殺人福岡20

殺人福岡20

福岡高等裁判所宮崎支部/平成14年(く)第8号

主文
原決定を取り消す。
本件再審請求を棄却する。

理由
 
本件即時抗告の趣意は,鹿児島地方検察庁検察官検事中島行博の即時抗告申立書,同検察官検事小栗健一の即時抗告理由補充書,福岡高等検察庁宮崎支部検察官検事郡司哲吾の意見書に,これに対する答弁は,主任弁護人亀田徳一郎ほか別紙1弁護人目録記載の弁護人ら連名の意見書,第2回意見書(平成15年9月11日受付のもの),第3回意見書及び第4回意見書に,それぞれ記載されているとおりであるから,これらを引用する。
 
所論は,要するに,原決定は,新規かつ明白な証拠の存否についての検討をせずに確定判決の判断に介入し,ひいては,明白性のない新証拠の信用性を認めて,再審を開始する旨決定したものであるから,原決定を取消し,本件再審請求を棄却する旨の裁判を求める,というのである。
 
そこで検討する。
第1 再審開始決定までの経過
 
請求人は,昭和55年3月31日,鹿児島地方裁判所において,請求人の夫甲山A男と義弟甲山B男との共謀による義弟甲山E男(当時42歳)の殺害,及び,A男とB男とB男の長男甲山C男との共謀によるE男の死体遺棄の犯罪事実により懲役10年に処せられ,控訴したが,昭和55年10月14日,福岡高等裁判所宮崎支部において,控訴棄却の判決を受け,更に上告したが,昭和56年1月30日,最高裁判所において,上告棄却の決定を受け,これに対する異議申立も棄却されて,上記鹿児島地方裁判所の第1審判決が確定した。
 
請求人は,平成2年7月17日,上記刑の執行を受け終わり,出所した後,同月25日,A男と協議離婚して,乙川に復姓した。
 
上記確定判決に対して,請求人は,平成7年4月19日,請求人はもとより,A男,B男及びC男も,その認定された犯罪事実の殺人や死体遺棄に関与していないとして,原審鹿児島地方裁判所に再審を請求し,確定判決を支えている共犯者とされる者らの自白供述は,もともと信用性に乏しく,客観的証拠に裏付けられていないなど,確定判決の証拠構造は脆弱であると主張し,E男の死因を問題にして,これに関し,城哲男作成の平成5年11月29日付け鑑定補充書を,また,請求人らが共謀や犯行に関与していないことに関し,弁護人が昭和60年1月にB男,B男の妻甲山D子,C男から聴取録音して作成した各聴取事項反訳書,弁護人が平成5年11月に請求人とA男の長女己田J子から聴取録音して作成した聴取事項反訳書を刑訴法435条6号所定の無罪を言い渡すべき新規明白な証拠であるとして提出した。
 
原審では,上記証拠のほか,請求人の申請により,E男方及びその付近の状況の検証が実施され,死因に関して,九州大学教授池田典昭作成の平成12年6月2日付け鑑定書及び平成13年10月31日付け意見書,九州芸術工科大学画像設計学科教授浦浜喜一作成の平成13年11月20日付け鑑定書が提出され,城哲男,池田典昭,浦浜喜一に対する各証人尋問が行われ,共謀及び犯行に関して,請求人作成の手紙など原決定末尾添付の別紙1記載の弁号証が提出され,C男,D子,巽某,丁野H男,戊谷I男の各証人尋問,請求人本人質問が行われたが,これに対し,検察官の申請により,死因に関して,田中圭二の平成13年6月20日付け検察官調書,検察事務官作成の平成13年4月3日付け及び同年6月13日付け各資料入手報告書、帝京大学名誉教授石山★夫作成の平成13年9月25日付け意見書が提出され,田中圭二,石山★夫に対する各証人尋問が行われた。
1 第1審における審理と確定判決
 
本件は,E男が,昭和54年10月12日,朝から酒に酔い甥の結婚式に出席せずに,同日午後8時過ぎころ,酔いつぶれて自転車もろとも路上の側溝の傍らに横たわっているのを発見され,同日午後9時30分ころ,丁野H男と戊谷I男により,独り暮らしの自宅まで連れ帰られて,同日午後10時30分ころ,自宅で寝ている様子を請求人に見られた後,姿が見えなくなり,同月15日午後1時55分ころ,自宅牛小屋の堆肥の中から死体で発見されたことから,捜査が開始されたが,死因は扼殺による窒息死と推定されたこと,E男方の室内は物色されていないこと,E男方は農家が点在する集落の中にあり,隣接するA男方やB男方の奥に位置していて,外部者は立ち入りづらいこと,酒癖の悪いE男が請求人や兄弟らから快く思われていなかったこと,約3か月前に請求人を受取人とするE男に対する生命保険契約が締結されていたことなどから,E男と面識のある者か近親者の犯行と目されていたところ,A男とB男の両名が,両名でE男の首にタオルを巻いて絞め殺した旨それぞれ供述して逮捕され,死体遺棄に関与したC男も逮捕され,その後,A男とB男の両名が,請求人も殺害と死体遺棄に関与している旨それぞれ供述するなどして,請求人が逮捕されたという経緯がある。 
 
請求人は,捜査段階から,E男の殺害と死体遺棄に関与したことを否認し,第1審でも,「A男,B男とE男殺害の共謀をしたことはない。A男とB男が私も関与したと述べるのは,私がE男に嫌われていたので,私を巻き込めば他の兄弟にも恥ずかしくないと思い,そう言ったと思う」旨述べ,第1審では,請求人が関与した旨述べる上記A男とB男の各供述やC男ら関係人の各供述の信用性が争われ,請求人の犯行動機が保険金目当てであるかどうかも争点となった。
 
第1審判決(確定判決)は,請求人が,A男及びB男と共謀して,E男の頚部にタオルを巻いて絞めつけ,同人を窒息死させて殺害し,さらに,C男をも共謀に加えて,E男の死体を遺棄した旨認定したが,請求人の犯行動機について,検察官主張の保険金目当てとの主張は容れず,保険金の取得が殺害の動機形成の一要因をなしていたと認めるには証拠上不十分と認めて,「泥酔して土間に座り込んでいるE男を認めるや同人に対する恨みがつのりこの機会に同人を殺害せんと決意し」たと認定した。
2 控訴審における審理
 
請求人は,控訴審でも,E男の殺害と死体遺棄に関与したことを争い,殺人にも死体遺棄にも全く加担していないので,第1審判決は,信用性のないA男,B男,C男及びB男の妻甲山D子ら関係者の各供述並びにその各供述調書に依拠して事実を誤認している旨主張した。
 
しかし,控訴審は,A男,D子の各証人尋問,被告人(請求人)質問をした上,関係証拠によると,「E男が丁野H男,戊谷I男の好意によりE男方に搬送されたことを当初に知ったのは本件共犯者のうち被告人(請求人)であって,被告人(請求人)は自らE男方に出向いてその土間で泥酔し前後不覚,無抵抗の状況にあるE男を現認し」「殺意を抱くに至り,本件共犯者である夫A男,義弟B男に対し,それぞれE男が右状況にあることを告げて殺害の話を持ちかけた」「同人らは結婚式帰りの酔余の気分も手伝ってこれに賛同し」「3人でE男殺害の実行行為に及び,次いでB男の長男C男を含めた4人で死体遺棄の実行行為に及んだことが認められる」,「所論が本件共犯者らの供述の矛盾として指摘するところは,多分に憶測を混えた独自の見解であって,その供述の信用性の妨げとなるものとは解されず,右各供述はいずれも被告人(請求人)の本件殺人及び死体遺棄の各行為の関与それ自体については大綱において一致している」「(A男)を含め被告人(請求人)とは居を接する親族関係にある甲山B男,その妻D子,その長男C男らが被告人(請求人)に対しなんらかの害意を抱き同人を陥れるため故意に虚偽の供述をしているものと疑うべきなんらの事情も認めることはできない。そして右関係者の前掲各供述内容は原判示の各関係証拠に現われた客観的状況とも符合するから信用性の点において欠けるところはない」「これらと対比すれば被告人の捜査段階や原審公判廷において供述するところはたやすく措信できない」,「原判決に所論のような事実誤認の瑕疵は発見できない」旨判示し,第1審判決に誤りはないと結論して控訴を棄却し,第1審判決は,上告棄却決定を経て確定した。
3 確定判決審までの死因に関する証拠
 
上記確定判決までE男の死因に関しては争いがなく,それまでに取り調べられた証拠は,鹿児島県志布志警察署司法警察員ら作成の昭和54年10月16日付け殺人並びに死体遺棄被疑事件捜査報告書と鹿児島大学医学部法医学教室教授城哲男作成の昭和54年10月22日付け鑑定書である。
 
上記捜査報告書は,同警察官が,昭和54年10月15日午後11時40分,E男の死体を解剖した城哲男教授から,「死体の腐敗が高度のため顕著ではないが,頚つい前面に溢血痕跡,右頚部皮ふ内面に出血痕跡,左鎖骨直上の皮ふ内面にかなり著しい皮下出血(など)があるところから,死因は,扼殺による窒息死と推定される」旨の連絡があったというものである。
 
上記城鑑定書は,城教授が,〔1〕外表検査によると,E男の死体は腐敗が著しく,いわゆる巨人様外観を呈しており,頭部の外表は著しい外傷を認めず,顔貌は判然としない。前頚部の皮膚は暗紫赤色に変色しているが,皮内および皮下の出血は判然としない。右鎖骨下,右側胸部から同側腹部,右上肢の前腕,左右の下肢大腿に皮下出血斑あるいは褐色変色部を認め,皮内,皮下に出血を認める。〔2〕内景検査によると,胸廓右側において,第二から第五肋骨までの肋軟骨部に軽度の組織間出血を,左鎖骨直上の皮膚内面に著しい皮下出血を,頚椎前面に著しい組織間出血をそれぞれ認める。舌骨及び甲状軟骨に骨折はないようである。頚椎骨に骨折なし。このほか,異常所見はない。〔3〕頚部,右側胸腹部,右上肢及び両下肢に外力の作用した痕跡があるが,他に著しい所見を認めないので,窒息死を推定する他ない。〔4〕仮に窒息死したものとすれば頚部内部の組織間出血は頚部に外力の作用したことを推測させる。しかも両肺の気管支枝内腔に堆肥の粉末等が侵入したようには見受けられないから,頚頂部に作用した外力にて窒息死に至ったものと想像しないわけにはいかない。〔5〕他殺ではないかと想像される旨鑑定したものである。
 
上記鑑定書の内容は,その後,A男とB男の各自白によって明らかになった犯行態様,すなわち,A男とB男の両名が泥酔して土間に座り込んでいるE男の顔面を数回殴打し,A男とB男と請求人の3名が足蹴し,E男を中六畳間に仰向けに寝かせて,請求人が両手でE男の両足を押さえつけ,B男がE男の上に馬乗りになって,その両手等を押さえつけ,A男がE男の頚部に西洋タオルを1回巻いて交差させて締めつけて,窒息死させたということに疑いを抱かせるものではなかった。
4 再審請求の理由と新証拠
 
上記のとおり,請求人は,城鑑定補充書を提出して再審請求し,原審では,城哲男の証人尋問に加え,池田鑑定書及び同意見書が取り調べられ,池田典昭の証人尋問等がなされたが,これらにより,E男の死因は,絞殺による窒息死ではないことが明白になり,同人が生前に自転車から側溝に転落して頚椎等に損傷を負い事故死した可能性が高いのであり,これに再審請求審で提出したA男ら関係人の各供述書及び再審請求審におけるC男ら関係人の証言(以下,併せて新供述という)を加えて,これまでに取り調べられた関係証拠と併せ見れば,E男を窒息死させて殺害した旨のA男及びB男らの自白は矛盾を生じて信用性を失い,請求人らがE男を殺害したことには合理的な疑いが生じ,同人の死体を遺棄したことも同様の疑いを生じて,確定判決の事実認定は維持することができないと主張した。
 
城鑑定補充書及び同人の証言(以下,併せて城補充鑑定という)の内容は,要旨,〔1〕鑑定書で,死因を頚頂部に作用した外力による窒息死と推定したが,窒息死としたのは,それを積極的に根拠づける所見はなかったものの,その他の死因を疑わせる著しい所見を認めなかったからであり,頚頂部に作用した外力としたのは,死体の発見状況から他殺を疑い,前頚部の皮膚が暗紫赤色となっていたことに加え,左鎖骨直上の皮膚内面に著しい皮下出血を認めて,これらは同一の機会に形成されたと思われたからである。しかし,その手段は特定できなかったし,前頚部の皮膚が暗紫赤色を呈していても,これに相当する頚部の皮内及び皮下の出血が判然としなかったから,頚部の圧迫があったとは断定できない。首を強く屈曲することによって生じうるし,腐敗などの原因で変色した可能性を否定できないからである。左鎖骨直上の出血はタオルによる絞頚では生じない。〔2〕頚椎前面の著しい組織間出血は,これに相当する頚部の皮内及び皮下の出血を認めなかったので,絞殺等の手段による頚部圧迫を推定することはできないし,死因とした頚頂部への外力による窒息死の外力とは関係がなく,タオルによる絞頚で生じるものではない。〔3〕本死体が,生前に自転車を運転中に側溝に落ちて救助されたということは(鑑定)当時全く聞いておらず,その転落の状況によっては,頚椎の過伸展,過屈曲が起こる可能性があり,本死体に認められる損傷を生じさせた可能性を否定することはできない。〔4〕条件上,状況上,他殺であろうと,先入観を持っていたが,それがなければ,他殺か事故死か分からない,というものである。
 
次に,池田鑑定書は,城鑑定書及びこれに貼付された解剖写真等に基づいて,死因や自他殺の区別等を鑑定したものであり,これに加え,同意見書及び同人の証言(以下,併せて池田鑑定という)の内容は,要旨,〔1〕城鑑定が損傷あるいはその可能性を考えている所見のうち,前頚部表皮の暗紫赤色部は,著明な出血はなかったというのである上,前頚部の写真によると,前頚部に左右に走る2条の帯状変色部が見られ,これらを分断する(解剖で生じた)切開創の縁部に黒褐色調帯びる部位が見られるものの,これを出血と認める所見はないから,直ちに2条の帯状変色部を圧痕や索条痕とするには無理があり,むしろ頭頚部の前屈によるしわや,腐敗に伴う皮色の変化と考えるのが妥当であって,法医学的に意味のある所見ではない。〔2〕右鎖骨下の皮下出血,右上肢・左右下肢の皮下出血については,それらの部分の切開創の写真によると,創面には出血を思わせる変色を伴わないので,出血とするには無理があり,腐敗による皮色の変色と考える。左鎖骨直上の皮下出血は,左鎖骨下静脈からの死後の血液浸潤であると判定する。〔3〕従って,明らかに認められ,あるいは,認めうる損傷は,右側胸部から同側腹部にかけての皮下出血,右第二ないし五肋軟骨の組織間出血,頚椎前面(第1胸椎付近から上位頚椎まで)の厚い血腫状の出血の3か所である。〔4〕右側胸部の皮下出血は,鈍体の衝突,圧迫によって生じたもので,この際,右第二ないし五肋軟骨の組織内出血が生じたと考えるが,直ちに死因となるとは認められない。〔5〕頚椎前面の血腫は,出血なのか腐敗による血液浸潤なのか明らかでなく,頚椎部に何らかの外力が作用したことは明らかであり,頚椎等(椎骨,椎間板,椎骨前面の靭帯等)に損傷があったと考えられるが,それ以上の検査がなされておらず,死因に関与しているか不明である。〔6〕本死体の死因も自他殺の区別も不明である。〔7〕確定判決は,死因を絞頚による窒息死とするが,死体の頚頂部について,外表には明らかな損傷,索痕等が認められず,内部でも頚頂部の軟部組織に著明な出血はなく,明らかな頚部圧迫を示唆する所見は全くなかったことになり,死体所見からは,死因を直ちに絞頚による窒息死と認定することは法医学的に認め難いと考える,というものである。
 
これに対し,原審は,田中圭二の平成13年6月20日付け検察官調書,石山★夫の平成13年9月25日付け意見書を取り調べ,田中圭二,石山★夫に対する各証人尋問をした。
 
田中圭二の検察官調書及び同人の証言の内容は,本件死体解剖に立ち会い,城教授が口にした解剖所見を筆記するなどの役割を担当して,解剖鑑定書という書面を作成したが,城教授は,「頚椎の前面にそって出血の痕跡を認める。右頚部皮フ内面にも軽度の出血の痕跡をみとむ」との解剖所見を口にしたので,そのまま筆記した同書面を提出したところ,同教授は,鑑定書の作成にあたり,頚椎の前面にそって出血の痕跡を認めるという部分を,「頚椎前面の組織間出血が著しい」と改めて,他所に移記し,右頚部皮フ内面にも軽度の出血の痕跡をみとむという部分は赤い線で消し,移記していない,というものである。
 
石山意見書及び同人の証言(以下,併せて石山意見という)の内容は,城鑑定書,城補充鑑定,池田鑑定の相当性及び問題点等について意見を述べたものであるが,大要,〔1〕城鑑定は,絞頚では頚椎前面の出血は起こり得ないというが,出血が起こる場合があり,文献にも記載されている。〔2〕池田鑑定は,索条痕は存在しないというが,右側頚部の蒼白帯やその周囲に存在しているうっ血部の存在から索条痕の存在は類推できる。〔3〕本件死体には死因としてもおかしくない全身への外力作用が存在しているし,タオルで絞頚したと見ても矛盾しない所見が存在しているのに,池田鑑定は,本件死体の皮膚表面にある甚大な損傷については観察を怠り,適当に腐敗現象と結び付けてしまっている。絞頚における索溝の検査にも問題がある。〔4〕本件死体には,確定判決で認定された外力作用の痕跡が完全に揃っていて,その認定した事実に誤りはない。左鎖骨直上の皮下出血は写真から明らかであり,両下肢にも出血が存在し,全身各所(上下肢,背面など)に皮下出血が発生していた可能性が強く,集団リンチの存在を推定しても矛盾しないような広範囲にわたる皮下出血の存在がある。顔面損傷もある。〔5〕頚部前面の写真によると,池田鑑定の指摘する前頚部の2本の帯状部のうち,上の1本は,索溝ではないとするのは妥当だが,右側頚部に蒼白帯が存在していて,その下に帯状の変色帯があり,混合している。これは,腐敗による変色ではなく,死体の頚部には幅広の索状物が右頚部で交差して絞頚が加えられた可能性が濃厚である。頚部の組織間出血がないから,頚部圧迫はなかったとはいえない。吉川線もある。〔6〕頚椎前面の出血が,頭部に垂直方向に外力が作用したために生じたというが,そのような場合には,1か所に損傷が集中するから,頚椎前面全体に出血が波及するのは稀である,というものである。
 
なお,浦浜喜一作成の鑑定書が取り調べられ,同人の証人尋問がなされたが,その内容は,城鑑定書に貼付された写真をデジタル画像解析して皮膚表面の色調を判断したものであり,池田意見書は,石山意見書に対する反論であって,いずれも肉眼による写真の色調の相違だけで,解剖時に認められなかった新たな所見を認めるのは許されないなどというものである。
5 原審が再審開始決定をした理由
 
原決定が,再審開始決定をした判断内容は,およそ次のとおりである。
〔1〕城補充鑑定及び池田鑑定(以下,併せて新鑑定という)によると,死体に存在する頚椎前面の著しい組織間出血は,(E男が側溝に転落して)頚椎や頚髄に損傷が生じていた可能性のあることを意味し,この損傷は死因になりうるから,城鑑定書の「他に死因となる所見を認めないから,窒息死と推定する」との結論部分は変更せざるを得ないが,損傷の有無及び程度は不明であるから,死因を窒息死としても死体の客観的状況とは矛盾しないという限度では,城鑑定書の信用性が否定されたとはいえず,直ちに確定判決の犯罪事実の認定が維持できなくなるとはいえない。しかし,死体の頚部には絞頚を示す外表所見(索条痕など)も内部所見も認められないのであるから,このような死体の客観的状況は,絞頚された被害者がほとんど抵抗せず,首も体も動かさずにいた場合である(のが法医学上の見解である)ことが明らかになったことからすると,A男とB男の自白を前提とする犯行態様,すなわち,E男が苦しんでもがこうとしたので,E男の体に張りつくようにして押さえたなどと述べていることとは矛盾する可能性が高いと認められる。そうすると,A男とB男の自白の信用性を慎重に吟味する必要があり,確定判決がA男とB男の自白以外の証拠によってどの程度支えられているかについても再検討する必要が生じる。また,E男が側溝へ転落して頚椎等に損傷を負った疑いが生じたので,本件事件当夜,E男が同人方に搬送された時の状況を再検討する必要が認められる。
〔2〕E男の搬送時の状況を再検討すると,E男が側溝へ転落した状況は全く不明で頚部等に損傷が生じていた可能性を全く否定することはできないにしても,その損傷の有無程度は不明であり,他方,(E男を自宅まで連れ帰った)丁野と戊谷が,E男の死因に関与していた可能性はない。
〔3〕客観的証拠の評価として,(犯行現場である中六畳間に敷かれていたとされる)ビニールカーペットに残された糞尿痕が畳に残されたそれとは一致しないから,ビニールカーペットが外されていた疑いがあり,A男とB男が,ビニールカーペットが敷かれていた中六畳間でE男を絞殺した際,E男が脱糞した旨述べる自白の信用性に疑問が生じる。凶器とされるタオルが特定されておらず,(犯行に使用されたとする)スコップや懐中電灯等は本件との関連性が認められないから,自白を裏付ける客観的証拠は乏しい。
〔4〕情況証拠の評価として,本件殺人の動機は,保険金取得目的が認定できない以上,請求人が保険金目的殺人を計画した旨述べるA男,B男及びD子の各供述は,このような供述が存在していること自体が不自然で,保険金殺人という見込み捜査をしていた捜査官らによる不当な誘導の結果,虚偽供述がなされたと認められる。また,確定判決は,請求人やA男がE男の存在を快く思っていなかった旨認定したが,B男がこのような動機を有していたこと自体に疑問があり,請求人やA男についてもこれが動機足り得たかについて疑問が生じる。(確定判決は,)請求人が本件直前E男方をのぞいた際,土間で前後不覚の状況にあるE男を認めて殺意を生じた旨認定したが,請求人は,同行した戊谷に「もう寝ている」と言ったというのであるから,咄嗟に嘘をつくのは不自然であることなどからすると,前後不覚の状況にあるE男を見たとするには疑いが残る。本件直後の請求人,A男,B男の各行動には,通夜をし,うたた寝し,E男が行方不明になったことを親戚中に連絡するなど,緊迫感に欠け,不自然な点があり,いずれも請求人らと本件各犯行を結び付けるのに消極に働く情況証拠となる。
〔5〕B男の妻D子は,請求人が犯行直前にB男方に来て,同人とE男殺害を共謀しているのを目撃し,B男がその直後から1時間以上外出して帰宅した際,同人からE男を殺害したと聞き,その後,C男から加勢したと打ち明けられた旨述べて,請求人が本件に関与したことを認める供述をしたが,新供述として提出されたD子の供述を併せ考慮すると,その内容には不自然な変遷があり,その経緯には保険金殺人という見込みで捜査していた捜査官による誤導等が認められるから,上記請求人の関与を認める供述の信用性に疑問を生じる。
〔6〕A男,B男,C男の各自白は,新供述を加えて検討すると,同人らの捜査段階での供述経過が明らかになるとともに,本件控訴審あるいは受刑中から本件に関与したことを否認していて,共謀状況,実行行為の態様など,自白の根幹部分について不合理な変遷もしくは曖昧さが認められ,また,同人らの知的能力の低さから被暗示性が強いのに,捜査官からの誤導や強制があったことが窺われ,これに迎合した可能性が否定できず,確定判決審で取り調べられた同人らの自白供述の信用性に疑問が生じるなどと判示した。
第2 原決定の当否の検討
 
当裁判所は,原決定の判断を肯認することができない。その理由は以下のとおりである。
 
なお,検察官及び請求人が当即時抗告審で提出した証拠は,別紙2証拠目録記載のとおりである。
1 新鑑定の明白性の検討
(1)再審請求審は,請求人から新規明白として提出された証拠と,その立証命題に関連する確定判決審が取り調べた全証拠(旧証拠一判決の確定の前後を問わず,その当否の審査の過程で取り調べられた証拠を含む)とを,確定判決審の立場で総合評価した上で,上記証拠が新たに確定判決審の審理の対象に加わることによって,確定判決が既に行った事実認定につき合理的な疑いを抱かせ,その認定を覆すに足りる蓋然性があるか否かを判断すべきものである。
 
そこで,上記新鑑定の明白性の判断は,その立証命題が,E男に加えられた外力の有無内容と同人の死因との関係であるところから,この証拠を,確定判決審で取り調べられた上記外力と死因関係の証拠と併せて,確定判決審の立場で検討評価することによって行われるが,その結果,E男殺害に関するA男とB男の自白の信用性に疑いを生じるなどして,請求人らがE男を殺害した旨の確定判決の事実認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠であると判断されるときは,明白性が認められることになる。
(2)原決定は,城補充鑑定によると,城鑑定書が死因として想像した他殺だけではなく,事故死の可能性があることが指摘されたのであり,また,池田鑑定によると,死体に認められる頚椎前面の組織間出血は,E男が自転車から転落して頚椎等に損傷を負い,死亡した可能性のあることを意味することが明らかになったのに対し,死体の頚部には索条痕など絞頚を示す所見は認められないのであるから,E男の首にタオルを巻いて締めつけたという犯行態様で,同人を窒息死させた旨述べるA男とB男の自白の信用性を慎重に吟味する必要があると判示する。
 
しかしながら,確定判決は,城鑑定書が,上記のとおり,E男の死体の腐敗が著しく,損傷の有無,程度が判然としないが,「他に著しい所見を認めないので,窒息死を推定する他ない」とした上で,頚部内部の組織間出血は頚部に外力の作用したことを推測させ,両肺に堆肥の粉末等の侵入を見受けなかったから,「頚頂部に作用した外力により窒息死したと想像し」,「(頚部,右側胸腹部,右上肢及び両下肢等に外力の作用した痕跡があることや,死体が堆肥内から発見された状況によると)他殺ではないかと想像する」などとしていることからすると,これに基づいて,その判断の範囲内で,絞頚により窒息死させた旨述べるA男やB男の自白と整合性があるか否かを判断しているのである。しかも,確定判決審においては,請求人が絞殺に関与したか否かが争点で,A男とB男がE男に加えた外力や死因については特に争いがなく,問題提起もなかったのであるから,新鑑定が加わっても,これが城鑑定書の死因等に明らかな疑いを抱かせるものでなければ,A男とB男の自白に基づく犯行態様や死因に疑いを生じるとはいえなかったのである。
 
これに対し,城補充鑑定は,上記のような内容であるから,城鑑定書を敷衍ないし補足するもので,新たな所見や見解を明らかにするものではなく,死体の発見状況や死体に認められる各損傷から他殺を想像するとした見解について,E男が生前に自転車から側溝に転落したのであれば,その状況によっては,死体に認められる損傷を生じさせた可能性を否定できないから,事故死の可能性もあるというものであって,確信を抱いたわけではないにせよ,死体の損傷や発見状況等を総合して判断した所見について,死体の損傷だけから見れば,他の可能性があると言及したにすぎないばかりでなく、事故死であるとすると,他殺を想像した一因である死体に同時期に生じたと認める各損傷,とりわけ右上肢や両下肢のそれとの関係をどのように説明するかについて,「側溝に落ちなくても,酔っぱらえば,いろいろけがをする」(原審別冊5,45丁)と証言するだけで,明確な解説をしておらず,死体各所の損傷を全体的に考察した結果とは思えないことからすると,このような城補充鑑定が新たに加わったからといって,城鑑定書のE男に加えられた外力や死因に関する推論に変更を及ぼすとまではいえず,確定判決の事実認定に疑いを抱かせるとは考え難いのであって,その証拠価値は高いとはいえない。
 
次に,池田鑑定は,上記のとおり,城鑑定書が認めた死体の各損傷のうち,3か所を除いて,その殆どを腐敗による皮色の変色であるとし,その3か所の損傷も死因に関与しているか不明であり,自他殺の区別も不明であるとして,城鑑定書の推論の根拠を一層不明確なものとした上,城鑑定書の所見にある頚椎内部(前面)の組織間出血は,頚椎等に損傷がないのに生じることは考え難く,頚椎等に損傷を生じるような外力を受けた場合には死因となりうるから,E男が生前に自転車から側溝に転落して事故死した可能性があることを示唆する一方,死体の頚頂部の外表には索条痕などが認められず,内部にも著明な出血はないことを前提として,明らかな頚部圧迫を示唆する所見は全くないから,死体所見からは,死因を直ちに絞頚による窒息とすることはできず,確定判決の認定は法医学的に認め難いとするものであるが,死体を割検して出血を直接観察するなどして損傷と認めた城鑑定人の判断を,その鑑定書貼付の写真の色調を検討して出血を思わせる変色を伴わないから損傷ではなく,腐敗による皮色の変化であると断じる池田鑑定で覆すのは躊躇されることである。また,城鑑定書では,頚椎骨に骨折はないなどとするだけで,頚椎等の損傷の有無については指摘がないのであるから,頚椎等に損傷があるとするのも,これが死因に結びつくということも,推測を重ねたことであって,明確な事情であるとはいえない。さらに,城鑑定書でも,死体の腐敗が著しいため,損傷の有無,程度等が判然としないとして,上記索条痕や出血については取上げていないのであるから,上記索条痕や出血はないと断定して,頚部圧迫を示唆する所見は全くないというのも推論にすぎない。そうすると,上記池田鑑定は,死体から明白とまではいえない事情に基づく見解であって,城鑑定書の推論を動揺させるに足りるとはいえず,確定判決の事実認定に疑いを抱かせるとは認め難いのであって,その証拠価値は高いとはいえない。 
 
そして,上記のような新鑑定を確定判決審の全関係証拠及び当即時抗告審で取り調べた関係証拠と併せ考慮しても,E男に加えられた外力や死因に関する確定判決の事実認定に疑問を生じさせるには至らないと認められる。
 
原判決は,新鑑定に対する上記のような検討をすることなく,当初から城鑑定書,城補充鑑定,池田鑑定,石山意見等が同列に存在するものとして,これを原審の立場で,いきなり総合判断して確定判決を維持できるか否かを論じているのであって,再審請求審として審理するに当たり,確定判決審の立場に立って,新鑑定と旧証拠を総合評価しているとはいえないばかりでなく,新鑑定の明白性の評価のあり方としても,既に不適切である。

 また,原決定は,頚椎前面の組織間出血があることにより,頚椎等を損傷した可能性を否定できないが,その有無及び程度は不明であることなどから,確定判決の認定が維持できなくなるとはいえないと判示したのに,これに続いて,頚部に索条痕や出血がなく,頚部圧迫を示唆する所見はないと認定し,その理由として,池田鑑定が,外部所見として,前頚部に2条の帯状変色部の存在を指摘し,そのうち上方の線状部分はしわであって索条ではなく,下方の帯状部分は腐敗等による変色部分であり,右頚部には蒼白部が見られるが,これも前頚部の屈曲によって生じた死後変化であるとしたことと,石山意見が,前頚部に2条の帯状変色部があり,上方の線状部分は索条ではないとしつつも,下方の帯状部分は右頚部に生前生じた蒼白帯が認められ,その上下に生前生じたうっ血を示す変色帯が認められるから,索条痕が存在するとしたこととを対比検討して,索条物による圧迫によって生じた蒼白部は,索条物が解除されて圧迫部が元に戻ることによって不明瞭になるから,本件解剖時まで絞殺後約3日経過した死体に蒼白部が消失しないまま残っていたとは考えられないという,池田鑑定に依拠するとともに,法医学の経験を積んだ城鑑定人が,頚部への外力による窒息死を疑って解剖しながら,生前生じた可能性のある蒼白部を見落とすとは考えにくいから,蒼白部を生前生じた窒息死に関連する所見とは認めなかったと推測されると判示している。
 
しかしながら,城鑑定書で頚部に索条痕や出血の存在が指摘されていないのは,先に見たとおりであって,確定判決は,索条痕や出血の存在をもって,絞殺を認定したわけではなく,城鑑定書で指摘された死体の状態と請求人らがE男にこもごも暴行を加え,押さえつけるなどし,タオルで首を絞めたという犯行態様とが矛盾しないから絞殺であると認めているのである。そして,索条痕や出血の存在が認められなければ,絞殺の認定はできないという見解に基づくのであれば,解剖時に詳細かつ十分な鑑定がなされていて,索条痕や出血が存在しないことが明白になっていればともかく,城鑑定人は,原審で,深夜に短時間で解剖したことから厳密な鑑定をしたわけではないとしつつも,頚部には判然としない軽い出血が認められたとも証言しており,このことは,上記田中圭二の供述とも符節が合っている。池田鑑定も石山意見も,城鑑定人による解剖検査は不十分であるとか,杜撰であると言い,頚頂部に暗紫赤色の変色部分を認めながら,皮内及び皮下の出血や頚椎の損傷を十分に検査していないと指摘して,解剖時に索条痕や出血の存否を不明のままにしたことを論難しているが,池田鑑定人は,索条痕や出血の所見が存在しないのではなく,不明であると自ら証言しており,石山意見は,上記のように,索条痕や出血の存在が認められるとしている。また,池田鑑定も石山意見も共に,直接死体を慎重に観察したわけではなく,城鑑定書に貼付された解剖写真に基づいて,それぞれ推論せざるを得なかったのであって,大まかな色調は分かるにせよ,微妙な点は判定が困難で,当然のことながら,それぞれ法医学者の専門知識をもってしても両者の判定も見解も異なっているのである。そして,当即時抗告審で提出された関係証拠によると,池田鑑定と石山意見の見解の相違は一層深化しているのである。このような場合,その一方の池田鑑定を支持できるとしてみても,なお不確定な側面が残るといわざるを得ないから,索条痕や出血は存在しないと断定した原決定の判断は相当ではない。
 
したがって,原決定が,索条痕等がないことを前提として,城補充鑑定が,タオルで頚部を絞めた場合,その締め方によっては皮内・皮下に出血が生じない場合もあるとしたことを問題にして,そのような場合とは,同鑑定,池田鑑定,石山意見が,いずれも,被害者の抵抗がほとんどなく,絞頚時に首も体も動かないような場合であるというのであるから,タオルで力一杯引っ張る際,E男が両手をバタバタ動かし,もがこうとしたなど,相当苦しんで抵抗していた状況が推認されるA男とB男の自白を前提とする犯行態様は,前頚部に索条痕等が認められないという死体の客観的状況とは矛盾する可能性が高いと判断したのは,新鑑定,とりわけ池田鑑定が指摘した不確定な事柄を前提として,さらに推論を重ねたもので,相当とは認められない。
 
このように見てくると,新鑑定は,上記城鑑定書の推論やこれに関連する全証拠に疑いを生じさせるとはいえず,明白性が認められないから,A男とB男の自白の信用性に影響を及ぼすとはいえないのであって,これを再検討する必要は生じないというべきである。

 さらに,原決定は,上記のとおり,新鑑定によって,E男の首には索条痕が残らない方法や程度の外力が加えられたことが明らかになり,抵抗するE男をタオルで絞殺した旨のA男とB男の自白を前提とすると,索条痕が残るはずであるから,A男とB男の自白に依拠した確定判決の犯行態様に関する認定には疑いを生じると判断したのであるから,犯行態様を述べるA男とB男の自白の信用性を慎重に吟味する必要があるとしたのはともかく,本件がA男とB男の自白以外の証拠によってどの程度支えられているかについても再検討する必要が生じるなどとして,新鑑定の立証命題を離れて,原審の立場で,確定判決審が取り調べた証拠を全面的に評価し直しているのであり,新供述として提出されたB男やD子らの各供述について,同人らが犯行を自白するに至った経緯や同人らの受刑中から出所後にかけての主張などの供述経過が明らかになったとするだけで,その明白性について特に判断することなく,これらを旧証拠と併せ考慮すると,同人らの従前の供述の信用性には疑問が生じるなどとして,本件全体につき自らの心証を形成した上で,改めて確定判決の事実認定全体の当否を判断しているのである。
 
このような判断のあり方は,判決が確定したことにより動かし得ないものとなったはずの事実関係を,事後になって,上記のとおりそれ自体としては証拠価値の乏しい新鑑定や新供述を提出することにより,安易に動揺させることになるのであり,確定判決の安定を損ない,ひいては,三審制を事実上崩すことに連なるものであって,現行刑訴法の再審手続とは相容れないものといわなければならない。
 
上記の次第であるから,次の原審の判断は不適切であるが,原決定が指摘する主な点について,さらに付言しておくことにする。
2 原決定が指摘する点について
(1)搬送時のE男の状況等について
 
原決定は,請求人が,E男を同人方まで搬送した状況を述べる丁野及び戊谷の各供述には信用性に疑いがあり,E男が側溝へ転落して頚椎損傷等により事故死した可能性があり,また,丁野と戊谷がE男の死因に関与していた可能性があるなどと主張したことに対し,E男や丁野及び戊谷ら関係人の行動を検討するなどして,丁野及び戊谷の各供述はいずれもその信用性を否定するような事情は窺えないとし,E男の頭部には外傷や出血が認められず,側溝への転落状況が全く不明である以上,頚椎等に損傷が生じていた可能性を全く否定することはできないとしても,その損傷の有無及び程度は不明であるというほかなく,また,丁野と戊谷がE男の死因に関与していた可能性を示すような事情は認められないと判示している。
 
上記判断に誤りがあるとはいえないが,丁野と戊谷がE男を連れ帰った状況について,戊谷は,手を貸すとE男が独りで車から降りて,千鳥足で玄関に入って行ったと述べ(確定判決審別冊3,563丁等),丁野は,戊谷と2人でE男の体を抱えて荷台から降ろし,玄関から土間に運んだと述べていて(同別冊4,601丁),両名の供述内容は異なるものの,E男が泥酔状態ではあったが,体の表面に怪我はなかったというのであるから(同別冊4,599丁),いずれの供述からもE男が死因に結びつく頚椎等に損傷を負ったとみられる事情は窺えないというべきである。また,丁野と戊谷がE男の死因に関与していないと判断した上で,そのままE男が事故死した可能性があるというのであれば,土間に運ばれたE男が,その後,遺体となって牛小屋の堆肥の中に埋もれていたことについて,何らかの事情が認められて然るべきであるのに,この点について判示はない。
(2)客観的証拠の評価について
 
原決定は,凶器となったタオルが特定されておらず,スコップやフォークの領置経過に疑問があるから,タオルやスコップ等を犯行に使用した旨述べるA男らの自白を裏付ける価値はなく,また,殺害現場の中六畳間の畳やその上に敷かれていたとされるビニールカーペットには多数の糞尿痕が散在しているし,ビニールカーペットに残された糞尿痕と畳に残されたそれとが一致しておらず,畳に糞尿痕ができたのはビニールカーペットが外された後である疑いが生じるので,畳の上に敷かれたビニールカーペットの上で殺害した際,E男が脱糞などした旨述べるA男やB男の自白を裏付けているとはいえず,殺害後に奥六畳間の敷布団に寝かせたというのに,敷布団や同カバーには糞尿の付着が窺われないのは不自然であるなどと判示している。
 
しかしながら,A男やB男が凶器のタオルを特定する供述をしていなくても,請求人らが殺害に際してタオルを入手することができる状況にあったことは証拠上明らかであるし,タオルはどの家庭にも複数あるのが通常で,その性状からして他のそれと区別が容易ではない場合もあるから,同人らの供述を直ちに疑う事由にはならない。確定判決審は,原決定が指摘するのとは別のスコップ2本とフォーク1本を証拠として採用していて,これらによりA男やB男の自白が裏付けられているとみられる。ビニールカーペットに付着した糞尿が,その下の畳に染み出した痕跡がないというのも,ビニールカーペットの性質からすると当然のことではないかと思われる上,A男やB男の自白によると,E男殺害後,糞尿の付着したビニールカーペットは,小さく畳んでE男方庭に置かれ,さらに他に移動したり,広げて畳み直したりしたというのであるから,その際に糞尿がビニールカーペットの他の箇所に付着し,中六畳間から持ち出される際にも糞尿が畳に付着したことが十分考えられるし,A男ら関係者が本件実況見分までに中六畳間に度々出入りして糞尿を踏みつけた疑いがあること,請求人が犯行後に畳を拭いたという供述があること,E男が生前に畳の上に放尿したことがあるという供述があることからすると,糞尿痕がビニールカーペットや畳の各所に存在することをもって,上記A男やB男の自白の信用性に疑いを生じるとは認め難い。また,敷布団に糞尿の付着はないとしても,E男方風呂場の洗濯機の洗濯槽内に敷布団カバーが入れられていて,槽内の水は濁り,排便様の臭いがしたという事情があることからすると(確定判決審別冊9,1224丁),敷布団や同カバーに糞尿の付着を示す跡がないからといって,直ちに不自然であるともいえないのであって,原決定の指摘は当たらない。
(3)情況証拠について
ア 殺人の動機
 
原決定は,確定判決が,保険金取得目的という動機を否定したのは正当であるとした上で,請求人が保険金目的殺人を計画し,その準備をしていたというA男,B男及びD子供述は,このような供述が存在していること自体が不自然で,保険金殺人という見込みで捜査を進めていた捜査官らによって,不当な誤導がされたことが窺われると判示している。

 しかしながら,確定判決は,上記のとおり,請求人らが保険金取得を意図していた疑いが窺えないではないとしつつ,これを認めるには証拠不十分と判示していて,全く根拠がないとしているわけではなく,その一方で,上記A男らが保険金取得目的と併せて供述していたE男に対する恨みを動機として採用しているのであるから,同判決によって採用されなかった供述部分があるからといって,それが犯行の動機に係わる重要な部分であるとしても,これによって供述全体が不自然になるとはいえないし,直ちに捜査官らによる不当な誤導を窺わせることに結びつくとも認め難いのであって,上記原決定の判断は首肯できない。
 
また,原決定は,A男の殺人の動機に関する供述によると,同人が酒癖の悪いE男に手を焼いて,その存在を快く思っていなかったとはいえるが,同人の第1審での殺人の動機に関する証言は非常に曖昧であり,これに再審請求審で提出された同人の供述調書をも加えて,その供述経過を検討してみると,A男や請求人が日頃からE男の存在を快く思っていなかったことが本件殺人の動機であるとする確定判決の認定には疑問が生じるという。

 しかしながら,A男は,捜査段階で,「E男は焼酎をよく飲んで,私たちや弟に迷惑をかけていた。花子(請求人)とは犬猿の仲であった。一時E男を打ち殺そうと思ったことがあったが,E男が離婚した後は打ち殺そうと思ったことはない。当夜,うつらうつらしている時,花子(請求人)から起こされて,『E男が土間でフラフラしちょるで,今の内じゃが』と言われて,うっ殺そうと思った」旨述べていたのに,第1審では,「E男を憎んでいなかった。なんで殺したかといえば,焼酎のせいだと思う。当夜,誰から体をゆすられて起こされたかわからない」などと曖昧な内容を述べているのであるが,A男が,日頃からE男の行状には迷惑していたことや,専ら請求人の指示に従って日常生活を送っていたことは証拠上明らかであるから,A男が,E男の殺害に関与したことを否認している請求人の公判廷で,自らが捜査段階で述べた供述をそのまま述べることは,請求人の関与を認めることに繋がることになり,これを憚り,明言しなかったとみるのが自然であって,原決定が,請求人の面前で供述できない特段の事情があったとも認められないというのは判断を誤っているというほかなく,A男や花子が日頃からE男の存在を快く思っていなかったということが本件殺人の動機足り得たかについて疑問を生じるとしたのは肯定し難い。
 
さらに,原決定は,B男が,E男から迷惑を掛けられていたものの,特に憎しみを持っていなかったと供述していることや,第1審での証言では,請求人から加勢しろと言われたが,何を加勢しろと言われたかはっきり覚えていないなどと曖昧なことを述べていることからすると,B男がE男の存在を快く思っていなかったというには疑問があり,また,これが本件殺人の動機足り得たかについて疑問が生じるから,B男が日頃からE男の存在を快く思っていなかったことが本件殺人の動機であるとした確定判決の認定には疑問があるという。
 
しかしながら,B男は,捜査段階で,E男は酔うと大声を出すなど近所に迷惑をかけるので,これを注意した請求人を怒鳴りつけるなどしていたため,請求人から憎まれていて,請求人やA男からE男が憎いと聞かされているうち,同じような気持ちになった旨述べていたのであり,これに対し,第1審では,請求人から持ちかけられてE男殺害を実行したことは認めたものの,その詳細については上記曖昧な内容を証言しているのであるが,B男は,請求人に慫慂され,指図されて犯行に及んだのであるから,自らの確固とした犯行動機を述べられなくても不自然ではなく,また,請求人の面前では,自らの動機を希薄化させることによって,請求人からの指示についても詳細な供述を免れようとすることは十分考えられるから,B男が上記の証言をしているからといって,その殺人の動機を疑う事由になるとはいえないのであり,上記原決定の判断は相当ではない。
イ 請求人,A男及びB男の行動について
(ア)本件事件前について
 
原決定は,確定判決が,請求人が戊谷と帰宅する途中,E男の様子を見るため,同人方に立ち寄り,泥酔して土間に座り込んでいるE男を認めて殺意が生じたとしているが,請求人は,E男方を出てから戊谷に「もう寝ていると言った」と一貫して供述していて,戊谷が,E男方の布団がふくらんでいた旨述べていることからすると,請求人がE男に対する殺意を生じたことを秘して,戊谷に嘘をついたと考えるのは不自然であり,布団のふくらみを見てE男が寝ていると考えた可能性を否定できないから,上記確定判決には疑いが残ると判示する。
 
しかし,確定判決は,丁野と戊谷が連れ帰ったE男を土間に置いて帰ったと述べており,その後,A男とB男が土間で酔いつぶれていたE男を殴る蹴るなどして殺害行為に着手した旨自白していることなどから,その間,E男が土間にいたと認定したことが容易に推察されるのであって,殺害行為の直前に請求人がE男の様子を見たというのであれば,土間にいたと認めるのが相当であって,上記確定判決に疑いが残るとはいえない。原決定は,請求人の供述内容の真否を判断するのに,請求人の供述に嘘がないことを前提にしているというほかない。
 
また,原決定は,A男とB男は,いずれも結婚式から帰宅して酒に酔ってそれぞれ自宅で寝ていたから,E男が泥酔して同人方に搬送されたことについては認識していなかったと認められるので,このような状態にあったA男とB男が,E男を殺害したというのは不自然であるというのであるが,A男もB男も,E男の様子を承知している請求人から持ちかけられて,聞き知った上,これに応じて殺害行為に及んだのであるから,何ら不自然ではない。
(イ)本件殺人直後について
 
原決定は,請求人とA男が,殺害したばかりのE男の通夜をし,夜中にE男の牛に餌を与えたなどと述べている点について,その行動からは全く緊迫感が窺えず,いささか不自然であると判示し,また,B男が,C男に死体遺棄の手伝いをさせるつもりで帰宅したのに,すぐには頼まず,二,三時間うたた寝したと述べている点について,殺害直後の犯人の行動としては緊迫感に欠け,不自然で不合理な行動であると判示する。
 
しかし,A男らは,C男の加勢を得て,夜明け前に遺体を持ち出すことにしていたと述べていて,それまでに時間があり,切迫した状況にはなかったというのであり,その間,請求人とA男が,肉親を殺害した自責の念を癒すために弔いをし,次の行動を起こす前に気付いたことをしたにすぎないと考えられるから,これが不自然とはいえないし,B男が,前夜喧嘩したばかりのC男にすぐには加勢しろと言い出せず,疲れが出て休もうとしたというのであるから,原決定の指摘する点が不自然,不合理とはいえない。
(ウ)本件事件の翌日以降について
 
原決定は,請求人とA男が,E男を殺害したというのに,翌朝から畑仕事をし,E男が酔って搬送されたことをD子らとの間で話題にし,翌々日には,E男が行方不明になったことを親戚中に連絡し,E男を探し回り,丁野に警察に届出を頼み,占い師のもとを訪ねるなどしているのは,請求人らと本件各犯行とを結び付けるのには消極に働く情況証拠であると判示するが,犯人が,犯行を隠蔽するために,日頃と同様に振る舞い,不明者の捜索を装うことはしばしば見られることであり,犯行に及んだ者がする行動ではないとはいえないから,請求人らが,犯行後,日常どおりの生活をし,表面上E男を案じる行動をしたからといって,これが犯行に及んだことを疑う事由になるとはいえない。
(4)D子供述の信用性について
 
原決定は,確定判決が依拠したD子の供述内容,すなわち,請求人が,10月12日午後10時15分ころ、B男方に立ち寄り,同人にE男の殺害を持ちかけたのを見聞し,B男がこれに応じて1時間半くらい外出して,帰宅した際,E男を「うっ殺してきた」と言うのを聞き,その後,四,五時間して,C男からも「加勢してきた」と聞いたなどと述べていることについて,原審で新供述として取り調べられたD子の弁護人に対する聴取事項反訳書及び同人の証言並びに同人の供述調書では,請求人が立ち寄ったことも,殺害を持ちかけたことも,B男やC男の言動も否定しているのであり,これを旧証拠と併せて検討すると,D子は,もともと請求人に対して良い感情を持っておらず,夫のみならず息子までが罪に陥れられたのは請求人の責任であると思い込み,請求人に悪感情を抱くようになり,請求人に殊更不利な虚偽供述をしてもおかしくない状況が存在したとして,これを前提にして,D子の捜査段階の供述自体に変遷が認められ,内容自体にも合理性がないとして,確定判決が依拠したD子の捜査段階ないし第1審での供述には信用性がないと判示する。
 
しかしながら,D子は当初から請求人の関与を認める供述をしていたわけではないという供述内容の変遷状況,D子が述べる請求人がD子方を訪れた時刻が他の証拠と矛盾していること,D子はB男やC男から犯行を打ち明けられたというのに,何も言わずにそのまま寝ていること,犯行翌日にE男について何事もなかったかのような言動をしていることなど,原決定の指摘する点は,既に確定判決審で検討が尽くされた事柄であり,新供述が加わっても,D子の捜査段階ないし第1審での供述の信用性に疑いを生じるとはいえない。 
 
D子の供述内容が次第に具体的になったからといって,直ちに供述の過程や内容が不自然であるとはいえないのであり,上記時刻についてはいずれも確実な根拠が示されているわけではなく,相当の幅が認められるから,供述全体の信用性を否定する事情にはならないし,また,犯行を打ち明けられたといっても,その内容を詳しく聞いたわけではなく,本当に殺害して,死体を遺棄したとは思わず,「まさかと思っただけだった」と述べていて,D子が請求人とB男との殺人の共謀状況を見聞し,B男が1時間半居宅を出て行ったという事情があったにせよ,これが直ちにE男殺害の確信に結びつかなかったとしても不自然とはいえないのであり,殺害や死体遺棄を知りながら,そのまま寝たり,翌日何事もない言動をしたわけではなく,いずれもD子の供述内容を疑う事柄にはならないのであって,原決定の判断は相当とは認められない。
(5)共犯者の供述の信用性について
ア A男について
 
原決定は,原審で新たに提出されたA男の供述調書によると,同人の捜査段階での供述経過が明らかになるとともに,同人が本件控訴審第2回公判での証言から服役中及び出所後も一貫して本件各犯行への関与を否認する供述を続けていたことが認められるのであり,また,A男の供述が,誰から殺人を持ちかけられたかという殺人の共謀状況,殺人の実行行為の役割分担などという自白の根幹部分において不合理な変遷があること,A男が知的能力が低く,被暗示性が強い性格であったにもかかわらず,捜査官からの強制や誘導があったことが窺われることからすると,確定判決が依拠したA男の自白の信用性には疑問が生じると判示する。
 
しかしながら,A男が,「当夜うとうとしていたところ,請求人から体をゆすられて「おはんも起きてみきやい」と言われて起こされ,「E男が我家の土間でフラフラしちょで,今んこめじゃが(今のうちだ)」と言い,その後,B男が外から呼んだので,3人でE男方に行き,タオルでE男の首を締めた時,請求人は両手でE男の両足を押さえつけていた」旨の自白をする以前に,「B男が外から,兄よ,兄よと呼ぶ声で目が覚めた,B男とともに両方からE男の首に巻いたタオルを引っ張ったが,請求人は土間で立って見ていた」旨述べていたことが明らかになったからといって,A男は,取調べの当初から請求人の関与を含めて犯行の全容を自白していたわけではなく,次第に詳細な供述をした経緯があり,本件控訴審第2回公判で否認に転じる証言をしたことは,既に第1審判決確定までに明らかになっていて,その検討がなされていたのであるから,A男の供述の変遷の過程に疑いを生じるものとはいえず,上記A男の自白の信用性に疑いを入れる事由にはならない。
 
また,A男の自白内容が不自然であると指摘する点,すなわち,A男が,請求人からうたた寝をしていたところを起こされて,「E男が土間でフラフラしちょっで,今んこめじゃが」と言われただけで,請求人の意を酌んで,E男殺害を持ちかけられたと認識したというのは不合理である。「私もE男をうっ殺そうと思ったこともあったので,請求人と2人でE男をうっ殺そうという気になった」という自白を,「酒をよばれて頭がガンガンしておったから分かりません」などと証言して,捜査段階の供述を維持していない,それまでさして憎しみを持っていなかったE男に対する殺意を生じたとするのは不合理である,殺人という重大事犯実行の共謀であるし,体力で劣り,酔うと暴れて手に負えないE男に対し,同人が酔っているという認識だけで,殺害の方法の打合せもないまま,E男方に赴いたというのは不合理である,殺意を抱いて,E男方に赴いたというのに,同人が寝ている間に即座に殺害行為に出ずに,声をかけ,頭を叩くなどして寝ているE男をわざわざ起こすような行為をしたというのは不自然であるなどと判示しているが,いずれも再審請求審において新供述を加えて判断することによって明らかになった事情ではない上,A男の自白の全体を見ずに,その一部だけを取り出して評価していること,酔いつぶれている肉親に対し,複数で犯行に及んだ事情を考慮していないこと,犯行が全て合理的に遂行されることを前提にしていることなどから,不自然,不合理との判断に至ったものと思われるのであって,相当ではない。さらに,A男が,自白を一部変更し,覆す証言をした際に,その理由として,捜査官から責められるなどして真実と異なる供述をしたと述べているからといって,自白の内容や取調べ状況などを検討しないで,直ちに捜査官から強制や誘導があったと疑うのは相当ではない。むしろ,A男の自白の内容は,B男やC男の自白の経過や内容と必ずしも符合しているわけではないことからすると,捜査官からの強制や誘導がないことを窺わせる事情があるというべきである。
 
上記に加えて,A男は,自らの本件殺人及び死体遺棄被告事件において,犯行を自認して争わず,懲役8年に処せられて,控訴せず,服役している事情もあるから,同人が,後に周囲に対し犯行に関わっていない旨述べてみても,上記自白の信用性に疑いを生じるとは認め難い。
イ B男について
 
原決定は,原審で新たに提出されたB男の供述調書によると,同人の捜査段階での供述経過が明らかになるとともに,同人が受刑中から本件各犯行への関与を否定していたことが認められるのであり,また,B男の供述が,殺人の共謀状況や実行行為の態様という自白の根幹部分に不合理な変遷があり,殺人の動機に関して,保険金が半分くらい貰えるという,捜査官らによる誤導が窺われる明らかな虚偽供述をしていることや,知的能力の低さから,捜査官からの強制や誘導に迎合した可能性が否定できないことからすると,確定判決が依拠したB男の自白の信用性には疑問が生じると判示する。
 
しかしながら,B男の供述に変遷のあることは,A男のそれと同様,既に第1審判決確定までに明らかになっていて,その検討がなされていたのであるから,その間に新たな経緯が加わり,変遷の過程が異なることが判明したからといって,これ自体が上記B男の自白の信用性に疑いを入れる事由にはならないし,動機を保険金目的であると供述したことが,直ちに虚偽とはいえず,捜査官からの働きかけを疑うことができないことは,前に見たとおりであって,B男の自白の信用性を疑う事由にはならない。
 
また,B男の供述内容について不自然であると指摘する点,すなわち,請求人が先ずB男に殺人を持ちかけたというのは,先ず夫のA男に持ちかけるのが自然であるから,不合理である,B男はE男を迷惑に思ってはいたが,憎んではいなかったというのであるから,請求人からの弱い働きかけで直ちに請求人の意を酌んで協力することにして殺意を生じたというのは,不自然で不合理である,B男は,「A男とは話をしなかった」というのに,A男はB男から「E男を殺しに行こう」と言われて「良いついでだ」と答えたと供述していて,相互の供述は矛盾している,殺害方法等について全く謀議せずにA男方に行ったというのは不自然であるなどと判示しているが,いずれも再審請求審において新証拠を加えて判断することによって明らかになった事情ではない上,B男とA男とが兄弟であって,両名と請求人のE男を巡る日頃の生活関係等に思いを致しているとは思えないこと,犯行を持ちかけた際に相手の咄嗟の発言を記憶していないことを過大に評価していることなどから,不自然,不合理との判断に至ったものと思われるのであって,相当ではない。また,B男の自白が,捜査官からの強制や誘導によると疑うことができないのは,A男のそれと同様である。
 
上記に加えて,B男は,自らの本件殺人及び死体遺棄被告事件において,犯行を自認して争わず,懲役7年に処せらて,控訴せず,服役している事情もあるから,同人が,後に周囲に対し犯行に関わっていない旨述べてみても,上記自白の信用性に疑いを生じるとは認め難い。
ウ C男について
 
原決定は,原審で新たに提出されたC男の供述調書によると,同人の捜査段階での供述経過が明らかになるとともに,同人が刑が確定した服役後も,仮釈放後も一貫して本件各犯行への関与を否認する供述を続けていたことが認められるのであり,また,捜査段階で虚偽供述をした理由についての新供述の内容は信用性が認められる上,C男が知的能力が低く,被暗示性が強いと推認されるにもかかわらず,捜査官からの強制があり,これに迎合した可能性が否定できないことからすると,確定判決が依拠したC男の自白の信用性には疑問が生じると判示する。
 
しかしながら,C男の供述に変遷のあることは,A男やB男のそれと同様,既に明らかで検討がなされていたのであるから,その間に新たな経緯が加わり,変遷の過程が異なることが判明したからといって,これ自体が上記C男の自白の信用性に疑いを入れる事由にはならないし,C男は,原審で,警察官から犯人と決めつけられてあきらめたとか,A男が本当のことを言ってくれず助からないと思ったとか,裁判所にも信じてもらえないと思ったなどと述べているが,虚偽の自白をした理由としてはなおざりというほかなく,そのまま信用できる事情とは認め難いことが明らかである。また,C男の自白が,捜査官からの強制や誘導によると疑うことができないのは,A男やB男のそれと同様である。
 
上記に加えて,C男は,自らの本件死体遺棄被告事件において,犯行を自認して争わず,懲役1年に処せられて,控訴せず,服役している事情もあるから,同人が,後に犯行に関与したことを否認する供述をしたからといって,上記自白の信用性に疑いを生じるとは認められない。
(6)まとめ
 
上記の次第であるから,原決定が,新供述を加えて,確定判決審が取り調べた証拠を評価し直した上,るる指摘して,確定判決の事実認定に疑いを生じると判示したのは,新旧証拠の評価と判断を誤っているというべきであり,相当とは認められない。
第3 結論
 
このように,新鑑定を,その立証命題であるE男に対する外力と死因との関係,換言すれば,E男が首に外力を受けて死亡した経緯に関する確定判決審で取り調べられた証拠と総合して考察したのであるが,さらに,これらを新供述,当即時抗告審で提出された証拠,確定判決審の全証拠と併せて総合評価しても,その結果,E男が絞頚により窒息死させられたことに疑いが生じるとは認め難く,請求人らがE男の首をタオルで締めつけて窒息死させた旨のA男らの自白の信用性とこの自白を支える関係証拠の評価を動揺させ,ひいては,確定判決の事実認定に合理的な疑いを抱かせ,その認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠であるとは到底認められないのであって,刑訴法435条6号所定の事由に該当するとはいえない。
 
以上の次第で,所論にかんがみ原決定を検討すると,請求人が提出援用する証拠の明白性を肯定して本件再審請求を開始した原決定の判断は相当ではなく,記録を検討しても,他に本件再審を開始する事由は認められず,結局,本件即時抗告は理由があるから,刑訴法426条2項により原決定を取消し,同法447条1項により本件再審請求を棄却することとして,主文のとおり決定する。

LINEアカウントでお得な無料相談を受ける!上記の記事でよく分からない部分を無料で弁護士に相談することができます

「LINE無料相談」での実際の相談例をご紹介します

お客様の感謝の声はこちらをクリック。アトム法律事務所は1人1人のお客様を大切にしています。 横浜・川崎で刑事事件に強い弁護士をお探しなら 刑事弁護ホットライン 0120-631-276 法律相談のご予約は日本全国24時間受付無料 すぐに弁護士が警察署に向かいます。まずはお電話ください。 親身で頼りになる刑事弁護士とすぐに相談できます。