殺人福岡12

殺人福岡12

福岡地方裁判所小倉支部/平成13年(わ)第840号等

主文
1 被告人を懲役20年に処する。
2 未決勾留日数中740日をその刑に算入する。

理由
(犯罪事実)
 
被告人は,指定暴力団AB組組長に次ぐ地位(副組長ないし組長代行)にある者であるが,
第1
1 法定の除外事由がないのに,平成12年6月12日午後5時ころ,福岡市a区bc丁目d番e号所在のC建設株式会社九州支店南側(正面)ピロティー階段において,同支店建物表出入口のガラス製外壁等に向け,所携の自動装てん式けん銃を用いて実包6発を発射し,同建物表出入口のガラス製外壁等に命中させて,同社所有に係る同建物表出入口のガラス製外壁等を損壊し(損害額590万6978円相当),もって,不特定若しくは多数の者の用に供される場所において,けん銃を発射するとともに,他人の建造物を損壊した
2 法定の除外事由がないのに,上記日時場所において,上記自動装てん式けん銃1丁をこれに適合する実包6発と共に携帯して所持した
第2 Aの幹部らが株式会社D倶楽部からゴルフ場の利用を拒否されたことなどから,同倶楽部の支配人E(当時67歳)を襲撃して報復しようと企て,
1 前記B組親交者F及び同組組員GことHらと共謀の上,上記Eに対し傷害を加える目的で,平成12年10月10日午前6時20分ころ,福岡県f郡g町大字hi番地所在の同人方南東側縁側の同人所有に係る窓ガラス1枚を所携の金属バットでたたき割るなどして損壊(損害額4万2000円相当)した上,同所から同人方内に不法に侵入した
2 F,GことH,前記B組親交者I及び同組組員Jらと順次共謀の上,Fにおいて,同月22日午前2時10分ころ,上記E方6畳寝室の同人所有に係るサッシ2枚引き戸のガラス1枚及び障子戸1枚を所携の金づちでたたき割るなどして損壊(損害額合計8万2400円相当)した上,F及びJにおいて,同所から上記E方6畳寝室内に不法に侵入し,Jにおいて,上記Eに対し,同人が死亡するに至るかもしれないことを認識しながら,あえて,所携の短刀様の刃物で,その左前胸部を1回突き刺したが,同人に約1か月間の入院加療を要する心臓刺創,左肺刺傷による左血胸の傷害を負わせたにとどまり,同人を死亡させるに至らなかった
第3 B組若頭補佐K,被告人の側近LことM,同組員N,同組親交者O,同P,同Q及び同Rほか数名と共謀の上,平成13年4月20日午前零時ころ,北九州市j区kl丁目m番n号所在のS方において,T(当時26歳)に対し,その顔面を手拳で殴打し,足払いをかけて転倒させ,また,その顔面等に体当たりし,竹杖(平成14年押第55号の2)でその背中及び頭部を殴打するなどした上,上記S方周辺路上において,その顔面を足蹴にするなどの暴行を加え,引き続き,同日午前零時30分ころ,同市o区pq丁目r番s号t号所在の被告人方において,上記Tに対し,その顔面等を手拳で殴打,足蹴にし,その頭部をガラス製灰皿で殴打するなどの暴行を加え,引き続き,同日午前1時30分ころ,同区uv丁目w番x号y号所在の当時のM方において,Tに対し,その顔面を手拳で殴打し,その頭部をゴルフクラブで殴打するなどの暴行を加え,さらに,同市z区内又はその周辺において,同人に対し,何らかの暴行を加え,よって,同日ころ,同市a区又はその周辺において,同人を頭蓋内損傷又は何らかの傷害により死亡させた
ものである。
(証拠)(略)
(事実認定の補足説明)
 
被告人は,第2の2の殺人未遂の犯行について,被害者Eに対する殺意がなく,共犯者Jの関与については知らずその可能性も全く考えられない旨供述し,弁護人も,被告人に殺意は認められず,被告人は傷害罪の限度で責任を負うべきものであり,Jの犯行関与も証拠上認め難いし,仮にこれを認めるとしても被告人とJとの意思の連絡はないなどと主張する。
 
また,被告人は,第3の傷害致死の犯行について,判示共犯者らとの共謀も実行行為もしておらず,被害者T(通称U)の死因も知らない旨供述し,弁護人もその旨主張するとともに,証拠上,被害者Tの死因は不明である上に同人は被告人とは全くの関係ない第三者的行為により決定的打撃を受けて死亡したと判断するのが合理的であり,いずれにしても被告人は無罪である旨主張する。
 
一方,検察官は,上記傷害致死の犯行について,一連の複数の暴行と犯行場所につき最終のものとして,「更に同市b区内又はその周辺において何らかの暴行を加え,」というのを,死因として,「又は何らかの傷害」というのを,それぞれ付加する旨の予備的訴因を追加している。
 
当裁判所は,前示のとおり,第2の2の殺人未遂の犯行につき被告人の未必の殺意とJの犯行関与及び順次共謀を認め,第3の傷害致死の犯行については,被告人と判示共犯者らとの事前共謀の事実を認めた上,主位的訴因では傷害致死の成立を認めるだけの証拠はないと判断した一方,予備的訴因では,これを容れて最終犯行場所のものを含めた被告人らの共謀に基づく暴行によって被害者Tが死亡したと認定したので,以下,必要に応じその他の事実認定上の争点も含め補足して説明する。
第1 第2の2の殺人未遂の犯行について
1 関係各証拠によれば,次の事実が認められる。
(1)判示D倶楽部は,平成12年6月末ころから暴力団関係者の頻繁なゴルフ場利用が目立ち始め会員からの苦情が多数出るようになったことから,同年8月,暴力団関係者を紹介した会員の権利の一部を1年間停止することを決定し,同年9月には更に,理事会の決議により1年間会員資格を停止することを決定するなどして,暴力団関係者による利用の排除に努めた。
(2)本件倶楽部がAの幹部らに対しゴルフ場の利用拒否をしている状況を知った被告人は,その配下の者らに本件倶楽部支配人である被害者Eを襲撃させて報復し,Aの威勢を示すとともに,自らの組を興すために組織内での実績を作ろうなどと考えるに至った。そして,同年10月5日ころ,配下のF及びVに対し,Fが金属バットでEに怪我を負わせ,Vがその際の使用車の運転を担当する旨を指示するとともに,同じく配下のIにも被害者E宅への案内などの指示をし,Fらはこれを了承して被害者E宅の下見をするなどして襲撃の準備をした。
同月10日,Fは,被害者Eを襲撃すべく,金属バットを持って同人宅にHと行き,同バットで判示のとおり同被害者宅の窓ガラスを割った上,屋内に侵入した(第2の1の犯行)ものの,同人が不在であったため,その襲撃は失敗に終わった。その後,Fは,再度被害者Eを襲撃すべく,同月21日朝,JRc駅近くの路上において同人と思しき通行人を襲撃したものの,人違いであり,被害者Eの襲撃はまたもや失敗に終わった。
(3)被告人は,同日午後8時ころ,北九州市d区ef丁目g番h号所在のマンション「i」の被告人が借りているj号室(W商会の事務所部屋)において,改めてFに対して被害者Eの襲撃を指示し,被害者E宅に電話をかけて同人が在宅していることを確認した後,Fに待機を命じた。被告人がFに指示する際,その場にJもおり,被害者Eをけん銃で撃ち殺してしまえなどと発言していたが,被告人は同意しなかった。被告人は,同日午後11時30分ころ,上記「i」j号室にFを呼出し,同所において,全長約42センチメートル,刃の長さ約24センチメートル,刃の付け根の幅約3.8センチメートルの鞘付き短刀様の物を取り出して鞘から抜き,「F,これ使ってこい。腰から下を刺せ。こいつでやったらEが死ぬかもしれんが,仕方ないことやけの。これの方が早かろうが。失敗は絶対に許されんけの。次はないぞ。今度は確実にE本人をやってこい。」との趣旨のことを言って本件凶器をFに渡した。Fは,本件凶器を受け取る際,自分の経験から,指示された腰から下の部分を刺した場合にも,太股の大きな動脈を切るなどして,大量の出血による死亡の可能性があること,及び突然の凶行に相手が暴れて抵抗したり,自分の緊張により手元が狂うなどして,被害者の腹や胸を刺し,その結果,被害者が死亡する可能性があることなどを認識したが,被告人の命令であり,それもやむを得ないものと認容して,指示された犯行を引受けた。そのころ,被告人は,Iを呼び出した上,Fをk町にあるHの自宅まで送り届け,同所に身を隠しているHと合流させるように指示し,また,Vに対し,間もなくFとIをそちらに向かわせるので,Fと共にもう一度Eを襲撃すべき旨,そして今度は絶対失敗すべきでない旨電話で指示した。
(4)他方,B組組員であるJは,Fの兄貴分であったが,Fを実行犯とする被害者Eの襲撃失敗が続いたことから,上記本件凶器による襲撃の際,Fの兄貴分として,自ら犯行現場に同行して,主にFの襲撃の成功を見届けるなどの意図のもと,同月21日午後8時ころ被告人が改めてFに被害者E襲撃を指示した後,Fと共に現場の下見をするとともに,上記襲撃の大体の時間と合流方法の打ち合わせをした上,その時間ころに同人と現場付近で合流することにした。
(5)FとIは,翌22日午前1時過ぎころ,Vと合流し,FとVは,同日午前2時過ぎころ,Vが運転するI所有の車で被害者E方付近に到着した。他方,この到着に先立ち,Jも同所付近に到着して,Fらの到着を待った。Fは,上記到着後,毛糸のスキー帽で作った目出し帽を被り,本件凶器と窓ガラスを割るためのハンマーを持って降車し,被害者E宅の敷地内において,黒の上下服にストッキングを被ったJと合流した後,所携のハンマーで窓ガラスを割って,F,Jの順に被害者Eの寝室に侵入した後,人の気配に気付いて驚愕し叫び声をあげて立ち上がった被害者Eに対し,Jがその左前胸部付近を1回刺し,JとFは各々すぐにその場を逃走した。
 
その後,すぐにFから報告を受けた被告人は,仕方がないなどと述べるにとどまり,どうして足ではなく胸を刺したのかを聞かなかったし,被害者Eの身を案じたりすることもなかった。
(6)上記犯行により,被害者Eは,約1か月間の入院加療を要する心臓刺創,左肺刺傷による左血胸の傷害を負ったが,その創傷は,左乳首の約7センチメートル下あたりに幅約3センチメートルの創が生じ,そこから心臓に向かって斜め上に約8ないし10センチメートルに位置する心尖部(心臓の先端部)に長さ約2センチメートルの傷が,心膜には裂創(約2センチメートル×3センチメートル大)がそれぞれ生じているものであった。

2 争点に対する判断
(1)被告人の被害者Eに対する未必の殺意を認めたことについて
 
上記認定は,主に被告人の配下であるF,H,Iの各供述によるものであるところ,(Jの犯行関与に関するFの供述についてはしばらく措き)それらの内容はいずれも具体的かつ自然で概ね相互に合致もしており,被告人との上記関係等に照らしても,殊更被告人に不利な供述をする動機も何ら見当たらず,いずれの供述も概ね十分信用できる(一方,上記認定に反する被告人の供述は,殺意に関する箇所等において捜査段階の供述からも変遷が見られるなど信用できない。)。
 
そして,上記認定のとおり,被告人は本件凶器をFに渡す際に被害者Eが死んでもやむを得ない旨の発言をしていることに加え,上記認定のとおりの本件犯行に至る経緯,とりわけ本件では,それまでの2度の襲撃失敗から,被告人自身何としても確実に襲撃を成功させようとしていたこと,自らFに渡した本件凶器の前記形状,犯行後にFから報告を受けた際の被告人の態度等に照らせば,確かに被告人はFに被害者Eの下半身を刺すように指示していることから被告人に確定的殺意があったものとは認め難いものの,未必の殺意はあったと判断しうるものであり,実際にも,被告人は,捜査段階において,少なくとも未必の殺意があったことをうかがわせる供述をしていたのであるから,殺意を否定する被告人の公判供述は信用できないというべきであり,本件犯行において被告人は被害者Eに対する未必の殺意を有していたと認定するのが相当である。
(2)被害者Eの左胸部を本件凶器で刺したのがJであると認定した点について
 
Fは,本件と同一事実についての自分に対する被告事件の第1審判決前は,被害者Eを刺したのは自分である旨供述していたところ,同事件の控訴審以降,前言を変更して,それは自分と一緒に現場に侵入したJである旨供述するに至り,検察官も本件共犯者にJが含まれる旨釈明している。
 
Fは,上記供述の変更の理由につき,Jの犯行関与を秘密にする見返りにJがまとまった金額の金銭的援助等をする旨約束したので,自分が被害者を刺した旨供述していたところ,論告求刑後,再三の催促にもかかわらずJが差し入れも面会もほとんどしない状態となり,上記援助等の意思を確認するためにした控訴の後も期待した対応がJから得られなかったことから,Jが実行犯であることを暴露した旨供述しているところ,その内容はJがFの上位者の立場にあることに照らしても十分真実味があると認められるものである。そして,被害者Eは,犯人がストッキングを被っていたと感じた旨供述しているのに,Fは,当時毛糸のスキー帽で作った目出し帽を被っていたこと,Fは,被害者Eを刺した際,骨に当たったような衝撃はなかった旨供述しているのに,被害者Eは,左胸を石でたたかれる様な衝撃をうけた旨供述しており,実際は同人の肋骨に本件凶器が当たった可能性が高いことなど,Fが本件実行犯であるとした場合には,看過し難い矛盾点や疑問点が認められるのであるし,前記認定のとおりFは被害者Eの襲撃を2度失敗していたことやJがFの兄貴分にあたるなどの両名の関係からして,Fの供述どおりJがFの襲撃を見届けるために現場に行くことにも十分合理性が認められるのであるから,これらのことを総合考慮すると,Jが刺突した実行犯である旨のFの供述は十分信用でき,Jの犯行関与の事実は十分認められるというべきである(被告人は,本件犯行当日JはB組組長宅にいたはずである旨供述してJの犯行関与を否定するけれども,その供述は自ら体験したものでなく,客観的裏付けを欠く推測に過ぎないものであって採用することはできない。また,被告人は,Fを隔離状態に置いて精神的に追い込んでいたので,Jと接触する可能性はなかったはずである旨供述するが,証拠上そのような状況にあったとは認められない。)。
(3)被告人とJの順次共謀が認定できることについて
 
前記認定の本件凶器の性状,これによる刺突の方法や程度,刺突した身体の部位,負傷内容からすると,実行犯であるJは,少なくとも未必の殺意をもって被害者Eを刺したものと認められ,また,Fは,被告人から本件凶器を渡された際,場合によっては,被害者Eの生命を奪う事態となりかねないことを認識・認容していたと認められることは前記のとおりであるし,当時のJの言動からみて,Jが本件凶器を手にした場合には被害者Eを殺害するかもしれないことを十分認識しながら,犯行現場において,Jに本件凶器を渡したものであるから,JとFは本件凶器を手渡す時点で,互いに意思を通じたものというべきである。
 
そして,前記のとおり,被告人には被害者Eに対する未必の殺意が認められ,かつ,被告人はFとの間で被害者Eの殺害について共謀を遂げていたものといえるところ,上記のとおり,そのFがJとの間で同様に被害者Eの殺害についての共謀を遂げたものである以上,被告人とJとの間にも最終的に共謀が成立したものというべきである。被告人は,Jに対して直接犯行を指示したわけではないけれども,Fの兄貴分であるJがFに同行の上,Fに替わって,被告人がFに渡した本件凶器を使って被害者Eを殺害するという事態は,被告人ら本件犯行に関与した者にとって,決して意外なことではなく十分に予見可能な範囲に含まれるといえるから,Jが本件犯行を敢行したからといって,被告人について故意が阻却されることもないし,共謀関係が否定されるものでもない。
第2 第3の傷害致死の犯行について
1 関係各証拠(認定に使用した主な証拠を各項の末尾に掲記した。)によれば,次の事実が認められる(以下,単に月日のみを挙示してあるのはいずれも平成13年の趣旨である。)。
(1)本件犯行に至る経緯
ア 被告人は,指定暴力団AB組の組長に次ぐ地位(副組長ないし組長代行)にあり,Kは同組若頭補佐,LことMは被告人の側近,Nは同組組員として活動していた者である。O,P,Q及びRは,被告人あるいはその配下の組員らの親交者として,同組に出入りしていた。
イ 被害者Tは,以前はB組関係者から覚せい剤を仕入れて北九州市l区の同組の縄張り内で密売していたところ,前記AX組関係者等のB組以外の関係者からも覚せい剤を仕入れて同地域で密売するようになり,平成13年1月ころからは専らB組以外の関係者からの仕入れで密売を続けていたが,同年3月上旬ころ,この密売が被告人に知られ,被害者Tは,B組の縄張り内で覚せい剤を密売しない旨約束させられた。また,同月中旬ころには,Qの義兄に被害者Tが覚せい剤を密売したことでQと被害者Tが口論となった際に被害者Tの知人がQを殴った件で,被告人が間に入り,K,N,Mの3名と,被害者Tと上記知人との間で話し合いが持たれ,同知人がQに20万円を支払うこととなったということもあった。しかし,被害者Tは,その後もB組関係者に内密にX組から覚せい剤を仕入れて密売を続け,ホテル等を転々とする生活を続けていた。(証人Q、証人Y)
ウ Mは,3月末ころ,被告人方において,Pに対し,「Uが他から引いたシャブを売しよる。UはB組との約束を破った。そのことでUを探している。Uを探して捕まえてこい。」と指示した。同じ部屋にいた被告人は,それに反対するようなことはしなかった。また,Mは,同じころ,Nに対しても,「Uがシャブを売して組のしのぎの邪魔をしているので,生け捕る」との趣旨のことを言い,Nは,これを聞いて組や被告人の面子のために何としても被害者Tを捕捉するとの決意をした。
エ Pは,上記指示を聞いて,被害者Tが覚せい剤の密売をしてB組の縄張り荒らしをしたことからB組は被害者Tに制裁を加えるためにその行方を探していると理解し,Qに上記指示の内容を教えると,同人もPと同様の理解をして,共に被害者T探しをすることとした。 
オ PとQは,3月31日ころ,被害者Tの連絡先を知る者を使い2回にわたり被害者Tを誘い出して捕捉しようとしたが,2回とも被害者Tに勘付かれて失敗に終わった。このとき,Nは,2回とも同行した。また,Mは,2回目の際に同行した。その際,被害者TがMの自動車に乗って逃走して,この自動車を破損させた上,MがX組組員から同組事務所に連行されたため,被告人は,Kらと共に,Mの身柄を奪還し,X組との間で,X組の者が被害者TをB組の事務所に連れてきて謝罪させること,被害者Tに覚せい剤の密売をさせないことなどの取り決めをした。
 
なお,被告人は,被害者Tの誘い出しを手伝ったZをねぎらい,帰宅させるに当たり,タクシー代を手渡した。
カ Q,P,R,Zらは,4月13日ころ,判示のS方に押し掛け,Sとその内妻(当時)Yの2人を被告人方まで連行した。被告人は,最初にYに覚せい剤を密売しているかを尋ねたがYはこれを否定し,次にSに覚せい剤をどこから仕入れているかを尋ねたところ,Sは,B組と同じAダッシュ組内にあるBダッシュ組のCダッシュから貰ったことがある旨答えた。被告人は,同じAダッシュ組では仕方がない旨述べた上,SとYの2人に,自分のところはUと揉めてUを探しているので,Uが来たら連絡するよう釘を刺すように言って,2人をMらに送らせることとした。なお,上記やり取りの際,側にはKやMもいた。
 
Sらの帰り際,Mは,Sに対し,「Uがいたら教えてくれ。隠し立てすると,お前も一緒ぞ。お前も生け捕らないかんごとなるぞ。」などと脅したほか,Sを送る車中でも,他の者が,Sに対し,「Uを見つけたら,連絡しろ。」などと再三言った。
 
S方に着くと,M,Q,Rは,S方に上がり込み,Mが2階でSが所持していた覚せい剤を発見したが,Mは,SとYの2人に順に,今見つけた覚せい剤のことは大目に見るから,Uが来たら知らせてくれなどと述べてS方を去った。(証人Y,証人Q)
キ 上記の後,Sは,自宅付近に二,三日間見かけない車が止まっているのを目撃した。N,Q,R,Pらは,4月17日ころ,S方を見張るなどしていた。
ク P,Q,R及びB組親交者であるDダッシュは,4月19日夜,北九州市m区の居酒屋で飲酒したが,その際,PがRらに対し,B組がUを探して強制的に連行してくるように言っているなどと言い,これを聞いたRらは,B組関係者が被害者Tを拉致して暴力による制裁を加えようとしていることを察し,自らもこれに加功することとした。
 
また,Oは,Mから電話で「生け捕りに行くけ,すぐ来てくれ。」などと言われ,MらB組関係者が何者かを強制的に捕まえて暴力による制裁を加える目的を有することを知りながら,自らが同組関係者に内密で覚せい剤を密売していた後ろめたさや好奇心などから,これに協力することにして,Mと待ち合わせ,同人の運転する自動車に同乗してS方に向かった。
(2)本件犯行当日の経緯等
ア S方及び付近路上における暴行等(第1暴行と総称する。)
 
P,Q,Rらは,4月20日午前零時ころ,被害者TがS方に身を隠していたところを発見し,Qらは,被害者Tの顔面を手拳で殴打し,同人に対し足払いをかけて転倒させるなどし,また,顔面に右肩をぶつけて体当たりした上,その場にあった竹杖(平成14年押第55号の2)で被害者Tの背中及び頭部を殴打するなどの暴行を加えた。Qは,被害者Tを発見したことをNに連絡したほか,被害者Tが被告人に連絡するよう哀願したことから,携帯電話で被告人と連絡をとり,被害者Tに被告人と話をさせた。Qは,被告人が被害者Tを連れてくるようにとの意向を示したことから,被害者Tを被告人方に連れていくこととし,被害者Tを屋外に連れ出した。そのころ,Nは,現場に到着し,被害者Tに対し,あごの辺りを含む顔面及び腹部を足で数回蹴り上げるなどの暴行を加えた。
 
一方,Mは,Oと共にS方に到着すると,被害者Tを上記自動車に乗り込ませ,Oに運転させた上,被告人方へ向かうよう命じた。
 
被告人は,Kに連絡を取って,被害者Tを見つけたので被告人方に来るように言った。

(分離前相被告人N,証人O,証人Q,証人Y)
イ 被告人方における暴行等(第2暴行と総称する。)
 
M及びOは,被害者Tを車に乗せて,判示の「n」に到着し,被害者Tを連れて,同日午前零時30分ころ,同マンションo号室の被告人方に連行した。また,Yも,被害者Tをかくまったとして,Nの運転する自動車に乗せられ,前記被告人方に連行された。
 
被害者Tは,被告人方で被告人に謝罪したり,B組に支払うべきお金の調達方法等を説明するなどしたものの,NやOらは,被告人の面前で,こもごも被害者Tに対し殴る蹴るなどの暴行を加えた。被告人は,最初,被害者Tを見て,Mらに対し「手を出すなと言うとろうが。」などと言ったが,逃げようとしたなどと説明を受けると,それ以上はとがめ立てはしなかったし,面前でNやOが被害者Tに暴行を加えるのを制止しなかった。その後,被告人方に来たKは,被害者Tのところに来るなり,「U,お前,俺との約束を破ったね。」,「お前,Xから引きやがって。どこで売しよっとか。」,「おやじの加勢するっち言いよったやないか。」などと大声で怒鳴りつけ,やはり殴る蹴るの暴行を加えた。

 被害者Tは,この間,リビングにいた被告人が「ここでは手をあげるな。」などと言ったことから,被告人の面前と南側6畳和室とを移動させられたりしていたが,そのうち,Kが,やにわにガラス製灰皿で被害者Tの頭頂部付近を1回,力任せに殴打し,そのため,被害者Tは,うずくまるとともに頭から血を流した。
 
その後,被告人は,Mに対し,被害者Tを同所から連れ出すことを指示し,これに応じ,N,M及びOの3人は,頭頂部から血を流し,足元をふらつかせている被害者Tの襟首を掴んで,同人を同室から連れ出した。
 
被害者Tらは,前記o号室から階段を使って1階へ下り,駐車場を通って判示のマンション「i」p号室の当時のM方に向かった。(証人O,証人Q,証人Y)
ウ 当時のM方における暴行等(第3暴行と総称する。)
 
N,M及びOは,同日午前1時30分ころ,被害者Tを前記マンション「i」p号室の当時のM方に連行した。
 
Oは,Mに言われて被害者Tをひも状の物で後ろ手に縛ろうとしたところ,被害者Tがばたついて抵抗したため,被害者Tの顔面を手拳で数回殴打し,右足の太股を踏みつけるなどした。さらに,後ろ手に縛られ目隠しをされた被害者Tに対し,Mは,お玉とフライ返しを使って金属音を出すなどして被害者Tの恐怖心をあおるなどしていたころ,Q,P,Rの3人が上記M方を訪れた。Qは,Nの指示でゴルフパターを持参してきており,3人ともM方に入った。その後,Nは,被害者Tの頭部を上記ゴルフパターで軽く小刻みに何度も叩き,被害者Tは再び頭部から出血するなどしたが,これらの様子や被害者Tの酷い外見を見てその場にいるのが耐えられなくなったQら3人は,帰る旨断りを入れてM方を去った。
 
そのころ,Kは,M方を訪れ,被害者Tの様子を一瞥した後,Mらに対し,「もう手を出すなよ。」などと言ってすぐに立ち去った。また,Nは,Oと共にM方を離れた。
 
被害者Tは,左手の指から出血していたことから,Oに連絡して止血薬等を買ってこさせたM,O及びMの弟Lから手当を受け,その後眠った。M及びOは,いったんM方を離れた後,再び,M方に戻り,被害者Tの様子をみて,被害者Tを別の場所に移動させることとし,Oの提案により,q区rs丁目t番u号所在の北九州市営v団地w棟x号EダッシュことFダッシュ方に連れていくことにした。Mは,被害者Tを起こして,手を貸して風呂場に連れて行き,手を貸しながらシャワーを浴びさせた。そして,被害者Tは,Mから渡されたジャージの上下をゆっくりとした動作ながら一人で着た。その後,Mは,Oが運転する自動車に被害者Tを乗せてFダッシュ方に向かった。(証人O,証人Q)
エ Fダッシュ方における被害者Tの容体等
 
被害者Tは,同日午前6時過ぎころ,MとOに連れられてFダッシュ方に着いた際,顔が腫れ上がり,血がこびりついた状態で,MとOから両脇を抱えられて部屋に入り,2人から布団に寝かせられた。
 
被害者TらがFダッシュ方に着いてから10分ないし15分が過ぎたころ,OとMは,順に相次いでFダッシュ方を出て行くなどした。その後,Fダッシュとその同居者であるGダッシュが,被害者Tに対し,出身中学や年齢等を尋ねると,被害者Tは,一応の返答をし,Fダッシュが寝るよう言ったのに応じて,「ゴォーゴォー」と高いいびきをかきながら,約二,三時間眠った。(証人O)
オ 被害者TがFダッシュ方から連れ出された経緯等
 
Mは,Fダッシュ方に戻り,同所において,携帯電話で何度も誰かと連絡を取り合っていたところ,Oは,前記のとおりFダッシュ方を出て帰宅した後,Mから電話で「Uを移すから,vに来い。」と言われ,また,B組組員Hダッシュを迎えに行くよう頼まれたので,Hダッシュを迎えに行った。
 
その後,Oは,Hダッシュと共にFダッシュ方に向かったが,この時,Mから「Hダッシュを部屋まで連れてくるなよ。場所は絶対教えるな。とにかく時間稼ぎをしてくれ。」などと言われた。
 
そして,Oが,Mの言いつけに従いHダッシュにFダッシュ方を知られないよう,Fダッシュ方から約100メートル以上離れた場所に車を止め,Hダッシュに車内で待っておくよう言うと,同人は,「お前,こっちは代行の命令で来とるんぞ。」などと怒鳴った。

 そのころ,被告人は,Oに対し,「後のことはHダッシュに指示しとるけ,Hダッシュに任せろ。」と電話で指示した。
 
一方,同日午前10時ころ,MがFダッシュ方に戻り,眠っていた被害者Tに声をかけると,被害者Tは,傍らにある壁に手をつくなどして上体をゆっくりと起こし,両手で体を支えながら正座に近い姿勢で座った後,壁に手をついてゆっくりと立ち上がった。そして,Mも,HダッシュにFダッシュ方を知られないために被害者TをFダッシュ方から連れ出したが,被害者Tは,Fダッシュ方を出るとき,目が合ったGダッシュに対し頭を少し下げて挨拶した後,足を引きずるようにしてFダッシュ方を出た。その後,被害者Tは,Fダッシュ方がある同団地y棟9階にはエレベーターの乗降口がないことから(10階にはある。),少なくとも一部は階段を利用するとともに,エレベーターを利用するなどして階下に降り,同棟から出た後,Mから右肩を掴まれるなどし,押されるような状態でとぼとぼと歩いて,前記車のある場所に着いた。
 
そして,被害者Tは,同日午前10時過ぎころ,Mに少し手を添えてもらってこの自動車の後部座席に乗ったが,MとHダッシュは,Oをその場に残して被害者Tを連れ去った。
(証人O)
カ その後の経緯等
 
Mは,被害者Tを連れ去った後,同日午後には帰宅していた。Mは,帰宅後,弟から被害者Tがどうなったか尋ねられたのに対し,急に表情を変えて怒ったような顔をし,睨みつけて一言もものを言わなかった。また,被害者TをFダッシュ方付近から連れ去るのに使用した車は遅くとも翌21日にiの駐車場に停められていた。
(3)被害者Tの死体の発見並びにその現場及び周辺の状況
 
平成13年5月22日午後6時20分ころ,北九州市b区大字cde番f所在の使用されていないポンプ小屋北側の竹藪から,被害者Tの死体が発見された(死亡推定日は平成13年4月下旬ないし同5月上旬)。
 
被害者Tの死体は,野犬等に食い荒らされた痕跡があり,四肢の一部に乾燥した皮膚や軽度に腐敗した筋肉が残存していたが,その他の部位はほぼ白骨化しており(特に,頭部の全ての軟組織が欠損し,全ての臓器が残存しない。),同月23日の司法解剖の時点で死後約3週間ないし4週間と推定された。
 
本件遺棄現場はg山の山中にあるが,観光道路がg山の裾をh区i山所在のi山公園からj区kl丁目所在のm公園にかけて走っており,その観光道路のi山公園入口から道沿いに約300メートルの位置に第3カーブがあり,その標識から北東に道幅約0.3ないし1メートルの山道(獣道)に入り,概ねなだらかな坂を下りながら,直線で約55.4メートル進み,更に,その地点から南東方向の竹藪に約5.3メートル入った位置に高さ約1.5メートルの石垣があるところ,その石垣の下に,被害者Tの白骨化した遺体,着衣(Fダッシュ方を出た際に来ていたジャージで,丸めるようにして放置されていた。),靴及び財布等があった。i山公園は複数の民家に隣接しており,また,観光道路は小n区側に入れば,同区の街並みが一望できる道路であることなどから,アベックなどのデートコースとなっており,少ないものの車の通りもあり,山間の道路として散歩コースとなっており,少しは人の通りもある道路である。
(4)死体発見後の事情
 
Q,P及びRは,被害者Tの死体が発見された後,Mと連絡をとって,経緯を確かめたところ,Mは,自分が捕まることはない旨述べて,Qらにも警察に事情を聞かれても話をしないよう言った。その際,Mは,被害者Tのことを尋ねられて,「山に捨てた。山からの帰り道では,車のエアコンを全開にしたけど汗が全然止まらなかった。」,「山からの帰りは,もう頭の中が真っ白になってしまい,車を運転していても,目の前がボーっとしてしまった。」などと言った。
 
Q,P及びRは,その後,被告人らと連絡をとって,自首する意向を伝えたが,被告人は,「この件はうちの若い者がしたことだから,お前たちには関係ない。」,「Iダッシュ(Y)はシャブ中やけ,警察は動かん。」,「Uは,6つの組から探されていたから,どこの組がUをやったかわからんのやけ。」,「警察に聞かれても,知らん,知らんと言い通せばいい。この事件は迷宮入りになる。」などと言った。
2 争点に対する判断
(1)被告人と判示共犯者らとの事前共謀について
 
前記1(1)で認定した被告人のB組における地位,立場,被告人と本件共犯者らとの関係,本件犯行に至る一連の経緯や同(2)アないしオで認定した本件犯行当日の経緯,特に,被害者Tは,B組の縄張り荒らしとなる覚せい剤の密売をしたのみならず,B組組員らから捕捉されることを免れるためにX組とのいざこざにまで発展させていたのであり,B組関係者である本件共犯者らが被害者Tを探索し,これを発見するや捕捉するため暴行を加え,B組組員であるM,Nらが発見現場に駆けつけて暴行を加えるなどし,被告人の意向を確かめた上,被告人方に連行したこと等に照らすと,本件犯行は,B組の組長に次ぐ地位にある被告人が中心となって,被害者Tに対し暴力による制裁を加える旨共謀して行ったものと見るのが極めて自然である。
 
しかも,被告人は,自ら被害者TにB組の縄張り内で覚せい剤を密売しない旨約束させていたのであり,Mが平成13年3月末ころ被告人方においてPに対して被害者Tの捕捉を指示した際にもこれに反対するようなことはしなかった上,同年4月13日ころYやSをわざわざ呼びつけて被害者Tの居所を知らせるよう要求したのであって,被害者Tの捕捉に向けて自らも積極的に行動していたものであるし,被告人は,被告人方に被害者Tが連行された際,表面的には暴行をしたことを咎めるような言葉を発しながらも,結局のところ面前での第2暴行を制止したりすることもせず,これを容認していたと考えられるのであり,被害者Tが被告人方を出るに当たっても,その後も被害者Tに暴行を加えることを何ら否定する態度はとっていなかったのである。
 
また,犯行に加わったQ,P,R,Oは,少なくともB組関係者が何らかの制裁として被害者Tに対し暴行を加えるという認識を有して,被害者Tを捕捉し暴行を加えたものである。そして,KとNも,捜査段階では上記共謀内容と合致する供述をし,公判段階でも,とりわけKは,必ずしも一貫した内容ではないが,前記認定1(1)オのX組とのいざこざの際に自ら被害者Tに覚せい剤の密売を止めるよう言ったのに,被害者Tが性懲りもなく密売を続けていたことを知っており,犯行当日被告人方において被害者Tに対し約束を破ったことを叱責する趣旨の発言もした旨認める供述をしているし,犯行当日,被告人から被害者Tを見つけたので来るよう言われて被告人方に赴いたものである上,後記の認定のとおり,被告人方で被害者Tをガラス製灰皿で殴打しているのである。
 
これらの事実に照らせば,被告人は,被害者Tに暴行を加えることを認識・認容した上,Mに対し被害者Tの捕捉を指示してMとの共謀を遂げ,Mを始めとする本件共犯者らにおいて被告人の意向を受けて,順次共謀の上,被害者Tを捕捉し,暴行を加えたものと認めるのが相当である。
 
これに対し,被告人は,X組とのいざこざの際にX組が被害者Tを4月末までに連れてきて謝らせ,金銭も支払うとの約束がつき,これを受け,被告人は配下の者に被害者Tとはこれ以上揉め事を起こさないよう強く言い聞かせた旨公判段階で供述するほか,Mの公判供述もこれに沿うかの如き内容となっており,弁護人も,上記話合いで問題は解決済みとなっており,被告人は被害者Tの探索にも何ら関わっていない旨主張する。
 
しかしながら,前記認定のとおり,被害者Tを捕らえるためにMらが種々行動していることを被告人が認識して容認していたとうかがえることや,上記のとおり,被告人自らYらを呼びつけて被害者Tの居所を知らせるよう要求したことなど,被告人及びKも関与したX組とのいざこざの後も,被告人の意向を受けてMらが組織的に被害者Tを探そうとしていたのであり,被告人のいう4月末という期限よりも前に被害者Tを捉えようとしていたことも明白であって,Mは,上位の立場にある被告人の意向を受けて,Pに対し被害者Tの捕捉を指示したものと優に推認できるところである。被告人やMの上記各供述は,これらの事実とあまりに整合的でないといわざるを得ず,弁護人の上記主張も採用できないことは明らかである。
 
以上の次第で,本件では被告人を含めた全共犯者らの事前の共謀により被害者Tに暴行が加えられたことが優に認められる。
(2)Kが灰皿で殴打したと認定した点について
 
被告人,K,N,Mの4名は,公判廷において,被告人方で被害者Tの頭をガラス製灰皿で殴ったのはOである旨供述し,Qも2回目の証人出廷の際にはこれと同旨の供述をするに至っているので,この点につき判断する。
 
上記各供述に対し,O及びYは,ガラス製灰皿で殴った者はKである旨供述しているところ,上記両名の各供述は殴打行為の場所がリビングであるのか南側6畳和室であるのかについて一致していない(なお,Q,P,R,Dダッシュらは,Mらに遅れて被告人方を訪れた際,被害者Tは南側6畳和室にいて,血が額を伝わって流れて顔が血だらけで,うなり声をあげていたとしている。)。
 
しかし,Oは,本件犯行当時,覚せい剤を注射していたものの,記憶の曖昧な部分を区別しながら,当日の出来事を具体的に供述しているなど,全体として記憶に従って率直に供述していることがうかがわれるだけでなく,B組の親交者であったOが格上のKに責任をなすりつけるだけの動機も何らうかがわれない。また,Yについても,被害者Tと親しくしていたことからB組関係者に対して反発する心情を抱いている可能性はあるとしても,殊更Kのみに悪感情を抱いていた事情もうかがえず,公判廷において,相当に具体性がある供述をし,面識のあるKとそうでないOとを明確に区別した上で,灰皿で殴ったのはKである旨供述しているのであり,このように,本件における立場や関与の仕方が明らかに異なるOとYが,それぞれの立場で記憶に従って供述した結果,図らずも灰皿で被害者Tを殴ったのはKである旨一致した供述をしていることは,殴打した人物を特定する部分については,その供述の信憑性を保障する事情となるというべきである。そして,そもそもK自身が捜査段階では上記灰皿での殴打行為を明確に否定せずに曖昧な供述に終始していたのであり,これらの点からすると,灰皿で殴ったのがKであるとするOやYの各供述の信用性が低いということは到底できない。かえって,被告人,K,N,Mの4名は,前記のとおり,事前共謀という重要な点で事実とは異なる供述をいずれもしているのであり,また,Qにしても,捜査段階及び1回目の証人出廷の際に灰皿で被害者Tを殴打したのはOであると言えなかったのは,その行為の責任を自分まで負うことになると思ったからであるなどと説明するものの,前記認定のとおりQは被害者Tの死亡の事実を知った際に自首しようとしたほか,捜査段階では被害者Tが死亡したことに対し潔く処分を受けたい旨供述するなど,事実を正直に述べる姿勢が見て取れたのであり,上記説明はこれらのことと整合しないし,Qと一緒に被告人方に赴いたP,Rらのいずれも灰皿での殴打行為に及んだ者に言及していないのであって,これらの事情にも照らせば,むしろ上記被告人ら5名の供述の方が信用性が低いというべきである。
 
よって,灰皿で被害者Tの頭を殴ったのはKであると認定するのが相当である(なお,Dダッシュは,Oが灰皿を持って被害者Tを脅していたような記憶がある旨供述するが,被害者Tが灰皿で殴打された場面のことを供述しているものともうかがえない上,Dダッシュはこの点に自信がないとしており,上記認定を左右するものではない。)。
(3)本件死因及び第1ないし第3暴行との因果関係について
 
Jダッシュ作成の鑑定書のうち,関係者の供述内容に基づくものによれば,可能性のある被害者Tの死因として,第1ないし第3暴行の結果生じた頭蓋内損傷及び腹腔内損傷を挙げている。
 
確かに,被害者Tが前記認定のとおりのFダッシュ方において見られた身体状況等に照らせば,第1ないし第3暴行を通じて,灰皿による殴打行為を含む頭部への暴行により重篤な頭蓋内損傷を受け,これが本件の死因となった可能性も十分に存するといえるが,上記鑑定の判断自体,ほとんど白骨化し(特に頭部の全ての軟組織が欠損し,全ての臓器が残存しない。),死亡に直結するような顕著な骨折や覚せい剤を除く毒物反応等が見られない本件死体につきされたもので,その余の可能性を否定することも困難である以上,上記の被害者Tの死因につき,可能性の域を超えて,高度の蓋然性があることまでの判断が示されているとまで解することはできない。
 
しかも,本件においては,後記のとおり,主位的訴因とされた第1ないし第3暴行のほかに,それに続いて,いわゆる第4暴行が加えられたと認定できるのであるから,本件においては,前記のとおり,第1ないし第3暴行が本件の死因となった可能性も十分に存するものの,第4暴行の存在を前提として,第1ないし第3暴行と第4暴行が相まって被害者Tが死亡した可能性も,第4暴行のみで独立の死因を形成した可能性もまた存在するところである。そして、後記のとおり,本件においては,第4暴行の具体的内容やその程度が明らかでないのであるから,第4暴行のみで独立の死因を形成した可能性も完全には否定できないことになり,結局,第1ないし第3暴行のみで本件の死亡の原因を形成したと断定することはできない。したがって,死因に関し主位的訴因を認定することには合理的な疑いが残るといわざるを得ないものである。
(4)犯罪事実中,当時のM方を出て以降,更に,被害者Tに対し何らかの暴行(第4暴行と総称する。)が加えられた旨(予備的訴因)認定した点について
 
上記認定の事実及び関係各証拠をもとに,まず,被害者Tが本件遺棄現場に遺棄された時期について考察するに,前記認定のとおり,犯行当日午前10時過ぎころFダッシュ方付近からHダッシュと共に被害者Tを連行したMは,午後には既に同人が当時使用していた前記io号に帰ってきており,また,連行に使用した車は遅くとも翌21日にiの駐車場に停めてあった上,後記のとおり警察に発覚することを避けようとしていたと考えられるMらが,相当程度の重傷を負っていた被害者Tを日中にもかかわらず無意味に自動車等の支配領域内に置き続けたとも考えにくいから,被害者Tが本件遺棄現場に遺棄されたのは,本件犯行当日の,前記Fダッシュ方付近から連行された後,あまり時を経ない時点であると推認される。また,このように,Mらが被害者Tを連行した後,あまり時を経ない時点で被害者Tが遺棄されたと推認される一方で,後記説示のとおり,被害者Tを連行したMらが本件犯行の発覚を防止するために十分な措置を取らないまま容易に被害者Tを解放して無関係の人間が関与する余地を残したとも考えにくいことからすると,本件遺棄現場に被害者Tを遺棄したのは,Mらか,あるいはMらと意を通じた人物であると推認され,Mら関係者とは無関係の人物が別途被害者Tの遺棄に関与したとは考えられない。 
 
そこで,Mら関係者が被害者Tを本件遺棄現場に遺棄した目的について詳しく考察するに,前記認定のとおり,被害者Tは通常は人が来ることのない本件遺棄現場で死体で発見されていること,Hダッシュが被告人から指示を受けてFダッシュ方付近に来て,Mと共に被害者Tを自動車に乗せてFダッシュ方付近から立ち去ったこと,被害者Tの死体発見後のM及び被告人の言動等,とりわけ被告人が事件の迷宮入りを示唆していること等をも考慮すると,被害者Tを遺棄したのは,本件犯行がMらB組関係者によるものであることの発覚を防止するためであったと認定できる。
 
以上のことを前提に更に考察すると,被害者Tが,自力で生還したり,声を出すなどして救援を求めることが可能な状態で遺棄したのでは,発覚防止の目的にそぐわないから,本件遺棄現場から被害者Tを現場に連行したと推認されるMら関係者が立ち去る時点において,被害者Tは,既に死亡していたか,少なくとも,自力での生還や声を出すなどして救援を求めることが著しく困難な状態にあったものと推認できる。
 
また,そのような状態にまで至っていない状態で被害者Tを解放した場合,本件犯行が警察に発覚するおそれがあったことも否定できないのであるから,Mら関係者は,被害者Tをその支配下に置き続けた上,自力で生還したり,声を出すなどして救援を求めることが著しく困難な状態になったことを確認して,初めて被害者Tを解放したものと考えられ,したがって,被害者Tの容体の変化はMら関係者の支配下にあるときに生じたものと認められる。
 
そして,前記認定のとおり,被害者Tは,Fダッシュ方においてはGダッシュと一応の会話を交わし,同方を出るときもGダッシュに挨拶をし,Fダッシュ方を出た後,少なくとも一部,階段を利用して階下に降り,Mに掴まれるなどしながらも,Oらが停めた車まで約100メートル以上,自分で歩いたのであり,既に説示した,本件遺棄現場でMら関係者が立ち去る時点で想定される被害者Tの容体とは,著しい違いがあるところ,このような著しい違いが短時間のうちに生じているのである。この点,第1暴行ないし第3暴行による傷害に起因する容体の急激な悪化の可能性もあり得ないではないが,Fダッシュ方を出る際の被害者Tの容体からみて,その可能性は乏しいものと考えられるところ,本件の一連の経緯に加え,犯行後にOやFがMから被害者Tを山中に連行して千枚通し(アイスピック)で刺したなどと聞かされた旨一致して供述していることをも参酌すると,犯行の発覚防止のためにMら関係者が被害者Tに対して更に激しい暴行を加えた蓋然性が十分にあり,第4暴行の存在を肯定すれば,被害者Tの容体の急激な変化の理由が合理的に説明可能となるのであり,また,前記認定のMの犯行当日の弟に対する言動,後日のQらに対する言動は,犯行当日,Mが何らかの特異な体験をしたことをうかがわせることとも符合することとなるのである。
 
これらのことを総合すると,被害者Tは,その内容及び犯行場所を確定するには至らないけれども(前記の弁護人請求番号2及び3の証拠も裏付けがなく,Mが話した内容どおりの事実があったとまで認定することはできない。),Mら関係者によって,容体の急激な変化をもたらすに足りる何らかの暴行を加えられたと推認するのが相当であり,したがって,予備的訴因である第4暴行の存在を認定するのが相当である。
(5)判示暴行の全部につき,被告人と他の共犯者全員との共謀を認定した点について
 
本件では,おおまかに分けて4か所において被害者Tに暴行が加えられているところ,共犯者間に事前の共謀が認められることは前記のとおりである。
 
すなわち,本件一連の暴行は,B組の覚せい剤の密売による利益と体面とを保つために組織的に行われたものであるといえるところ,被害者TはそれまでにB組に対し相当背信的な態度を続けていたのであり,共犯者らの被害者Tに対する憤激の念は大きく,Mらが当初から激しい暴行を継続的に加えることが予想されていたということができるし,被告人もそのことを十分認識していたものと認められる。しかも,前記のとおり,被告人は,被告人方に被害者Tが連行された際,表面的には暴行をしたことを咎めるような言葉を発しながらも,面前での第2暴行を容認する態度をとっていたのであり,被害者Tが被告人方を出るに当たっても,その後も被害者Tに暴行を加えることを何ら否定する態度はとっていなかったのであるから,被告人が第1暴行及び第2暴行を認識・認容していたことは明白である。
 
さらに,本件の首謀者である被告人がこのように被害者Tに対する継続的な暴行を容認する態度をとっていたことに加えて,本件犯行に至る一連の経緯及び犯行当日の経緯,本件共犯者の地位及び関係等をも考慮すると,第2暴行の現場である被告人方から被害者Tが移動する時点において後に被害者Tに激しい暴行が加えられることも,被告人において十分に認識・認容していたものというべきである。
 
のみならず,被告人は,被害者Tに対する第3暴行が加えられた後,Fダッシュ方から被害者Tが連れ出される際には,Oに対し,「後のことはHダッシュに指示しているけ,Hダッシュに任せろ。」と指示して,容体が悪化した被害者Tに対する事後措置についてまで指示しているところであり,その後,被害者Tに対して第4暴行が加えられていること,第4暴行が加えられた目的は被告人らの犯行の発覚防止等にあると認められることに照らすと,被告人は,第4暴行についても,認識・認容していたものと認めるのが相当である。
 
なお,事前の共謀に基づいて共犯者が暴行を加えた後に,場所を変えて暴行が断続的に加えられたような本件において,後の暴行現場に共犯者全員がいるのでないときでも判示暴行の全部につき共犯関係にあるといえるためには,被害者Tが先行の暴行場所から別の場所に移動する時点において他の共犯者が被害者Tに制裁を加えるおそれがいずれも消滅していなかったといえるだけの関係に最低限なければならないと解されるところ(最一小決平成元年6月26日・刑集43巻6号567頁参照),本件共犯者らは本件一連の暴行においていずれもそれ相応の役割を果たしていたというべきところ,いずれの共犯者も他の共犯者が暴行に及ぶことを殊更防止し,あるいは自己の影響力を解消するような行為をしたとは認められず,他の共犯者が被害者Tに制裁を加えるおそれは消滅していなかったから,共犯関係が解消したとはいえないというべきである(この点,Kがip号室に顔を出して,Mらに被害者Tに対する暴行を止めるよう言ったのも,その地位等に照らして単にその言葉を言い残して去っただけでは,自己の影響力を解消するものということはできない。そして,前記認定事実によれば,他の共犯者についても共犯関係を解消させる行為は何ら認められないというべきである。)。
 
以上によれば,第4暴行を含めた判示暴行全部について,被告人と他の共犯者全員の共謀を認めるのが相当である。
(6)本件死因について(予備的訴因)
 
前記のとおり,Jダッシュ作成の鑑定書のうち,関係者の供述内容に基づくものは,可能性のある被害者Tの死因として,第4暴行に至る前までに加えられた暴行の結果生じた頭蓋内損傷及び腹腔内損傷を挙げているが,第4暴行の存在が認定できる以上,その死因を頭蓋内損傷及び腹腔内損傷のみに限定することはできない。
 
しかし,本件においては,既に説示してきたとおり,被害者Tが自力での生還や声を出すなどして救援を求めることが著しく困難な状態に至ったのは,B組関係者の支配下にあるときであると認められるのであるから,被害者Tの死亡の原因が第4暴行を含めた本件一連の暴行にあると認めることには,合理的な疑いはないというべきであり,被害者Tの死亡と本件一連の暴行との因果関係を肯定するのが相当である。ただし,その死因については,前記のとおり,頭蓋内損傷による死亡の可能性も完全には否定できないが,さりとて,他の死因を確定することも困難であるから,死因については,予備的訴因のとおり「頭蓋内損傷又は何らかの傷害」であると認定するのが相当である。
(7)以上,説示してきたところによると,第4暴行の際に相当に激しい暴行が加えられてそれが主たる死因となった可能性も否定できないのであるが,前記のとおり,第4暴行を加えたのは,Mらか,Mらと意を通じた人物に限られ,これらの者についても被告人との共謀関係を肯定することができるのであるから,被告人が傷害致死罪の責任を負うことは当然である。
 
以上の次第で,予備的訴因を含む第3の犯罪事実を認定した。
(累犯前科)(略)
(法令の適用)
1 罰条
第1の1の所為
 
けん銃を発射した点 銃砲刀剣類所持等取締法31条,3条の13
 
建造物を損壊した点 刑法260条
第1の2の所為
 
銃砲刀剣類所持等取締法31条の3第2項,1項,3条1項
第2の1の所為
 
器物損壊の点 刑法60条,261条
 
住居侵入の点 同法60条,130条前段
第2の2の所為
 
器物損壊の点 刑法60条,261条
 
住居侵入の点 同法60条,130条前段
 
殺人未遂の点 同法60条,203条,199条
第3の所為
 
刑法60条,205条
2 科刑上の一罪の処理
(1)第1の1
 
刑法54条1項前段,10条により,重いけん銃を発射した罪の刑で処断
(2)第2の1
 
刑法54条1項後段,10条により,犯情の重い住居侵入罪の刑で処断
(3)第2の2
 
刑法54条1項後段,10条により,最も重い殺人未遂罪の刑で処断
3 刑種の選択
 
第1の1 有期懲役刑を選択
 
第2の1 懲役刑を選択
 
第2の2 有期懲役刑を選択
4 累犯の加重
 
第1の1,2,第2の1,2の各罪は前記各前科との関係でいずれも刑法59条,56条1項,57条により3犯の加重,第3の罪は前記(2)の前科との関係で刑法56条1項,57条により再犯の加重(ただし,第1の1,2,第2の2,第3の各罪は刑法14条の制限内)
5 併合罪の処理
 
刑法45条前段,47条本文,10条(刑及び犯情の最も重い第2の2の罪の刑に刑法14条の制限内で法定の加重)
6 未決勾留日数の算入
 
刑法21条
7 訴訟費用の不負担
 
刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
1 本件は,指定暴力団AB組幹部である被告人が,C建設株式会社九州支店の出入口横のガラス製外壁等に向け,所携の自動装てん式けん銃1丁を用いて実包6発を発射してそのガラス製外壁等を損壊し,その際上記けん銃を上記適合実包と共に携帯して所持した事案(第1の1,同2),当時D倶楽部の支配人であった被害者Eを襲撃するため,判示B組組員らと共謀の上,被害者E宅の窓ガラスを金属バットでたたき割るなどして損壊した上,同人方内に侵入した事案(第2の1),さらに,後日,判示B組組員らと順次共謀の上,被害者E宅のガラス等を金づちでたたき割るなどして損壊した上,同人方寝室内に侵入し,同所において,未必の殺意をもって,短刀様の刃物で,その左前胸部を1回突き刺したが,同人に約1か月間の入院加療を要する傷害を負わせたにとどまり,殺人は未遂に終わった事案(第2の2),及び,判示B組関係者らと共謀の上,被害者Tに暴行を加えて同人を死亡させた傷害致死の事案(第3)である。
2 まず,被害者Tを死亡させた第3の傷害致死の犯行は,被告人を含むB組関係者らが,いわゆる縄張りにおける覚せい剤密売につき,約束に反して他の組織から仕入れた覚せい剤を密売していた被害者Tに対し,厳しい制裁を加えることにより,同地域における密売利益の独占態勢を維持するとともに,暴力団としての体面を保つという組織的目的を有するものであり,暴力団組織特有の身勝手かつ反社会的な動機に基づくものである。
 
そして,その犯行態様は,被害者Tに対し,場所を移動しつつ,数か所において長時間にわたり,繰り返し激しい,あるいは陰惨な暴行を加え,その結果,死亡させるという,執ようかつ残忍で危険なものであるが,被告人は,B組組長に次ぐ地位にあり本件で最も格上の者として同組の密売利益の独占態勢の維持に切実に関わっていたとみられ,そのような立場から配下の共犯者らを取り仕切っていたなど,本犯行において,その首謀者としての立場で,終始主導的に関与したものであって,その果たした役割は大きい。
 
この犯行により,被害者Tは,B組関係者らに拘束されて,恐怖の中,激しい暴行を受けるなどし,結果的にその生命を奪われた上,山中において白骨化した無惨な姿で発見されたもので,その恐怖感や肉体的苦痛はもとより,26歳の若さで突然その生命を奪われた無念さは察するに余りある。
 
それにもかかわらず,被告人は,前記のとおり,共謀の点を含めた犯行内容につき事実とは異なる弁解を続けるなど,被告人に真摯な反省の情は十分にはうかがえず,また,本件被害に対する慰謝の措置は何らとられていない。
2 第2の各犯行は,Aの幹部が判示会社のゴルフ場の利用を禁止されたことなどに対して,被告人が,同ゴルフ場の支配人である被害者Eを襲撃させて報復し,Aの威勢を示すとともに,自らの組を興すために組織内での実績を作ろうなどと考えて行ったもので,その動機は著しく反社会的で身勝手なものであって,もとより何ら酌量の余地はない。
 
各犯行は,被告人の指示の下,その配下にあったFらが役割を分担して行った組織的犯行であるが,被害者の住居や行動を調査した上で第2の1の犯行に及んだものの,被害者Eの襲撃は被害者不在により失敗したため,第2の2の犯行においては,これ以上の失敗が許されないとの認識のもと,本件凶器を用意し,犯行直前には被害者の在宅を確認するため電話をかけるなどしており,周到な準備をして行った執ようかつ計画的犯行である。各犯行のうち器物損壊と住居侵入の態様は,被害者方住居のガラスを金属バットないし金づちで破損して,屋内に侵入するという大胆かつ粗暴なものであるが,第2の2の犯行においては,さらに,狙い通りに,寝室で寝ていた被害者を襲い,刃の長さ約24センチメートルという殺傷能力の高い短刀様の本件凶器を用い,被害者の左胸という身体の枢要部を刺突したもので,極めて危険かつ悪質なものである。そして,被告人は,本件各犯行においても,配下の共犯者らに対し指揮命令をする首謀者として主導的に関与しており,その果たした役割はやはり大きい。
 
被害者Eは,各犯行において判示財産的損害を受けたほか,第2の2の犯行により,約1か月間の入院加療を要する心臓刺創,左肺刺傷による左血胸の傷害を負ったが,心尖部の傷は左心室の手前約1センチメートルのところまできており,仮に,この傷が左心室に達していれば,心臓からの大出血により救命が不可能であり,死亡が避けられなかったものであり,殺人が未遂に終わったとはいえ,その結果は重大である。被害者Eは,何ら落ち度がないにもかかわらず,理不尽な犯行により生死に関わる重大な身体的被害及び精神的苦痛を被ったのであり,その処罰感情が厳しいのは当然である。
 
また,各犯行は,利用者が安心してゴルフに興じることができるようにしようというゴルフ場業界での暴力団排除の動きに対して威嚇し,報復したもので,一般市民に不安を与えるなど社会的影響も大きい。暴力団組織を背景として,自らの利害に反する特定の市民を襲撃目標として狙い定め,前記のとおり周到に犯行計画を練った上,執ように襲撃の機会を狙い,最後は夜間住居に押し入って,就寝中の無防備な相手を襲撃するなどという行為は、平和な市民生活に対する重大な脅威であって,強い非難を受けるべきものである。

4 さらに,第1の各犯行は,被告人の供述によれば,被告人が,平成12年6月初めころ,当時被告人と親交のあったB組関係者から,同人がC建設九州支店関係者数名から暴行を受けた旨の報告を受けたことから,B組の体面を保つとともに,C建設から多額の金員を喝取することを企て,同支店長等幹部の恐怖心を煽り,喝取を容易にするための手段として敢行したというのであり,暴力団特有の極めて身勝手かつ反社会的な動機に基づくものである。そして,本犯行は,人通りの多い白昼に,社員や往来者等も少なくない判示建物の正面玄関やその横のガラス製外壁に向けて,けん銃を使用して実包6発を発射し,上記ガラス製外壁等を損壊したもので,不特定・多数人の生命・身体に被害を及ぼしかねない極めて危険かつ悪質なものであり,この犯行が社会に与えた衝撃も大きく,生じた物的被害も判示のとおり相当高額である。被告人は,自分が懲役刑を受けることなどを意に介さず,被害者に強い恐怖心を与えるとともに暴力団組織における実績をつくるためとして,あえて,人目につきやすい昼間を選んで本件を敢行したものであり,また,情を知った配下の者にナンバープレートを替えた自動車を準備させて現場まで運転させ,犯行後の逃走に備えて待機させるなど,暴力団幹部の地位を利用して配下の者をも犯罪に巻き込んでおり,これらの点も併せると,本件犯情は一層悪質である。 
5 被告人は,これまでに前記累犯前科2犯を含む4犯につき懲役刑を受けて服役し,再三,更生の機会を与えられながら何ら自重自戒することなく,かえって,前刑出所後も暴力団幹部の地位にあり続け,自己の実績をあげて組織内での昇格や新しい組の立ち上げをもくろみ,あるいは,暴力団組織の利益を確保するなどのために,自ら又は首謀者として配下の者を指揮して,立て続けに重大な本件各犯行に及んでいるのであり,また,第2の2及び第3の各犯行については,責任逃れとみられる前記不合理な弁解に終始していることなどにも照らせば,その規範意識及び更生意欲の欠如は顕著であるばかりか,反社会的性格が固定化しつつあるとうかがえるのであって,以上の情状によれば,その刑責には極めて重いものがあるというべきである。
6 もっとも他方,第2の2の殺人未遂の犯行については,被告人は,未必の殺意を有していたにとどまるほか,幸いにも,被害者Eを死亡させるには至っていないところ,被告人は,被害者Eに支払われた労災保険給付金にかかる国からの求償としての損害賠償請求に全額応じていること,第3の傷害致死の犯行については,前記のとおり被害者Tは,B組からの警告後もB組以外の組関係者から覚せい剤を仕入れて密売を続けていたなど,B組関係者の反発を誘発した面があり,また,被告人は,被害者Tの死に対し,被告人なりに哀悼の意を表していること,そして,その他の第1の1,2,第2の1の各犯行について,被告人は自分の犯行を認めて同人なりに反省の態度を示していることなどの被告人のために酌むべき情状もある。
 
そこで,これらの全事情を総合して考察するに,本件の主要な犯行である銃砲刀剣類所持等取締法違反,殺人未遂,傷害致死は,それぞれが重大な犯行であり,被告人は,平和な市民生活に重大な脅威となる犯罪も立て続けて敢行し,反社会的性格の固定化もうかがえるのであって,市民の安全と平穏な生活を確保するという一般予防の必要性を考慮すべきであるなどとする検察官の意見には傾聴すべきところがあるけれども,前記の諸情状によれば本件各犯行を集積した全体の犯情が無期懲役刑を科すべきまでに至っているとは考えられず,有期懲役刑の範囲内で主文の刑期が相当であると判断した。
(求刑 無期懲役)
平成16年4月23日
福岡地方裁判所小倉支部第1刑事部
裁判長裁判官 野島秀夫 裁判官 西森英司 裁判官 大庭和久

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