恐喝福岡4

恐喝福岡4

福岡高等裁判所那覇支部/平成九年(う)三三号

主文
原判決を破棄する。
被告人Aを懲役二年六月に、被告人Bを懲役二年に各処する。
原審における各未決勾留日数中、被告人Aについては三〇〇日を、被告人Bについては五〇〇日を、それぞれその刑に算入する。
原審及び当審における訴訟費用は、被告人らの負担とする。

理由
一 検察官の本件控訴の趣意は、検察官南野聡作成名義の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は、弁護人真境名光(被告人A関係)及び弁護人粟國弘幸(被告人B関係)作成名義の各答弁書記載のとおりであり、また、被告人Aの本件控訴の趣意は、弁護人粟國弘幸作成名義の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は、検察官高島剛一作成名義の答弁書記載のとおりであるから、これらを引用する。
2 本件の経過
1 起訴状記載の公訴事実
 
被告人両名に対する起訴状記載の公訴事実(一項恐喝)の要旨は、「甲野会乙山一家総長である被告人A(以下「被告人A」という。)及び同一家総長代行兼丙川組組長である被告人B(以下「被告人B」という。)は、共謀の上、平成二年七月二四日ころ、沖縄市所在のレストラン「クリスタルガーデン」店内において、C(以下「C」ないし「被害者」という。)が配下組員らに暴行脅迫されて畏怖しているのに乗じ、右Cから金員を喝取しようと企て、同人に対し、被告人Bが「オヤジに協力できるとのことだが、五〇〇〇万円協力してほしい」と申し向けて金員の提供を要求し、右Cをして、これに応じなければ、右乙山一家の組員らから再び自己の生命、身体等に対しどのような危害を加えられるかもしれないと畏怖させ、よって、そのころ同所において、右Cに三〇〇〇万円の支払いを約束させた上、右約束に基づき、同年八月六日ころから同年九月六日ころまでの間に、同市内の割烹「たつ花」において、同人の模合の落札金一八〇〇万円の交付を受けてこれを喝取した。」というものである。
2 原判決の内容
 
原判決は、被告人Aについては恐喝の故意を有していたものと認めるには合理的な疑いがあるとして無罪を言い渡し、被告人Bについては、以下のとおりの犯罪事実(一項恐喝)を認めて、懲役二年、四年間執行猶予の判決を言い渡した。
 
すなわち、原判決の認定した犯罪事実の要旨は、「被告人Bは、平成二年七月二四日ころ、沖縄市内のレストラン「クリスタルガーデン」店内において、Cが自己の配下組員らから暴行脅迫されて畏怖しているのに乗じ、右Cから被告人Aに金員を交付させてこれを喝取しようと企て、Cに対し、「Cさん、五〇〇〇万円協力できますか」などと申し向けて金員の提供を要求し、右Cをして、これに応じなければ、右配下組員らが再びCの生命、身体等に対しどのような危害を加えるかもしれないことを暗に示して黙示の脅迫をし、同人をしてその旨畏怖させ、よって、そのころ同所において、右Cをして、被告人Aに三〇〇〇万円の支払いをする旨約束させた上、右約束に基づき、同年八月六日ころから同年九月六日ころまでの間に、同市内の割烹「たつ花」において、被告人Aが主宰し、Cが参加する模合で、Cが権利を有する模合の落札金一八〇〇万円につき、被告人AがCに代わってこれを落札し、同人のために占有するに至った右落札金から入札金相当払戻金等を控除した残額約一四〇〇万円を、簡易の引渡しにより被告人Aに交付させ、もって、これを喝取した」というものである。
3 当審における経過
 
検察官及び被告人Bは、右原判決に対し、前記のとおり控訴をし、検察官は、被告人Aにつき事実誤認を、被告人Bにつき事実誤認及び量刑不当をそれぞれ主張し、被告人Bは、事実誤認を主張した。
 
そして、検察官は、当審において、次のとおり、予備的に訴因及び罰条の変更を請求した。
 
すなわち、検察官の予備的訴因変更後の事実(二項恐喝)の要旨は、「甲野会乙山一家総長である被告人A及び同一家総長代行兼丙川組組長である被告人Bは、共謀の上、平成二年七月二四日ころ、沖縄市内のレストラン「クリスタルガーデン」店内において、Cが配下組員らに暴行脅迫されて畏怖しているのに乗じ、右Cから金員を喝取しようと企て、同人に対し、被告人Bが「オヤジに協力できるとのことだが、五〇〇〇万円協力してほしい」と申し向けて金員の提供を要求し、右Cをして、これに応じなければ、右乙山一家の組員らから再び自己の生命、身体等に対しどのような危害を加えられるかもしれないと畏怖させ、よって、そのころ同所において、右Cに三〇〇〇万円の支払いを約束させた上、右約束に基づき、そのころ、被告人Aが右Cから、被告人Aが座元をつとめ、Cが座員として参加する模合において、これに入札してその落札金一八〇〇万円を受領する権利の譲渡を受け、もって、財産上不法の利益を得た」というものである。
三 検察官の控訴趣意中被告人両名についての事実誤認の主張について
1 所論(当審における弁論を含む。以下、同じ)は、要するに、関係証拠によれば、被告人Aには恐喝の故意が認められ、したがって、被告人両名が共謀の上、被害者から一八〇〇万円の金員ないし同額相当の模合における権利を喝取したことが認定できるにもかかわらず、原判決は、前記のとおり、被告人Aを無罪とし、被告人Bについても、被告人Aとの共謀を否定したうえ、喝取金額を約一四〇〇万円と縮小認定しており、いずれも判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある、というものである。
2 そこで、原審記録を調査し、当審における事実調べの結果を併せて検討するに、被告人両名の検察官に対する供述調書に任意性が認められることは原判決が正当に判断するとおりであり、右各調書を含めた関係各証拠によれば、以下の各事実が認められる。
(一)甲野会乙山一家は、被告人Aを総長とする暴力団組織であり、同一家における格付けは、総長である被告人Aが最高位であり、次順位が若頭のD、第三位が総長代行のE及び被告人Bであり、F、G及びHはいずれも同一家に所属していて、F及びGは、Eの配下にあり、Hは被告人Bの配下にあった。
 
そして、乙山一家の組員が「親分」という場合には、被告人Aのことを、「頭(かしら)」という場合には、Dのことをそれぞれ指し、「代行」という場合には、Eまたは被告人Bのうち自己の直属する総長代行を指していた。
(二)Cは、不動産業や金融業等を営む有限会社丁原産業の代表者をしていた。Cは、昭和五六、七年ころから、兄の友人であったDと親しくなり、その後、Dから手形割引を依頼されるようになったが、昭和五八年ころからは、被告人A、E、Fらも有限会社丁原産業に出入りし、手形割引等を依頼するようになった。
 
また、Cは、昭和五八、九年ころから、被告人Aから勧誘されて、同被告人が座元として主宰する模合に参加するようになり、一時は口数も約五口となり、掛け金も相当額に及ぶようになった。
 
その後、Cは、被告人Aらが持ち込んだ手形、小切手が不渡りとなり、また、バブル経済の崩壊の影響等もあって、会社の経営が苦しくなってきたことから、平成元年から同二年ころにかけ、次第に被告人Aの主催する模合への参加を控えるようになり、また、同被告人が持ち込む手形の割引もできる限り断るようになった。
 
なお、Cは、右のとおり、被告人Aの主宰する模合に参加したり、被告人Aの持ち込む手形等を割り引いたりしていたものの、同被告人とそれ以外のつきあいはなかった。
(三)被告人Aは、右のとおり、Cが被告人Aへの経済的協力をしなくなってきたため、平成二年六月ないし七月ころ、E、被告人Bや他の組員らに対し、「Cは最近、非協力的になっており、許せない」などと、同人への不満を口に出すようになった。
 
そこで、Eらは、同年七月中旬ころ、F、G、Hらに対し、Cにつき「親分が怒っている。この野郎をいばらしてはいかん。どこかへ行って殴ってこい。」などと述べるなどしたことから、F、G及びHは、その後まもなく、Cに暴行脅迫を加えて被告人Aに金銭的な協力をさせることが被告人Aの意向に沿うものと考えて、これを共謀し、モデルガンを購入するとともに、人気のない山中を下見し、自動車内に角材を積み込むなどして、その準備を進めた。
(四)F、G及びHは、同月二四日ころ、Eの自宅に集合したうえ、有限会社丁原産業事務所へと赴いた。そして、G及びHは近くの喫茶店前路上で待機し、FがCを同事務所から誘い出し、同人を自己の運転する自動車の後部座席に乗せた。その後、G及びHも、右喫茶店前路上において、Cを挟み込むように右自動車の後部座席に乗り込み、F、G及びHは、そのままCを人気のない山中に連れ込んだ。
 
同所に来るや、HがCに対し自動車から降りるように指示した。Gは、自動車のトランクから角材を取り出し、Cに対して「いばっているな。殺してやろうな。」などと述べるとともに、歩き出したCの背後からその背中付近等を二度殴打した。さらに、Hは、自動車のトランク内のショルダーバッグからモデルガンを取り出し、これを同人に突きつけ、「自分たちの親分になぜ協力できないか。今日は殺してやろうな」「親分に協力するのであれば殺さないが、親分に協力できるか」等の趣旨を沖縄の方言で述べた(以下、沖縄の方言による発言も、標準語で表記することとする。)。Cは、右モデルガンが本物のけん銃であると信じ、被告人Aに対する協力を断ると殺されるものと思い、「協力するので、助けてほしい」と哀願した。
 
そこで、F、G及びHは、具体的な協力の内容については乙山一家の幹部との間で話し合わせようと考え、Cに対し「親分が待っているので行こう」と述べ、Cを再び自動車に乗せ、その後、同人をEの自宅に連れていった。
(五)Hは、Eの自宅に行く途中、ドライブインで被告人Bに電話をし、「C社長を山に連れていって殴ってあるので、来てほしい」と伝えた。
 
Eの自宅に着いた後、Gは、同所において、日本刀を持ち出し、Cに対し「自分は気が短いから、いつ刺すかわからないぞ」などと言って、脅迫を続けた。
 
また、Fは、同所から被告人Bに改めて電話をし「Cを脅してE代行の家に連れて来ているが、E代行がいないので、来てほしい」と依頼した。
 
そこで、被告人Bは、まもなくEの自宅に赴き、直ちにHらに対し、「C社長になにをするか」としかるとともに、「応接間でCと話をしたところ、同人が「被告人Aに協力するから、助けてくれ」などと述べたことから、その話を被告人Aに取り次ぐこととした。

 まもなく、Eも自宅に戻り、Cが配下組員に脅されたために被告人Aに協力する旨申し出るに至ったことを知った。そこで、Eが被告人Aを呼びに行くこととなった。Eは、すぐに被告人Aの自宅に赴き、同被告人に対し、Cが金銭的な協力をすることで話がついたので、被告人AにおいてCと直接話をしてほしいという趣旨を伝えた。そこで、同被告人はEとともに、Cと直接話をつけるため、レストラン「クリスタルガーデン」に赴いた。

 他方、被告人Bは、まもなくCをEの自宅から連れ出し、自分の自動車に乗せてクリスタルガーデンに向かった。
(六)被告人A及びE並びにCを連れた被告人Bは、沖縄市字登川一四四九番地所在のレストラン「クラスタルガーデン」で合流し、同店の奥にある個室(一般席とは壁及びドアで完全に遮断されていて、VIPルームと呼ばれている部屋)に入ったうえ、Cを取り囲むようにして座った。Cは、同室内において、うつむき加減のまま沈黙していたことから、まもなく、被告人BがCに対し、突然に「親分に協力するとのことであるが、五〇〇〇万円の協力をしてくれ。」と切り出した。
 
Cは、それまで被告人Bらに対して被告人Aへの協力方を申し出ていたが、その意味について、従来のように模合に参加したり、手形を割り引いたりすることと考えていたため、右Bの要求に驚愕したが、これを拒絶すれば再びどのような危害を加えられるかもしれないと思い、「三〇〇〇万円なら協力する」と答えた。すると、被告人Aは、被告人Bが五〇〇〇万円を要求し、Cが三〇〇〇万円の提供を申し出た理由などについて何ら問い質すことなく、「三〇〇〇万円なら上等だ」と述べ、Cに三〇〇〇万円の支払いを約束させたことから、その後、被告人A、同Bらは特に話しもせず、また、食事をすることもなく、クリスタルガーデンを出た。
 
店外には、H又はFが待機しており、そのいずれかが被告人Aを自宅まで送った。
(七)また、Cについては、EがC宅に送っていった。Eは、車中で、Cに対し、「事件に関係した子分たちに難儀手間をあげる必要があるので、一〇〇万円出してくれ」と要求したことから、Cは、翌二五日ころ、Eに一〇〇万円を支払った。
(八)Cは、同じく翌二五日ころ、Dに対し、Eの配下組員からけん銃を突きつけられるなどしたため、被告人Aに三〇〇〇万円を支払うことを約束させられた旨を説明するとともに、「三〇〇〇万円を準備することは不可能なので、まだ自分が入札していない被告人Aの主宰する掛け金一〇〇万円(総額一八〇〇万円)の模合を被告人Aが取得するということで、話をつけてほしい」と依頼した。
(九)Dは、Cの話を聞いて憤激し、直ちに被告人Aのもとに赴き、同被告人に対し、「Eの配下組員がけん銃でCを脅したことは許せない」などと述べた。
 
被告人Aは、配下の組員がCに加えた暴行、脅迫の具体的内容を知るとともに、Cが右暴行、脅迫によって畏怖していたために被告人Aに金銭を提供する旨申し出たことをはっきり認識したが、Cの申出を断ろうとはせず、同人の新たな提案に従い、被告人Aが座元をつとめ、Cが座員として参加する掛け金一〇〇万円(総額一八〇〇万円)の模合で、Cがこれに入札して落札金を受領する権利を同人から被告人Aが譲り受け、その余の支払約束分は免除することとして、Cにその旨を伝えた。
 
被告人Aは、まもなく、Cの右権利を行使し、落札金を自ら費消した。
 
他方、Cは、被告人Aからの連絡によって、被告人Aに対して右権利自体を譲って問題が解決したと考え、その後、被告人Aにおける右権利の行使の有無、入札額、入札時期などは全く知らされなかったものの、自分にはもはや権利がないものとして、自ら入札することなく、最後まで、掛け金のみを払い続けた。
(一〇)なお、被告人Aは、その後も、本件に関し、これに関与したEや配下組員を注意したり、制裁を加えたりしたことはなかった。
3 ところで、被告人Bは、原審及び当審において、同被告人はHらから呼ばれたためにEの自宅に行っただけで、HらがCに暴行脅迫を加えたことは全く知らず、ただ、Cがその際に「被告人Aに協力する」旨を申し出たことから、クリスタルガーデンにおいて「被告人Aに協力するとのことであるが、五〇〇〇万円協力してほしい」と述べただけであると弁解する。
 
しかしながら、被告人Bは、Eの自宅において、HらのCに対する振る舞いをしかりつけ、また、Cが被告人らに特段の債務を負っているわけではないのに、被告人Bは、クリスタルガーデンで、Cに対して、被告人Aに五〇〇〇万円を支払うように述べており、これらは、いずれも被告人Bも自認するところ、右事実自体、被告人BがHらにおいてCに対して暴行、脅迫を加えたことを知っていたことを窺わせるものである。また、Fは、捜査段階において、同人が電話で被告人Bに対し「Cを脅迫してEの自宅へ連れてきている」旨を伝えて、被告人BにEの自宅に来てもらった旨述べているところ、配下の組員が総長代行の地位にある者を呼び出す際、その具体的事情を説明するのは当然のことであって、右供述内容は自然かつ合理的であるし、同人は、乙山一家の組員であって、特に被告人Bを罪に陥れるために虚偽の供述をする理由は見当たらず、これらの事情に照らすと、右Fの供述の信用性は高いというべきである。さらに、被告人B自身、捜査段階において、検察官に対し、H及びFから「C社長を殴って痛めつけてあるので、来てほしい」という連絡を受けた旨述べており(原審の検乙第一四号証)、右内容はFの供述とも符合し、十分信用することができる。
 
なお、被告人Bは、右検察官調書につき、既に出来上がっていたものを別室から持って来られ、その読み聞けも早口で行われたため、内容が分からず、実際にも自分の供述していないことを多数記載してあるものであるなどと弁解するが、右検察官調書によれば、同被告人は、検察官から「あなたが、C社長に、A総長に協力するように脅したのではないか」「あなたが、C社長に対し『親分に協力してくれるなら、自分が子分をなだめてやる』などと言って脅したのではないか」などと追求されても、これらを明確に否定するなどしていることが認められるし、暴力団幹部の地位にあり、これまでにも取調べを受けた経験がある被告人Bが、内容のわからないまま調書に署名指印するということ自体、不自然であって、これらの事情に照らすと、同被告人の右弁解は信用できない。
4 したがって、前記2の各認定事実によれば、被告人Bは、Eの自宅に赴く際には、既にHらがCに対して暴行脅迫を加えていたことを知っていたものと認められる。そして、同被告人は、Cが右暴行脅迫によって畏怖していることを認識したうえで、クリスタルガーデンの個室において、被告人A及びEらとともにCを取り囲んだ状態で、同人に対し、五〇〇〇万円支払うように述べているのであるから、右金銭要求は、同時に、その要求を断れば配下組員をしてさらにCの生命、身体等に対していかなる危害を加えるかもしれないことを暗に示したものというべきであり、したがって、被告人Bは、恐喝の故意でその実行行為を行ったものであることは明らかである。
5 また、被告人Aは、原審及び当審において、Eから「クリスタルガーデンでC社長がいい話をするといっているので、一緒に行ってくれないか」と言われたため、クリスタルガーデンに行っただけであって、「Cが協力するということで話がついた」といったことは聞いていないし、Cが金銭的な協力をしてくれるとは思ってもおらず、その後、クリスタルガーデンでは、Cが三〇〇〇万円協力できると申し出たことから、特に疑問を持たずに「協力してくれるならありがたい」と述べただけであり、また、その翌日に、Dから、Eの配下の者がCに暴行、脅迫を加えたことを聞き、三〇〇〇万円を貰うわけにはいかないと思ったものの、その後、その件はDがEと直接話をつけたものと考えていたところ、まもなく、Dから「Cの模合金は落札して使っていいよ。」と言われたことから、DがCから右模合上の権利を取得したうえ自分に譲ってくれたものと思い、これを行使しただけである、などと弁解する。
 
しかしながら、関係証拠によれば、クリスタルガーデンでの実質的な会話は、被告人BがCに対し五〇〇〇万円の支払いを要求し、Cが三〇〇〇万円の提供を申し出たため、被告人Aが右金額で承諾したというだけであるところ、被告人BにおいてCに対して五〇〇〇万円を被告人Aに支払うように要求したり、被告人Aへの協力に消極的になっていたCにおいて全く理由なく三〇〇〇万円の提供を申し出たりするということは、通常の話合いではありえないことであって、それにもかかわらず、被告人Aは、その理由等を何ら問い質すことなく、三〇〇〇万円という金額を承諾するに至っているのである。右事実のみからしても、被告人Aの弁解はきわめて不自然であって、到底信用できない。
 
また、右のとおり、Cに三〇〇〇万円を支払わせることを最終的に決めたのは、一家の最高責任者である被告人Aに他ならないのであるから、その後にCから減額の要請があった際、これをどのように処理するかについても、被告人Aが最終判断するのが当然であると考えられる。したがって、三〇〇〇万円の件についてはDがEと直接話をつけ、模合上の権利は、これとは別に被告人AがDから譲り受けたなどというのもきわめて不自然であって、これまた到底信用できない。そして、CがDに依頼した内容は、前記認定のとおりであるうえ、DがCから模合上の権利を譲り受けられるような、Cに対する具体的反対債権を有していたものとは到底認められず(その旨供述する証人Dの原審供述はきわめて曖昧である。)、被告人A自身、CとDとの法律関係や具体的やりとりを全く知らないのであるから、Cの有していた模合上の権利は、被告人らの配下組員の暴行、脅迫等の結果として、Cから被告人Aに直接譲渡されたものであることは明らかである。
6 しかしながら、同被告人が、Eらからどのような報告を受け、どのような会話をしたうえで、クリスタルガーデンに赴いたかは十分解明されていないといわざるをえない。
 
この点につき,Eは「同人が被告人Aに対し『Cが待っているから。いいように話ができるから顔を見せてくれ』と述べた」と供述しており、また、被告人Aは、捜査段階においては「Eから『オヤジ、C社長と話がついたから一緒に来てほしい。いい話だ。社長が協力してくれると言っている』と聞き、金銭的な協力をしてくれるものと思った」などと供述している。 
 
しかしながら、予め、Cから金員を交付させることを謀議していたなどの事情がない限り、「いい話がある。」「C社長がいい話をする。」「C社長が協力すると言っている」C社長と話がついた」等といった内容は、あまりにも曖昧で漠然としており、Eが、暴力団の一家の総長を夜間自宅から連れ出すにあたり、右のような程度の説明しか行わなかったというのは考えがたいといわざるをえない。
 
また、被告人AとCとの当時の関係は、前認定のとおり、それまでCが被告人Aらの持ち込む手形を割り引きしたり、被告人Aの主宰する模合に参加したりしていたが、次第にそのような協力をしなくなってきたというものであるから、「Cが協力するということで話がついた」という程度の話であれば、その内容は、Cが従前と同様に模合に参加し、あるいは手形割引に協力することになったということを意味するに過ぎないと考えられる。右のような経済的協力であれば、Cにとっても、手形割引手数料を取得したり、模合金を取得したりするなどの対価がありうるものであるし、被告人Aにとっても、一応、経済活動の一環であると説明しうるものである。ところが、その後に、被告人Aが実際に行った言動をみると、同被告人は、被告人BにおいてCに対し全く対価性の認められない五〇〇〇万円の支払いを要求したことを当然のごとく受け止め、これに全く異論を挟まず、「三〇〇〇万円なら上等だ」と述べたうえ、翌日には、HらがCに暴行脅迫を加えていたことを具体的に認識したにもかかわらず、そのまま、全く対価を支払わないまま、Cから一八〇〇万円の模合上の権利を取得したうえ、EやHらにも注意や制裁等を全く与えなかったのであり、これらの事後の事情に照らすと、Eが被告人Aに対して「Cが協力するということで話がついた」という程度の説明しかしなかった旨の被告人Aらの前記供述も、到底信用できないといわざるをえない。
7 以上のとおり、被告人Aが、Eらからどのような報告を受け、どのような会話をしたうえで、クリスタルガーデンに赴いたかは十分解明されていないものの、右5及び6の事情や被告人Aの捜査段階の供述等を総合すれば、少なくとも、Eは、被告人Aに対し、Cが被告人Aに対して金銭的な協力をすることで話がほぼついたので、後は最終的に被告人AがCと直接話をしてその内容を確定すれば足りるといった趣旨を伝えて、被告人Cをクリスタルガーデンまで同道したものと推認することができる。
 
なお、被告人Aは、「Cが金銭的協力を申し出ていることを知り、なぜ金銭的な協力をすると言っているのか思い当たることはないので、CがEや他の組員から脅されたために金銭的な協力をすると申し出ているのかもしれないと思った」などと述べた同被告人の検察官調書は、警察官の暴行、脅迫の影響によるものであるなどと弁解する。
 
しかしながら、被告人Aは、検察官はおろか起訴前の弁護人に対しても、警察官の暴行脅迫を伝えていないというのであり、また、同被告人自身、検察官の取調べは普通であり、できあがった調書についても読み聞けを受けて納得してサインしたと述べているうえ、その内容も、基本的にはCに対する恐喝の事実を否認しているものであって、自分の言い分を十分述べているものと認められるから、右検察官調書のうち自己に不利益な供述をしている部分については、十分にこれを信用することができる。
8 そして、Cは、本件当時、手形の割引や模合への参加といった一応は対価のある関係についてさえ、被告人Aへの経済的協力に消極的になっていたのであり、そのようなCが何らの理由もなく再び自発的に協力を申し出るはずがないのであるから、被告人Aとしては、Eから、金銭的な協力をすることでCと話がほぼついたという趣旨を伝えられた際には、CがEあるいは配下組員による何らかの働きかけを受けて自己に対する協力を申し出ているという推測をしたはずであるし、とりわけ、被告人A自身が、組員らに対して「Cは最近、非協力的になっており、許せない。」と発言していたのであるから、右働きかけが暴力団特有の暴行、脅迫等といった暴力的手法によるものではないかと当然に考えたはずである。
 
そして、実際にクリスタルガーデンに行くや、被告人BがCに要求したのは五〇〇〇万円という巨額の金員であり、全く対価を伴わないものであったのであるから、被告人Aとしては、右発言を聞いた際には、Cへの働きかけは暴力団特有の暴行、脅迫等といった暴力的手法によるものではないかとの考えをさらに強めたものと推認できる。
 
さらに、被告人らの認識によれば、暴力団の一家の総長が、自ら、金銭的協力に関する話をする場所に登場するということは、もはや相手方が拒絶できない状況にあることを意味するのであり、このことは、被告人A自身、「Cが、Bから五〇〇〇万円協力できないかと言われたとき、わざわざ自分が呼び出された以上は、Cが全面的にこれを拒絶することはできないと思った。なぜなら、わざわざ自分が呼び出された後で、Cがこれを断れば、自分の顔が丸潰れになるし、呼び出したEやBの自分に対する顔も丸潰れになるからである。」旨検察官に述べ(原審の検乙第二一号証)、被告人Bも、同被告人がCに対して「五〇〇〇万円を協力してくれ。」と切り出した理由につき、当公判廷において、「Cが『協力する』と言いながら、黙っていたため、自分が言わないと、自分の立場がなくなる」と説明していることからしても、明らかである。
 
加えて、前認定のとおり、被告人Aは、被告人BにおいてCに対し全く対価性の認められない五〇〇〇万円の支払いを要求したことを当然のごとく受け止め、これに全く異論を挟まず、「三〇〇〇万円なら上等だ」と述べたうえ、翌日には、HらがCに暴行脅迫を加えていたことを具体的に認識したにもかかわらず、そのまま、全く対価を支払わないまま、Cから一八〇〇万円の模合上の権利を取得したうえ、EやHらにも注意や制裁等を全く与えなかったのであり、これらの事後の事実も、被告人Aが、もともとEやその配下の者によるCへの暴行、脅迫を推測していたことを推認する事情であるということができる。
9 以上に述べたような事情を総合すると、被告人Aは、遅くとも被告人BにおいてCに対し五〇〇〇万円の支払いを要求した時点において、配下組員がCに対して暴力団特有の暴行、脅迫等といった暴力的手法を予め加えたのではないかということを認識し、これを許容したものと推認できるし、個室において、暴力団の一家の総長及び総長代行二名がCを取り囲み、五〇〇〇万円の支払いを要求すること自体、右要求を拒絶すれば、配下組員をしてCの生命、身体等にいかなる危害を加えるかもしれないという黙示の脅迫になることを認識していたものというべきである。
 
そして、被告人Aは、右のとおり認識したうえ、被告人Bの恐喝に加わることを決意し、同被告人と暗黙のうちに意思を通じ、その後、Cに三〇〇〇万円の支払いを約束させたものというべきであるから、結局、被告人両名は、共謀のうえ、恐喝の実行行為をしたものということができる。
 
したがって、被告人Aにつき恐喝の故意がないとして無罪を言い渡し、また、被告人Bにつき同Aとの共謀がないとして単独犯である旨の認定をした原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があることは明らかであるから、破棄を免れない。論旨は理由がある。
四 自判
 
そこで、刑事訴訟法三九七条一項、三八二条により原判決を破棄し、同法四〇〇条ただし書を適用して、当裁判所において、さらに次のとおり判決する。
(犯罪事実)
 
被告人Aは、暴力団甲野会乙山一家総長の地位にあるもので、被告人Bは、同一家総長代行兼同一家丙川組組長の地位にあるものであるが、被告人両名は共謀の上、C(当時四一歳)が配下組員らに暴行脅迫されて畏怖しているのに乗じ、右Cから金員を喝取しようと企て、平成二年七月二四日ころ、沖縄県沖縄市字登川一四四九番地所在のレストラン「クリスタルガーデン」店内において、右Cに対し、被告人Bが「オヤジに協力できるとのことだが、五〇〇〇万円協力してくれ」と申し向けて金員の提供を要求し、これに応じなければ、右配下組員らが再びCの生命、身体等に対しどのような危害を加えるかもしれないことを暗に示して脅迫をし、同人をしてその旨畏怖させ、そのころ同所において、右Cに三〇〇〇万円の支払いを約束させた上、右約束に基づき、その後まもなく、被告人Aが右Cから、被告人Aが座元をつとめ、Cが座員として参加する模合で、これに入札してその落札金一八〇〇万円を受領する権利の譲渡を受け、もって、財産上不法の利益を得たものである。
(証拠の標目)《略》
(予備的訴因を認めた理由)
 
検察官は、前記のとおり、主位的訴因として、被告人らが落札金一八〇〇万円を喝取したとして一項恐喝の事実を主張したが、前認定のとおり、Cは、被告人Aに対して、模合に入札してその落札金を受領する権利自体を譲ったものという認識を有していたうえ、実際にも、Cは、被告人Aが右権利を行使したかどうか、いくらでいつ入札したかということ自体知らず、したがって、Cが、被告人AがCの権利を行使して落札した落札金をいったん自分で取得したものとはいい難く、また、Cから被告人Aへの具体的な交付行為もなかったというほかないから、前認定のとおりの二項恐喝を認定するのが相当である。
(確定裁判)
 
被告人Aは、平成七年七月一一日那覇地方裁判所沖縄支部で銀行法違反、相互銀行法違反の各罪により懲役一年に処せられ、右裁判は平成八年二月二三日確定したものであって、右事実は、右裁判に関する判決書謄本及び検察事務官作成の同被告人に関する前科調書(原審の検乙第二二号証)によってこれを認める。
(法令の適用)
 
被告人両名の判示所為は、いずれも平成七年法律第九一号附則二条一項本文により同法による改正前の刑法六〇条、二四九条二項に該当するところ、被告人Aについては右罪の前記確定裁判のあった罪とは同法四五条後段の併合罪であるから、同法五〇条によりまだ裁判を経ない判示の恐喝(二項恐喝)罪についてさらに処断することとし、それぞれの所定刑期の範囲内で被告人Aを懲役二年六月に、被告人Bを懲役二年に各処し、同法二一条を適用して原審における各未決勾留日数中、被告人Aについては三〇〇日を、被告人Bについては、五〇〇日をそれぞれその刑に算入し、訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項本文により被告人らの負担とする。
(量刑の理由)
 
本件は、暴力団幹部である被告人両名が、被害者が配下組員らにより暴行、脅迫を加えられて畏怖していることに乗じて金員を喝取しようと企て、被害者に対し、五〇〇〇万円を要求し、三〇〇〇万円の支払いを約束させた上で、同人から一八〇〇万円相当の権利を譲り受け、財産上不法の利益を得たという事案である。
 
右配下組員らは、暴力団一家の総長である被告人Aが、経済的な協力をしなくなりつつあった被害者に不満を抱いていることを知り、その意向に沿うため、被害者に対し、暴行、脅迫を加えて被告人Aらへの金銭的協力を迫ったものであり、被告人両名は、右配下組員のお膳立てを利用し、右暴行脅迫の結果もはや金銭的協力を拒絶できなくなっている被害者に対し、きわめて高額の金員を要求して、不法な利益を得たものであって、暴力団組織の威力を背景にしたきわめて悪質な犯行であり、その動機も反社会性の強い身勝手なものであって酌量の余地は全くない。
 
右犯行の結果、被害者は、模合に入札して落札金を受け取る権利を喪失したうえで、毎月の掛け金(合計一八〇〇万円)を支払うことを余儀なくされたものであって、その実質的な被害額も甚大である。それにもかかわらず、被告人らは何ら被害弁償等の措置を講じておらず、被害者が被告人両名の厳罰を望むのも当然である。
 
さらに、被告人両名の個別的情状をみるに、配下組員は全て被告人Aの意向を実現しようと考え、被害者に暴行脅迫を加えて同被告人のためにお膳立てをしたものであって,そのような配下組員の行動を是認し、被害者から現実に金員ないし不正の利益を喝取するかどうかは、まさに被告人Aにかかっていたところ、同被告人は、前記のとおり、最高責任者として本件犯行の敢行を決断し、現実に自らその利得を得たものであって、その責任はきわめて重いというべきである。さらに、被告人Aは、本件犯行を否認し、反省の態度がみられず、現在もなお暴力団幹部として活動していることに照らすと、再犯のおそれも否定できない。
 
また、被告人Bは、自ら被害者を脅迫したものであって、本件犯行に不可欠な役割を果たしたものであるうえ、被告人Aと同様に、本件犯行を否認し、反省の態度を示しておらず、その犯情は悪質である。また、被告人Bも、現在も暴力団幹部として活動しており、再犯のおそれも否定できない。 
 
したがって、被告人両名が、被害者に対する当初の暴行、脅迫については直接加担していないこと、いずれも、原審において相当期間勾留されていたこと、被告人Bについては、約二〇年にわたって前科がなく、また、本件犯行による直接的利得を得ていないこと等、被告人らのために酌むべき事情をも十分考慮したうえで、被告人らをそれぞれ主文掲記の刑に処するのが相当であると判断した次第である。
(裁判長裁判官 岩谷憲一 裁判官 角隆博 吉村典晃)

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