 
Hは,自分(被告人)に対しては恐縮している様子であったが,B女に対し,「あんたが掴みかかってきたからやがな。」と言い訳をした。
 
しかし,B女からHが悪かったように食ってかかられると,Hは,一応,同女に謝った。
 
自分は,Hに「お前,何か,他人に,ママを食おうと言うたんか。」と質した。
 
Hは,慌てて否定し,そのような噂話をした本人(S)を呼び出して叱った旨弁明した。
 
自分は,さらに,Hに,B女に対するゲーム機の購入やみかじめ料の要求について「俺の指示で行ったと言うとるんか。」と質した。
 
Hは,「いや,そんなことは言わんですわ。」と否定した。
 
自分は,さらに,Hに「お前,ママは店を閉めると言うとるやないか。」と言った。
 
すると,Hは,B女に対し,「あんた,「K」を閉めて「F」をすると言うちょったがね。」と質した。
 
自分は,少し憤りを感じ,B女に対し,「はぁ,あんた,話が違うやないか。店を閉めるというのは,最初から閉める積もりやったんね。」と質した。
 
B女は,憮然として何も答えなかった。
 
そこで,自分は,再び,B女に「「K」をどうするんね。」と質した。
 
すると,B女は,「「K」は閉めますから,ゲーム機は要りません。「K」は閉めて,ゲームの店は宮崎の人と共同で経営しますから,そっちでみてもらいます。私は宮崎の店の方に行きますから,都城はお願いします。」と言った。
 
自分は,「都城の店は,どんな店な。」と尋ねた。
 
B女は,「フィリピン人のオカマを入れます。」と説明した。
 
そこで,自分は,Hに向かって「フィリピン人を入れると,普通5万位かも知らんけど,都城やから,3万位でいいやないか,H。」と言った。すると,Hは,B女に向かって「俺は,一,二万でもいいと言っちょとやないね。」と言った。
 
そこで,自分は,後はHとB女に任せようと思い,Hに対し,「そんなんやったら,2人で話せばいいやないか。その代わり,H,ママの所に酔っ払って行ったり,金を借りに行ったりしてはいかんし,病院代もちゃんとしとけよ。」と言い,2人と別れた。
 
その後,1時間位して,「X」にHが来て,「B女が来月から面倒をみてくれということでした。やっぱり,ゲーム機も1台欲しいと言っています。」と報告した。
 
被告人は,捜査官に対して以上のように述べ,原審公判(11)でも,概ね,これに沿った供述をし,さらに,以下のように述べている。
 
Hと一緒に「K」へ赴く前に,同人から,B女について,「K」という店のママから,新しい店を始めるので,面倒をみて欲しいと言われている旨,ゲーム機を買いたいと言っている旨の話を聞いていた。
 
「K」でB女と再会した折は,同女と昔話をしたり,同女からNやN組と親しい旨の話を聞いたりした。
 
当日,Wからの電話でも,N組のことが出た。
 
自分は,WにHとB女の間に入って仲裁してくれるように頼んだ。
 
その後にB女と16分間余り交わした電話で,同女が自分(被告人)との会合を求めた。
 
自分は,同女と交わした電話で,B女が眠っていないことを言うので,その会合を明日にしても良いのではないかと申し向けたが,同女は,「今日,会いたい。」と言った。
 
自分も,同女とHを仲直りさせたいものと思っていた。
「G」でB女と落ち合うと,先ず,本件負傷のことが話題になり,自分は,謝った。
 
B女は,当初,気持ちが高ぶっている様子で,自分(被告人)に対して食ってかかるように文句を言い,同女を食い物にしようとしているのか質し,自分は,それを否定した。

 そして,同女から,「K」をやめる積もりで,ゲーム機は要らない旨のことを言われた。
 
Hが現れてから,「F」に関する話になり,自分がHに対して,同店のみかじめ料について,「3万位でいいやろ。」と発言することになった。
 
Hは,すでに,B女に対して,そのみかじめ料について一,二万円の話をしている旨の発言をした。
 
自分は,それを聞き,そのみかじめ料のことはHとB女の2人で決めることができるものと思った。
 
結局,その件については,自分が出る幕ではなかった。
 
当日,B女と別れて30分足らずの後の午後8時59分ころ,B女から電話があり,当日の会合の礼を言われた上で,Hから借金を申し込まれた旨を告げられた。
 
当日,B女と会談中とその後に,Oと2回電話を交わし,同人からも礼を言われた。
「G」では,B女が自分(被告人)達を怖がっている様子はなかった。
 
被告人は,原審において,以上のように述べ,当審(1,4,6,7,9)においても,概ね,それまでに沿った供述をし,さらに,以下のように述べている。
「K」へHと一緒に赴く前から,Hから,ママ(B女)が自分(被告人)に会いたがっている旨聞かされていた。
「K」へHと一緒に行った時,B女に対し「店をオープンするんやったら,花輪か何か出してやらないかんな。」と言うと,同女は,外に出す花がいいと答えた。
 
Hからは,その後,B女から新しく出す店(「F」)のみかじめ料について,5万位出せばいいのか尋ねられ,やってみなければ分からないと答えた旨の話を聞いたことがあった。
 
Hに対して,同人から調達を頼まれたゲーム機について,その後のことを質すと,同人は,B女が一緒にいる男に未だ話していない旨のことを言った。
 
当日,Wからの電話で,B女が,本件負傷をしたことから,N組に助力を求めた旨,医師に本当のことを話し,警察に届けるように言われたと言っている旨,自分(被告人)に連絡を求めている旨のことを言われた。
 
その後にB女と交わした最初の電話でも,同女から,N組に頼んだ旨や,医師にも本当のことを話し,その医師から警察へ行くよう勧められた旨のことを言われた。
 
そして,その後にB女にかけた電話で,同女から会談を求められて会うことになった。

 同女は,Hとのことを訴えたかったものと思う。
 
自分も同女と会って,Hと同女を仲直りさせた方が良いと思った。
 
夕方,B女から受けた電話で,同女が前の電話で寝不足を訴えていたので,会合を明日にした方が良いのではないかと勧めたが,同女は「今日のうちに会いたい。」と答えた。
「G」では,先ず,本件負傷のことや,そのいきさつが話題になった。
 
自分は,同女の傷の様子を尋ねた。
 
B女は,その左手を見せて,「骨が折れてました。」と言い,診療を受けた病院で警察に届けるように言われた旨のことを話した。
 
そして,「このままでは,店をやっていけなくなってしまいます。」と言い,ゲーム機は要らない旨や,宮崎市に行ってNと一緒に店を開く旨の話などをした。
 
Hが現れてから,自分が同人を咎めたり,同人が弁解したりするうち,B女が,Hとのことに関係なく,宮崎市で新しい店を始めることを考えていたことが分かった。
 
B女も,そのことを認めた上で,「F」を,Pという女性に任せて,自分(B女)が宮崎市へ行くので,同店の面倒をみて欲しい旨の発言をし,5万円位でいいのか尋ねてきた。
 
自分は,そのような話は,それまでにHとB女の間でしていたものと思っていたので,その発言は意外だった。
 
そこで,Hに向かって,「都城やから,3万でいいんじゃないか。なあ,H」と言い,Hが,自分に対して,すでにB女に対して1万でも2万でも良いと言っていた旨答えることになった。
 
B女は,何も答えず,「「F」へ行こうか,池ちゃん。」と言った。
 
自分は,2人と別れ際に,Hに対し,B女の治療代を払うよう,「K」を酔って訪ねたり,B女から金を借りたりすることをしないよう注意した。
 
その後,Hから「X」で,B女から「F」のみかじめ料を月末に集金に来て欲しいと,同店にもゲーム機を入れて欲しいと言われた旨の話を聞いた。
 
B女が自分(被告人)と会おうとした目的は,Hを「K」に来させないようにするためのほかに,自分(被告人)が「K」を食う積もりなのかを確認するためでもあったものと思う。
 
4月24日にB女から電話を受けて15万円のことを言われた際は,同女が警察に自分(被告人)のことを訴えているものとは全く想わなかった。
(4)その他の関係者の供述
ア Oは,原審公判(9,10)において,当日の10日位前に,Nから,B女がHから嫌がらせを受けているので,止めさせるように言われ,Hに電話をかけ,B女が「K」を閉めると言っている旨を伝えて,同女への嫌がらせを止めるよう求め,当日,B女が負傷したことから,Qに電話をかけて善処を求め,自分と同人,H及びB女の4者での会合を申し込んだ旨,そのことをB女に伝えたが,同女が,直接被告人と会って相談してみると答えた旨,その後,同女から,いずれも電話で,夕方,これから被告人に会うと告げられ,午後9時ないし10時ころ,被告人と会談ができて安心したと告げられた旨,そこで,被告人に電話をかけて礼を言った旨,B女は,以前から,「F」については,みかじめ料を支払う積もりがあると言っていた旨証言している。
イ Wは,原審公判(9,10)において,当日,B女が積極的に被告人への連絡をとることを求めていた旨証言している。
ウ Nは,当審公判(2)において,当日,B女が,被告人に会いたいと言っていた旨,そして,被告人と会った後,被告人が謝って金を出したと言っていた旨,その後,B女が,退院し,被告人が本件で逮捕されたころ,被告人が悪い人ではない旨,被告人に申し訳ないことをした旨,被告人は逮捕されるようなことは何もしていない旨,警察に成り行きで被告人のことを話してしまったと言っていた旨証言している。
エ Lは,捜査官に対して,B女からは,Hからの嫌がらせをNに訴えると,同女から,N組の名を出すように言われたと聞いていた旨述べ,弁護人らに対しては,B女が本件負傷についての被害届を出した際に同女を車で送る途上,同女に,Hのことを警察沙汰にすると,被告人に迷惑がかかるのではないかと言うと,同女が「そんなことはない。Aさんは関係ないから。だけど,Hは許せない。」と答えた旨述べている。
4 当日のやり取りをめぐる各供述の対立点の検討
(1)当日の「G」での会合が行われる至った経過
 
前記2に認定のとおり,概要,以下の経過,すなわち,被告人は,都城市を根城とする暴力団E会の会長であり,Hは,その幹部として被告人の配下に属していたところ,Hは,平成12年12月以降,旧知のB女が同市内で営んでいたゲーム喫茶「K」に出入りするようになったこと,被告人とB女も旧知の仲にあり,B女は,Hと話すうち,Hが被告人の配下であることを知ったこと,「K」には3台のゲーム機が置かれており,少なくとも,その2台は,賃借(リース)したものであり,その1台は,宮崎市に根城を置く暴力団N組組長の妻のNの紹介にかかるものであり,他の1台の貸主も,かつての暴力団関係者であったこと,B女は,平成13年2月中に,都城市内に新たにスナックを開店して,フィリピン人女性を雇い,その1人(P)をママにして同店の営業を任せることを計画して準備し,3月10日にそのスナック「F」を開店させたこと,また,そのころ,「K」をやめ,或いは,内縁の夫のLに譲って,自らは宮崎市内に出て,「K」と同様のゲーム喫茶を始める計画を有していたこと,E会では,都城市内の「K」や「F」のような営業形態の店を,いわゆる,みかじめ料の納入を得て「面倒をみる」ことのできる対象と考えていたこと,そのような状況下で,Hは,2月ころ以降,B女に対して「K」用のゲーム機の購入を求めるようになったこと,また,そのころ,被告人に対して,自らが「K」と「F」
(ママが新しく始める店)の面倒をみる積もりである旨の報告をしていたこと,やがて,B女は,Hに,購入を勧めるゲーム機を見てもいいと応じ,Hは,その調達を被告人に相談し,被告人は,E会幹部のQにその準備を指示したこと,その間の2月26日,被告人は,Hと一緒に「K」へ赴き,B女と再会したこと,被告人は,その折,同女に,「F」の開店祝いの花輪を贈呈してやりたい旨の発言をしたこと,しかし,その後,それを実行せずに過ごしたこと,Hは,3月20日前後ころ,被告人から,上記のゲーム機のことを質され,改めてB女にその購入意思を質したこと,ところが,B女は,そのころ,Lから被告人やHらが「K」を食い物にしようとしている旨の話を聞いていたことから,その購入を断ったこと,Hは,以後,B女に対して執拗にその購入を求めて迫り,粗暴な言動に及んだり,被告人やE会の威勢を示すことをしたこと,B女は,困ってNに相談し,Nは,N組幹部のOに,Hへの対処を指示したこと,かくして,当日の3月28日に至り,未明,「K」において,上記のようなHの言動に端を発した諍いから,HがB女の左指を骨折させる(本件負傷)に至ったこと,その後,B女は,病院で傷の手当てを受ける一方,NやO,W,Lらに本件負傷を訴えたり,相談しながら,被告人との連絡を求めたこと,被告人も,そのころ,Wを通して,B女の本件負傷の概要や同女の様子を知り,Hに電話で本件負傷のいきさつを質したうえで,午後1時過ぎ,B女に電話をかけたこと,被告人とB女は,その電話で16分間余り話を交わし,その結果,会って話すことになり,夕刻にさらに連絡を交わし,その会合場所を被告人が営むスナック「G」に決めたこと,そして,午後8時ころ,B女は,独りで同店へ赴いて被告人と会合し,両者は,会談を始めたこと,その間,被告人は,Hに対してもその席に加わるよう命じていたこと,B女は,Hとの対面を嫌っていたが,被告人は,その会談中,B女に断ってHに電話をかけて来訪を促し,同女は,それを黙認して受け入れたことの事実経過が認められるところ,上記の16分間余りの会話の内容について,以下のようにB女と被告人の供述が対立している。
〔1〕被告人とB女が交わした上記16分間余りの電話での会話の内容
 
被告人は,捜査段階から一貫して,B女が,被告人に対して,本件負傷に至ったいきさつを述べ,Hからそれまでにも種々の迷惑や粗暴な言動を受けたとして詰り,Hのために「K」の営業ができなくなる旨を訴えたり,被告人がHに指示を与えているのか質したり,同店用のゲーム機を買う積もりはない旨を伝えたり,本件負傷については,医師にその原因を説明し,警察に届けるように言われた旨や,N組に助力を求めた旨のことを相当に強い口調で告げたりし,これに対し,被告人が,受動,弁明的な応答をしながらも,Hへの指示を否定した旨述べ,一方,B女は,被告人の供述内容を否定している。
(2)「G」での会合にHが加わるまでの被告人とB女の会話
 
前記2のように,当夜,被告人とB女が「G」で会合してからHが現れるまでの時間は,15分ないし20分であり,その間に交わした会話として,被告人がB女に対して「K」用のゲーム機を買う積もりがないのか質し,B女が,その積もりがない旨応答した事実が認められるところ,その間の経過については,以下のようにB女と被告人の供述が対立している。
〔2〕被告人がゲーム機に関する発言をする前の会話
 
被告人は,ゲーム機に関する発言をする前に,まず,B女に対してその怪我の様子を尋ね,同女が骨折したと言ってその包帯をした左手を見せた旨,その後,同女と本件負傷に至ったいきさつに関する話をしたり,同女から「K」を食う積もりなのか質されて否定したり,Hのために「K」の営業ができなくなると詰られたりした後にゲーム機に関する会話に移行した旨述べ,一方,B女は,被告人が,自ら(B女)に本件負傷のことを尋ねることもせずに,いきなりゲーム機のことを質し始めた旨,自分(B女)が本件負傷のことを持ち出すと,被告人が遮った旨述べている。
〔3〕ゲーム機に関するやり取りがなされた後,Hが現れるまでの会話
 
被告人は,その場にHが現れるまでの間に,B女が,自分(被告人)に対して,Hに指示を与えているのか質したり,本件負傷について,病院から警察に届けるように言われたが,このようなことが今後起こらないならば,警察に届ける積もりはないと言い,自分(被告人)がHにそのようなことはさせないと答えた旨述べ,一方,B女は,そのような会話はなされなかった旨述べている。
(3)「G」での会合にHが加わって以後の三者の会話
 
前記2のように,「G」での被告人とB女の会合にHが加わった後,被告人がHに向かって,同人がB女に怪我をさせたことを厳しい口調で責め,Hが頭を下げて被告人に謝ったこと,被告人が,更にHに向かって,B女が「K」を閉めると言っている旨の発言をして叱りつけたこと,被告人が,その後,「F」のような外国人女性を雇っている店の1か月のみかじめ料の相場が5万円であるが,同店については3万円でよい旨の発言をしたことの各事実が認められるところ,その経過については,以下のようにB女と被告人の供述が対立している。
〔4〕被告人が「F」のみかじめ料のことを発言するに至った経過
 
B女は,被告人が上記のようにHを叱りつけた後,同人に対して自分(B女)への「K」に関する要求を諦めさせる発言をし,続いて,自分(B女)に対して「今度はスナック(「F」)の件なんだけど」などと質してきた旨述べ,一方,被告人は,Hに対し,B女が「K」を閉めると言っていると叱りつけると,HがB女に対し「あんた,「K」を閉めて「F」をするというちょったがね。」と反論し,自分がその点を質したことから,B女から,同女が「K」をやめて,宮崎市へ出て,同様の店を営む旨,その店のことはその方で頼むので,都城の「F」のことを自分(被告人)達に頼む旨の発言を始めた旨述べている。
 
なお,この点については,Hは,前記3(2)のとおり,捜査段階では,被告人の方からB女に対し,「そう言えば,ママは新しい店を始めるらしいね。」と切り出したなどと,B女に沿う供述をしているが,原審公判では,B女から被告人に,都城の店(「F」)の面倒をみて欲しい旨頼んできたと述べて,上記被告人供述に沿う供述をしている。
〔5〕被告人のみかじめ料に関する発言の相手方
 
B女は,被告人が,自分(B女)に対して,「F」について,「Hに面倒みて貰ってくれ。」と言い,通常,同店のような店が皆みかじめ料を納めている旨,その相場が1か月5万円である旨の発言をしたうえで,自分に向かって「ママは知らない人間じゃないから,3万でいい。」と言った旨述べ,一方,被告人は,B女から「F」のことを頼まれ,そのみかじめ料について「5万円位ですかね。」などと質され,それを受けて,Hに向かって,「フィリピン人を入れると,普通5万位かも知らんけど,都城だから3万位でいいやないか,なあH。」と言った旨述べ,双方の供述が対立している。
 
なお,この点については,Hは,捜査,公判段階を通して,被告人の「宮崎では5万だが,都城では3万だ。」との発言は,自分に対して同意を求めるようにしてきた旨述べている。
〔6〕被告人の「3万円」の発言を受けたHの対応
 
被告人は,上記の,自分が「F」のみかじめ料が3万円位でいい旨の発言をしたのに続いて,HがすでにB女に対してそのみかじめ料が一,二万円でよい旨の話をしていた旨の発言をした旨述べ,一方,B女は,Hのそのような発言はなかった旨述べて,双方の供述が対立している。
 
なお,Hは,捜査,公判段階を通して,被告人が述べるような発言を自らがしたことを認めている。
(4)対立供述の検討
 
上記〔1〕ないし〔6〕の供述の対立点を検討するうえで,まず,被告人とB女の供述の信用性について検討する。
 
B女供述は,前記2(2)のとおり,重要な事実に関して,明らかな偽りや,措信し得ないものが少なからず存するうえ,弁護人らも指摘するように,例えば,当日以前からの暴力団関係者やN,Oらとの交流の程,当日までにHが「K」に出入りした頻度,同人がゲーム機の買取りや,みかじめ料を求めるようになった経緯,他からみかじめ料の請求を受けたことがあったか否か,事前の被告人の印象,当日午前中にNと交わした電話の内容,当日,被告人に連絡を試み,その後「G」へ出かけた理由,同店で,先ず,被告人と本件負傷についての会話が交わされたか否か,被告人から「K」のみかじめ料を要求されたか否か,被告人に対して「K」を閉める旨の発言をするに至った経過,「K」を閉めることを決めた時期,などについても看過し難い偽りないし供述の変遷が多々認められ,B女とそれなりに親しくしていたN,L,O,Wら周りの者が述べる当時の状況やB女の言動に照らしても,全体として信ぴょう性に乏しいものといわざるを得ない。
 
これに対し,被告人供述は,捜査,公判を通じ,概ね一貫しており,その供述内容に,前記2に認定の経緯や,関係者の供述に明らかに反するものがない。
 
これらの事実を踏まえて上記対立点を個別に検討するに,まず,その対立点〔1〕については,被告人の供述は,具体的,かつ,詳細で,その内容が前記2の事実経過や関係者の供述に符合して矛盾しないものである。
 
これに対して,B女は,捜査官に対し,当初,被告人とその電話を交わした事実自体を隠して,当日午後7時ころ,被告人から突然に電話で呼び出された旨の偽りの供述をし,その後,その前に被告人と16分間余りにわたる電話を交わした事実を認めながらも,その電話でのやり取りについて,自らが本件負傷の事実を被告人に訴えたとする以上にその内容を具体的に述べておらず,公判においても,被告人の供述内容を否定するのみで,自らは,遂にその内容を述べることなく終わっている。
 
そして,これによると,上記16分間余りの電話では,概ね上記の被告人供述に沿った会話がなされたものと認めるのが相当である。
 
上記対立点〔2〕,〔3〕については,前記2で認定し,(1)において敷衍した,「G」での関係者の会合に至る経緯,殊に,HがB女に対して,「K」用のゲーム機を売り込もうとして種々の迷惑をかけた末に同女を負傷させるに至り,被告人とB女が,ともにそのことに関する問題を解決すべく会合したこと,B女が,それに先立ち,被告人に対して,電話で,上記対立点〔1〕の被告人の供述のように,本件負傷に至ったことについての不満を,警察に届けかねないような強い言い方で訴えていたこと,被告人と「G」で会合すると,「K」用のゲーム機については,同店を閉めるので要らないと言ったこと,被告人は,そのことを了承し,それ以上にこだわらなかったこと,同会合にHが合流するまでの時間が15分間ないし20分間程度あり,その間に両者がさらに会話を交わしたものと想像されることの各事実に照らすと,上記〔2〕の対立点にかかるB女の供述は措信できず,両者の間に被告人が述べるような,本件負傷をめぐるやり取りが交わされたものと認めるのが相当である。
 
上記対立点〔4〕については、双方の供述のみでは,そのいずれの事実があったものとも決し難いところ,前記のとおりの事実経過や,B女供述の信用性の乏しさを考えると,「F」が話題になるまでの経過は,被告人が述べるような経過を辿った蓋然性が強く認められるものの,B女自らがみかじめ料の話を持ち出したか否かについては,この点に関するHの捜査,公判での異なる供述の信用性の検討が問題となるところ,原判決も述べるように,Hの捜査官に対する供述は具体的かつ詳細で,当時の心情も含めてそれなりに本件の経緯を素直に述べていること,Hが当日の「G」でのやり取りをそれなりに詳細に述べながら,B女からみかじめ料の話を持ち出したという,被告人側に有利になる話について捜査官に述べなかった合理的理由は見出し難いこと,Hの取調べの過程に捜査官の不当な誘導等を窺わせる証拠はないこと,他方,Hの公判証言には,被告人をかばおうとして,不自然な内容の強弁をしている点が少なからず認められることなどに照らすと,少なくとも,「F」のみかじめ料に関する話をB女の方から持ち出したとする経過は認め難く,B女が述べるように,そのみかじめ料に関する話は被告人が持ち出したものと認めるのが相当である。 
 
上記対立点〔5〕については,被告人とHは,前記3の(2),(3)のとおり,いずれも被告人が上記の「3万円」にかかる発言をHに向けてした旨を捜査官に対しても,公判においても一貫して述べており,B女自身も,捜査官に対して同旨の供述をしたことがあり,これらに照らすと,上記被告人の発言は,直接的にはHに対して向けられたものと認めるのが相当である。
 
上記対立点〔6〕については,前記2に認定のその後の経過,すなわち,「F」のみかじめ料について,被告人が具体的に3万円という金額を口に出したのにKかわらず,その場ではその金額に決することはなく,HとB女が話し合って決めることとなった経過や,この点に関するHの供述が一貫していることに照らすと,Hが述べるように,同人がすでにB女に対してみかじめ料が一,二万円でよい旨の話をしたことがあり,当日も,被告人やHが述べるようなHの発言があった蓋然性が強く認められる。
5 被告人のB女に対するみかじめ料の要求と害悪の告知
 
以上に検討したとおり,少なくとも,当日の「G」において,被告人が,Hに対し,B女への暴行を厳しく叱責する発言をし,その後,B女に対し,「F」のみかじめ料の話を持ち出し,B女の向こう側に座っていたHに向かって,「宮崎の方では相場は5万だけど,都城では3万でいいんやないか。」などという発言をした経過が認められるところ(被告人の発言内容は,概ね原判決の罪となるべき事実における認定のとおりのものと認められる。),上記の発言については,これが社会的,道義的に非難されるべき行為であることは論を待たないものの,本件においては,公訴事実のように,被告人がB女に対してそのみかじめ料の交付を要求したと認められるものか否か,認められるとしても,その要求に応じさせるべく脅迫をしたか否かが検討されなければならない。
 
そこで,以下,前記認定事実を基に,更にこれを敷衍して検討する。
 
B女は,本件より20年以上前に,暴力団事務所に出入りしていた被告人を運転手として雇い,小遣いを与えるなどしたことがあり,Hとも,同人が以前に板前をしていたころに知り合っており,当日の半年位前に久しぶりに再会し,その後,頻繁にHがB女の営む「K」に出入りするようになり,同人とは,何度か借財を申し込まれて応ずるような関係になっていたものである。
 
B女は,長年にわたり,宮崎市内や都城市内で喫茶店を営んだうえ,ゲーム機を置いたり,外国人を雇い入れるなどしてスナックを経営することも経験しており,被告人ら以外にも,暴力団関係者との交流があり,特にN組組長夫婦とは日頃から親しくし,「K」のゲーム機の中にも,その紹介でリースを受けたものが含まれており,自らの店舗を経営するうえで暴力団関係者にそれなりに対処する術を培ってきていたものと認められる。
 
被告人とHは,当日の約1か月前に「K」を訪ね,その際,同女と友好的に過ごし,その後,Hが,B女の言辞から,B女にゲーム機を買って貰えるものと期待し,被告人に依頼してゲーム機を準備する手はずを整えていたところ,B女が,知人から,被告人らが「K」を食おうとしているとの噂を聞き,これを疑って,Hからのゲーム機の購入を断ることとなり,Hは,被告人に上記のような依頼をした手前,後に引けなくなり,その後,B女に対して執拗にゲーム機の購入を迫った末に同女を負傷させるに至ったが,その間,被告人に対しては,B女との間でゲーム機の話で揉めていることを知らせることなく過ごしていたものと,したがって,被告人は,当日に至るまで,HとB女の間が上手くいっているものと思っていたものと認められる。
 
ところが,被告人は,当日,突然に,WからHがB女を負傷させた旨の知らせを聞いて驚き,HやB女と電話を交わして,初めて,その経過の概要を知り,当日のB女との会合に臨むこととなった。その際,被告人は,本件負傷について,同女に謝罪し,警察沙汰になることのないよう穏便に解決することを考え,そのために,HがB女に「K」用のゲーム機を売り込もうとしたことに関わる問題を解消して,両者を和解させることを目的としていたものと,その時点では,B女から同女が新規開店した「F」についてみかじめ料を取ることなどは,全く頭になかったか,少なくとも,同女との会合の主たる目的としては考えていなかったものと認められる。
 
一方,B女は,Hの自らに対する行動が被告人の指示に基づくものではないかと疑っており,被告人に直接会ってその真偽を確かめたうえ,被告人に訴え,今後のHの自らに対する上記のゲーム機の売り込みや粗暴行為を止めさせようと考え,それらのことについては第三者の助けを借りなくても被告人と直接話し合うことによって解決できるものと考えて被告人との会合に臨んだものと認められる。
 
そして,「G」においては,まず,B女の本件負傷の話が話題となり,その後,「K」のゲーム機の話についても,B女が店を閉めると述べたことから,被告人は,それ以上にそのゲーム機のことを質さずに終わっている。
 
そのような中で,Hが来店し,被告人がHを叱責することになるのであるが,その被告人の発言は,B女を畏怖させようとの意図のもとになされたものとは断じ難く,むしろ,警察に被害届を出されないようB女を納得させるためにした蓋然性が高いものというべきである。
 
しかるところ,被告人は,その後にHとB女の間で交わされた話の中で,B女が「K」を閉めると言ったのは,Hの粗暴行為がある以前から考えていたことに気づき,その点を,B女に質し,そのことから,同女が「F」のことを口にし,被告人が,そのみかじめ料のことを口にするに至っている。
 
その発言内容は,前記のとおり,B女に対して支払を一方的に命ずるようなものではなく,被告人は,その発言を,B女の頭越しではあるものの,直接的にはHに向かってしており,それ故,その発言に対しては,前記のように,Hが応答し,被告人は,これを受けて,そのみかじめ料については,後はHとB女の2人で話し合えばいいと言ってその話を切り上げており,その口調や態度についても,特にそれまでのB女との会話と異なる威圧的なものに変わったような様子を窺わせる的確な証拠はなく,B女は,前記3(1)のように,当審公判において,被告人のその最後の発言を,Hに対して,ママ(B女)がみかじめ料を出してくれるよう説得し,その金額を自分(H)で決めろと指示した趣旨のものと受け止めた旨述べている。しかも,その後,HとB女の間で,そのみかじめ料の支払や金額についての会話がなされた事実を認め得る証拠もない。
なお,B女は,当審公判(8)において,被告人が「G」で,「F」のみかじめ料に関する発言をした際の声の程について,「特に大きい」,「やたらと興奮しているような」,「機関銃みたい」などと証言しているが,その点については,H,被告人,B女のいずれも,捜査官に対しても,公判においても,特に言及しておらず,B女は,上記当審公判(8)においては,上記発言以外にも,前記2(2)キ,ケで触れたような,それまで述べなかった,到底措信し難い内容を述べていること等に照らすと,上記の同人の証言もまた,唐突のものとして措信し得ない。
 
しかるところ,B女は,当日の「G」での会合後,Hを「F」に案内してビールを飲ませ,被告人へも自ら電話をかけていること,その翌日,被告人の関係会社の花輪を自ら注文して飾り,さらに,警察に被害届を提出した後にも被告人に電話をかけて警察への自らの供述内容を伝えて口裏合わせをするよう持ちかけていること,警察への相談も,当初,Hの傷害事件を専ら訴えていること,前記3(1)のB女の,本件にかかる被告人から恐喝を受けたとする被害届を出すに至った経過に関する供述内容や,前記2に認定のその被害届の記載内容などの当日以後のB女の行動は,同女が本件の恐喝の被害を受けたとすることには,余りに不自然なものといわなければならない。
 
そして,以上のような事実経過やこれに沿う前記3の関係者の供述に照らすと,被告人が「G」でB女に対してした「F」に関するみかじめ料についての話は,これに引き続いて同女の前でHに向かってした「3万円でいい。」旨の発言を加味しても,なお,同女にそのみかじめ料を支払う心積もりがあるか否かを打診し,或いは,その支払の勧誘を試みたに止まるものとみるのが自然であって,これをもって,そのみかじめ料の交付を要求したものとまでは認め難く,他にこれを認め得る的確な証拠もない。
 
また,上記の被告人のB女に対する発言をみかじめ料の交付を要求したものと認める余地があるとしても,被告人が同女に対して,その要求に応じないときは,同女の身体や財産等に危害を及ぼしかねないような具体的な害悪を告知したり,そのような気勢を示すなどして同女が畏怖するに足りる脅迫を行った事実については,これを具体的に認め得る証拠はなく,その事実を前記のように信ぴょう性に乏しいB女供述に依拠して認めることには合理的な疑いが生じて,これを解消し得ないものといわざるを得ない。
 
したがって,原判決には,少なくとも,被告人がB女に対して,「F」のみかじめ料として3万円の交付を求める旨の発言をしたとする点、及び同女がその要求に応じないときは,その身体,「F」の営業等に危害を加えかねない気勢を示して脅迫したとする点で,重要な事実誤認があり,その誤りは,判決に影響を及ぼすことが明らかである。この点に関する弁護人らの論旨は理由がある。
第3 原判決の破棄と自判
 
以上の次第で,本件については,他の論旨についての判断をするまでもなく,本件控訴は理由があることになるので,刑事訴訟法397条1項,382条により,原判決を破棄し,同法400条但書により,当裁判所おいて,さらに判決する。 
 
本件公訴事実は,前記第2の1で述べたとおりである。
 
しかしながら,前記のとおり,本件公訴事実については,結局その犯罪の証明がないことに帰するので,刑事訴訟法336条により,被告人に対して無罪を言い渡すこととする。
 
よって,主文のとおり判決する。
平成15年5月1日
福岡高等裁判所宮崎支部
裁判長裁判官 岩垂正起 裁判官 村越一浩
裁判官木山暢郎は,転補のため署名押印することができない。
裁判長裁判官 岩垂正起

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