覚せい剤福岡4

覚せい剤福岡4

福岡高等裁判所/平成一〇年(う)第一九三号

主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役二年に処する。
原審における未決勾留日数中一〇日を右刑に算入する。
平成一〇年四月九日付起訴状記載の公訴事実第二の覚せい剤所持の点について、被告人は無罪。

理由
本件控訴の趣意は、弁護人永田一志提出の控訴趣意書に記載されているとおりであるから、これを引用する。
(事実誤認の主張について)
一 所論は、要するに、原判決は、犯罪事実の第三として、被告人がM女と共謀の上、平成一〇年三月一八日、福岡市○○区○○△丁目△番△号Nビル△△号の被告人方において、覚せい剤結晶〇・八三四グラムをみだりに所持したと認定判示しているが、右覚せい剤はM女がOという者から入手してM女が所持していたものであり、被告人は右入手、所持に全く関わっていないから、原判決が被告人においてM女と共謀して右覚せい剤を共同所持した旨認定判示したのは事実誤認であり、この謝りが判決に影響を及ぼすことは明らかである、というのである。
二 そこで、原審記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも併せて検討する。
(一)原審及び当審で取り調べた関係各証拠によれば、以下の事実を認めることができる。
1 被告人は、かねてからM女と交際しており、その間、共に覚せい剤取締法違反罪で懲役刑に処せられて服役したこともあった。被告人は、平成八年四月四日仮出獄したが、同年七月ころから一二月ころまで膵臓癌で入院し、退院後は月額約一〇万円の医療保護を受給しながら生活していた。一方、M女は、被告人より一足早く出所してマッサージ師として働き、蓄えも有しており、被告人の仮出獄後間なしに同人との交際を復活させ,その後はときどき被告人の身の回りの世話をしたり、その求めに応じて被告人に対し生業資金としてまとまった金を融通するなどしていた。
2 平成一〇年三月一八日、福岡中央警察署の警察官が、覚せい剤取締法違反容疑で福岡市○○区○○△丁目△番△号Nビル△△号の被告人方を捜索し、その際、被告人方に居合わせたM女が所持していたビニール製黒色手提げバッグの中の赤色ビニール製化粧ポーチ内から、チャック付きポリ袋に入っていたポリ袋入り覚せい剤一袋(〇・六九四グラム)注射器二本(赤いキャップ付きのものと黄色いキャップ付きのもの)、同手提げバッグの中の眼鏡ケース内からポリ袋入り覚せい剤一袋(〇・一四〇グラム)、注射器一本を発見し、同女はその場で右覚せい剤所持の現行犯人として逮捕された。なお、右捜索の際被告人の衣装ケースの中から微量の覚せい剤(〇・〇〇八グラム)が付着したポリ袋が発見されたため、被告人もその覚せい剤所持の現行犯人として逮捕された。 
3 M女は、逮捕時及び捜査段階、公判段階を通じ、一貫して、右手提げバッグの中の覚せい剤は被告人のもので被告人から預かって所持していたものである旨供述し、一方、被告人は、M女が持っていた覚せい剤について、逮捕当初は知らない旨述べたが、同月二三日の取り調べ以後は右覚せい剤について前記捜索の直前にM女に預けたものであるとして、M女との共同所持を認める供述に転じ、原審公判廷においてもこれを維持した。
M女は、覚せい剤の自己使用と本件覚せい剤を被告人と共同して所持した事実で起訴され、公判廷でも犯罪事実を認め、懲役二年に処せられ、この裁判は既に確定した。被告人は覚せい剤の自己使用(原判示第二の事実)と本件覚せい剤の共同所持(原判示第三の事実)で起訴され、更にP女との覚せい剤の共同使用(原判示第一の事実)で追起訴されたが、被告人が単独で所持していた前記〇・〇〇八グラムの覚せい剤については公訴提起されなかった。
4 被告人は、原審公判廷においては、起訴された犯罪事実を全て認めていたが、原審で二年六月の懲役刑を宣告されると事実誤認、量刑不当を理由に控訴を申し立て、当審公判廷において、M女の手提げバッグの中にあった覚せい剤について、これはM女が密売人から入手したものであって被告人が入手したものではないこと、平成一〇年三月一八日午前二時ころM女が右覚せい剤を持って被告人方を訪れ、同女が持参した覚せい剤と注射器を使って二人で覚せい剤を注射したが、M女がそのときどれ位の量の覚せい剤を持っていたかは見ていないから判らないこと、捜査段階や原審公判廷で本件覚せい剤は被告人がM女に預けたものである旨供述したのは、かねてM女から覚せい剤を貰って何回か一緒に使用した際、捕まったときにはM女を庇うために覚せい剤は被告人が入手したものであると説明する旨話し合っていたので、右話合いに基づいて本件覚せい剤は被告人のものであり、M女に預けていたものであると供述したが、実際には被告人が本件覚せい剤をM女に預けた事実はないことなどを供述するに至った。
5 一方、M女も、当審公判廷において、手提げバッグの中にあった覚せい剤は同女が平成一〇年三月初めころOという男と一緒に宗像に行って密売人から五グラム五万円で買って来たものの一部であり、被告人から預かったものではないこと、捜査段階から原審公判廷まで右覚せい剤は被告人のものを預かっていたと説明していたのは、平成一〇年一月ころからM女が買った覚せい剤を被告人と一緒に数回使用した際、被告人から、捕まったときには被告人のものであることにすると約束していたからであること、同女は刑務所を出た後も被告人の身の回りの世話をするなど親密な関係を続けていたが、子どものために積み立てていた学資保険から被告人に五〇万円を貸したのに返してくれないことや今回身代わり約束を反故にされたことなどから、被告人と別れる決心をしたことなどを供述した。
6 なお、被告人とM女は、福岡拘置所において、公訴提起された直後の同年四月中旬ころから同年九月ころまで多数の手紙をやり取りした事実が確認されており、その中には、「僕よりも君の刑が軽ければ一応計算通り」(被告人、六月二日)、「Oと付き合うならそれもよし、責めはしませんよ…俺がOをうたってやろうかね」(被告人、同月一一日)、「私がつつみかくさず全部バクロする事で、私の刑がふえる事なく二年のままで終わるのなら何でも言ってやるよ。」(M女、七月八日)、「私の控訴の件は心配しないで下さい。一審で認めたのは私の考えですから。ただ、事実を今さら言っても裁判所はそう見てはくれないでしょう。私が重く貴方が軽かった、それでいいのです。もう一度貴方の刑が重くなる事はありません。」(被告人七月一一日)などの記載がある。
(二)ところで、(1)被告人の捜査段階及び原審公判廷における本件共同所持についての供述内容は、「平成一〇年三月一八日午前二時ころ、M女が被告人方に来て同女から借りた借金の借用書の話をしていたとき、被告人が同女に対し『あるけど、どうするや』と覚せい剤の注射を誘うと同女は『してみようか。』と言ったので、テーブル上の鉛筆立ての中に入れていた覚せい剤と注射器を取り出した。M女がその覚せい剤で二人分の水溶液を作り、二本の注射器に水溶液を入れて準備し、それぞれ自己の腕に注射して使用した。赤いキャップ付きの注射器は私が使い、黄色いキャップ付きのものはM女が使った。同日午前五時ころにも同様にしてそれぞれ覚せい剤を注射した。午前九時前ころ仕事に出掛ける際に、テーブルの上に置いたままになっていた覚せい剤と注射器について、二人で一緒に使うものなのでM女に『持っときい。』と言って持たせた。本件覚せい剤は住吉にあるパチンコ店で知り合った男の携帯電話に連絡して入手したものだが、それ以上のことは話せない。今後は覚せい剤と縁を切り、残りの人生を生きていく所存です。」というのであるが、今後は覚せい剤を絶つ決意をしたと一方では述べながら、入手先、入手後の使用、保管状況について具体的な説明をしていない上、M女に覚せい剤等を預けたというが、同女が覚せい剤等を化粧ポーチと眼鏡ケースの二か所に分けて所持していたことを知らなかったような供述をしているなど、その供述内容には覚せい剤を自ら入手した上M女に預けた者の供述としては不自然な部分があり、また、預けた理由として、二人で一緒に使うものなのでM女に持たせたとか、自分が持っていると覚せい剤を使いすぎるのでM女に預けたとかいうのも理解し難いところであること、(2)原審が証拠としたM女の検察官に対する供述調書の内容は、被告人から「覚せい剤を持っとってくれ。」と言われたので、テーブルの上にあった覚せい剤と注射器を手提げバッグの中にしまったという簡略なものであり、その僅か一通の供述調書しか取り調べられておらず、この供述調書中には右覚せい剤等を何故にM女が預かるようになったか、その経緯、動機、目的等に触れた部分がなく、これまた不自然な内容といわざるを得ないこと、(3)一方、当審におけるM女の覚せい剤の入手先、購入代金などに関する供述は具体的である上、同女の供述内容と当審における被告人の供述は、M女が金を出して覚せい剤を購入し、これを被告人と一緒に使う際、覚せい剤が見つかって捕まったときは被告人のものであると言って被告人がM女を庇う旨の約束ができており、これに基づいて捜査段階及び原審公判廷で供述していた旨概ね符合する供述をしており、拘置所での二人の手紙のやり取りの内容は右供述内容が真実であることを窺わせるものであること、被告人が右約束を反故にしたのは、M女が覚せい剤入手に関与したOを庇う態度を見せたことに立腹したことや、M女の裁判は同女が量刑不当を理由に控訴を申し立てて控訴審に継続しており最早真実を述べてもM女の刑が重くなることはなく、自分の刑が軽くなるだけであることなどが一因となっており、それなりに合理的な事情が窺われること、(4)被告人は収入が少なく生活費にも事欠く状態であったのに対し、M女は正業について収入を得ており、蓄えも有していたことから、覚せい剤の購入資金を有していたことなどにかんがみると、そのころ被告人はP女との覚せい剤使用にからんで自宅が捜索されることを予期して証拠となるような品を他に預けたりしていた事情が窺われる点を考慮しても、なお、本件覚せい剤の所持に関する当審における被告人及びM女の各供述の方がより信用性があるというほかない。
以上に加えて、当審で取り調べたM女の平成一〇年一〇月六日検察官調書(二通)をも総合すれば、M女は、本件覚せい剤を代金五万円で購入し、右入手した覚せい剤を自分で保管していて、被告人と一緒に使用したほか、自分一人で使用したり、Oと一緒に使用するなどしていたことなどが認められ、同女が被告人に対して覚せい剤をOと一緒に買いに行ったことを話し、また、その一部を被告人と一緒に使用した事実があるとしても、被告人が本件覚せい剤の入手、保管、使用に関しそれ以上深くこれらに関与した事実が認められない以上、本件覚せい剤について被告人の事実的支配が及んでいたと見ることは困難であり、被告人がM女と共謀して本件覚せい剤を所持したというには合理的疑いが残るというほかない。
三 してみると、原判決が、犯罪事実の第三として被告人がM女と共謀の上本件覚せい剤を所持した旨認定判示したのは事実を誤認したものであり、この謝りが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、その余の点について判断を加えるまでもなく原判決は破棄を免れず、原判決は原判示犯罪事実第一、第二の各事実と併合して一個の刑を言い渡しているから、結局、その全部を破棄すべきものである。
そこで、刑事訴訟法三九七条一項、三八二条により原判決を破棄し、同法四〇〇条ただし書きにより、当審において被告事件について更に判決する。
原判決の認定した犯罪事実第一及び第二の各事実に、その挙示する罰条を適用し、右各罪は原判示累犯前科(1)(2)との関係で再犯であるから、いずれも刑法五六条一項、五七条により再犯の加重をし、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い右第一の罪の刑に同法一四条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役二年に処し、同法二一条を適用して原審における未決勾留日数中一〇日を右刑に算入し、刑事訴訟法一八一条一項ただし書きにより原審及び当審における訴訟費用の全部を被告人に負担させないこととする。
平成一〇年四月九日付起訴状記載の公訴事実第二の事実(原判示第三の事実)については犯罪の証明がないから、刑事訴訟法三三六条により被告人に対し、無罪の言い渡しをする。
(量刑の理由)
本件は、被告人が、(一)平成一〇年二月一五日ころ、福岡市○○区内のホテルにおいて、P女と共謀の上、覚せい剤水溶液を同女の身体に注射して使用し(原判示第一の事実)、(二)同年三月一八日ころ、福岡市○○区内の被告人方において覚せい剤水溶液を自己の身体に注射して使用した(原判示第二の事実)、といういずれも覚せい剤取締法違反の事案である。
被告人は、〔1〕平成三年一二月九日に覚せい剤取締法違反(自己使用)、銃砲刀剣類所持等取締法違反、火薬類取締法違反の罪で懲役二年、五年間刑執行猶予(平成五年八月一三日執行猶予言渡取消決定)に、〔2〕平成五年二月八日に覚せい剤取締法違反(自己使用、所持)の罪により懲役一年六月に各処せられ、平成八年四月四日右〔1〕の刑を仮出獄してから二年足らずしか経過しないのにまたまた本件各犯行を行うに至ったものである。被告人は、平成一〇年一月ころからM女から時々覚せい剤を貰っては一緒に使用するようになって、前記(二)犯行に至ったものであり、前記(一)の犯行は、被告人がホテルでP女と落ち合って同女に覚せい剤の使用を勧め覚せい剤水溶液を注射してやったところ同女が暴れ出して警察に保護されたことにより発覚したものであって、各犯行の動機、経緯に酌むべき事情はなく、被告人には覚せい剤に対する親和性及び常習性が認められる。被告人は、右覚せい剤事犯の前科のほか、昭和四七年四月一一日に業務上過失傷害、道路交通法違反の罰金一万五〇〇〇円に、昭和五八年七月一一日に出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律違反の罪で懲役八月、三年間刑執行猶予、罰金六〇万円に処せられた前科があり、遵法精神に欠けるところがある。
してみると、被告人は本件を反省し、公判廷において二度と覚せい剤を使用しない旨決意を述べていること、その他、被告人の年齢や健康状態等、被告人のために酌むことができる諸事情を参酌しても、被告人を判示の刑に処するのはやむを得ない。
よって主文のとおり判決する。

平成一〇年一〇月二三日
福岡高等裁判所第二刑事部
裁判長裁判官 神作良二 裁判官 岸和田羊一 裁判官 古川龍一

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