詐欺福岡6

詐欺福岡6

福岡高等裁判所/平成16年(う)第109号

主文
原判決のうち,被告人に関する部分を破棄する。
被告人を懲役4年及び罰金200万円に処する。
原審における未決勾留日数中330日をその懲役刑に算入する。
その罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算した期間,被告人を労役場に留置する。
原審及び当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由
 
被告人の控訴の趣意は,主任弁護人古賀康紀,弁護人美奈川成章及び同船木誠一郎が連名で提出した控訴趣意書,「控訴趣意書の訂正申立書」と題する書面,「控訴趣意補充書(1)」と題する書面,「控訴趣意補充書(2)」と題する書面及び「控訴趣意補充書(その3)」と題する書面にそれぞれ記載されたとおりであり,他方,検察官の控訴の趣意は,検察官馬場浩一作成の控訴趣意書に記載されたとおりであり,これに対する答弁は,上記各弁護人が連名で提出した答弁書のとおりであるから,これらを引用する。
第1 検察官の控訴趣意中,訴訟手続の法令違反の論旨について
 
論旨は,要するに,原審(事件併合前の横浜地方裁判所)は,平成11年2月19日に同裁判所で開かれた第3回公判期日において,既に起訴されていた原判示第3の平成11年法律第155号による改正前の出資法(以下,第1の中では単に「出資法」という。)5条2項違反の事実に,平成10年12月10日付け訴因変更請求書をもって検察官がした同一形態の出資法違反の事実を追加する訴因変更請求(以下「本件訴因変更請求」という。)を許可する決定(以下「本件訴因変更許可決定」という。)をしたにもかかわらず,原審(事件併合後の福岡地方裁判所久留米支部〔以下「久留米支部」という。〕)は,平成15年9月16日の第35回公判期日において,本件訴因変更請求によって追加された事実は,原判示第3の事実と併合罪の関係にあるから,本件訴因変更許可決定は刑事訴訟法312条1項に違反し違法であるとして,本件訴因変更許可決定を取り消す決定(以下「本件訴因変更許可取消決定」という。)をしたが,訴因変更許可の適法性は,手続安定の見地から,訴因変更許可が行われた当時の状況を基準に判断すべきであることなどからすると,本件訴因変更許可決定は適法であり,同決定を取り消した原審の訴訟手続は,訴因変更についての同法312条1項の解釈適用を誤っており,これが判決に影響を及ぼすことは明らかである,というものである。
 
しかし,記録によって認められる原審の訴訟経過にかんがみると,本件訴因変更許可取消決定をした原審の訴訟手続は,違法とはいえず,所論のような訴訟手続の法令違反があるとはいえないというべきである。以下,所論にかんがみ,補足して説明する。
1 本件訴因変更許可決定に関する原審における訴訟経過
(1)横浜地方検察庁検察官は、平成10年11月13日,原判示第3の事実と同一の出資法5条2項違反の公訴事実で,横浜地方裁判所に被告人を起訴した。その公訴事実の要旨は,被告人が,共犯者のp5(以下「p5」という。)と共謀の上,業として金銭の貸付けを行うに当たり,別紙利息受領一覧表番号5記載のとおり,平成9年12月30日,A(以下「A」という。)から,法定限度利息額である1日当たり0.1096パーセントの割合による利息額8万2200円を41万7800円超える1日当たり約0.6666パーセントの割合による利息50万円を受領した,というもの(以下「当初の訴因」という。)であった。
(2)同検察官は,出資法5条2項違反の行為が累行された場合には包括一罪となるとの見解に基づいて,横浜地方裁判所に対し,平成10年12月10日付け訴因変更請求書で,当初の訴因に,同一形態の出資法5条2項違反の事実20件(以下「追加分の訴因」という。)を追加する内容の本件訴因変更請求をした。その訴因変更後の公訴事実の要旨は,被告人が,共犯者のp5と共謀の上,業として金銭の貸付けを行うに当たり,別紙利息受領一覧表記載のとおり,平成9年11月28日から平成10年7月23日までの間,前後21回にわたり,p15ほか5名から,別紙利息受領一覧表記載のとおり,法定限度利息額である1日当たり0.1096パーセントの割合による利息額合計170万4828円を739万5172円超える1日当たり約0.3333パーセントないし約0.6666パーセントの割合による利息合計910万円を受領した,というものであった。 
(3)横浜地方裁判所は,平成11年2月19日の第3回公判期日において,本件訴因変更請求について,主任弁護人に異議がないことを確認して,本件訴因変更許可決定をした上,検察官による訴因変更請求書の朗読,訴因変更後の公訴事実についての被告人による罪状認否の陳述,主任弁護人による意見陳述,検察官による冒頭陳述及び証拠調べなどを行い,被告人側の同意を得て検察官請求証拠のすべてを採用して取り調べた。なお,本件訴因変更請求に対し,弁護人及び被告人は,業として金銭の貸付けを行ったものではなく,カジノ内で通用するチップを貸したにすぎない旨主張したが,検察官請求証拠の取調べにはすべて同意した。
(4)原審(久留米支部)は,平成11年4月7日,同裁判所に係属中の被告人に対する詐欺被告事件に,横浜地方裁判所に係属中の被告人に対する前記出資法違反の事実を含む被告事件を併合する決定をし,同裁判所においても,同日付けで同旨の決定をした。
(5)その後,被告人に対する被告事件については,原審(久留米支部)において,多数回の審理が行われ,平成13年5月31日には合議体で審理する旨の決定がされ,被告人につき更に追起訴がされるなどして,その後も多数回の審理が行われた。
(6)原審(久留米支部)は,平成15年3月11日の第33回公判期日において,被告人に対する被告事件及びこれと併合して審理されていたp2に対する被告事件の審理を終えて結審し,同年6月10日の第34回公判期日に判決宣告を予定していたが,同期日に,職権で弁論を再開し,公判期日外に検察官及び弁護人らの双方から本件訴因変更許可決定の適法性及び公訴時効の点について意見を聞いた上,同年9月16日の第35回公判期日において,当初の訴因と追加分の訴因との間には公訴事実の同一性がないから,本件訴因変更許可決定は不適法であるとして,職権で本件訴因変更許可取消決定をし,追加分の訴因に係る証拠について証拠の採用決定を取り消す決定をした。
(7)検察官は,本件訴因変更許可取消決定がされたため,平成15年10月9日,本件訴因変更許可取消決定により審判の対象から排除された追加分の訴因事実を公訴事実とする出資法違反の事実で,久留米支部に被告人を起訴した。同事件は,被告人に対するその余の被告事件と弁論を併合され,同年11月11日の第36回公判期日において,罪状認否,検察官の冒頭陳述,証拠調べが行われ,検察官は,当初の訴因に係る証拠について,平成15年10月9日起訴の上記事件の証拠とする立証趣旨拡張の申立て及び原審(久留米支部)が上記(6)のとおり証拠の採用を取り消す決定をした証拠の取調べ請求をした。被告人は,追加分の訴因事実と同内容の上記事件の公訴事実を認め,弁護人は,その事実自体は争わないものの,公訴時効が完成しているとして,同事件について免訴の判決を求め,検察官の立証趣旨拡張の申立て及び証拠の取調べ請求に対しては,それぞれ異議がない旨及び同意する旨の意見を述べ,原審(久留米支部)は立証趣旨の拡張を許可し,検察官請求証拠を取り調べるなどして審理を終えた。
(8)原審(久留米支部)は,追加分の訴因事実と同内容の上記事件について,公訴時効が完成しているとして,免訴とする判決をした。
2 所論は,訴訟行為は手続行為であるから,手続安定の見地から,その訴訟行為が行われた当時の状況を基準に行為の適法性を判断すべきであって,本件訴因変更許可決定が適法であるか否かの判断も,同決定をした当時の法令,判例等に基づき判断すべきであるところ,検察官が,出資法5条2項違反の事実20件を追加する内容の本件訴因変更請求をした平成10年当時,同法5条2項違反の行為が反覆累行された場合に,包括一罪となるのか,あるいは,併合罪となる余地があるのかなどの罪数関係について,判断をした高等裁判所あるいは最高裁判所の判決も,実務上確立した見解もなかったばかりか,同法5条1項違反の行為が反復累行された場合についての最高裁昭和53年7月7日第三小法廷判決(刑事判例集32巻5号1011頁)の反対解釈として,同条2項違反の行為が反復累行された場合については包括一罪と解する見解があったのであるから,検察官が包括一罪であると判断して,平成10年12月10日に本件訴因変更請求をしたのに対し,横浜地方裁判所が本件訴因変更許可決定を行ったことは,本件訴因変更許可決定当時の状況に照らして相当であって何ら違法とはいえず,本件訴因変更許可決定は適法であって,本件訴因変更許可取消決定は違法である旨主張する。
 
そこで検討する。
(1)まず,所論の前提となる出資法5条2項違反の行為が反覆累行された場合の罪数の点について検討するに,同法5条1項は,その立法趣旨が,不当な高金利を取り締まって健全な金融秩序の保持に資することにあり,同種行為の無制約な反復累行を予定しているとは考えられないから,同条1項に違反する行為が反覆累行された場合は,特段の事情のない限り,個々の契約又は受領ごとに1罪が成立し,併合罪となると考えられる(前記最高裁判決参照)ところ,同条2項の文言と同条1項の文言とを対比すると,同条2項は,高金利の契約等の制限利率を,金銭の貸付けを行う者が,業として金銭の貸付けを行う場合に,同条1項の制限利率よりも低く設定しているにすぎないこと,同条2項に違反する行為が反復累行された場合の罪数が包括一罪であるとすれば,同条2項の法定刑は同条1項のそれよりも相当重く定められるはずであるのに,両者の法定刑が同一であることからすると,同条1項と同条2項との違いは,同条2項が,業として金銭の貸付けを行う場合の制限利率を,同条1項の場合より低く設定することによって,同条1項よりも利率の低い段階から取締まりを行うものにすぎないと解されるから,同条2項に違反する行為が反覆累行された場合も,同条1項に違反する行為が反復累行された場合と同じく,特段の事情のない限り,個々の契約又は受領ごとに1罪が成立し,併合罪となると解するのが相当である。そして,本件においては,関係証拠を検討しても,特段の事情とすべきものは見当たらないから,当初の訴因事実と追加分の訴因の各事実とは併合罪の関係に立つものというべきである(最高裁平成17年8月1日第一小法廷決定・判例時報1907号155頁参照)。
(2)そうすると,横浜地方裁判所がした本件訴因変更許可決定は,併合罪の関係にあって,本来別罪として起訴すべき事実を,訴因変更手続により審判の対象とした違法なものということになる。そして,この場合は,訴訟の進展に伴い,いわゆる実体形成が推移変更した結果として罪数判断が変動する場合と異なり,純然たる法的評価としての罪数判断が誤っていた場合であって,訴因変更許可の段階で正しい罪数評価が可能であったと考えられることからすると,訴因変更許可決定が適法かどうかの判断は,客観的にすべきであり,所論の主張するように,本件訴因変更許可決定当時,出資法5条2項の罪数関係について判断をした高等裁判所や最高裁判所の判例ないし実務上確立した見解がなかったとしても,本件訴因変更許可決定が適法であったとみることはできない。
(3)次に,上記のように,併合罪の関係にあって公訴事実の同一性のない訴因の追加の許可が誤ってされた場合に,裁判所としてどのように処理すべきかという点について検討するに,まず,そのような訴因変更許可にも判決と同様の拘束力,不可変更力があるとして,裁判所は,一旦訴因変更の許可をした以上,一切その取消しなどの是正ができず,公訴事実の同一性があるものとして判決し,上訴による是正を待つほかないとすることは,訴因変更許可が終局判決前の裁判であることや,裁判所が,控訴されれば破棄される可能性の高い判決を敢えてすることが著しく不合理であり,訴訟関係人の利益にもならないことからすると,採ることができないし,また,その訴因変更許可が当然無効であるとすることも,手続の明確性を著しく害するから採ることができないのであって,このような場合には,誤って形成された訴訟関係を是正し,そのことを訴訟上明確にするため,裁判所は,訴因変更許可そのものを将来に向かって取り消す手続として,訴因変更許可決定の取消決定をすることができるというべきである(最高裁昭和62年12月3日第一小法廷判決・刑事判例集41巻8号323頁参照)。
(4)所論は,検察官が包括一罪として起訴した事実を裁判所が併合罪と評価した場合,最高裁昭和29年3月2日第三小法廷判決(刑事判例集8巻3号217頁)等によれば,裁判所は,訴因変更等の手続を採る必要はなく,判決において併合罪として処理すれば足りるとされているところ,本件訴因変更請求は書面でされ,本文のほか別表により,各貸付け及びそれに対応する利息受領の時期,場所,利息金額等を明確に特定しているから,同様に解すべきこと,前記最高裁昭和53年7月7日判決においても,訴因変更請求とその許可という手続で追加された出資法5条1項違反の事実について,判決で併合罪と認定した第1審の措置が問題とされていないことに照らせば,本件においても,裁判所は訴因変更許可の取消手続を経ることなく,判決において併合罪として処理すれば足りたこと,実質的にみても,本件訴因変更許可決定後に,出資法5条2項に関する罪数の争点について高等裁判所等が新たに判断を示したという事情により,本件訴因変更許可決定を違法として,それまでにされた手続が遡及的に覆されることになれば,検察官及び弁護人はもとより,裁判所も極めて不安定な立場に置かれる上,本件においては,被告人及び弁護人が,訴因変更後の訴因を前提にして,4年間以上にわたり30回を超える多数回の公判期日を費やして攻防を重ねてきたことからすると,本件訴因変更許可取消決定は,訴訟当事者の意思に明らかに反し,不意打ちの訴訟指揮であるし,証拠排除をした後に,追起訴,罪状認否,証拠の再請求,再取調べなどを行うことにより,いたずらに公判期日を重ねて訴訟を長引かせることになり,訴訟経済に反し,被告人にとっても不利益であって,不当であることからすると,罪数評価が後で変わったとしてした本件訴因変更許可取消決定は違法である旨主張する。
 
そこで検討するに,確かに,本件においては,本件訴因変更許可決定からその是正措置が採られるまで長期間が経過し,その間に多数回の公判期日が重ねられ審理が行われたことなどの事情が認められるけれども,そのような事情を考慮に入れても,本件訴因変更許可決定を適法なものと解することができないことは上記のとおりであり,裁判所としては,誤って形成された訴訟関係を是正する必要があったといえる。所論指摘の最高裁昭和29年3月2日判決の事案は,起訴の方法により訴訟係属した事実の罪数評価が起訴検察官と裁判所とで分かれた場合であって,本来追起訴の方法によるべきところを訴因変更の方法で訴訟係属を生じさせた本件の場合とは事案を異にしているし,また,所論指摘の最高裁昭和53年7月7日判決は,その第1審のした訴因変更手続の取扱いについては,直接には判示しておらず,誤ってされた訴因変更許可決定を取り消すことができるかどうかについての判断を示したものとはいえない。そうすると,訴因変更許可の取消しには,訴訟経済に反し被告人にとっても不利益な面があるとはいえ,原審が本件訴因変更許可決定を取り消す方法で是正措置を講じたことを違法ということはできない(なお,訴因変更許可の取消決定は,訴因変更許可を将来に向かって取り消すものと解されるのであって,手続が遡及的に覆されるものではない。)。
 
所論は,前記の最高裁昭和62年12月3日判決の事案は,罪数判断が明らかに誤っていた点及び誤りに気付いた検察官が訴因変更請求の撤回の意思を示し,裁判所がこれを認容する形で訴因変更許可決定を取消している点で,本件と事案を異にする旨主張するが,所論指摘の判決が,訴因変更許可の取消決定ができる場合を,所論が指摘する事情がある場合に限定する趣旨のものと解することはできず,所論が指摘する点を考慮しても,前記判断は左右されない。所論は採用できない。
 
論旨は理由がない。
第2 被告人の控訴趣意中,事実誤認の論旨について
1 原判示第1の事実(詐欺)について
 
論旨は,要するに,被告人は,自分に健康保険の被保険者資格があると認識して医療機関の担当者に対して健康保険被保険者証を呈示しているのであるから,詐欺の故意を欠き,無罪であるのに,原判示第1のとおり,詐欺の故意を認めて被告人に詐欺罪の成立を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある,というものである。
 
しかし,原審で取り調べた関係証拠によれば,被告人は,自分には健康保険の正当な被保険者資格がないことを認識していたものと認められ,記録を調査し,当審における事実取調べの結果を加えて検討しても,原判示第1の詐欺の各事実を認定した原判決の判断には,故意の点を含めて誤りがあるとは考えられず,原判決が「事実認定の補足説明及び一部免訴の理由」の第1で認定,説示するところも,正当として是認できるのであって,原判決に所論のような事実の誤認はない。以下,所論にかんがみ,補足して説明する。
(1)所論は,〔1〕被告人は,昭和59年春ころから,原判示第1のBと関わりを持ち,久留米市内の繁華街のスナックなどに,Bとカラオケのリース契約を締結するよう営業活動を行っていたところ,昭和60年3月か4月ころ,被告人に子供が生まれることを知ったBのp2(以下「p2」という。)から,無職のままではいけないからBの社員になるようにと誘われたため,そのころから,上記の営業活動の労務を提供した対価として,Bから毎月15万円の支払いを受けるようになり,Bも,上記金員の支払いを被告人に対する給料の支払いとして扱い,源泉徴収まで行っていて,そのような関係が,被告人が昭和61年11月1日にBの社員として健康保険の被保険者資格を取得するまで,約1年半にわたり先行していたのであり,また,昭和60年12月にBが法人化され,昭和61年10月に社会保険適用事務所の認定を受けたことから,p2は,社員として給料を支払っている被告人についても,当然のこととして被保険者の届出をしたにすぎなかったのであって,被告人が,健康保険の被保険者資格を取得するための外形的な形作りのために,全く労務の提供をしていないのに,Bから月額15万円の支払いを受けていたのではないこと,〔2〕社会保険事務所が行う健康保険の被保険者資格の審査は形式的なものであり,平成14年法律102号による改正前の健康保険法(以下,単に「健康保険法」という。)13条の「事業所ニ使用セラルル者」の要件を実質的に充足するか否かについては一切関知していないというのが実情であって,社会一般には,健康保険の被保険者資格があるかどうかは,被用者としての稼働の実態があるかどうかではなく,適用事業所に所属しているかどうかによるものと認識されており,労働契約の概念や社会保険に対する正確な法律知識等に欠ける被告人やp2が,被告人がBに労務を提供し,被告人に給料として月額15万円が支払われている以上,被告人に健康保険の被保険者資格があると考えたとしても何ら不自然でないこと,以上の点からすると,被告人は,自己に健康保険の被保険者資格があり,自己の有する被保険者証を有効なものであると認識していたから,被告人には医療機関を欺罔するとの認識はなかった旨主張する。
 
しかしながら,
〔1〕関係証拠によれば,被告人は,Bの従業員の就業場所である事務所に,就業規則の定める勤務時間に出勤したことはなく,Bのタイムカードに被告人のものはなく,Bの社員名簿や事務分掌表,給与受領認一覧に被告人の氏名は記載されておらず,事務所に被告人用の机もなく,p2とその妻p4以外のBの従業員のほとんどは,被告人の名前さえ知らなかったこと,Bの当時の従業員が,昭和61年10月1日に一括して健康保険の被保険者資格を取得したのに対し,被告人が健康保険の被保険者資格を取得したのは同年11月1日で,他の従業員と取扱いが異なっていることが認められる。これらの点からすると,被告人は,Bの定める勤務時間に出勤して,使用者の指揮監督の下で労務の提供をしていたとは認められず,Bの人事管理下にあったとはいえないというべきであり,被告人には,Bの被用者としての稼働の実態も,Bとの雇用関係もなく,被告人をBの被用者といえないことは明らかであり,したがってまた,Bから被告人に対し支払われていたという金員が,Bの被用者に対する給料とはいえないものであることも明らかであり,これらのことは,p2も被告人も十分認識していたと認められる。そして,所論が主張するように,Bが,会社の帳簿上や社会保険事務所に対する提出書類上において,被告人に対して給料を支払い源泉徴収を行っているものとして処理していて,被告人がそのことを認識していたとしても,被告人には,Bの被用者としての稼働の実態も,Bとの雇用関係もなく,被告人をBの被用者といえないことは明らかであるから,被告人は,上記の処理が,被告人に健康保険の被保険者証を取得させるための形式上の取扱いにすぎないことを当然認識していたと考えられる。
〔2〕雇用関係のない者を事業所の被用者として届け出ること自体が,例外的なことであって,所論がいうように,社会一般に,健康保険の被保険者資格があるかどうかが,被用者としての稼働の実態があるかどうかではなく,適用事業所に所属しているかどうかによるものと認識されているとはいえない。通常人であるならば,健康保険の被保険者資格が,基本的に被用者としての稼働の実態があることを前提としていることを認識していると考えられる上,上記のとおり,被告人とBとの関係が,「事業所ニ使用セラルル者」に当たるかどうかが微妙な場合であったとはいえず,被告人に被用者としての稼働の実態がなかったことは明らかであることも併せ考えると,被告人が専門的な法律知識を持っていなかったとしても,原判決が「事実認定の補足説明及び一部免訴の理由」第1の2(4)で説示するとおり,被告人は,本件当時,暴力団員として無為徒食の生活を送っていたものの,それなりの社会経験を積んできたものであるから,社会保険被保険者としての労働の実態のない者がそれをあるかのように装って,社会保険事務所から被保険者証を取得したからといって,正当な資格者となるものでないことは十分理解できたものと考えられる。そして,Bにおいて,帳簿上,被告人に給料を支払っているものとして処理している以上,Bが,社会保険事務所に対して,被告人を被用者として届け出て,被告人について健康保険の被保険者の申請手続をすれば,被告人が被保険者証の交付を受けられるであろうことは,被告人も認識していたと認められるが,被保険者証の交付を受けられると認識していることと,交付を受けた被保険者証が正当なものであると認識していることとは,別問題であり,上記のとおり,被告人には,Bの被用者としての稼働の実態も,Bとの雇用関係もないこと,及び健康保険の被保険者資格が,被用者としての稼働の実態があることを前提としていることを認識していたと考えられることからすれば,被告人は,交付を受けた被保険者証が正当なものでなく,被保険者証の交付を受けたからといって,正当な被保険者資格を取得するものではないことを認識していたと認められる。そうすると,被告人が,原判示第1のとおり,健康保険の被保険者証を使用して医療機関から療養給付を受け,本人負担分を除いた療養給付費用の支払いを免れた際,被告人には,その被保険者証が正当なものでなく,自分が正当な被保険者資格を有するものではないとの認識があったと認められるから,被告人に詐欺の故意があったということができる。
 
所論は採用できない。
(2)所論は,原判決は,被告人が,Bの被用者としての稼働の実態がないことを認識していたことから,この点に事実の錯誤がなく,被告人は,自己に健康保険の被保険者資格がないことを認識していたと認定しているが,被用者としての稼働の実態がないことについての認識と,健康保険の被保険者資格がないことの認識とは次元を異にしており,本件において,被告人に詐欺の故意があったと認定するには,健康保険の被保険者資格がないことを被告人が認識していたことを要するのであって,原判決は,事実の錯誤と法律の錯誤に関する解釈を誤っている旨主張する。
 
しかしながら,本件において,被告人に詐欺の故意があったと認定するには,健康保険の被保険者資格がないことを被告人が認識していたことを要するものであることは,所論指摘のとおりであるが,原判決も,被告人が,Bの被用者としての稼働の実態がないことを認識していたことから直ちに,自己に健康保険の被保険者資格がないことの認識があったと認定しているのではなく,被告人のそれまでの社会経験等をも勘案して上記のとおり認定しているものであることは,その「事実認定の補足説明及び一部免訴の理由」第1の2(4)の説示から明らかである。所論は,原判決を正しく理解しないものであって,採用できない。
(3)所論は,〔1〕被告人は,上記の健康保険の被保険者証を取得するまでは,国民健康保険の保険証を持っていて,昭和61年春には,国民健康保険を使って病院で胆嚢炎の手術を受けていたのであり,また,健康保険の方が保険料が高額であって,被告人にとっては,医療保険が国民健康保険か健康保険かはどちらでもよいことであるから,被告人には,資格を偽ってまで健康保険の被保険者資格を取得しなければならない動機はないこと,〔2〕原判決は,被告人の妻のp7が,昭和60年8月12日に婚姻した後に久留米市役所に行ったが,健康保険証の交付を受けることができず,被告人に対し「保険証がもらえなくて困っている。」と言った旨認定し,被告人に資格を偽って保険証を取得する動機があったかのように説示しているが,被告人は,上記のとおり,当時,国民健康保険に加入していたのであり,p7は,被告人と婚姻したことにより国民健康保険の被保険者(被扶養者)資格を取得するのであるから,同女が被告人に上記のようなことを言うことはあり得ないこと,〔3〕被告人は、昭和61年12月,入院中の病院を抜け出して殺人事件を起こして逮捕され,留置場から歯科医に通院したことがあったが,その際,警察官を通じて,被告人の妻に,健康保険証を歯科医に呈示するよう連絡をとってもらったこと,被告人は,上記事件での判決の後,勾留執行停止の決定を受けて病院で総胆管結石の手術を受けているが,その際も健康保険証を使用していることなどからすると,被告人は自分に健康保険の被保険者資格があることに何ら疑問を抱いていなかったことが明らかであること,以上のことからすると,被告人には医療機関を欺罔するとの認識は認められない旨主張する。
 
しかしながら,〔1〕関係証拠によれば,被告人には,Bから給料明細が交付されておらず,健康保険の保険料を負担するとの認識があったとはうかがわれず,実質的には,被告人についての健康保険の保険料はBが負担していて,被告人は負担していなかったとみることができることからすると,被告人が,自ら保険料を支払わなければならない国民健康保険よりも,健康保険の被保険者証を取得したいと考えたとしても不自然ではないから,被告人にその取得の動機がなかったとはいえない。〔2〕所論〔2〕がいうように,p7が,被告人に対し「保険証がもらえなくて困っている。」と言ったことはなく,被告人と婚姻したことにより国民健康保険の被保険者(被扶養者)資格を取得するとしても,上記〔1〕で述べたことからすれば,被告人に健康保険の被保険者証取得の動機がなかったとはいえない。〔3〕前記(1)及び(2)のとおり,被告人は,交付を受けた健康保険の被保険者証が正当なものでないことを認識していたと認められるのであって,所論〔3〕が指摘する事情を考慮に入れて検討しても,上記認定は揺らがず,所論の指摘する事情は,被告人に違法性の意識が乏しかったことを示すものにすぎないというべきである。所論は採用できない。 
 
論旨は理由がない。
2 原判示第4の事実(Cに対する恐喝未遂)について
 
論旨は,要するに,被告人は,C(以下「C」という。)に対し,同人を脅したり金員を要求する行為を行っておらず,無罪であるのに,信用性のないCの原審における供述に信用性を認め,編集された可能性が高く証拠能力も証拠価値もないマイクロカセットテープ(原審平成11年押第15号の1。以下「本件テープ」という。)に証拠能力及び証拠価値を認め,原判示第4のとおり,Cに対する恐喝未遂罪の事実を認定した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある,というものである。
 
しかし,記録を調査し,当審における事実取調べの結果を加えて検討しても,Cの原審における供述の信用性,並びに,本件テープの証拠能力及び証拠価値を肯認した原判決の判断に誤りがあるとは考えられず,これらの証拠を含む関係証拠によれば,原判示第4の事実を優に認定することができ,原判決が「事実認定の補足説明及び一部免訴の理由」第3で認定,説示するところも,概ね正当として是認できるのであって,原判決に所論のような事実の誤認はない。すなわち,Cの原審における供述は,CのAに対する債権額等の点で虚偽の供述をしている可能性を否定できないものであるが,本件テープは,意図的に切り貼りして編集されたものとはいえず,被告人が原判示第4のような言動をしたとするCの供述は,本件テープに録音された内容によって裏付けられており,かつ,本件当時の被告人とC及びAの三者の関係等からして,被告人が上記のような言動をしたことが格別不自然ともいえないことに照らして,十分信用することができる。他方,原判示第4のような言動をしたことを否定する被告人の供述は,本件テープに録音された内容と整合しない不自然なものであって,到底信用することができない。以下,所論にかんがみ,補足して説明する(以下,この項で年について特に記載しない場合は平成10年を指す。)。
(1)本件テープに録音されたCと被告人との会話(以下「第1会話」という。)について
ア 所論は,以下の諸点を指摘して,第1会話は編集されたものである可能性が高いから,Cの原審供述を裏付けるものとはいえず,また,本件テープに第1会話を録音した経緯について,Cは虚偽の供述をしていると考えられるから,Cの供述は信用できない旨主張する。すなわち,
〔1〕Cは,原審において,8月31日に,Cが,原判示第4の南欧食堂「d」において,被告人から同判示の言動を受けた後,被告人らと別れて自動車内にいたときに,被告人がCの携帯電話機に電話をかけてきた通話内容を,携帯電話機のメモ録音機能を用いて携帯電話機に録音した旨供述するが,Cが使用していた携帯電話機のメモ録音機能では,最長で約18秒間しか録音できないところ,被告人の上記「d」での脅迫行為を裏付けるとされる言辞が,あたかも被告人がその言辞を発することを予測していたかのように録音を開始し,また,それが終わることを予測していたかのように録音を終了して,過不足なく録音されており,このような録音を,携帯電話機で通話しながら行うことは極めて困難と考えられる上,第1会話は,冒頭部分と考えられる「か」と聞こえる部分から会話末尾の「はい」まで約14.5秒であり,証拠として録音を残そうとする者が録音を途中で終了させるとは考えにくいこと,
〔2〕Cは,原審において,自己の携帯電話機のメモ録音機能を用いて携帯電話機に録音したものを,携帯電話機をマイクロカセットテープレコーダーの内蔵マイクに押し当てる形で再生し,ダビングした旨供述するが,通常そのような方法でダビングすると,レコーダーと携帯電話機の接触音や周辺の雑音が録音され,十分な音量で再生されないと考えられるのに,第1会話の録音状態は,雑音も少なく音量も十分で不自然であること,
〔3〕Cが供述する上記のようなダビング方法では,テープの冒頭に,携帯電話機のメモ録音機能を再生するメモボタンを押す「ピッ」という音が1回録音され,終了時に,メモ録音機能の終了を知らせる「ピピッ」という2連音の信号音が1回録音されるだけであるはずなのに,第1会話の冒頭部分には,「ピッ」という音が4つ録音されており,不自然であること,
〔4〕警察官のp16がCの携帯電話機に録音された第1会話を再生した状況を報告した捜査報告書である同人作成の9月4日付け「録音内容の解明について」と題する書面(原審検甲90号)には,携帯電話機に第1会話と同一の会話が録音されていた旨記載されているが,同書面に添付された写真には,第1会話の録音元の通話とされる8月31日に被告人がCの携帯電話機にかけた通話の着信を示す着信履歴ではなく,9月1日午前10時57分にp5がCにかけた電話の着信履歴を表示したと考えられる携帯電話機が写されていて不自然であり,また,Cが9月4日に携帯電話機や本件テープなどを警察に提出したとされるにもかかわらず,上記の写真は,9月1日に撮影されたものであり,本当に9月4日に被害届が出されたか疑わしいなど,同書面は矛盾に満ちたもので,信用できないこと,
 
所論は,上記の〔1〕ないし〔4〕の各点からすると,第1会話は,携帯電話機のメモ録音機能を用いて録音されたのではなく,イヤフォンマイクを使用するなどして,一旦テープレコーダーに被告人からかかってきた電話の会話内容の全部を録音し,その会話内容のうち,Cが脅迫されたとする証拠にするには不都合な部分を除き,都合のよい部分だけを残すとともに,都合のよい部分だけを残したことが分からないように,残した部分だけをダビングしている最中に,携帯電話機のボタン音を入れて録音するなどして,携帯電話機のメモ録音機能で録音したように装ったものである可能性が考えられるとして,第1会話は編集されたものである可能性が高い旨主張する。
〔5〕また,弁護人は,当審で取り調べたp9作成の「テープ録音に関する鑑定」と題する書面(以下,単に「当審鑑定書」という。)(当番弁13号)によると,第1会話には,メモ録音再生開始のボタン音の前に大きなパルスが発生していて,同ボタン音の後から録音内容が始まるまでの間にも,パルスの発生が認められ,その後に録音内容の音声が始まっていること,第1会話の終了する部分付近では,メモ録音の終了を知らせる2連音らしい信号音が2つあるが,その2つの信号音のそれぞれの前後には,合計5カ所の録音空白があることなどから,2つの信号音と録音内容との連続性は保証されず,メモ録音再生開始のボタン音とメモ録音の終了を知らせる2連音の信号音らしき音は,後からはめ込まれた疑いがあるとされていることからすると,第1会話のメモ録音再生開始のボタン音やメモ録音の終了を知らせる2連音の信号音らしき音は,後から編集してはめ込まれたものと考えられ,したがって,第1会話は,被告人からかかってきた電話の会話内容の全部をマイクロカセットテープレコーダーに録音し,その会話内容のうち,Cが脅迫されたとする証拠にするには不都合な部分を除き,都合のよい部分だけを残すとともに,都合のよい部分だけを残したことが分からないように,携帯電話機のメモ録音機能で録音したように装うため,第1会話のメモ録音再生開始のボタン音やメモ録音の終了を知らせる2連音の信号音らしき音を,後から編集してはめ込んだものと考えられるから,第1会話は編集されたものである可能性が高い旨主張する。
イ そこで検討するに,
〔1〕検察官作成の捜査報告書(当審検2号)に添付された料金明細内訳票によれば,Cが,携帯電話機のメモ録音機能を使用して録音した被告人からの通話は,8月31日午後5時49分07秒からの通話と認められるところ,同通話の通話時間はわずか29.0秒間に過ぎず,約14.5秒の長さである第1会話には,Cと被告人との間の通話時間の約半分の時間分の会話が録音されていて,その余の通話時間は約14.5秒にすぎず,また,第1会話の終了部分は,「うちは必ずやりますけんね。それだけは忘れんごとしてください。はい。」というもので,被告人がCに念を押して会話が終わる部分であるから,このことは,Cが,自己の携帯電話機に被告人から電話がかかってきたので,通話の途中からメモ録音機能を使用して録音を開始し,被告人との通話の最後までメモ録音をしたとするCの供述と整合するものであり,また,録音された会話の印象からしても,Cがメモ録音を開始してから被告人との通話が終わるまでの会話が録音されたものであり,その後に,Cが電話を切るなどして,メモ録音が終了したものとみても格別不自然とはいえない。
〔2〕Cは,原審において,携帯電話機とマイクロカセットテープレコーダーをほとんどくっつけるような形でダビングした,ダビングは自宅か会社で行い,どちらもそんなに騒音はなかった旨供述しているのであるから,第1会話の録音状態が比較的雑音等が少ないものであることが不自然とはいえない。
〔3〕当審で実施した検証の結果によれば,例えば,電源ボタンやマナーボタンなどを押す操作を3回繰り返してから,メモ録音再生ボタンを押してメモ録音を再生した場合などには,第1会話が始まる前に,「ピッ」という音が4つ入ることになるところ,Cの原審供述によれば,Cは,携帯電話機の取扱いや録音に習熟していないと認められ,Cが,携帯電話機のメモ録音を再生してマイクロカセットテープレコーダーにダビングする際に,携帯電話機の操作を誤るなどして,例えば,電源ボタンやマナーボタンなどを押す操作を3回繰り返してから,メモ録音再生ボタンを押してメモ録音を再生したことなども考えられるのであるから,所論指摘の点をもって,第1会話が編集されているものと疑わせる事情ということはできない。
〔4〕証人p16に対する当裁判所の尋問調書によれば,p16は,本件当時,神奈川県警察本部に所属していたが,原判示第4の事件の捜査のために泉警察署に派遣され,9月4日にCが泉警察署に持参してきた携帯電話機のメモ録音を再生して録音内容の解析を行うように指示され,上記携帯電話機のメモ録音の解析を行い,「録音内容の解明について」と題する書面(原審検甲90号)を作成した,録音されていた通話についての携帯電話機の着信履歴などは確認せず,p16が録音内容を解析した携帯電話機の写真をCが持参してきていたので,録音内容を解析した携帯電話機の存在を証拠化するために,写真に写った携帯電話機の表示画面に注意を払わず,その写真を上記書面に添付した旨供述しており,その供述内容に不自然な点は見当たらず,同供述は十分信用できるものである。そして,p16の上記供述に加え,同日に行われたCの取調べやCが持参した本件テープの解析は,それぞれ別の警察官が行っていることを併せ考えると,Cが,9月1日にp5からCの携帯電話機に電話がかけられたことを証拠として残すために,その着信履歴を写真にとって,9月4日に泉警察署に持参したものの,p16には,その趣旨が伝わっていなかったために,被告人からCに対する通話の録音を解析した状況についての捜査報告書である上記書面に,Cが持参した上記写真が添付された可能性が高い。また,上記写真が撮影されたのは9月1日と考えられるが,Cは,9月2日ころ,知合いの代議士の秘書に相談した後に,まず,戸塚警察署に相談に行ったものの,そこで泉警察署に行くように言われたため,同署に行った旨供述していて,その供述内容に特に不自然な点はなく,上記写真が撮影された日と,携帯電話機の録音内容が解析された日が食い違っていることが,何らかの作為をうかがわせるものとも考えられない。以上によれば,所論指摘の点が,上記の「録音内容の解明について」と題する書面の信用性を左右するものとは考えられず,同書面は十分信用できるものといえる。
〔5〕p9作成の当審鑑定書(当審弁13号)においてp9が鑑定に使用したテープは,携帯電話機のメモ録音の再生音をダビングしたものとされる第1会話が録音された本件テープを,更に弁護人においてダビングしたもので,少なくとも2回のダビングを経ていると考えられるところ,p9は,弁護人がダビングしたテープの録音波形及び声紋図形(スペクトログラフ)の観測,録音の聴取,並びに録音内容の論理的整合性の吟味や,類似の条件で作成された模擬録音テープとの対比を行うことによって,編集点の有無の鑑定をし,主として音の波形の振幅を他の部分と比較して,音の波形の振幅が相対的に小さい部分や,パルスの発生している部分について,編集がされた可能性が高いと判断している。しかし,福岡県警察科学捜査研究所技術吏員p17作成の意見書(当審検5号)では,会話音等の中断の有無の判断と編集点の有無の判断とは同一視できず,ダビングテープの録音状況を鑑定しただけでは,テープ編集の有無を判断することはできないとし,また,本件テープ及び本件テープ作成に用いた各録音機器を鑑定し,同一の条件で作成した対照用テープと比較し,ダビングによるノイズレベルの変化等をも検討し,録音機の録音ヘッドや消去ヘッドの作動機構等も検討しなければ,編集点の有無は判断できないとして,p9の鑑定手法に対する根本的な疑問が指摘されているところ,その指摘はもっともなものとして是認できる。また,p9作成の当審鑑定書(当審弁13号)によると,第1会話には,メモ録音再生開始のボタン音の後から録音内容が始まるまでの間に,パルスの発生が認められることや,メモ録音再生開始のボタン音の前にも大きなパルスが発生していることが,パルスの認められる点での編集の可能性を疑わせる根拠とされていると考えられるが,p17作成の上記意見書では,ダビングをする際に,蛍光灯等の電気機器のスイッチ操作を行った場合等のパルスがテープに記録される可能性も指摘されているところ,上記のとおり,Cは,携帯電話機に録音された被告人からの通話内容を,携帯電話機とマイクロカセットテープレコーダーをほとんどくっつけるような形で,自宅か会社でダビングした旨供述しており,その際にパルスが録音される可能性も否定できない上,p9が第2会話の鑑定をし,同人作成の「録音テープに関する鑑定」と題する書面(原審弁45号)記載の不連続4(図5―1の切れ〔4〕)とした点において観測されるとしたスパイク電圧(パルス)が,福岡県警察科学捜査研究所技術吏員p18作成の意見書(原審検甲71号)によれば,検察官が本件テープをダビングしたテープにおいては観測されておらず,本件テープ,本件テープから弁護人がダビングしたテープ及び本件テープから検察官がダビングしたテープの各録音状態には,無視できない差異があると考えられ,その差異の原因としては,弁護人及び検察官が本件テープをダビングした際に使用した機材や周囲の状況の差異などがあると考えられるのであって,p9が鑑定に用いたテープには,資料としての信頼性に問題がある可能性を否定できない。そして,p9作成の当審鑑定書(当審弁13号)によると,第1会話の終了する部分付近では,メモ録音の終了を知らせる2連音らしい信号音の前後に録音空白があることが,編集を疑わせる根拠とされていると考えられるが,メモ録音再生開始のボタン音の編集点ではそのような指摘がされておらず,メモ録音再生開始のボタン音の編集とメモ録音の終了を知らせる2連音らしい信号音の編集とで異なる編集の形跡が残る理由が明らかでない。加えて,上記〔4〕のとおり,信用できる「録音内容の解明について」と題する書面(原審検甲90号)によれば,9月4日にCが泉警察署に持参した携帯電話機に,第1会話と同内容の被告人からCに電話をかけた通話内容が録音されていたことが認められることからすると,Cとしては,その携帯電話機のメモ録音を再生して本件テープにダビングすれば足りるのであって,わざわざ本件テープにメモ録音再生開始のボタン音とメモ録音終了を示す信号音をはめ込んで,第1会話が携帯電話機のメモ録音に録音されたものをダビングしたもののように偽装する必要性は全くなく,第1会話が編集された疑いが強いとするp9作成の当審鑑定書(当審弁13号)の判断は,上記の点とも整合しないものである。これらの点からすると,所論が援用するp9の鑑定意見は採用できない。
 
以上の〔1〕ないし〔5〕によれば,Cが,8月31日当時,マイクロカセットテープレコーダーを携帯しており,被告人からかかってきた携帯電話機の会話内容全部をマイクロカセットテープレコーダーに録音し,その会話内容のうち,Cが脅迫されたとする証拠にするには不都合な部分を除き,都合のよい部分だけを残すとともに,都合のよい部分だけを残したことが分からないように,携帯電話機のメモ録音機能で録音したように装うため,第1会話のメモ録音再生開始のボタン音やメモ録音の終了を知らせる2連音の信号音らしき音を,後から編集してはめ込むなどしたとは考えられず,第1会話が編集されたものとは考えられない。所論指摘の点が,第1会話の証拠価値及びCの原審供述の信用性を揺るがすものとはいえず,所論は採用できない。
(2)本件テープに録音されたCとp5との会話(以下「第2会話」という。)について

ア 所論は,以下の諸点を指摘して,第2会話は編集されたものである可能性が高く,Cの原審供述を裏付けるものとはいえず,また,本件テープに第2会話を録音した経緯について,Cは虚偽の供述をしていると考えられるから,Cの供述は信用できない旨主張する。すなわち,
〔1〕Cは,原審において,9月1日にp5からCの携帯電話機に電話があり,p5から,被告人からの伝言として,8月31日に被告人がCに申し向けた内容と同じ内容の脅迫言辞を聞いた後,Cからp5に電話をかけ,マイクロカセットテープレコーダーの内蔵マイクを携帯電話機の受話器部分に押し当てて会話を録音した旨供述するが,その録音方法についての供述が変遷している上,Cの供述する上記の録音方法では,マイクと携帯電話機の接触音や周辺の雑音が録音されたり,音量が小さくしか録音されないはずであるのに,第2会話は,雑音がほとんどなく,通話相手であるp5の声も明瞭であるのは不自然であり,Cはイヤフォンマイクを使用して録音したと考えられること,
〔2〕証人p9に対する原審裁判所の尋問調書2通(平成12年12月15日実施のもの及び平成13年12月20日実施のもの)並びにp9作成の「録音テープに関する鑑定」と題する書面(原審弁45号)及び「p18氏の『意見書』及び『証言』に対する検討」と題する書面(原審弁46号)によれば,第2会話には録音が中断していると思われる箇所が複数存在し,Cが,p5に電話をかけた通話内容を録音したテープを,都合のよいように切り貼りして編集し,本件テープの第2会話を合成したと考えられること,
 
以上の諸点を指摘して,所論は,第2会話は編集されたものである可能性が高い旨主張する。
イ また,弁護人は,当審における事実取調の結果に基づき,以下の諸点を追加して指摘し,第2会話は編集されたものである可能性が高い旨主張する。
〔3〕Cの原審供述,検察官調書(当審弁3号)及び警察官調書(当審弁2号)によれば,Cは,第2会話の元となる通話のされた前である9月1日午前10時57分に,p5からCの携帯電話機に電話がかかってきた旨供述しているが,検察官作成の捜査報告書(当審検1号,3号)に添付されたC及びp5の料金明細内訳票によれば,p5からCの携帯電話機に電話をかけたと認めることができないこと,したがってまた,前記の「録音内容の解明について」と題する書面(原審検甲90号)には,9月1日午前10時57分にp5がCの携帯電話機に電話をかけたことを示すと解される着信履歴の画面が表示された携帯電話機の写真が添付されているが,同写真は,Cが,p5から電話で被告人の脅迫言辞の伝言を受け脅迫されたと装うために,Cの携帯電話機にp5から電話がかかってきたとする着信画面を偽造して警察に提出したものと考えられること,
〔4〕第2会話の長さは約3分47秒と認められるが,上記の料金明細内訳票によれば,第2会話の元となる9月1日午前11時13分21秒からの通話時間は3分55.5秒であるから,このことは,第2会話が切り貼りされて編集されたものであることを裏付けていること,
〔5〕第2会話の会話中には,緊張感を欠いた会話部分など,前後関係からして不自然な部分があること,
 
以上の諸点を指摘して,弁護人は,Cが,p5に対して9月1日の午前中に2回にわたりかけた電話の通話内容などを録音したテープを,Cの都合のよいように切り貼りして編集し,本件テープの第2会話を合成したと考えられ,第2会話は編集されたものである可能性が高い旨主張する。
ウ そこで検討するに,
〔1〕Cが,原審において,第2会話の録音方法について供述したのは,平成13年12月20日に実施された証人尋問でのことであり,Cが第2会話を録音したという平成10年9月1日から3年3か月以上経っていて記憶が薄れていたとして不自然ではないと考えられる上,Cは,Rとの通話をイヤフォンマイクで録音するなどしていたというのであるから,その記憶と混同して供述したとしても不自然とはいえず,録音方法についての供述が若干変遷しているからといって,その供述内容全体が信用できないものとはいえないし,Cの供述する録音方法をとったからといって,必ずマイクと携帯電話機との接触音や周囲の雑音が録音されるものとは限らないから,所論指摘の点をもって,Cがイヤフォンマイクを使って録音したとはいえない。
〔2〕証人p9に対する原審裁判所の尋問調書2通並びに「録音テープに関する鑑定」と題する書面(原審弁45号)及び「p18氏の『意見書』及び『証言』に対する検討」と題する書面(原審弁46号)によれば,第2会話に関するp9の鑑定手法は,前記(1)イ〔5〕と同様のものであるところ,このようなp9の鑑定手法に対しては、証人p18及び同p17の原審各公判供述並びにp18作成の意見書(原審検甲71号)及びp17作成の意見書(原審検甲89号)によれば,前記(1)イ〔5〕で指摘したのと同内容の,p9の鑑定手法に対する根本的な疑問が指摘でき,その鑑定手法に基づく第2会話についての同人の鑑定意見の信用性についても強い疑問を持たざるを得ないこと,前記(1)イ〔5〕で指摘したとおり,p9が鑑定に使用したテープの鑑定資料としての信頼性には疑問があること,証人p9に対する原審裁判所の尋問調書2通及びp9作成の「録音テープに関する鑑定」と題する書面(原審弁45号)によれば,第2会話は編集された疑いがあるというものの,その編集は,テープレコーダーの録音機能を使用した普通の方法でされたものとは考えられず,オープンリールテープの切り貼りやミキサーを使用するなど音響関係の高度な編集技術を持った者による特殊な編集方法によるものと考えられるというものであるところ,Cは,同人の原審供述によれば,録音編集等の音響関係に特に詳しくはないことが認められるし,Cは,第2会話の元となるCとp5との間の通話のあった9月1日から3日後の9月4日には,第2会話の録音された本件テープを持参して警察に相談に行っているのであり,その間に,Cが音響関係の高度の技術及び機材を持つ者に本件テープの編集を依頼するようなことまでしていたことをうかがわせる証跡はなく,そのようなことがあったとは考えにくいこと,p9が編集点であると指摘する8つの点について検討しても,前後関係からみて,会話の流れに特に不自然な印象は受けないこと,p9作成の「録音テープに関する鑑定」と題する書面(原審弁45号)記載の不連続4(図5―1の切れ〔4〕)については,前記(1)イ〔5〕のとおり,p9がそこにおいて観測されるとしたスパイク電圧(パルス)が,検察官がダビングしたテープでは観測されていないこと,以上の諸点に照らせば,所論が援用するp9の鑑定意見は採用できない。
〔3〕p5が,9月1日午前10時57分に,Cの携帯電話機に電話をかけたが,Cがその電話に出ることができず,直後にCの方からp5に電話をかけ直して用件を聞いたとみる余地があり,その場合には,Cが,第2会話の元となるp5との通話をする前に,p5から電話がかかってきたと記憶していたとして不自然ではないし,前記の「録音内容の解明について」と題する書面(原審検甲90号)添付の写真には,p5からの上記時刻の着信画面が撮影されているのもそのことを示していると考えることが可能である。 
 
所論は,Cが,p5からの電話に出られなかったとすれば,上記の写真にアスタリスクマークが写っているはずである旨主張するけれども,上記写真のアスタリスクマークが表示される箇所は,光が反射して撮影されていて,上記写真からは,アスタリスクマークが表示されているか否か判別できないから,この点は決め手にならない。そして,Cは,9月1日午前10時57分にp5から電話があったとして,その着信画面を写真にとっているところ,その時刻は,上記の料金明細内訳票において,Cの携帯電話機からp5に電話をかけたと認められる時刻と一致しているのであるから,もし,Cが,p5から電話で被告人の脅迫言辞の伝言を受け脅迫されたと装うために,p5からの携帯電話機への着信画面を偽造したとすれば,Cが,自分がp5に電話をかけたのと全く同じ時刻にp5から電話がかかってきたと偽装する工作をしたことになるのであって,Cがわざわざそのような不自然な工作をすることは考えにくいことからすれば,Cがp5から電話がかかってきたが出られずに,電話をかけ直したとみても不自然ではなく,Cが,p5から電話で被告人の脅迫言辞の伝言を受け脅迫されたと装うために,Cの携帯電話機にp5から電話がかかってきたとする着信画面をわざわざ偽造したとみることは困難である。
〔4〕Cが録音に使用したのはマイクロカセットテープレコーダーであって,一般に録音及び再生の精度については,通常のテープレコーダーより劣ると考えられること,Cの使用したマイクロカセットテープレコーダーのモーターの性能や整備の状態,電池の充電状態などによっては,約3分55秒の会話の録音において,7,8秒の誤差が出る可能性は否定できないし,弁護人が測定したテープが本件テープからダビングされたテープであり,ダビングの際にも若干の誤差が生ずる可能性を否定できないことに照らせば,所論指摘の点をもって,第2会話が編集されたことを疑わせる事情とみることはできない。
〔5〕Cは,第2会話の録音の元となるp5への電話をかける直前に,電話で,p5から,脅迫する内容の被告人からの伝言を聞いていたというのであるから,第2会話の録音の元となるp5への電話をかける際は,通話内容を録音しようとして,緊張して会話内容が若干ぎごちなくなったものと考えて不自然ではなく,その会話内容から会話の編集があったものとみることはできない。
 
以上によれば,Cが,9月1日の午前中にp5に2回にわたり電話をかけた通話内容などを録音したテープを,Cの都合のよいように切り貼りして本件テープの第2会話を編集したとは考えられず,所論指摘の諸点が第2会話の証拠価値やCの原審供述の信用性を揺るがすものとはいえない。所論は採用できない。
(3)所論は,原判決は,第1会話の被告人の口調が早口で厳しいものであることや,第1会話の内容に照らすと,第1会話は,Cの供述と符合する旨説示するが,被告人は,「d」において,Cとの間で,A経営の株式会社F(以下「F」という。)のHに対する債権について,Cがその譲渡を受けて回収し,その中からCが被告人に金を支払うという話になっていたのに,被告人がCに電話をかけてそのことを確認したところ,Cが「d」での話と食い違って煮え切らない態度をとったため,被告人がいささか感情的になって早口になったり口調が厳しくなった,「ケツ拭く」という表現は,債権回収を被告人に任せっきりにするな,という意味で言っている,「うちは必ずやる」という表現は,債権回収を必ずやるという意味で言っている旨供述していることからして,第1会話がCの供述を裏付けるものとはいえない旨主張する。
 
しかしながら,第1会話において,被告人は,「うちのこと知らん顔するか,ケツ拭くか,もうおたくがよーと考えて」と言っているのであり,原判決が説示するとおり,「ケツを拭く」という言葉は,通常,不始末の責任を取るという意味で使用されるのであって,被告人の供述する意味内容はいかにも不自然というほかなく,到底採用することはできない。また,「うちは必ずやりますけんね。それだけは忘れんごとしてください。」という言葉も,その会話に続いているのであるから,被告人が要求する「ケツを拭く」ことをしなかった場合には,被告人がCに対して何らかの行動に出ることを予告して威圧を加えたものとみるのが自然であって,原判決が説示するとおり,第1会話における会話内容は,Cが,被告人から,Aの手形の買戻しを要求され,その要求に応じない場合には「タマを取る」と脅されたというCの原審供述の内容とよく符合しており,同供述を裏付けているというべきである。所論は採用できない。
(4)所論は,原判決は,第2会話において,Cがp5に対して被告人からの伝言を再確認したい旨告げたところ,p5が「来週の週明けまでにAさんの手形を買い戻しに来い。」と明言していること,Cが,被告人が「何年経ってもタマを取る」と本当に言ったのか尋ねたところ,p5は否定することなく,「言うたとおりです。そげな話だったでしょう,空港で。」と返答していることが,Cの供述を裏付けている旨説示するが,仮に,手形の買戻し要求があったとしても,それ自体は脅迫行為ではないこと,p5は,第2会話の中で,被告人が「タマを取る」と言ったことを肯定してはいないことからすると,第2会話がCの供述を裏付けるものとはいえない旨主張する。
 
しかしながら,第2会話において,p5は,手形の買戻し要求を告げた後,言葉を濁して,「あとは,だけんさっき言うたとおりです。」,「自分は何べんも言いたくないことやけんですよ。」と言っていることからすると,伝言内容が手形の買戻し要求だけであったとは解されない。また,p5は,「何年経ってもタマを取るって,そんなことほんとに言ったの。」というCの問いに対して,直接答えてはいないものの,「そういう話になったんでしょう,空港で。」と言っていて,「何年経ってもタマを取る」と言ったことを否定していないばかりか,それを暗に認めるような言葉を言っていることが認められる。そうすると,第2会話は,被告人からAの手形の買戻しを要求され,その要求に応じない場合には「タマを取る」と脅されたというCの原審供述によく符合しているというべきである。所論は採用できない。
(5)所論は,〔1〕Cは,同人がAに対して有していた債権額について,1780万円と2000万円の2口で合計3780万円の債権を有していた旨供述しているが,実際の債権額は1780万円であったと考えられること,〔2〕Cは,8月20日にAが失踪した理由について,原審では,A経営のFが下請けに振出した100万円くらいの手形が不渡りになったためである旨供述し,9月4日付け警察官調書(当審弁2号)では,被告人に対して振り出した3600万円の手形が原因であることを印象づける内容の供述をしているが,実際は,Aが,フィリピンでした賭博に負けたためCに金を借り,その際に同人に振り出した2000万円の手形が取立てに回されたことを知り,Cから聞いていた横浜の街金の追い込みがかかることを恐れたためであり,Cはそのことを当然分かっていたこと,〔3〕Cは,8月25日に,Aが被告人から指示を受けたp5と面談するために○○駅西口のnホテルの喫茶店に行った際,及び,同月29日に,Aが済州島に旅行した際のいずれにも,CがAに同行した理由について,Aから怖いので付き合ってくれと頼まれたためであり,被告人がAを済州島に呼んだ理由は,Aに済州島の金貸しから金を借りさせて,被告人に対する借金を返済させる狙いがあったと思う旨供述しているが,実際は,Aが畏怖していたのは,Cとその背後にいる横浜の街金及び暴力団であって,Aに済州島の金貸しから金を借りさせて借金を返済させようとしていたのはC自身であり,CがAに同行したのは,Aが被告人に対して,FのHに対する債権を全額被告人に対する弁済に充てる確約をすることを牽制するためであったと考えられること,以上のとおり,Cは数多くの虚偽供述をしていることからすると,Cの原審供述は信用できない旨主張する。
 
そこで検討するに,所論〔1〕の点については,CのAに対する残債権額を,Cは3780万円と述べ,Aは1780万円と述べて,残債権額に争いがあるところ,この点を明確に認定できる証拠はないが,Cの上記供述は,フィリピンのカジノで負けたAにCが最初に貸した債権がなお2000万円残っているとする点にあいまいさがあって,Cの方が虚偽の供述をしている可能性がある。しかし,上記の債権額がいくらかという点は,被告人から恐喝未遂の被害を受けたとするCの供述の根幹部分に属するものではなく,同人がその点について虚偽の供述をしている可能性があるとしても,そのことによって,前記の第1会話及び第2会話によって裏付けられているCの本件についての供述の信用性が揺らぐものではない。
 
次に,所論〔2〕の点は,Aの原審公判供述に依拠するものと考えられるが,Aが8月20日に失踪した原因が,所論のいうように,Aが,Cに振り出した合計2000万円の手形が不渡りになることにより,街金からの追い込みがかかることを恐れたというものであったとしても,Sの警察官調書(原審〔横浜地方裁判所〕検17号)及びJの警察官調書(原審〔横浜地方裁判所〕検19号)等の関係証拠によれば,Cは,上記手形を金融機関である横浜信用金庫に取立てに回したものの,Aが失踪したことを知った後,直ちに上記手形を依願返却してもらい,その手形の支払いを猶予していることが認められ,したがって,Cが上記手形を取立てに回したことが,その時点において,特に悪意ある行為であったとはいえないこと,8月21日以前には,Aは,Cに対して会社の財務状況を教えていなかったとうかがわれ,Cは,当時のAの状況を十分把握していたとはいえないこと,Hの社長であるJは,8月21日に,横浜信用金庫から,「Fが170万円の不渡りを出した。社長もいなくなった。」と聞いていることなどからすると,Cが,積極的に虚偽の供述をしているとまではいえない。
 
また,所論〔3〕の点も,Aの原審公判供述に依拠するものと考えられるが,関係証拠によれば,8月25日以降は,暴力団幹部である被告人の方でも,Aに対する債権が回収できるかどうかを危惧し,自らあるいは配下の者を通じて,その回収に向けた動きを強めていたことが認められるから,Aが,被告人については恐いとは思わず,Cの方だけが恐かったかのように述べるのは不自然であって,Aの供述は必ずしも信用できない。他方,Cは,自己の債権回収の意図を過少に述べているきらいはあるが,Cが所論指摘の点について,積極的に虚偽の供述をしているとまでは認められない。
 
さらに,Cの供述態度をみるに,Cは,自分がAに債権を有していたことやその回収を図っていたことを,当初は積極的に供述しようとしていなかったとうかがわれるが,遅くともCの9月25日付け検察官調書(当審弁3号)が作成された時点以降は,自分がAに対して多額の債権を有していたことを供述しているのであるから,Cが自己の債権の回収に向けた強い意向を持っていたことは,当然推認できるのであり,前記のとおり,原判示第4の恐喝未遂の事実に関するCの供述が第1会話及び第2会話によって裏付けられていることに照らせば,当初,Cが,自分がAに債権を有していたことや,その回収を図っていたことを,積極的に供述しようとしていなかったことが,その供述全体の信用性を揺るがすものとまでは認められない。所論は採用できない。
(6)所論は,C及びKが,9月21日,横浜地方裁判所に対してした債権仮差押えの申立ての際に使用したF振出とされる手形3通のうち,Cを債権者とする額面2000万円の手形及びKを債権者とする額面2500万円の手形は,8月24日ころ,Cが,横浜の街金に行って手形を割って金策してくると言って,Aから受け取った白地手形3通のうちの2通を偽造したものと考えられ,Cは,手形の偽造や訴訟詐欺を行う人物であること,Aは,唯一の資産ともいえるFのHに対する債権を被告人に対する借金の弁済に充てようとしていたが,上記のとおり,Cはそれを阻止して,被告人が逮捕された後には,手形の偽造や訴訟詐欺をして,上記の債権を独占しようとしたことからすると,Cの原審供述は信用できない旨主張する。
 
しかしながら,Cらのした上記債権仮差押えの申立てや民事訴訟の際に使用された手形が,Aが原審公判で供述するとおり,AがCに交付した白地手形を用いて作成されたものであるとしても,その申立て等がされた当時におけるCらとAとの間の関係の全容が明らかでなく,Cらが,上記白地手形を使用して債権仮差押えの申立て等をしたことが手形の偽造や訴訟詐欺に当たるとは必ずしもいえない上,Cらが上記の債権仮差押えの申立て等をしたのは,A経営のFが倒産して本件のあった日から21日後で,Cが本件について警察に被害申告をした日から17日後のことであり,ある程度の日時経過後のことであるから,Cらが,その時期に,自己らの債権回収の目的で,上記の債権仮差押えの申立て等をしたからといって,Cが,本件について,あえて被告人を罪に陥れるような虚偽の供述をしているとみることまではできず,所論指摘の点が,Cの原審供述全体の信用性を揺るがすものとはいえない。所論は採用できない。
 
その他,所論がるる主張する諸点を検討しても,いずれも原判決の原判示第4の事実の認定を揺るがすものとはいえず,これに反する被告人の供述の信用性を否定した原判決の判断に誤りはない。
 
論旨は理由がない。
3 原判示第5の事実(Dに対する恐喝未遂)について
 
論旨は,要するに,被告人は,D(以下「D」という。)に対し,同人を脅したり金員を要求する行為を行っておらず,無罪であるのに,信用性のないDの原審における供述に信用性を認め,原判示第5のとおり,Dに対する恐喝未遂の事実を認定した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある,というものである。
 
しかし,記録を調査し,当審における事実取調べの結果を加えて検討しても,Dの原審における供述の信用性を肯認した原判決の判断に誤りがあるとは考えられず,D,P(以下「P」という。)及びQ(以下「Q」という。)に対する原審裁判所の各尋問調書を含む関係証拠によれば,原判示第5の事実を優に認定することができ,原判決が「事実認定の補足説明及び一部免訴の理由」第4で認定,説示するところも,正当として是認できるのであって,原判決に所論のような事実の誤認はない。以下,所論にかんがみ,補足して説明する。
(1)所論は,被告人が,Dに対して,ソファーに着座した後,いきなり,「30万円は要らん。」,「1000万出すから共同経営者にしてくれ。」,「共同経営者となって1000万の出資の2割を毎月くれ。」などと言ったとするDの供述は,極めて不自然であって,信用できず,被告人が考えていたホテルを拠点とする出張ヘルスの話にDが興味を示し,被告人とDとの間で,事業を共同経営する話などで盛り上がったなどの内容の被告人の供述が信用できる旨主張する。
 
しかしながら,Dは,みかじめ料を要求されて毎月30万円を支払うこととなったh組組長のp6から,会わせたい人がいるから来るようにという連絡を受け,迎えの男がやってきたので,f組事務所に行ったところ,p6から被告人を紹介され,被告人から上記の要求や脅迫を受けた旨供述しており,その供述内容に不自然な点はない上,平成13年9月3日に警察に被害を届け出た経緯として供述するところも納得できること,Dの供述が,PやQの供述ともほぼ符合していることからすると十分信用できるものであり,被告人が,Dとの話の最初の段階で,所論指摘のようなことを言って,自己の要求を示したとして特に不自然とも考えられない。他方,被告人の供述は,原判決が,「事実認定の補足説明及び一部免訴の理由」第4の3(2)で説示するとおり,Dらに店舗拡張の計画もなく,また暴力団組長である被告人から融資を受ける必要もなかったことに照らして,不自然で信用できないというほかない。所論は採用できない。
(2)所論は,Dが,警察に被害届を出した後,平成13年9月4日に警察の指導で,被告人に断りの電話をした際,警察官がその会話状況を録音しようとしたものの,録音に失敗したとされるが,犯罪捜査をしている警察官が,録音に失敗するはずはないから,不自然であって,このことは,実際は,録音した内容が,Dの供述と矛盾するものであったため,証拠として使えなかったことを示すものであり,被告人の供述が信用できることを強く推認させる旨主張する。
 
しかしながら,Dに対する原審裁判所の尋問調書によれば,会話の録音は,Dの会社において,Dが携帯電話機で電話をする横にテープレコーダーを置いた形で録音したが,電話の後で巻き戻して聞いたらDの声しか入っていなかったというのであり,その供述する内容には,特に不自然なところがなく,「マイクロカセットの解析に関する報告書」と題する書面写し(当審弁10号)の内容とも符合し,信用できるものといえるところ,上記の録音方法では,警察官が会話を録音することに失敗したとしても,そのことをもって不自然ということはできない。したがって,録音に失敗したというのは不自然であるとの主張を前提とする所論は採用できない。
 
その他,所論がるる主張する諸点を検討しても,上記の信用できるDに対する原審裁判所の尋問調書等の関係証拠に照らせば,いずれも原判決の原判示第5の事実の認定を揺るがすものとはいえず,これに反する被告人の供述の信用性を否定した原判決の判断に誤りはない。
 
論旨は理由がない。
第3 検察官の控訴趣意中,法令適用の誤りの論旨について
 
論旨は,要するに,原判決は,本件訴因変更請求によっては,追加分の訴因事実の公訴時効は進行を停止しないと解した上,検察官が同事実について追起訴した平成15年10月9日付け起訴状記載の公訴事実については,公訴時効が完成しているとして免訴するとしたが,時効制度の趣旨からすると,検察官のした本件訴因変更請求により,又は,同請求が裁判所により許可されたことにより,追加分の訴因事実についての公訴時効は,本件訴因変更許可取消決定がされた平成15年9月16日までの間,その進行を停止していたものと解すべきであるから,追加分の訴因事実と同内容の平成15年10月9日付け起訴状記載の公訴事実について,公訴時効は完成していないから,原判決は,刑事訴訟法254条1項についての解釈適用を誤っており,その誤りは,判決に影響を及ぼすことが明らかである,というものである。
 
そこで検討するに,本件訴因変更請求は,起訴と同じく検察官の主張する事実を新たに審判の対象とする訴訟行為であって,本質的には起訴と同様の性格を有するものであり,所論が主張するように,特定の事実について検察官の訴追意思が裁判所に明示されていること,本件訴因変更請求は,平成11年2月19日横浜地方裁判所における第3回公判期日に,裁判所によって許可されたこと,本件訴因変更請求が裁判所によって許可されたことにより,追加分の訴因事実は,審判の対象として訴訟係属したこと,しかも,本件訴因変更請求については,検察官による訴因変更請求書の朗読(刑事訴訟規則209条参照),訴因変更後の公訴事実についての被告人及び主任弁護人による陳述が行われた上,検察官による冒頭陳述及び証拠調べも行われているのであって,被告人の防御権については、公訴提起と同様の手続保障がされていること,その後,平成15年9月16日に本件訴因変更許可取消決定がされたが,これは,上記の訴因変更許可を将来に向かって取り消すものと解されるのであり,本件訴因変更許可決定時から本件訴因変更許可取消決定時までの間,追加分の訴因事実が審判の対象として訴訟係属していた事実は,本件訴因変更許可取消決定によっても変わらないといえること,包括一罪であるとして訴因変更が許可されたが,審理の結果,併合罪と判断されるに至ったものの,既にされた訴因変更許可は適法,有効とされる場合には,追加された訴因事実の公訴時効が,訴因変更請求ないしその許可により進行を停止すると解することに問題はないと考えられること,刑事訴訟法254条1項は,管轄違い又は公訴棄却の裁判で訴訟が打ち切られる場合であっても,公訴提起後上記裁判の確定時までは,公訴時効の進行が停止することを前提としていて,公訴時効の進行停止の効力が生じるためには,公訴が適法,有効であることを必要としないと解されるところ,この理は,訴因変更請求が裁判所によって許可されたことにより,変更後の訴因事実がいったん審判の対象として訴訟係属したものの,その後,上記の訴因変更許可が取り消された場合にも当てはまると考えられること,以上のことからすると,本件訴因変更請求については,遅くとも,裁判所によって許可された段階で,刑事訴訟法254条1項に規定する「公訴の提起」と同視することができるというべきであり,このことは,本件訴因変更許可取消決定によっても覆らないと考えられるから,本件訴因変更請求が裁判所によって許可された段階で,同請求に刑事訴訟法254条1項前段が準用され,追加分の訴因事実についての公訴時効は,本件訴因変更請求が裁判所によって許可された時点から進行を停止するものと解するのが相当である。
 
原判決は,刑事訴訟法254条1項前段の文言や,刑事訴訟法の解釈においても被告人に不利益な類推解釈ないし拡張解釈を安易にすべきでないことから,本件訴因変更請求により公訴時効の進行が停止すると解することはできないとしたが,刑事訴訟法254条1項前段の規定が,公訴時効の進行が停止されるのを,公訴が提起された場合に限定する趣旨とは必ずしも解されないし,また,実質的にみても,訴因変更請求が裁判所によって許可された段階で,同請求に同法254条1項が準用されるとすることが,被告人の利益を不当に害するものとはいえない。刑事訴訟法の解釈においても,被告人に不利益な類推解釈ないし拡張解釈を安易にすべきでないとの原審の解釈態度は理解できるが,原審がそのことから直ちに上記の解釈を導いているのは正当とはいえない。 
 
以上によれば,追加分の訴因事実については,平成11年2月19日に本件訴因変更許可決定がされた段階で,本件訴因変更請求に刑事訴訟法254条1項前段が準用されて,公訴時効の進行が停止し,平成15年9月16日にされた本件訴因変更許可取消決定により,その時点以降,追加分の訴因事実が審判の対象から外れたのであるから,同決定に同項後段が準用されて,同決定がされた時から再び公訴時効が進行を始めたものと解される。そうすると,追加分の訴因事実を起訴したものである同年10月9日付け起訴状記載の公訴事実について,公訴時効は完成しておらず,原判決は,刑事訴訟法254条1項の解釈適用を誤っていて,その誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである。
 
論旨は理由がある。
第4 破棄自判
 
よって,被告人の量刑不当の論旨に対する判断を省略し,刑事訴訟法397条1項,380条により原判決のうち被告人に関する部分を破棄する。そして,記録によれば,前記第1のとおり,原審においては,上記の平成15年10月9日付け起訴状記載の公訴事実に関するものを含め,罪体に関する証拠調べはもとより,弁護人請求の証人尋問及び被告人質問を終えるなど審理を遂げた上で,平成15年10月9日付け起訴状記載の公訴事実について免訴とするなどの判決を言い渡した(なお,被告人及び弁護人は,上記公訴事実の事実自体については特に争っていない。)ものであり,このような原審の審理状況並びに被告人及び弁護人の応訴態度に照らすと,当審において,被告事件について原審に差し戻すことなく直ちに判決することは可能かつ相当であると認められる。そこで,刑事訴訟法400条ただし書により,当裁判所は,被告事件について更に次のとおり判決する。
(罪となるべき事実)
第1 原判決の「罪となるべき事実」第1記載のとおりである。
第2 被告人は,無登録で貸金業を営むもの,p5は,福岡県久留米市<以下略>所在の同人方などにおいて,顧客との折衝及び元利金の受領等の業務に従事していたものであるが,上記p5と共謀の上,業として金銭の貸付けを行うに当たり,別紙利息受領一覧表記載のとおり,平成9年11月28日から平成10年7月23日までの間,前後21回にわたり,福岡県久留米市<以下略>所在のb銀行c支店ほか1か所に開設したp5名義の普通預金口座に振込入金させる方法により,p15ほか5名から,法定の1日当たり0.1096パーセントの割合による法定限度利息額合計170万4828円を739万5172円超える1日当たり約0.3333パーセントないし約0.6666パーセントの割合による利息合計910万円を受領したものである。
第3 原判決の「罪となるべき事実」第4記載のとおりである。
第4 原判決の「罪となるべき事実」第5の事実中「D(当時49歳)」とあるのを「D(当時48歳)」と改めるほかは,同事実記載のとおりである。
(証拠の標目)(省略)
(累犯前科)
 
原判決「累犯前科」に記載のとおりである。
(法令の適用)
 
判示第1の各所為は原判決別紙診療年月日等一覧表の各番号ごとに刑法246条2項に,判示第2の各所為は別紙利息受領一覧表の各番号ごとに,刑法60条,行為時法である平成11年法律第155号による改正前の出資法5条2項に,判示第3及び第4の各所為はいずれも刑法250条,249条1項にそれぞれ該当するところ,判示第2の各罪についていずれも懲役刑と罰金刑とを併科し,判示第1,第2及び第3の各罪は前記の前科との関係で再犯であるから,刑法56条1項,57条により判示第1及び第3の各罪の刑,並びに判示第2の各罪の懲役刑についてそれぞれ再犯の加重をし,以上は同法45条前段の併合罪であるから,懲役刑については同法47条本文,10条により刑及び犯情の最も重い判示第3の罪の刑に平成16年法律第156号による改正前の刑法14条の制限内で(その長期は,行為時においては平成16年法律第156号による改正前の刑法14条に,裁判時においては刑法14条2項によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから,同法6条,10条により軽い行為時法の刑による。)法定の加重をし,罰金刑については刑法48条1項によりこれを上記懲役刑と併科し,同法48条2項により判示第2の各罪所定の罰金の多額を合計し,その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役4年及び罰金200万円に処し,原審における未決勾留日数をその懲役刑に算入することについては同法21条を,労役場留置については同法18条をそれぞれ適用し,原審及び当審における訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項本文により全部これを被告人に負担させることとする。
(量刑の理由)
 
本件は,被告人が,健康保険被保険者証を不正に使用して保険診療を受け,療養給付費用の支払いを免れて財産上不法の利益を得た各詐欺(判示第1),業として金銭の貸付けを行うに当たり法定限度額を超える利息を受領した各出資法違反(判示第2),失踪した債務者の債務の肩代わりの名目でCから金員を脅し取ろうとした恐喝未遂(判示第3)及び風俗店の経営者であるDから出資の配当金の名目で金員を脅し取ろうとした恐喝未遂(判示第4)の事案である。
 
記録から認められる本件各犯行の経緯,動機,態様,結果及び被告人の前科関係等,とくに,判示第3及び第4の各恐喝未遂の犯行は,暴力団幹部としての威勢を背景に行われたもので,要求した金額が多額である上,各被害者に多大な恐怖感を与えており悪質であること,被告人は,暴力団幹部として活動し,粗暴犯前科を含む多数の前科を有し,昭和63年には殺人幇助罪で懲役8年に処せられ,平成7年10月にその刑の執行を受け終わったにもかかわらず,その後本件各犯行に及んでおり,しかも,判示第4の恐喝未遂の犯行は,判示第1ないし第3の事実での公判中に行われたもので,被告人には規範意識の鈍麻が明らかであることからすると,その刑事責任は重い。
 
そうすると,判示第3及び第4の各犯行が未遂に止まったことや被告人の体調など,記録及び当審における事実取調べの結果から認められる被告人のために酌むべき諸事情を考慮しても,主文の刑はやむを得ない。
(福岡高等裁判所第二刑事部)

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