詐欺福岡8

詐欺福岡8

福岡地方裁判所久留米支部/平成11年(わ)第12号

主文
1 被告人p1を懲役4年及び罰金100万円に処する。
2 被告人p1に対し,未決勾留日数中330日をその懲役刑に算入する。
3 被告人p1においてその罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算した期間,同被告人を労役場に留置する。
4 被告人p1に対する別紙「平成15年10月9日付け公訴事実」記載の事実については,同被告人を免訴する。
5 被告人p2を懲役10月に処する。
6 被告人p2に対し,この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。
7 訴訟費用のうち,証人p3及び同p4に支給した分は被告人両名の連帯負担とし,その余は被告人p1の負担とする。

理由
(罪となるべき事実)
第1 被告人p1は,不正に療養給付費用の支払を免れようと企て,真実は,健康保険の適用事業所である佐賀県三養基郡<以下略>所在の株式会社B(以下,「B」という。)に使用されておらず,健康保険被保険者資格を有していないのに,上記Bの代表取締役である被告人p2をして,佐賀社会保険事務所から,被告人p1を被保険者とする健康保険被保険者証の交付を受けさせてこれを取得し,別紙「診療年月日等一覧表」記載のとおり,平成7年10月31日から,平成10年1月30日までの間,前後69回にわたり,福岡県久留米市<以下略>所在のa病院ほか5カ所において,急性腸炎等の診療等を受けた際,その都度各医療機関の担当係員に対し上記被保険者証を提示し,同係員らをして被告人p1が真実健康保険被保険者資格を有するものと誤信させ,よって,その都度その療養給付費用のうち本人負担分をそれぞれ除いた合計金84万2696円の療養給付費用の支払を免れ,もって,同金額相当の財産上不法の利益を得た
第2 被告人p2は,Bの代表取締役であるが,被告人p1が不正に療養給付費用の支払を免れるため,真実は健康保険の適用事業所であるBに使用されておらず,健康保険被保険者資格を有していないのに,佐賀社会保険事務所から,被告人p1を被保険者とする健康保険被保険者証の交付を受けるものであることの事情を知りながら,昭和61年11月ころ,佐賀社会保険事務所に対し,同被告人が上記会社の被用者である旨虚偽の被保険者資格取得届を提出して同事務所から同被告人を被保険者とする健康保険被保険者証の交付を受けてこれを同被告人に取得させ,その後同資格の更新を続けて同被告人が前記第1の犯罪を行うことを容易ならしめ,もって詐欺を幇助した
第3 被告人p1は,無登録で貸金業を営むもの,p5は,福岡県久留米市<以下略>所在の同人方等において,顧客との折衝及び元利金の受領等の業務に従事していたものであるが,上記p5と共謀の上,業として金銭の貸付を行うに当たり,別紙利息受領一覧表1記載のとおり,平成9年12月30日,同市<以下略>所在の株式会社b銀行c支店に開設した上記p5名義の普通預金口座に振込入金させる方法により,Aから法定の1日当たり0.1096パーセントの割合による法定限度利息額8万2200円を41万7800円超える1日当たり約0.6666パーセントの割合による利息50万円を受領した
第4 被告人p1は,Aが3600万円の手形を担保として,同被告人から現金3000万円を借用していたところ,約束の期日に返済しないまま行方をくらましたことから,上記Aの友人であるC(当時38歳)が上記Aの逃走に手を貸したものと邪推し,上記Cから肩代わり名下に金員を喝取しようと企て,平成10年8月31日午後4時10分ころから同日午後5時10分ころまでの間,東京都大田区羽田空港3丁目3番2号所在の東京国際空港西旅客ターミナルビル1階南欧食堂d店内において,上記Cに対し,「Aを出せ。お前が逃がしたんだろう。」「絵を描いたのはお前だな。話ができすぎてるじゃないか。」「Aを出さなかったらケツを拭いてもらう。」「10日間だけ待ってやるから手形を買い戻せ。」「手形を買い戻すかお前のタマを取るか,二つに一つだ。」「うちは必ずやると言ったらやるから。」などと語気鋭く申し向けて金員を要求し,もし要求に応じなければ同人の生命・身体等にいかなる危害をも加えかねない気勢を示して同人を畏怖させたが,同人が警察に届け出たため,その目的を遂げなかった
第5 被告人p1は,暴力団e会二代目f組g組組長であるが,暴力団e会二代目f組h組組長p6が,福岡県久留米市内で店舗型性風俗特殊営業店を経営するD(当時49歳)からみかじめ料名下に金員の交付を受け,更に同人に毎月30万円の金員を交付することを約束させたことを聞知するや,同人から出資の配当金名下に金員を喝取しようと企て,平成13年8月21日午後2時30分ころ,同市<以下略>暴力団e会二代目f組事務所において,同人に対し,「毎月の30万円はいらん。その代わり700万円出資するから共同経営の取り分として,毎月その出資金の2割の配当金をくれ。決めるのはトップであるあんたやろうが,この場で返事をしてくれ。断るなら断ってもいいよ。その代わり断ったら久留米の店を撤退してもらわないかん。」などと語気鋭く申し向け,金員の交付を要求し,上記要求に応じなければ同人の生命,身体及び同人経営の上記店舗等にいかなる危害をも加えかねない気勢を示して脅迫し,その旨同人を畏怖させ,配当金名下に毎月140万円を支払う旨の約束をさせたが,同人が警察に届け出たため,その目的を遂げなかった
ものである。
(証拠の標目)(省略)
(事実認定の補足説明及び一部免訴の理由)
第1 判示第1(詐欺)及び第2(詐欺幇助)について
 
被告人p1及び被告人p2の各弁護人は,(1)被告人p1はBの顧客獲得等の行為をしており,Bは昭和60年6月ころから被告人p1に毎月定額の給料を支払い,○○○所在の家屋を社宅として使用させ,被告人p1の妻を同被告人に代わって社員旅行に連れて行くなどしていたもので,被告人p1はBの従業員としての実体があり,被保険者資格を有していたものであるから,詐欺罪に該当しない,(2)仮に,客観的に見て被告人p1が被保険者としての資格を有しなかったとしても,被告人p1及び被告人p2は,被告人p1がBの従業員であり被保険者資格を有するものと思っていたものであるから事実の錯誤があり,この錯誤は詐欺の故意を阻却する,したがって,被告人p1には詐欺の故意が無く,被告人p2には詐欺幇助の故意がない,旨主張して被告人両名は無罪であると主張するので検討する。
1 前提となる事実
 
関係証拠によれば,以下の事実が認められる。
(1)健康保険制度は,被保険者の業務外の事由による疾病,負傷や分娩及び死亡等の保険事故に対して療養の給付を行うほか,被保険者の被扶養者の疾病・負傷・分娩及び死亡等の保険事故に対しても給付を行い,被保険者及びその家族の生活の安定を図ることを目的とし,健康保険法(平成14年法律第102号による改正前のもの。以下同じ)13条に該当する「事業所ニ使用セラルル者」は健康保険の被保険者となる。
 
同法適用事業所の事業主は,当該事業所を管轄する社会保険事務所に対して,雇用する従業員等についての被保険者資格取得届を提出する。そして,社会保険事務所は,同届出内容を審査し,資格があると認めれば,当該従業員に対し,事業所を経由して被保険者証を交付する。
 
被保険者資格が取得された場合,事業主及び被保険者は,保険料を保険者である国に納める義務を負う。他方,被保険者は,保険医療機関で受診する際,被保険者証を同機関の窓口に提示すれば,保険診療を受けることができ,その際,被保険者本人は診療費の一部を支払えば足りる(昭和59年10月1日から平成9年8月31日までは1割負担,同年9月1日以降は2割負担であった。)。
(2)被告人p2は,昭和50年ころに「E」の屋号で音響機器等のリース業等を行っていたところ,昭和60年12月に株式会社とし,その代表取締役となった。そして,法人化に伴い,社会保険適用事業所の認定申請を行い,昭和61年10月になって認定され,当時の従業員は昭和61年10月1日付で被保険者資格を取得した。
(3)Bの一般の従業員は,選考試験を経て採用され,氏名は社員名簿に登載され,担当事務が割り当てられて事務分掌表に記載され,同社の事務所において机を有し,就業規則に従って出勤し,営業活動等の労務に従事し,出退勤時にはタイムカードを通すことで労働時間が把握される。また,従業員の給与は,基本給を基礎として実績等を考慮して定められ,毎月給料日に給与支給明細書が交付されて支給され,通常は賞与も支給される。支給を受ける際には,原則として給与受領認一覧に各自が押印する。そして,就業規則56条には,「刑事事件に関し有罪の判決を受けたときは,懲戒解雇に処する。ただし,情状によっては通常の解雇または減給もしくは出勤停止にとどめることがある。」との定めがある。
(4)被告人p2は,久留米市の飲食店にもカラオケリースの営業を拡張したいと考えていたところ,昭和58,9年ころ,知人から暴力団堤組幹部であった被告人p1を久留米市の繁華街にあるクラブやスナックに顔が利く人として紹介されて知り合い,以後同被告人からクラブやスナック等カラオケ機械のリース先を紹介してもらうなどして親しくつき合うようになった。
 
被告人p1は,無職の暴力団員であったところ,昭和60年8月12日に妻p7と婚姻し(同女は同年7月29日に長女p8を出産している。),p7は,久留米市役所に行ったが健康保険証の交付を受けることができず,同所において職員から生活保護の受給を勧められたことから,被告人p1に対し「保険証がもらえなくて困っている。」と言った。

(5)Bの経理部長で被告人p2の妻であるp4は,昭和61年10月1日に被保険者資格を取得した後ころ,被告人p2から,被告人p1の氏名と生年月日を書いた紙を渡され,「この人の保険証を交付してもらえるように手続をしておいてくれ。給料は基本給15万円と家族手当1万5000円で届けておいてくれ。」と指示されたので,社会保険事務所に提出する書類を作成して保険証の交付申請を行った。
 
その結果,被告人p1は,昭和61年11月1日に,佐賀社会保険事務所においてBに使用される者として被保険者資格を取得した。なお,この際に交付された被保険者証は,その後更新されている。
(6)被告人p1は,Bの従業員の就業場所である事務所に就業規則の定める勤務時間に出勤したことはなく,タイムカードはなく,社員名簿・事務分掌表や給与受領認一覧表に氏名が記載されておらず,事務所に被告人p1用の机もなく,被告人p2と妻を除いてBの従業員は被告人p1の名前さえ知らない。
 
そして,被告人p1は,昭和61年12月に暴力団組織間の抗争に関連する殺人被疑事件で逮捕され,殺人幇助の罪で懲役8年の判決を受けて平成7年10月19日まで服役した。
(7)p4は,昭和63年12月ころから平成7年12月ころまでの間,被告人p1の妻p7名義の銀行預金口座に,被告人p2から指示されたときに指示された金額をそれぞれ振り込んで入金した。
(8)被告人p1は,本件被保険者証を使用し,別紙診療年月日等一覧表記載のとおり,a病院,i耳鼻咽喉科医院,j医院及びk歯科医院において診療を受け,l調剤薬局及びm薬局において調剤を受け,いずれについても一部負担金のみを支払った。
2 検討
(1)健康保険法13条の「事業所ニ使用セラルル者」とは,「当該事業所の事業主の人事管理下にあって,事業主のために労務を提供し,その対価として報酬の支払を受けている者をいう。」(福岡高等裁判所昭和61年2月13日判決参照)と解されるところ,これに該当しないにもかかわらず社会保険事務所に被保険者資格取得届を提出し,同事務所から被保険者証の交付を受け,これを保険医療機関に提示して一部負担金のみの支払で診療ないし調剤を受ける行為は,支払を免れた部分について詐欺罪を構成するものである。

(2)そこで,被告人p1が同条の「事業所ニ使用セラルル者」に該るか否かを検討する。
ア 同被告人は,前記認定のように,就業場所に就業時間に出勤したことはないこと,社員名簿一覧表・事務分掌表・給与受領認一覧等の重要な書面に氏名が記載されていないこと,タイムカードがなく,労働時間の管理が一切なされていないこと,事務所において机も有しておらず,ほとんどの従業員が被告人p1の存在を知らないこと,前記のとおり犯罪を犯して有罪判決を受け刑務所に服役したにもかかわらずBから懲戒処分は何らなされていないこと等に照らせば,被告人p1がBの人事管理下にあったとは到底いえない。
イ 次に,被告人p1は,久留米市内のクラブやスナックにおいて,経営者等に対し,カラオケ機械のリース契約をBと結ぶよう口を利き,実際に契約締結まで至ったケースも見受けられるところである。
 
しかしながら,被告人p1の給与とされる金員の額は,一定量の労働力の提供や営業成績のよしあしを反映したものとはいい難い上,被告人p1は,一定時間出勤して使用者の指揮命令のもとに拘束を受けることもなく,また,上記服役中には何ら労務を提供していないにもかかわらず,妻p7名義の口座に対しBや被告人p2の名義で,必ずしも毎月決まった日でなく,また金額にも変動があるような送金が継続されていることも勘案すると,被告人p1が受けた金銭は,定量の労務提供に見合う対価としての賃金とは到底認め難いというべきである。
ウ 関係証拠によれば,本件の被告人p1と被告人p2の間は,両被告人間の個人的な人間関係に基づく相互協力関係というべきものであって,健康保険法が予定する使用者対被用者の労働契約を前提とする使用従属関係に基づく社会保険制度とは全く実体を異にするものというべきである。
エ 被告人らは,被告人p1は昭和60年5月ころ被告人p2と話し合って社員となり,同年7月ころから毎月給料として受領してきた,被告人p2は,被告人p1は特別社員であるから表に出さなかった,服役中に支払ったのは契約締結の効果が服役中も持続していた,あるいは被告人p1の配下の者も営業努力をなしたため支払を続けたなどと述べるが,いずれも実体に沿わない弁解にすぎない。
(3)このように,被告人p1には,Bにおいて従業員としての稼働の実体がないというほかなく,「事業所ニ使用セラルル者」には該当しないので,本来は社会保険の被保険者証の交付を受けることができないものである。
(4)そして,被告人両名は,被告人p1には前記のとおり被用者としての稼働の実体がないことについて認識をしていたものであるから,この点について事実の錯誤はなく,被告人両名とも,被告人p1に社会保険被保険者の資格がないことは認識していたものと認められる。また,被告人p2の本件に至るまでの事業経営者としての長年の社会経験と実績,被告人p1が本件当時暴力団員として無為徒食の生活を送っていたもののそれなりの社会経験を積んできたものであることに照らし,社会保険被保険者としての労働の実体のない者がそれをあるかのように装って社会保険事務所から被保険者証を取得したからといって適法な資格者となるものではないことは十分理解できたものと思われる。そうすると,被告人両名は,被告人p1には同法13条の被保険者資格がないことを知りながら,社会保険事務所に虚偽の申請を行って被告人p1に被保険者資格を得させ,その保険証を使って被告人p1が医療機関で診療を受ければ安い負担金で診療を受けることができる結果,無資格者が本来負担すべき額との差額分の負担を欺罔して免れることになることもまた認識していたものと認められる。
 
したがって,被告人p1には詐欺の故意が,被告人p2には詐欺の幇助の意思が、それぞれあったのも明らかである。
3 小括
 
以上のとおりであり,被告人両名には弁護人が主張するような錯誤はなく,詐欺または詐欺幇助の故意も認められるので,被告人p1について判示第1のとおり詐欺罪が,被告人p2について判示第2のとおり同罪の幇助がそれぞれ成立する。 
第2 判示第3(出資法違反)について
 
被告人p1は,業として貸金業を営むものではない,また,カジノだけで通用するチップを貸していたもので現金を貸し付けたものではない旨述べ,弁護人も同旨を主張するので,検討する。
1 業務性についてみるに,出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律(平成11年12月17日法律第155号による改正前のもの。以下,これをもって単に「出資法」という。)5条2項の「業として」とは,社会生活上の地位に基づいて反復継続してなすことをいうと解されるところ,A,p5及び被告人p1の供述等に照らせば,同被告人は反復継続して貸付を行っていたことが認められるので,本件を業として行ったことは明らかである。
2 また,カジノでは現金の代わりに,現金と同じ価値を持つチップが賭客に交付され,賭博行為に使用されており,チップは現金同様の価値と効用をもって流通していたものであるから,チップの貸付は現金の貸付と同視しうるものである。
3 したがって,被告人p1及び弁護人の主張はいずれも理由がない。
第3 判示第4(Cに対する恐喝未遂)について
 
被告人p1は,Cを脅したり,金品を要求したことは一切ない旨供述し,弁護人らもこれに沿って無罪を主張するので,検討する。
1 前提となる事実
 
関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。
(1)本件当時,Aは,建築請負等を目的とする株式会社F(以下,「F」という。)の代表取締役,Cは,建築請負等を目的とするG株式会社(以下,「G」という。)の代表取締役,被告人p1は暴力団e会f組の若頭で,判示第3のとおり,p5とともに韓国の済州島において遊客に対し賭博のための資金の貸付をしていたもの,株式会社H(以下「H」という。)及び株式会社I(以下,「I」という。)は,いずれもFの取引先であった。
(2)Cは,平成9年4月ころ,済州島のグランドホテル内のパラダイスカジノにおいて,被告人p1と知り合った。
 
Aは,平成9年3月ころ,横浜市内でバカラ賭博をして警察に逮捕され,その際同様に逮捕されたCと知合い,同人に誘われて平成10年5月ころ済州島のカジノに行き,2,3か月後に同被告人と知り合い,賭博に負けた際に借金をし,その都度支払っていたが,同年7月中旬ころ同被告人から300万円を借りていた。
 
Aは,Cとともに賭博のためフィリピンに出かけたところ,負けたためCから1600万円借金し,F振出の約束手形(以下,「手形」はすべて約束手形を指す。)を交付したが支払うあてがなかったので,同年8月7日ころ久留米に来て被告人p1に対し借金を依頼したところ,同被告人はこれを了承してAに対し3000万円を貸し渡し,同人は額面合計3600万円のF振出の手形10通(300万円のもの7通,500万円のもの3通,支払期日はいずれも同年9月5日)を同被告人に交付した。
 
Aは3000万円を受け取ると神奈川に戻り,同日(同年8月7日)夕方,1600万円をCに返済した。
 
Aは,8月8日ころから再び賭博のためフィリピンに行ったが負け,Cから2500万円を借金し,同人に対し額面合計2000万円のF振出の手形2通(1500万円のもの1通,500万円のもの1通,支払期日はいずれも同月20日)を交付した。
 
Aは,上記2通の手形が取立てに回されたことを知り,不渡りが出ると街金融の追い込みが来ると思い,従業員には自宅待機を,家族には妻の実家に身を寄せることを指示して,同月20日に護身用の散弾銃を持って姿をくらましたところ,Cから,手形はCが保証してジャンプさせたので大丈夫だと告げられたため姿を現し,同月21日夕方にみなとみらいのランドマークタワー近くにあるレストランでCと会い,Aが済州島のカジノにF名義の手形を持ち込んで金貸しから借金して金策することなどを話し合った。
 
Aは,同月22日にFから手形用紙10枚を持ち出して同月23日からCとともに済州島のカジノに行き,上記金策には成功しなかったものの,賭博で勝ち,720万円をCに対する前記2500万円の借金の返済に充てた。
 
AとCは,同月25日に,○○駅西口nホテルの喫茶店で,状況把握のため被告人p1から派遣されてきたp5らと会い,その際,Aは,被告人p1に対してはHに対する請負代金債権を回収して支払う旨説明したが,Cからの借金残額があることは話さなかった。

 その後Aは,2度にわたりHの社長であるJ(以下,「J」という。)と会って請負代金4800万円の支払手形を支払期日の9月1日より1日早めて8月31日に交付するよう依頼したが,同人から下請に支払う額を控除した残額を支払うと回答され,その了承を得られなかった。
 
Cは,Aを連れて同月29日に再び済州島に行き,そこで被告人p1と会って話し合った結果,同被告人においてH振出の上記手形を割り引き,万一に備えてCも裏書をした上で現金化し,これを同被告人とCとの間で折半することで合意したが,そのときAは,Hが手形を8月31日に交付することを拒否していることを被告人p1に話さなかった。
 
Aは帰国し,再度Jと会って同月31日までに当該手形を交付してほしい旨依頼したが,やはり断られたため,被告人p1やCとの合意が履行できなくなったことから,再び姿をくらました。
(3)被告人p1は,同月31日朝,手形受領のためp5らを上京させたが,Aの行方が分からなかったことから,自ら上京することとし,同日,福岡空港午後2時30分発の飛行機に乗り,羽田空港に向かった。
 
Cが羽田空港西旅客ターミナルビル1階南欧食堂d(以下,「d」という。)において待っていたところ,同日午後4時10分ころ被告人p1が来て,同所において,両名は,同日午後5時10分ころまで話をした。その際,Cは,柿本なる人物の名前と電話番号を記載したナプキンを同被告人に手渡した。
(4)Cは,同年9月2日ころ戸塚警察署に相談に行き,その後被告人から脅された旨被害申告をし,被告人p1は同月11日に逮捕された。
 
Fは,Hに対し,同月14日付の内容証明郵便で同社に対する請負代金債権を被告人p1に譲渡した旨通知し(弁33),また,Fは,H及びIに対し,いずれも同年10月7日付の内容証明郵便で各社に対する請負代金債権をG及びKに譲渡した旨並びに前記被告人p1に対する債権譲渡は無効である旨を併せて通知した(弁34ないし37)。その後,Gらは,FのHに対する請負代金債権の仮差押えをなし,手形訴訟を提起して勝訴判決を得て,これに基づいてFのIに対する請負代金債権を差し押さえた。
(5)Cが警察に対して提出したマイクロカセットテープ(平成11年押第15号の1。以下,「本件テープ」という。)には,被告人p1との会話(以下,「第1会話」という。)及びp5との会話(以下,「第2会話」という。)等が録音されているところ,その内容は,おおむね以下のとおりである。
ア 第1会話
(Cがdで被告人p1と別れ自動車で辰巳パーキングへ行き停車中に被告人p1から携帯電話に架かってきた通話を携帯電話の録音機能で録音し,その内容をマイクロカセットテープに再録音したもの。)
被告人p1「うちのこと知らん顔するか,ケツ拭くか,もうおたくがよう考えてあれせんですか。はい。うちは必ずやりますけん。はい,それだけは忘れんといてください。」
イ 第2会話
(9月1日にp5からCに対し,被告人p1の伝言として架かってきた内容につき,同日か翌日にCがp5に電話を架けてその内容を確認したときの通話を,Cがテープレコーダーを耳元につけてp5の話を直接録音したもの。)
C「もしもし,Cです。もしもし,p5さん,ちょっと違うな。」
p5「p5ですよ。」
C「さっきの話さ,○ちゃんもそう思ってんの。」
p5「自分は,正直なところ,最初は,そうかなと思っちょっとですよ。まあ,あれだけ,ねえ,正直なところ半信半疑とですよ。」
C「半信半疑ね,分かった。」
p5「でも自分はまだ,C社長を信じてる。後は,会うだけ,あっちこっちする必要ないですけんね,正直なところ,知らないっち,一言・・・まず自分たちとしては,全然・・・

C「分かった。p1さんの伝言なんでしょう。紙か何か読んでたみたいだけど。もう一度言ってくれる,それで俺,自分で考えるから。」
p5「あそーですか。週明けまでにAさんの手形を買い戻しに来い,と。」
C「p1さんの言ったとおり,言ってよ。」
p5「あとは,さっき言ったとおりです。これは,何べんも言いたくないことやけんですよ。社長に対して,そりゃー,向こうで,空港で直接話しているから,社長と話しているから・・・は社長に対してですね,言いたいことはないですよ。」
C「何年経っても玉を取るって,そんなこと本当に言ったの,ね。」
p5「言うたとおりです。そげな話だったでしょう,空港で。」
C「うん,空港でも玉を取るという話だよね,買い戻さなければね。要するに,全部自分がやったんだろうということだよ。俺がやったんだろう,って。そうじゃないんだよ。でも聞かないんだもの。」
p5「電話が入ったもんで。」
C「はい分かりました。」
2 Cの供述
(1)内容
 
Cは,被害状況として,大要,以下のとおり供述している。
ア 被告人p1は,dにおいて私に対し,「Aを出せ。お前が逃がしたんだろう。絵を描いたのはお前だな。話ができすぎてるじゃないか。」,「Aを出さなかったらケツを拭いてもらう。」,「10日間だけ待ってやる。手形を買い戻すか,おまえの玉をとるか,2つに1つだ。」「うちは必ずやると言ったらやるから。」とドスのきいた声で言った。そのため,私は非常に怖かった。
イ このとき私は,「私が逃がしたんじゃない。」と言ったが,被告人p1は聞いてくれなかった。私は,「逃がしたとしたら柿内の可能性が高い。」と言った。
(2)信用性の検討
ア 上記のdにおける被害状況についてのCの供述内容は脅迫文言も印象的で具体性があり,臨場感もあるところ,内容的に格別不自然不合理な部分は見受けられない。そして,自己がAを逃がしたわけではないと弁明したというくだりは,柿内なる人物の名前と電話番号を書いたナプキンを被告人p1に交付した事実とも符合する。また,被告人p1自身,「Cちゃん,あんたが絵を描いて逃がしたんじゃないか。はっきり言うてそれならあんた許さんよ。」,「(Cから,Aの妻から債権譲渡してもらってはどうかと提案されて)Cちゃん,他人事じゃないだろう。何もかもおれにさせるんか。自分のことくらい自分でもう少しケツ拭いてくれよ。」,「(Aに対する債権回収を指して)俺は絶対この回収だけはやるよ。」と言ったことについては自認しているところであり,文脈は異なるものの文言としては符合している箇所もある。
イ 次に,dでのやりとりに至る経緯をみるに,被告人p1とC及びAの間において,平成10年8月29日に済州島で話し合った段階で,同被告人が,FがHに対して有する請負代金債権にかかるH振出の手形を8月31日に受け取り,それを割り引いてCと折半する旨の合意が成立していたのであるから,同被告人としては,上記手形を入手することが債権回収の担保として最も重要な関心事であり,CとAが被告人と別れて2人で東京に帰った後にAが行方不明になったとの報告に接したとき,「Cが,被告人への支払を妨害するためにHの手形を持ったAを逃がしたのではないか。」と疑って立腹したということは自然である。
 
また,「ケツを拭いてもらう」という文言については,借金を抱えたまま行方不明になったAの件について,敢えて同人を逃がしたと疑っているCに経済的な責任を取らせることにして被告人p1がAから交付を受けていた額面3600万円の手形の買い戻しを要求したということも自然で首肯しうるものである。
ウ(ア)本件テープの録音内容は前記のとおりであるところ,第1会話は,dで別れたすぐ後に被告人p1がCの携帯電話に架けたときの通話であり,被告人の口調が早口で厳しい口調であって,dでの会談の雰囲気が緊張したものであったことを窺わせ,また,その内容も前記のとおりであって,Cに対して決断を迫るものであることに照らせば,Cのdにおける被害状況に関する供述内容とも符合するものである。
(イ)また,第2会話をみるに,Cがp5に対して被告人p1からの伝言を再確認したい旨告げたところ,p5は「週明けまでにAさんの手形を買い戻しに来い。」と明言し,また,Cが,被告人p1が「何年経っても玉を取る」と本当に言ったのか尋ねたところ,p5は否定することなく「言うたとおりです。そげな話だったでしょう,空港で。」と返答しているのであり,この第2会話も,被害状況に関するCの供述を裏付ける内容と認められる。
 
なお,弁護人らは,本件第2会話のテープは編集がなされている可能性があるから証拠能力がなく,仮にこれを認めうるとしても証明力は皆無である旨主張するところ,証拠上,第2会話のテープにつき編集可能性がなかったと断定することはできないが,第2会話について声の主がCとp5であることは明らかであること,その録音内容は会話の流れとしておおむね自然なものであること,Cはテープに特に手を加えることはしていないと述べていること,p9が編集可能性ありと指摘する箇所については,いずれも編集により被告人p1に不利益な内容に改ざんされたとは認め難いことなどに照らし,会話内容の本質的な部分に編集がなされたものとは認め難いというべきであるから,証拠能力が認められ,証明力も有するものである。
エ 次に,Cは,事件の2日後である同年9月2日に戸塚警察署に本件被害につき相談に行っており,恐喝未遂の被害を受けた者の行動として自然なものと評価できる。
オ なお,Gらは,被告人p1が逮捕された後,FからH及びIに対する各債権の譲渡を受け(譲渡通知書には被告人p1への債権譲渡の効力を否定する趣旨の文言も記載されている。),上記手形に基づいてFの有する債権の仮差押えを申し立てた上,手形訴訟を提起し勝訴判決に基づいて債権を差し押さえており,その結果,被告人p1のAからの債権回収が困難になった事情も認められるが,これらの行動をもってCの供述の信用性を大きく減殺するものとまでは認め難い。また,CがAの有する債権を一人占めするために被告人p1を排除すべく虚言を弄して逮捕勾留させたというのも,証拠に基づかない推測を述べるにすぎないものである。
カ 小括
 
以上のとおり,Cの被害状況に関する供述は,内容が具体的で合理性があること,被告人との関係や従前の経緯,爾後の状況に照らして自然であること,本件テープの録音内容とも整合性があることなどに照らし,十分信用できると考えられる。
3 被告人p1の供述
(1)内容
 
被告人p1は,大要,以下のとおり供述している。
ア dにおいて,私が「どうなっとっと。Cちゃん,あんたが絵を描いて逃がしたんじゃないと。はっきり言うてそれならあんた許さんよ。誰が考えてもおかしいよ。」などと言ったところ,Cは,「○○ちゃん,おれを疑うの。それならおれも協力できないよ。Aちゃんが出てきておれが関係ないと分かったら,○○ちゃんどう責任取るの。」と切り返してきたので,ちょっと言いすぎたなと思った。
イ そこで私は,話題をすり替えるべく,「分かった。今後どうする。」と言ったところ,Cは,「実はAの奥さんが印鑑とか何とか全部もっているんだ。だから,○○ちゃんが行ってAの奥さんから請負代金債権を譲渡してもらいなよ。」と答えた。私は,「それは無理だよ。通用しないよ。まして俺には肩書があるだろう。Cちゃん,他人事じゃないだろう。あんたが動いてくれよ。協力とはそういうことだよ。何もかもおれにさせるんか。自分のことくらい自分でもう少しケツ拭いてくれよ。」と言った。
ウ また,Cは,「Aの奥さんと親しい人間でp10という男がいる。そいつがいろいろ会社の売掛金とか隠そうとしているんだよ。○○ちゃん,1回電話かけて言ってやってよ。こいつがいろいろ裏でしてるみたいなんだよな。」と言って,ナプキンにp10という名前や電話番号を書いて私に手渡した。
エ なお,私は,話の途中で,「おれ,Aは許せないよ。俺は絶対この回収だけはやるよ。Aに対して許せないよ。」とは言った。
(2)信用性の検討
 
被告人p1は,「ケツ拭く」の具体的内容について,要するにC自身の債権回収でもあるのだから積極的に動いてくれという趣旨であったと説明するが,同文言が世上用いられる場合の一般的な意味としては「(不始末の)責任をとる」という趣旨と通常解されるのであって,被告人の説明は内容的に適合しない上,本件テープの第1会話及び第2会話の内容は前記のとおりであって,被告人の供述内容はその会話内容とも適合しない。
 
したがって,dでのやりとりに関する被告人の供述は,信用することができない。
4 小括
 
以上のとおり,Cの被害状況に関する供述は十分信用することができ,他方,被告人p1の弁解は信用することができないので,判示第4のとおり,恐喝未遂が成立すると認められる。
第4 判示第5(Dに対する恐喝未遂)について
 
被告人p1は,判示の日時場所においてDと会ったことは認めるも,商談をしただけであって何ら脅迫はしていない旨述べ,弁護人らもこれに沿って無罪を主張するので,検討する。
1 前提となる事実
 
関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。
(1)Dは,店舗型性風俗特殊営業店(ファッションヘルス)の経営を内容とする有限会社L(代表取締役・M)の取締役である。同社の本部事業部はMが統括し,○○事業部はDが統括している。○○事業部は久留米の2店舗(久留米市○○○にあるN及びNpart〈2〉)と唐津の1店舗を担当する。
 
また,Dは,有限会社Lと同じ場所に事務所を置くO有限会社(代表取締役・P)も事実上経営している。(D尋問調書)
(2)e会は,福岡県久留米市を本拠とする暴力団組織(会長・p11)で,二代目f組は最大の直系組織である。二代目f組は,組長が○○ことp12,若頭がp13である。p6はf組長の舎弟であるとともにh組組長,被告人p1はf組若頭補佐であるとともにg組組長,p14は堤の舎弟であるとともにo組組長である。(乙49)
 
e会二代目f組事務所(以下,「f組事務所」という。)は,久留米市<以下略>所在の鉄骨造陸屋根2階建ての建物である。玄関を入るとすぐにe会の代紋が掲げられ,1階には大広間,階段から2階に上がると応接室があり,その内部には代紋,心訓,肖像画等がある。(甲73)
(3)p6は,平成13年7月19日に福岡県大野城市○○○にあるq○○店においてDと会ってみかじめ料を要求したところ,Dからいったん断られたことから,「そんなら久留米の店を閉めて,撤退せないかんでしょうもん。」,「この話は,h組だけの話じゃない。会全体の話になっているので,はいそうですかでは帰れない。私1人が捕まっても,会には1300人いる。」などと言って脅した。すると,Dは畏怖して「分かりました。これからの付き合いでいいですか。」と言ったところ,p6は,開店当初に遡ってみかじめ料を払うよう申し向け,最終的には,過去の分として200万円を,毎月の分として30万円を支払うこととなった。(D尋問調書,甲78)
 
Dは,事務員に指示して同年8月1日にr銀行s支店の有限会社L○○事業部名義の口座から150万円,同月2日に同支店のO有限会社名義の口座から150万円を引き出し,同月3日に,上記q○○店において200万円をp6に支払った。(甲88,78)
(4)Dは,同月21日,f組事務所2階の応接室において,被告人p1と2時間程話をした。(争いがない。)
(5)Dは警察に出頭して,同年9月4日に被害届を提出した。(争いがない。)
2 Dの供述
(1)内容は,大要,以下のとおりである。
ア 平成13年8月21日ころ,p6から,「久留米で会わしたい人がおるから来てくれ。」との連絡がDのもとに入り,迎えの男が来た。Pが運転する車の助手席に乗り,その迎えの男の運転する車についていき,同日午後2時すぎころ,f組事務所に至った。Pに対し車内で待つよう指示し,D自身は2階の応接室に通された。そこには被告人p1とp6がおり,p6は被告人p1を紹介して階段を下りた。
イ 被告人p1は,最初に,「毎月の30万は要らん。1000万出すから共同経営者にしてくれ。出資の2割を毎月くれ。」と言ったが,法外な要求だと思い,とても払えない旨話した。すると被告人p1は,「1000万で久留米で店をやればよかろうが。久留米でも無許可でやっている店が多いから,そういったものをすればよかろうが。」,「今度,ホテルを競売で落とすから,そこの中に入って出張ヘルスでもすりゃよかろうが。」などと言った。暴力団と組んだら最後は会社を全部取られてしまうので,とにかく断って事務所を早く出ようと考え,「部下とも相談しますのでちょっと待ってください。」などと言うと,被告人p1は,「決めるのはトップであるあんたやろうが。この場で返事してくれ。」,「断るんやったら断ってもいい。その代わり,断ったら久留米の店を撤退してもらわないかん。」と言った。
ウ その言葉を聞いて,もし被告人p1の要求を断ったら店や従業員に危害が加えられるのではないかと考え,「500万にできませんか。」と話したところ,被告人p1は,「700万でよかたい。」と言ったので,承諾する旨返事をすると,被告人p1は,700万円は8月末に持っていくと言った。同日午後4時半くらいに解放され,組事務所を出てPの車に乗り込んで会社に戻った。
エ 被告人p1から出資金を受け取ったら取り返しがつかないと思い,親類が事故に遭ったため病院に行かなければならない旨嘘をついて700万円の受領を引き延ばし,同年9月4日に電話を入れる旨申し入れ,同月3日に久留米警察署に出頭し,被害にあった旨警察官に述べたところ,その話は断るように指導を受けたため,被告人p1に対し,「お断りします。警察にも相談しました。」と告げた。その際,被告人p1は,「あんたが約束したことやろうが。久留米から出て行ってもらわないかん。」と言った。
(2)信用性の検討
 
Dの供述は,p6から脅されてみかじめ料を支払うようになったことや本件でp6から呼び出しを受けて組事務所に至るまでの経緯,同所での被告人p1とのやりとり,解放された後の状況等についていずれも具体的かつ詳細で臨場感のあるものであるところ,被告人p1と会う前にp6にこれまでのみかじめ料として200万円を支払い,更に毎月30万円のみかじめ料を要求されていたことはp6の供述とも符合し,本件の被害状況についてDから話を聞いたP及びQの各供述ともほぼ合致している。そして,Dが早い段階で警察に相談した上被害申告をしていることは,暴力団からみかじめ料を脅し取られそうになった者が採る態度として自然なものである。さらに,そもそもDは風俗店を経営する者であって,暴力団からの圧力に対して不安ないし恐怖を感じる立場にあるのであるから,虚偽の話をでっち上げて暴力団組長である被告人をあえて罪に陥れるとは考え難い。
 
したがって,本件被害状況に関するDの供述は十分信用できるものである。
 
なお,上記のやりとりの時間並びにD及び被告人p1の供述内容等に照らすと,ある程度の雑談がなされたことが推認されるところ、Dがその内容についてはっきり憶えていない部分がある旨供述していることについては,場所が組事務所の応接室で,暴力団組長と1対1という状況で恐怖心を抱き,しかも,高額の配当を要求されて大変に困惑した場面であり,一刻も早く同所を立ち去りたかったというDの心情は十分理解できるものであるから,Dが上記雑談の内容を十分記憶していなかったとしても,これをもって直ちに本件犯罪の枢要部に関する供述の信用性を減殺する事情になるとは認め難い。
3 被告人p1の供述
(1)内容は,大要,以下のとおりである。 
ア 平成13年8月21日正午前後にf組事務所に行き,当番者であったp6と「不景気でもいいのは博打とか風俗だろう。」などといった雑談をし,同人に対し,風俗の仕事をやってみたい旨話した。すると,p6が,「それは手掛けた方がいいでしょう。よければ,今日会う予定の知り合いがおりますから紹介しましょうか。」と言ってきたので,お願いしますと答えた。
イ 同日午後2時ころ,f組事務所2階の応接室でp6からDを紹介された。しばらくしてp6は部屋を出たので,私は,Dに対し,久留米市内のホテルを競売で落とし,その中に出張ヘルスの拠点を置き,女性を部屋に派遣するというタイプの営業方法について話したところ,Dは乗り気になり,積極的に話しかけてきた。また,Dは,今後,会社とは別の名義で無許可店舗を増やすつもりであると言ったので,私は,その際は経営に参加させてほしい,開店の資金は1000万でも2000万でも出すと話した。Dは,「1000万も2000万もいらんですよ。経費を差し引いて折半でどうですか。」と言ってきた。私は,経営に関わりたくなかったのでこれを断り,「私の出資金に対して何パーセントくらいなら配当をいただけますか。」と尋ねたところ,Dは,「20パーセントならできますよ。」と答えた。出資金については,Dが計算して,700万という数字を出した。
 
なお,Dは,私に対し,「このお金はお借りするんじゃないから,店を閉めたときにはお返しできませんよ。借用書は一切書きませんよ。」と念を押した。
ウ その日はDと商談をしただけで,Dにみかじめ料を要求したり,断ったら久留米の店を撤退してもらうなどと脅したことはない。
(2)信用性の検討
 
被告人p1は捜査段階から一貫して上記の趣旨を述べるものである。しかしながら,そもそも被告人とDとは当日初対面であったし,Dは当日p6から呼び出されて月末に支払う30万円のみかじめ料の話かと思ってf組事務所に出向いたものであり,数百万円のまとまった資金を投入して店舗を拡張するという具体的な計画は考えていなかったものであるし,また,資力においても,暴力団組長から融資を受ける程困窮していた事情もなかったものであることなどからしても,僅か2時間程度という短い時間で被告人が700万円を出資して事業を拡張し,月々2割の配当をDが支払う旨の具体的な合意が成立したということ自体が不自然である。
 
また,被告人p1の供述どおりであれば,お互いにとって利益となる合意が形成されたのであるからDが警察に出頭して被害申告することは考え難いし,被告人p1が述べる如くDが無許可店舗を増やす意向だったのであれば,なおさら警察に相談することなどは考え難いものである。また,「競落したホテルを利用した出張ヘルスにDが乗り気になってきた」という点についても,長年風俗関係の業務に携わってきたDは,ホテルで出張ヘルスをやる場合は届出で済むことは既に知っていたことに照らしても,不自然である。
 
このように,被告人p1の供述内容は不自然,不合理なものであって到底信用することはできない。
4 小括
 
したがって,信用できるD供述によれば判示のとおりの事実を認定することができるので,被告人p1は恐喝未遂の罪責を負う。被告人p1及び弁護人らの主張には理由がない。第5 一部免訴の理由
 
当裁判所は,検察官が平成15年10月9日に公訴を提起した被告人p1に対する出資法違反被告事件については,公訴時効の完成により免訴とするのを相当と判断したので,以下理由を説明する。
1 出資法5条2項違反の罪が反復累行された場合の罪数について
 
同法5条1項違反の罪が反復累行された場合の罪数について,最高裁判所昭和53年7月7日判決は,特段の事情のない限り,個々の契約または受領ごとに一罪が成立し,併合罪として処罰すべきであると判示するところ,同条2項違反の罪が反復累行された場合の罪数については,福岡高等裁判所平成11年6月1日判決において,個々の貸付契約とそれに対応する複数の利息の受領行為とを包括一罪と判示し,その包括一罪が複数あるときについて併合罪処理がなされている。
 
この点,同項違反の罪は同条1項違反のそれとは異なり,「業として」なされることが要求されていることなどに照らし,複数回反復した場合を集合犯ないし職業犯として一罪と解する見解も考えられるところである。
 
しかしながら,同条2項は,同法が昭和58年に改正された際に挿入され,要件として「業として」なされたことを要求する一方で上限金利を同法1項のそれに比べて低いものとし,両者は法定刑も同一であること,規定のしかたも典型的な集合犯・職業犯のそれとは異なるものであることなどからすると,構成要件自体が同種行為の反復を当然に予想しているものとは認め難い。
 
したがって,同条2項違反の貸付とそれに対応する利息の受領が反復累行された本件の場合についても,前記の福岡高等裁判所の判決の趣旨に照らして,個々の貸付契約とそれに対応する受領ごとに一罪が成立し,それが複数あるときは併合罪の関係に立つと解するのが相当である。
2 訴因変更許可決定を取り消すことの必要性・相当性について
(1)本件についての手続経過は以下のとおりである。
ア 横浜地方検察庁検察官は,平成10年11月13日,被告人が平成9年12月20日にAに対してなした貸付(利息の受領は同月30日)という訴因(以下,「当初訴因」という。)について,横浜地方裁判所に公訴を提起した。
イ 同検察官は,出資法5条2項違反の罪が累行された場合には一罪となるとの見解に基づいて,平成10年12月10日,被告人が平成9年11月21日から平成10年7月18日までの間にp15ほか5名に対して前後21回にわたってなした貸付(利息の受領は平成9年11月28日から平成10年7月23日まで)に訴因を追加的に変更する旨請求し,裁判所はこれを許可する旨の決定をし,これに関し弁護人は何ら異議を述べなかった(なお,追加された訴因は,別紙「平成15年10月9日付け公訴事実」と同内容である。
)。
ウ 裁判所は,平成15年3月11日にいったん弁論を終結したが,その後職権で弁論を再開し,同年9月16日,上記訴因変更請求許可決定を取消し,上記追加分にかかる事実のみについて関連性を有する証拠について,その採用決定を取り消した。
(2)そこで,本件における訴因変更手続の適法性をみるに,刑事訴訟法312条1項は,検察官が訴因の変更を請求した場合には,裁判所は,公訴事実の同一性を害しない限度において,これを許さなければならない旨規定しているところ,上記のとおり,出資法5条2項違反の罪が累行された場合の罪数については個々の貸付契約とそれに対応する受領ごとに一罪となりそれが複数あるときは併合罪の関係に立つと解すべきであるから,変更請求にかかる訴因においては21個の罪が成立し,当初訴因とは公訴事実の同一性がない。したがって,訴因変更請求を許可した決定は,結局違法ということとなるから,同決定を取り消すのが相当である。
(3)これに対し,検察官は,訴因変更請求許可決定に対して弁護人も被告人も異議を述べず,その後長期間を経過したことをもって瑕疵は治癒した旨主張するが,公訴事実の同一性がないのに訴因変更請求を許可した決定は刑事訴訟法312条1項に違反し,それは,審判の対象の個数や範囲の問題として,訴訟構造の基本にかかるものであるから,当事者の合意によって増減・変更できるものではなく,軽微な瑕疵とみることはできず,時間の経過により治癒されるものとも解されないので,その主張は採用できない。
3 公訴時効の成否について
(1)以上から,訴因変更請求許可決定を取消した場合,審判の対象は当初訴因のみとなるところ,これに対し検察官は平成15年10月9日に当初訴因以外の追加的変更分について追起訴をなした(別紙「平成15年10月9日付け公訴事実」記載のとおり。)。

 ところで,出資法5条2項は,法定刑について「3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し,又はこれを併科する。」と定め,刑事訴訟法250条5号によれば,公訴時効期間は3年である。刑事訴訟法は,公訴時効は犯罪行為が終わった時点から進行する旨規定するところ(同法253条1項),本件追起訴分において犯行時が最も遅いものは平成10年7月23日であるから(石崎勉からの利息受領),追起訴分については,いずれの犯行についても,公訴提起時において公訴時効がすでに完成しているといわざるを得ない。
(2)これに対し,検察官は,訴因変更請求は通常,書面によりなされ,その記載事項も追起訴の場合と実質的な差はなく,被告人への送達及び公判期日における朗読もなされ,追起訴の場合と実質的に同じ手続がとられている以上,方式の差は重視すべきでないとして,平成10年12月10日の訴因変更請求時に公訴時効が進行を停止したと主張する。

 ところで,公訴時効制度の趣旨は,一定の期間訴追されていないという事実状態の尊重,時間の経過による可罰性の減少,証拠の散逸等であるところ,本件では,訴因変更請求により刑事手続の対象となったのであるから,それ以降訴追状態が続いており,可罰性が減少しているともいえないこと,捜査により必要な証拠は確保されているので散逸の危険はないことや,被告人も変更後の訴因について争わず,訴追を受けることを認諾しているという実質的な法律関係に照らせば,本件において公訴時効の完成を認めるのは相当でなく,しかも,被告人を不当に利するとの疑問も生じるところである。
 
しかしながら,刑事訴訟法254条1項前段は「時効は,当該事件についてした公訴の提起によってその進行を停止し」と定め,厳格な様式を定めた起訴状による公訴提起によって時効を停止するものとしており,訴因変更請求をもって時効停止事由とする旨の明文はない。また,実体刑罰規定については被告人に不利益な類推解釈は禁止されているところ,刑事手続においてもその趣旨は尊重されるべきであり,特に公訴時効の成否という被告人にとって重大な利害に関する事柄については被告人に不利益な類推解釈ないし拡張解釈を安易になすべきではない。
 
したがって,訴因変更請求を公訴の提起に準ずるものとして同条項前段を類推適用するのは相当とはいい難い。
 
また,検察官は,訴因不特定により公訴棄却された場合であっても公訴時効停止の効力がある旨の判例を挙げるが(最高裁判所昭和56年7月14日決定),これは瑕疵があるものの公訴の提起という形式をとってなされた事例であるから,本件と事案を異にし,上記の結論を左右するものとはいえない。
4 結論
 
以上のとおり,平成15年10月9日起訴にかかる訴因については,公訴の提起の時点ですでに公訴時効の期間が経過し,その間時効が停止していたとも認められないので,刑事訴訟法337条4号により,免訴の言渡しをする。
(累犯前科)
被告人p1について
 
昭和63年11月24日大分地方裁判所宣告,殺人幇助の罪により懲役8年,平成7年10月19日刑執行終了
 
前科調書(乙31)及び判決書謄本(乙32)により認定
(法令の適用)
被告人p1について
罰条
第1 別紙診療年月日等一覧表の各番号ごとに刑法246条2項
第3 同法60条,平成11年12月17日法律第155号による改正前の出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律5条2項
第4,第5 いずれも刑法250条,249条1項
刑種の選択
第3 懲役刑及び罰金刑
累犯加重
第1,第3(懲役刑),第4 いずれも同法56条1項,57条
併合罪の処理
 
同法45条前段,47条本文,10条,48条1項(懲役刑については,刑及び犯情の最も重い判示第4の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重をし,罰金刑についてはこれをその懲役刑と併科する。)
未決勾留日数の算入
 
同法21条(懲役刑に算入)
労役場留置
 
同法18条
訴訟費用の負担
 
証人p3及び同p4に支給した分につき刑事訴訟法181条1項本文,182条
 
その余は同法181条1項本文
被告人p2について
罰条
第2 6個の幇助行為につき包括して刑法62条1項,246条2項
法律上の減軽(従犯)
 
同法63条,68条3号
刑の執行猶予
 
同法25条1項
訴訟費用の負担
 
証人p3及び同p4に支給した分につき刑事訴訟法181条1項本文,182条
(量刑の理由)
1 本件は,被告人p1が,健康保険被保険者証を不正に使用して保険診療給付を受け,療養給付費用の支払を免れて財産上不法の利益を得(判示第1),無登録で業として金銭の貸付をなし法定限度額を超える利息を受領し(判示第3),行方不明になった債務者の肩代わり名下に,Cから金員を喝取しようとし(判示第4),風俗店の経営者であるDを脅迫して出資の配当金名下に金員を喝取しようとし(判示第5),被告人p2が被告人p1の判示第1の犯行を幇助した(判示第2)という事案である。
2 被告人p1について
(1)判示第1は,被告人p1は暴力団組員であり,被告人p2の経営する会社に雇用されていないにもかかわらず,療養給付費用を免れるため同被告人を通じて健康保険被保険者証の交付を受け,病院及び薬局においてこれを提示して給付を受けており,健康保険制度を悪用したものというほかない上,給付を受けて負担を免れた期間は長く,回数も多く,支払を免れた金額も多額に上る。
 
判示第3は,暴力団幹部として,経済的な利得を得るために済州島において反復継続して賭客相手に金銭を高金利で貸し付け,多額の利息を受領していたその一環であり,職業的な犯行である。
 
判示第4は,CがAの被告人p1への返済を妨害するためにAを逃がしたものと邪推して,Aが振り出した手形の買い戻しをCに強要し,これに応じなければ生命に危害を及ぼしかねない旨の脅迫文言を申し向けたものであり,判示第5は,Dに対し、暴力団事務所において,「700万円出資するから毎月2割の配当をくれ。」と要求し,これに応じなければ久留米から撤退してもらう旨申し向けたものであり,いずれも,暴力団を背景にして行ったもので,被害者らに相当な恐怖感を与えており,いずれも悪質である。
(2)被告人p1は,これまで暴力団組員としての生活歴は長く,現在暴力団組長であり,脱退・解散する意思を有しないことや,前科8犯を有し,前記のとおり殺人幇助の累犯前科を有するなど,規範を軽視する反社会的な傾向が顕著であること,判示第1,第4及び第5の各犯行について事実を否認し,不自然な弁解に終始して反省の態度に乏しいこと,詐欺についての被害弁償はなされておらず,恐喝未遂の各被害者に対しても全く慰謝の措置を講じていないことなどの事情が認められる。 
(3)他方,判示第4及び第5は喝取の点がいずれも未遂にとどまっていること,判示第3については当初前記のような弁解をしていたものの,その後事実を認めて反省の態度を示していること,体調が思わしくなく,入退院を繰り返す状況にあることなどの酌むべき事情も認められる。
3 被告人p2について
(1)被告人p2は,被告人p1が現役の暴力団組員であり,定職に就いていないことを知りながら,不正に社会保険事務所から被告人p1名義の健康保険被保険者証の交付を受けてこれを被告人p1に渡し,判示第1の犯行を容易にしたというもので,重要な役割を担ったことは明らかで,会社を経営する者としての遵法精神に欠ける犯行といわざるを得ず,態様は軽くみることができない。
(2)加えて,被告人p2は,被告人p1は特別社員であったと主張して事実関係を否認するなど,反省の情も乏しい。
(3)他方,上記の事情はあるものの従犯であること,前科が道路交通法違反1件のみであることなどの酌むべき事情も認められる。
4 結論
 
そこで,諸般の事情を総合考慮し,被告人両名に対し,主文のとおりの量刑をした次第である。
(検察官平江徳子,被告人p1の私選弁護人[主任]古賀康紀,同船木誠一郎,被告人p2の私選弁護人[主任]東武志各出席)
(求刑 被告人p1につき懲役5年及び罰金200万円,被告人p2につき懲役10月)
(福岡地方裁判所久留米支部)

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