脅迫福岡1

脅迫福岡1

福岡地方裁判所小倉支部/平成14年(わ)第738号

主文
被告人を懲役4年に処する。
未決勾留日数中550日をその刑に算入する。

理由
(犯罪事実)
 
被告人は,氏名不詳者と共謀の上,
第1 平成14年8月7日午前3時ころ,北九州市a区bc丁目d番e号所在の「A警察職員住宅」北西側駐車場において,
1 Bの管理に係る普通乗用自動車1台のフロントガラス1枚をハンマー様の物で叩き割って損壊(損害額12万7160円相当)した。
2 C所有の普通貨物自動車1台のフロントガラス1枚を上記と同様の方法で叩き割って損壊(損害額11万3560円相当)した。
第2 治安を妨げる目的で,前記第1記載の日時場所において,含水爆薬2本(合計約404.75グラム)に電気雷管2個及び電気タイマーを取り付けて一体とした手製爆発物1個を所持した。
第3 前記第1記載の日時場所において,D所有の普通乗用自動車上に前記第2記載の爆発物をフロントガラスとワイパーの間に挟んで設置した上,E警察署に電話を架けて同署の警察官らを前記第1記載の駐車場に臨場させるなどし,同日午前3時25分ころから順次同所において,別紙記載の前記第1記載の「A警察職員住宅」の住人らをして,前記第1記載のとおり普通乗用自動車等のフロントガラス合計2枚が叩き割られるとともに,前記第2記載の爆発物が設置されている状態を認識させ,もって,同人らの生命,身体及び財産に危害を加える旨告知して同人らを脅迫した。
(証拠)(略)
(事実認定の補足説明)
 
弁護人らは,本件各公訴事実について,被告人は氏名不詳者と共謀した事実はなく無罪である旨主張し,被告人も公訴事実記載の爆発物は見たことも触れたこともないなどとこれに沿う供述をするところ,当裁判所は,前示のとおり,被告人と氏名不詳者との間の各共謀を認定し,いずれの公訴事実についても,被告人は有罪としたので,以下,補足して説明する。
第1 主要な前提事実
 
前掲関係各証拠によれば,次の事実が認められる。
1 自動車のフロントガラスの損壊,爆発物の設置,E警察署への脅迫電話及び爆発物の発見状況等(以下,一連の事件を「本件宿舎事件」と言う。)
(1)E警察署所属の警察官であるFは,平成14年8月7日午前2時ころ,勤務を終えてその居住する北九州市a区bc丁目d番e号所在の「A警察職員住宅」(以下「本件宿舎」と言う。)に帰宅したが,その際,本件宿舎の北西側駐車場(以下「本件駐車場」と言う。)に駐車されていた普通乗用自動車等には何ら異常が認められなかった。
(2)前同日午前3時5分ころ,「Gの者」と名乗る者がE警察署に電話を架け,「bに警察官の宿舎があるだろう。車や建物が大変なことになる。行ってみれば分かる。」旨告げた(以下「本件脅迫電話」と言う。)。そこで,同署の当直員は,同日午前3時10分ころ,H警察署に電話を架け、同署のI巡査部長に対し上記内容の電話があったことを告げた上,同署において事実確認をするよう依頼した。
(3)H警察署J交番において警戒勤務中であったK巡査部長等は,前同日午前3時18分ころ,H警察署通信司令室から,上記のような内容の電話があったことを告げられ,現場に直行して事実確認に当たるよう指令された。そこで,K巡査部長等は,同日午前3時25分ころ,本件駐車場に臨場したところ,同所に本件宿舎の西側出入口側から順に駐車していたBの管理する普通乗用自動車及びCの所有する普通貨物自動車の各フロントガラス(以下「本件フロントガラス」と言う。)が損壊されており,さらに,その隣に駐車していたDの所有する普通乗用自動車のフロントガラス上にワイパーアームに挟まれた形で爆発物様の物(以下「本件爆発物」と言う。)が置かれているのを発見した。 
(4)本件宿舎にはL県警察警察官21名らが居住しており,上記のように本件フロントガラスを損壊されたり,フロントガラス上に本件爆発物を置かれた被害者らも本件宿舎に居住するE警察署の警察官であったが,同被害者らの平成14年8月7日当時の所属は,Bが交通課交通捜査係,Cが生活安全課少年係,Dが総務課直轄係とそれぞれ異なっていた。
2 本件爆発物の構造,威力及びそれが手製の爆発物であること等
(1)本件爆発物は,含水爆薬(商品名Z。以下「本件爆薬」と言う。)2本を赤色ビニールテープ及び粘着テープを用いて一つに束ねたものを平成14年8月6日付けのM新聞の新聞紙(以下「本件新聞紙」と言う。)で包み,その上から白色テープを巻いたものであり,各本件爆薬の各端にはそれぞれ電気雷管(以下「本件雷管」と言う。)が挿入されており,各雷管の脚線の先端が電気タイマー(以下「本件電気タイマー」と言う。)に接続された構造となっている。また,本件電気タイマーに付属した平型ビニールコードの差込プラグ側は,一旦切断された後,圧着端子が取り付けられた構造となっていることから,本件爆発物は,コンセントにも自動車等の直流電源のいずれにも接続できる構造となっている。ただし,直流電源に接続するには,圧着端子の上に巻かれた赤色ビニールテープを剥いだ上で,差込プラグを取り外さねばならない。また,本件電気タイマーは約1時間20分後に通電するようにセットされた交流100ボルト用タイマーであり,交流100ボルトで良好に作動するが,電池など直流電源では作動しない。
(2)本件爆薬及び本件雷管はいずれも爆薬及び雷管としての機能を有しており,本件爆発物は,これに付属された電気タイマーのコードに1アンペア程度の電流が流れただけでも爆発し,漏電等で発生した迷走電流が流れただけでも爆発する可能性があるものである。本件爆薬は,爆速が5800ないし6000メートル毎秒のものであり,1本で直径約3メートルの岩石を粉砕する威力を有する強力なものである。
3 本件爆発物が製造された時期
 
含水爆薬に電気雷管を差入れた場合,含水爆薬は水分を含んでいるから,差し入れてから2日ないし3日程度で緑青が発生する。本件爆薬に差し込まれていた本件電気雷管2個にはそれぞれ緑青が付着しているが,緑青が付着している箇所はいずれも水分を含んでいる本件爆薬と外気に触れていた部分であり,それ以外の部分には緑青の付着が認められない。本件爆発物が製造されてからこれが本件駐車場に駐車中の普通乗用自動車上に設置されるまでにそれほど長い日数は経っていない。
4 本件粘着テープからの被告人の指紋の検出
 
本件爆薬2本を1つに束ねるのに用いられた長さ約98センチメートルの粘着テープ(以下「本件粘着テープ」と言う。)から2個の指紋が,本件爆薬に使われた赤色ビニールテープ及び白色ビニールテープからは各1個の指紋がそれぞれ採取された。
 
上記のように本件爆発物から採取された4個の指紋のうち,本件粘着テープの始点側から約45センチメートルの箇所の粘着面から採取された指紋は被告人の右手拇指の指紋と一致したが,残り3個の指紋については不鮮明であったり,指紋の特徴点が11点以下であったりしたために対照することが困難なものであり,被告人の指紋とも被告人以外の者の指紋とも断定することができないものであった。
5 N組組長Oに対する別件殺人被疑事件等による指名手配及び被告人とN組との関係等

(1)指定暴力団N組組長であるOは,平成14年7月18日,平成10年2月18日に北九州市a区内の路上で発生した殺人被疑事件等で全国指名手配された。そして,平成14年8月2日付けのQ新聞朝刊に上記事件で指定暴力団R系組長の50代の男が殺人罪等の疑いで指名手配された旨の記事が掲載された。
(2)被告人は,平成7年3月ころ,当時のS組(現在のN組)に若頭補佐として入り,平成14年8月当時は指定暴力団N組(以下「N組」と言う。)の幹事長の地位にあった。
6 被告人の本件宿舎の所在等についての知識及びアリバイ等
(1)被告人は,20歳のころから約2年間,本件宿舎付近に居住したことがあり,本件宿舎の所在及びそれが警察官宿舎であることはそのころから知っていた。また,T(以下「T」と言う。)は,本件当時被告人と同じN組の組員であり,事務所当番等に従事し,被告人から用事を頼まれたり,被告人と携帯電話で頻繁に連絡を取り合う関係にあった。Tは,本件当時,本件宿舎の近くに居住し,本件宿舎が警察官宿舎であることも知っていた。Tは,本件宿舎事件が発生した平成14年8月7日の夜,本件宿舎付近の道路を通行した。
(2)被告人は,本件宿舎事件が発生した時間帯である,平成14年8月7日午前零時過ぎころから同日午前4時ないし5時ころにかけては,北九州市a区j町所在の飲食店「U」において,知人ら数名と飲食していた。
7 N組によるM新聞購読の事実
(1)北九州市a区fg丁目h番i号所在のN組事務所では,平成14年8月9日当時,N組組員のTを購読者として,本件M新聞と同種のM新聞を購読していた。
(2)H警察署所属の警察官であるVが,平成14年8月12日,上記N組事務所及びその付属建物において平成14年8月6日付けのM新聞等を差押えの目的物として捜索,差押えを実施したところ,平成14年8月6日付けのM新聞は発見されなかった。
第2 争点に対する判断
1 本件宿舎事件の性質,目的及び計画性等
 
前記認定のとおり,本件爆発物は,1本で直径約3メートルの岩石を粉砕する威力を有する本件爆薬を2本も用いた強力なもので,これに1アンペア程度の電流が流れただけでも爆発する可能性があり,実際に爆発した場合には多大な被害をもたらすおそれのあるものであること,電気雷管が2本用いられており,片方の電気雷管が不発であっても,他方の電気雷管が機能を発揮すれば爆発する構造となっていることや,爆発時間を調整するために電気雷管の脚線の先に電気タイマーが接続されていること,さらに,電気タイマーに付属した平型ビニールコードの差込プラグ側を一旦切断した後,圧着端子を取り付けて交流電源からも直流電源からも電流を取り入れることができる構造になっていること,爆薬や雷管は火薬類取締法上原則として都道府県知事の許可がなければ入手できないことのほか,深夜これを本件宿舎の駐車場に持ち込み,自動車2台のフロントガラスを叩き割るなどし,もう1台の自動車のフロントガラス上に本件爆発物を置いてこれを設置し,「Gの者」と名乗り,E警察署に電話を架け,「bに警察官の宿舎があるだろう。車や建物が大変なことになる。行ってみれば分かる。」旨告げたという,粗暴かつ大胆で挑戦的な手口,一連の行為が短時間のうちに行われたこと,被害警察官の所属する部署が同一でないこと等に照らすと,本件宿舎事件は,被害者ら警察官個人ではなく,被害者らの属する警察組織を狙ったもので,同一グループによる計画的犯行であることは明らかであり,その背後に強い反社会的な組織の存在も疑われるものである。
 
なお,本件宿舎事件が「G」関係者によって遂行されたと認めるべき証拠は皆無である。
2 本件爆発物の製造と被告人の関与について
(1)前記認定のとおり,被告人の右手拇指の指紋の検出箇所は本件粘着テープの始点側から約45センチメートルの位置の粘着面であって,長さ約98センチメートルの本件粘着テープのほぼ中央部分であり,本件爆薬2本を一つに束ねたものに本件粘着テープを数回にわたり巻き付けた位置にある。
 
粘着テープを物の結束に用いる場合,未使用のものを用いるのが通常であり,一度他で使用し粘着力が減衰したものを使用することは考え難いことに照らすと,本件爆発物を製造する際に用いられた本件粘着テープも未使用のものであったことが推認される。また,粘着テープは使用前は粘着面を下にして円筒状に巻かれているものであるから,始点から約45センチメートルも離れた位置の粘着面に予め人の指紋が付着していることは考えられない。
 
そうすると,本件粘着テープから検出された被告人の右手拇指の指紋は,被告人が本件爆薬2本を一つに束ねるために本件爆薬に本件粘着テープを巻き付けていた際に付着したものであることが強く推認される。そして,前記認定の本件爆発物の構造に照らすと,本件爆薬2本を1つに束ねる行為は本件爆発物の製造行為そのものと言うべきであるから,被告人は本件爆発物の製造過程に関わっていたことが強く推認される。
(2)前記認定のとおりの本件爆発物の構造,特に,電気雷管が2本用いられており,片方の電気雷管が不発であっても,他方の電気雷管が機能を発揮すれば爆発する構造となっていることや,爆発時間を調整するために電気雷管の脚線の先に電気タイマーが接続されていること,さらに,電気タイマーに付属した平型ビニールコードの差込プラグ側を一旦切断した後,圧着端子を取り付けて交流電源からも直流電源からも電流を取り入れることができる構造になっていることに照らすと,本件爆発物の製造には爆発物に関する専門的知識を有している者が関与していることが強く推認されるところ,被告人のこれまでの生活歴,職歴等に照らすと,被告人が爆発物製造に関するこのような専門的知識を有していることはうかがわれない。
 
そうすると,被告人は,爆発物に関する専門的知識を有している者と共同して本件爆発物を製造したことが強く推認されるものである。
(3)弁護人らの主張について
ア 弁護人らは,長さ1メートルに満たない粘着テープで爆薬を緊結する場合,緊結行為を複数人が交替しながら行うことは社会通念上あり得ないから,緊結行為に用いられた粘着テープからは1種類の指紋しか検出されないはずであるのに,本件粘着テープからは4種類の指紋が検出されているから,本件粘着テープに付着した指紋と本件爆薬の緊結行為とは無関係である旨主張する。
 
しかし,前記認定のとおり,本件粘着テープから採取された指紋は被告人のものを含めて2個であり,残りの指紋はそれぞれ赤色ビニールテープ及び白色ビニールテープから採取されたものである。また,採取された4個の指紋のうち被告人の指紋と特定できた1個の指紋以外のものは他の指紋と対照困難なものであり,これらが被告人のものであるとも,被告人以外の別人のものであるとも断言することができないものである。また,仮に本件粘着テープから採取された2個の指紋がそれぞれ別人物のものであるとしても,2本の爆薬を一つに結束するに際し,複数人が粘着テープの切断と切断された粘着テープを爆薬に巻き付ける行為とを分担することは十分にあり得ると言うべきである。
 
したがって,本件粘着テープから複数の指紋が採取されていることをもって,前記推認が妨げられることはないと言うべきである。
イ 弁護人らは,本件粘着テープは人の手指によって切断されたものである以上,被告人が本件爆薬を緊結したのであれば,その指紋は本件粘着テープの切断面からこそ検出されなければならないところ,被告人の指紋は本件粘着テープの切断面からは検出されていないから,被告人は本件爆薬の緊結作業には関わっていないと推認される旨主張する。
 
しかし,本件のように粘着テープの粘着面から指紋を採取する場合には,粘着面に指紋が付着していたとしても,採取者において粘着テープをはがす際に指紋が壊れてしまうことがあることが認められる。また,本件粘着テープは人の手指によって切断されたものと推認されるところ,粘着テープを人の手指によって引きちぎるように切断する場合には,粘着テープが引っ張られることから,はさみ等を用いて切断する場合に比べて,切断者の指紋が残り難いと考えられる。とすれば,たとえ被告人が本件粘着テープを自ら切断し,その際に切断面に指が触れていたとしても,当該箇所から指紋が採取されないことは十分にあり得ると言わなければならない。
 
したがって,本件粘着テープの切断面から被告人の指紋が検出されなかったことによって,前記推認が妨げられることもないと言うべきである。
(4)被告人の弁解について
 
被告人は,捜査段階から一貫して本件爆発物の製造への関わりを否認しており,公判廷においても,本件爆発物に触れたことも見たこともない旨供述し,「本件粘着テープと同種のものかは分からないが,自宅や所属するN組の組事務所において,粘着テープをスーツの埃取りのためや,荷造りのために使用していた。」旨供述している。
 
しかし,粘着テープは,これをスーツに付いた埃取りや荷造りのために使用した場合には,その粘着力が相当程度減衰するのが通常であるところ,前記認定のとおり,本件のように爆薬を結束して爆発物を製造する際に,粘着力が減衰した粘着テープをわざわざ用いるとは考え難い。この点,被告人は,「誰かにはめられたのではないかと思う。」旨供述しているが,その一方で「なぜはめられたのか,誰にはめられたのか心当たりがない。」旨も供述しており,結局,本件粘着テープから被告人の指紋が検出されたことに関して十分合理的な説明をなし得ていない。
 
以上のとおり,被告人の供述は,本件粘着テープから被告人の指紋が検出されたという客観的事実と齟齬しており,本件粘着テープに被告人の指紋が付いた理由についても十分合理的に説明することができておらず,にわかに信用することができない。
 
他に前記推認につき合理的疑いを抱かせるに足りる証拠はない。
(5)以上のとおりであるから,被告人は,爆発物製造に関する専門的知識を有する者と共同して,本件爆発物を製造したことが優に認められる。
3 本件宿舎事件の犯人グループの目的等
 
被告人がいかなる目的で本件爆発物の製造に関与したかの検討はさておき,ここで,本件宿舎事件の犯人グループ(以下「本件犯人グループ」と言う。)はいかなる目的で本件爆発物を製造したと考えられるかを,本件爆発物の構造,爆発物の設置状況及びその後の本件脅迫電話等の客観的な事情をもとに検討する。
(1)本件爆発物の構造及び設置状況
ア 前記認定のとおり,本件爆発物は,家庭用コンセント等の交流電源と自動車用バッテリー等の直流電源のいずれにも接続することができるようにわざわざ加工されているが,直流電源に接続するには,圧着端子の上に巻かれた赤色ビニールテープを剥いだ上で,差込プラグを取り外さねばならない。また,本件電気タイマーは交流専用であり,そもそも直流電源では作動しない。
 
ところが,本件宿舎における実際の設置状況を見ると,本件爆発物は,家庭用コンセント等の交流電源と自動車用バッテリー等の直流電源のいずれにも接続されることなく,およそ電源となるものに接続されず,差込プラグを取り外されることもなく,フロントガラスが叩き割られた普通乗用自動車等2台の横に駐車中の普通乗用自動車のフロントガラス上に,単に置かれていただけであった。本件犯人グループが本件宿舎の家庭用コンセント等から電気を引こうとした形跡は存在しない。家庭用コンセント等に接続するには建物内に侵入したりしなければならず,そうすれば住人に発見される危険性が高いから,上記のような方法をとることはそもそも困難なのである。本件犯人グループに真実本件爆発物を本件宿舎で爆発させる意図があれば,電源は乾電池とし,電気タイマーは当然,直流電源でも作動するタイマーを取り付けたはずであり,それはやろうとすれば困難なこととは思われない。
 
してみれば,本件犯人グループは本件爆発物を製造したものの,本件宿舎で爆発させる意図まであったかは疑問であり,むしろ,そのような意図まではなかったと考えるのが合理的である。
イ 次に,本件宿舎の駐車場に駐車中の自動車2台のフロントガラスが叩き割られていたことの理由が検討されなければならない。
 
本件犯人グループの上記行為は,一見すると,本件爆発物を自動車用直流電源に接続するための行為であったかのように受け取れる余地があるが,本件電気タイマーは直流電源では作動しないし,自動車2台のフロントガラスを夜間叩き割れば,住人に発見される可能性が高い。また,仮に自動車の直流電源に接続するためであったとしても,自動車1台のフロントガラスを割れば足り,2台も割る必要は全くない。
 
したがって,上記行為は本件爆発物を自動車用直流電源に接続するためのものではなくて,別の目的によるものと考えるべきであり,フロントガラスの損壊それ自体に意味があったと考えるべきである。すなわち,本件爆発物を本件駐車場に駐車中の自動車に設置するとともに,本件爆発物を設置した自動車に隣接する自動車2台のフロントガラスを損壊することで,爆発物が本件駐車場で爆発し,自動車が損壊した状態を連想させるような状況を作出して,本件爆発物を手段とする脅迫の効果を高めることに狙いがあったと考えられる。
(2)本件脅迫電話の架電
 
上記(1)のように考えると,本件犯人グループが,その後E警察署に本件脅迫電話を架けた理由も判明する。犯人としては,本件爆発物が自動車上に設置され,自動車のフロントガラスが損壊された状態のままで,本件宿舎の住人に発見される必要があったのであり,例えば,犯人が去った後,何者かが本件爆発物を持ち去るなどした後,本件爆発物が存在せず,単にフロントガラスが損壊されただけの状態を住人が発見することになっては,犯行の目的が達成されなかったと考えられるのである。そのためには,本件フロントガラスを損壊し,本件爆発物を設置した後,間を置かずに本件脅迫電話を架ける必要があったと見られる。そして,犯人グループが告げた脅迫文言は,本件宿舎の住人らをして,本件爆発物を本件駐車場に駐車中の自動車に設置したこと及び同所の自動車2台のフロントガラスを損壊したことをあえて認識させようとするものである。
(3)上記(1),(2)の認定事実を総合すれば,本件犯人グループは,本件爆発物を製造したものの,本件爆発物を本件宿舎で爆発させる意図まではなく,本件宿舎事件の直接の目的は,本件宿舎の住人らに対し,本件爆発物を手段として,脅迫を加えることにあったと認めるのが相当である。そうすると,本件爆発物を製造したこと,本件爆発物を本件駐車場に駐車中の自動車に設置したこと,同所の自動車2台のフロントガラスを損壊したこと及び本件脅迫電話を架けたことは,いずれも本件宿舎事件の犯行計画全体の不可分の構成部分である。
4 本件各犯行の共謀について
 
前記認定のとおり,被告人以外の氏名不詳者が,平成14年8月7日午前3時ころ,本件宿舎において,本件爆発物を所持したこと,本件フロントガラスを損壊したこと及び本件脅迫電話を架けたことは優に認められるから,問題は,被告人とその犯人との共謀が認められるか否かである。
 
そこで,以下,この点について検討する。
(1)前記認定事実によれば,以下のとおり,被告人に本件各犯行の共謀があったと認めるべき情況証拠が存在する。
ア 本件宿舎事件は,被害者ら警察官個人ではなく,被害者らの属する警察組織を狙ったもので,計画的犯行であることは明らかであり,その背後に強い反社会的な組織の存在も疑われること。
イ 被告人が幹事長を務めるN組組長Oが,平成14年7月18日,別件殺人被疑事件等により全国指名手配され,平成14年8月2日付けのQ新聞朝刊にこれに関する記事が掲載されたものであるところ,被告人を含むN組関係者にとって,これは放置できない組の一大事であり,組長が逮捕されないよう,何らかの強い対応策をとる必要があったと考えられること。
ウ 警察官宿舎を含む警察の施設等に爆発物を設置する等の事件を引き起こすことは,社会不安にもつながる事柄であるから,警察組織に圧力を掛け,捜査を攪乱し,警察の勢力を分散させ,一時的にせよ警察の捜査を遅らせ得るものとして,上記イの方策の一つとなり得ること(警察の暴力団に対する捜査や取締りが厳しくなる不利益はあるとしても,要は捜査攪乱等の必要性の程度如何によることである。)。
エ 被告人は,爆発物製造に関する専門的知識を有する者と共同して,本件爆発物を現に製造したこと。
オ 被告人が本件爆発物を他の者と共同して製造した時期は,本件宿舎事件が発生した日に近い時期であり,かつN組長が別件殺人被疑事件等で全国指名手配された後と考えることも可能であること。
カ 被告人は,かねて本件宿舎の所在やそれが警察官宿舎であることを知っており,被告人の配下の組員であるTは,本件宿舎の近くに居住し,本件宿舎事件が発生した日の夜も本件宿舎付近の道路を通行しており,同人からも本件宿舎の所在や駐車場等についての情報を得ることができたこと。
キ 被告人がN組幹事長という役職にあり、本件爆発物の製造にも関わっていることからすれば,被告人が本件宿舎事件の目的や計画の概要を知らなかったとは考えにくく,被告人が本件宿舎事件の実行行為自体には直接加担していないとしても,本件宿舎事件の計画段階において,被告人が本件宿舎の所在や駐車場等に関する情報を本件犯人グループに提供するなどしたことは十分考えられ,同グループが被告人とは無関係に,本件宿舎に本件爆発物を設置することを計画したとは考え難いこと。
ク 本件爆発物に用いられた本件新聞紙は,平成14年8月6日付けのM新聞であるが,N組は当時,事務所においてM新聞を購読していたこと(契約者名はT)。 
ケ 本件爆発物の構造,設置状況及びその後の本件脅迫電話等の客観的な事情からすれば,本件宿舎事件の直接の目的は,本件宿舎の住人らに対し,本件爆発物を手段として,脅迫を加えることにあったこと。
コ 本件爆発物を製造したこと,本件爆発物を本件駐車場に駐車中の自動車に設置したこと,同所の自動車2台のフロントガラスを損壊したこと及び本件脅迫電話を架けたことは,いずれも全体の犯行計画の不可分の構成部分であること。
(2)上記(1)の情況証拠を総合すれば,被告人は,他の本件グループの構成員(氏名不詳)との間で,本件各犯行を実行することについて相互に意思の連絡があったこと,すなわち,本件各犯行の共謀が成立していたことが推認される。
 
この点に関する弁護人らの主張は,傾聴に値する点はあるが,結論的に以上の認定と異なるものであり,採用できない。
5 なお,前記認定のとおり,本件犯人グループは,本件爆発物を製造したものの,本件爆発物を本件宿舎で爆発させる意図まではなく,本件宿舎事件の直接の目的は,本件宿舎の住人らに対し,本件爆発物を手段として,脅迫を加えることにあったと認めるのが相当であるから,本件第2の犯行の公訴事実中,「人の身体財産を害する目的で」とある部分は,これを認定できないけれども,脅迫を加える対象が社会の治安を担う組織である警察署の宿舎であることからすると,本件犯人グループに「治安を妨げる目的」があったとすることは妨げられない。よって,本件第2の犯行は,爆発物取締罰則3条違反を構成する。
(累犯前科)(略)
(法令の適用)
罰条
 
第1の1及び2の各行為につき 刑法60条,261条
 
第2の行為につき 刑法60条,爆発物取締罰則3条
 
第3の各行為につき 刑法60条,222条1項
科刑上一罪の処理 第3の罪について刑法54条1項前段,10条(一罪として犯情の点で最も重いDに対する脅迫罪の刑で処断)
刑種の選択 各罪についていずれも懲役刑を選択
累犯加重 各罪の刑について刑法56条1項,57条
併合罪の処理 刑法45条前段,47条本文,10条(刑の長期の点で最も重い第2の罪の刑に法定の加重),14条
未決勾留日数の算入 刑法21条
訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
 
本件は,被告人が氏名不詳者と共謀の上,警察官宿舎の駐車場において,同駐車場に駐車中の自動車2台の各フロントガラスをハンマー様の物で叩き割って損壊したという器物損壊の事案(第1の1及び2),治安を妨げる目的で爆発物を所持したという爆発物取締罰則違反の事案(第2)及び本件爆発物を本件駐車場に駐車中の自動車上に設置した上,警察署に電話を架けて警察官らを本件駐車場に臨場させるなどし,本件宿舎の住人らに本件駐車場に駐車中の自動車2台のフロントガラスが叩き割られている状態や,自動車上に本件爆発物が設置されている状態を認識させて,同人らの生命,身体及び財産に危害を加える旨告知したという脅迫の事案(第3)である。
 
被告人は,自己が所属する暴力団のN組組長が別件殺人被疑事件等で逮捕されるのを危惧し,警察の捜査を攪乱する等の目的で,氏名不詳者と共謀して,本件爆発物を警察官宿舎の駐車場に駐車中の自動車上に設置するなどして,本件各犯行を行ったものであり,暴力団の論理に基づく反社会的犯行であって,動機に酌むべき点はない。本件爆発物は1本で直径3メートルの岩石を粉砕するほどの威力を有する爆薬を2本束ねたものであり,これが爆発した場合には,本件宿舎の住人のみならず,近隣住民の生命,身体及び財産にも多大な被害が及ぶおそれがあったのであり,犯行は極めて危険で,悪質である。本件各犯行の動機,爆発物の製造,その設置及び警察署への架電等に照らし,本件各犯行は計画的かつ組織的な犯行である。本件各犯行の結果,本件宿舎の住人のみならず,その近隣住民にも恐怖感,不安感を与えたものであり,また,第1の各犯行による損害額は合計約24万円にのぼり,本件各犯行の結果や影響は重い。被害弁償は全くなされておらず,被害者らの処罰感情が厳しいのは当然である。被告人は,本件爆発物の製造にかかわっており,本件各犯行において重要な役割を果たしているものであるが,公判廷においては,本件各犯行への関与を否認し,不合理な弁解に終始しており,真摯な反省の態度は認められない。被告人には前掲累犯前科を含む前科8犯がある。
 
これらの情状によれば,被告人の刑責は重い。
 
他方,本件各犯行の直接の目的は本件宿舎の住人に対する脅迫にあり,被告人は,本件爆発物を実際に爆発させて本件宿舎の住人らの生命,身体及び財産等に被害を与えることまでは意図していなかったと認められることなど,被告人のために酌むことのできる情状もあるので,以上の情状を総合考慮した結果,主文のとおり量刑した。
(求刑 懲役5年)
平成16年8月2日
福岡地方裁判所小倉支部第2刑事部
裁判長裁判官 若宮利信 裁判官 出口博章 裁判官 佐藤卓

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