詐欺福岡10

詐欺福岡10

福岡地方裁判所/平成12年(わ)第551号等

主文
被告人を懲役7年に処する。
未決勾留日数中450日をその刑に算入する。
押収してあるポリ袋入り覚せい剤1袋(平成12年押第215号の2),チャック付きポリ袋入り覚せい剤2袋(同号の3,4)を没収する。

理由
(犯罪事実)
第1 被告人は,不正に入手した株式会社A発行のB名義のクレジットカードを使用して,人を欺いて商品を交付させようと企て,平成11年12月16日午後3時5分ころ,福岡市a区bc丁目d番e号C株式会社b店において,同店従業員D(当時24歳)に対し,同カード使用の正当な権限も同カードシステム所定の方法により代金を支払う意思もないのにあるように装い,同カードを呈示するなどして商品の購入方を申込み,前記Dをしてその旨誤信させ,よって,即時同所において,同人からビデオカメラ1台及びアクセサリーキット1式(時価合計15万1,800円)の交付を受け,もって人を欺いて財物を交付させた。
第2 
1 被告人は,E(当時43歳)からFの居場所を聞き出し,同人から金員を取り立てるなどするため,分離前相被告人G,H,Iと共謀の上,平成12年3月19日午後10時ころ,福岡市f区gh丁目i番j号JのK方において,被告人がEに対し,「立て。」などと怒号した上,周囲を取り囲んで同所から,道路を隔てた同市f区gh丁目k番l号株式会社L駐車場まで連行し,同日午後10時15分ころ,同所において,その腰部付近をGが1回足蹴にするなどした上,同所に駐車中の普通乗用自動車後部座席に押し込み,同日午後10時30分ころまでの間,同車を福岡県大野城市mn番地o付近道路上まで疾走させ,その間,Eを同車後部座席に閉じ込めて脱出することを不能ならしめ,もってEを不法に監禁した。
2 被告人は,EがFの居場所を隠しているものと思い込んでいたGと共に,Eに白状させるための暴行を加えようと考え,Gと共謀の上,同日午後10時30分ころ,同市mn番地o付近里道上において,Gは,所携の刃体の長さ約14.5センチメートルのナイフ(平成12年押第215号の1)でEの右大腿部付近を突き刺し,それでもFの居場所を話そうとしないEの態度に激昂し,同ナイフでEの左臀部を突き刺すなどし,Eに重傷を負わせたことから,Eを生きて帰せば警察に通報されるなどして自己の犯行が発覚するのではないかと考えるや,口封じのためにEを殺害することをG単独で決意し,被告人及びGの両名でEの身体を両脇から抱え上げて同所付近から約40メートル先の里道上まで連行した上,同日午後10時50分ころ,同所において,GがEの左胸部を同ナイフで3回突き刺し,よって,そのころ,同所またはその付近において,Eを左肺静脈切損に基づく失血により死亡させたが,被告人は傷害の犯意を有するに止まっていた。
第3 被告人は,法定の除外事由がないのに,同年5月2日ころ,福岡市p区qr丁目s番t号パチンコ店「M」駐車場に駐車中の普通乗用自動車内において,覚せい剤であるフエ二ルメチルアミノプロパンの塩類若干量を含有する水溶液を自己の身体に注射し,もって覚せい剤を使用した。
第4 被告人は,同年5月2日,福岡市a区uv丁目w番x号N株式会社u給油所において
1 覚せい剤であるフエ二ルメチルアミノプロパンの塩酸塩を含有する結晶1.232グラム(同号の2,3はその鑑定残量)をみだりに所持した。
2 Oと共謀の上,覚せい剤であるフエ二ルメチルアミノプロパンの塩酸塩を含有する結晶0.288グラム(同号の4はその鑑定残量)をみだりに所持した。
(第2の2の事実についての補足説明)
第1 争点の概要等
1 弁護人は,判示第2の2の傷害致死被告事件について,犯行の動機,経緯,犯行状況に関するGの公判供述は信用できず,被告人の公判供述こそ信用性が認められるとして,〔1〕被告人とGとの間でEに対する暴行・傷害の共謀はなく,被告人自身もEに暴行を加えたこともないことから,被告人は無罪である,〔2〕仮に,被告人とGの間でEに対する暴行,傷害の共謀が成立するとしてもEの殺害行為はGが単独で犯したものであり,被告人は死の結果について責任を負わない旨主張する。これに対して,検察官は,Gの公判供述は信用性が高く,被告人の公判供述には信用性が認められないとして,被告人とGとの間でEに対する暴行・傷害の共謀が成立するので,被告人は死亡の結果についても責任を負う旨主張する。
2 Gの公判供述及び被告人の供述の食い違い
 
Fの行方を聞き出すためにEを追及する動機,Eが判示第2の1のK方に来ることが判り,被告人がGに電話をかけてそのことを知らせた時のGの発言内容,Eを普通乗用自動車内に連れ込んだときのGの乗車位置,Eを普通乗用自動車に乗せて走行中,Gと被告人のどちらがナイフを取り出したのか,車内でナイフを使ってEを脅迫するときのGの姿勢,福岡県大野城市mn番地o付近道路上(以下「里道入口付近路上」という。)に自動車が到着した際,Gがすぐ自動車を約128メートル離れた別の場所に移動させたのか,判示第2の2の里道(以下「里道」という。)に入ってEに対する攻撃を開始した後にGが一旦その場を離れて自動車を移動させたのかどうか,被告人自身里道においてEに暴行を加えたかどうか,Gによる殺害の直前,Gが被告人にナイフを持たせて刺突させようとしたかどうか,Gによる殺害の態様,犯行後,Gが被告人を探し回った理由等の,いくつもの点で,被告人の供述とGの供述との間には食い違いが認められ,被告人の供述自体も捜査段階の供述と公判供述の間には,GがEに対して暴行を加え負傷させるであろうことを予見したのかどうか,更に,具体的にナイフを使ってEを負傷させることについて予見したのかどうか等の点で食い違いがある。
 
しかしながら,本件当時,被告人及びGがFを捜しており,Fと親しいEからFの居場所を聞き出そうしてK方でEを詰問し,更にそこから連れ出してすぐ近くで被告人車両にEを乗車させる際,GがEを足蹴りし,被告人が運転する普通乗用自動車の後部席にEを乗車させてGも同乗し,被告人が運転して里道入口付近路上まで走行し,そこでEを下車させた後里道に連れ込み,正座させたEに対してGがナイフを使ってEを負傷させ,その中で深手を負わせてしまったためGが警察への発覚を防ぐ目的でE殺害をG単独で決意し,被告人及びGがEを里道の奧へ連れていき,そこでGがEの胸部を刺突して殺害し,被告人及びGがEをそばにある沢に捨てたという外形的事実については,Gの公判供述と被告人の供述との間に食い違いはなく,関係証拠上も間違いないものと認められ,被告人及び弁護人も争っていない。
 
そこで,以下においては,証拠上間違いないものと認められる事実を更に詳細に認定し,この事実に評価を加え,必要な範囲でG及び被告人の各供述の信用性も検討していきながら,被告人とGとの間で暴行ないしは傷害の共謀が成立するかどうか,ひいては,被告人に傷害致死罪が成立するかどうかという点につき,判断を示すことにする。なお,年月日については,証拠書類の作成年月日を含めて特に記載しない限り平成12年を意味する。
第2 証拠上認められる事実
 
関係証拠によれば,次の事実が認められる。
1 被告人,G,Eの関係等
 
被告人は,平成11年10月ころGと知り合い,その後,被告人が車上荒らしでクレジットカードを入手してこれをGに売り,Gが人を使ってクレジットカードで商品を詐取したり,被告人とGが一緒にカード詐欺をするなどの関係にあった。事件当時,Gは,P組の構成員として活動しており,被告人は,Q組組長のKと親交を持ち,正式の杯を交わしていないが,組員同様の生活をしていた。Kは暴力団RのSから依頼を受けてEを預かっていたため,Eは,平成11年12月初めからK方に出入りし,1月末から寝泊まりするなどしていた。
 
Gは,3月16日,Gの知り合いであるTから盗品のクレジットカードを使用して商品を騙し取る実行行為者としてEを紹介された。GはEに盗品のクレジットカードを渡しEがこれを使ってクレジットカード詐欺をした。同日,被告人とGは,Eに報酬を渡すため,Eと待ち合わせをしていたが,この時,被告人は,Gに対して,Eを通じてFに小切手を渡していたら換金されて持ち逃げされた,また,EはKのゴルフバッグを持ち逃げするなど信用できない人物である等の話をした。Gと被告人はいずれも金員取立て等の目的でFを捜すことになり,間もなくFと親しいEが待ち合わせ場所へ来てから,Eに対してFの居場所を追及したが,Eが自分はFの居場所を知らないと言うので,Gは,Fの居場所を見つけて3日以内に連絡してくるように約束させた。
2 犯行に至る経緯,犯行状況の概要
 
同月19日(前記約束の3日目になる),EがK方に来ることを知った被告人は,Gに対して,EがK方に来る旨電話で伝え,Gは,被告人に対して,少し時間がかかるのでEに逃げられないようにしておくように指示した。その後も,被告人はGに対して,EがK方に到着したこと,3月16日のFを見つけるとの約束があったこと自体を否定していること等を電話で報告した。Gは,同じ組に属するH,Iを呼び出しK方へ同行した。K方で,Gや被告人は,Fの居場所を聞き出そうとし,加えて被告人は被告人がKに贈ったゴルフバッグの行方についてEを問いつめたが,Eはのらりくらりと返事をするのみであった。Gにとって,KはG自身が所属する暴力団の系列とは別系列の暴力団組長であり,そのようなK方でEに対して手荒なことをするわけにいかないので場所を変えてEを追及することにし,被告人らに命じて,EをK方から外へ連れだし,K方付近が住宅地であり人目に付くことから被告人の自動車にEを乗せることにした。K方の近くに止めていた被告人の自動車にEを乗車させようとした際,GがEを足蹴りした。Eを乗車させた後,Gの指示でH,Iはその場を去った。被告人が自分の車両を運転して出発後,同乗しているGは車内で抜き身のナイフを示すなどして脅しEに対してFの居場所についての追及を続けた。
 
人気のない里道入口付近路上に到着すると,被告人らはEを自動車から下車させて里道へ連れ込み,Gが,Eの顔,肩,胸などに殴る蹴る,ナイフで右足の付け根や腹部付近を2回位刺す等の暴行を加え,Fの居場所についての追及を続けた。このような暴行を加え続ける中で,GはEを蹴ろうとしたところ勢い余って転倒した。そのためGは立腹し,Eの左臀部を本件ナイフで深く刺した。Eの傷が思った以上に深かったことから,Gは,Eに対する監禁,暴行,傷害が警察に発覚することを恐れて,Eの殺害を決意し,被告人に更に里道の奥へ連れて行く旨を指示し,被告人とGは里道の奥へEを連行し,沢の付近でGはナイフでEの胸部を刺突してEを殺害し,Gと被告人はEの衣服をはぎ取り,Eの体を沢へ投げ捨てた。
第3 傷害致死罪の成否
1 犯行の動機
 
Eを追及する動機について,被告人は捜査段階で,GがEを追及する理由につき,「Gとしては,Fに覚せい剤1キログラムを代金後払いで売ったところ,覚せい剤を持ち逃げされ,更にFはGの知人からも300万円を借りて逃げているので,Fを探し出さなければならなかった。EはFとつるんでいるので,EがFの居場所を知っている。したがって,GはEからFの居場所を聞き出すことを目論んでいた。他方,被告人の思惑は,被告人がKにゴルフセットを4組プレゼントしたところ,そのうちの1組をEが無断でどこかへ持ち出して換金したものと思われるのでこのことを追及する必要があった。また,被告人が窃取した小切手帳をKに預けたところ,同人がそれをEに預け,同人から預かったFがこれを換金して1人占めにしていると思われたので,Fを追及する必要があり,そのためにはEからFの居場所を聞き出す必要があった。このように,Fの居場所をEから聞き出す狙いは被告人とGで異なるが,EからFの居場所を聞き出すという点において,被告人とGの思惑は一致していた(被告人の6月19日付検察官調書)。」旨供述している。
 
これに対し,Gは,公判において,「Fとの付き合い・取引は全くない。覚せい剤の売却代金をFに持ち逃げされたことはない。本件の1年以上前,北九州の知人から,Fが現金150万円か200万円位を持ち逃げしたと聞いたことがあるが,それも覚せい剤がらみの金員ではない。その知人の依頼を受けてF方へ行ったことはあるが,会えなかった。間もなくその知人から,この件はもう終わったと聞いた。3月16日,知り合いであるTから盗品のクレジットカードを使用して商品を騙し取る実行行為者としてEを紹介された。GはEに盗品のクレジットカードを渡しEがこれを使ってクレジットカード詐欺をして新幹線回数券を入手した。被告人とGは,Eに報酬を渡すため,Eと待ち合わせをしていたが,この時,被告人は,Gに対して,額面500万円の小切手をFに持ち逃げされ換金されている,EはFとつるんでいるからEはFの居場所を知っている,EはKのゴルフバッグを持ち逃げするなど信用できない人物である,等の話をした。その後,GはTに対してFについて問い合わせたところ,T自身も300万円持ち逃げされていること,P系列のUという金融会社に対しても借りた金を返していない人物であることを聞き,Eを通じてFの居場所を聞き出し,Fから金を取り立て,その半分を報酬として取得しようと決意した。Gは被告人と共に待ち合わせ場所でEと会い,Eに対して小切手を換金した金を払えと問いつめたが,EがFが持っているので自分は知らないと言うのでFの居場所を見つけて3日以内に連絡してくるように命じた。」旨供述している。
このように,G供述と被告人供述の間には,Eを追及する動機・狙いにおいて,食い違いがある。しかしながら,被告人供述を前提とすれば,Gが目論んでいたのは最終的には覚せい剤1キログラムの代金である数千万円にもなろうというものであり,K方,自動車内,里道と次々と場所を変えながらも,Gが執拗にEに対してFの居場所を追及し,怒りを強めていったものであり,暴行傷害を加える動機としては相当強烈なものがある。
 
他方,G供述も,小切手の換金額が額面と同額であれば500万円であり,Gと兄弟分であるTのFに対する貸付金が300万円,Uの貸付金が百数十万円あって,これらを回収してその半分を報酬として入手することを目論んだというものであるから,相当の利益獲得を狙っていたものであって,Fの居場所を突き止めるためにEに対して暴行,傷害を加える動機として強いものがある。
2 犯行の経緯等の評価
 
犯行当日,被告人が,EがK方にいることを連絡したとき,被告人は,GからEを逃がさないようにしておけと指示されている。Gの暴力団歴をみると,同人は15,6歳から23歳ころまでPとは別の暴力団に所属し,その後,26歳ころから犯行(犯行当時Gは35歳)までの約9年間Pに所属している暴力団幹部である。このように,暴力団員としての活動歴が長く,しかも,幹部組員であるGが被告人からの連絡を受けてEを追及している。追及の動機は前述のとおりであり,G供述あるいは被告人供述のいずれにしても,GとしてはFの居場所を突き止めたいという思いは強く,そのためには少々の手荒な手段を講じることもいとわないものと思われる。被告人は,Gとの交際を通じて,Gの性格等も承知しており,GがEに対して相当手荒な厳しい追及方法をとるであろうことは容易に予測できるし,現実に,K方にGがその配下と思われる暴力団員2名を伴ってきて来て正座しているEを詰問し「本当のことを言わんと沈めてしまうぞ」と怒鳴りつけたことをその場で目撃し,K方から場所を変えた目的も人目に付かない場所で焼きを入れて白状させることにあった。K方から連れ出すときは,Gの配下と思われる2人の暴力団員(H,I)がEの両側からそれぞれEの肩等に手をかけて逃げられないようにして連れ出している。Eを連れ出して自動車に乗せる際,GがEを蹴りつけてそばにある建物のシャッターにぶつけている。しかも,出発後,Eが乗車させられた自動車を運転したのは被告人であり,被告人としては,人目につかない場所へEを連れていくという考えで自動車を運転し,里道入口付近まで走行しているのである。更に,走行中,Gの乗車位置や,ナイフを自動車内から取り出したのが誰であるにしろ,Gはナイフを手にして抜き身でEを脅しているのである。更に,里道に到着後,Gが抜き身のままナイフを持ち出したのを格別予想外のこととしてとらえていない。被告人は,終始,GあるいはEのそばにいてGのEに対する言動をつぶさに目撃している。したがって,被告人としては,K方付近を自動車で出発する際,Eを人目に付かない場所へ連れ出した後には,GがFの居場所を聞き出すために,脅迫にとどまらず,手荒な手段に出て暴行を加えることは容易に予測できたし,自動車内でGがナイフを使って脅迫を開始したことから,場合によってはナイフを使ってでもFの居場所を白状させる行為に出るのではないかと予測できたものと推認できる(但し,被告人としては,Eが殺害されてしまえば,被告人自身の目論見がはずれてしまうので,Eが殺されてしまうことまでは認容していなかった)。
 
被告人は,公判において,普通乗用自動車にEを乗せて出発する際,車内でEを脅してFの居場所を吐かせるだけでどこかへ連れて行って焼きを入れるとか一切思っていなかった,暗い所へ連れて行けばEとしては怖さが増すと思った,里道付近を通る道路は知っていたが,そこを通るうちにEが話すのではないかと思った旨供述する。しかしながら,前述したとおり,普通乗用自動車にEを乗車させる際にGが暴行を加えていることや,人目につかないようにするためにK方を出たものであって,車内での脅迫にとどまるものであったとは到底考えられない。
 
被告人の供述をみると,捜査段階では,K方からEを連れ出す時点で,GがEを人気のない場所へ連れていって焼きを入れて半殺しにすることになるのではないかということが判っていた,普通乗用自動車にEを乗車させて出発後,Gが抜き身のナイフでEを脅しており,Gがナイフで負傷させるのではないかと考えた旨供述し,第2回公判において(判示第2の事件についての公判の冒頭手続),Eに制裁のための暴行を加えることの共謀を否定しながらも,「私はFの居場所を聞き出さなくてはいけませんでしたので,Eの答え方如何によっては,Gと一緒になって暴行を加えようとは思っていました。」と供述しており,その後の公判においては,Gが暴行を加えるとは考えていなかった旨供述するなど,その供述は不自然に変遷しており,変遷後の供述は信用できない。
3 殺害状況についてのG供述及び被告人供述の信用性の検討
〔1〕Eの遺体に残っている傷の状況との整合性
 
GがE殺害を決意した後にナイフを使ってEに対して攻撃した行為により生じた傷の状況をみると,Eの前胸部左側に,胸骨正中から左方へ長さ約7センチメートルの刺切創(刺したナイフを途中まで抜いて少し方向を変えて深く押し込んだものと思われる。左肺静脈を折損し,左肺を貫通している),その約1センチメートル左方に長さ約2センチメートルの刺創(上記刺切創と筋肉下で創洞が連なっている)を生じている。
 
Gが殺意を生じた後,Eの胸部に対してナイフを使用した攻撃状況について,3回刺したというG供述はEの胸部に生じている傷の状況と整合している上,殺意を生じた後の殺害行為の全部を自分が行ったとして自分の主導性を含めて詳細に供述しているのであって,外形的な攻撃状況について信用性に疑問を入れるべき事情はない。これに対して,被告人の捜査段階の供述はGが被告人に右手にナイフを逆手に握らせてその手首をつかんで刃先を胸部へ向けてEの胸部へ持っていき,とどめを刺すように命じたが,被告人は恐ろしさのあまり刺せずナイフを離したところ,被告人がナイフを左手で逆手にもってEの胸部へ置き,右手の平を開いた形で右手を肩付近まで上げてナイフの柄をたたきつけて刺した、このとき,「バチッ」と音がしたというものである。被告人は,恐怖のあまりよく見ていなかったというものの,「バチッ」と音がしたという供述内容は,Eの胸部に対する3回の刺突行為を説明できず,攻撃状況と矛盾がある。したがって,殺害状況については,被告人の供述は防衛的な姿勢が強く信用性に乏しいといわざるを得ず,G供述の方が信用できる。
4 以上の事実の評価
 
被告人の供述も,殺害状況等の点において信用性に疑問があることなどに注意を払いながら検討した結果は以上のとおりである。被告人は,捜査段階で供述しているとおり,GがEを山中へ連れ込んで暴行を加えることはもとより,ナイフを使用して相当痛めつける可能性があることを認識,予見していたものと認められる。被告人は,GがK方近くでEに対して暴行を加えるのを目撃した上で,Eを自動車内へ監禁し,人気のない場所へと自動車を運転しているのであるから,Eを自動車内へ監禁した時点でGとの間で,Eに対する暴行・傷害の共謀が成立したものと認められる。 
 
ところで,傷害致死罪は,暴行罪ないし傷害罪の結果的加重犯であるところ,GがEに対してナイフをも使用してFの居場所を聞き出そうとし,ナイフで痛めつけることさえあることを認識していたのであるから,被告人にとって,Gが殺意を抱いてナイフを使いEを殺害することの予見可能性もあったものと認められる(もとより,Gでさえ,K方付近を出発する時点では,E殺害を考えておらず,被告人としても,EからFの居場所を聞き出すことが目的であり,そのためにGに来てもらったのであるから,Eを殺してしまえばその目的を達成できないことになるし,GがEの胸部を刺突する直前,被告人がGに対して,「やばいっちゃないですか。病院連れて行った方がいいんやないですか。」と言ったという被告人の供述(被告人の検察官調書(乙27))にも信用性を否定しがたい面もあるので,被告人が,GによるE殺害を認容していたものとは認められない。)。また,Gの暴行とEの死の間には因果関係が認められる。したがって,被告人が傷害致死罪の責任を負うことは明らかである。弁護人の主張は採用できない。
(法令の適用)
罰条
第1の行為 刑法246条1項
第2の1の行為 刑法60条,220条後段
第2の2の行為 刑法60条,205条
第3の行為 覚せい剤取締法41条の3第1項1号,19条
第4の1の行為 覚せい剤取締法41条の2第1項
第4の2の行為 刑法60条,覚せい剤取締法41条の2第1項
併合罪加重 刑法45条前段,47条本文,10条,14条(最も重い第2の2の罪の刑に加重)
未決勾留日数の算入 刑法21条
没収 覚せい剤取締法41条の8第1項本文(判示第4につき)
訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
1 本件は,被告人が,不正に入手したクレジットカードを利用して,商品を騙取した事案(判示第1),Gらと共謀の上,Eを普通乗用自動車に押し込んで疾走させて監禁し(判示第2の1),Gと共謀の上,同人が所携のナイフで殺害した際に傷害致死の限度で共同正犯が成立する事案(判示第2の2),被告人が,覚せい剤を自己使用し(判示第3),覚せい剤を単独(判示第4の1)及びOと共同(判示第4の2)で所持したという覚せい剤取締法違反の事案である。
2 まず,量刑の上で中核となる判示第2の各犯行につき検討するに,被告人は,Eの居場所をGへ教え,これによりGが,H及びIを引き連れて,K方に赴き,同所でEの居場所を白状させるべくEを脅迫し,それを明らかにしないと,HやIらに指示してEを近くの駐車場まで連行し,G自らEを足蹴りするなどし,その後もEを自動車の後部座席に押し込み,被告人はGとともにEを人里離れた山中まで連行し,その間Gが車内で脅迫し続けてFの居場所を聞き出そうとし,山中に至ってからも,その所在を知らないとして謝り続ける無抵抗のEに対して,Gは殴る蹴るの暴行を加え,更にナイフでEの大腿部,更に臀部を突き刺すなどし,血を流しながら何度も助けを乞うEに対し,最後には同ナイフで左胸部を3回にわたり突き刺して死亡させたのである。被害者の死亡という重大な結果が発生している。被害者には,格別の落ち度はないにもかかわらず,暴力団員であるGや被告人により長時間にわたり暴行,脅迫を加え続けられており,被害者の精神的・肉体的苦痛等には甚大なものがあったと思料されるばかりか,未だ43歳という人生半ばで死亡した被害者の無念さは察するに余りある。犯行の発端について,被告人は,自分がGに対して,EがFとつるんで小切手を換金したので取立てて欲しいと依頼したことにある旨供述しており,被告人の供述を前提としても,被告人の言動が事件の発端になっているのであり,その利欲的動機に酌量の余地はない。加えて,被告人は,犯行当日,被害者がK方に来ていることをGに連絡してGを犯行に巻き込み,K方近くを自動車で出発する際には,被告人自ら自動車を運転し,里道に被害者を連れ込んだ後も終始被害者のそばにいてそのこと自体が被害者にとって相当の威圧となったであろうことは容易に推認できるので,被告人が果たした役割は大きいものがある。さらに,犯行後,被告人は,Gに指示されるままにGと共に被害者の衣服をはぎ取り,被害者を沢に投げ捨て,ナイフを川に投棄した他,アリバイづくりに協力しているのであり犯行後の情状も芳しくない。
3 次に,判示第1の犯行につき検討するに,被告人は,車上狙いを繰り返すなどしてクレジットカードを入手し,これを利用して商品を詐取することを常習的に繰り返してきたのであり,本件犯行もその一環として敢行されたものでありこの種犯罪に対する被告人の規範意識の鈍麻がうかがわれる。
 
判示第3,第4の犯行についてみるに,被告人の覚せい剤使用歴は長く,平成10年暮ころは毎日のように覚せい剤を使用していて常習性がうかがわれ,覚せい剤への依存性,親和性は進んでいると思われる。合計所持量も少なくない。
 
これらの事情からすれば,被告人の刑事責任は重大である。
4 他方,判示第2の犯行,特に殺害行為についてはGが実行行為の全てを単独で行っており,被告人の関与形態はGとの関係で従属的なものに止まっていること,監禁罪,傷害致死罪につき,被告人の捜査機関に対する申立により本件の捜査が進展したこと,判示第1の罪についてクレジットカード会社に対して被害弁償がなされていること,被告人はKに対して暴力団の脱退届を提出し、今後,暴力団との関係を断ち切る旨誓約していること,母親らが今後の監督を誓約していること,被告人には前科がないことなど,被告人に有利な事情も認められる。
5 そこで,これらの諸事情を総合考慮して主文の刑を量定した。 
 
よって,主文のとおり判決する。
(求刑 懲役10年,覚せい剤の没収)
平成14年1月21日
福岡地方裁判所第2刑事部
裁判長裁判官 林秀文 裁判官 一木泰造 裁判官 永井美奈

LINEアカウントでお得な無料相談を受ける!上記の記事でよく分からない部分を無料で弁護士に相談することができます

「LINE無料相談」での実際の相談例をご紹介します

お客様の感謝の声はこちらをクリック。アトム法律事務所は1人1人のお客様を大切にしています。 横浜・川崎で刑事事件に強い弁護士をお探しなら 刑事弁護ホットライン 0120-631-276 法律相談のご予約は日本全国24時間受付無料 すぐに弁護士が警察署に向かいます。まずはお電話ください。 親身で頼りになる刑事弁護士とすぐに相談できます。