覚せい剤福岡6

覚せい剤福岡6

福岡地方裁判所飯塚支部/平成15年(わ)第37号,第75号

主文
被告人を懲役3年に処する。
未決勾留日数のうち60日を刑に算入する。

理由
(犯罪事実)
 
被告人は,
第1 平成14年1月25日午前9時50分ころ,福岡県嘉穂郡庄内町大字有井〈番地略〉付近道路で,公安委員会の運転免許を受けないで普通乗用自動車を運転した。
第2 平成15年1月下旬ころ,甲野太郎と共謀の上,同郡桂川町大字土師〈番地略〉スーパー○○××店南側駐車場に駐車中の乙山次郎所有の普通乗用自動車1台(時価約30万円相当)を盗んだ。
第3 同年2月8日ころ,同県田川市大字猪国〈番地略〉付近路上に駐車中の普通乗用自動車内で,法定の除外事由がないのに,覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパンの塩類を含有する水溶液若干量を自分の身体に注射して使用した。
(証拠)〈省略〉
(事実認定に関する補足説明)
1 本訴訟の経緯及び被告人・弁護人の主張
 
被告人は,いずれの事実についても,捜査段階から一貫して事実を認め,第1回公判において,公訴事実はすべて間違いない旨供述し,弁護人もこれに基づき事実を争わず,検察官請求証拠もすべて同意し,弁論において刑の執行猶予を求めた。ところが,第2回公判の判決宣告の際,被告人は,主文で懲役3年の実刑を宣告され,理由の要旨を告げられている途中,突然,甲野太郎(以下「甲野」という。)と一緒に車を盗んだ事実はないし,強制採尿の際に警察官から首を絞められたなどと主張・供述し始めた。そこで,当裁判所は,念のために審理を尽くす必要があると判断し,弁論を再開したところ,弁護人は,(1)第2の窃盗の事実について,被告人は関与しておらず無罪である,(2)第3の覚せい剤取締法違反について,強制採尿令状発付後に被告人が自分から尿を出すと述べたことを無視して令状が執行された点は,令状主義の前提である比例の原則に違反するから,被告人の尿の鑑定書は違法収集証拠として証拠排除すべきであり,そうすると覚せい剤使用の証明がないことになるから,無罪であると主張した。
2 窃盗(第2事実)について
(1)第1回公判に至るまでの被告人の自白の評価
 
ところで,被告人は,覚せい剤取締法違反罪で起訴勾留中の平成15年3月7日に甲野と一緒にトヨタクラウンを盗んだ事実を認める申立書を作成し(甲19添付),前記のとおり,その後一貫して窃盗の事実を認めた(乙4ないし6,18,19,23ないし25,第1回公判)。したがって,被告人の自白の信用性を検討するに当たっては,この申立書を作成した経緯が重要であるが,この点に関する被告人の説明は,非常に漠然として不明確であり(第3回公判・被告人供述調書158ないし186項参照〔以下,公判の回数と項番号のみ示す。〕),要は,自分から取調警察官に対し,接見禁止がついたら家族と手紙のやりとりができなくなるので,甲野供述に合わせてくださいと言って,警察官から言われるままに書いたと言いたいようである。
 
しかし,既に被害届(甲2)により被害日時・場所が明らかになっていたにもかかわらず,申立書には,「平成15年1月終わりか2月初めころ」,「スーパー△△裏の空地」と不正確な記載があり,また,「車は甲野が乗って帰った」と甲野供述と食い違う記載もある。そうすると,警察官がわざわざ被害届や甲野供述と違う内容を被告人に教えたとは考え難いので,申立書作成に立ち会った警察官である証人丙川三郎が証言するとおり(第5回・10ないし17),被告人がその記憶に基づき自発的に作成したと認められる。そして,申立書中の犯行態様や被告人が作成した見取図は客観的事実と矛盾しないから,この申立書の信用性は高いと言うべきである。なお,前記「甲野が乗って帰った」との記載は,その後録取された被告人の供述調書には一貫して被告人が乗って帰った旨の供述記載があり,被告人自身も供述が変わった理由は分からないと述べるから(第3回・27,28),単なる記憶違いと思われる。
 
次に,その後録取された被告人の各自白調書については,被告人と甲野とのどちらが犯行を持ちかけたかについて被告人に不利に変遷しているが,甲野供述からは不明であった具体的犯行態様や犯行後の経緯等については,犯人でなければ語り得ない臨場感にあふれた内容となっている。また,供述記載をみても,甲野供述に合わせた内容にはなっておらず,被告人自身も,取調警察官に対し甲野に供述を合わせると言ったところ,それはできないと言われたと述べ(第3回・23),取調べを担当した前記証人丙川も,被告人と甲野の供述を細かい点まで合わせたりしていないと証言しているから(第5回・120),各自白調書はいずれも被告人の記憶に基づく自発的供述を録取したと認められる。
 
これに対し,否認に転じた後の被告人の公判供述(第3回)は,前記のとおり,甲野供述に合わせたとの点で事実に反する上,供述全体を通じて漠然として具体性に欠け,また,場当たり的でまじめに答えようとしない態度も考え合わせると,信用性は低いと言わざるを得ず,第1回公判に至るまで一貫して事実を認めていた供述の信用性を動揺させるものとは,とうてい評価できない。
(2)甲野供述の信用性
 
また,弁護人は,被害車両のドアキーやエンジンキーの部分の壊し方について,甲野供述は客観的証拠と大きく食い違うから信用できず、また,被告人の自白とも食い違いが多いから,結局,被告人と甲野とが共同して本件窃盗を行ったとの事実を認めることはできないと主張する。
 
しかし,ドアキー部分については,写真撮影時の損傷(甲28)がすべて犯行時に生じたと断定する証拠はなく,かえって被告人の自白によれば(乙24),別の機会に鍵穴が打ち抜かれたとみるのが自然であり,被告人が車を盗むときに大きな音がしたはずであるとの弁護人の主張は採用できない。仮に犯行時に音がしたとしても,車の中から見張りをしていた甲野の注意は,被告人の行動よりも周囲の状況に向けられていたはずであるから,甲野が音に気が付かなかったとしても不自然ではなく,甲野は偽証にならないように確実をこと以外は供述を避けていたことも考え合わせると(第4回・168等),この点を大きく取上げて甲野供述の信用性を判断するのは適当ではない。 
 
そして,甲野の公判供述は,犯行当日被告人が甲野方まで運転してきた車種や犯行現場まで乗ったホンダトゥデイの持ち主の点等の細かい点を除けば,捜査段階から一貫し,客観的証拠とも矛盾せず,被告人から犯行を持ちかけられた様子等臨場感のある内容となっているから(第4回・37等),十分信用できると言うべきである。なお,弁護人が指摘するとおり,現場から寄り道せずにまっすぐ帰ったとの甲野供述は,途中で被害車両にガソリンを給油したとの被告人の捜査段階の自白と食い違い,この食い違いは大きいと言えなくもない。しかし,このような違いが生じたのは,被告人と甲野とが,それぞれ自分の記憶に基づき供述し,捜査側がそれをそのまま録取したからであり,それなのに被告人が車を降りてクラウンの助手席ドアから乗り込んでエンジンをかけて盗んだとの犯行の核心部分について両者の供述が一致することからすると,どちらかの記憶違いとみるのが相当であって,甲野の供述全体の信用性を動揺させるものではないと言うべきである。
(3)したがって,被告人が第1回公判に至るまで自白するとおり,甲野と共同して本件窃盗を犯したとの事実を認めることに合理的疑いをいれる余地はなく,この点に関する被告人及び弁護人の主張は採用できないと言うべきである。
3 覚せい剤取締法違反(第3事実)について
(1)被告人から強制採尿したことについて
 
捜索差押調書(甲14),被告人の公判供述(第3回),本件強制採尿に関与した警察官である証人丁田四郎の公判供述(第5回)によれば,弁護人が指摘するとおり,被告人は,本件強制採尿の捜索差押令状を示されたとき,警察官に対し,夕方まで待ってくれと述べた事実が認められる。
 
しかし,前記各証拠に加えて,捜査報告書(甲34)等の関係証拠によれば,被告人は,強制採尿の前日早朝に軽犯罪法違反容疑者として現行犯逮捕されたが,言動の異常さや両腕前腕部の注射痕等から覚せい剤使用が強く疑われ,自らも1週間前ころ覚せい剤を使用したと述べていた(甲34)。そうすると,通常,体内に摂取された覚せい剤は1週間から10日程度で消失するから,早急に採尿して証拠を保全する必要があった。ところが,被告人は,令状を持ってくれば尿を出すなどと述べ,尿の任意提出及び注射痕の写真撮影を拒否し,さらには前記令状を示され,その内容を読み聞かせられても態度を変えず,再度,強制採尿の趣旨を説明して説得したところ,今度は,夕方まで待ってくれと言い出したのである。したがって,被告人の発言をもって,尿の任意提出の意思表示とみるのは相当ではなく,むしろ被告人が時間を稼いでいる疑いが濃厚であったと言うべきであって,早期に令状を執行して証拠を保全しようとした警察官らの判断が適当であったことは明らかである。
(2)本件強制採尿の態様について
 
被告人は,本件強制採尿の際,病院では暴れたり,抵抗したりしなかったのに,数名の警察官からいきなり診察台に押え付けられて首を絞められたと供述する(第3回・107ないし113)。しかし,前記証人丁田は,警察官が被告人の首を絞めた事実を明確に否定しているところ,同人の証言は具体的で臨場感がある。そして,被告人自身も,強制採尿の令状を示して病院に行くことを告げられた際,警察官に対し,「心臓が悪いんやきな,病院で暴れちゃるきな,どげなってもしらんぞ。」と言ったり,病院の処置室で,カテーテルを挿入された際,相手が医師や看護婦かどうかは別にして,「お前たち,顔をしっかり覚えちょくけな。三代末まで恨んでやるぞ。どうなってもしらんきな。交通事故には気を付けちょけよ,地元の人間やきな。」と発言した事実を認めている(第3回・101,114等)から,被告人がそれまで尿の任意提出を頑なに拒否していた態度も考え合わせると,同証人が証言する採尿の経緯は自然であり,十分信用できると言うべきであって,被告人を押さえようとした警察官の手が被告人の首に当たった可能性は否定できないとしても,警察官がわざと被告人の首を絞めた事実はなかったと認めるのが相当である。そうすると,医療器具が納められたガラスケース等が置かれた狭い処置室内で被告人が暴れれば医師や看護婦に危害が及ぶかもしれない緊迫した状況下で,令状執行に伴う必要な処分として本件のような措置をとったことが適当であることは明らかである。
(3)したがって,本件強制採尿手続に関する弁護人の主張や被告人の主張・供述も,いずれも採用できない。
(法令の適用)
1 罰条
第1の事実 平成13年法律第51号(道路交通法の一部を改正する法律)附則9条により同法による改正前の道路交通法118条1項1号,64条
第2の事実 刑法60条,235条
第3の事実 覚せい剤取締法41条の3第1項1号,19条
2 刑種選択 第1につき懲役刑
3 併合罪加重 刑法45条前段,47条本文,10条(刑及び犯情の最も重い第2の罪の刑に法定の加重)
4 未決勾留日数の算入 刑法21条
5 訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
 
被告人は,少年時から自動車を無免許で運転し,無免許運転の道路交通法違反罪の前科もあるのに,またも無免許運転に及び,しかも一般道で速度を出しすぎて事故を起こすなど,交通法規無視も甚だしい。また,無免許であるのに,共犯者を誘って車を盗むなど言語道断である。さらに,少年時から覚せい剤を使用し,覚せい剤取締法違反罪により何度か服役しながら,またも安易に使用しており,覚せい剤に対する依存性,常習性は相当に深刻である。そして,これらの犯行に加えて,強制採尿時の言動や「見ただけでは風邪薬か覚せい剤かは分からない」と開き直るなどの法廷でのいささかまじめさに欠ける態度も考え合わせると,一般的に遵法精神が鈍麻していることが窺われ,再犯のおそれは相当に高いと認められる。
 
したがって,本件犯情は悪く,被告人の刑事責任は重いから,当初こそ事実を認めて争わず,反省の態度を示していたことや,知人が被告人を雇用すると証言したこと,年齢からみて自覚次第では十分更生する可能性があること等,いささかなりとも被告人のために考慮すべきすべての事情を十分に考慮しても,今回その刑の執行を猶予することが相当でないことは明らかであって,主文程度の実刑はとうてい免れないと言うべきである。

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