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殺人福岡2

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福岡地方裁判所小倉支部/平成21年(わ)第876号

主文
被告人両名はいずれも無罪。

理由
第1 公訴事実の要旨
 
本件各公訴事実の要旨は,被告人両名が,氏名不詳者と共謀の上,〔1〕平成20年9月10日深夜,B方で,同人に対し,殺意をもって,所携のけん銃で弾丸4発を発射し,これを同人の右外側胸部等に命中させて,同人を射創に基づく心臓挫傷により死亡させて殺害し(殺人),〔2〕上記日時・場所において,上記けん銃1丁を適合実包4発と共に所持した(けん銃の加重所持)というものである。
第2 争点
 
本件の争点は,被告人両名の犯人性及び共謀の成否である。
1 検察官の主張の骨子
 
検察官は,被告人A1が,捜査段階において犯人である旨自白し,公判前整理手続の途中までその自白を維持していたほか,次のような間接事実を総合すれば,本件公訴事実は優に認められると主張する。
(1)被告人両名共通の犯人性
 
被告人A1は,本件当日の早朝,知人のA3方を訪れ,被告人A2と共に着衣を着替えた上,上記A3に対し,被告人両名と会ったことを口外すれば殺害する旨脅して立ち去った。
(2)被告人A1の犯人性
ア 被告人A1は,平成20年9月8日午後8時ころ,知人のA4方を訪れ,同人に対し,けん銃が試射できる場所を尋ねた。
イ Bは,本件前日の午後8時過ぎころから本件当日の午前零時15分ころまでの間,知人のA5と共にαのクラブ等を渡り歩き,その後,同人と別れて自動車で帰宅した。
 
a組組員のA6は,本件前日の午後8時過ぎころから,被告人A1と連絡を取り合いながら,αで人捜しをしていた。
 
被告人A1は,本件当日の午前零時17分ころ,自宅マンションに戻り,その後,外出した。
ウ 被告人A1は,本件当時,電話番号「080―XXXX―○○○○」(以下,「○○○○」という。)のプリペイド式携帯電話機を使用していた。
「○○○○」の携帯電話機は,本件当日の午前零時34分ころから同日午前2時17分ころまでの間,前後4回にわたり,電話番号「080―XXXX―△△△△」(以下,「△△△△」という。)の携帯電話機と連絡を取り合っていたが,その後,使用されなくなった。
 
上記時間帯中2回にわたり,「○○○○」の携帯電話機の発信電波が,上記B方から約1.6キロメートル離れた基地局で受信された。
エ 被告人A1は,本件当日の午前7時過ぎころ,上記A4に対し,同日午前3時ころ,共犯者2名を伴って上記B方に行き,同人の頭部に1発,腹部に3発,けん銃を発射して殺害した旨告げた。
 
また,被告人A1は,同日午後,本件のニュースを見たb組組員のA7から,「ニュースに出ていましたよ。」としか告げられていないのに,本件を当然の前提として報道内容を尋ねた。
 
さらに,同年9月中旬ころ,上記A3に対し,上記Bにけん銃4発を撃ち込んで殺害したことを得意気に話した。
オ 被告人A1は,事件後,上記B殺害の功績により,a組筆頭若頭補佐に昇格した。
(3)被告人A2の犯人性
ア 上記A7は,平成20年8月17日,b組若頭のA8から,同月末までに上記Bを殺害するように指示され,同月下旬ころまでの間,被告人A2と共に殺害計画を進めていた。
 
しかしながら,上記計画は,同年9月以降,a組主導で行われることになり,上記A8は,同月1日,上記A7に対し,被告人A2が上記計画の実行部隊に組み込まれた旨を告げた。
イ b組は,本件犯行のために「△△△△」のプリペイド式携帯電話機を調達,使用していた。
ウ〔1〕本件当時,b組組員の中で,上記A8より地位が低く,かつ,服役せずに活動していた者は,上記A7,A9,A10,A11,A12及び被告人A2の6名であった。〔2〕上記A7は,平成20年9月以降,本件計画の実行部隊から外れていた。〔3〕上記A9は,同月4日及び5日,自己使用の携帯電話機で「△△△△」の携帯電話機と通話した。上記〔1〕ないし〔3〕の間接事実等を総合すれば,本件当時,上記携帯電話機を使用していたのは被告人A2だといえる。
エ 被告人A2は,事件後,上記A7から,被告人A2だけが本件計画の実行部隊に組み込まれ,自身はその実行部隊から外れたことについて,謝罪を受け,上記A7から,切断された左手小指を渡された。
オ 被告人A2は,事件後,本件犯行の対価として,上記A8の負担で,交際相手と共に沖縄旅行に行った。
(4)被告人両名の共謀
 
上記(1)ないし(3)記載のとおり
2 被告人A1の弁護人の主張の骨子
 
被告人A1は,取調中,C警察官から暴行や脅迫的な言辞を加えられたため,虚偽の自白をしたもので,任意性及び信用性に欠ける上,次のとおり,被告人A1の犯人性及び共謀を認めるには合理的な疑いが残る。
(1)上記A4に対し,けん銃が試射できる場所を尋ねた事実はない。
(2)本件当日の早朝,上記A3宅で着衣を着替えた上,口止めをした事実はない。
(3)上記A6がαにいた目的は人捜しではない。
(4)「○○○○」の携帯電話機の発信電波が,上記B方付近の基地局で受信されたとしても,基地局は半径3キロメートル以内とかなり広範囲の携帯電話機の電波を受信するから,その所持者が,上記B方ないしその近辺にいたことにはならない。
 
被告人A1は,本件当時,β付近を車で移動中であったが,上記B方には行っていない。
(5)本件当日の午前7時過ぎころ,上記Bをけん銃で射殺した旨告白したのは上記A4であって,被告人A1ではない。上記A7に対し,本件を当然の前提として報道内容を尋ねた事実はないし,上記A3に対し,本件犯行を得意気に話した事実もない。
(6)被告人A1が事件後に昇格したのは,本件とは無関係である。
3 被告人A2の弁護人の主張の骨子
 
次のとおり,被告人A2の犯人性及び共謀を認めるには合理的な疑いが残る。
(1)被告人A2は,上記A3方には行っていない。上記A3は被告人A2と面識がなく,上記A3の識別供述には信用性がない。
(2)上記A8が,平成20年9月1日,上記A7に対し,被告人A2が本件計画の実行部隊に組み込まれた旨を告げたことはない。
(3)「△△△△」の携帯電話機の使用者は,被告人A2ではなく,b組の他の組員ないしその知人等であった可能性がある。
 
しかも,上記携帯電話機の発信電波が,上記B方付近の基地局で受信されたとしても,基地局は半径3キロメートル以内とかなり広範囲の携帯電話機の電波を受信するから,その所持者が,上記B方ないしその近辺にいたことにはならない。
(4)被告人A2は,被告人A1に車を貸しただけで,本件のことは全く知らなかった。
(5)上記A7が自己の左手小指を切断したのは,本件とは関係がない。
(6)旅行代金は上記A8に立替えてもらったが,後日,分割で返済した。
第3 争点に対する判断
 
本件は,被告人らと本件犯行を直接結びつけるような客観的証拠はなく,いわゆる間接事実積み上げ型の事案であるから,まず証拠上明らかに認められる事実(いわゆる前提事実)を認定した上で,検察官が主張する各間接事実が認められるか,認められるとして被告人両名の犯人性及び共謀の成否を推認することができるかを判断するとともに,自己の犯人性を認めていた被告人A1の自白の任意性及び信用性についても検討を加えることとする。
1 前提事実
 
以下の各事実は,いずれも,当事者双方に争いがないか,あるいは,関係各証拠により容易に認められる。
(1)本件当時,a組は,A13が組長で,Bは相談役であった。被告人A1は,本件以前は若頭補佐であったが,その後,筆頭若頭補佐に昇格した。
(2)被告人A2とA7は,いずれもb組の組員であった。A8は,従前,a組の若頭をしていたが,本件当時は,b組の若頭であった。
(3)a組とb組はいずれもc傘下の暴力団で,被告人両名は,相互に面識を有していた。
(4)b組組員の中で上記A8より地位が低く,かつ,本件当時,服役せずに活動していた者は,上記A7,A9,A10,A11,A12及び被告人A2の6名であった。
(5)上記A10は,知人のA14に指示して,平成20年8月27日,「△△△△」の携帯電話機の利用契約を締結させた。
(6)上記A9は,同年9月4日及び同月5日,自己使用の携帯電話機で「△△△△」の携帯電話機と通話した。
(7)上記Bは,本件前日の午後8時過ぎころから本件当日の午前零時15分ころまでの間,知人のA5と共にαのクラブ等を渡り歩き,その後,同人と別れて自動車で帰宅した。
 
被告人A1は,本件前日の午後8時ころから,αにいたa組組員のA6と頻繁に連絡を取り合い,本件当日の午前零時17分ころ,自宅マンションに戻った。
(8)「○○○○」のプリペイド式携帯電話機は,本件当日の午前零時34分ころから午前2時17分ころまでの間,前後4回にわたり,「△△△△」のプリペイド式携帯電話機と通話していたが,その後,使用されなくなった。
(9)上記時間帯中,前後2回にわたり,「○○○○」の携帯電話機の発信電波が,上記B方から約1.6キロメートル離れた基地局で受信された。
(10)「△△△△」の携帯電話機の発着信先の大半は,上記A7,「○○○○」,電話番号「080―XXXXー□□□□」(以下,「□□□□」という。)の各携帯電話機及びb組事務所であり,本件当日の午前2時58分ころを最後に使用されなくなった。
 
平成20年8月以降の「□□□□」の携帯電話機の発着信先の大半は,上記A8,「△△△△」及び「○○○○」の各携帯電話機であり,同年9月9日午後5時43分ころを最後に使用されなくなった。
(11)上記Bは,平成20年9月10日午前2時50分ころ,福岡県中間市<以下略>の同人方1階寝室ベッド上で,同一のけん銃により,その頭部に1発及び胸腹部に3発弾丸を撃ち込まれ,そのころ,同所において,射創に基づく心臓挫傷により死亡した。
(12)事件後,上記B方1階の寝室から少なくとも1種類,寝室に隣接する仏間から少なくとも2種類の遺留足跡(ただし,識別困難な足跡や関係者足跡を除く。)が発見された。
2 被告人A1の犯人性について
(1)A3宅における着替え(検察官の主張の骨子(1))について
ア A3供述(甲31,32)について
 
上記A3は,被告人A1が,本件当日の朝,もう一人の男性が運転する青っぽい色のdに乗り,直方市γにある自宅にやって来て,「ちょっと着替えさせてくれ。」と言い,玄関から廊下の辺りで,確か,白いジャージに着替えた旨,上記男性も着衣を着替えた旨,その際,被告人A1が,「会ったことは誰にも言うなよ。お前の口が開いたら消さないかん。」と口止めをした旨供述している(甲31,32)。
イ 上記A3は,被告人A1が暴力団の幹部組員であるにもかかわらず,あえて同人に不利な供述をしており,被告人A1も,当公判廷において,上記A3との間で金銭トラブル等はなかったと述べていることからすれば,A3供述(甲31,32)は概ね信用できる。
ウ 被告人A1が,本件発生から約4時間後に上記A3に電話を架け,上記B宅から遠くない福岡県直方市内の上記A3宅において着替えをした上,口止めまでしていることからすれば,被告人A1が本件犯行に何らかの関与をしたことまでは推認することができる。
 
もっとも,上記A3は,着替え前の被告人A1の着衣については何も述べていないから,その着衣に実行行為ないし犯行現場との結びつきを窺わせる痕跡が残されていたかは分からず,被告人A1がA3宅で着替えたとの事実から,被告人A1が本件犯行に具体的にどのような関与をしていたかまでは推認できない。また,口止めをしたからといって,必ずしも実行行為を行ったとは推認できない。
(2)けん銃が試射できる場所を尋ねたこと(検察官の主張の骨子(2)のア)について
ア 上記A4は,平成20年9月8日午後8時ころ,被告人A1が自宅を訪れてけん銃が試射できる場所を尋ねたので,δ町に抜ける山道を教えたが,一緒には行かなかった旨,同日午後8時9分ころ,a組組員のA15に,電話でその旨を話したと供述している(甲25)。
イ 仮に,A4供述の信用性を認めたとしても,上記A4は,被告人A1がけん銃を試射する場面に立ち会ったわけでもなければ,けん銃自体を見たわけでもないから,犯人性の推認力は弱い。
(3)上記Bと被告人A1の行動の結びつき(検察官の主張の骨子(2)のイ)について
 
被告人は,本件の前夜から当日の午前零時過ぎか午前1時前ころまでの間,上記A6を車に乗せてαの飲み屋街を一回りしたが,上記A6が途中で3回くらい降車して携帯電話機で話したりしていたので,人捜しをしているのかなと感じた旨,及び,事件後,上記A6の話及び新聞報道から,同人が本件に関与していると思った旨供述している(甲46)。
 
しかし、上記A6が,本件前日,αで人捜しをしていたとしても,その対象が上記Bだったのかは不明である。また,被告人A1の行動については,本件当日の午前零時17分ころ,自宅マンションに戻ったところまでしか判らず,その後,何時に外出したか,その際,けん銃及び着替え等を所持していたかは不明であって,前提事実(7)のように上記Bの行動と被告人A1の行動が時間的に符合するからといって,上記事実から被告人A1の行動を上記B殺害に向けての準備行為と位置付けるのは,かなり飛躍があることは否めない。 
(4)「○○○○」の携帯電話機の使用者及び被告人A1の現在性等(検察官の主張の骨子(2)のウ)について
ア 被告人A1が,平成20年6月下旬ころないし7月上旬ころ,上記A15に「○○○○」の携帯電話機で架電し,その使用者が被告人A1であると直ちに分からないように,ひらがなの「さ」で登録しておくように指示したこと(甲26,53),及び,同年9月8日,上記携帯電話機で上記A3と連絡を取り合っていたこと(甲29)からすれば,上記携帯電話機の使用者は被告人A1であったと推認される。
 
これに対し,弁護人は,上記携帯電話機を,本件当日も被告人A1が使用していた根拠はないし,同人以外の者が使い回していた可能性もある旨主張する。しかしながら,被告人A1が,他人に上記携帯電話機を「さ」で登録させたということは,以後専ら自分が上記携帯電話機を継続使用する意思の現れとみるのが自然であって,弁護人の上記主張は何ら根拠のない憶測に過ぎず,採用できない。
イ 前提事実(8)のとおり,被告人A1は,本件の数時間前から直前までの間,契約情報からは身元が特定されないプリペイド式の上記携帯電話機を使用して,同じくプリペイド式の携帯電話機と頻繁に連絡を取り合っていたが,本件直前の通話を最後に一切使用していないことからすれば,本件関係者と連絡を取り合っていたものと推認することができる。
ウ 前提事実(9)のとおり,「○○○○」の携帯電話機の発信電波が,上記B方から約1.6キロメートル離れた基地局で受信されているものの,基地局が携帯電話機の電波を受信する範囲は半径3キロメートル以内であって,広範囲といえる(甲43,52)。
 
よって,被告人A1が,本件当時,上記B方ないしその近辺にいたとまではいえず,被告人A1の現在性を推認するには限界がある。
(5)事件後の言動(検察官の主張の骨子(2)のエ)について
ア 上記A4は,平成20年9月10日午前7時過ぎころ,被告人A1から,同日午前3時ころに共犯者2名を同行して上記B方に行き,窓ガラスを割って同人方に入った上,同人の頭部に1発,腹部に3発発射して殺害したと告げられた旨供述している(甲25)。
 
この点,上記B宅から120メートル離れた民家の住民は,本件当日の午前2時50分ころ,上記B宅の方から,大きな爆竹が鳴ったような「パン,パン」という乾いた音が2回連続して鳴り,それから二,三秒後に,また2回連続して「パン,パン」という乾いた音が聞こえた,更に間を開けずに「バリーン」というガラスが割れるような音が聞こえ,続けて「ガシャーン」というガラスが散乱するような音が聞こえた,その後,本件のことを知って,私が聞いたパン,パンという音が,けん銃の発砲音だったのではないかと思った旨述べている(甲16)。
 
上記住民の供述からすれば,本件の犯人は,けん銃を発砲した後に窓ガラスを割ったと考えられる。そして,仮に,上記A4の供述部分の信用性が認められた場合,被告人A1が,犯人ならば間違えるはずがない,上記B宅への侵入方法という本件犯行に密接に関わる部分について,上記住民の供述と整合しない告白をしたことになる。また,事件後,上記A3に対し,「警察は窓ガラスを割って入ったと思っているらしいが,あれは,窓ガラスを割って入ったんやない。」などと述べていること(甲31)とも食い違っている。
 
そうすると,被告人A1が,自ら体験した犯行について告白したものか否かについては,疑問の余地が残る。
イ 被告人A1が,本件当日の午後,本件のニュースについて,「頭に○発,腹に○発って言いよらんかった?」と尋ねた点(甲24)については,被告人A1が電話連絡などですでに本件に関する情報を得ていた可能性は否定できない。また,犯行態様の重要部分である,上記Bに撃ち込まれた弾丸の個数に関する上記A7の記憶も不明確な上,直接的に犯行告白をしたわけでもないから,犯人性の推認力はかなり弱い。
ウ 平成20年9月中旬ころ,上記A3に対し,上記Bにけん銃4発を撃ち込んで殺害した旨述べた点(甲29,31)については,この程度の内容は本件当日の昼間のニュースでも既に流れており(甲24),犯人性の推認力は弱い。
(6)検察官調書(乙2)の任意性について
ア C警察官は,当公判廷において,被告人A1に対し,取調中に,暴行を加えていない旨供述し,被告人A1も,本件犯行を自白したのは上記Cから暴行を受けたためではない旨自認している。
イ また,被告人A1は,当公判廷で,上記Cから,取調中に脅迫的な言辞を申し向けられたため虚偽の自白をした旨供述するが,他方で,検事調べでは脅迫的な言辞等は全くなかったし,自分から作り話をした旨述べていることからすれば,上記Cから脅迫的な言辞を申し向けられていたとしても,検察官調書の任意性には影響しない。
ウ したがって,検察官調書(乙2)には問題なく任意性が認められる。
(7)検察官調書(乙2)の信用性について
ア 客観的証拠との整合性,物的証拠による裏付けの有無について
 
被告人A1の検察官調書(乙2)は,共犯者の有無,犯行態様及び犯行に密接に関わる部分について,次のとおり,前提事実等及び客観的な証拠と矛盾している。
(ア)被告人A1は,一人で上記Bを殺害したと述べているが,前提事実(12)によれば,本件が複数犯によるものと推認されることと矛盾している。
(イ)被告人A1は,本件の前夜,αのε公園の近くで,上記Bを見つけた旨述べているが,そうであるとすれば,前提事実(7)及び前記(3)のように,上記A6が,本件前日の午後8時ころから本件当日の午前零時ころまで,被告人A1と連絡を取り合いながらαで人捜しをする必要はない。
(ウ)被告人A1は,けん銃の銃把で,上記Bの家の裏庭に面したサッシ戸の窓ガラスを,ガチャンと大きな音を立てて叩き割ったら,上記Bが出てきたので,室内に入れてもらい,隣の部屋に移動した後,右手に持ったけん銃の銃口を上記Bに向けて突き付け,その右側頭部にけん銃を1発撃ち込んだ旨,その後,上記Bの胴体めがけて,立て続けにけん銃の引き金を引いて,残りの3発を撃ち込んだ旨述べている。
 
しかしながら,前記(5)のア記載の住民の供述と比較すると,捜査段階の自白内容は,窓ガラスを割った後にけん銃を発砲したとする点,及び,けん銃の実弾を1発と3発に分けて撃ったとする点が整合しない。また,被告人A1は,左利きであるから(乙1),けん銃を右手で持っていた点も整合性に疑問が残る。
(エ)被告人A1は,犯行後,ζ町に行って海にけん銃を捨て,それから,η川沿いのθ橋とι湾の2か所でけん銃実弾の残りと携帯電話機を投げ捨てた旨,それらの場所への移動のどこかで,上記Bを殺害したときに着ていた服を脱いで,持ってきていた白色ジャージの上下に着替えた旨述べている。
 
しかしながら,本件犯行に使用されたけん銃はζ町の海からは発見されていないし,前記(1)で認定した,被告人A1が,本件当日の朝,A3宅において,着衣を着替えたという事実とも合致しない。
イ 体験供述,秘密の暴露の有無について
 
C警察官は,被告人A1に対し,上記B方の客観的状況を伝えていないにもかかわらず,被告人A1は,上記Bを射殺しても血が飛び散らなかった旨供述している。
 
しかしながら,被告人A1が本件犯行を自白し始めたのは本件発生から1年以上経過した時点であるし,平成21年4月ころ,別件で身柄を拘束されるまでに本件関係者から聞いて現場の状況を知っていたとしても不自然ではなく,本件を体験した者でなければ供述できない内容とはいえない。また,捜査段階の自白の中には,秘密の暴露といえるような内容は全くない。
 
このように,捜査段階の自白の中には,秘密の暴露はおろか,体験した者でなければ語り得ないような供述すらほとんど含まれていない。
ウ 自白の理由について
 
C警察官は,平成21年10月3日,被告人A1が泣きながら本件犯行を告白し,「自分が無期になることは分かっている。もう子どもに会えないのが辛い。」などと述べた旨供述する。
 
しかしながら,本件が複数の暴力団関係者による犯行と目されることからすれば,被告人A1が,誰かを庇うために虚偽の自白をしていることが強く窺われる。それにもかかわらず,少なくとも被告人A1の単独犯の限度で信用性を認めるためには,自白の理由についても慎重な吟味を要するところ,具体的な自白の理由については詳しく述べられておらず,暴力団関係者や家族等を守るために虚偽の自白をした可能性が否定できない。
 
検察官は,真実でないのに,被告人A1が無期懲役刑を覚悟で自らの犯行性を認めることは考えられないというが,後に否認に転じていることからしても,真摯な自白でないことは明らかであり,一概に検察官の主張するようには言い切れない。
(8)総合判断
 
上記(1)ないし(5)の間接事実を総合すれば,被告人A1は,本件前日の午後8時ころから,αにいた上記A6と頻繁に連絡を取り,上記Bがαから自動車で帰ったころ,自宅マンションに戻り,「○○○○」の携帯電話機を使用し,共犯者と連絡を取り合っていたこと,そして,本件発生前後の時間帯には,上記B方から約1.6キロメートル離れた基地局を中心とする半径3キロメートル以内にいたこと,その約4時間後,上記B宅から遠くない福岡県直方市内の上記A3宅において着替えをして,口止めをしたことが認められる。そうすると,被告人A1が,本件に何らかの関与をしたことは強く窺われるが,上記事実中に,被告人A1が犯人でないとしたら,合理的に説明できないような事実や,少なくとも著しく説明が困難な事実関係は含まれておらず,昇格の事実等その余の間接事実を全て積み上げたとしても,被告人A1が本件犯行にどのような形で関与したかは分からないから,本件の実行犯であるとか,もしくはその他の正犯性を有する者であると認定することはできない。
 
また,被告人A1の検察官調書(乙2)は,客観的証拠との整合性の観点から複数の疑問を差し挟む余地がある一方で,秘密の暴露等は含まれておらず,自白した理由も到底納得できるものとはいえないから,信用性は認め難い。
3 被告人A2の犯人性について
(1)A3宅における着替え(検察官の主張の骨子(1))について
 
A3供述(甲32)によれば,本件当日,同人宅で被告人A1と一緒に着替えをした男性は,被告人A2によく似ているというのである。
 
しかしながら,上記A3の視力や,上記男性を見ていた時間及び位置は判然とせず,上記男性の服装等についても何ら触れられていない。しかも,上記A3は,上記男性とは初対面で,本件当日に一度会っただけであるし,上記男性の面割をしたのは本件発生から1年以上経過した後だから,識別の確度が高いとはいえない。
 
よって,上記男性が被告人A2であるとは断定できない。
(2)携帯電話機の使用者(検察官の主張の骨子(3)のアないしウ)について
 
前提事実(5)及び(10)によれば,「△△△△」の携帯電話機はb組関係者が契約したもので,これを使用して同組の組事務所等に架電されているから,上記携帯電話機の使用者がb組関係者であったというところまでは推認することができる。
 
しかしながら,検察官の主張どおり,上記携帯電話機の使用者がb組組員であることを前提にしたとしても,前提事実(4)及び(6)によれば,本件当時活動中の同組組員6名のうち,上記A9が除外されるにすぎない。さらに,上記A7が平成20年9月以降,本件計画の実行部隊から外れていたとしても,被告人A2以外の残り3名が使用者である可能性は排除できない。
 
この点、上記A7は,平成20年9月1日,b組組員から,電話で,被告人A2が断指をしてb組の事務所に戻ってきたと聞かされた後,自分も同事務所に戻る決意をし,上記A8に会ったところ,被告人A2が本件計画の実行部隊に組み込まれたと聞かされた旨供述している(甲24)。しかしながら,上記電話を裏付ける発着信履歴はないし,被告人A2が断指をしたのは同月4日であり(被告人A2),矛盾している。また,この点をさておき,A7供述の信用性を認めたとしても,上記A8が「△△△△」の携帯電話機を使用して電話を架けてきたことがあったこと(甲24)からすれば,本件当時,被告人A2以外の者が使用していた可能性が排除できないことに変わりはない。
 
したがって,上記携帯電話機の使用者が被告人A2であるとは言い切れず,ひいては,被告人A2が,本件直前,上記携帯電話機で被告人A1と連絡を取った事実,及び,本件当時,上記B方近辺にいた事実も推認することはできない。 
(3)総合判断
 
よって,その余について検討するまでもなく,被告人A2の犯人性を推認することはできない。
4 結論
 
したがって,本件各公訴事実についてはいずれも犯罪の証明がないことになるから,刑事訴訟法336条により,被告人両名をいずれも無罪とする。
(求刑 被告人A1に対し,無期懲役,被告人A2に対し,懲役20年)
平成23年2月7日
福岡地方裁判所小倉支部第1刑事部
裁判長裁判官 重富朗 裁判官 中牟田博章 裁判官 中村海山

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