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傷害福岡3

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福岡地方裁判所飯塚支部/平成20年(わ)第82号等

主文
被告人を懲役3年に処する。
未決勾留日数中200日をその刑に算入する。

理由
(罪となるべき事実)
 
被告人は,
第1 Bの内縁の夫であり,同女の二男であるC(平成13年○月○日生,当時6歳)らと同居し,事実上の父親として,同児を保護する責任を負うものであるが,同児の親権者として,同児を保護する責任を負うものであるBとともに,平成19年12月ころから,しつけと称して同児の食事を抜くなどし,平成20年2月中旬ころには,同児がやせ細るなど,低栄養状態に陥っていたことを認識していたのであるから,食事を抜くなどの措置を直ちに中止して,同児に十分な食事を与えるなどその生存に必要な保護をなすべき責任があったにもかかわらず,上記Bと共謀の上,そのころから同月26日ころまでの間,福岡県飯塚市○○の当時のB方において,同児の食事を抜くなどの措置を継続し,同児に十分な食事を与えることなくこれを放置し,もって,同児の生存に必要な保護をしなかった
第2 分離前の相被告人前記Bと共謀の上,同月25日ころから同月26日ころまでの間,前記当時のB方において,前記Cに対し,その身体をビニールテープで木製椅子に縛り付け,その口にハンカチ様の布を詰め込んでビニールテープを貼り付け,その顔面を手拳で数回殴打し,その足を金属バットで殴打するなどの暴行を加え,よって同児に加療約1か月半を要する上口唇裂傷等の傷害を負わせた
 
ものである。
(証拠の標目)
(括弧内の甲乙を付した番号は,証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。)
判示全部の事実について
・被告人の公判供述
・証人B,同○○の各公判供述
・証人C,同Dに対する当裁判所の尋問調書
・被告人の検察官調書(乙12),警察官調書(乙11)
・Bの検察官調書謄本(甲46,48,49)
・写真撮影報告書(甲1)
判示第1の事実について
・被告人の検察官調書(乙13),警察官調書(乙10)
・○○(甲34),F(甲35),○○(甲37)の各検察官調書
・Bの検察官調書謄本(甲47,50,51)
・○○の警察官調書(甲41)
・Bの警察官調書謄本(甲45)
・回答書(甲36〔異議のある部分を除く〕)
・写真撮影報告書(甲38,39)
・捜査報告書(甲40)
・電話聴取書(甲42)
判示第2の事実について
・証人Eの公判供述
・被告人の検察官調書(乙5ないし8),警察官調書(乙2ないし4)
・E(甲3〔不同意部分を除く〕),F(甲4〔不同意部分を除く〕),D(甲8)の各検察官調書
・入院・通院証明書(診断書)謄本(甲2)
・検証調書(甲12)
・捜索差押調書謄本(甲13)
・写真撮影報告書(甲14)
・資料採取状況の写真撮影報告書(甲15)
・鑑定嘱託書謄本(甲16)
・鑑定結果回答書(甲52)
・鑑定結果回答書(追記)(甲53)
・電話筆記用紙(甲54)
・捜査関係事項照会書謄本(甲20)
・捜査関係事項照会書回答書(甲21)
・携帯電話のデータ資料化に関する報告書(甲26,27)
(事実認定の補足説明)
第1 弁護人の主張及び被告人の供述
 
判示第1の保護責任者遺棄の事実について,弁護人は,Bが主導的立場にあったのであり,被告人は幇助犯に止まると主張し,被告人も,自分からBに対して,C(以下「被害者」という。)の食事を抜くように指示したことはなく,被害者がやせてきたことも,ほおが少しやせた程度しか知らなかったと述べる。
 
判示第2の傷害の事実について,被告人は,平成20年2月23日に,被害者の口のあたりを1回裏拳で殴打したが,判示記載の日時とは異なるし,それ以外の暴行を被害者に対して加えた事実もないと述べ,弁護人もこれに沿って,被害者の上口唇裂傷の傷害を負わせる暴行が加えられたのは,同月26日であると考えられ,そのような暴行を振るった可能性が高いのは,Bであり,この暴行について被告人がBと共謀した事実はなく,被告人は,無罪であると主張する。
 
しかしながら,当裁判所は,取調べ済みの関係各証拠を検討した結果,上記各事実については判示のとおり認定できると判断したので,以下,理由を述べる。
第2 当裁判所の判断
1 関係証拠により認められる被害者の平成20年2月26日時点における負傷状況等
 
関係証拠によれば,被害者が平成20年2月26日に病院に救急搬送された際,被害者の体重は平成19年12月時点で約18キログラムあったのに14キログラムしかなく,体温は,33度と低体温で,意識レベルが低下していた。そして,被害者は,右尺骨遠位端及び左腓骨近位端を骨折していたほか,外見上明らかな傷害に限っても,額部の傷が数か所,上下口唇の腫脹,上口唇裂傷,両肩部全体に線状の傷,両手首から指先にかけて2倍以上に腫れ上がる浮腫,両足首からつま先までの浮腫,両膝蓋部の浮腫,右手首や,陰部にたばこを押し付けたものと思料される火傷が数か所ある状態であったことが認められる。
 
被害者の上口唇裂傷について,担当した○○医師(以下「E医師」という。)は,要旨,被害者の上口唇には,新旧2つの契機により受傷した傷があり,新しい傷は,診察日から数えて1日,長くて2,3日ぐらいに受傷した傷であり,鈍的なもの,つまり拳などが前方から,まっすぐ,あるいは下から上に当たって成傷したものと考えられること,被害者の上口唇裂傷の傷害を負わせるには,子どもの力では無理であり,成人の男性が本気で殴打した場合であれば可能であること,他方,成人女性の場合は,プロレスラーのような人物を除いて,手拳で殴打する方法ではこのような傷を負うのは無理だと思われるが,バットなどを使えば可能であることを証言している。
 
上記のE医師の証言内容は,中立的な立場に立った専門家の証言として,高度の信用性を有するものである。
 
また,被害者が救急搬送された際の主治医である○○医師(以下「F医師」という。)は,要旨,以下のように供述している。
〔1〕被害者の鼻の下の傷は,鈍なものによる打撃でできたと考えられ,受傷時期については,1日以内にできたと考えて矛盾しない。〔2〕被害者の口の両端から両耳の方に向けて,幾筋かこすれたような発赤が見られ,受診数時間前から1日以内にできたものと考えられる。〔3〕右手首の丸い形状やクレーターのようになっていた傷痕は,たばこを押しつけたときにできたやけどにまちがいない。〔4〕被害者の左右の腕や左肩,右大腿部内側,右臀部等にある赤いすじ状の傷は,ビニールや布テープ等で縛ることによりできたものと考えて矛盾せず,かつ,同一箇所に,受傷時期の異なる複数の傷が確認できたことから,慢性的に同種の行為を繰り返していたものと考えられる。〔5〕被害者の両手首より先と,両足首より先の部分は,通常の2倍以上に腫れ上がっており,顕著な浮腫が生じているが,受傷機転としては,腫れている部分が縛られてうっ血したことに加えて,平行して強い打撃も加えられたと考えられる。〔6〕両膝蓋部の腫脹も拳などの鈍なものによる打撲痕と考えられる。〔7〕被害者は,るいそう著明であり,わずか3か月の間に体重が20パーセント以上も減少したというのは明らかに異常であり,搬送前の被害者の低栄養状態はかなり深刻なものであった。また,サイアミン(ビタミンB1)欠乏により中脳水道周囲に変性があることからすると,被害者は極端に偏った栄養しか摂っていなかったと考えられる。1日1食程度で,しかも極端に偏った食事を1か月ないし3か月続けたと考えた場合には,被害者のような低栄養状態になると考えて矛盾しない。
 
F医師の上記供述内容は,中立的立場にある専門家たる医師の供述として合理的であり,高度の信用性を有するものである。
2 判示第2の傷害の事実について
 
被害者は,判示第1記載のB方において,被告人,B,Dと生活していたものであり,平成20年1月10日を最後に保育所に通所しておらず(甲21),全くの第三者が被害者に対して暴行を加えたことをうかがわせる証拠もない。そして,前記E医師の証言によれば,被害者の上口唇裂傷の傷害の原因となった暴行を被害者に加えたのは,被告人か,Bであるといえる。
 
そこで,この点に関する関係者の供述の信用性を検討する。
(1)まず,被害者の期日外尋問における供述(以下,単に「被害者の供述」という。)は,前記各医師の供述や,客観的な負傷状況及び犯行現場から押収された木製椅子,金属バット,金槌,ビニールテープなどの存在とも合致している。
 
他方,被害者の供述は,各暴行を受けた時期について曖昧な点があることや,証言の冒頭においては,病院に搬送される前に被告人から暴行を受けたことはないと述べていたという事情はあるが,これらの点については,被害者が病院に救急搬送された際,意識レベルが低下していたことや,証言した時期と暴行を受けた時期とに相当の期間が経過していること,被害者の年齢を考慮するとやむを得ない点がある上,証言を重ねるうちに次第に記憶を喚起していったことが認められ,その状況に不自然な点もない。また,Bから受けた暴行の態様について,Dの供述と比較すると暴行の態様の種類が少ないという事情はあるが,Bにとって不利な内容の証言もしていること,被告人に対する現在の感情を問われても,「分からん。」と述べており,後述のとおり,保護責任者遺棄の事実に関しては,被告人に有利な供述もしていることによれば,殊更に,被告人に罪を被せるための証言をしたとは認められない。
(2)次に,Dの捜査段階の供述(甲8)は,Dが目撃した被告人らの被害者に対する暴行の態様は,被害者の負傷状況や,前記各医師の供述内容,犯行現場から押収された物品とも合致している。また,被害者が,被告人から椅子に縛り付けられることとなった経緯についても合理的に説明するものであるところ,被告人が,被害者に対して,平成20年2月24日にしゃべらないようにと約束させていたことは,Bが被告人に対して同日午後4時14分に送信したメールからも,裏付けることができる(甲26)。また,被告人が被害者に語りかけた内容や,被害者に対して暴行を加える際の体勢などについても具体的に供述しており,迫真性に富むものである。そして,Dの上記供述は,被告人から受けた暴行の態様についての被害者の供述と合致しており,期日外尋問における供述でも,被告人が被害者に対して顔面を手拳で複数回殴打したことや,その際,被害者の口から血が出ていたこと,被告人が被害者を椅子に縛り付けていたこと等を一貫して供述している。これらによれば,Dの捜査段階の供述の信用性は高いと認められる。
 
他方,Dの期日外尋問における供述には,被告人が被害者を椅子にテープで縛り付け,その状態で被告人が被害者の顔面を手拳で殴打した時期は平成20年2月24日の夜であるとする点や,直接被告人が被害者に対して暴行を加えているところを目撃した回数,目撃状況などについて変遷があることが認められる。この点については,捜査段階における供述は,より記憶が新鮮な時期になされたものであるのに対して,Dが期日外尋問において供述したのは被害者が救急搬送されてから約11か月経過後であり,Dの年齢や,その他の被告人やBによる同様の暴行の際の状況との記憶の混同の可能性も否定できないことも考慮するとやむを得ない面がある。それでも,被告人が被害者に加えた暴行態様の根幹については一貫していること,Bに不利なことも含めて証言しており,殊更に被告人に不利な供述していることを窺わせる状況は見当たらないことなどによれば,上記供述内容の変遷をもってしても,Dの捜査段階の供述の信用性が揺らぐものではないと認められる。
 
弁護人は,捜査機関による誘導の可能性を指摘するが,Dの平成20年5月16日付け検察官調書作成時の状況に関する立会人となった児童相談所職員の証言によれば,係る可能性を窺わせるような状況は見当たらない。
(3)さらにBは,公判廷において,平成20年2月25日から同月26日にかけて被害者を椅子にビニールテープで縛り付けたのも,被害者に暴行を加えたのも自分であり,被告人が被害者に対して暴行を加えたところは見ておらず,また暴行を加えることについて被告人と共謀したこともない旨供述する。しかし,同人の供述は,被害者と一日中ほぼ生活を共にし,かつ,被害者が裸で椅子に縛り付けられていたというのに,被害者にできた怪我の原因については分からないと述べている点で不自然である。そして,Bが,被告人が被害者に対して加えた暴行の内容については見ていないのではっきりとは言うことはできないとし,被告人との関係についても,子どもが嫌だと言っているとしても,別れようとは思っていないと述べるなどしていることによれば,同人が,被告人を庇う態度を取っていることは明らかである。なお,Bが供述する被害者を椅子に縛り付けた状態で斜め後方から倒したという暴行の態様は,前記E医師の証言する被害者の上口唇に加わった力の方向とは相違している上,場所は畳の部屋だったと供述しているが,そのような暴行から被害者の上口唇裂傷が生じる可能性はないと言ってよいとE医師が明言している(甲2:不同意部分を除く)。その他のBが供述する暴行態様からは,同人の暴行によって被害者の上口唇裂傷が生じる可能性があるとは認められない。
 
以上によれば,Bの供述は信用できない。
(4)以上のとおり,判示第1の事実については,信用できる被害者の供述及びDの捜査段階の供述により,平成20年2月25日の朝方に,被告人が被害者の体をビニールテープで木製椅子に縛り付け,その口にハンカチ様の布を詰め込み,上からビニールテープで貼り付け,その顔面を手拳で数回殴打したこと,さらに,同日,被告人が出勤した後に,Bが,被害者の顔面を手拳で殴打し,被害者の足を金属バット(甲14)で殴打したこと,その後も,被告人が被害者の顔面や腹部を手拳で殴打したり,被害者の足を金属バットで殴打するなどし,同月26日朝方にも,被告人が被害者の顔面を手拳で殴打する暴行を加えたこと,これらの暴行により,被害者が,上口唇裂傷等の傷害を負ったことが認められる。
 
なお,弁護人は,Bが被害者が救急搬送された当日に被害者に暴行を加えた可能性が高いと指摘するが,Dは捜査段階においてこれを否定する供述をしている上,上記のとおり,Bは被告人を庇う態度を取っており,その供述態度には,被告人に罪をなすりつけようとしていると認めるに足る状況は見当たらない。
 
また,被告人とBとの共謀についても,上記のとおり,本件においては,両名とも被害者に対して直接暴行を加えているほか,被害者供述及びDの捜査段階供述によれば,被告人及びBは,日ごろから被害者に対して,被告人らが課す特訓ができなかったなどという理由によって,被害者に暴行を加えてきたこと,Bは,被告人の指示により,被害者が寝たときに暴行を加えていることや,Bと被告人との間で交わされたメールの内容によれば,被告人とBが,共謀して被害者に対して判示第2の各暴行を加えたことも十分認定できる。
(5)他方,被告人は,被害者の口の辺りを,右手の甲で,1回思い切り殴打し,その結果,被害者に判示第2の傷害を負わせたが,そのような暴行を加えたのは平成20年2月23日であり,それ以外の暴行を加えたことはなく,かつ,暴行についてBと共謀した事実もないと供述する。
 
しかしながら,上記供述は,E医師の証言内容とは,時期において相違している。また,被告人は,被害者の口辺りが腫れていたこと以外は気づかなかったと供述するが,被害者には,陳旧性の怪我もあり,被害者が縛り付けられていたと説明する木製椅子には,被害者の血痕が背もたれや,座部から複数採取されているのに,被害者と共に生活し,一緒に風呂にも入っていた被告人が,被害者の怪我に気づいていなかったというのは不自然である。被告人は,捜査段階の当初においては,被害者を椅子に縛り付けたこともある,一緒に風呂に入った際には,被害者らの身体に痣があることに気づいていたなどと供述していたが,その後,被害者に対する暴行に関する供述が変遷していることや,被害者に対する暴行態様についても当初は異なる供述をし,そのような供述をした理由について合理的説明をしていないこと(乙2),また,過去に被害者らを虐待したとして児童相談所による介入を受けたこともあるのに,Bが被害者を縛ったとメールで報告しても気にしなかった,縛ったというのは,被害者が両手首を合わせた状態でBに縛られていたことがあったので,その状態のことを言っているのかと思ったと供述するが,他の関係者は,そのようなことがあったとは供述しておらず,供述内容が不自然であることにもよれば,被告人の供述は信用できない。
3 判示第1の保護責任者遺棄の事実について
(1)判示第1の保護責任者遺棄の事実について,被害者及びDは,被害者が食事を食べられるかどうかを決めるのは被告人であったと供述しており,さらに被害者は,食事を抜かれる原因は被告人が決めた特訓ができなかったときであることや,被告人と風呂に入ったときに「骨」と言われたこともあったと供述している。また,Dは,被害者が病院に行く前は,三食とも食べられない日が2,3日続き,飲み物も飲めなかったこと,食事を食べさせてもらえないことは一杯あり,食べさせてもらえるときも,自分と比べると量が少なかったこと,被告人は,「被害者が保育所に行くと御飯を一杯食べて帰ってくるから,熱で休むと言っとけ」とBに言い,Bが被害者を保育所に連れて行かなくなり,その後,被害者は食べられないときの方が多くなった,被害者は,Bにお腹がすいたと言っていたが,Bは,被告人から許してもらうまで駄目だと言っていた,被害者が保育園に行かなくなって,やせてきてからも,被告人と一緒にお風呂に入ったことが2,3回あったなどと供述している。
 
また,共犯者であるBも,捜査段階においては,要旨,次のとおり供述している。〔1〕被害者が特訓をさぼるなどした際に,食事を抜く罰を与えたところ,被害者が自分から努力して特訓に取り組んだことがあり、効果があったので,自分も食事を抜く罰を与えたり,被告人から被害者の食事を抜くように指示を受けたことから,お互いにこの方法で被害者をしつけていくということが理解できたのが平成19年12月ころのことである。〔2〕平成20年1月中旬ころまでに,自分が食事の分量を(Dの半分くらいに)減らし始めたが,被告人もすぐ気付き,被告人から食事の量を減らした理由を聞かれて,説明すると被告人がそうなんだという感じで受入れた。〔3〕同年2月に入って,被害者が食事を抜かれる回数は急激に増え,一度食事を抜かれると,一晩中寝ないで起きているように約束させられることがあり,それが達成できず寝ていることが分かると,その罰として,その翌日の食事を与えないということをしていた。〔4〕同月中旬ころには,4日間連続で被害者に食事を与えず,同月23日から同月26日までも食事を与えておらず,同月中旬ころには,被害者がやせていると気づいた。〔5〕食事を与えないときは水も飲ませておらず,被告人から指示があったときは,被告人の許しがない限り,自分の判断で被害者に食事を与えることはなかった。〔6〕被告人は,毎日帰宅していたので夕食が抜かれていることは間違いなく知っており,自分がメールで伝えるか,帰宅後の被害者や自分とのやりとりから,被害者の昼食が抜かれたかどうかは知っていた。
(2)他方,Bは,公判廷においては,被告人と被害者の食事を抜くことについて話し合っておらず,自分が一方的に言って,押し通したのであって,被告人から,指示を受けて,被害者の食事を抜いたわけではない。被告人が子どもの食事を抜くときは,あげないと言ってもあげることもあったので,私からすれば甘い思うなどと供述を変遷させた。 
(3)上記被害者及びDの供述する食事量や食事の回数は,前記F医師の供述内容とも合致しており信用性が高い。加えて,被害者は,被告人と一緒に仕事に行ったときに食料を与えられたと被告人に有利な事情も供述しており,被告人に殊更に不利益に供述しようとする態度は見受けられない。Bの捜査段階の供述も,被告人の指示を受けて食事を抜いたときは,被告人の許しを得るまで被害者に食事を与えなかったという点において,被害者やDの供述及び被告人との間のメール履歴の内容とも合致しており,信用性が高い。
 
他方,Bの公判供述は,捜査段階の供述から変遷しているが,同人が被告人を庇う態度を取っていること,メール履歴の内容とも整合しないことから,信用できない。
(4)以上の信用できる被害者,D及びBの捜査段階の供述に,その他取調べ済みの証拠によれば,被告人は,被害者の事実上の父親として,母親であるBとともに被害者を保護,養育すべき義務を負っているところ,被害者は,平成20年2月26日に救急搬送された際,前年12月には約18キログラムあった体重が,約14キログラムしかないるい瀬状態であり,外観上も明らかにやせ細っていたこと,被告人及びBは,平成19年12月ころから被害者の食事を抜くことを始め,特に平成20年1月中旬ころ以降は,与えたとしても,1日2食で,534キロカロリーと,6,7歳児の生命を維持するために必要な最低限のエネルギーである基礎代謝エネルギーの約2分の1しかなく,成長のために必要なエネルギーの3分の1未満しか与えなくなり(甲37,51),同年2月以降,被害者の食事を抜く回数が極端に増え,連続して4日間食事を抜いたこともあったこと,そして,被告人は,被害者の状況については逐一Bから報告を受けていたことにもよれば,このころには,被告人は,被害者がやせ細っており,共犯者であるBが被告人の指示に従って被害者に食事を与えず,あるいはBの判断で食事を与えないか,不十分な量の食事しか与えていないことを知っていたのであるから,自ら被害者に十分な食事を与えるなどの生存に必要な保護を加えなければ,被害者の生命に危険な状態を生じさせる可能性のあることを認識していたことが認められる。
 
それにもかかわらず,被告人は,その後も被害者に必要な量の食事を与えるなどの生存に必要な保護を与えることなく,被害者の食事を抜く措置を執るように,Bに指示するなどしたものである。
 
そして,以上のような被告人の関与状況によれば,被告人が保護責任者遺棄罪について共同正犯としての責任を負うことは明らかである。
(5)被告人は,保護責任者遺棄の事実に対する関与の程度について,自分が被害者の食事を抜くよりも,Bが食事を抜く方が多く,自分はBが怒って「食事抜き」と言ったときに助け船を出しており,自分が被害者を低栄養状態にしたという認識はない,被害者がやせてきたことは気づいていたが,少し頬がやせているという程度の認識だったと述べている。
 
しかしながら,被告人は,捜査段階において,警察官に対しては,平成20年2月16日以前に,被害者と一緒に風呂に入ったときに,被害者の肋骨が浮き出ており,腹部が凹んでいる状態であることを認識していたと供述していながら(乙10),その後,検察官に対しては,被害者とは一緒に風呂に入っていなかったと供述を変遷させ(乙12),公判廷においては,同月中にも被害者と風呂に入った認識はあったとしながら,風呂に入った際に,被害者の体型に異変があったのかについては,明確な供述はしていないが,このように供述が変遷した理由について合理的説明はない。また,Bとの間のメールのやりとりについて,メールの字句通りの意味ではなかった旨,公判廷において供述するが,その内容は,Bの供述と齟齬している。さらに,実家に帰っていた日数について,被告人は,捜査段階では週に3,4日としていたのを公判においては週に1日くらいと変遷させているが,Bの供述と齟齬しており,信用できない。被告人の父母の供述も,捜査段階から不自然に変遷しているのみならず,被告人の父親の供述は被告人の供述とも合致しておらず,いずれも信用できない。
 
以上によれば,被告人の供述は信用できない。
第3 結論
 
以上によれば,被告人が判示各事実について,判示のとおり,Bとの共同正犯としての責任を負うことが認められる。
(法令の適用)
罰条
 
判示第1        刑法60条,218条
 
判示第2        同法60条,204条
 
刑種の選択(判示第2) 懲役刑を選択
 
併合罪の処理      同法45条前段,47条本文,10条(重い判示第2の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の加重。ただし,短期は判示第1の罪の刑のそれによる。)
 
未決勾留日数の算入   同法21条
 
訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑理由)
 
本件は,被告人が内縁関係にあった共犯者と共謀の上,共犯者の実子である当時6歳の被害者に対し,椅子にビニールテープで縛り付けた上,その顔面を手拳で殴打するなどして加療約1か月半を要する上口唇裂傷等の傷害を負わせた傷害及び約2か月間にわたり,食事を減らしたり与えなかったことにより被害者が衰弱していたのに,その後も食事を抜くなどの措置を継続して生存に必要な保護をしなかったという保護責任者遺棄の事案である。
 
まず,保護責任者遺棄事犯についてみるに,被告人及びBは,被害者に対して,平成19年12月ころから,些細な理由で食事を抜くという罰を与えるようになり,平成20年1月11日以降は保育所にも通わせず,被告人が指示した特訓ができなかったなどの些細な理由で,一晩中椅子に座った体勢や,立ったままの体勢で,裸のまま寝ないようになどという無理な約束をさせ,被告人が夜中に起きて被害者が寝ているのを確認すると,その罰として翌日の食事を抜くことを繰り返すようになった。そして,同年2月中旬ころには,4日間連続で食事を一切与えず,かつ水分を摂ることも禁じ,同月23日から同月26日にかけても4日間連続で食事を一切与えず,水を摂ることも禁じ,食事を与えた場合であっても生命維持に必要な最小限度のエネルギーの半分程度の食事しか与えてこなかった。被告人は,被害者の実母であるBと共謀の上,事実上の親として負うべき保護責任を果たさないどころか,積極的な虐待の手段としたのであって,誠に卑劣な犯行である。被害者の意識レベルが低下し,病院に救急搬送された際には,被害者は極端なるい瀬状態に陥り,医師による専門的治療の開始が遅れた場合には,被害者の生命が失われていた危険性も高かったのであって,極めて悪質な犯行である。
 
また,傷害事犯の犯行態様は,冬場の寒さも厳しい時期に,裸のまま椅子に縛られ,口の中にハンカチを詰め込まれて声も発することができず,全く抵抗できない被害者を,約1日半にわたって,断続的に,被告人が,手拳で顔面や腹部を力一杯殴打し,金属バットで足を殴打する,Bが,被害者の顔面を手拳で叩き,金属バットで足を殴打するという暴行を加えたという陰湿,悪質なものであり,まさに身体的虐待にほかならない。被害者には,受傷時期の異なる傷がほぼ全身に存在しており,これだけでも被害者に対する暴行が長期間にわたり繰り返し加えられていたことを物語っているが,被告人らは,従前から被害者やDに虐待を加えていたことにより,平成18年に一時保護の措置を講じられ,再びBが被害者らを引き取ってから,わずかなうちに被害者やDに対する虐待を再開したのであって,本件傷害は,日常的に継続されてきた虐待行為の一貫である。
 
本件で被告人らが加えた暴行により,被害者は,加療約1か月半を要する,歯茎と唇の境目が避けるという上口唇裂傷や,両手及び両下肢浮腫等の傷害を負い,また,低栄養状態が継続したため,わずかでも医療的措置が遅れていれば,死亡していた危険性が高い状態にまでなっていたのであって,被害者に与えた肉体的苦痛は誠に重大である。また,本来であれば,無条件の愛情を受け,他者に対する信頼感といった人格形成の土台を作るべき重要な時期に,家庭という密室の中で,圧倒的に優位に立つ被告人やBから,裸のまま椅子に縛り付けられて血が出るほどの暴行を加えられるなどの虐待を繰り返し受け,人格の尊厳を傷つけられたことが,被害者の人格形成上,重大な影響を与える可能性も否定できない。さらに,同居していたDは,目の前で被害者が虐待を受けてきたことを継続的に見ていたのみならず,被害者を助けようとして怒られ,あるいは,自らも被害者の行動を監視させられるなどしており,本件後,情緒に不安定な面がみられるようになったことからも,本件犯行が,Dに与えた精神的苦痛が重大なものであったことは明らかである。
 
また,共犯者間における被告人の役割についてみるに,傷害事犯については,被告人が主導していたことは明らかであるし,被害者の全身の多数の傷も,その殆どを被告人が負わせたことは,関係証拠により十分認められる。保護責任者遺棄事犯に関しても,当初は,食事を抜くことは,被告人が指示してBが従う場合もあれば,Bが自らの判断で行う場合もあったようであるが,次第に被告人が主導するようになったことは,被告人とBとのメールのやりとりから認められる。
 
共犯者であるBは、被告人と交際する以前は,愛情を持って育児に取組み,被告人との交際を開始した当初は,被告人による被害者らへの暴力を悩んで,児童相談所にも相談するなどしていたものである。被告人は,Bが被告人に精神的に依存していることを認識しながら,Bが悩んでいる子育てについて,発育過程を度外視して,暴力を手段として被害者らを抑圧して支配し,外部との接触も遮断して虐待を繰り返して本件犯行に及び,結果的に,2度にわたり,被害者らと母親であるBとを引き離すに至らしめたものである。また,本件犯行を主導したのは,被告人であると認められるのに,被告人は,本件傷害事犯については否認し,保護責任者遺棄事犯については,その責任をBに押し付け,公判廷においては,責任回避のための弁解を数多く弄しており,そこには,自らが犯した犯罪の重大性を真摯に認め,これを反省しようとする態度は見受けられない。
 
また,児童虐待が多数発生し,社会問題ともなっている折,本件が社会に与えた影響も軽視できない。 
 
以上によれば,被告人が負うべき刑事責任は重い。
 
したがって,被告人が,被害者らには被害者らの許しが出ない限り会わない旨述べていること,被告人の両親が出廷したこと,被告人には前科がないことなどといった被告人のために酌むべき事情はあるが,これらの事情を十分考慮しても,本件事案の重大性に鑑み,被告人を主文の程度の実刑に処するのが相当であると判断した。
 
よって,主文のとおり判決する。
(求刑 懲役3年6月)
平成21年7月21日
福岡地方裁判所飯塚支部
裁判官 西森みゆき

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