殺人福岡13

殺人福岡13

福岡地方裁判所小倉支部/平成13年(わ)第36号等

主文
1 被告人Aを懲役19年に,被告人Bを懲役5年に処する。
2 被告人両名に対し,未決勾留日数中各870日を,それぞれその刑に算入する。

理由
(罪となるべき事実)
第1 被告人Aによる住居侵入,殺人,同Bによる傷害致死幇助
1 被告人Aは,他と共謀の上,平成12年11月27日午後8時ころから同月28日午前5時ころまでの間,北九州市a区大字bc番地d団地e棟f号所在のC方に侵入した上,同所において,C(当時30歳)に対し,殺意をもって,刃体の長さ約13.3センチメートルのフィッシングナイフ等でその左乳房部,左胸部,左腹部等を数回突き刺し,左肺及び心臓切損を伴う左乳房部刺創等を負わせ,よって,そのころ,同人を上記刺創に基づく失血により死亡させた
2 被告人Bは,同Aらの上記1の殺人に当たり,同被告人が何者かに対する傷害に及ぶと認識しながら,平成12年10月22日ころ,北九州市又はその周辺において,Dらを通じて入手した上記フィッシングナイフを含むナイフ3本を被告人Aに渡して,上記殺人の犯行を容易にし,傷害致死罪の限度で幇助した
ものである。
第2 被告人両名による各犯行
1 被告人両名は,Dと共謀の上,知人のE(当時21歳)から金員を喝取しようと企て,

(1)平成12年6月28日午前1時ころ,北九州市g区h町i丁目j番k―l号所在の当時の被告人A方において,Eに対し,「何でお前電話に出んのか。留守番電話になって余分な料金を取られた。」,「迷惑料として50万円払え。払わんならどうなるか分からんぞ。」などと脅迫するとともに,その両足首を緊縛し,背部,両足等にスタンガンを押し当てて放電するなどの暴行を加えて金員を要求し,これに応じなければ更に同人の身体等にいかなる危害を加えるかもしれない気勢を示し,同人をしてその旨畏怖させ,よって,同日午後5時30分ころ,同所において,同人から現金21万3000円の交付を受けてこれを喝取し,その際,上記暴行により,同人に加療約3週間を要する両膝・両足関節・右足背熱傷の傷害を負わせた
(2)平成12年7月3日午後11時ころ,北九州市m区no丁目p番q号所在のUダッシュビル前路上において,上記(1)記載の暴行・脅迫により畏怖していたEに対し,「明日までに30万円作って持って来い。」,「お前,残りの金どうするんか。」,「兄貴に作ってもらえ。」などと申し向けて金員を要求し,同人をして前同様に畏怖させ,よって,同月4日午後6時30分ころ,同市r区st丁目u番v号所在のRダッシュ店駐車場において,同人から現金8万円の交付を受けてこれを喝取した
(3)平成12年7月6日ころ,上記Rダッシュ店駐車場において,上記(1)記載の暴行・脅迫により畏怖していたEに対し,「お前,金できたか。」,「もう1回兄貴に頼んでみろ。」などと申し向けた上,北九州市w区xy丁目z番a号所在のSダッシュ店駐車場及び同所から同市b区cd丁目e番f号所在のTダッシュ病院に向かって走行中の普通乗用自動車内において,同人に対し,その顔面に催涙スプレーを吹きかけ,手足にスタンガンを押し当てて放電するなどの暴行を加えて金員を要求し,同人をして前同様に畏怖させて金員を喝致しようとしたが,同人が警察に届け出たため,その目的を遂げなかったものである。
2 被告人両名は,D,F,G及びHと共謀の上,平成12年8月21日午前2時ころ,北九州市g区大字hi番地のj所在のI土木会社駐車場において,
(1)ア 被告人Bが,同所に駐車中の上記I土木株式会社所有に係る普通貨物自動車(イスズフォワード)のフロントガラスを所携の金属バットで殴打して破損(損害額12万8000円相当)させ,
イ Dが,同所に駐車中の上記I土木株式会社代表取締役J管理(Wダッシュ株式会社所有)に係る小型貨物自動車(三菱キャンター)のフロントガラスを所携の石を数回叩き付けて破損(損害額6万2000円相当)させ,
ウ Fが,同所に駐車中のJ所有に係る小型貨物自動車(イスズエルフ)のフロントガラスを所携の石を2回くらい叩き付けて破損(損害額7万5500円相当)させ,
エ 被告人Aが,同所に駐車中の上記J所有に係る軽四輪貨物自動車(ホンダストリート)の左サイドリヤガラスを所携の木製バットで殴打して破損(損害額合計2万5200円相当)させ,
オ 被告人Aが,同所に駐車中のK所有に係る軽四輪貨物自動車(三菱ミニキャブ)のフロントガラス,左スライド前側ガラス,左リヤサイドガラス,リヤドアガラスを所携の木製バットで殴打して破損(損害額合計10万9500円相当)させ,
もって,いずれも他人の物を損壊した
(2)被告人両名,Fが,こもごも,同所に駐車中のK所有に係る軽四輪乗用自動車(ダイハツミラ)のフロントガラス,左ドアガラス,リヤガラスを所携の金属バットで殴打するなどして破損(損害額11万9600円相当)させ,もって,数人共同して他人の物を損壊した
ものである。
3 被告人両名は,共謀の上,平成12年9月10日午前4時18分ころ,北九州市k区l町m丁目n番o号付近道路において,暴走族取締中のGツーダッシュ警察部交通課機動取締班勤務の警部補L及び同巡査Mに対し,同人らが乗車中の交通取締用無線自動車リヤガラスに向けてゴム銃様の物でパチンコ玉を弾いて命中させる暴行を加え,同県警察本部警視監N管理に係る同車のリヤガラスを損壊(損害額6万9030円相当)させ,もって,上記L警部補らの職務の執行を妨害するとともに,他人の物を損壊した
ものである。
第3 被告人Aによる各犯行
 
被告人Aは,
1 平成12年10月2日,北九州市p区q町r丁目s番t号所在のXダッシュ株式会社k営業所サービス工場出入口付近において,同所に駐車中の同営業所所長R管理に係る普通乗用自動車1台(時価約500万円相当)を窃取した
2 O,P,F及びQと共謀の上,平成12年10月16日ころ,北九州市u区vw丁目x番y号所在のS方において,T所有に係る自動二輪車1台(時価約30万円相当)を窃取した
3 Oと共謀の上,平成12年10月19日午後4時18分ころ,北九州市z区ab丁目c番d号所在のマンション「Yダッシュ」1階エレベーターホールにおいて,U(当時53歳)に対し,鉈様の刃物でその右上腕部,右肘部を各1回切り付ける暴行を加え,よって,同人に対し,加療約29日間を要する右前腕(肘部)切創,右上腕打撲の傷害を負わせた
4 V,W,P及びFと共謀の上,金品窃取の目的で,平成12年11月13日,北九州市e区f町g丁目h番i号Eツーダッシュビル2階所在のXことYが看守する衣料品販売店「Vダッシュ」倉庫の窓ガラスから同倉庫内に侵入した上,同所において,同人所有に係る衣類等の商品合計195点(時価合計195万6420円相当)を窃取した
5 平成13年3月23日午後零時15分ころ,北九州市j区kl丁目m番n号所在のFツーダッシュ警察署留置場第1留置室において,便所木製ドアを足蹴にした上,外れた同ドアを便所目隠し板目掛けて叩き付け,よって,同県警察本部長N管理に係る上記ドア及び目隠し板をそれぞれ外して使用不能(損害額合計5万2000円相当)にさせ,もって,他人の器物を損壊した
ものである。
(証拠の標目)(省略)
(事実認定の補足説明)
 
被告人A(以下「A」という。)は,Aに対する平成13年(わ)第352号住居侵入,殺人(第1の1),同第932号窃盗(第3の1)各被告事件につき,被告人B(以下「B」という。)は,Bに対する同第352号殺人幇助被告事件につき,共に公訴事実(上記352号事件については訴因変更後のものを含む。)に身に覚えがない旨供述し,弁護人も,これらの各事件について,被告人両名はいずれも無罪である旨主張する。
 
そこで,以下,当裁判所が判示事実を認定した理由についてそれぞれ説明する。
第1 Aに対する殺人等被告事件について
1 関係各証拠によれば,本件住居侵入,殺人事件のあった日(平成12年11月27日から翌28日にかけて)(以下「本件犯行日」という。)の前後におけるAの動向,言動等について,以下の各事実を認めることができる(なお,各項末尾に,認定に資した主な証拠を掲記した〔不同意部分のあるものにつきその旨は省略している。〕。)。
(1)本件犯行日以前について
ア Aは,指定暴力団ΣNダッシュ組(以下「Nダッシュ組」という。)の理事であり,Bは,同組の幹事であるが,被告人両名は,同じ中学校の先輩と後輩の関係にあり,BはAのことを日頃から「兄貴」と呼びAの舎弟として親しくしていた。
 
被告人両名は,平成12年春ないし夏ころから,同じ中学校の後輩であるD(以下「D」という。),P(以下「P」という。),W(以下「W」という。),Q(以下「Q」という。)やこの者らの友人であるF(以下「F」という。)らとよく行動を共にするようになり,この者らを「小兵隊」と称して,自分らの配下の者のようにしていた。
イ 被害者C(以下「被害者」という。)は,平成元年ころ,Zと共にGダッシュ工業で働き始めたが,間もなくして上記Zと一緒に退職し,共にOダッシュ(Nダッシュ組の上部団体の前記Σの前身であるPダッシュ総長であったAダッシュの息子Bダッシュが組長となって組織した暴力団)の構成員となった。しかし,平成5年ころ,被害者は,Oダッシュを脱退して再びGダッシュ工業で働くようになり,以降暴力団とは縁を切った生活をしていた。一方,上記Zは,Oダッシュの構成員となった後,前記Qダッシュ組に所属するようになったが,この他にもOダッシュに所属した後にQダッシュ組の構成員となった者がCダッシュ(現在は同組若頭)等複数名いた。しかるところ,平成11年ころ以降,上記Zや,Qダッシュ組親交者のDダッシュが,何度となく被害者に接触し,暴力団に戻ってくるよう要求していたものの,被害者はこれを断り続けていた。
ウ Aは,平成12年(以下「平成12年」の記載を省略する。)8月下旬ころないし9月初旬ころ,Bらに対し,被害者の探索ないし被害者宅での見張りを依頼した。その際,Aは,Bに対し,被害者について,使用している自動車の車種,色,登録番号,自宅の場所を教え,パチンコ店にいるかもしれないが,いないときは自宅を見張るよう指示した。Bは,Qを連れて被害者の動向を探り,パチンコ店の駐車場で被害者の車を見つけて待機し,被害者が自動車に乗り込んで出発すると,これをBが運転する自動車で追跡したが,途中で被害者が突然進行方向を変えたことから,これを見失った。そこで,Bらは,被害者宅に行って見張りをしたが,深夜になっても被害者が戻ってこなかったところ,Aから見張りを止めるよう連絡があったことから,見張りを止めて,Aと合流した。
(証人Qの尋問調書,甲206,乙98,102,103)
エ Aは,10月22日,Bに架電して,「Zダッシュでナイフを3本買ってくれ。」,「1本は手が滑らないように鍔の付いた高そうなナイフで,後の2本は安い物でいい。」などと,ナイフ3本の購入を依頼した。Bは,同日のうちにDに連絡してナイフ3本を買いに行かせた。Dは,7200円のボウイナイフ1本(以下「本件ボウイナイフ」という。)及び1本920円のフィッシングナイフを2本(以下,これらを「本件フィッシングナイフ」という。)を購入し,Pを通じて,Bに渡した。Bは,受け取ったこれら3本のナイフをAに渡した。
 
本件ボウイナイフは,鍔が付いており,刃体の長さ約15センチメートルである。本件フィッシングナイフは,いずれも刃部の長さ約13.3センチメートルで,刃の背部に約3.5センチメートルにわたって凹凸がある部分がある。
(証人Pの前記公判調書中の供述部分〔以下,単に「証人P」といい,他の証人についてもこれと同様にいう。〕,証人D,乙99,101,104,甲179,184,188)

オ Aは,本件犯行日の約10日から1か月くらい前のころの間,Pの運転する車にFと乗り,Pに被害者宅のある団地(以下「本件団地」という。)の方に向かわせて同団地横の県道を通った際,Pに速度を緩めるか停車させるように言い,30秒ほど徐行ないし停車させたことがあったが,減速し始めたころ,Pらに「仕事で人をやらないけん。」と,ある者を痛めつけるかの趣旨のことを述べたほか,徐行ないし停車していた間,本件団地の方を見ていた。また,Aは,その後もPの車でFと本件団地横の県道を通り同団地横を徐行運転させたことがあった。(証人F,同P)
カ Aは,11月23日夜,Wに車でo区p町まで迎えに来させた後,同区q所在のAの実家に向かわせ,実家からナイフ3本を持ってきてWの運転する車の助手席に乗り込んだが,ナイフ3本は助手席のマットの下に入れ,ナイフを持ってきたことについては,人を懲らしめるとの趣旨のことを述べた。その後,Aは,Wにr区sの更に南の方(本件団地のある方向)に向かうよう指示し,途中で同区tにある酒屋(Aツーダッシュ)で段ボール箱を拾ったが,このことにつきAは,宅急便を装い人に会う旨説明した。Aは,本件団地付近に来ると,段ボール箱の中にいずれかのナイフ1本を入れて車を降り,本件団地の方に向かったが,しばらくして車に戻り,「おらんかった。」との一言を口にした。
 
その後,Aらは,Fを迎えに行くために一旦その場を離れたが,Aが指示して本件団地付近に戻ってきた。Aは,Wらに別の場所で待機するように言った上,自分だけが降車したが,その際,Fから同人の携帯電話を借りて受け取るとともにナイフ1本の入った前記段ボール箱を持ち,再び本件団地の方に向かった。
 
WとFは,本件団地付近から約1.8キロメートル離れた同区大字uv番地のw所在の洗車場で約1時間待機していたが(その間,AがFの携帯電話からWのそれに電子メールで連絡をしてきて,たばこを持って来させたこともあった。),翌24日午前1時過ぎころ,Aは,Fの携帯電話からWのそれに電子メールで連絡をして,Wらを被害者宅近くまで迎えに来させ,そのまま現場を離れた。なお,前記段ボール箱とナイフ3本は,Aが持ち帰った。(証人F,同W,甲204,211,212,216)
キ Aは,10月中旬ころから友人のH(以下「H」という。)に白いメルセデスベンツ(以下「本件ベンツ」という。)をしばらく預けていたが,11月24日夜ないし25日未明ころ,Hに対し,x区yにいるAの知人に本件ベンツを渡すように依頼し,同月25日早朝ころ,Hはその知人に本件ベンツとその鍵を渡した。しかるところ,本件犯行日である同月27日午後10時ころ,本件ベンツと同じ白色のベンツが,本件団地内に停まっているのが目撃された。(証人H,甲206,221)
(2)本件犯行日以降について
ア Aは,11月28日,本件ベンツに乗って京都郡z町l番地のBツーダッシュ港本港第4岸壁まで行き,同車を海に落とそうとしていたところ,そのうち連絡を取り合っていたBとEダッシュが合流し,Bらと一緒に引き続き本件ベンツを海に落とそうとした。しかし,結局それができなかったため,灯油を購入しに行き,Aが,車内等に灯油をまいた上,火を付けて本件ベンツを焼損させた。(甲221,422,423)
イ 本件殺人事件については,その日(11月28日)の昼ころにテレビ等で事件報道がされたが,Aは,Fに電話で事件のことはもう話すなとの趣旨の口止めをした。また,Aは,F及びWと合流し,Aの妻の実家近くの民家のブロック塀に隠していたナイフ2本(本件ナイフ3本中いずれかのもの)をFと一緒に取りに行った。その後,Aは,車中で,「aで殺しがあったろうが,あれは俺がやったんぞ。」と告げた上,Wらにこのことは内緒にしておくよう言った。(証人F,同W,甲216)
ウ Aは,11月29日ころ,妻FダッシュとF,Pと一緒に,自分の実家近くの田でトレーナーを燃やしたほか,当時修理に出した車の代車を使用中のPに靴底の入ったビニール袋を渡して捨てておくように指示し,その後,W,F,Pと一緒にb区c町付近のCツーダッシュ橋に行き,本件フィッシングナイフのうち1本をd川に投棄した。また,Aは,FにWの車内にあるナイフを捨てるように指示し,12月2日ころ,Fは車内で見付けたナイフ(本件フィッシングナイフのうちの1本)を持って,PとWと共に京都郡h町付近に行って,Bツーダッシュ港内に投棄した。Pは,同日ころ,Aから捨てるように言われていた靴底の入ったビニール袋を,代車の中から持ち出したが,結局それをi区j所在の自宅の倉庫に置いたままにしていた。(証人F,同P,同W,甲194,199,210,212ないし216)
エ Hは,11月30日,知人から本件ベンツがBツーダッシュ港で燃やされた旨の新聞記事を教えられ,自分が陥れられたと思い,AやBに何度も電話を掛けたがなかなか連絡が付かなかった。そのうちHは,ようやくBと連絡が取れたため,Bに会って問い詰めると,Bは,「兄貴が勝手に1人で突っ走っとうけ。」などとHを陥れたつもりはない旨答えた。その後,Aと連絡が取れたHは,Aと落ち合ったが,Aは県外に出て話をすることに拘った。結局,2人は料亭「Dツーダッシュ」に行き,その席でAは,Hに対し,本件殺人は自分がしたことであり,「親父から,『Cの顔をはつれ。逆らったらどうなるか思い知らせてやれ。』っち言われとったけど,なかなかやれんかったら,酒飲むたびに親父から,『まだできんのか。子供ができるような仕事をまだしきらんのか。やくざやめて嫁さん,子供を連れて九州から出て行け。』と言われとったんで,絶対に殺しちゃると決めとった。」などと言い,本件ベンツに乗って被害者宅に赴いた旨告げた上,さらに,「2階で寝とう上から布団で丸め込んで,あもすも言わさんようにしてナイフでぶち刺した。」,「Cの家はいつも玄関の鍵が開いた状態であり,仕事から帰ってきて夜に出歩く人間じゃない。1週間前から張り込んでいた。」,「警察の捜査をかく乱させるため窓ガラスを割り,いかにも窓から入ったように見せかけて玄関から逃げた。」などと具体的な発言をした。(証人H,甲221)
(3)前記各関係者等の供述の信用性について
 
以上の(1),(2)の各認定事実は,主に,当時Aが小兵隊と呼んでいた集団の者ら(D,P,W,Q,F)や,Aの友人であるH,あるいはBの各供述,さらにはHツーダッシュの供述によるものであるが,これらの者の供述の信用性につき説明を加える。
 
まず,D,P,W,Q,Fの各供述については,前記各認定の関係箇所において,いずれも具体的で別段怪しむべき点は見受けられず,複数が関係する箇所では各供述が概ね相互に合致し,携帯電話の電子メール等客観証拠が存する箇所ではそれらとの整合性もあり,さらにWについては,その供述に基づいて竹馬川から実際にナイフが発見されてもいるなど信用性を担保する事情が存在する。加えて,いずれの者もAに恐怖心を抱くなどしてAに従っていたという当時のAとの関係や,暴力団組織の存在が背後にうかがわれる本件犯行の特質等にも照らせば,いずれの者も,敢えてAに不利益となるような虚偽の供述をするだけの動機を見出しがたいところでもあって,いずれの供述も概ね十分信用できる(なお,Aも上記各供述を否定する具体的な供述を何らしていない。)。
 
Hの供述については,公判段階では捜査段階から少なからず後退した内容となってはいるが,その外形的事実は概ね異なっておらず,その相違の実質は,概ね供述中の行為等の主体がAであることを認めるか否かにあるところ,Hは,捜査段階では記憶していることを正直に話し,供述調書はいずれもその内容に間違いがないことを確認して署名・指印した旨供述しているところであり,Hが上記のように公判段階で供述を後退させたことについては,HはAの友人であるなどのAとの関係や上記本件犯行の特質にも照らして,十分に首肯しうるものである。そして,特にHが料亭DツーダッシュでAから聞かされたという発言の内容は,2階で被害者が寝ていたことや窓ガラスを割ったことなど,客観事実によく符合していることからしても,Hが上記のとおり述べるようにその捜査段階での供述は十分信用できるものと認められる(なお,本件殺人に関するHの供述については,やはりAはその供述を否定する具体的な供述を何らしていない。)。
 
また、Bの供述についても,本件ベンツの焼損行為の点を除いて,捜査段階から一貫して行為の主体を秘したものとなっているが,上記のとおり信用できるQ,P,Dの各供述にも照らし,その行為主体がAであることは優に認められ(なお,ナイフの購入を依頼された際の,ある者の携帯電話の番号〔乙99,104〕は,Aが使用していた携帯電話のものと認められる〔甲203参照〕。),これを前提とすれば,Bの供述はQやDの各供述と概ね一致していて,その限りでBの供述も十分信用できるし,本件ベンツの焼損行為に関する供述については,Eダッシュの供述とも整合しており,その信用性に何ら疑義はない(なお,ナイフをPから受け取ったか否かの点において,DやPの各供述と異なっているが,この点は,Bの刑責に関わることでもあるので,後に説明する。)。 
 
さらに,Hツーダッシュの供述(甲206)については,同人は被害者が当時働いていたGダッシュ工業の経営者であるが,その供述内容は自分の知っている事実をありのままに話したものであることがうかがわれ,別段怪しむべきところは見受けられないし,同人が敢えて暴力団関係者の氏名を出すなどして虚偽の供述をするだけの動機も何ら認められないことからしても,その供述調書の内容は十分信用できるものというべきである。
 
以上の次第であって,前記のとおりの各事実がいずれも認定できる。
2 Aが本件犯行時に被害者宅現場にいたことをうかがわせる客観証拠等について
(1)関係各証拠(証人Hダッシュ,同Iダッシュ,同Jダッシュ,甲168,170ないし172,174,205,392ないし397,437,443ないし445)によれば,次の事実を認めることができる。
ア 被害者の職場の同僚のKダッシュは,11月28日午前6時ころ,出勤途上,被害者宅を訪れ,玄関が施錠されていなかったことから室内に入ったところ,2階北側6畳間で被害者が死亡しているのを発見した。
 
被害者は,被害者宅の2階北側の6畳間で,中央に東西に長く引かれた布団の上で,北の窓側に頭を向け,仰向けで両手を上げた状態で横たわっていた。その布団の西側には襖1枚が倒れていた。
 
被害者には,左乳房部に刺入口をもつ盲管刺創(左肺及び心臓切損を伴うもの),左外側胸部に刺入口をもつ盲管刺創,左側腹部外側面に刺入口をもつ盲管刺創,左前腕部の貫通刺創(創円には小さな凹凸が認められる。),左前下腿部の貫通刺創が認められ,身につけていたスエットの上下のほぼ同一箇所に破損が認められた。被害者が身につけていたスエットの上下及び半袖シャツには多量の血痕が付着していた。
 
遺体のあった敷き布団の左側部分(東側)及びカーペット上に多量の血痕用のものが付着し,また,敷き布団の遺体の左下腿部に当たる付近にも血痕が付着していた。掛け布団表側には2箇所に,裏側には3箇所に血痕が付着していた。
 
そして,掛け布団の左側上部隅付近及び左側中央部付近,裏側左側前部付近には刃物によるとうかがわれる破れがあった。
 
また,被害者宅2階の南側3畳間の南側窓ガラスが割れており,主に室内側にガラス片が散乱していた。
 
さらに,2階北側窓ガラス(被害者の遺体があった6畳間の窓)から手すりにかけて,3本のクラフトテープが粘着面でつながれて1本となったもの(以下「本件3本のテープ」という。)及び手すりにクラフトテープ片(甲174の写真27ないし31)が付着しており,また,1階4畳半間の窓ガラス(南側)のうち1枚の外側のほぼ全面にわたって14本のクラフトテープ(以下「本件14本のテープ」という。)が貼り付けられており(甲174の写真51ないし55),さらに,被害者の遺体の下には丸まった状態となったクラフトテープ1本があった(甲174の写真177,178)。
 
これらのクラフトテープは同日午前8時50分から被害者宅で行われた実況見分において確認されて,証拠資料として採取された。
 
なお,被害者方玄関の鍵穴にはピッキングによる開錠の特徴である金属片様の痕跡は認められなかった。
イ その後,上記のクラフトテープ片を除く18本のクラフトテープは,いずれも両端が不整形に破断ないし切断されていて,それらの断面同士がいずれも繋がり合う,全長が約12メートルの一続きとなったものであることが確認された(甲397,なお,同書証中の資料Dのクラフトテープについては,添付写真第5,6号を見ると血痕が付着し折り目が幾つもあることから,上記遺体の下にあったものとみられる。)。
ウ 上記遺体下にあったものを除くクラフトテープの粘着面の指紋付着部位と考えられる部位を検体とするDNA型鑑定が実施され,本件14本のテープ中1本のもの(上記一続きのクラフトテープの一方の端から8番目で他方の端から11番目のもの)の鑑定結果は,MCT118型は18―25型,HLADQα型は1.2型―3型,TH01型は7―9型,PM検査中,LDLR型,GYPA型,D7S8型及びGC型はいずれもAB型で,HBGG型はBB型であった。また,本件14本のテープ中他の4本のものにつき,DNA型鑑定により,MCT118型で18―25型のものが3つ,25―27型のものが1つ検出され,本件3本のテープ中1本のものにつき,DNA型鑑定において,MCT118型で17―18型が検出されたが,それ以外についてはDNA型が検出されていないか,検体が費消され鑑定されなかった(甲395)。
 
また,Aの毛髪を検体とするDNA型鑑定の結果は,MCT118型は18―25型,HLADQα型は1.2型―3型,TH01型は7―9型,PM検査中,LDLR型,GYPA型,D7S8型及びGC型はいずれもAB型で,HBGG型はBB型であった。
 
なお,Bの毛髪を検体とするDNA型鑑定の結果は,MCT118型は25―30型,HLADQα型は3―4,2/4,3型,TH01型は9―9型,PM検査中,LDLR型はBB型,GYPA型はAB型,D7S8型AB型,GC型はいずれもBC型で,HBGG型はAB型であった。
 
また,D,P,Fの各毛髪を検体とするDNA型鑑定の結果は,MCT118型で,それぞれ30―31型,21―31型,24―31型であった。
(2)上記(1)で認定した事実に基づき検討するに,本件犯行直後に被害者宅の屋外側のみならず室内(遺体の下)を含めた複数の場所で,一見不自然な状態で認められた両端が不整形の多数のクラフトテープが,約12メートルの全長をもって一続きとなったことに加え,少なくとも本件14本のテープにほこりの付着が認められなかったこと(証人Hダッシュ),室内にあったテープは,上記一続きのクラフトテープの端部のものではなく,遺体の下にあって現に血痕が付着していたことにも照らせば,上記18本のクラフトテープは,本件犯行に関与した者が,犯行の直前ないし直後において,捜査かく乱等の何らかの目的でロール状の市販のクラフトテープから順次切り取って窓ガラスに張り付けるなどしたものであるものと推認するのが相当である。
 
そして,犯行現場に遺留されたクラフトテープのうち1つの検体の8つのDNA型鑑定の結果は,Aの毛髪のそれといずれも一致しているのであり,そのこと自体,本件犯行時にAが被害者宅現場にいたことを高度に推認させるものである(なお,前記のとおり,クラフトテープを検体とするMCT118DNA型鑑定において,一続きのクラフトテープの端部ではない2本のクラフトテープからAのDNA型とは異なる型がそれぞれ1つずつ検出されており,このことは,A以外にも本件犯行現場に赴くなどして本件犯行に関与した者が存在することをうかがわせるものでもある。)。
 
弁護人は,DNA型鑑定はその鑑定原理ないし信頼性についていまだ大きな疑問があり,証拠として採用すべきでない旨主張するが,MCT118型鑑定を始めとするDNA型鑑定は,特定の塩基配列に着目した型判定であり,その科学的原理は理論的正確性があると認められ,技術を習得した者により科学的に信頼される方法で実施された場合には,証拠として用いることが許されるというべきである(MCT118DNA型鑑定につき,最二小決平成12年7月17日・刑集54巻6号550頁参照。なお,弁護人は,クラフトテープ等の粘着テープの指紋付着部位からのDNA型検査は,本件鑑定実施当時日本では類例が見当たらないものであることをも問題とするが,証拠〔甲437,証人Jダッシュ〕にも照らし,その手法の有意性,信頼性は十分肯認できる。)。
 
しかるに,証拠(甲393,395,証人Jダッシュ)によれば,クラフトテープ及びAの毛髪を各検体とするDNA型鑑定の具体的内容は,いずれも,MCT118DNA型鑑定を始め,PCR増幅を行ってDNAの必要な部位を増幅させ,各型判定の専門キットを用いて型判定がされるものであるところ,各型鑑定の使用キットやPCR増幅,型判定を始めとする具体的手法は,双方の鑑定において概ね一致するとともに,双方の鑑定者とも技術習得の点で特段問題となる点は見受けられないなど(なお,上記毛髪を検体とする鑑定書〔甲393〕は最終的に同意書面となっている。),両鑑定とも技術を習得した者により科学的に信頼される方法で実施されたものと認めるのが相当であり,両鑑定書に証拠能力が認められるのはもとより,それらの科学的正確性も,十分に肯定できるものというべきである。
 
そして,クラフトテープを検体とする鑑定については,犯行現場において,採取者がゴム手袋をはめるなど指紋が付着しないようにしてクラフトテープを採取した上,リタックシートに挟んで鑑定に回し(証人Hダッシュ,同Iダッシュ),鑑定においては,指紋付着部位と考えられる箇所から1平方センチメートルが切り取られて検体とされたものであり(甲395),さらに,1つの検体の鑑定結果自体が複数人のDNA型を示すものではないこと(証人Jダッシュ)からしても,上記の鑑定結果は,犯人以外の者の指紋ないしその混入がされたものではないと認めるのが相当である。
 
そうすると,上記の鑑定結果により,本件犯行時にAが被害者宅現場にいたことを高度の蓋然性をもって推認することできるというべきであり,そのような推認をすることが許容されるというべきである。
3 まとめ
 
以上のとおり,Aは,本件犯行の前後においてその犯人であることを強くうかがわせる一連の行動を取っている上に,複数の知人らに犯行を自認する発言もし(とりわけHに告げた具体的内容は客観事実とも符合することは前記のとおりである。),さらに,犯行時に被害者宅にいたことを高度に推認させる客観証拠も存するところ,Aは,本件犯行については何も言いたくない旨の供述態度を一貫させ,以上の証拠関係につき何ら反論するところがない。
 
これらの認定事実や客観証拠,Aの供述態度等を総合すると,関与の具体的態様を確定することができないけれども,Aが,自ら被害者宅に侵入し,その殺害に及ぶなどして本件犯行に関与した事実が優に認められるというべきである。
 
そして,前記のとおりクラフトテープを検体とするDNA型鑑定の結果AのDNA型以外の型が2つ検出されたことは(なお,これらのDNA型は,B,D,P,Fのそれとは合致していない。),A以外にも少なくとも2名の者が本件犯行現場に赴くなどして本件犯行に関与したことを推認させるのであり,その他,Aの上記供述態度等の諸般の事情にも照らせば,Aが他の人物と共謀して本件犯行に及んだものと認めるのが相当である(なお,本件犯行後,Aは,Hに対し,本件犯行を1人でした旨述べているが,Bツーダッシュ港で本件ベンツを焼損させたのも1人でしたことで,その後1人で歩いて帰ってきたなどと,関与した人数につき明らかに虚偽の内容を述べており,上記発言を文字どおり捉えることはできない。)。
 
ところで,本件犯行に使用された凶器については,前記認定のとおり,被害者の遺体の左前腕部の貫通刺創の創円には小さな凹凸が認められるところ,この凹凸の形状は,本件フィッシングナイフの背部の約3.5センチメートルにわたってある凹凸と合致するなど,同ナイフは使用された凶器として矛盾しないこと(甲185),Aは犯行後自らいち早く本件フィッシングナイフのうちの1本を川に投棄していることにも照らし,少なくとも本件フィッシングナイフのうちの1本が凶器の1つとして使用されたものと認めるのが相当である。
第2 罪となるべき事実の第3の1の窃盗被告事件について
1 関係各証拠によれば,罪となるべき事実の第3の1記載の日(早くとも午後3時半ころ,大体午後4時ころ),場所において,同記載の普通乗用自動車1台(本件ベンツ)が鍵を付けたままにされていたところ,何者かによって持ち去られたことが明らかである。

 ところで,Hの供述(前記公判調書中の供述部分,各供述調書)を始めとする関係各証拠によれば,上記窃盗の犯行日とされる平成12年10月2日の午後4時過ぎころ,Hは,友人のLダッシュと一緒にその子供を迎えに保育所に行って帰る途中の車内で,Aから電話を受け,Aから,「ベンツへったっちゃ。」(「へった」とは方言で「盗んだ」の意味である。),「このベンツ今から用事で使わないけんけん,ナンバー替えてもらえんやろうか。」などと,Aから盗んできた本件ベンツのナンバープレートを付け替えてくれるよう依頼されたこと,そのすぐ後にHがAと落ち合った際,Aは本件ベンツに1人で乗って来たが,Aに本件ベンツが本当に盗んできたものかなどを尋ねたところ,Aから,「まじっちゃ。」,「横代のスバルがあるやん,そこに鍵差したまま止まっていたのをばたばた乗ってエンジン掛けてダッシュでばたばたへってきた。」などと,Aから判示被害場所に鍵を差したまま置かれていた本件ベンツを確かに盗んだ旨聞かされたことがそれぞれ認められる。
2 Hの供述については,公判段階では前記(第1の1(3))と同様にその行為主体を秘したものとなってはいるが,Aの名を明らかにしていた捜査段階での供述が信用できることは前記と同様である。そして,Aから聞かされたという内容は具体的で迫真性のあるものである上に,被害場所や本件ベンツが鍵の差したままの状態であったというAの発言内容は被害関係者の供述(甲398,400ないし402)から認められる事実とも符合していているものであり,Hが本件当時確かにAから上記各認定のとおりの内容のことを聞かされたことが優に認められる。また,その日時が上記認定のとおりであることは,関係各証拠(甲408,410,411)によって裏付けがされているところ,本件ベンツが被害現場からなくなったのは,前記認定のとおり,その日の早くとも午後3時半ころか大体午後4時ころからであるから,Hが,Aからその日の午後4時過ぎころに本件ベンツを盗んできた旨聞かされたことは,時間的にも整合性がある。
 
そうすると,Aは,本件ベンツが持ち去られた直後にこれに乗車していたのであるから,Aがベンツの窃盗犯人であることが強く推認されるのであり,AのHに対する言動等をも併せると,Aが本件ベンツを窃取した事実は優に認められる。
 
Aは,ある者から本件ベンツの売却を依頼されたに過ぎない旨の弁解をるるしているが,AはHとの間で本件ベンツの売却の交渉を何らしていないなど,証拠上認められるAの事後の言動は上記弁解とはおよそ整合しない上に,上記証拠関係にも照らし,上記弁解は時間的にも相当無理のある話であるといわざるを得ないのであって,上記弁解はおよそ信用できない。
第3 Bに対する殺人幇助被告事件について
1 Bに対する公訴事実は,「被告人Aが判示第1の殺人行為に及ぶに当たり,その情を知りながら,平成12年8月下旬ころから同年11月28日ころまでの間,C方前路上等において,同人の動向を探るなどし,さらに,北九州市又はその周辺において,Dらを通じて入手したフィッシングナイフ等を被告人Aに渡すなどして,その犯行を容易にしてこれを幇助した」というものである。
 
検察官は,Bにおいて,幇助行為の際,Aが殺人に及ぶことを認識していたことを前提とした上,Bの幇助行為の具体的内容として,「Cの動向を探るなどし」たこと,「フィッシングナイフ等をAに渡すなどし」たことを主張しているので,上記の各幇助行為の有無及びその際のBの認識について,順次検討することとする。
2 まず,前記公訴事実中の「Cの動向を探るなどした」との点につき判断するに,前記認定のとおり,Bは,Aからの依頼を受け,平成12年(以下「平成12年」の記載を省略する。)8月下旬ないし9月初旬ころに被害者の動向を探って追跡したり被害者宅を見張ったりし(以下「本件動向を探る行為」という。)ていることは明らかである。公訴事実では,11月28日ころまでの間,Bが被害者の動向を探るなどしたとされているけれども,上記の8月下旬ないし9月初旬ころ以外にBがそのような行為をしたことを認めるに足りる証拠はない。
 
そこで,Bが8月下旬ないし9月初旬ころ本件動向を探る行為をするに当たって,Aが殺人に及ぶことを認識することができたかどうか検討を加える。
 
前記認定のとおり,本件犯行日後にHは,Aから,「Mダッシュから叱責されて殺害を決意した」旨聞いていることからすると,Aが少なくとも犯行前に被害者の殺害を決意していたことが推認されるけれども,AのHに対する告白内容の要旨は,当初はMダッシュから,「Cの顔をはつれ。逆らったらどうなるか思い知らせてやれ」と言われ,なかなか実行に移すことができずにいたところ,その後,「まだできんのか。」などと言われて殺害を決意したなどというもので,殺意形成の経過の説明として一応首肯できるものであるところ,AがMダッシュから最初に受けた指示は,「顔をはつれ。」というものに過ぎないのであるから,この指示を受けた時点でAが直ちに殺人にまで及ぶ決意を有していたと推認することは困難である。しかも,前記認定のとおり,9月か10月ころに,被害者が自宅近くで暴力団員風の3人くらいの男と揉めていたところが目撃されているのであるから(甲206),AがBに対して被害者の探索・見張りを依頼した際には,いまだ被害者に対する暴力団復帰の説得が試みられていたものとみる余地があるところでもある。
 
そして,Bが本件動向を探る行為をしたのは,本件犯行が敢行された約3か月前の時点であって,上記のとおり,暴力団復帰の説得が9月か10月ころにされていることにかんがみると,AのBに対する被害者の探索・見張りの依頼は,被害者の日常の行動を観察して暴力団復帰の可能性の有無や復帰に向けての説得材料を収集することを目的としていた可能性もまた完全には否定できないところである。
 
そうすると,AがBに対して被害者の探索・見張りを依頼した時点において,既に,Aが被害者殺害を決意していたと認めることができないことはもちろん,被害者に対して危害を加える決意をしていたと認めるに足りる確実な証拠はないといわざるを得ない。
 
したがって,Bが「小兵隊」の単なる構成員とは異なりAの舎弟として同人とは親しい間柄にある(前記認定のとおり,本件犯行直後に本件ベンツの焼損行為の現場に居合わせるなどもしている。)ばかりか,被害者に暴力団に戻ってくるよう何度となく接触していたZやDダッシュとも電話で連絡を取り合う仲である(乙100)などの事実に照し,Qダッシュ組内で当時1つの問題となっていたことがうかがわれる,被害者が暴力団復帰の話を断っていたことについて,Bも十分認識していた可能性があることを考慮しても,Aから依頼を受けてBが本件動向を探る行為をした際,Bにおいて,Aが被害者を殺傷する決意をしていたと認識していたとはいえない(本件動向を探る行為から直ちに被害者に危害を加えることが既に決意されていたとみることができないのはいうまでもなく,Bが本件動向を探る行為の目的につき何も考えていなかった旨の一見不自然な供述をしているからといって,そのこと故にAの被害者襲撃の意図とその旨のBの認識が肯定されるわけでもない。)。
 
そうすると,Bが本件動向を探る行為をした際,Bにおいて,Aが被害者の殺傷等の犯罪行為を行うことの認識を有していたと認めることはできないから,本件動向を探る行為がAの殺人ないし傷害等の幇助行為であるということはできない。
 
したがって,前記公訴事実中「Aが判示第1の殺人行為に及ぶに当たり,その情を知りながら,Cの動向を探るなどし」たとの点を認定することはできない。
3 次に,前記公訴事実中の「入手したフィッシングナイフ等を渡した」との点について検討する。
 
関係各証拠(証人D,同P)によると,Bは,10月22日,Aからナイフ3本を調達するよう言われたのを受けてDに架電し,「高そうな手が滑らない鍔の付いたナイフ1本と,千円位のナイフを2本買ってくれ。」などと自分の代わりにナイフを購入するよう依頼した上,その後,ナイフを買いに行ったDから電話を受けどのようなナイフを購入したらよいかを聞かれた際,逐一Dに具体的に説明するなどして本件ナイフ3本を購入させたこと,その後,Bは,Pを通じ紙袋に入った本件ナイフ3本をそれを入れたビニール袋ごと受け取ったことが認められ,これらの事実に前記認定の事実を併せると,Bが10月22日ころAにフィシングナイフを含む本件ナイフ3本を渡したことが認められる(なお,この時期以外にBがAに本件ナイフ3本を渡したことを認めるに足りる証拠はない。)。

 Bは,公判段階で,Pから本件ナイフ3本を受け取った事実を否定するが,Dは,本件ナイフ3本をPに渡してBに届けてもらった旨供述するとともに,Pは,本件ナイフ3本をBに渡した旨供述しているところであり,Bは捜査段階ではその事実を明確に否定していなかったことにも照らせば,上記事実を否定するBの供述は信用できず,BがPから本件ナイフ3本を受け取った事実は十分認められるというべきであり,さらに,BがAに本件ナイフ3本を渡した事実も優に認められるというべきである。
 
そして,本件フィッシングナイフのいずれかが少なくとも本件犯行に用いられたとみられるのは前記認定のとおりであり,前記認定事実に照らすと,Aが本件ナイフ3本の調達をBに依頼した10月22日には,Aが少なくとも被害者を襲撃して負傷させるなどの危害を加える決意をしていたものと推認するのが相当である。そして,Bは,Aの舎弟としてAの性格・行動傾向等を熟知していたとみられ,かつ,Aから前記認定のように購入するナイフとして「手が滑らないように鍔の付いたナイフ」などと指定されるなどしたのであるから,Bは,Aからナイフ3本の調達を依頼された際,少なくともAが何者かを襲撃して危害を加える行為に及ぶことを考えていることを未必的にせよ認識したと認めるのが相当である。にもかかわらず,Bは,本件ナイフ3本を調達してAに渡したものである。

 検察官は,この点につき,Bは,Aから「鍔のついたナイフ」を含めて3本ものナイフの調達を依頼されたことからすると,殺人に及ぶことを認識していたことが明らかであると主張する。
 
しかしながら,「鍔のついたナイフ」の用法として,刺突する態様での使用も想定されるといえるとしても,使用態様がそれだけに限定されるとも断定できない上,刺突しようとする部位がある程度具体的に想定されていない状況では,必ずしも殺人に使用されるともいえない。また,本数が3本であるからといって,直ちに殺人が予定されているともいい難いのであるから,検察官の上記主張をもってしても,Bにつき,Aが殺人に及ぶことを認識していたと断定することはできない。
 
また,確かに,前記認定のとおり,Bが本件犯行直後に本件ベンツの焼損行為の現場に居合わせるなどもしている上、BとAとの間柄,BとZやDダッシュとの仲などに照して,BがAから被害者殺害の計画を聞いていた可能性があると見られなくもないことも前記説示のとおりである。
 
しかし,前記のとおり,Aが最終的に被害者殺害を決意した時期は不明であるものの,次のとおり,それが11月23日以降であることをうかがわせる徴表も一応存在するとみることもできる。すなわち,Aは,同年11月23日夜にWに車で迎えに来させてナイフ3本を持って本件団地付近に向かった際には,人を懲らしめる趣旨のことを述べたに過ぎず,ナイフ3本の調達後であっても,殺人にまで及ぶような話はしていない(なお,これに先だってAがPらに述べた「仕事で人をやらないけん。」との言葉も,多義的であって,殺人を意図しているものと断定することはできない。)。さらに,Aは,同日は,W及びFらと共に被害者宅付近まで行き,一人でナイフ1本をもって被害者宅の方に向かったのに,本件犯行当日は,Wらと共に被害者宅付近まで赴いたとはうかがえないにもかかわらず,客観的状況からは犯行現場に複数の人間が所在したと推認されるなど,犯行当日は,それまでとは異なる準備をした上,異なる方法・態様で被害者を襲撃したともみられるのである。このことは,その間にAの被害者襲撃についての思惑の変化があったことをうかがわせなくもなく,さらに,AのHに対する告白内容から推認できるAの殺意形成の経過のうち,叱責されて殺人を決意したという心理変化の状況に符合するとも考えることができるのであるから,Aの最終的な被害者殺害の決意時期が11月23日以降であった可能性を示す徴表が一応存在するといわざるを得ないところである。 
 
これらの事情を考慮すると,11月23日よりもさらに約1か月前である,AがBに対して本件ナイフの調達を依頼した時点やこれに近接すると考えられる,BがAに本件ナイフを渡した時点において既に,Aが傷害に及ぶことのみならず,殺人までをも決意していたと断定することには証拠が不十分であるというべきであるから,それらの時点でBがAから殺人の計画を聞いていた可能性があると断定することはできない。
 
さらに,Bが捜査段階ではBがPから本件ナイフ3本を受け取った事実につき曖昧な供述をしていたほか,公判段階では同事実を殊更否定し,さらにはAからナイフの調達を依頼されたことにつきその目的を何も考えなかった旨供述することは,それを認めることによって生じる何らかの不利益を意図的に避けようとしているものとみられないわけではないが,そのことから直ちに,Bにおいて,Aが傷害に及ぶ意思を有しているにとどまらず,殺人に使用することの情を知った上で,本件ナイフ3本をAに渡したものと推認することも困難である。
 
そうすると,BがAに本件ナイフ3本を渡す際,Bにおいて,Aが本件ナイフ3本を殺人に使用することの情を知っていたということはできない。しかしながら,Bは,本件ナイフ3本を渡す際,Aが何者かに対して危害を加えること,すなわち傷害に及ぶことを認識していたと推認できることは前記のとおりであるから,れを幇助行為として認定することができるところ,AがBの認識の範囲を超えて被害者の殺人に及んだ本件においては,Bは,構成要件の重なり合う傷害致死の限度で幇助犯の責任を負うものである(なお,前記公訴事実は,「Aが判示第1の殺人行為に及ぶに当たり」とされているところ,当裁判所は,第1の1の殺人につきAのほかに複数の者が関与したと認定したところに従い,判示のとおり,「Aらの上記第1の殺人に当たり」と認定するが,そのように認定しても,Bの訴因においては,第1の1の殺人がAの単独犯行であるのか,他に共同正犯が存在するのかは,重要な事実の変化であるといえないから,訴因の同一性を害さないと解される。

(Aの累犯前科)(省略)
(法令の適用)
1 Aについて
(1)罰 条
ア 第1の1
 
住居侵入の点は刑法60条,130条前段,殺人の点は同法60条,199条に該当
イ 第2
 
刑法60条のほか,1(1)の所為のうち恐喝の点は同法249条1項,傷害の点は同法204条,1(2)の所為は同法249条1項,1(3)の所為は同法250条,249条1項,2(1)アないしオの各所為はそれぞれ刑法261条,2(2)の所為は暴力行為等処罰に関する法律1条,刑法261条,3の所為のうち公務執行妨害の点は刑法95条1項,器物損壊の点は同法261条に各該当
ウ 第3
 
1の所為は刑法235条,2の所為は同法60条,235条,3の所為は同法60条,204条,4の所為のうち建造物侵入の点は同法60条,130条前段,窃盗の点は同法60条,235条,5の所為は同法261条に各該当
(2)科刑上一罪及び包括一罪の処理
 
刑法54条1項前段(第2の1(1),同3の各罪につき),同条項後段(第1の1,第3の4の各罪につき),10条(第1の1については重い殺人罪の刑で,第2の3については犯情の重い公務執行妨害罪の刑で,第3の4については重い窃盗罪の刑で,それぞれ一罪として処断し,さらに,第2の1(1),(2)の各恐喝,同(3)の恐喝未遂の各罪については,単一の犯意に基づく一連の行為として包括して評価し,結局第2の1につき一罪として犯情の最も重い同(1)中の恐喝罪の刑で一罪として処断)
(3)刑種の選択
 
第1の1の罪については有期懲役刑,第2の2(1)アないしオ,同2(2),同3,第3の3,5の各罪についてはいずれも懲役刑
(4)再犯の加重(各罪につき)
 
刑法56条1項,57条(第1の1の罪については同法14条の制限内)
(5)併合罪の処理
 
刑法45条前段,47条本文,10条(最も重い第1の1の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重)
(6)未決勾留日数の算入
 
刑法21条
(7)訴訟費用の不負担
 
刑事訴訟法181条1項ただし書
2 Bについて
(1)罰 条
ア 第1の2
 
刑法62条1項,205条に該当
イ 第2
 
いずれの所為も前記1(1)イと同じ法条に該当
(2)科刑上一罪及び包括一罪の処理
 
第2の1,同3の各罪につき,前記1(2)と同様に各処断
(3)刑種の選択
 
第2の2(1)アないしオ,同2(2),同3の各罪についてはいずれも懲役刑
(4)法律上の減軽(第1の2の罪につき)
 
刑法63条,68条3号
(5)併合罪の処理
 
刑法45条前段,47条本文,10条(最も重い第2の1の罪の刑に法定の加重)
(6)未決勾留日数の算入,訴訟費用の不負担
 
それぞれ前記1(6),(7)と同じ法条を各適用
(量刑の理由)
1 本件は,判示のとおりの,Aによる住居侵入,殺人(第1の1),Bによる傷害致死幇助(第1の2),被告人両名による恐喝,傷害,恐喝未遂(第2の1),器物損壊,暴力行為等処罰に関する法律違反(第2の2),公務執行妨害,器物損壊(第2の3),Aによる窃盗(第3の1,2),傷害(第3の3),建造物侵入,窃盗(第3の4),器物損壊(第3の5)の各事案である。
2 Aについて
(1)Aの第1の1の住居侵入,殺人の各犯行は,暴力団と決別し,組員への復帰を頑なに拒み続けた被害者に対する報復ないし見せしめのためであることが証拠上明らかであり,正業に就いて真面目に稼働していた被害者は社会人として当然の対応をしたに過ぎないのに,暴力団組織のいいなりにならないとして襲撃の対象としたというもので,およそ容認することのできない反社会的で悪辣な動機によるものである。
 
Aは,事前に被害者の身辺を調べ,犯行に使用する凶器を調達し,被害者宅を下見し,時間をかけて被害者の動向を把握するなど,上記のような反社会的犯行を,周到かつ計画的に平然として準備したものであって,誠に悪質というべきである。
 
その犯行の態様は,夜間住居にいきなり侵入し,就寝中であったとみられる被害者に抵抗する暇も与えず,その胸部や腹部等を執ように突き刺したとうかがえる残虐なものである上,犯行現場において,クラフトテープを窓ガラス等に貼ったり,別の窓ガラスを割るなど,捜査かく乱目的ともうかがえる大胆かつ狡猾な行動にまで及んでいる。
 
本件犯行の結果,被害者は,正業に就いて堅気の道を歩んでいたところを,もとより何らの落ち度もないのに,30歳の若さにしていきなり人生の幕切れを余儀なくされたもので,その無念さは察するに余りあり,生じた結果は極めて重大であって,被害者の母親が心に受けた衝撃も相当大きい。
 
しかるにAに真摯な反省の態度を認めることはできない。
(2)第2の1の恐喝,傷害,恐喝未遂の各犯行については,因縁をつけて被害者から金員を喝取しようとし,直ちに金員の支払要求に応じなかった被害者の両足首を緊縛した上,こもごもスタンガンを極めて多数回にわたりその身体に押し当てて放電するなどの暴行を加えて執ように金員の支払を要求し,合計29万3000円の多額な現金を喝取するとともに被害者に判示のとおりの重い傷害を負わせたものである。犯行の動機は全く理不尽で,犯行の態様は極めて執ようで陰惨であり,被害者が受けた財産的被害,肉体的,精神的苦痛は大きく,被害者が厳重処罰を希望しているのも当然である。Aは,犯行の主導者として喝取金のほとんどを独り占めにしている。
 
また,第2の2の器物損壊,暴力行為等処罰に関する法律違反の各犯行については,やはり暴力団組織の上位者の意向を受けたものであるとうかがわれる卑劣かつ悪質な事案であり,犯行道具等周到な準備をした上で深夜に短時間で一挙にAを含む複数名が,木製バット,金属バット等で6台の車両を殴打するなどして損壊したもので,犯行態様は狡猾・悪質である上に,被害相当額は合計約51万9600円と多額であるところ,この犯行もAが主導的に共犯者を集めるなどして敢行したものであるし,上位者を庇うかの如き供述からは真摯な反省の態度は見受けられない。
 
そして,第2の3の公務執行妨害,器物損壊の犯行についても,配下の者らの暴走行為に対する警察車両の追跡を断念させるべく敢行したもので,その態様も走行中の警察車両のリヤガラスを狙ってゴム銃様の物でパチンコ玉を弾くなど,危険性の高い悪質なものである。Aの犯行により,当該警察車両は暴走行為をしていた者の追跡の中止を余儀なくされたことも無視できない。しかも,Aは,パチンコ玉を弾きやすくするためにBに運転車両を警察車両に近付けさせるなど,主導的に本件犯行に及んだものである。
 
さらに,第3の1,2,4の各窃盗の犯行については,とりわけ1,4の各窃盗において被害相当額は判示のとおり極めて多額であるほか,1,2の各窃盗の被害車両については,共に焼損ないし投棄して実被害を与えている。そして,2の窃盗については後述第3の3の傷害の犯行の際に使用するために敢行され,4の窃盗については被害店の経営者に対する報復等のために敢行されたものと認められるが,いずれも背後に上位者の存在がうかがわれる悪質なものであるところ,Aはこれら窃盗でやはり主導的な役割を果たしているし,1の窃盗については事実を否認するなど,犯情はいずれも極めて悪質である。また,第3の3の傷害の犯行については,上記のとおりその背後に上位者の存在がうかがわれる悪質なものであるところ,犯行態様は鉈様の刃物でいきなり被害者の腕を切り付けるという,極めて危険かつ悪質なものであり,傷害結果も判示のとおり重いが,この犯行においても,Aは上位者を庇うかの如き供述に終始し,真摯な反省の態度は見受けられない。そして,第3の5の器物損壊の犯行については,昼食に関する苦情に端を発した,極めて安易なものであり,秩序維持が要請される留置場内でのこのような行為は,他の被留置者の暴動誘発をも招きかねないのであって,一般予防の見地からも無視できるものではない。

(3)Aは,前記のとおり累犯前科2犯を有しながら,前記Qダッシュ組を脱退することもなく,前刑(満期)出所から1年2か月ほどで第2の1の恐喝等の犯行に及んで以降,約5か月の間に第2の2,3,第3の1ないし4の各犯行に立て続けに及んだ挙げ句に,第1の1の住居侵入,殺人の各犯行に及び,逮捕された後もなお,留置場内の物を損壊する第3の1の犯行に及んでいるものであり,これらの各犯行及び犯行経過からは,悪辣な犯行を平然と繰り返す顕著な犯罪傾向が見てとれ,Aの法規範無視の姿勢及び反社会的傾向は明らかであって,殺人を始めとする各犯行の重大性,悪質性等の点に照らすと,本件全体の犯情は誠に悪質極まりないというべきで,Aの刑事責任は極めて重大であるといわざるを得ない。
 
そうすると,第3の4の犯行については,古着となったものが多いが,商品の大半は被害者の元に返っているほか,第3の5の犯行については被害弁償がされていること,Aは,第1の1,第3の1の各犯行以外の各犯行については事実を認めていること,Aは現在27歳と比較的若く,また,その社会復帰を待つ妻子がいることなど,Aのために酌むべき事情を考慮しても,Aについては,主文の刑に処するのが相当である。
3 Bについて
 
Bは,冒頭各犯行のうち,第1の2の傷害致死幇助のほか,第2の1ないし3の各犯行に及んだものであるが,傷害致死幇助については,Aからナイフの調達を頼まれたのに対し,Aの舎弟として別段躊躇なくこれに応じ,却って,配下の者に積極的にナイフの調達を指示したとすらいいうるものである。そして、Aによる本件殺人は前記のとおり暴力団特有の反社会的な動機に基づくものであるところ,Bは,調達したナイフが傷害に使用されることを認識しながらその幇助行為に及んだのであり,実際に少なくとも調達したナイフのいずれかがAによる殺人の実行行為に使用されたとみられることに照らしても,本件幇助行為の犯情は相当に悪質である。
 
また,第2の1ないし3の各犯行の悪質性は前記のとおりであるが,Bは,やはりAからの持ち掛けに応じ,いずれの犯行も別段の躊躇なく敢行し,1の犯行では自らも被害者に多数回スタンガンを押し当てて放電するなどしたほか,2の各犯行では金属バットで積極的に複数の車両を損壊し,さらに3の犯行では運転車両を警察車両に近付けるなどしてAの犯行を容易にした重要な役割を担っており,いずれの犯行もその役割は軽視できない。 
 
他方,Bにおいては,傷害致死幇助を含めていずれもAからの持ち掛けに応じたものであり,とりわけ第2の1及び3の各犯行は従属的であるといいうること,Bは第2の各犯行についてはいずれも事実を認めていること,Bにはこれまでに服役前科はなく,また,現在26歳と比較的若いことなど,Bのために酌むべき事情も認められ,これらの事情も併せて総合考慮すると,主文の刑が相当である。
(求刑 被告人Aにつき,懲役20年,被告人Bにつき,懲役8年)
平成16年3月5日
福岡地方裁判所小倉支部第1刑事部
裁判長裁判官 野島秀夫 裁判官 西森英司 裁判官 大庭和久

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