恐喝福岡2

恐喝福岡2

福岡地方裁判所/平成12年(わ)第592号

主文
被告人は無罪。

理由
1 本件公訴事実は、次のとおりである。
〔1〕主位的訴因
 
被告人は、N田ことF本N美及びS田M直と共謀の上、債権取立て名下にY本H男(当時五八年)から金員を喝取しようと企て、平成一〇年一一月一日ころ、福岡県○○郡△△町××○番地×のO製作所事務所において、Y本H男に対し、被告人が「F本S三から借りた一八三〇万円については、五〇〇万円で取り消してやるとN田N美が言っているので、五〇〇万円払って。」などと申し向けて金員を要求し、更に、S田M直が「貴様、金を借りとろうが。払わんかい。裁判の判決と取立ては別問題やろうが。この金たい。払わんかい、お前が金を借りとるんやろが。裁判がなんか、法律がなんか。工場を売ってでも払え。お前たちは元夫婦やったろうが。金を払わんかい。」などと怒号して金員を要求し、その要求に応じなければ、Y本H男の生命、身体等に危害を加えかねない気勢を示して同人を畏怖させ、よって、同月二日、同人をして、同県直方市○町×丁目×番××号のN信用金庫S支店のF本N美名義の普通預金口座に二〇〇万円を振込入金させて、これを喝取した。
〔2〕予備的訴因
 
被告人は、N田ことF本N美及びS田M直が、共謀の上、債権取立て名下にY本H男(当時五八年)から金員を喝取しようと企て、平成一〇年一一月一日ころ、福岡県○○郡△△町××○番地×のO製作所事務所において、Y本H男に対し、S田M直が「貴様、金を借りとろうが。払わんかい。裁判の判決と取立ては別問題やろうが。この金たい。払わんかい、お前が借りとるんやろが。裁判がなんか、法律がなんか。工場を売ってでも払え。お前たちは元夫婦やったろうが。金を払わんかい。」などと怒号して金員を要求し、その要求に応じなければ、Y本H男の生命、身体等に危害を加えかねない気勢を示して同人を畏怖させ、よって、同月二日、同人をして、同県直方市○町×丁目×番××号のN信用金庫S支店のF本N美名義の普通預金口座に二〇〇万円を振込入金させて、これを喝取した際、F本N美及びS田M直がY本H男から金員を喝取するつもりであることを知りながら、同月一日ころ、前記O製作所事務所において、F本N美及びS田M直がY本H男に引き合わせて、同人に対し「F本S三から借りた一八三〇万円については、五〇〇万円で取り消してやるとN田N美が言っているので、五〇〇万円払って。」などと申し向けて金員を要求するなどし、もって、F本N美及びS田M直の前記犯行を容易にしてこれを幇助した。
2 本件公訴事実について、被告人は、その日時に、N田ことF本N美(以下「F本」という。)及びS田M直(以下「S田」という。)と一緒にO製作所事務所に行ったことは間違いないが、そこに行ったのはS田らから脅されたからであり、同所で、Y本H男(以下「H男」という。)に対し「F本S三から借りた一八三〇万円については、五〇〇万円で取り消してやるとN田N美が言っているので、五〇〇万円払って。」と言って頼んだことは認めるが、S田らと共謀してH男を恐喝したことも、S田らがH男を恐喝するのを手伝ったつもりもない旨述べ、弁護人も、無罪を主張する。
3 本件証拠によれば、次の事実を認めることができる(被告人の公判廷における供述中、この認定に反する部分は、被告人の検察官調書〔検乙二号〕を含むその他の証拠に照らして採用できない。)。
〔1〕被告人とH男とは、昭和四三年に婚姻し、平成四年に離婚した元夫婦である。
〔2〕被告人は、H男と夫婦であった当時、H男に内緒でF本から多額の借金をしたが、その返済を滞らせていた。F本は、被告人に対し何度も強くその返済を請求したが、被告人からは返済の資力がないとして、ほとんど返済を受けられないまま推移していた。
〔3〕そのため、F本は、知人のS田に対し、被告人に対する貸金債権を他に売却したいという話をしていたところ、S田からその話を聞いた草場敏らは、平成一〇年一一月一日朝、大分県別府市に住んでいた被告人を見付け、S田の指示で、被告人を九州自動車道のHサービスエリアまで連れてきた。S田も、F本とともに同所に駆け付けた。
〔4〕被告人とF本らがHサービスエリアで出会った際、被告人が、なぜHサービスエリアで話をするのかと文句を言ったところ、S田が、被告人に対し大声で、「お前が金払わんから、日曜日にわざわざここまで来んといかんのじゃねえか、こら。」などと怒鳴り散らした。そのため、被告人はS田を畏怖するようになった。その後、被告人は、F本及びS田に連れられて同サービスエリア内のレストランに入ったが、同店内でも、F本から、被告人の借金が一八三〇万円あると言ってその返済を強く求められ、借金返済を滞らせていることを厳しくなじられ、さらに、S田からも、借金を返済するようにと怒鳴りつけられたり、強い口調で威圧するようなことを言われた。これに対し、被告人は、借金額については、そんなに多額ではなく三〇〇万から四〇〇万円くらいであるなどと反論するなどしたが、結局、S田が、被告人から一八三〇万円も取れそうにないから五〇〇万円だけでも取るようにしてはどうかと提案して、被告人からF本に五〇〇万円を支払えば借金の取立ては終わりにするということで、F本と被告人に同意させた。その上で、F本及びS田は、被告人に対し、同女の実家に五〇〇万円の借金返済の肩代わりを頼みに行こうと言ったが、被告人は、実家には迷惑をかけられないと考え、また、実家に電話したものの妹から借金返済の肩代わりを断られたこともあって、実家に行くことを強く拒んだ。そこで、F本は、被告人に対し、被告人の元夫のH男に借金返済の肩代わりを頼んでみるよう求めたところ、被告人は、それまでの経緯からH男が被告人の依頼をすんなり承諾するはずのないことは分かっていたが、やむを得ずこれには同意した。
〔5〕F本、S田及び被告人は、HサービスエリアからS田運転の車でH男が経営するO製作所まで向かったが、同車中で、F本が被告人に対し、O製作所に着いたら、被告人が最初に出ていってH男に話をして借金返済の肩代わりを頼んでみるようにという話をし、S田が被告人に対し、「それから俺たちも出ていくから。」と言い、F本がS田に対し、H男にやかましく言ってくれるよう頼んだ。
〔6〕F本、S田及び被告人は、同日午後一時ころO製作所に着くと、まず、被告人がF本に促されて、同所に駐車中の普通貨物自動車内で休憩をとっていたH男のそばに行き、同車の運転席の窓ガラスを叩いた。これに気付いたH男が、「お前、何しに来たのか。」と言うと、被告人が、「F本S三さんから借りた一八三〇万円については、五〇〇万円で取り消してやるとN田N美さんが言っているので、五〇〇万円払って。N美さんと一緒に来た。」などと言って、借金返済のための金員を出してくれるよう頼んだ。しかし、H男は、そんな金は払う意思もないし、払う必要もないとして断った。その際、被告人は、H男から、O製作所の親会社のT会社にまで押し掛けられてどれだけいやな思いをしているか知っているのかなどと言われたことから、F本に対し、「あんた、T会社まで行ったの。」などと文句を言い、これにF本が言い返した。そこに、S田がやって来て、H男に対し激しい剣幕で、「お前、出てこい。貴様、金を借りとろうが。払わんかい。借りたもんは借りたもんたい。この金たい。払わんかい。お前が金を借りとるんやろうが。裁判がなんか、法律がなんか。工場を売ってでも払え。お前たちは元夫婦やったろうが。金を払わんかい。」などと執拗に怒号するなどした。このS田の怒号は、被告人に向けられたものではなかったが、被告人も畏怖したほど強烈であった。そのため、H男は、若干反論したが、結局畏怖して、被告人に対し、二〇〇万円は自分が払うから、後の三〇〇万円は被告人が払うようにと言って、二〇〇万円を出すことを承諾した。これに対し、被告人は、残りの三〇〇万円についても工面できるあてがなかったので、H男に対し、もう少し何とかならないかと言って頼んだが、H男から、「もう俺はびた一文出せない。後はお前が何とかしろ。」と言って断られた。その後、F本が、H男に対し、H男が出すことを承諾した二〇〇万円をF本の預金口座に振り込むよう求め、H男がこれを承諾した。また、F本は、被告人に対し、残りの三〇〇万円を被告人が何とかして支払うようにと言った。そして、F本、S田及び被告人はO製作所から立ち去った。
〔7〕H男は、その翌日、二〇〇万円をF本の預金口座に振り込んだ。そのことにより被告人のF本に対する借金がそれだけ減少した。
〔8〕被告人は、その後も、F本及びS田から、前記の残りの三〇〇万円を返済するよう厳しい請求を受けた。
4 前記認定事実によれば、被告人は、F本から、借金返済の肩代わりを被告人の元夫のH男に依頼するよう求められて、これを承諾し、F本及びS田とともにH男のいるO製作所まで行ったこと、被告人は、O製作所に行ってH男に会えば、自己の借金返済のための金員を出してくれるようH男に依頼するつもりであったが、H男から断られる可能性が高いことを予想していたこと、その際には、S田らが出てきてH男を恐喝する行動に出るかも知れないこともある程度予想していたこと、そして、被告人、F本及びS田がO製作所に着いた後、実際にもそういう展開になったこと、被告人は、F本及びS田とともにO製作所に着いた後、同所に駐車中の車内で休憩をとっていたH男のそばに行き、「F本S三さんから借りた一八三〇万円については、五〇〇万円で取り消してやるとN田N美さんが言っているので、五〇〇万円払って。」などと言って、借金返済のための金員を出してくれるよう頼んでいること、その後も、被告人は、S田から脅されたH男が、二〇〇万円は自分が払うから、後の三〇〇万円は被告人が払うようにと言ったのに対し、もう少し何とかならないかと言って頼んでいること、H男からの二〇〇万円の喝取により、被告人のF本に対する借金はそれだけ減少したことなどの事実が認められる。
 
これらの事実に照らすと、被告人は、H男に対する恐喝について、F本及びS田らと共同正犯の関係にあるか、少なくとも、F本及びS田による恐喝を幇助したものと認めてよいようにも考えられる。
 
しかし、他方、前記認定事実及び本件証拠によれば、次の各事実も指摘することができる。
〔1〕本件は、F本及びS田が主導して、被告人とH男が元夫婦であった関係を利用してH男から金員を喝取しようと考え実行したものであり、被告人としては、F本及びS田から言われて、やむを得ず本件に関与したものである。被告人とF本及びS田が、被告人の元夫のH男のいるO製作所に行くことになったのは、F本の発案であり、被告人は、F本のこの発案に同意したが、これは、F本から借金返済を強く迫られていたものの、返済のあてがなかったという事情に加えて、直前にS田から強い口調で威圧するようなことを言われ、F本からも借金返済を滞らせていることを厳しくなじられていたことなどから、やむを得ず同意したものと判断される。もっとも、被告人は、その前に同女の実家に借金返済の肩代わりを頼みに行こうとのF本の提案は断っていることなどからみて、H男に借金返済の肩代わりを頼みに行こうとのF本の提案についても断ろうと思えば断ることはできたと考えられる。しかし、そうではあっても、それまでの経緯及びHサービスエリアでの状況からみて、被告人がO製作所まで行ったのは、F本及びS田から言われてやむを得ずのことであったとの判断は左右されない。
〔2〕被告人は、自分ではH男を脅すようなことを言ったりしたりするつもりはなく、実際にも、H男に対し、借金返済のための金員を出してくれるよう頼んだに止まるものである。
 
また、被告人は、O製作所に着いた後、同所に駐車中の車内で休憩をとっていたH男のそばに行き、「F本S三さんから借りた一八三〇万円については、五〇〇万円で取消してやるとN田N美(F本)さんが言っているので、五〇〇万円払って。」などと言って、借金返済のための金員を出してくれるよう頼んでいるが、この段階ではまだ、F本及びS田としては、被告人の依頼にH男がどう答えるかを見ているところであり、もしもH男が被告人の依頼に応じて金員を出してくれるならば、H男を脅して金員を出させるつもりはなかったであろうから、被告人がH男に対し前記のように言った段階では、S田らが恐喝行為に出ることが確定的であったとまではいえず、被告人の前記言動をもって恐喝の実行行為(実行の着手)ということはできない。
 
その後も、被告人は、S田から脅されたH男が、二〇〇万円は自分が払うから、後の三〇〇万円は被告人が払うようにと言ったのに対し、もう少し何とかならないかと言って頼んでいる。被告人のこの言動は、客観的には、S田の恐喝行為によりH男が畏怖している状態を利用しての金員要求行為と評価することも可能であるが、被告人は、H男とは元夫婦の関係であり、自分ではH男を脅すようなことを言ったりしたりするつもりはなかったことや、被告人からのこの依頼の話は、H男から「もう俺はびた一文出せない。」などと言われて断られて終わっており、それ以上依頼するようなことはしていないこと、及び、被告人とF本及びS田との関係が後記〔3〕のとおりであったことから判断すると、被告人の主観においては、S田の恐喝行為によりH男が畏怖している状態を利用して右のように言ったつもりはなく、元夫婦であった関係からH男に対し右のように言って頼んでみただけであるとうかがわれる。
〔3〕被告人は、F本及びS田から借金返済を滞らせていたことで厳しく責められたりなじられたりしていたこと、及び前記〔1〕、〔2〕の各事実に照らすと、本件当時の被告人とF本及びS田との関係は、意思を相通じて共同行動をするような関係と見るよりも、F本及びS田がほぼ一方的に被告人を利用する関係にあったと判断される。
5 主位的訴因(恐喝の共同正犯)について
 
以上の事実を総合すると、被告人には、F本及びS田と共同してH男を脅して同人から金員を喝取しようという正犯意思まであったということはできず、H男から金員を喝取することについて、被告人とF本及びS田との間に、被告人を共同正犯と認めるに足りる共謀関係があったとは認められない。被告人の検察官調書(検乙二号)中には、被告人がF本及びS田と共謀してH男から二〇〇万円を脅し取ったことを結論的に認めた供述部分があるが、これは、前記認定事実に照らして採用できない。また、被告人自身が恐喝の実行行為をしたことも認められない。したがって、主位的訴因(恐喝の共同正犯)を認定することはできない。
6 予備的訴因(恐喝の幇助)について
 
次に、F本及びS田が共謀の上H男を恐喝したことは優に認められるところ、被告人がこれを幇助したと認めることができるかどうかを検討する。
 
前記認定事実によれば、予備的訴因に記載されている被告人の言動が、客観的には、F本及びS田の恐喝行為を幇助する結果となっていることは十分認められる上、被告人は、O製作所にS田らとともに行けば、S田らがH男を恐喝する行動に出るかも知れないことをある程度予想していたと判断されることなどからすると,被告人には幇助の意思もあったと認めてよいようにも考えられる。
 
しかしながら、被告人は、この点について、元夫のH男に金を出してもらえないかと頼んだのは事実であるが、S田らの恐喝行為を手伝うつもりは全くなかった旨、公判廷において弁解しているところ、
〔1〕被告人は、F本及びS田から借金返済を滞らせていたことで厳しく責められたりなじられたりしており、HサービスエリアでS田から怒鳴り散らされて同人を畏怖していたこと
〔2〕被告人は、F本から借金返済を強く迫られていたもののその返済のあてがなく、直前にS田から怒鳴りつけられたり強い口調で威圧するようなことを言われたりしており、F本からも借金返済を滞らせていることを厳しくなじられていたことなどから、やむを得ずF本らとともにO製作所まで行ったこと
〔3〕被告人とH男とは元夫婦の関係であって、被告人自身は、H男を脅すような言動をするつもりはなく、実際にもH男を脅すような言動を一切しておらず、H男に対し、もっぱら元夫婦であった関係から、借金返済のための金員を出してもらえないかとお願いする態度に終始していたこと
〔4〕被告人は、F本及びS田から言われてやむを得ず、同人らとともにO製作所まで行き、H男に対し、借金返済のための金員を出してくれるよう頼んだが、被告人においては、H男を脅してまで同人から金員を出させる必要があると思っていたわけではないこと
〔5〕本件当時の被告人とF本及びS田との関係は、意思を相通じて共同行動をするような関係と見るよりも、F本及びS田がほぼ一方的に被告人を利用する関係にあったと判断されることなどに照らすと、被告人は、F本及びS田から責められて、やむを得ず、元の夫のH男に対し借金返済のための金員を出してもらえないかと頼むつもりで、O製作所まで行き、H男に対しその話をしたが、被告人としてはH男を脅してまで金を出してもらうつもりはなく、その点ではF本及びS田と立場を異にしていて、S田らがH男を恐喝するかも知れないことをある程度予想していたとはいえ、S田らが恐喝をすることについてまで手助けするという考えはなく、ただS田らから責められている窮状を脱したいとの思いで、H男に対し、元夫婦であった関係から借金返済のための金員を出してもらえないかと頼むなどしただけであると見る余地がある。そうすると、被告人の公判における前記弁解をあながち否定できないと考えられるから、被告人は、自己の言動がS田らの犯行を容易にするものであることを認識・認容して、すなわち幇助の意思をもって、H男に対し金を出してもらえないかと頼むなどしたものと認定するには疑問がある。被告人の検察官調書(検乙二号)中には、被告人に上記幇助の意思があったことを認めたともみられる供述部分があるが、前記認定事実に照らして考えると、この供述をそのまま全面的に採用することはできず、この供述によって被告人に幇助の意思があったと認定するにはなお疑問が残る。そして、本件全証拠を更に検討しても、被告人に上記幇助の意思があったと認めるに足りる的確な証拠はないから、予備的訴因(恐喝の幇助)についても、犯罪の証明がないというべきである。 
7 以上のとおりであって、本件公訴事実は、主位的訴因についても予備的訴因についても犯罪の証明がないことになるから、刑事訴訟法三三六条により被告人に対し無罪の言渡しをする。(求刑懲役一年)

平成一三年五月三〇日
福岡地方裁判所第三刑事部
裁判官 濱崎裕

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