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殺人福岡8

殺人福岡8

福岡高等裁判所平成11年(ク)第339号

主文
原判決を破棄する。
被告人は無罪。

理由
第一 本件控訴の趣意は、弁護人美奈川成章提出の控訴趣意書二通に記載されたとおりであり、これに対する答弁は、検察官吉瀬信義提出の答弁書記載のとおりであるから、これらを引用する。
第二 控訴趣意中責任能力に関する主張について
一 論旨は、要するに、原判決は、被告人が本件犯行の際心神耗弱の状態にあった旨認定しているが、被告人は、当時妄想型の精神分裂病により心神喪失の状態にあったから、原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある、というのである。
 
そこで、記録を調査し当審における事実取調べの結果をも併せ検討し、次のとおり判断する。
二 関係各証拠によれば、本件犯行に至る経緯及び客観的な犯行状況は、おおむね原判決の「争点に対する判断」第二及び「犯罪事実」と同旨の次のとおりであったと認められる。
1 被告人は、平成三年に後記M病院を退院したころから、いわゆるホームレスの生活をおくるようになり、平成一〇年九月ころから、本件犯行場所であるN公園(以下「公園」という。)の出入口そばにあるベンチの脇に、青色ビニールシートで覆いをした小屋のようなもの(以下「小屋」という。)を作って寝起きをするようになり、拾得したり買い取った自転車を磨き、通行人に売って生活していた。
2 一方、本件被害者(当時六三歳)も被告人と同様ホームレス生活者であったが、本件犯行の三、四年前ころに初めて被告人と知合い、その後、被告人から鞄や自転車等を購入したことがあったものの、一緒に食事をするなどの親しい付き合いはなく、互いに名前を知らず、顔を合わせた際に挨拶する程度であった。
3 被害者は、従前、近くの酒屋で買った酒を仲間と一緒に公園で飲むなどしていたが、被告人が、時折、独り言のように、中国がどうとかこうとかなどと意味不明の言葉を大声で発したりするので、気味悪く思い、あまり公園に近づかないようになった。また、近隣住民の間でも、被告人が勝手に公園内で生活し、夜中に大声を出したりするようなことがあったため、苦情が出るようになり、被害者は、平成一〇年一〇月上旬ころ、近隣の煙草屋の店主から被告人を公園内から立ち退かせて欲しい旨依頼された。
4 本件当日(平成一〇年一〇月一五日)の夕方、被告人は、小屋の中で七徳ナイフ(刃体の長さ約六・八センチトートル)でネーブルオレンジの皮をむいて食べるなどしていたところ、飲酒してかなり酩酊し、公園内のベンチに腰掛けて被告人の様子を見ていた被害者が、被告人に公園内から立ち退くように注意しようと考え、小屋のすぐ側まで近づいて、「こげんな物建てて、みんな迷惑しとろうが。もっと広いよい所があろうが。」などと強い口調で言った。
5 これを聞いた被告人は,右ナイフを持ったまま小屋の前に立ち、「何で出て行かないかんとか。何でお前がいろいろ言うんや。」などと言い返し、「中国人は強いとぞ」というようなことを言って、いきなり被害者に対し、正面から体当たりするようにして右ナイフで攻撃してきた。そのため、被害者は、その場の地面に仰向けに倒れ、上からのしかかってきた被告人と、胸ぐらをつかみ合うようにして揉み合いになり、更にナイフで攻撃を受けた後、起き上がって逃げようとしたが、その際にも被告人から攻撃を受けた。 
6 以上の攻撃により、被害者は、左上腹部、左側胸部、左背部、左下腿部に深さ約二ないし五センチメートルの各刺創、右下腿部に幅約一・二センチメートルの切創を負った。
7 その後、被告人は、バケツに水をくんで公園内に飛散している血を洗い流すとともに、兇器のナイフも洗って腹巻きの中に入れた。そして、公園に駆けつけた警察官の職務質問に対し、当初は「知らん」「俺はやってない」と否認していたが、その後「酒によってぐずぐず言うからこれを止めよった」と述べ、兇器が腹巻きの中にあることを認め、最終的には「(ナイフで)やった」というようなことも言った。
8 なお、被告人は、O刑務所に受刑中の昭和五二年九月ころ、P医療刑務所に移送になったことがあるほか、いずれも精神分裂病により、昭和五四年一月一九日から同年六月一五日までの間S病院、昭和五五年四月一五日から平成三年四月一七日までの間M病院に入院していたことがあり、右入院中には、「粗暴行為あり。他人のものと自分の物の区別がつかず、女性も自分の女と思う」などの症状があった。被告人は、M病院入院中からほとんど薬を飲まず、同病院退院後本件に至るまでも、投薬その他の医療措置を受けていない。
三 ところで、被告人の精神状態については、捜査機関の鑑定嘱託により医師Q作成の鑑定書(原審甲三五)が提出され(以下「Q鑑定」という。)、当審における鑑定により、医師R作成の鑑定書が提出され、同医師の証人尋問もなされた(これを併せて「R鑑定」という。)。
 
右両鑑定とも、被告人が本件犯行当時人格の崩壊は少ないものの、妄想型の精神分裂病に罹患していたとする点においては一致する。
 
しかし、Q鑑定は、「被告人の精神分裂病の程度は軽く、被告人の犯行はこの精神障害の症状によって著しく影響を受けたものではない。今回の事件は、単なる喧嘩であり、公園から出て行けという被害者の言葉に頭にきたと思う。」として、少なくとも心神喪失の余地はないとの意見であるのに対し、R鑑定では、「被告人は、軽くない、あるいは重い精神病に罹患しており、思考、認知の障害が著明で、現実判断能力がかなり低下していることにより、決まりきった日常生活では破綻をきたさないが、心理的に突発事態が起こると被害的、妄想的に解釈し、混乱して、自己のコントロールを失いやすく、犯行時も同様であった可能性が高い。」として、本件犯行当時心神喪失の状態にあったことを強く示唆する。
 
そこで、右両鑑定の内容をも参考にし、他の証拠をも併せて本件犯行当時の被告人の精神状態について検討すると、以下の諸点が指摘できる。
1 被告人に平素から被害的内容、被害的解釈に基づく妄想や誇大妄想が顕著であり、幻聴、思考障害が認められることは、前記両鑑定における被告人に対する問診の内容及び被告人が原審及び当審で述べるところによって明らかである。
 
例えば、医師の問診に対する発言では、「籍をなくしたのは福岡市役所が焼けて韓国人の木下という人間がいて、自分にT(名)という名前をくれた。U(姓)という名はカルテから外してくれ。(被告人は、当審になっても、自分は無国籍で、名前はAであって、UTではないと強調している。)」、「大阪の西成に行って暴力団が悪いことをしているのを止めて追い出した」、「ここ病院でしゃべったことは、世界各国の人が聞いて通じるようになる」、「M病院にいたとき、天井でコロンコロンという音が聞こえたが、それは、そういうグループが音を出させ、自分の国へ帰れという意味だと思う」、「警官や大村刑務所の看守は皆、密航者で信用できない」、「平成八年九月、香椎で二五〇万円盗られたが、警察はぐるになっており、犯人を知っているのに捜さん」などと枚挙にいとまがなく、原審あるいは当審公判においても、被害者について、「平成四年ころ富山に行ったときから顔見知りで、自分の小屋に勝手に入り込んでいた」と述べるところは、事実に反すると思われるし、「本件現場は公園ではなく、名前を知らない人が番地を持ってきてくれ、自分の土地のようになっていたものであって、無断で住んでいたのではない」、「一審の裁判のとき何人の人間がおれの土地から出て行けと言ったか証言してもらいたい。全部密航で来た人間なんです。その人の籍を調べてみれば分かる」、「日本の昭和天皇がどういう理由で言っちゃあか」などと理解に苦しむ供述をしており、以上の中には支離滅裂というほかない供述も含まれている。
2 ところで、被告人の供述する犯行に至る経緯及び犯行状況は、捜査段階から変遷しているが、おおむね次のとおりである。
 
すなわち、「被害者は、本件前日及び当日の午前中、被告人をにらみつけたうえ、何度も顎をしゃくるような仕草をして公園から出て行けというそぶりを示した。そして、本件犯行前にも、ベンチに座ってずっと被告人をにらみつけていたが、大声で『公園から出て行け。公園におるな』と怒鳴って近づいてきたので、喧嘩になると思いナイフを持ったまま小屋の前に出て、『何で出て行かないかんとか』と言い返した。すると、被害者は、いきなり『殺してやる』と言って走って近づいてきて、被告人の肩か胸ぐらをつかみ足を蹴ってきたので、被告人もつかみ返しもみ合いになり二人とも倒れた。被告人は起き上がろうとしたが、被害者が被告人の胸ぐらをつかんで離さないので、殺されるかと思い、『放さんか』と言いながら右手に持ったナイフを振り回した。その後被害者は、ベンチで寝ていた際、『かえんで、かえんで』と意味不明なことを言っていた。」というのである。
 
右被告人の供述のうち、被害者が、本件前、顎をしゃくって被告人に公園から出て行けという態度を示したことについては、被害者は一貫して否定しており、被告人において、被害者を目撃したときの同人の態度などから被害的に解釈した妄想である可能性が大きい。また、被害者が「殺してやる」と言って走って近づいてきたとの点は、原判決が指摘するとおり原審公判で初めて供述したもので(ただし、被告人は、捜査段階の鑑定留置中の平成一〇年一二月九日、Q鑑定人に対し、被害者がみんなから唆されて自分を殺すのではないかと思った旨述べている。)、事実に反するというほかないが、これも意識して虚言を弄したというよりは、鑑定人Rの当審証言で示唆するように、被害を負ったという記憶が、精神分裂病に罹患していることにより変容した結果であると解釈する方が自然ということができる。その他被害者が被告人の胸ぐらをつかむなど攻撃的な態度を示したとの点も、実際に被害者の方から被告人に攻撃を仕掛ける理由はなく、事実に反しており、不測の突発事態に対し、被告人が被害的、妄想的に解釈した結果である可能性が大きい。
 
R鑑定は、以上被告人の述べることをもとにし、また、鑑定留置中に、医師から強い口調で指示されたのに対して被告人が突然怒り出し、「俺に何の恨みがあるのか。二五〇万円盗られたのは知っているだろう。」と意味不明なことを言い出し、被害妄想的な反応を示したというエピソードをも参考にして、被告人は、本件犯行直前、被害者から「こげんな物建てて。みんな迷惑しとろうが。」などと言われたのに対し、被害的、妄想的に解釈し、迫害される、ひどい目にあわされる、殺されるという恐怖感を抱き、混乱した可能性が大きいと結論づけている。
3 確かに、原判決も指摘するように、本件犯行の動機は、前記のような被害者の言葉に立腹したものとして、客観的に了解可能であるといえなくもない。ただ、右の文言だけで、殺されるような迫害感を抱き、いきなり持っていたナイフで被害者に対し何回も攻撃を加えたというのは、客観的にも主観的にもあまりにも飛躍した行動というべきであり、R鑑定がいうように、精神状態の異常により被害者の言葉を過大に解釈し、混乱した可能性が大きいといわざるを得ない。なお、被告人は、病前性格としてもともと粗暴性があるため、被害者の些細な言辞に激高したとみる余地も考えられるが、被告人の数多くの前科のうち、粗暴犯の前科は、昭和五五年三月に処罰された傷害罪による罰金刑が一件あるのみであり、平素から粗暴性が著しいということもできない。
4 犯行後、被告人は、前記のとおり公園内に水をまき、ナイフを洗ったりしたことは認められるが、その方法は稚拙であり、意図的な罪証隠滅行為と解釈するのは早計であるのみならず、R鑑定によれば、犯行後正気に戻ったとの解釈も可能であると思われる。
5 被告人は、前記のとおり、平素ある程度仕事をし社会生活を営んでいたことは認められるが、他人との交流はほとんどなく、他人に迷惑を与えるような行動に出ることもしばしばあったことがうかがわれ、必ずしも社会に適応していたともいいがたい。
6 R鑑定によれば、被告人は、当審における鑑定留置中、精神鑑定のため入院していること自体理解していなかった模様で、病院に入院している他の患者は、薬物療法を受けてある程度意思の疎通性があるが、被告人は、診察にも検査にも非協力的で、怒ったり訳の分からないことを言う、病院の中でもかなり目立つ存在であったということであり、さらに、被告人の当審公判における供述態度や供述内容からも、自己が刑事被告人たる地位にあることをどれだけ理解しているのか当裁判所も疑問を感じざるを得ない。
四 前項に述べたところと、被告人がかなり長い間精神分裂病に罹患しており、一一年間入院治療を受けた後、本件時まで何ら医療措置を受けていなかったことなどを総合すると、被告人の罹患している精神分裂病は一概に軽いものと断定するのは相当でないうえ、日常生活をおくっているときはともかく、本件の際は、右病気の影響により、突然投げかけられた被害者の公園から出て行って欲しい旨の言葉を被害的、迫害的に解釈し、混乱したあげく、是非善悪の判断能力や抑制能力が欠けた状態に陥った疑いを払拭することができない。したがって、被告人に限定責任能力を認めた原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があるといわざるを得ない。論旨は理由がある。
第三 結論
 
よって、その余の事実誤認及び量刑不当の主張に対する判断を省略し、刑訴法三九七条一項、三八二条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書に従い更に次のとおり判決する。
 
本件公訴事実は、「被告人は、平成一〇年一〇月一五日午後七時三五分ころ、○○市△△区□a丁目b号N公園内において、X(当時六三年)に対し、殺意をもって、同人の胸部、腹部等を所携の刃体の長さ約六・八センチメートルの七徳ナイフで突き刺すなどしたが、同人に加療約三週間を要する左側胸部、上腹部刺創等の傷害を負わせたにとどまり、殺害の目的を遂げなかったものである。」というのであるが、前述の理由により、被告人の本件行為は心神喪失者の行為として罪とならないから、刑訴法三三六条により主文のとおり判決する。

平成一二年八月一六日
福岡高等裁判所第一刑事部
裁判長裁判官 清田賢 裁判官 坂主勉 裁判官 鈴木浩美

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