詐欺福岡4

詐欺福岡4

福岡高等裁判所/平成八年(う)第三〇二号、第三〇三号

主文
一 各原判決を破棄する。
二 被告人Aを懲役八月に、被告人Bを懲役三月に、被告人Cを懲役二月に各処する。
三 原審における未決勾留日数中、被告人Aに対しては一三〇日を、被告人Bに対しては六〇日を、被告人Cに対しては三〇日を、それぞれの刑に算入する。
四 この裁判確定の日から、被告人Aに対し二年間、同B及び同Cに対し各一年間、それぞれその刑の執行を猶予する。
五 原審及び当審における訴訟費用のうち、原審証人M、同N、同O、同P、同Q、同R、当審証人S、同M及び同Tに関する分の六分の一ずつを被告人三名の負担とし、原審証人Uに関する分の四分の一ずつを被告人A及び同Cの負担とする。
六 本件公訴事実中、平成五年三月四日付け起訴にかかる各詐欺の事実については、被告人三名は無罪。

理由
 
本件各控訴の趣意は、被告人Aにつき、弁護人登野城安俊、同角銅立身が、被告人Bにつき、弁護人入屋秀夫、同小宮学が、被告人Cにつき、弁護人美奈川成章、同吉岡隆典が連名で、それぞれ提出した控訴趣意書(弁護人角銅につき控訴趣意補充書を含む。)に記載されたとおりであり、これに対する答弁は、検察官金田茂提出の答弁書(二通)に記載されたとおりであるから、これらを引用する。(なお、本件においては、右の各控訴趣意書のほか、当審でなされた事実取調べの結果に基づいて、各弁護人から詳細な弁論がなされているので、以下右弁論に対しても適宜判断を加えることとする。)
第一 被告人Cの弁護人らからの理由不備、控訴手続の法令違反及び審理不尽の主張について
一 論旨は、要するに、被告人Cにかかる原判決は、犯罪事実として、被告人Cが、被告人Bと共謀の上、被告人Aらが原判決別紙一の第一ないし第五記載のとおり石炭鉱害事業団九州支部長や同支部総務部長を欺罔して鉱害復旧工事にともなう家屋新築工事充当金の支出をさせ、これと同額の不法の利益を得るという詐欺行為をなすに当たり、平成元年一〇月三日ころ、福岡県田川郡川崎町施行にかかる昭和六十三年度桃山村中線及び西本町桃山線の各道路改良舗装工事に関し、V女、W女、a、b女、dに対する家屋補償費はない旨記載した内容虚偽の川崎町町長e作成名義の文書を右事業団田川事業所に提出することにより、右各犯行を容易ならしめてこれを幇助したと判示し、理由中において、右文書の提出を受けた同事業所家屋第一課長Mにおいて、その記載内容が虚偽であることを知っていたとしても、これがMの意思決定に影響し、本件詐欺の完遂に重要な役割を果たしたものとして、幇助行為と評価するのが相当であると説示するが、「罪となるべき事実」では、具体的に右提出行為が幇助行為に該当する旨の記載が欠落しており、その行為の幇助行為性が明らかでなく、犯罪事実の適示として不十分というべきであり(刑訴法三三五条一項)、原判決には理由不備がある、というのである。
 
しかしながら、犯罪事実として幇助行為を摘示するにあたっては、他の社会的行為と識別され、それが本犯の幇助たりうるものと評価できる程度に事実行為を摘示すれば十分というべきであり、これが実際にどのように犯行の完遂に寄与したかの経過まで具体的・詳細に摘示する必要はないというべきところ、原判決は、被告人Cらが田川事業所になした右文書の提出行為を幇助犯の犯罪行為として摘示しており、且つ右文書の記載内容から考えて被告人Aら本犯の犯行を容易にするものとみられるものであるから(詳細は後述)、犯罪事実の摘示としては欠けるところはない。論旨は理由がない。
二 論旨は、要するに、原判決は、詐欺の共謀共同正犯の訴因に対し、検察官に訴因変更を求めないまま、田川事業所係員への右文書提出をもって、詐欺の幇助行為にあたると認定しているが、もともとの公訴事実は、田川事業所係員への右文書の提出をもって正犯の実行行為の一つとして構成されていたもので、原審弁護人はその実行行為性を争ったものの、これが一転して、Mの意思決定に影響する形での幇助行為にあたるとは、全く予想しておらず、同弁護人及び被告人Cにとって、不意打ちとなったもので、原審のかかる認定は、単なる縮小認定ではないから、その認定には訴因の変更を要するというべきであり、かかる訴因の変更なしに、幇助行為を認定した原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな訴訟手続の法令違反がある、というのである。
 
しかしながら、公訴事実に対する、右原判決の認定は、いわゆる縮小認定にあたるというべきであり、原審において証人となったMに対し、二期日にわたり、検察官を初め被告人三名の弁護人らから、右文書の提出の有無がMの意思決定にどのように影響するか、詳細な尋問がされているところであり、被告人Cの防御権を侵害するものとはいえず、所論の違法はない。論旨は理由がない。
三 論旨は、要するに、原判決は、被告人Cらによる右文書提出が、Mの意思決定過程に影響した具体的な証拠がないにもかかわらず、推測に推測を重ねてこれを肯認し、被告人を有罪とする結論を導いているが、原審がその判決で説示するような同人の意思決定過程を認定するのであれば、少なくとも、職権により改めてMを証人採用し、その点を質すべきであったと思われるところであり、原審はこの点において審理不尽の違法がある、というのである。
 
しかしながら、原審において、Mに対し、右の点につき、詳細な尋問がなされていることは前述のとおりであるから、所論の審理不尽の違法はみられない。論旨は理由がない。
 
被告人Cの弁護人らは、当審における事実取調べ後の弁論において、原審は、鉱害被害者であるV女らが石炭鉱害事業団九州支部宛に提出した同意書等の実際の機能や関係する事務処理過程、提出後の取扱い、提出文書の決裁権者までの流れ等について審理を尽くしておらず、この点で、審理不尽の違法がある、と主張する。
 
しかしながら、本件鉱害被害者から右事業団宛に提出された文書の意義や事業団内での関係する手続の流れについては、その提出者を初め、受領した側の事業団関係者の供述調書ないしその証人調べがなされ、詳細に審理されているところであり、右弁護人らは、要は、その提出文書の評価に関し原判決の判断を不満とするに過ぎず、所論の審理不尽の違法は認められない。
四 なお、被告人Aの弁護人角銅の所論には、本件詐欺の共謀は、石炭鉱害事業団九州支部から復旧工事を請け負った施工業者にも及ぶと解されるところ、右共謀がどの時点で被告人Aらと成立したのかの立証がないとして、原審には審理不尽があると解しうるかのような主張がなされているが、原判決は、施工業者を被告人らの共犯者と認定していないのであるから、所論は前提を欠き失当である。論旨は理由がない。
第二 二重補償をめぐっての、被告人A及び同Bの弁護人らからの法令適用の誤りないし事実誤認の主張について
一 論旨は、要するに、被告人A及びBにかかる原判決は、地域改善対策特別措置法上の家屋補償を受けた場合であっても、さらに同一家屋につき重ねて臨時石炭鉱害復旧法(各原判決においては「臨鉱法」との略語を用いているが、本判決においては以下「復旧法」という。)による鉱害復旧工事の実施を受けることは違法ではないのに、これが違法であることを前提に、被告人AがV女らと共謀の上、既に右の家屋補償がなされた家屋について、石炭鉱害事業団九州支部の決裁権者を欺いて、違法に復旧工事を実施させ、家屋新築のための工事充当金名下に財産上不法の利益を得たものと認定し、刑法二四六条二項(詐欺利得罪)を適用しているが、これは関係法規の解釈を誤って、詐欺罪の成立を認めたもので、原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな、法令適用の誤りないし事実誤認がある、というのである。
二 そこで、記録を調査し、当審における事実取調べの結果を併せて検討するに、〔1〕福岡県田川郡川崎町における地域改善対策特定事業の一つとして施行された桃山村中線及び西本町桃山線道路改良舗装事業の実施経緯と概要、右工事にともなう補償の内容と状況、並びに〔2〕石炭鉱害事業団の組織・機構、事業団が施行する鉱害復旧事業の一つである家屋等復旧事業の概要とその事務作業工程、本件鉱害復旧事業の経緯・状況は、次に付加訂正するほか、概ね、各原判決が「争点に対する判断」の第一の二及び三で認定するとおりである。
1 川崎町の地域改善対策特定事業の根拠法令
 
従前、市町村が「地域改善対策事業」として道路改良舗装工事等の事業を実施するための根拠法令であった地域改善対策特別措置法(昭和五七年法律第一六号)は、時限立法であったため、昭和六二年三月三一日限り失効したが、翌四月一日、昭和六二年法律第二二号「地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律」が施行され、なお引き継いで実施されることが特に必要とされる事業は「地域改善対策特定事業」として、その後も実施されることとなった(以下、右二法及び地域改善対策特別措置法施行前に同種事業施行の根拠法令とされていた昭和四四年法律第六〇号「同和対策事業特別措置法」をあわせて、「地対法」と総称し、これにより行われる事業を「地対事業」という。)。
 
本件道路改良舗装工事は、右地域改善対策特定事業として実施されたものである。
2 家屋等復旧事業及び同事業に伴う補償
(一)鉱害復旧事業の趣旨と石炭鉱害事業団の組織
 
鉱害復旧事業は、復旧法(昭和二七年法律第二九五号)及び石炭鉱害賠償等臨時措置法(昭和三八年法律第九七号―以下「賠償法」という。)を直接の根拠法令とする。復旧法の目的は、国土の有効な利用及び保全並びに民生の安定を図り、併せて石炭鉱業及び亜炭鉱業の健全な発達に資するため、鉱害を計画的に復旧すること(同法一条)であり、賠償法も同様の目的を有する。
 
石炭鉱害事業団(以下「事業団」という。)は、鉱害復旧事業推進のために設置された公法人であり(賠償法一二条、一三条)、本部(東京)の下に九州支部、中国支部、常磐支部が置かれ、九州支部の下には、田川事業所、佐賀事業所、飯塚事業所、北九州事業所の四事業所が置かれ、田川事業所の管轄は福岡県田川市及び田川郡である。
 
事業団九州支部においては、鉱害復旧事業のうち、鉱害認定及び復旧基本計画業務は同支部計画部の、鉱害復旧実施業務は同支部工事部の、鉱害復旧工事施行に伴う支払業務は同支部総務部の各所管であり、事業所の所管は、主として復旧工事の施行、鉱害被害者と九州支部との連絡等の業務である。
 
田川事業所には、家屋課が置かれ、復旧基本計画の基礎調査、家屋復旧工事の調査・設計、復旧実施計画の作成、復旧工事の指導・監督等の事務を行い、担当区域により第一課と第二課に分かれていた。川崎町は右第一課の担当区域であった。
(二)家屋等復旧事業の事務作業工程
 
事業団九州支部における家屋等復旧事業の事務作業工程は、以下のとおりである。
(1)鉱害被害者による鉱害復旧申出
 
鉱害被害者は、賠償義務者が有資力の場合は、賠償義務者を経由して、賠償義務者が無資力の場合は、市町村の鉱害担当係を経由して事業団支部に対して、鉱害復旧の申出を行う。もっとも、V女ら本件鉱害被害者ら、部落解放同盟川崎町連絡協議会(以下「連協」という。)に所属する者の鉱害認定申請については、昭和六〇年ころ以降、連協が取りまとめて、一括して九州支部に提出するなどしていた。
(2)書類審査、現地調査、事前協議
 
九州支部計画部において、その書類審査、現地調査を行い、九州通商産業局(以下「通産局」という。)との間で、当該鉱害復旧申出家屋が効用阻害の認められる物件等として要件を満たしているかについて協議する(なお、連協からの一括申出分については、現地調査の結果、鉱害認定が見込まれるものは、賠償義務者が無資力の場合、各鉱害被害者から川崎町を経て事業団支部に宛てて正式な鉱害復旧等の申出がなされることになる。)。
(3)鉱害認定申請、鉱害認定
 
九州支部は通産局長宛に鉱害認定申請書を提出し、鉱害認定の場合は、通産局長名の鉱害認定書により鉱害被害者に通知される。
(4)復旧基本計画の申請及び認可・変更(編入)
 
九州支部計画部計画第二課は、鉱害認定のあった物件につき、被害者代表、鉱業権者代表、県の代表及び学識経験者からなる鉱害評議委員会の了解を求めるとともに、県知事と協議し、市町村長の意見を聞くなどして、復旧基本計画を作成し、通産局及び事業団本部を経て通商産業大臣に復旧基本計画の認可を申請し、同大臣の認可を受けた場合には、復旧基本計画の内容(被害の内容、復旧の基本方針、復旧すべき物件の件数と金額)を各事業所に示達する(復旧法四八条、賠償法二七条の三)。
 
なお、当該鉱害復旧対象物件が、既に認可されている基本計画の対象地区内にある場合は、右同様に評議委員会の了解及び県知事との協議の手続を経た上で、通商産業大臣から基本計画変更の認可を受けて編入されることになるが(賠償法二七条の三)、昭和五八年八月以降は、その復旧が既に認可されている基本計画の基本方針の変更とはならない一定の軽微なものは、関係機関にこれを報告することにより、基本計画に編入される取扱となった(昭和五五年八月一日資源エネルギー庁石炭部鉱害課策定「復旧基本計画作成要領」―原審・検甲四八添付)。
(5)調査業務
 
九州支部の各事業所において、事業所長が決定した家屋専門業者等に測量業務を外注し、その周辺に市町村道、県道があるときは、関係自治体と必要に応じて協議を行う。
(6)査定設計書の作成、査定申請、現地査定
(5)の調査に基づいて復旧工事の査定設計書が作成され、事業所長から九州支部を経て通産局長宛に査定申請がなされ、通産局業務課の担当者が現地に臨み、事業所が作成・提出した設計集計表等に修正を加えるなどして現地査定を行う。
(7)実施計画認可申請、地区別実行計画の作成
 
事業所は、査定終了後、鉱害認定物件の所有者、占有者の同意を得て、地区別の件数、復旧費の額、認定物件名を折り込んだ実施計画を立案し、認定物件の所有者、占有者の同意書を添付した実施計画認可申請書を九州支部工事部家屋工事課宛に提出し、九州支部を経て通産局長の承認を受ける。
(8)実施計画認可
 
その後、実施計画の縦覧、鉱害関係者等の異義の申出等所定の手続を経て通産局から実施計画の認可がなされる。
(9)復旧工事指名業者の選定
 
復旧工事請負業者として登録を受けた者の中から九州支部内に置かれた業者選定委員会事務局において、事前に調整が行われ、各事業所長等で構成する業者選定委員会に諮り、請負規定の業者選定基準、指名業者数決定基準等に則って指名業者が選定される。
(10)現場説明、入札、契約
 
九州支部総務部契約課の職員、事業所職員らが現場説明を行った後、同契約課において、指名競争入札が行われ、落札業者が決定されると、請負業者(以下「施行業者」という。)と九州支部長との間で右実施計画に従い復旧工事契約が締結される。
(11)鉱害復旧工事の着工
 
着工に当たっては、九州支部名で、県知事を経由して通産局長に工事着工届が提出される。
(12)出来高払い
 
復旧工事を請け負った施行業者は、工事着工後一か月を経過すると、工事の進捗状況に応じて出来高払いの請求をすることができ、出来高払いの請求があった場合には、九州支部の係員による出来高の確認等の手続を経た後、五〇〇万円未満の金額については同支部総務部長の決裁により、五〇〇万円以上の金額については総務部長を経て九州支部長の決裁がなされて、同支部から施工業者に出来高の支払いがなされる。
(13)清算払い
 
復旧工事を請け負った施工業者は、工事を完了した場合には、九州支部長宛に工事完了届を提出し、九州支部の係員による工事完了確認作業等を経た後、同支部長宛に清算払い請求書を提出し、(12)と同様の決裁により、清算払いがなされる。
(三)家屋等復旧工事の種別・内容及び補償の内訳
(1)家屋等復旧工事
 
家屋等復旧工事とは、石炭の採掘による地表の沈下、傾斜等によって地上、地下の施設等に被害を与える、すなわち、従前の効用を阻害した現象が生じている家屋及び宅地について、本来有していた効用を回復するため、その家屋及び宅地について施工する工事及びこれに附帯する工事をいう。
(2)家屋等移転復旧工事
 
家屋等移転復旧工事は、原状回復が原則であるが、〔1〕地形、地盤等の状況から原状復旧が困難な場合や、〔2〕公共事業との関連で原状復旧が不適当な場合には、例外的に移転復旧工事が認められる(原審・検甲八添付の資源エネルギー庁通達「臨時石炭鉱害復旧法に基づく家屋等の復旧工事、公用及び公共用施設の復旧工事並びにみなし復旧工事実施要領」の第二章第一節第6項参照―以下「みなし復旧工事実施要領」という。)。
 
右要領によれば、移転復旧に要する復旧費は、原則として、右〔1〕の場合は、家屋等の解体、四キロメートル以内の解体材料の運搬、移転先の整地、家屋等の組立・補修、仮移転建物並びに補償に要する費用で、当該家屋等が被害を受けた位置で従前の形状のまま特別の補強工事を除き解体復旧した場合における復旧費を限度とし、右〔2〕の場合は、家屋等の解体、組立・補修、仮移転建物並びに補償に要する費用で、当該家屋等が被害を受けた位置で従前の形状のまま盛土及び土留工事を除き復旧した場合における復旧費の範囲内を限度とされている(なお〔2〕で解体材料の運搬費が除かれているのは、移転の原因が公共事業にあるとし、その原因者において負担することを前提とし、盛土・土留工事費が除かれているのは、移転復旧には当然整備された宅地が準備されていることを前提としていることによる。当審職権取調べの、通商産業省資源エネルギー庁石炭部長作成「平成九年六月一七日付け照会事項について(回答)」の1の三項参照)。なお、右〔1〕、〔2〕に該当しなくても、鉱害被害者が希望する場合で一定の要件に合致する場合には、例外として移転復旧を認める運用がなされており、その場合の復旧費は右〔1〕に準じ、原状復旧に要する費用の範囲内とされている。
(3)家屋解体新築工事
 
家屋解体新築工事とは,右みなし復旧工事実施要領の第二章第一節第3項で、復旧工事の一つとして認められている「改築工事」の一態様であり、鉱害家屋の所有者が、自己の意思により費用を負担し、当該家屋を解体新築する工事であって、復旧工事の内容を超過するものをいう(原審・検甲四添付の九州支部作成の「家屋解体新築工事取扱要領」)。
 
鉱害被害家屋の所有者が事業団九州支部に家屋解体新築工事を申し出ると、九州支部と通産局との間の事前協議を経て、九州支部から家屋所有者に家屋解体新築工事に充当できる金額(以下「家屋新築工事充当金」という。)が通知される。これを受けて復旧工事の施工業者から九州支部に家屋解体新築工事承諾願いが提出され、九州支部から施工業者に対して右工事承認書が交付される。次いで、家屋所有者と施工業者又はその下請業者との間で家屋解体新築工事請負契約が締結され、九州支部に対して工事費の支払いを求め、九州支部は、復旧工事費の範囲内で、施工業者に出来高払い又は清算払いの方法により工事費を支払う。家屋解体新築工事を申し出た鉱害被害者においては、実際に要した家屋本体工事費等の不足分は自己負担となる。 
 
原状復旧の場合の敷地・家屋等の復旧費は、〔1〕本工事費(工事費、諸経費、仮移転建物費)、〔2〕補償費、〔3〕調査設計費、〔4〕工事雑費、〔5〕事務費、〔6〕消費税の以上〔1〕ないし〔6〕の合計であり、右〔1〕括弧内の「工事費」の細目は、宅地工事費(盛土・整地工事、土留工事、外柵工事、排水工事、庭園工事、屋外雑工事等)、家屋工事費(屋内雑工事等)、家屋工事費(屋内雑工事、家揚工事、基礎工事、屋根工事、壁工事、木工事)、附帯設備工事費(水道、電気、ガス、電話工事等)及び労務者輸送費からなっている。そして、家屋解体新築工事に向けられる前記家屋新築工事充当金は、右家屋工事費の額によることとなるが、九州支部から施工業者には、他に水道工事を除いた附帯設備工事も含めて発注されているところであり、水道工事も別途随意契約により業者に発注、施工されるので、実際に事業団九州支部から、家屋解体新築工事に充当される金額は、右附帯設備工事費を併せたものとなる。
 
しかし、現実には、鉱害被害家屋所有者と施工業者等との間で締結される家屋解体新築工事請負契約のうち、家屋新築工事に関する部分は形式のみで、鉱害家屋所有者が、復旧工事施工業者以外の業者に新築工事を発注する例が多い。したがって、この場合には、鉱害被害者家屋新築工事請負契約締結の際、施工業者等と右家屋所有者との間には、施工業者が事業団九州支部から支払いを受ける工事費のうち、家屋解体新築工事に充当されるべき家屋新築工事充当金部分を右家屋所有者に支払われるべき旨の合意が成立し、事業団九州支部から施工業者等に工事費が支払われた時点において、右家屋所有者は、施工業者に対して、家屋新築工事充当金相当額の債権を取得するという関係が存することになる。
 
なお、九州支部長が施工業者との間で締結する復旧工事契約は、現地復旧を原則とし、鉱害被害者からの申出があり、別途通産局の許可があれば、実施計画の一部変更として、家屋等移転復旧なり、移転しての家屋解体新築工事に内容が変更される。
 
実際の家屋等復旧工事の大半は家屋解体新築工事の方法により行われており、本件の鉱害被害家屋においても、すべて家屋解体新築工事への変更が認められている。
(4)復旧不適家屋等
 
鉱害被害家屋等が、〔1〕地形、地盤等の状況から原状復旧が技術的に著しく困難な場合、〔2〕住宅地区改良事業の対象となっている場合、公共事業の実施により撤去が必要となっている場合等であって、復旧することが経済的又は社会的に著しく困難又は不適当な場合には、事業団は、復旧不適家屋等として、復旧工事を行うことなく、通商産業省令で定める算定基準に従った金額を当該復旧不適家屋等に係る鉱害被害者に支払うべきこととされている(復旧法七九条の三第一項、原審・検甲三添付の資源エネルギー庁石炭部長通達「復旧不適家屋等の処理について」)。
 
ただ、右〔1〕、〔2〕の場合の全てが復旧家屋等として右金銭補償の対象とされるのではなく、このような場合前記家屋等移転復旧工事や、さらに場所を移しての家屋解体新築工事の対象ともなりうるところから、いずれかの制度が適用されることになる。
 
また、事業団は、関係地方公共団体との連絡を常時密接に行って公共事業の実施計画を早期に把握し、公共工事の実施により撤去が必要となっている復旧不適家屋等については、できる限り公共事業と合併して処理を行う等総合的、効果的な処理を行うこと、復旧不適家屋等の補償金額を定めようとする場合には、関係地方公共団体と相互に十分意見を調整し、被害者が事業団と地方公共団体から受け取る補償金の合計額及び負担比率が適正なものとなるようにすることとされ(前記資源エネルギー庁石炭部長通達)、事業団の負担比率は地方公共団体が用地対策連絡協議会理事会決定の「公共用地の取得に伴う損失補償基準」(以下「用対連基準」という。)で算出した家屋等補償金に所定の鉱害被害減価率を乗じて得た部分の割合とされており(「復旧不適家屋等について支払うべき金額の算定基準を定める通商産業省令」三条一項参照)、その余は関係地方公共団体が負担することとなる(当審証人f)。
 
公共事業と連携してなされる復旧不適家屋等の処理業務の作業工程は、まず当該対象物件が復旧の基本計画として認可(編入)されたものであることを前提に、その実施業務の段階で、競合する公共工事があれば、事業団支部の計画部が、事業所のなす市町村等関係機関や鉱害被害者の意向聴取・調整をもとに検討を行い、復旧不適家屋等の処理として補償金の支払いを相当と認めるときは、改めてその支払いのための基本計画を作成し、認可を受けることとなる。
三1 以上認定の事実をもとに考察するに、被告人A及び同Bにかかる原判決が、「争点に対する判断」の第三の一の4、5で、地対法上の家屋補償と鉱害復旧における家屋解体新築工事とは、その費用の対象がほぼ同一であり、内容においても相当部分が重なっているのであるから、両方の利益を受けることは、同一の原因で同時に二重の利益を受けることになり、許されないところであって、地対法上の家屋補償を受けた場合には、別に鉱害復旧に関して、復旧不適家屋等としての補償を受けうるかはともかく、さらに当該家屋に鉱害復旧を受けることとして、家屋解体新築工事の実施を求め、家屋新築工事充当金相当額の利益を受けるのは違法である旨説示するところは正当として是認することができる(ただし、原判決がいう「地対法上の家屋補償」での「地対法」とは、その判文からして「地域改善対策特別措置法」のみを指しているものと解されるが、右説示の趣旨は本判決で「地対法」と総称する前記三法に共通である上、本件道路改良舗装事業が川崎町により実施された当時、地域改善対策特別措置法は既に失効し、右事業は「地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律」を根拠法令として実施されたものであるから、原判決の説示は格別に地域改善特別措置法に限定しての説示と解されるべきものではない。)。
2(一)これを敷衍するに、前認定の復旧工事契約は、復旧法に基づくものであるが、同法は、国土の有効な利用及び保全並びに民生の安定を図り、鉱害を計画的に復旧することを目的とするものであることは前述のとおりであり、従って同法にいう「復旧工事」とは、鉱害により効用阻害の生じている土地物件につき、本来有していた効用を回復するよう施工される工事ということになる(同法二条二項)。また賠償法は、復旧法の定める復旧基本計画の作成、復旧事業の施工等の業務を行うために事業団を設け(賠償法一二条、三〇条)、事業団は、賠償義務者の納付金(復旧法五〇条)、受益者の負担金(同法五二条)、地方公共団体の負担金(同法五三条)等を財源として、復旧工事を施行し、又は、復旧工事の施行者に復旧費を支払う(同法五五条以下)ものとされ、復旧工事が施行されて鉱害被害を受けた農地等の効用が回復する等一定の要件を満たした場合には、鉱害が消滅するとみなす旨規定され(同法七五条)、家屋の場合も効用が回復すれば鉱害が消滅するものと解されている一方、賠償義務者が無資力の場合や、賠償義務者が存在しなくなった場合には、事業団がその復旧費の一部を負担するものとも規定しており(同法五三条の二)、この場合には、復旧費は、その全額が国及び地方公共団体からの補助金によって賄われることになる。
 
右のような法の諸規定に照らすと、事業団が行う同法に基づく鉱害の復旧工事は、鉱害被害の損害賠償の履行としてなされるものではなく、公益目的のものであるから、同法に基づく家屋の復旧工事には、当該家屋について効用阻害が現在することが要件であると解され、一時は鉱害被害による効用阻害が存在したとしても、その後の事情変化によって、効用回復の対象物件が存在しなくなったり、それと同視できる状態となった場合は、もはや同法による復旧工事を施行する要件を欠くものと解される。
 
また、実質的にみても、地対法上の補償の対象である家屋解体移転と鉱害復旧における家屋解体新築とは、いずれも家屋を解体して新築するという点で基本的には一致している上、地対法上の家屋補償は、家屋を解体して、同程度の家屋を新築するに足る費用であって、現に、各原判決認定のとおり、本件で家屋補償費を受領したV女らは、その補償費の七、八割程度の費用で旧家屋よりも広く、同程度以上の家屋を新築している。その各費目をみても、鉱害復旧における家屋解体新築には、家屋新築工事充当金及び附帯設備工事費の合計額が建物解体新築に充てられ、また請負業者に施工させての仮移転建物費の給付もあり、これらは地対法上の家屋補償費(内訳は、原判決の「争点に対する判断」の第一の二の1(三)で認定のとおり、家屋解体移転費、工作物、立木、屋内動産及び一般動産の移転費、移転雑費、仮住居費用等からなり、これらは用対連基準により積算されることとされ、右家屋解体移転費については再築工法により算定されるのが一般的である。)に相当するもので、重複したものとなっている。
(二)これを本件についてみるに、鉱害復旧の対象とされたV女ら本件鉱害被害者所有の家屋は、事業団九州支部から施工業者に本件家屋等復旧工事を発注する前に、川崎町施行の地域改善対策特定事業(道路改良舗装事業)による家屋解体移転の補償契約が締結され、その補償金も本件復旧工事発注前にその全額ないし約半額が支払われ、当該家屋が取り壊わされるべきものとなっていたものであり、その家屋について重ねて鉱害復旧を受けることは違法なものであったというべきである。なお、川崎町での右家屋補償額の算定にあたっては、本来、当該建物に、経年減価を超えるような鉱害被害があれば、相当額の減価がされるべきと思われるが、このような減価がなされた形跡はない(「補償金算出総括表写し」当審・弁二一、二三ないし二五、二七参照)。
四 以下所論にかんがみ、さらに補足して説明する。
1 被告人Aの弁護人登野城及び同角銅の所論は、「現に復旧法七九条の三は、復旧不適家屋について補償金が支払われることを規定している」(登野城)、「復旧法による鉱害復旧事業は、鉱害がなければ効用を保持し得たであろう家屋を元々の状態にまで効用を回復する工事を予定しているのであり、今現在の家屋を他の位置に移転しさえすれば足りる地対事業とは根本的に異なる。後者は、鉱害によって減価評価された分は補償対象になっておらず、その部分につき鉱害被害家屋の所有権は被害者に残っているとみるべきである」(角銅)から、地対法上の家屋補償と鉱害復旧における家屋新築工事充当金とは法的性格を異にし並存しうる、というのである。
 
そこで検討するに、事業団が復旧法に基づいて施行する復旧工事は、あくまでも、鉱害により効用阻害が生じている物件の効用回復のためになされるものであって、時にその施行が地盤等の状況から原状回復が技術的に著しく困難であるとか、公共事業の実施により撤去が必要となっている家屋等で、復旧法による復旧工事(前記家屋等移転復旧工事や家屋解体新築工事)が選択されなかったものについて、被害者に一定の金銭を支払うこととする前記復旧不適家屋等の処理とは性質を異にし、復旧法七九条の三を根拠に鉱害復旧における家屋新築工事充当金の支払いが許されるとすることはできない(復旧不適家屋等の処理として支払われる右金銭の性質は、復旧工事の施行を受けた者との均衡を考慮し、鉱害被害者保護の観点から、政策的に被害者に対し鉱害復旧により受けられたであろう利益を補償しようとするものと解される。)。
 
また、地対法上の家屋補償と鉱害復旧における家屋新築工事充当金の法的性質は同一とはいえないものの、地対法上の家屋補償がなされれば、早晩鉱害被害家屋は解体撤去されることになるのであって、もはや効用を回復すべき対象は存しないとみるべきこととなるから、復旧不適家屋等の処理として一定の金銭補償がなされる場合がありうること(ただし、本件ではこれが否定されることは後述)はともかく、鉱害復旧工事、そしてその一態様としての移転復旧工事ないし家屋解体新築工事がなされる余地はなく、右家屋解体新築工事を前提とする家屋新築工事充当金の支払いがなされ得ないことは当然であり、所論は採用できない。
2 被告人Bの弁護人入屋の所論は、「地対法上の家屋補償は、憲法二九条三項により公共事業のための買収時点における土地・家屋につき相当な価格の補償がなされるものであるのに対し、復旧法上の鉱害復旧は、損害賠償の一方法として原状回復の履行を内容とし、効用を回復するために必要な工事費に対応するものであるから、両者は、守備範囲を異にし理論的に両立する。このことを前提とした上で両者の現実の履行の調整を図るため、復旧法七九条の三の復旧不適家屋等処理の規定が設けられているところ、事業団では、これを押し進めて、資源エネルギー庁通達の前記みなし復旧工事実施要領により、公共事業が計画される等の理由により公共団体から家屋補償を受けた復旧不適家屋につき、復旧法七九条の三第一項の金銭補償手続にかえて現実の移転復旧工事を認めているのであるから、右実施要領に従って見積った復旧工事費を家屋解体新築工事に充当する支払いをなすことは適法である。」というのである。
 
しかし、そもそも、復旧法に基づく鉱害復旧工事は、損害賠償の一方法としてされるものではなく、公共の見地から、鉱害のある物件の効用回復のためになされるものであって、所論はその前提を欠く上、地対法上の家屋補償がなされた家屋について、復旧法七九条の三第一項を根拠にして、復旧工事がなされる余地のないことは前記1に説示のとおりであって、所論はその引用の通達の解釈を誤っており、採用できない。
 
被告人Bの弁護人小宮の所論は、「地対法上の家屋等の補償は、憲法二九条三項に基づく従前の家屋等の価値に対する補償であるのに対し、復旧工事における家屋新築工事充当金は、従前の家屋等の鉱害による損傷の補修金すなわち損害賠償金であり、その趣旨・目的が異なり、前者は、鉱害による損傷のある分(損害賠償額)だけ安く評価されているから、同じ家屋に対し鉱害による損傷の補修金が支出されても補償が重複することはない。現に、復旧不適家屋等の処理として金銭補償がなされるということも、地対法上の家屋補償のほかに鉱害による家屋の補修金相当額(損害賠償額)を金銭で補償するということであり、復旧法はかかる二重補償を前提としている。事業団が、田川郡大任町内において、業者に発注して実施した家屋等の鉱害復旧工事(移転復旧)で、工事施工後に、既に同一物件に対し地対事業による家屋補償がなされていることが判明したとして、右業者に請負代金の支払いをしなかったため、請負業者が事業団に対して右代金の支払いを求めて提訴したいわゆる楠木事件において、請負工事代金の約三分の二を、事業団が右業者に支払うことで和解が成立しているのは、従前の家屋等の鉱害による損傷の補償金(損害賠償金)を和解金という形でなしたもので、実質は事後的に復旧不適家屋に対する金銭補償がなされたものである。」というのである。
 
しかしながら、所論がその前提を欠くものであることは、弁護人入屋の前記所論に対する判断で示したと同様である上、地対法上の家屋補償がなされた家屋に、鉱害復旧工事がなされる余地のないことは前記1に説示したとおりであり、また本件においては、地対法上の家屋補償が十分なされ、鉱害による損傷のある分だけ安く評価された形跡がないことも前記三の2 のとおりであるから、所論がいうような二重補償が認められるものではない。所論引用の民事事件の和解は、その主張によっても、事業団と復旧工事を請け負った業者との請負契約上の工事代金の支払いをめぐっての争いであることは明らかであって、事案を異にし、本件に適切ではない。
3 なお、被告人A及び同Bに関する原判決は、「争点に対する判断」の第三の一の6(一)において、以上と同旨の弁護人らの主張に対し、「所論の鉱害による損傷は、復旧不適家屋として金銭で補償されることとされているのであり、鉱害復旧による補償をしてはならない………。と説示しているところ、前述のとおり、公共事業等と競合することによって復旧不適家屋等の処理をする場合は、本来事業団と関係地方公共団体等が補償を分担すべきものであるから、原判決が、本件のように地対法上の家屋補償を完全に受けた場合でも、復旧不適家屋等の処理として金銭で補償される余地があるとの趣旨を述べているのならば、正確とはいえないと解される。この点で、弁護人小宮が当審弁論(第二の二)で争うにもかかわらず、前記通商産業省資源エネルギー庁石炭部長作成の回答書1の三項において、「公共事業による補償が、撤去する家屋が本来有していたのと同様の効用を有する代替家屋を取得するものであるときは、復旧により効用回復すべき対象となっている家屋等が消滅したものと解されるので、もはや復旧法の対象とすることはできないことは明らかであり、当然不適家屋等支払金制度の対象ともなり得ない。」と述べているのは、正当と考えられる。
五 その他、所論にかんがみ検討しても、原判決に所論の法令の適用の誤りないし事実誤認はなく、論旨は理由がない。
第三 詐欺行為をめぐっての、被告人三名の弁護人らからの事実誤認の主張について
一 論旨は、要するに、各原判決は、被告人Aの単独(V女所有の鉱害被害家屋分)ないし鉱害被害者W女ら四名それぞれと共謀しての詐欺行為を認定しているが、欺罔行為とみるべき実行行為がない上、被害者とされる事業団の決裁権者は二重補償の事実を知っていて錯誤はなく、仮に錯誤があったとしても被告人Aや本件鉱害被害者らは二重補償は事業団の決裁権者も承知していることと思い込んでいたものであるから詐欺の故意はなく、いずれにせよ本件詐欺罪は不成立であって、正犯とされた被告人Aはもとより、その従犯とされた被告人B及び同Cも無罪であるから、原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある、というのである。以下所論に従い検討する。
二 欺罔行為
1 各所論の要旨は、以下のとおりである。
(一)被告人Aの弁護人登野城の所論及び同弁護人船木誠一郎の当審における事実取調べ後の弁論における主張は、「V女ら五名の鉱害被害者は、川崎町と補償契約を結ぶ前に鉱害の申出をし、あるいは鉱害認定がなされているところ、事業団は、鉱害被害者の鉱害申出を受けて現地調査をした上、通産局に鉱害認定の申請をなして、その後幾段階もの行政行為を経て実施計画が通産局によって認可されたもので、本件鉱害被害者らが事業団に提出した書類は鉱害復旧事業の端緒となり、その手続に必要とされる資料提出の意味しかない上、そのうちの復旧工事受諾の同意書は、既に地対事業による家屋補償金が出ていることを知っている事業団九州支部田川事業担当係員gから提出を求められ、署名押印したものであるから、欺罔行為の定型性に欠けているというべきであり、その他、家屋移転復旧申出書、家屋新築工事申出書、原判決が虚偽と判示する売買契約書等の提出も同様に事情を承知したgが作成したものに署名押印したに過ぎず、欺罔行為にあたらない。」
(二)被告人Bの弁護人入屋(当審における事実取調べ後の弁論における主張を含む)及び同弁護人小宮の所論は、「復旧法七九条の三第一項の規定及び資源エネルギー庁通達のみなし復旧工事実施要領等によれば、事業団は、公共事業の実施計画を早期に把握し、復旧不適家屋についてはしかるべき適正な処置をとるよう義務付けられており、鉱害被害者の鉱害復旧手続に関する行為を慎重に調査してその要望を適正な方向に導くことが予定されているのであって、鉱害被害者が鉱害復旧手続に関してとる行為は、まずは事業団の審査の対象にはなり得ても、そのまま鵜呑みの対象になることはないから、欺罔行為としての定型性を有しないというべきである。しかも、本件各鉱害被害者は、右田川事業所職員から求められ、復旧工事の同意書、家屋移転復旧申出書、家屋新築工事申出書を提出したに過ぎないから、これらが欺罔行為となるはずはない。」
(三)被告人Cの弁護人美奈川及び同吉岡の所論(当審における事実取調べ後の弁論における主張を含む。)は、「原判決は、家屋補償契約締結後の、本件鉱害被害者らの鉱害復旧等申出書、家屋等鉱害復旧工事の同意書、家屋移転復旧申出書、家屋解体新築工事申出書等の提出を、欺罔行為であると認定しているが、これらの文書の提出はそもそも鉱害復旧に直結するものではなく、復旧事業がなされるための端緒なり、その手続に必要とされる資料提供の意味しかなく、したがってこれら書面が提出されたからといって鉱害復旧工事等が行われることにはならず、詐欺の実行行為として不十分であるのみならず、既に地対事業による家屋補償金が出ていることを知っているM及びgが取り扱うことを認識した上で、田川事業所へ提出されたものであるから、これらの文書の提出をもって欺罔行為と評価することはできない。また、原判決の認定では、Mもしくはgが、欺罔の手段とされるこれらの文書を決裁権者に提出しなければ詐欺は成立しないことから、その成立を認めるにはM及びgの本件への共犯としての関与を前提としなければならないところ、原判決は、M及びgの共犯関係は認定していないので、前記各文書の提出をもって、欺罔行為とすることはできない。」
 
というのである。
2 しかしながら、本件鉱害被害者らは、川崎町との間で家屋補償契約を締結し補償費の全額ないし半額の支払いを受けて、もはや当該家屋について、鉱害復旧を受けることができないこととなったのであるから、その後、事業団九州支部長の家屋復旧工事契約締結の前提である復旧工事の同意書の提出や、事業団九州支部長ないし総務部長の施工業者への家屋新築工事充当金の支払いの前提である家屋移転復旧申出書、家屋解体新築工事申出書等の提出は、いずれも欺網行為にあたり、定型性を欠くとすべき点はない(なお、各原判示の詐欺行為には、鉱害復旧申出書の提出は含まれていない。)
 
本件鉱害被害者らが事業団に提出したこれらの書類は、確かに、直後に鉱害復旧の実施を請求するものではないが、鉱害復旧事業の端緒となり、あるいはその手続の進行に必要とされる資料提供の意味を有するとともに、当の鉱害被害者の、家屋等の復旧工事及び家屋新築工事充当金の支払いを受けたいとの要望を手続に反映させようとするものであるところ、これらの文書が鉱害復旧手続を進行させ、家屋新築工事充当金の支払いに向けた一連の手続に不可欠のものであり、これが事業団宛に提出されるものであることを、本件鉱害被害者らが認識している以上、客観的には欺罔行為といわざるを得ない。
 
たとえ鉱害復旧事業が,復旧法及び賠償法に基づき、事業団等の行政機関が主体となって行われる一連の手続であり、事業団が右各文書を審査すべき義務があること、またこれら文書の作成は、Mやgら事業団職員が本件鉱害被害者に署名・押印を求めたものであり、後述のとおり、これを求めたMやgらが川崎町から家屋補償がなされる事実を知っており、同人らが共犯の責任を負うとしても(その場合は幇助犯が成立すると解される。)、結論に影響するものではない。また、各原判示の詐欺行為は、Mやgの共犯としての関与の認定を前提とするとはいえないから、被告人Cの弁護人らがかかる前提をもとになす所論は失当である。 
三 事業団(決裁権者)の錯誤
1 各所論の要旨は、以下のとおりである。
(一)被告人Aの弁護人登野城の所論(当審における事実取調べ後の弁論における主張を含む。)は、「事業団においては、復旧基本計画の策定の過程で市町村と協議すべきことが義務付けられており、本件でも川崎町から、昭和六三年一月一三日付けのものを初めとして何通もの復旧工事の促進を依頼する文書が出され、事業団九州支部長ら幹部職員は、同町の公共工事の内容を十分知っており(現に原判決認定のとおり田川事業所第一課長のMらは予め川崎町から家屋補償のなされていることを知悉していた。)、
 
家屋新築工事充当金の支払い等の段階で錯誤に陥る余地はない。」、
 
被告人Aの弁護人玉井勝利及び同船木の当審における事実取調べ後の弁論における主張は、「〔1〕当審における事実取調べの結果によれば、川崎町における二重補償の実態につき、被告人Bの記憶を頼りに二九名につき関係機関に照会した結果、その大半について、昭和六〇年以降に川崎町がなした地対事業(道路改良舗装事業)による家屋補償と、事業団からの鉱害復旧との重複のあることが明らかとなったこと、〔2〕事業団関係者は、昭和五二年終わりころから、川崎町が事業団に対し地対事業(道路改良舗装事業)の施行にあたり出してきた今回と同様の一連の復旧工事を依頼する文書を、地対事業による補償がなされていない意味であることを前提として、家屋等の復旧工事を依頼してきたものと考え対応していた旨供述しており、従って、かなり以前から、本件と同様に家屋補償に併せて復旧工事がなされてきたものと推認されること、〔3〕事業団関係者は、地対事業との競合を知りながら、川崎町に家屋補償の有無を進んで確認していないこと、〔4〕川崎町内ではこれまで復旧不適家屋等の処理がなされた形跡がないこと、〔5〕また右依頼文書は事業団関係者が供述するようには、地対事業による補償がなされていないことを意味する文書とは解せられないこと(すなわち、家屋補償がないことが明記されているわけではない上、一般に家屋補償の金額が鉱害復旧による補償を金額として上回っており、手続的にも鉱害復旧事業の方が煩瑣であることから、敢えて家屋補償ではなく、鉱害復旧を選択するとは考えられない。)等に照らせば、事業団九州支部長ら幹部職員も、本件鉱害被害者らに対し、川崎町からの家屋補償がなされていることを知悉していたというべきであり、錯誤はない。」
(二)被告人Bの弁護人入屋の所論は、「川崎町から事業団宛に出された復旧工事の促進を依頼する文書は、憲法二九条三項の理念等によれば、当然町から地対法上の家屋補償がなされることを告知する役割も果たしており(本件で最初に出された該依頼文書の作成日付である昭和六三年一月一三日当時、事業団にはb女方を除く鉱害被害者らからは正式の鉱害復旧等の申出書さえ未だ提出されておらず、その鉱害認定・復旧は、当の事業団、通産局でさえ予測できず、いわんや川崎町では全く予想することができない状況であるのに、川崎町が、家屋補償せずに鉱害復旧に委ねる物件を指定し、同文書にあるような工期を定めることは到底できることではない。)、また、特に事業団は、その後の一連の復旧工事の促進を依頼する文書で、最も安上がりの家引き工法を右文書を通して要望させていることは、すでに家屋補償がなされることを知った上でのことであり(さもなくば、鉱害被害者が最も安上がりの家引き工法を承諾して家屋の撤去に応じるはずがない。)、事業団九州支部長以下職員が、本件で家屋補償支払いの事実を知らなかったとはいえず、錯誤はない。」、
 
被告人Bの弁護人小宮の所論(当審における事実取調べ後の主張を含む。)は、「事業団九州支部長以下職員は、地対法上の家屋補償が鉱害復旧による補償に比してはるかに高額であることは常識として知っていたから、川崎町からの復旧工事の促進を依頼する文書により、本件の鉱害復旧家屋が川崎町の地対事業の対象となっており、それにともない地対法上の家屋補償がなされていることを知っていたはずであり、錯誤はない。事業団は川崎町から、右依頼文書に加え、h方の『工事要望書』(原審・弁六六)及び『浦の谷地区W女宅移転先地の変更について(お願い)』(同・検四九添付)と各題する復旧工事関係の要望書を受領しており、それにはこれらの家屋に地対法上の家屋補償がなされていることが示されていることを考え合わせるならば、一層そのように解すべきである。」
(三)被告人Cの弁護人美奈川及び同吉岡の所論(当審における事実取調べ後の弁論における主張を含む。)は、「当審における事実取調べの結果によれば、昭和四八年から平成元年までの間の事業団九州支部における復旧不適家屋等の処理事例のなかには、本件と同様の地対事業による道路改良事業と競合した例がないばかりでなく、当審において関係機関への具体的照会の結果、照会の大半につき、昭和六〇年以降に川崎町がなした地対事業(道路改良舗装事業)の家屋補償と、事業団からの鉱害復旧との重複のあることが明らかになったことを考え合わせると、川崎町内においては、そのような競合の場合、復旧不適家屋等の処理による金銭補償ではなく、地対事業による家屋補償とともに、鉱害復旧工事が行われていたものと推認されるところであり、かかる二重補償の慣行があったとみるべきである上、一般的にいって地対法上の家屋補償は鉱害復旧による補償に比較して高額であることは周知のことであり、現に本件においては家屋補償費の方が圧倒的に高額であることは明らかであって、このことは事業団職員も当然認識していたものとみられ、加えて、川崎町からの復旧工事の促進を依頼する文書や前記工事要望書の記載内容をも合わせ考えれば、事業団の決裁権者も本件において町から家屋補償がなされていることを十分分かっており、鉱害復旧による補償との二重補償を黙認していたというべきであって、錯誤に陥っていたということはできない。」
 
というのである。
2 そこでまず、川崎町から事業団宛の、本件鉱害被害家屋等の鉱害復旧に関する各種文書の発出状況及びその記載内容等について、記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも併せて検討するに、次に付加訂正するほか、概ね、各原判決が「争点に対する判断」の第一の四で認定するとおりである。
(一)すなわち、本件の鉱害被害家屋等の鉱害復旧に関し、事業団等に宛てた川崎町町長作成名義の復旧工事の促進を依頼する文書(以下「促進依頼文書」と総称する。)は、各原判決の「争点に対する判断」の第一の四の1以下に認定のとおりである(ただし、その〔1〕の文書に添付されていた図面は現場付近地図の計画路線を簡略に記入したものであり、〔4〕の文書については、これと同日付けで、「道路工事に伴う鉱害家屋の復旧について(お願い)」との同じ表題の書面も出されており、宛て先は、事業団九州支部田川事業所長であり、n、aほか一名の家屋について、家引きをお願いするというもので、町と田川事業所との話合い決定事項として、家引きに伴ってそれぞれの敷地の土留、盛土工事等の町側負担施行分の記載がなされており、〔8〕の文書は、発信にあたって〔9〕の文書と同様に平成元年一一月二七日とすべきを、平成元年一〇月二七日と誤記されたものである。)。
 
促進依頼文書の意味については、関係証拠に照らし、各原判決が「争点に対する判断」の第四の一で説示するとおりのものと認められ、昭和五二年の終わりころから、地対事業(道路改良舗装事業)と鉱害復旧事業が整合性をもって連携して実施されるよう、川崎町から事業団に送付されてきたもので、本件の促進依頼文書も昭和五二年当時と様式・内容がほぼ同じであり、川崎町の同和対策課(事業担当)でかねて発出した文書を雛形にして、それに訂正を加えるなどして作成されたこと、促進依頼文書のうち最初の〔1〕の文書は被告人Aから依頼を受け、川崎町同和対策課事務担当課長の被告人B及び同課業務担当課長の被告人Cにより作成され、川崎町から田川事業所に提出されたものであるが、それ以降は田川事業所の方からの逐一の求めに従い、出されたものであることが認められ、これによれば、促進依頼文書は町と事業団の連絡調整文書であって、被告人Bや同Cが事業団を欺罔するために作成送付したものとみることはできない。
 
前記〔1〕の促進依頼文書は、後述のとおりその体裁・内容からして、道路改良舗装事業の計画路線が予算に計上され議決されるとの見込みで情報伝達した文書に過ぎず、格別に、家屋補償がなされていないものとして鉱害復旧を求めたものとは解されないことからも、欺罔のため作成送付された文書とはいえない。
(二)平成元年八月二八日付けで、川崎町長から田川事業所長宛に、「工事要望書」と題する文書が出されている。
 
その記載は、「当町に於きましては、昭和六三年度地域改善対策事業桃山村中線道路改良舗装工事に伴う補償家屋移転地として、平成元年度桃山団地造成工事が必要になり計画実施していますが、貴事業団で実施復旧計画が為されている、丸山地区n氏宅の土留工事の変更を本町の桃山団地造成工事に合わせ、ここに添付図面(平面図一葉、横断図一葉、構造図二葉)及び施行誓約書、隣接地権者同意書を添え、協力していただくことを要望します。」というものである。
(三)平成元年九月二二日付けで、田川事業所長から川崎町長に対し、公共工事による補助金の重複を避けるため、西本町桃山線及び桃山村中線の計画路線内にある鉱害復旧対象家屋について、補償の有無及び内容についての証明書の発行を依頼する旨の文書(以下「本件家屋補償照会文書」という。)が出されている。
 
右照会に対し、同年一〇月三日付けで、川崎町長名義の田川事業所長宛の「道路改良工事に伴う補償証明書について(回答)」と題する書面が出されており、その内容は、桃山村中線道路改良舗装工事に関するb女、i、a、W女の各家屋、西本町桃山線道路改良舗装工事に関するV女、j女、d、KダッシュことKの各家屋については、いずれも家屋補償費の支払いがないというものである(以下「本件家屋補償なし文書」という。)。
(四)平成二年四月一六日付けで、川崎町長から事業団九州支部長宛に「○○地区W女宅移転先地の変更について(お願い)」と題する書面が出されている。
 
その記載は、「標記のこと、平成元年一月二〇日、川同第四〇二号にて、移転復旧をお願いし、移転地先を確保し、平成元年度三次D一八一で実施して頂きましたが、平成二年度地域改善対策事業(同和住宅建設)のため当初予定した土地(移転先地)で野村宅の復旧ができなくなり、川崎町有地である川崎町大字○○△△―△番地 ××団地に変更させて頂きたいので、お願いいたします。」というものである。
3 本件鉱害被害者らから事業団宛に提出された前記鉱害復旧等申出書を初めとする一連の文書により、事業団が錯誤に陥ったか否かは、最終的に決裁にあたる九州支部長ないし同支部総務部長に錯誤が認められるか否かにより決せられるべきであるところ、本件当時の、九州支部総務部長S、同支部工事部(家屋担当)工事課長lの各当審証言、同工事部(家屋担当)次長mの原審証言を初めとする関係証拠によれば、施行業者との間の本件家屋等復旧工事請負契約の締結にあたった事業団九州支部長nや、家屋新築工事充当金を含む工事請負代金の支払い決裁にあたった後任の同支部長q(金額五〇〇万円以上のもの)ないし同支部総務部長S(金額が右未満のもの)は、それぞれ右行為にあたって、それまでの手続が関係部署の稟議・決裁を経て適正になされているとの判断のもとで、本件鉱害被害者に対し公共工事等による家屋補償がなされていないという前提で、これをなしたものと認められるところである。右決裁権者がなした右契約締結にいたるまでの各種手続の決裁資料自体は右の前提で整理されたものであり、また請負代金の決裁にあたっては、ただ九州支部総務部経理一課が起票した支払い伝票に決済印を押捺するだけで、原資料の添付はなかったことから、右決裁権者が本件鉱害被害者に地対法上の家屋補償がなされていることを推知したことを窺わせるような形跡は認められない。川崎町から事業団に宛てて出された促進依頼文書なるものも、その記載文言自体は、家屋補償がなされていないことを前提として、家屋の鉱害復旧の促進を依頼するものとも読むことができるのであって、これが各種手続の決裁に添付され、閲覧されたとしても、これにより家屋補償の事実を把握することはできない状況にあった。以下、所論にかんがみ補足して説明する。
(一)新エネルギー・産業技術総合開発機構鉱害本部九州事業部計画部計画第二課長f作成の「公共事業との連携に係る復旧不適家屋処理事例について(報告)」と題する書面(当審・検一四)及び右fの当審証言によれば、昭和四八年から平成元年までの間の事業団九州支部における、公共工事と連携しての復旧不適家屋等の処理事例は四三地区・建物戸数三八一戸(田川事業所管内では五地区・建物戸数一一二戸あるが、川崎町内に限っては事例が一件もない。)あるが、本件と同様の地対事業による道路改良舗装事業と競合した例が全くみられない(同和事業との競合例はあるが、道路改良舗装事業ではない。)ところ、この間、鉱害復旧事業と地対事業による道路改良舗装事業との競合がなかったとは考えられないから、かかる競合の場合、地対事業による家屋補償あるいは鉱害(家屋)復旧工事のいずれか一方のみが実施されたか、地対事業による家屋補償に合わせて鉱害復旧が行われたものと推認される。ただ、後述のとおり、一般的に、地対事業による家屋補償額の方が、鉱害復旧工事により得られる利益に比較して高額であるとみられるから、鉱害復旧工事のみが選択された例は、あっても極めて少数であったと思われる。
 
そして、被告人Bらの記憶を頼りに、昭和六〇年から平成元年までの五年間に川崎町内で二重補償、すなわち川崎町施行の地対事業(道路改良舗装事業)による家屋補償と、事業団施行の鉱害復旧工事による家屋新築工事充当金の双方の利益を受給したと思われる二九名について、当裁判所が新エネルギー・産業技術総合開発機構(昭和五五年法律第七一号「石炭鉱害賠償等臨時措置法の一部を改正する法律」附則二条により事業団の地位を承継)の鉱害本部九州事業部及び川崎町役場に照会した結果、内四名は鉱害復旧の事績がなく、一名は建物占領者であって家屋新築工事充当金の利益受給者ではないからこれらを除き、残り二四名のうち、地対事業による補償契約締結と、復旧工事請負契約の締結が一年内(他は四年以上離れており、二重に受給したとは考えられない。)にあって、二重に利益を受給しているとみられる者が現に一七名あることが確認された(当審・弁四三)。
 
しかも、被告人Cや、証人r及び同tの原審各供述によれば、川崎町は事業団に対し、昭和五二年ころから地対事業(道路改良舗装事業)の施行にあたって、今回と同様の促進依頼文書を出していたことが認められところであり、事業団関係者はこれが地対事業による補償がない趣旨であることを前提としながら、家屋等の復旧工事を依頼してきたものと考え対応していた旨供述しているところであってみれば、川崎町内においては、昭和五二年ころから家屋補償に併せて鉱害復旧工事が行われ、家屋新築工事充当金が支払われた事例が相当多数あったものと推認される。
 
そこで、通産局、事業団九州支部において、このような二重補償の運用が是認され慣行化していたと判断することができるかであるが、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(昭和三〇年法律第一七九号)によれば、本件鉱害復旧のような国等からの補助金事業が適正に実施されるべきことが定められており、公金の二重支出ともなる、例えば本件のように既に市町村から撤去補償されている家屋について重ねて鉱害復旧がなされるがごときは許されるところではなく、各省庁の長その他の職員、事業団等の補助事業者はそのようなことがないよう求められ(同法一ないし三条)、罰則も設けられている(同法二九条、三三条二項)こと、そして復旧法においては、前述のとおり復旧基本計画の策定において、県知事との協議、市町村長からの意見聴取がなされ(復旧法四八条)、さらに復旧実施計画対象地周辺に市町村道、県道があるときは、関係自治体と必要に応じて協議がなされることとされており、二重補償がなされないことを含め公共工事との整合性が図られていること、川崎町から事業団に宛てて出された促進依頼文書なるものも、その記載文言自体は、家屋補償がなされていないことを前提として、家屋の鉱害復旧の促進を依頼する趣旨と読めないでもない上、これが九州支部から通産局への復旧工事査定申請や実施計画認可申請等に添付されていること、Mが平成元年四月に田川事業所家屋第一課長に着任した後、上層部から、川崎町に隣接する田川郡大任町内で二重補償になるとして民事紛争となっている楠木事件を例に、このような二重補償にあたる鉱害復旧がなされないように注意するようにとの指示があったため、同年九月二二日川崎町に対し「公共工事による補助金の重複を避けるため」として、本件鉱害被害者らにつき家屋補償がなされているか否かを問い合わせる本件家屋補償照会文書を送っていることなどにかんがみると、二重補償が慣行化し運用として是認されていたとまではいえない。
(二)所論が、地対法上の家屋補償は鉱害復旧による補償に比較して高額であることは事業団職員であれば当然知っており、事業団幹部も、鉱害被害者が低額の鉱害復旧だけで満足することはあり得ず、別に町から補償を受けることを知っていたはずであるとする点については、確かに本件鉱害被害者が受ける地対事業の家屋補償金と、鉱害復旧における家屋新築工事充当金を単純に比較すると、二ないし五、六倍に及んでおり、家屋新築工事充当金は地対法上の家屋補償額に比してかなりの低額となっている。一般的にこのような差があること自体は、地対事業や鉱害復旧事業の対象地域の住民と日常接し、相互に折衝の機会が多い事業団や町の現場担当者においてはかなりの範囲で知れ渡っていたものと考えられる。
 
しかしながら、事業団において、右金額の差を意識し、実態調査をするなどして、これを比較検討した形跡はなく、またその事業遂行上、かかる点の認識は格別必要とされないことから、現場での右認識が上部機関の九州支部の決裁権者にまで至っていたかは、はなはだ疑問である。しかも、右金額の高低も、鉱害復旧(家屋解体新築工事)においては、家屋新築工事充当金に加え、附帯設備工事費や施行業者に施行させての仮移転建物費の利益を受けることができることから、これら合計との比較をすると、その差は少なくなり、場合により移転地先につき、地対事業の家屋補償では賄われない宅地工事を、復旧工事であれば受けられる場合もあって、現実にはいずれを選択した方が受益者において得となるかは一概に決しかねるところがある。例えば、本件でのn方の場合、その地位を受けたuは、隣地に移転地先を取得していることから、復旧工事としてその宅地工事を受けることができ、これも含めてh及びu側が受益した総復旧工事費は一、〇六六万一、〇〇〇円となり(原審・検甲七六)、これは、川崎町からの家屋補償額九六二万七、〇〇〇円を超えるものとなっている。
 
してみると、決裁者権は、前述のとおり、それまでの手続が関係部署の稟議・決裁を経て適正になされているとの判断のもと、本件鉱害被害者に対し地対法上の家屋補償がなされていないという前提で決裁にあたっており、そのための資料自体も右前提で整理されたものであるから、決裁権者が格別の不審を抱かずに決裁したとして、不自然ではない。
(三)本件で川崎町から事業団に宛てて最初に出された昭和六三年一月一三日付け促進依頼文書は、そこで掲記された桃山村中線及び西本町桃山線の道路改良舗装事業のいずれも、いまだ昭和六三年度の予算に計上するか否かの町長・助役による査定作業が始まった段階である上(結局西本町桃山線は査定の段階で一旦削除されている。)、対象家屋名の記載はなく、ただ、計画路線が簡略に記載された地図が添付されていただけであるから、これには昭和六三年度の予算で議決されることが有力であるとの、事前の情報伝達の意味しかなく、所論の理解を前提に、これが地対法上の家屋補償がなされることを告知するものであるとする点は理由がない。
 
また、所論が、その後の一連の促進依頼文書が、最も安上がりの家引き工法を要望させているのは、すでに家屋補償がなされることを知っていた上でのことであるとする点であるが、そもそも家屋の復旧工事は現位置における補修工事を原則としつつも、資源エネルギー庁通達のみなし復旧工事実施要領では、他に改装工事や、解体組立又は家引き工事、さらに移転復旧工事が認められており、復旧工事の中で家引き工法が格段に安価とはいえないこと、また実際に、本件での当初の復旧実施計画においては、j女・V女、a、nは、家引き工事と、またW女、dは一部解体と思われるが、家揚げ・家戻となっており、全てが一律に家引き工法となってはいないこと、現に本件鉱害被害家屋への復旧工事の積算は所定の方式に則り適正になされたものと認められ、格別に低額となるような工法が用いられた形跡はないこと(原審・検甲三〇、四九、六三、七六、八七参照)に照らすと、促進依頼文書は事業団がことさら最も安価な工法を要望させたものとはいえず、所論は前提を欠き理由がない。
 
その他本件各促進依頼文書の内容を見ても、これらに前記のとおりの連絡調整文書以上の意味が含まれていたとは解されず、その内容から、事業団の幹部において、地対法上の家屋補償がなされることを認識できたとはいえない。
(四)平成元年八月二八日付けで、川崎町から田川事業所に宛てて、前記工事要望書が出されており、n方の隣接予定移転地の宅地造成に関する要望を内容とするものであるが、右移転予定地を表すのに「補償家屋移転地」なる文言が用いられており、h方家屋が地対法上の補償を受けたと理解されるところとなっている。
 
しかしながら、右工事要望書は、h方の宅地造成に関する一資料として、土留工事の変更等を求めた実施計画変更伺書に添付されて通産局に送られ、直ちに認可されていること(原審・検甲七五)、右工事要望書にある「補償家屋移転地」なる文言も、「家屋移転地」とある部分は土留工事の変更との関連性は認められるが、それが「補償」家屋の移転地であるかは土留工事と関連することではないこと等にかんがみ、当時九州支部工事部家屋工事担当次長であったmが、原審第一〇回、第一一回公判において、工事要望書自体は記憶がないとしつつ、この書面を見ても、実施計画の変更を求める範囲での理解にとどまり、さらに「補償家屋移転地」の文言にまで注意が向かない旨供述するところは、何ら不自然ではない。工事要望書の添付された実施計画変更伺書が、九州支部長や同支部総務部長の決裁に供されても、その他多数の決済業務にも携わり、おびただしい文書を閲覧すると思われる同人らが、復旧実施計画を施行するにあたっての派生的な変更伺について、その変更伺の趣旨範囲の理解以上に,添付資料に過ぎない文書の、しかもその文章中の一文言に注意を向け、家屋補償がなされている事実に認識が及ぶとするのは、無理なことであり、決裁権者において家屋補償があったことを認識し、あるいは認識していた疑いがあるとみることはできない。平成二年四月一六日付けで、川崎町から事業団九州支部長に宛てて、前記「浦の谷地区W女方宅地移転先の変更について(お願い)」と題する書面が出されており、その記載は前述のとおりであり、その文章中に「同和住宅建設」との文言があるが、その文脈を読む限り、W女方家屋に地対法上の家屋補償がなされたことを意味するとは到底解されないとともに、他の本件鉱害被害者らに家屋補償がなされたことを示すものともいえない。
(五)以上のほか、本件各証拠によると、事業団においては、前記促進依頼文書等によって、鉱害復旧の対象となる物件が地対事業と競合することを知りながら、復旧法四八条三項や前記「復旧不適家屋等の処理について」と題する通達の趣旨に反し、関係地方公共団体との協議を十分行うことなく、また、川崎町に対しては、平成元年九月になって本件家屋補償照会文書を出すまで、地対事業による補償の有無を確認するのを怠り、相当数の二重補償がなされていた事実が認められるが、だからといって事業団の決裁権者等幹部において、二重補償の事実を知っており錯誤に陥ってないと認定することはできない。 
四 詐欺の故意
1 当審における事実取調べ後の弁論における各主張の要旨は、以下のとおりである。
 
被告人Aの弁護人船木及び同玉井、被告人Bの弁護人小宮、並びに被告人Cの弁護人美奈川及び同吉岡の主張は、「被告人Aを含め本件鉱害被害者らは、かねてから地対法上の家屋補償と、鉱害復旧工事との異同や復旧不適家屋等処理の制度を承知していたわけではなく、単純に家屋補償は鉱害により減じた時価相当額にとどまり、減じた分の鉱害被害に関し鉱害復旧がなされる程度の理解で、両方受けることは差し支えないものと思い(事実、当裁判所を通じて関係機関に具体的に照会した結果、本件鉱害被害者らを含め二重補償が多数存する事実が判明している。)、直接応対したgやMらを初め事業団全体もこれを承知であるとの認識を有していたもので、詐欺の故意がない。本件鉱害被害者らが、捜査段階で詐欺を自白しているのは、捜査官から刑事事件立件を示唆されるなどし、執拗に取調べを受けたためであり、二重補償が許されないと分かっていたとの認識の根拠も不明確であり、信用性は全くない。」(被告人三名共通)、「被告人Aが、M、被告人Bや同Cから二重補償は無理であるとか、できないと言われていたとしても、従前から二重補償の例が多数ある上、Mの上位にある九州支部計画部第二課長代理のUや田川事業所のv次長から両方もらえるようにしてくれるとの了解を得ていたので、これが実現されるものと思っていた。
 
また、Mから被告人Bらに求めて発出された本件家屋補償なし文書の作成経緯において、被告人Aは、かかる文書は事業団内部の手続上の体裁を整えるためのもの程度にしか理解しておらず、また町の家屋補償について、他の名目での支出として回答にあたってはどうかとの提案もしているが、それは、右理解の範囲内で発案したもので、いずれにせよ、他の鉱害被害者と同様、二重補償が許されたものであり、事業団全体もこれを承知であるとの認識を有していたもので、詐欺の故意はない。」(被告人A)、というのである。
2 そこで、右主張にかんがみ、被告人A及び本件鉱害被害者らに詐欺の故意が認められるか否かについて、職権をもって判断するにあたり、まず、従前からの地対事業と競合した場合の鉱害復旧の実施状況(二重補償の実状)や田川事業所職員におけるこの点の認識について検討する。
(一)前述のとおり、事業団九州支部においては、昭和四八年から平成元年までの間、地対事業(道路改良舗装事業)による家屋補償と鉱害(家屋)復旧事業とが競合した場合、復旧不適家屋等の処理がなされたことはなく、地対事業による家屋補償のみが実施されたか(鉱害復旧工事のみが実施された場合も考えられなくはないが、前述のとおりその例は極めて少数と思われる。)、地対事業による家屋補償に併せて鉱害復旧が行われたものと推認されるところ、田川事業所管内の川崎町内にあっては、遅くとも昭和五二年ころから、家屋補償に併せて鉱害復旧が行われ、家屋新築工事充当金が支払われた事例が相当多数あるものと推認される。
(二)前述のとおり、一般的に、地対法上の家屋補償が鉱害復旧工事における家屋新築工事充当金よりもかなり高額であることは、事業団や町の現場担当者レベルではかなり知れ渡ったことであり、したがって、これら関係者においては、両事業が競合した場合で、鉱害被害者が家屋の鉱害復旧を申し出ているときは、特別の事情のないかぎり、地対法上の家屋補償も受けているのではないかと推知される状況にあった。
(三)現に、本件では、本件復旧工事を現場で直接担当した田川事業所家屋第一課職員のgが、遅くとも平成元年一二月八日ころ、復旧工事の同意書に印を貰いにj女方に立ち寄った際、「ふたつ貰って良かったね。」と言っていること(j女の原審証言)や、そのころ、j女と同じ西本町桃山線の道路拡幅にかかって家屋補償を受けたKの息子のPにも同様の発言をなしていること(Pの原審及び当審証言)から、gにおいては、j女やKを初め本件鉱害被害者に家屋補償がなされていたことを、補償額の詳細はともかく、知悉していたと推認するに十分である。
 
同様に、田川事業所家屋第一課長であったMは、各原判決が「争点に対する判断」の第四の二の2で詳細に認定説示するとおり、平成元年四月に事業所家屋第一課長に着任した後、同年九月二二日川崎町に対し家屋補償の有無を問う照会書を送付しているが、これは九州支部からの指示なり、田川事業所長の決定によるものではなく、発信について、同所長の決裁を得てはいるものの、M個人の判断でなされたものであり、同人自身は、それまでに川崎町の同和対策課を訪れた際の、被告人B及び同Cから受けた本件道路拡幅工事の説明により、本件鉱害被害者らに家屋補償がなされていることを知っていたものと認めることができる。
 
Mが、右照会文書を出したのも、既に家屋補償がなされていることを承知の上であることから、同人は、各原判決が、同4項で説示するように、上層部から、川崎町に隣接した田川郡大任町内で二重補償になるとして民事紛争となっている楠木事件を例に、このような二重補償にあたる鉱害復旧がなされないよう注意を受けたこともあり、このまま本件鉱害被害家屋の復旧工事を進め、後日、二重補償が問題となった場合に、担当課長である自己の責任を問われないように、これに備えて、家屋補償がなされていないことを証する文書の提出を求めて、川崎町に本件家屋補償照会文書を送付したもので、同人は、右照会に回答するかをめぐって、被告人A方で、被告人Bと折衝したおり、家屋補償がなされているととれる発言を耳にしながらも、復旧工事を停止する措置をとっていないことはもとより、右照会書を送付しその回答書を受けるまでの間も本件復旧工事はこれとは関係なく進行し、しかも本件家屋補償なし文書には、右照会書に記載されていた鉱害被害者の一部の回答が漏れていたにもかかわらず、格別照合をした形跡もみられない。
 
なお、公共事業と連携してなされる復旧不適家屋等の処理業務は、前認定のとおり、復旧基本計画の実施業務の段階で、事業所のなす市町村等の関係機関や鉱害被害者の意向聴取、調整をもとに、事業団支部計画部が進めることになるところ、昭和四八年以降、田川事業所において公共工事と連携してなされた復旧不適家屋等の処理の五事例は、県や本省の施行する公共工事や、鉱山会社所有にかかる共同住宅の住宅改良工事と競合したもので(当審検一四)、本件のように市町村レベルの公共工事(道路工事)で、しかも鉱害被害者が住民個人のような場合に復旧不適家屋の処理がなされた例はみられないことから、本件鉱害復旧工事を担当する事業団田川事業所職員においては、全く復旧不適家屋等の処理について、念頭になかったものと推察される。
3 被告人Aの故意
 
被告人Aは、若いころから地元の連協八丁支部に所属し、部落解放運動に携わり、昭和五八年同支部長に、昭和六〇年に連協鉱害対策部長になり、同和地区内において鉱害復旧を求める活動の中心的存在となり、昭和六二年四月に川崎町議会議員に初当選し、建設産業常任委員長を勤めるなどしていたが、従前から、集団交渉等により、通産局、九州支部、田川事業所と接触し、支部員等のため地対事業の補償の受給手続や鉱害復旧手続の世話をし、本件でも担当部署である事業団九州支部田川事業所の第一課長(平成元年四月から平成二年八月当時M)や係員(昭和六三年四月から平成三年四月当時g)に鉱害復旧の促進を働きかけてきたもので、他の本件鉱害被害者に比べれば、鉱害復旧の仕組みを相当程度知っていたものと認められる。
 
そうすると、確かに、被告人Aは、その立場上、長年にわたり、川崎町やその周辺において、地対事業による家屋補償と鉱害復旧による家屋新築工事充当金の支払いとの二重補償がなされていた実情をある程度知っていたものと推察され、また、従前、通産局や九州支部での交渉において、地対事業の対象となっている家屋等につき、併せて鉱害認定の手続を早めるよう求めたのに対し、格別二重補償は許されないとの言及がなされなかった経緯も認められる(被告人Aの原審第七回公判、当審第九回公判供述、Sの当審証言)から、同被告人においては、不確かながらあるいは二重補償が事業団や通産局において黙認されているのではないかとの認識があった疑いがないではない。
 
しかしながら、他方、被告人Aは、右のとおり鉱害復旧の仕組みに詳しいことに加え、捜査段階では、本件鉱害被害者と川崎町との間での家屋補償契約締結の際、被告人Bや同Cから、右のような二重補償を受けるのは無理ではないかと言われたと述べているだけではなく(平成五年二月七日付け、及び同月二六日付け検察官調書、原審・検乙七、一一)、原審公判においても、Mからは、町からの家屋補償があったことになれば、鉱害復旧はできないと明言されていたことを認める供述をしていることに照らしても、かかる二重補償が本来許されない違法なものであることの認識はもっていたものと考えられるところであり、詐欺の故意を否定することにはならない。
 
であるからこそ、原審及び当審証人Pの供述中、同人が西本町桃山線の道路改良舗装工事の補償交渉の際、被告人Bらがいるところで、同席していた被告人Aに、地対事業による補償のほか鉱害復旧ができるかと質問したのに対し、同被告人が「今そんなことを言われても困る。」と言って怒ったというのも、建前上許されることでないことを重々承知していたからこその発言として理解することができる。なお、被告人Aの原審及び当審における供述中、事業団九州支部計画第二課長代理Uが二重補償を容認する発言をしたとの点が信用できないことは、各原判決の説示するとおりであり、田川事業所次長vが同旨の発言をしたとの点も同様に信用することができない。
 
もっとも、原判決認定のとおり、本件家屋補償なし文書発行の当時、M及びgは、同文書が虚偽の文書であり、本件各鉱害被害者が川崎町から地対事業による家屋補償を受けていることを知っていたものと認められ、被告人Aからいえば、Mらは本件鉱害被害者らが違法な二重請求をしていることを欺罔されていないから、Mらが錯誤に陥っているとの認識はなかったものと認められる。しかし、二重補償を受けられることを前提として詐欺の事実を否定している被告人Aの検察官調書によっても、「請負業者に対する復旧工事の発注とか支払いなど大きなことは九州支部の方で決め、田川事業所の方は、いろいろの手続面の窓口になったり、復旧工事のチェックをするところと理解していた。」(原審・検乙六)、「Mは本件道路工事で町が補償したことを上司に報告しなかったようで、w田川事業所長は、その事実を知らなかったと思う。」(同検一一)との供述があり、被告人Aは、事業団において家屋新築工事充当金支払いの決裁権が、Mの上のどの地位の者にあるかは知らなかったとしても、その決裁権者が本件鉱害被害者らの二重補償の事実までは知らないと思っていたと認められるから、Mらの知情の有無は同被告人の詐欺の故意の成否を左右するものとは考えられない。
4 本件鉱害被害者W女、a、n、dの故意
 
同人らは、道路拡幅のため自宅を解体するにつき、川崎町からこれと同規模・同程度の家屋を新築するに十分な補償金を受領し、あるいは受領する予定であることを知りながら、事業団から施行業者に支払われる工事費から家屋新築工事充当金として相当額の利益を得ようとしたものである。
 
しかしながら、連協に所属していた同人らは、かねて被告に征時の示唆により、鉱害復旧がなされるよう、同被告人に対し事業団への働きかけを依頼していたもので、現実に鉱害被害を受けてきた者として、いくらかの補償を事業団から受けられればそれにこしたことはないといった程度の認識しか有しておらず、鉱害復旧の意味・性質、復旧の態様、他に競合する公共事業のある場合の措置等について、どれだけ理解があったかは甚だ疑問である。特に、同人らは、前述したように、かねてから永年にわたり二重補償が多数行われていたと思われる地域において、その旨の風評を聞知していたとしても不自然ではない上、本件のように地対事業から家屋補償を受けた場合、鉱害復旧を受けられるか否かは、鉱害復旧の意味にかかわるのであるから、鉱害復旧に関する知識が乏しい者として、地対事業によって家屋を解体移転し町から補償金を受け取れば、対象の家屋がなくなることにより、鉱害復旧を受けることができなくなるなどという仕組みにまで考えが及ばず、地対事業による補償のほかに、鉱害復旧による利益を受けることができないとまで知らなかったとしても無理からぬものがある。このことは、家屋の鉱害復旧の多くが現実には原状への復旧工事を行うことなく、家屋解体新築工事がなされ、家屋新築工事充当金の支払いという、鉱害による補償金の支払いと誤解されるような仕組みになっており、地対事業による補償とともに、その費目の内訳が全く明らかにされないことからも裏付けることができる。同人らは、本件鉱害復旧申出書等の一連の書面提出の際も、これを自ら積極的に作成することはなく、田川事業所のgらが持参した書類に求められるまま署名押印したにすぎず、その前後を通じ、gら事業団職員から鉱害復旧の制度や町の家屋補償を受ければ事業団から家屋復旧による利益を受けることができないことの説明はなされておらず、また町から家屋補償金を受けたかの確認もなかった。
 
鉱害被害者が川崎町との間で締結した補償契約書には、その六条で「この補償契約の履行にあたり、補償の対象となった甲(補償対象の家屋所有者の意)所有の物件にかかる鉱害復旧の問題については、乙(川崎町の意)は一切関知しないものとする。」と記載されているだけで、別途鉱害復旧により利益を受けられるか否かについて含みを残した記載になっていて、この点町の当局者から格別の説明はなされていない、検察官は、当審弁論において、右条項は、地対事業の家屋補償に加えて鉱害復旧を受けることが違法であるからこそ設けられた規定であると主張するが、文言上そのようには解されない。
 
してみると、W女ら右本件鉱害被害者四名においては、本件のような二重補償は、事業団において是認されており、承知のことと思い込んでいたものと考えられるところであり、同人らには、詐欺の故意は認められない。
 
もし、同人らが、事業団職員から町からの家屋補償の有無を尋ねられ、二重補償を受けられない旨聞かされ、場合によりこれが詐欺罪になると注意されていれば、前記書面を提出して鉱害復旧による利益を受けるようなことはしなかったものと思われる。
 
同人らの検察官調書によれば、いずれも町から家屋補償を受ければ鉱害復旧を受けることができないことを知っていた旨、詐欺の故意を認める趣旨の供述をしているが、同人らは、前述のとおり、本件のように地対事業から家屋補償を受けた場合、鉱害復旧を受けられないことを知らなかったとしても不自然ではない環境にあって、何故これを知り得たのかの供述がないことから、これは後になって取調官から二重請求が違法であると知らされ、鉱害復旧の意味・性質、復旧の態様等について知らないため、反論もできないまま、自白したものと思われ、信用性に欠けるといわざるを得ない。各原判決は、j女について、詐欺の故意があったとは認められない旨判示するが、同人と前記四名との認識において、根本的な差異があったとは考えられず、右四名についても同様に詐欺の故意を認めることはできない。
五 小括
1 被告人A
 
被告人Aにかかる原判決中、同被告人単独による詐欺一件を認定した部分(原判示第一の一)には、所論の事実誤認は認められないものの、同被告人とW女ら四名それぞれとの共犯による詐欺四件を認定した部分(同第一の二ないし五)については、右のとおりW女らに詐欺の故意が認められず、詐欺が成立しないから、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある。論旨は理由がある。
 
そして、右原判決は、以上原判示第一の一ないし五を刑法(平成七年法律第九一号による改正前のもの)四五条前段の併合罪として一個の刑を科しているから、全体として破棄を免れない。
2 被告人B及び同C
 
また、各原判決は、被告人A単独による詐欺一件、及び同被告人と右W女ら四名それぞれとの共犯による詐欺四件について、被告人B及び同Cの共謀による一個の行為による幇助の事実(被告人Bについてはその原判示第二の事実)を認定しているが、そのうち共犯による詐欺四件に対する幇助についても右同様の事実誤認があることになり、これも判決に影響を及ぼすことが明らかなものとして破棄を免れない。
第四 幇助行為をめぐっての、被告人B及び同Cの弁護人らからの事実誤認の主張について
一 論旨は、要するに、各原判決は、被告人B及び同Cが共謀して、被告人Aの単独ないし同被告人と右W女ら四名との共犯による詐欺につき、本件家屋補償なし文書を田川事業所に提出することにより、右犯行を容易ならしめして幇助したとの事実を認定しているが、右文書の提出は、復旧工事の進行と何ら関係するものではなく、あるいは本件で従犯的立場にあるMにただ精神的援助を与えたにとどまるもので、被告人A及び鉱害被害者らの実行行為に対する幇助行為として評価するには十分なものとはいえず、また、被告人B及び同Cは、詐欺を幇助する意思も有していなかったのであるから、いずれにせよ同被告人らに幇助犯は成立せず、各原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある、というのである。
 
そこで、被告人B及び同Cにつき、被告人AとW女ら四名との共犯による詐欺に関しては前記のとおり破棄を免れないので、以下主に被告人A単独の詐欺との関係で幇助犯が成立するか否かについて検討を加える。
二 幇助行為
1 被告人Bの弁護人入屋の所論は、「事業団は、公共工事による家屋補償がなされた家屋であっても、資源エネルギー庁通達の前記みなし復旧工事実施要領により、鉱害復旧工事として、適法に家屋解体新築工事を実施し、それに基づく家屋新築工事充当金を含む工事費を支出できるのであるから、被告人Bらが田川事業所に提出した本件家屋補償なし文書は、本件での各復旧工事の支払いに何ら影響するものではない。」というのである。
 
しかしながら、所論はその引用の通達の解釈を誤っており、地対事業により家屋補償がなされた家屋については、鉱害復旧工事、そしてその一態様としての移転復旧工事ないし家屋解体新築工事がなされる余地のないことは、既に説示したとおりであり、所論は前提を欠き失当である。
 
被告人Bの弁護人小宮の所論は、「Mは、本件鉱害被害者らの家屋が、川崎町実施の地対事業による家屋補償がなされていることを知りながら、復旧不適家屋等の処理をすることなく、鉱害復旧の実施計画を進めていたもので、本件家屋補償なし文書は、事業団のかかる手続ミスを隠すために、川崎町に対し提出を求めたものであり、およそ復旧工事の進行に重要な役割を果たすようなものではない。現に、本件家屋補償なし文書が田川事業所に提出される前後を通じ、実施計画は進行しており、右文書に回答のなされなかった家屋についても、復旧工事は実施されている。」というのである。
 
確かに、Mは、前記のとおり本件各鉱害被害者について川崎町から家屋補償がなされることを知っていたにもかかわらず、本件家屋補償なし文書受領の前後を通じて鉱害復旧の実施計画を進めていたこと、x、y(以上、桃山中線)、z女・(あ)女(西本町桃山線)の家屋については、本件家屋補償なし文書に記載がないのに、地対事業による家屋補償に加えて、復旧工事として家屋解体新築工事がなされ、家屋新築工事充当金が支出されていることは、所論指摘のとおりであると認められる。しかしながら、各原判決が説示するとおり、もし被告人Bらによって、本件家屋補償なし文書が発行されなかった場合には、Mは、事業団の上層部に復旧工事の見直しを求め、各家屋の鉱害復旧が見直され、被告人Aの詐欺が未遂に終わった可能性が極めて高かったものと認められる。すなわち、Mは、当時既に楠木事件が明るみになり二重補償を注意するよう上層部から言われていたものの、今さら本件の鉱害復旧工事を中止することになれば被告人Aや他の鉱害被害者らから反発を受けることが必至であったため、被告人Bらに形式上にでも家屋補償をしていないとの文書を出させることにより、表面上違法にならないようつくろい自己の立場を守ろうとしたものと思われ、同文書が出されなければ右の目的が達成されないため、やむを得ず鉱害復旧をやめるよう上司に具申せざるを得ない事態になったものとうかがえるのである。ただ、それまでの被告人Aの強い態度からすれば、仮に本件家屋補償なし文書が出されなかったとしても、その後予想される被告人Aからの圧力等により、Mが鉱害復旧事業の継続を拒否できなかった可能性もありうると考えられるが、被告人B及び同Cが関与して本件家屋補償なし文書が発行されたことが、Mをして、本件の違法な鉱害復旧事業を続行させる旨決意させ、被告人Aらの詐欺の犯行を容易にならしめたことは否定しがたいから、被告人Bらの行為は、本件詐欺の完遂に重要な役割を果たしたものとして、詐欺の幇助行為と評価するのが相当である。また、本件家屋補償なし文書の田川事業所への提出の有無にかかわりなく、実施計画が進行していたというのも、Mにおいて、本件家屋補償なし文書は容易に、かつ速やかに入手しうるものと見込んで、敢えてその受領を待つことなく、実施計画を進めていたものであったと考えられるところであり、回答文書に復旧工事の進行についての格別の意味を認めていなかったからというものとは解されない。
2 被告人Cの弁護人美奈川、同吉岡の所論は、「原判決は、Mの行為につき被告人Aらの従犯と解しており、Mへの働きかけを介して被告人Aの実行行為を容易にしたものとして、実質的には従犯の幇助を構成しているものと考えられるところ、被告人Cらが事業団に送った本件家屋補償なし文書は、川崎町から本件鉱害被害者らに家屋補償がなされていることを知りながら実施計画を施行していたMに、計画を進められるよう精神的援助を与えたにとどまるもので、被告人Aや本件鉱害被害者らの詐欺の実行行為に対する幇助行為として評価するに十分なものとはいえない。」というのである。
 
しかしながら、Mは、田川事業所長の決裁を得て、川崎町に対し家屋補償の有無の文書回答を求める照会書を送付したが,家屋補償なしとの回答が得られなければ、各原判決説示のとおり、同人は復旧工事の実施計画の見直しを上司に具申せざるを得ないことになるところを、その後速やかに、川崎町長作成名義の本件家屋補償なし文書が得られたことから、迷うことなく計画を進めることができたものと考えられるところであり、被告人Aの詐欺の完遂に寄与していることは明らかであり、幇助行為と評価して何ら差し支えはない。なお、本件は、被告人B及び同Cが関与した事業団田川事業所宛の本件家屋補償なし文書の発行により、被告人Aの詐欺の犯行を直接幇助した事案であり、所論が指摘するような従犯の幇助の事案ではない。
三 詐欺の故意、幇助の故意
 
被告人B及び同Cは、その従事する職務内容からいって、被告人A以上に地対事業と鉱害復旧の仕組みについて知識を有していたものと認められるところ、各原判決が認定するように、同被告人らの検察官調書等の各証拠によれば、地対事業と鉱害復旧による二重補償が許されないことは十分認識していたものというべきである。このことは、遅くとも、本件家屋補償なし文書を発行した時点においては、平成元年九月二二日付け本件家屋補償照会文書に、「公共工事による補助金の重複を避けるため」と明記されていることからも明らかに認められるところであり、たとえ、Mら現地の担当者が二重補償を黙認するような態度を示したからといっても、その時点では、事業団の上層部が二重補償を容認しないことを知っていたものと認められる。 
 
被告人Bの弁護人入屋の所論は「被告人Bは、Mから事務処理上必要だから形だけ出してくれと言われて、本件家屋補償なし文書を形だけ発行したにすぎず、そもそもそのような文書がどのような役割を持つのか考えもしなかったもので、幇助の故意を欠いている。」というのである。
 
しかしながら、被告人Bにおいては、本件家屋補償なし文書を発行すれば、Mらが川崎町からの家屋補償がなされている事実を黙過し、当時進められていた鉱害復旧工事を見直すことなく、したがって二重補償が容易になされるとの認識があったことは明らかであり、これは被告人Aの詐欺行為を幇助する意思があったものといわざるを得ない。被告人Bは、原審第六回公判及び当審第六回公判において、「Mらから『出すだけでいいから出してくれ。』といわれたので、事業団の事務処理上必要なのかと思い、補償なし文書を出しただけである。」旨供述するが、仮にMからそのように言われた経過があったとしても、ここでいう事務処理とは、事業団の決裁権者が容認しない違法な二重補償がなされることを前提に、その二重補償が気付かれないような資料を提供する意味しか考えられないから、詐欺の故意がなくなるものではない。
四 その他、所論にかんがみ検討しても、被告人B及び同Cの幇助犯の成立の点については事実誤認はなく、論旨は理由がない。
第五 結論
 
そこで、刑訴法第三九七条一項、三八二条により、被告人三名につき各原判決をいずれも破棄した上、同法四〇〇条ただし書によりさらに判決する。
(罪となるべき事実)
第一 被告人Aは 事業団九州支部長らを欺罔して、既に復旧法による鉱害認定を受けていた被告人Aの実母V女所有の福岡県田川郡町川崎大字○○△△番地の△所在の木造平屋建家屋一棟(家屋面積四五・五八平方メートル)、浴場一棟(面積六・〇九平方メートル)の鉱害復旧名下に財産上不法の利益を得ようと企て、真実は、福岡県田川郡川崎町施行の昭和六三年度西本町桃山線道路改良舗装工事に関し、平成元年三月二三日、同町とV女との間で、補償金一、一四〇万円で右家屋等の解体移転の補償契約が締結され、同年五月一〇日までに同人が同町から右家屋等解体移転補償費全額の支払いをうけていたのであるから、もはや復旧法による家屋等移転復旧を受けることができないのに、同年一二月八日ころ、右各家屋等の復旧工事を受けることに同意する旨の事業団九州支部長宛のV女名義の同意書を同県田川市大字○○字○○△△番地所在の事業団九州支部田川事業所係員を介して事業団九州支部に提出し、同九州支部長nをして、平成二年一月三〇日、有限会社(い)建設(代表取締役(う)との間で右家屋等及びこれに隣接の、前同様の鉱害認定を受けていたj女所有の同町大字○○△△番地の△所在の木造二階建家屋(家屋面積八六・九八平方メートル)の家屋等復旧工事契約(請負金額一、三三九万円)を締結させ、次いで、同年五月一〇日ころ、j女名義の右家屋等の解体新築工事申出書を、同年七月二四日ころ、V女所有の右家屋等をj女に二二〇万円で売渡した旨の虚偽の売買契約の写しを、それぞれ田川事業所係員を介して事業団九州支部に提出するなどして、右両家屋を合棟して家屋解体新築による鉱害復旧を受けた上、家屋新築のための工事充当金を右(い)建設に対して支払うよう求めるとともに、そのころまでに、右(い)建設代表者との間で、同会社が支払いを受ける家屋新築工事充当金のうち、V女の家屋分相当額を被告人Aに支払う旨を合意し、事業団九州支部長q及び同支部総務部長Sをして、前記家屋等の鉱害復旧に伴う家屋新築工事充当金の支払いが要件に適合するものと誤信させ、よって、同年九月二五日及び平成三年六月五日の前後二回にわたり、同事業団九州支部から、前記家屋新築工事の充当金として、V女の家屋分一八三万円、同浴場分三一万七、〇〇〇円の合計二一四万七、〇〇〇円を同県田川郡川崎町大字○○△△番地の△所在の(え)銀行○○支店に開設された右(い)建設名義の普通預金口座(口座番号×××××)に振込送金させ、もって、右(い)建設に対して右家屋新築工事充当金相当額の債権を取得して同額相当の不法の利益を得た
第二 被告人B及び同Cは、共謀の上、被告人Aが右犯行をなすにあたり、平成元年一〇月三日ころ、川崎町施行にかかる昭和六三年度桃山村中線及び西本町桃山線の各道路改良舗装工事に関し、V女ほか七名に対する家屋補償費はない旨記載した内容虚偽の川崎町町長e作成名義の文書を事業団田川事業所に提出することにより、右犯行を容易ならしめてこれを幇助した
 
ものである。
(証拠の標目)《略》
(補足説明)
 
本件での鉱害被害者V女にかかる詐欺事件(平成五年二月一一日付け起訴分)は、〔1〕主位的訴因が、被告人A、同B、同Cとj女の共犯とし、事業団九州支部が、鉱害復旧工事請負契約を締結した施行業者の有限会社(い)建設の銀行預金口座に、j女への家屋新築工事充当金(V女が架空の売買契約によりj女に譲渡したとする家屋分を含む。)を振込送金した時点において、これを騙取したとする刑法(平成七年法律第九一号による改正前のもの)二四六条一項の詐欺罪と構成され、〔2〕予備的訴因では被告人A、同B、同Cとj女及びV女との共犯とし、右銀行預金口座に右の振込送金をさせて、これと同額の不法の利益を受け、あるいは振込送金を受けた施工業者から金銭の交付を受けるなどして不法の利益を得たとする同法二四六条二項の詐欺利得罪の構成であった(原審第二六回公判における訴因の予備的追加及び検察官釈明)。
 
本件では、各原判決が「争点に対する判断」の第二で説示するとおり、施工業者の預金口座に振り込まれた金員は、その全体が施工業者に帰属し、鉱害被害者は、施工業者に対し、そのうちの家屋新築工事充当金相当額の債権を取得し、その後に施工業者から右相当分の金員を交付される関係に立つのであるから、右預金口座に振り込まれた時点においては、家屋新築工事充当金等に相当する部分を「財物」とみることも、右部分の金員の所有権が鉱害被害者に帰属するとみることもできないから、刑法二四六条一項の詐欺を論ずる余地はないというべきであり、予備的訴因に基づき、判示犯罪事実を認定した。また、被告人B及び同Cは、各原判決説示のとおり、本件家屋補償なし文書の発出により、正犯者たる被告人Aの犯行を容易にした幇助の事実は認められるものの、他に正犯としての行為の関与や、正犯の故意は認められない。
 
なお、右訴因には、j女を共犯としての詐欺も掲記されているが、同部分は、各原判決が理由中で、詐欺の故意を欠きその成立は認められないとしながら、V女の同様詐欺と合わせ一罪として起訴されていたため、主文で無罪の言渡しはされていないところ、検察官から控訴のなされていない本件にあっては、右部分につき職権で有罪認定することはできないところである。
(確定裁判)
 
被告人Aは、平成一〇年二月五日福岡地方裁判所で、有印私文書偽造の罪により懲役一年四月に処せられ、右裁判は同年三月二〇日確定したものであって、この事実は福岡拘置所長作成の仮出獄等通知書(謄本)により認める。
(法令の適用)
 
被告人Aの判示第一の行為は、平成七年法律第九一号附則二条一項本文により適用される同法による改正前の刑法二四六条二項に、被告人B及び同Cの判示第二の各行為は、各同法六〇条、六二条一項、二四六条二項にそれぞれ該当するところ、被告人Aについての右罪は、前記確定裁判のあった有印私文書偽造の罪と同法四五条後段の併合罪であるから、同法五〇条によりまだ裁判を経ない判示詐欺罪についてさらに処断することとし、その所定刑期の範囲内で被告人Aを懲役八月に処し、被告人B及び同Cについての右罪は従犯であるから同法六三条、六八条三号によりいずれも法律上の減軽をなした刑期の範囲内で、被告人Bを懲役三月に、被告人Cを懲役二月にそれぞれ処し、いずれも同法二一条により、原審における未決勾留日数中、被告人Aに対しては一三〇日、被告人Bに対しては六〇日、被告人Cに対しては三〇日を、それぞれその刑に算入し、いずれも同法二五条一項により、この裁判確定の日から、被告人Aに対しては二年間、被告人B及び同Cに対しては各一年間それぞれその刑の執行を猶予し(被告人Aに対しては、原判決は懲役二年、三年間執行猶予の言渡しをしているところ、同被告人には右のとおり同法四五条後段にあたる前記実刑の確定裁判があって、本来は執行猶予を言い渡すことはできないところであるが、刑訴法四〇二条の不利益変更禁止の原則により、原判決より重いこととなる実刑判決の言渡しをすることはできない。もっとも、本判決確定後、検察官の請求により、執行猶予取消の余地はある。)、原審及び当審における訴訟費用は、刑訴法一八一条一項本文により主文五項掲記のとおり、その一部を被告人らに負担させることとする。
(量刑の理由)
 
本件は、被告人Aが、実母のV女所有の家屋について、既に地対事業から家屋補償がなされているのに、これを秘し、事業団九州支部長らを欺罔して、鉱害家屋復旧名下に二一四万七、〇〇〇円相当の財産上不法の利益を得、また川崎町同和対策課事務担当課長の被告人B及び同課事業担当課長の被告人Cが共謀の上、内容虚偽の家屋補償なし文書を田川事業所に提出することにより、被告人Aの右犯行を幇助したという事案である。
 
被告人Aは、川崎町議会議員、連協幹部という指導的地位にあって、かねてから二重補償が違法であることを承知しながら、実際にはこれが是正されないまま実施されている例を知って、あるいは事業団において厳正な扱いをせずに処理してくれるのではないかとの認識から、ほしいままに自己の利益を図ろうと、本件詐欺行為に及んだものであり、また被告人Bや同Cが地対事業の速やかな完了に責任を負っていることの弱みにつけ込み、もし応じなければ同事業の遅滞を招きかねないような言動をして、内容虚偽の公文書を発出させており、このように本件の主導的役割を果たしたほか、不正に利得した利益の額が多額に及ぶことからして、その刑事責任を軽視することはできない。
 
被告人B及び同Cは、川崎町の幹部職員であり、厳正に職務を行うべきところを、自らの職責を円滑に遂行したいという動機からにせよ、被告人Aの圧力に屈し、内容虚偽の公文書を発出して、被告人Aの犯行を手助けしたものであって、その刑事責任はこれまた軽微と目されるべきものではない。
 
しかしながら、他方、事業団においても、従来から、鉱害復旧及び地対事業が競合する物件について、法及び通達の趣旨に反し関係地方公共団体への照会や連絡調整、協議を怠り、そのため復旧不適家屋等の処理をほとんどしなかったばかりか、相当数の二重補償を行って、無駄に補助金を支出させ国民に損害を与える結果となっていたもので、事業団が関係法令の趣旨に則り厳正に対処してさえおれば、本件詐欺の発生は未然に防止できたものと考えられる。また、前記のとおり、田川事業所の現場の担当者が、その職責に反し、本件を含めて二重補償の事実を知りながら、上司に報告する等適正な措置をとっていなかったことも看過することができず、以上のような事業団側の落ち度はまことに大きいものといわざるを得ない。
 
その他、被告人らは、いずれも正業を有し、被告人Bには前科がなく、同Cには古い前科と交通事犯による罰金前科があるのみであること等、諸般の事情を総合考慮し、量刑した次第である。
(一部無罪の理由)
一 公訴事実の要旨(平成五年三月四日付け起訴分)
1 主位的訴因は、
「被告人A、同B、同Cは、事業団九州支部から鉱害復旧名下に現金を騙取しようと企て
第一 W女と共謀の上、真実は、川崎町施行の昭和六三年度桃山村中線道路改良舗装工事に関し、右W女所有の福岡県田川郡川崎町大字○○△、△△番地所在の木造平屋建一棟(家屋面積四五・八八平方メートル)につき、右W女と同町との間で右家屋解体移転の補償契約を締結し家屋解体移転補償等を受けることとなっており、右補償を受けた場合は、もはや復旧法による家屋の鉱害復旧法を受けることはできないのに、昭和六三年一二月二日ころ、同町を介して事業団九州支部長に対し、右W女名義の鉱害復旧の申請書を提出して前記家屋についての復旧工事の工事請負業者に支払う費用である工事充当金の支払いを求め、前記家屋解体移転補償を受けた後の平成元年四月一〇日ころ及び同年六月四日ころ、前記W女名義の家屋移転復旧の申出書、同人名義の家屋等復旧工事を受けることに同意する旨記載した事業団九州支部長宛の同意書をそれぞれ作成した上、同県田川市大字○○△△番地所在の事業団九州支部田川事業所係員に提出し、同九州支部長をして、同年九月二二日、(ぬ)建設こと(に)に、前記W女所有にかかる家屋等復旧工事(請負金額六六四万三、五〇〇円)を発注させ、さらに同年一〇月三日ころ及び同月七日ころ、「昭和六三年度桃山村中線道路改良舗装工事におけるW女に対する家屋補償なし」と記載した虚偽内容の川崎町町長長e作成名義の文書、右W女名義の家屋解体新築工事申出書をそれぞれ同田川事業所係員に提出するなどして前記家屋の新築のための工事充当金の支払いを求め、同係員らを介して同九州支部総務部長Sをして、右W女名義で前記家屋の鉱害復旧を行う要件に適合するものと誤信させ、よって、平成二年六月二五日及び同年一一月五日の前後二回にわたり、事業団九州支部からの前記家屋工事の充当金として、合計三一六万、六、〇〇〇円を同県田川郡川崎町大字○○△△番地所在の(ね)銀行○○支店に開設された(ぬ)建設代表者(に)名義普通預金口座(口座番号×××××)に振込送金させてこれを騙取し
第二 aと共謀の上、真実は、前記第一記載の道路改良舗装工事に関し、右a所有の福岡県田川郡川崎町大字○○△、△△番地所在の木造二階建一棟(家屋面積五九・六四平方メートル)及び浴場一棟(家屋面積一八・六二平方メートル)につき、右aと同町との間で右家屋の解体移転の補償契約を締結し家屋解体移転補償等を受けることとなっており、右補償を受けた場合は、もはや復旧法による家屋等の鉱害復旧を受けることはできないのに、昭和六三年七月二九日ころ、同町を介して事業団九州支部に対し、右a名義の鉱害復旧法の申請書を提出して前記家屋についての復旧工事の工事請負業者に支払う費用である工事充当金の支払いを求め、前記家屋解体移転補償等を受けた後の平成元年一月一〇日ころ、右a名義の家屋等復旧工事を受けることに同意する旨記載した事業団九州支部長宛の同意書を前記第一記載の田川事業所係員に提出し、同九州支部長をして、同年三月二九日、(の)興業株式会社(代表取締役(は)女)に、右a所有にかかる家屋等復旧工事(請負金額一、〇三五万円)を発注させ、同年五月一九日ころ、同年九月九日ころ及び同年一〇月三日ころ、右a名義の解体新築工事申出書、同人名義の家屋移転復旧の申出書、「昭和六三年度桃山村中線道路改良舗装工事におけるaに対する家屋補償なし」と記載した虚偽内容の川崎町町長e名義の文書をそれぞれ作成した上、右田川事業所係員に提出し、さらに工事遅延を理由に右工事契約を減額解除の上、再度、同九州支部長をして、平成二年三月二日、右a所有にかかる家屋等復旧工事(請負金額五一五万円)を右(の)興業株式会社に発注させて前記家屋の新築のための工事充当金の支払いを求め、同係員らを介して同九州支部総務部長Sをして、右a名義で右家屋等の鉱害復旧を行う要件に適合するものと誤信させ、よって、同年五月二五日及び平成三年五月七日の前後二回にわたり、事業団九州支部からの右家屋工事の充当金として、合計二八八万二、〇〇〇円を同町大字○○△△番地△所在の(ね)銀行○○支店に開設された右(の)興業名義の普通預金口座(口座番号×××××)に振込送金させてこれを騙取し
第三 hと共謀の上、同人の実父(ひ)所有のすでに鉱害認定を受けていた福岡県田川郡川崎町大字○○△、△△番地所在の木造平屋建二棟(家屋面積合計一七七・二八平方メートル)につき、真実は、前記第一記載の道路改良舗装工事に関し、右hと同町との間で右家屋の解体移転の補償契約を締結し家屋解体移転補償等を受けることとなっており、右補償を受けた場合は、もはや復旧法による家屋等の鉱害復旧を受けることはできないのに、平成元年一月一〇日ころ、右hの妻b女を建物占有者として右家屋の復旧工事を受けることに同意する旨記載した事業団九州支部長宛の同意書を前記第一記載の田川事業所係員に提出し、同九州支部長をして、同年三月二九日、有限会社(ふ)建設(代表取締役(へ))に、右b女占有にかかる家屋等鉱害復旧工事(請負金額一、一八五万円)を発注させ、同年一〇月三日ころ、「昭和六三年度桃山村中線道路改良舗装工事にかかるb女に対する家屋補償なし」と記載した虚偽内容の川崎町町長e作成名義の文書を同田川事業所係員に提出し、さらに工事遅延を理由に右工事契約を減額解除の上、再度同九州支部長をして、平成二年三月二日、前記(ひ)所有にかかる家屋等復旧工事(請負金額七五七万五〇〇円)を右(ふ)建設に発注させ、平成二年七月一七日ころ及び同年八月一日ころ、右(ひ)所有の家屋をuに四六〇万円で売渡した旨の架空の売買契約書の写し、右u名義の解体新築工事申出書をそれぞれ同田川事業所係員に提出して前記家屋の新築のための工事充当金の支払いを求め、同係員らを介して同九州支部長qをして、右u名義で前記家屋等の鉱害復旧を行う要件に適合するものと誤信させ、よって、平成三年六月一七日、同九州支部から右家屋工事の充当金として、四六〇万円を同県田川市○○町△番△号所在の(ね)銀行○○支店に開設された右(ふ)建設名義の普通預金口座(口座番号×××××)に振込送金させてこれを騙取し
第四 dと共謀の上、真実は、川崎町施行の昭和六三年度西本町桃山線道路改良舗装工事に関し、右d所有の福岡県田川郡川崎町大字○○△、△△番地所在の木造平屋建二棟(家屋面積合計一四〇・〇一平方メートル)につき、右dと同町との間で右家屋の解体移築の補償契約を締結し家屋解体移築補償等を受けることとなっており、右補償を受けた場合は、もはや復旧法による家屋等の鉱害復旧を受けることはできないのに、昭和六三年七月二九日ころ、同町を介して事業団九州支部に対し、右d名義の鉱害復旧の申請書を提出して前記家屋についての復旧工事の工事請負業者に支払う費用である工事充当金の支払いを求め、平成元年一〇月三日ころ、同年一一月二八日ころ及び同年一二月八日ころ、「昭和六三年度西本町桃山線道路改良舗装工事におけるdに対する家屋補償なし」と記載した虚偽内容の川崎町町e名義の文書、前記d名義の家屋移転復旧の申出書、同人名義の右家屋の復旧工事を受けることに同意する旨記載した事業団九州支部長宛の同意書をそれぞれ作成した上、前記第一記載の田川事業所係員に提出し、同九州支部長をして、平成二年一月三〇日、有限会社(ほ)建設(代表取締役(ま))に右d所有にかかる家屋等復旧工事(請負金額八六五万二、〇〇〇円)を発注させ、さらに同年七月二日ころ、前記d名義の解体新築工事申出書を同事業所係員に提出して前記家屋の新築のための工事充当金の支払いを求め、同係員らを介して同九州支部長q及び同九州支部長Sをして、右d名義で前記家屋の鉱害復旧を行う要件に適合するものと誤信させ、よって同年九月二五日及び平成三年六月五日の前後二回にわたり、事業団九州支部から右家屋工事の充当金として、合計五三七万二、〇〇〇円を同町大字○○△△番地の△所在の福岡銀行○○支店に開設された前記有限会社(ほ)建設名義の普通預金口座(口座番号××××××)及び同町大字○○△△番地△所在の(ね)銀行○○支店に開設された右有限会社(ほ)建設名義の普通預金口座(口座番号××××××)にそれぞれ振込送金させてこれを騙取した。」というものである。
2 予備的訴因は(原審第二六回公判における訴因の予備的追加)、右訴因冒頭「被告人A、同B、同Cは、事業団九州支部から鉱害復旧各下に現金を騙取しようと企て」とあるを、「被告人A、同B、同Cは、事業団九州支部職員を欺罔して事業団から鉱害復旧各下に不法の利益をW女、a、n、dに得させようと考え」と、また〔1〕右訴因第一中の「よって」とある以下を、「よって、平成二年六月二五日及び同年一一月五日の前後二回にわたり、事業団九州支部からの前記家屋工事の充当金として合計三一六万六、〇〇〇円を、付属工事分(電話工事代二万三、〇〇〇円、ガス工事代五万六、〇〇〇円)として合計七万九,〇〇〇円を、それぞれ同県田川郡川崎町大字○○△△番地所在の(ね)銀行○○支店に開設された(ぬ)建設代表(に)名義普通預金口座(口座番号××××××)に振込入金させ、同年六月二七日、同社の下請け会社である同郡川崎町大字○○△、△△番地の△所在の(み)工務店の経営者(む)から二六九万八、〇〇〇円の交付を受けた同額相当の不法の利益を得るとともに、右(み)工務店が請け負った旧家屋解体費二五万六、〇〇〇円、自動車乗り入れ口工事及び階段工事代金二五万五、〇〇〇円相当額の支払いを免れ不法の利益を得た」と、〔2〕同第二中の「よって」とある以下を、「よって同年五月二五日及び平成三年五月七日の前後二回にわたり、事業団九州支部からの右家屋工事の充当金として、合計二八八万二、〇〇〇円の同町大字○○△△番地△所在の(ね)銀行○○支店に開設された右(の)興業名義の普通預金口座(口座番号××××××)に振込送金させ、同郡川崎町大字○○△△番地所在の(の)興業事務所において、同社代表取締役(め)から、同二年五月二五日、二二二万円、同三年一〇月二六日、五八万円の交付を受け同額相当の不法の利益を得るとともに、右(の)興業が請け負ったガス工事費七万五、〇〇〇円相当額の支払いを免れ不法の利益を得た」と、〔3〕同第三中の「よって」とある以下を、「よって、平成三年六月一七日、同九州支部から右家屋工事の充当金として、四六〇万円を同県田川市○○町△番△号所在の(ね)銀行○○支店に開設された右(ふ)建設名義の普通預金口座(口座番号××××××)に振込入金させ、同県田川市大字○○△、△△番地所在の右(ふ)建設事務所において代表取締役(も)から四六〇万円の交付を受け同額相当の不法の利益を得た」と、〔4〕同第四中の「よって」とある以下を、「よって、同年九月二五日及び平成三年六月五日の前後二回にわたり、事業団九州支部からの右家屋工事の充当金として、合計五三七万二、〇〇〇円を同町大字○○△△番地の△所在の(え)銀行○○支店に開設された前記(ま)名義の普通預金口座(口座番号××××××)及び同町大字○○△△番地の△所在の(ね)銀行○○支店に開設された有限会社(ほ)建設名義の普通預金口座(口座番号××××××)にそれぞれ振込送金させ、同二年九月二六日ころ、同三年六月五日ころ、右d方において、右会社代表取締役(ま)から合計三四〇万円の交付を受け不法の利益を受けるとともに、土留、盛土工事、門扉、塀、外溝工事等代金約二〇〇万円相当額の支払いを免れて不法の利益を得たものである。」と変更するものである。
 
主位的訴因は、事業団九州支部が、鉱害復旧工事請負契約を締結した施行業者の銀行預金口座に家屋新築工事充当金を振込送金した時点において、これを騙取した詐欺罪と構成されていたのに対し、予備的訴因は前記改正前の刑法二四六条二項の詐欺利得罪と構成し、右銀行預金口座に振込送金させて、これと同額の不法の利益を受け、あるいは振込送金を受けた施行業者から金銭の交付を受けるなどして不法の利益を得たとするものである(原審第二六回公判における検察官釈明―なお、右予備的訴因第一は、主位的訴因に付属工事費を加えて訂正されている。)。 
二 被告人Aは、右W女ら四名の鉱害被害者について、直接の詐欺の実行行為を担当していないところ、原判決はいずれも共謀共同正犯と認定して有罪としているが、前説示のとおり、実行行為者である右鉱害被害者に詐欺の故意が認められず、したがって同人らとの共謀の事実が認定できないから、同被告人を有罪にすることはできず(考えられることとして、各鉱害被害者を道具とした間接正犯の構成に変更する方法があるが、同被告人側に防御の機会を与えるため訴因の変更手続を要すると解されるところ、その場合は同被告人の各鉱害被害者を利用したいかなる行為につき詐欺の間接正犯が成立するかなどの点についてさらに審理を尽くす必要があるので、起訴から六年以上経過した控訴審の最終段階にある現在、当裁判所として訴因変更手続を促す等の措置を講ずるのは相当とはいえない。)、右主位的、予備的公訴事実のいずれについても、犯罪の証明がないとして、刑法三三六条により同被告人に対して無罪の言渡しをする。
 
被告人B及び同Cについては、前述のとおり従犯の成立のみが問題となるが、直接の実行行為者に詐欺の故意が認められず、共謀者とされている被告人Aにも罪責を問うことができないから、右同条を適用して同様に無罪の言渡しをする。
三 よって、主文のとおり判決する。
平成一一年一二月一七日
福岡高等裁判所第一刑事部
裁判長裁判官 清田賢 裁判官 坂主勉 裁判官 林田宗一

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