恐喝福岡3

恐喝福岡3

福岡地方裁判所/平成14年(わ)第695号等

主文
被告人を判示第1の罪について懲役2年6月に,判示第2ないし第4の罪について懲役3年に処する。
未決勾留日数中,判示第1の罪の刑に対しては70日を,判示第2ないし第4の罪の刑に対しては110日を,それぞれ算入する。

理由
(犯罪事実)
第1 (平成14(わ)第1090号・平成14年8月28日付け起訴分)
 
被告人は,暴力団A組の事実上の組員として活動し,同組長Bの運転手をしていた。麻雀店の店長であったC(当時43歳)は,Bから金銭を預かって賭博用ゲーム機の営業を行っていたが,Bからその金銭の使い込みを疑われて,Bから呼び出しを受けていた。
1 被告人は,Bが平成8年12月18日午後9時ころから同日午後10時30分過ぎころまでの間,福岡県a郡b町大字cd番地e所在のB方の居間で,Cに対し,Cの金銭使い込みに対する制裁を加える目的で,その顔面及び頭部等を数回手拳で殴打し,顔面や背部を膝蹴りするなどの暴行を加えたのに先立ち,かねてからBがCに対して激しい暴行を加えるかもしれないことを知っていたことから,Bのために,同日午後9時ころ,B方前路上付近で,Cの肩部をつかむなどしてCをB方の居間に連行し,B方の居間で,Cの襟首付近をつかんでBの面前に正座させた。さらに,被告人は,BがCに上記暴行を加えている間,Bのために,Cの側で待機してCの逃走を防止するなどして,Bの暴行の犯行を容易にして幇助した。
2 被告人は,Bが平成8年12月18日午後10時30分過ぎころから同日午後11時ころまでの間,上記B方の居間で,上記1の暴行に引き続き,憤激のあまり,Cが死亡するに至るかもしれないことを認識しながら,あえて,横たわって無抵抗の状態のCに対し,膝蹴りや踵で踏みつけるなどして,その頭部,背部及び腹部等を多数回蹴りつけた上で,その後頸部を踵で思い切り踏み付ける暴行を加え,その結果,そのころ,同じ場所で,Cを脊椎脱臼による脊髄圧迫により死亡させて殺害した際,その場で,BがCを殺害するかもしれないことを察知し,被告人がB方で待機すれば,Bが安心してC殺害の犯行を実現できることを認識しながら,あえて,その場あるいはB方の別室で待機し,これを認識したBの殺人の犯行を容易にして幇助した。
第2 (平成14年(わ)第695号・平成14年6月14日付け起訴分)
 
被告人は,債権取立の名目で,D(当時70歳)から現金を恐喝しようと考え,福岡県d市ef丁目g番地hE市営住宅i号所在のD方玄関前で,同住宅の階段に備付けの消火器1本を用い,D方玄関ドアの取出口を通してD方内部に消火剤を噴射した上で,平成13年10月22日ころ,京都府内からD方に電話をかけ,Dに対し,「消火器は俺がまいたんや。警察に言うなら言え。お前が何をしようが何も怖くない。どんなことでもするぞ。」,「こうなったら1万5000円で許してやる。1万5000円を俺の口座に振り込め。」などと語気鋭く迫って現金の交付を要求し,その要求に応じなければ,Dの身体,財産等にいかなる危害を加えかねない態度を示してDを怖れさせた。その結果,平成13年10月23日から同月29日までの間,3回にわたり,福岡県d市j町k丁目l番地のmの株式会社E銀行e支店ほか1か所で,Dに,福岡県a郡b町大字no番地pのE銀行b支店の被告人名義の普通預金口座に現金合計1万5000円を振込入金させて脅し取った。
第3 (平成14年(わ)第1022号・平成14年4月16日付け起訴分)
 
被告人は,平成14年2月21日午後10時55分ころ,京都府q郡r町大字s小字tu番地のv所在のJRF線G駅東側路上で,H(当時18歳)が自動二輪車の蛇行運転により被告人運転の自動車の進行を妨害したと誤信して立腹し,Hに対し,その顔面を多数回殴打し,その腹部を数回足蹴にするなどの暴行を加えた。その結果,Hは,加療約1か月間を要する頭蓋骨骨折,顔面裂創,眼窩気腫,鼻骨骨折の傷害を負った。
第4 (平成14年(わ)第1022号・平成14年4月26日付け起訴分)
 
被告人は,法定の除外事由がないのに,平成14年3月27日ころ,京都府q郡r町大字x小字yz番地所在の被告人方で,フエニルメチルアミノプロパンの塩類を含有する覚せい剤約0.045グラムを水に溶かして自己の身体に注射して,覚せい剤を使用した。

(証拠)〈省略〉
(補足説明)
第1 争点
 
弁護人は,第1の事実のうち,平成8年12月18日午後9時30分過ぎころから同日午後10時30分過ぎころの間のBの暴行(判示第1の1の事実。以下「第1暴行」という。)については争わないが,〔1〕同日午後10時30分過ぎころから同日午後11時ころまでの間のBの暴行(判示第2の2の事実。以下「第2暴行」という。)については,正犯であるBに殺意はなく,傷害致死罪が成立するにとどまる,また,〔2〕第1暴行,第2暴行ともに,被告人の行為は幇助が成立しないから,被告人は無罪である旨主張する。したがって,本件の争点は,〔1〕第2暴行につき,Bに殺意が認められるか,〔2〕第1暴行,第2暴行につき,被告人に幇助が成立するかの各点である。
第2 証拠上認められる事実
 
関係証拠によれば,以下の事実が認められる。
1 被告人,B及びC(以下「被害者」という。)の関係
(1)Bは,暴力団A組の組長であり,被告人は,平成8年8月末ころに,それまで勤務していた運送会社を辞めて,B組の事実上の組員として活動していた。これに対し,被害者は,福岡市aaで経営していたパブ等を閉店し,平成5年5月ころから,妻のIの経営する麻雀店「K」の手伝いをしていた。
(2)Bは,平成8年11月中旬ころ,当時運転手をさせていたB組組員のJが覚せい剤を使用して予定の時間に来なかったことで激怒し,被告人らの前で,Jを木刀で手加減なく殴り続けた上,床の上に横たわったJの頭を目がけて,直径50センチほどの大皿を落とし,大皿をJの頭に当てて粉々に割るという暴行を加えた。Jは,このときの怪我で入院したため,被告人が,Bの運転手を務めるようになった。
2 「K」の回銭使い込みの経緯
(1)Bは,平成8年夏ころから,被害者に出資して,ゲーム喫茶を経営させていたが,売上げがよくなかったため,Bは,「K」にゲーム機を導入することにし,被害者に,ゲームに勝った客への払い戻しに充てるなどの目的に使う運転資金(以下「回銭」という。)として約40万円を被害者に預けて経理を行わせるとともに,LらB組組員数名を「K」に出入りさせ,売上金の集金等を行わせた。
(2)ところが,被害者は,JやLらB組の組員からせがまれて,Bから預かった回銭の一部をLらに貸し付けたが,Lらが返済しなかったために,回銭に穴をあけた形になった。Bは,平成8年11月中旬ころ,被告人に,「Lに集金任してたのに,全然持ってこらへんかった。」,「C(被害者)が回銭食っとる。」などと不機嫌そうな顔で話していた。そして,Bは,平成8年12月16日か17日ころの昼間に,被害者を福岡市内にあるファミリーレストランに呼び出して追及した上で,同月18日に,Q拘置所に収監されていたLと面会して,回銭の使い込みを確認した。
3 平成8年12月18日夜の状況
(1)平成8年12月18日午後7時か8時ころまでの状況
 
Bは,同日午後7時か8時ころ,被告人とともに,Bの自宅居間で夕食を食べた。このとき,Bは,不機嫌そうな顔で,「Cが8時ころ来るもんね。来たらしまやかす。」などと言った。
これを聞いて,被告人は,Bが「K」の回銭のことを被害者に徹底的に追及するつもりであると考えるとともに,以前,Bが,ビールを飲みながら,Jを殺すつもりではないかと思うくらいに激しい暴力を手加減なしに加えたことを見ていたため,今回も,Jのときと同じように,被害者が死んでしまうほどの激しい暴行を加えることになりかねないと考えた。そして,被告人は,暴力団組織やその組長であるBを守り,Bに手を汚させぬよう,場合によっては,自分がBに代わって暴行を行おうと決意した。
(2)平成8年12月18日午後9時ころから午後10時30分過ぎころまでの状況(第1暴行)
ア Bは、夕食後,酒の酔いで居間で眠り込んでしまった。被告人は,同日午後9時ころ,Bの妻の許しを得てB宅を出て車に乗り込むと,ちょうどそのころ,被害者がタクシーで到着し,Bの家の方に歩いてきた。そこで,被告人は,「遅いんじゃ。もう親分寝はったぞ。さっさと来んかい。」などと怒鳴りつけるとともに,被害者の右肩あたりをつかんでB方の玄関前に連れて行った。 
イ 被告人は,被害者を玄関に立たせたまま居間に入って,被害者の来訪をBに告げた上で,玄関に戻って,「なにぐずぐずしとんねん。おら,早く入れ。」などと言いながら,被害者の後ろ襟首をつかんで,居間であぐらをかいて座っているBの前まで連れて行った。そして,「おら,座れ。」などと言いながら,肩あたりを下に押して,被害者をBの正面に正座させた。
被告人は,被害者が逃げ出そうとしたときには,これを阻止するとともに,Bから指示されればすぐに暴行を加えられるよう,居間の入口のフローリングの上で正座して,被害者の様子を監視することにした。これに対し,Bも,被告人に,「席を外せ。」とか,「もう帰ってよい。」などと言うことはなかった。
ウ Bは,ビールを飲みながら,被害者が持ってきた「K」の帳簿のノートを見て,「回銭が合わんやないか。」などと怒鳴りつけ,テーブルを手や拳で何回も叩いた。被害者は,被告人に謝罪しながら説明を続けたが,Bは,あぐらをかいて座った体勢から振り向きざまに,「お前,なめとらせんか。」,「回銭が合わんやないか。お前が食うとるのは分かっとる。」などと怒鳴りながら,被害者を左手の裏拳で数回殴りつけた上,顔面や頭部を殴りつけたり,被害者の顔面や頭部を膝で数回蹴りつけるなどの暴行を加えた。
この間,被告人は,Bの暴行の邪魔にならないよう居間のカウンター脇に下がって,Bの指示があればいつでも被害者に暴行を加えられるように待機し,Bの指示でビールを冷蔵庫から取ってくるなどした。そして,途中Bがトイレに行った際も,被害者の側で待機していた。
エ さらに,Bは,被告人が渡したビールを飲みながら被害者を追及し,被害者が「すいません。」などと口にする度に,被害者の顔面を殴りつけた。Bが,「お前が食うとるのは分かっとるんぞ。」などと怒鳴りつけると,被害者は,「Lさんがお金を持っていくんで,どうしようもないんです。」などと言った。
このとき,被告人は,被害者が回銭の使い込みを兄貴分であるLのせいにしていると思って腹が立ち,被害者に,「お前,言い訳ばっかするな。何を人のせいにしよるんじゃ。言わすぞ。」などと怒鳴った。被害者は,横座りのまま黙り込んでしまったが,Bは,被告人を制止することもないまま,「それならそれでなんで俺に言わんのか。」などと怒鳴りつけながら,被害者の顔面を殴りつけた。被告人は,Bのビールがなくなる度に冷蔵庫から新しい缶ビールを取出してBに手渡すなどしながら,居間のカウンター脇で待機していた。
オ 被告人は,同日午後10時過ぎころ,冷蔵庫のビールがなくなったためにビールを買いに出た。被告人は,途中,B組のMからの電話に出るなどして,B方に戻った。
(3)平成8年12月18日午後10時30分過ぎころから午後11時ころまでの状況(第2暴行)
ア 同日午後10時30分過ぎころ,被告人がB宅に戻ると,被害者は,居間に横たわった状態であり,Bは,被害者の脇に立って被害者を蹴りつけていた。Bは,両腕を顔の前あたりにかざして暴行をふせごうとする被害者に対し,左後頭部や首の付近,背中,腹などに,右膝を落としたり,右足のかかとで踏んだりして蹴りつけた。この間,被害者は,血まみれの状態で,「すいません。すいません。」などと悲鳴を上げていたが,Bの暴行は全くおさまる様子はなく,かえって,被害者の顔面に火のついた煙草の先端を押し当てたり,ひげをむしり取ったりした。
被告人は,Bの激しい暴行を見て,Bの怒りは相当なものであり,Bが被害者を殺すつもりかもしれないが,B組や組長であるBを守り,Bに手を汚させぬよう,下位のものである被告人が体を張って,Bに指示されればBに代わって被害者に暴行を加えなければならないし,Bが被害者を殺したときはBに代わって罪を背負わなければならないと考えた。被告人は,この後も,Bにビールを手渡したりしたが,Bから席を外せとか,もう帰れという指示もなかったことから,Bも被告人が待機していることを望んでいるに違いないと考え,居間のカウンターの脇で待機していた。
イ その後も,Bは,横たわる被害者に右膝を落として蹴りつけたり,踵でふみつけたりという暴行を続けた。
このころ,Mから電話がかかり,被告人が電話に出ながら,「もうちょっとかかります。」などと言うと,Bは,その声が気に障ったようで,「向こうに行ってろ。」と言った。被告人は,電話をするなら別の部屋でしろという意味と思い,B宅1階の和室に行って,Mや別の女性に電話をしたが,その10分間ほどの間にも,ドーン,ドーンという何かが物にぶつかる音がしていた。被告人は,Bが暴行を続けていると考えたが,Bは別室で待機していることを望んでおり,Bが被告人に暴行を加えさせるときは呼ばれるに違いないと思い,そのまま待機していた。
(4)平成8年12月18日午後11時以降の状況
 
Bは,同日午後11時ころ,「おーい。おーい。」と怒った声のまま絶叫するような大きな叫び声で被告人を呼んだ。
被告人が居間に入ると,被害者は身動きをせずに顔や唇が腫れ上がった状態であり,床には血だまりができていた。被告人は,被害者の心臓の鼓動を確かめたところ,鼓動の音が聞こえなかったので,Bに,「心臓止まってまっせ。」などと言った。しかし,Bは,被告人の言葉を聞いても,全く驚いたような表情を見せずに,何の言葉も発しないまま,被害者の持ち物であった小さなメモ帳を熱心に読み続けて平然としていた。
その後,Bは,被告人に指示をして,居間の床等の被害者の血痕を拭きとった上で,被告人とともに,被害者の遺体を自宅から運び出して車に乗せ,翌19日午前1時ころ,福岡市bb区ccdd丁目ee番N西側岸壁から遺棄した。
4 遺体の状況
 
被害者の遺体は,平成8年12月19日に,福岡市bb区ccdd丁目ee番岸壁先海上で発見され,O医師により解剖が行われた。
被害者の遺体には,頭部,背面の広範な組織間出血があり,ほぼ全身体表に計31か所に鈍体の作用による圧挫傷,打撲傷の類があるほか,足で蹴りつけるなどで生じたと考えられる肋骨の骨折や,被害者の左腸骨部外側に,小鶏卵大のデコルマン現象(皮膚と筋膜との間のずれ)が認められた。
O医師の所見によると,被害者は,脊椎脱臼による脊髄圧迫,すなわち,第1頸椎と第2頸椎の間の脊椎が脱臼し,脱臼部位が脊髄を圧迫することで,呼吸系統等の機能が害されることで死亡したものである。この脊椎脱臼の原因は,頭部が強い力で押しやられたことによる過伸展しか考えられず,頭部と胴体部をV字型にさせるような強い外力が加わったためにできたものと判断された。
なお,P医師の所見によれば,外力が加わって脊椎が脱臼するまでの間と,脊椎が脱臼してから脊髄の圧迫により死に至るまでの間はいずれも瞬時であり,被害者は,ほぼ即死といってよい状態だったと考えられる。また,脊椎脱臼は,ただうなじの部分を蹴りつけたという程度の強度の暴行では生じず,交通事故による衝撃に匹敵するくらい,つまり,大人の男性が,体重をかけてうつぶせに寝た状態の被害者のうなじの部分を膝や踵で思い切り踏み付けるという暴行が加えられたと考えられる。
第3 Bの殺意
 
そこで,Bの殺意の有無を検討する。
1 まず,Bの第2暴行に至る経緯や暴行の態様をみると,認定事実(第2の3(2)及び同(3))のとおり,Bは,平成8年12月18日午後9時ころから,居間で正座あるいは横座りの状態にある被害者に,断続的に殴る蹴るなどの暴行を加えていたが,同日午後10時30分過ぎころに,被害者が横たわってほとんど無抵抗の状態となると,Bは,暴行をますますエスカレートさせて,約30分間も,一方的に,被害者を多数回踏んだり蹴りつけたりするなどの暴行を加え続け,その結果,被害者の頭部,背部の広範な組織間出血やほぼ全身31か所の圧挫傷,打撲傷等のほか,肋骨骨折,デコルマン現象等を生じさせた。このようなBの暴行態様は,凶器を使っていないとはいえ,執拗で激しい攻撃意思をうかがわせるものであり,とりわけ,致命傷となった脊椎脱臼による脊髄圧迫の傷害は,頭部と胴体をV字型にさせるような形で,横たわる被害者の首付近に体重をかけて思い切り強く踏みつけて生じたと解され,身体の枢要部であっても手加減を加えた様子は認められない。
以上のような事情から考えると,遅くとも午後10時30分過ぎころに,Bが,横たわってほとんど無抵抗の被害者に暴行を加えるようになった段階では,Bの暴行が被害者の生命を奪う危険性は飛躍的に高まったということができる。そして,Bは自ら暴行を行ったものであるから,このことの認識に欠けるところはなかったと解される。
2 しかも,認定事実(第2の3(4))のとおり,Bは,犯行後に,被告人が被害者の死亡を確認して,「心臓止まってまっせ。」などと言うのを聞いて,驚いた表情も見せずに,言葉も発しないまま,被害者の持ち物である小さなメモ帳を熱心に読み続け,その後,被告人とともに被害者の死体を遺棄したというのであり,この間,被害者に対する救護の処置を執ろうとした形跡は認められない。
このようなBの犯行後の行動状況からすると,Bは,被害者の死亡を当然の結果として冷静に受け止めていたことがうかがわれ,Bにとって,被害者の死亡は意図した結果であったということができる。
3 加えて,本件犯行に至る経緯をみると,認定事実(第2の2)のとおり,Bは,被害者にゲーム喫茶の回銭として約40万円を預けていたところ,被害者がLらに回銭の一部を貸し付けたのを,被害者の使い込みと考え,被害者を自宅に呼び出して,半ば制裁を加える形で暴行を加えたものである。とりわけ,事件の直前に,Bが,被告人に対し,「来たらしまやかす。」などと不機嫌そうな顔で述べていた経緯からすると,Bの被害者に対する怒りは相当強いものであったとうかがわれる。そして,認定事実(第2の1(2))のとおり,BがこれまでもB組の組員に対して激しい暴行を加えた経験があるなど相当激しやすい性格であったことを考えると,本件当時は,酒に酔っていたことの影響もあって,激情のあまり,被害者に,見境のない激しい暴行を加え続けて死亡させたとみるのが相当である。
4 以上によれば,Bは,遅くとも,平成8年12月18日午後10時30分過ぎころには,被害者が死亡するかもしれないと考えながら,あえて暴行を加えたと認められ,Bの未必的殺意は十分認定できる。
第4 被告人の幇助
 
次に,被告人の幇助の成否を検討する。
1 第1暴行の幇助の成否
 
まず,第1暴行の幇助の成否については,認定事実のとおり,被告人は,Bが被害者に対して激しい暴行を加えるかもしれないことを知っていたことから,第1暴行に先立ち,Bのために,B方前路上付近で,被害者の肩をつかむなどして被害者をBの面前まで連れて行き,被害者の襟首付近をつかんでBの面前に正座させた。そして,Bが暴行を加えた際には,Bのために,被害者の側で待機して被害者の逃走を防止するなどして応援したものである。
したがって,被告人は,Bの第1暴行を,物理的に容易にしたものと認められ,被告人には第1暴行の幇助が成立する。
2 第2暴行の幇助の成否
 
次に,第2暴行の幇助の成否を検討する。
(1)まず,認定事実のとおり,第2暴行の行われた平成8年12月18日午後10時30分過ぎころの段階では,被害者は横たわってほとんど無抵抗の状態となっており,被告人も,このころには,被害者の側で待機してBにビールを手渡したほかは,被害者の監視や逃走防止のための積極的な行為は何ら行っていない。したがって,被告人の行為が,Bの殺害の犯行を物理的に容易にしたと認めることは困難である。
(2)しかしながら,
ア 認定事実のとおり,被告人は,B組の事実上の組員であり,第2暴行の段階では,Bが被害者を殺害するかもしれないことを察知し,被告人がB方で待機すれば,Bが安心して被害者の殺害の犯行を実現できることを認識しながら,あえて被害者の側あるいはB方の別室で待機していたものと認められる。
したがって,被告人に幇助の故意は認められる。
イ そして,認定事実のとおり,B自身も,第2暴行の途中で被告人に別室に行くように指示をしたとはいえ,犯行後は直ちに,被告人を居間に呼び出し,被害者の遺体の処分等を手伝わせているのであるから,暴力団組織の事実上の組員であり,組長のBとは絶対的な上命下服の関係にあった被告人が,いつでもBの呼び出しに応じられる場所で,命令を受ければいかなる行為もする意思のもとに待機していることは十分認識していたと解される。したがって,Bにとっても,被告人が待機していたことで,安心感をもって被害者殺害の犯行を行うことができたとみるのが相当である。
(3)以上によれば,被告人の行為は,Bの被害者殺害を心理的に容易にしたものと認められ,被告人には,第2暴行の殺人幇助も十分成立する。
3 なお,弁護人は,仮に被告人に幇助が成立するとしても,Bから暴力的支配を受けていたことから責任能力がないとの主張もしているが,これは弁護人独自の見解であり,採用することはできない。
第5 結論
 
以上によれば,判示事実は十分認定できる。
(確定裁判)

1 事実
 
平成9年8月5日福岡地方裁判所宣告
 
傷害,逮捕監禁致傷の罪により懲役2年,4年間執行猶予
 
平成10年1月29日確定
2 証拠
 
前科調書(検38)
(法令の適用)
罰条
 
第1 包括して刑法62条1項,199条
 
第2 刑法249条1項
 
第3 刑法204条
 
第4 覚せい剤取締法41条の3第1項1号,19条
刑種の選択
 
第1 有期懲役刑
 
第3 懲役刑
法律上の減軽(幇助)
 
第1 刑法63条,68条3号
併合罪加重
 
第1の罪と前記確定裁判のあった傷害,逮捕監禁致傷の罪とは刑法45条後段の併合罪であるから,同法50条によりまだ確定裁判を経ていない第1の罪について更に処断することとし,また第2ないし第4の各罪は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により犯情の最も重い第4の罪の刑に法定の加重
未決勾留日数算入 刑法21条
訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑理由)
 
まず,本件殺人幇助(第1)をみると,被告人は,正犯であるBが,被害者がゲーム喫茶の運転資金を使い込んだと考えて被害者に暴行を加えた際,もともと被告人自身には被害者に対する何の恨みもないにもかかわらず,自己が関係する暴力団組織の組長であるBの意思に従って,凶悪かつ残虐な重大犯罪に安易に加担し,その実現を容易にしたものであり,暴力団特有の論理にもとづく犯行動機に酌量の余地はない。
 
また,被告人は,第1暴行では,被害者をB方前の路上からBの面前まで連行するとともに,Bが被害者に暴行を加える際,被害者の側で待機して被害者の逃走を防止するなどして,Bの暴行を物理的に容易し,第2暴行でも,Bが被害者を殺害するかもしれないことを認識した後も,Bを止めることなく,むしろ,Bが安心して殺害行為ができるようB方に待機して,Bの犯行を心理的に容易にしたものであり,被害者に直接暴行を加えることはなかったとはいえ,その犯行態様は悪質で,被告人が果たした役割も軽視できない。

 本件幇助の結果,Bは,血まみれで床に横たわった状態の被害者に対し,一方的に,膝蹴りや踵で踏み付けるなどの手加減のない暴行を加え,頭部,背部の組織内出血や全身計31か所の外傷,肋骨骨折等を負わせて殺害するという,まことに凶悪かつ残虐な犯行を実現している。当時43歳と働き盛りの命を奪われた被害者の無念や肉体的精神的苦痛は計り知れず,残された妻ら遺族の心情を考えると,幇助とはいえ,本件犯行の結果は重大である。
 
次に,本件恐喝(第2)は,無免許で貸金業を営み,被害者にも法外な利息で貸付をしていた被告人が,それまでの1か月半ほどの間に,既に元本の2倍にあたる金額2万円の返済を受けて暴利を貪っていたにもかかわらず,利息の返済が滞った被害者に対し,債権取立の名目で,恐喝したという事案である。暴力に訴えて理不尽な要求を貫こうという,暴力団特有の身勝手な犯行動機に酌量の余地はなく,また,犯行態様は、高齢の被害者の一人暮らしの自宅マンション内に消火剤をまき散らした上で,激しい口調で何度も電話をかけて畏怖させるというもので,卑劣かつ陰湿である。被害者が受けた恐怖感等の精神的苦痛や財産的損害を考えると,犯行結果も軽視できない。
 
また,本件傷害(第3)は,他の暴力団組員らとともに,「族狩り」と称して暴走族に無差別に制裁を加えていた被告人が,駐車中の自動二輪車の側に立っていた被害者を暴走族と勘違いして,いきなり一方的に殴る蹴るの暴行を加えて傷害を負わせたという事案である。「族狩り」などという身勝手かつ短絡的な犯行動機に酌量の余地はなく,暴行態様も強度である。しかも,被害者にしてみれば全くの言いがかりで落ち度はないにもかかわらず,突然の理不尽な暴行を受けて,頭蓋骨骨折等の重い傷害を負っており,犯行結果も重大である。これに対し,被告人は,何らの慰藉の措置も講じておらず,被害者の被害感情が厳しいのも当然である。 
 
さらに,覚せい剤の自己使用事案(第4)をみると,被告人は,知人から入手した覚せい剤を安易に使用しており,犯行動機,経緯に酌量の余地はない。しかも,被告人は,未成年のころからこれまで常習的に覚せい剤を使用していたことからすると,覚せい剤との強い結びつきが認められる。
 
被告人は,未成年のころからこれまで断続的に暴力団組員として活動していたものである。本件もいずれも暴力団に起因する犯行であり,とりわけ,第2ないし第4は,前記確定裁判のとおり,被告人が他の暴力団組員と行った傷害,逮捕監禁致傷の罪による有罪判決の執行猶予中あるいはその期間の終了後間もない時期に行われていることを考えると,被告人には暴力団との根深いつながりや犯罪傾向の深まりが認められる。
 
他方,第1の2の殺人幇助の点は,心理的な幇助に止まること,被告人が捜査段階で罪の償いをする覚悟を決めて各犯行について概ね素直に供述しており,とりわけ第1の事案の真相解明は,被告人が捜査に協力して供述したことが大きく寄与していると認められること,被告人が,公判廷において,社会復帰後は暴力団とのつながりを断ち,土木建築等の免許を生かして真面目に働きたいと誓って反省していることなど,被告人にとって有利な事情も認められる。
 
そこで,以上の事情を総合考慮して主文のとおり量刑した。
(求刑 第1につき懲役4年,第2ないし第4につき懲役4年)
平成14年12月26日
福岡地方裁判所第3刑事部
裁判長裁判官 陶山博生 裁判官 國井恒志 裁判官 岡崎忠之

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