傷害福岡5

傷害福岡5

福岡地方裁判所/平成12年(わ)第194号

主文
被告人両名をそれぞれ懲役3年に処する。
被告人両名に対し,この裁判が確定した日から5年間,それぞれその刑の執行を猶予する。

理由
(罪となるべき事実)
 
被告人甲野X男(以下「X男」という。)は甲野V男(以下「V男」という。)の実父,被告人甲野Y女(以下「Y女」という。)はV男の養母で,ともにV男の親権者として同人を養育していたものであるが
第1 X男は,平成10年1月5日午後9時ころ,福岡市東区内の自宅において,V男(当時6歳)が被告人両名の他の子供達がもらったお年玉の一部を盗って隠したとして,その隠し場所を問い質すなどしたが,V男が答えないため立腹し,同人に対し,その顔面を手拳で数回殴打する暴行を加え,よって,同人に全治約2週間を要する左右頬部,上唇部打撲に伴う皮下出血及び粘膜裂傷の傷害を負わせた。
第2 同月6日午後8時ころ,被告人両名が外出先から帰宅した際,V男は,下半身裸で,上半身に半袖のシャツとその上に長袖のトレーナーを着ただけの状態で前記自宅の庭先に居たが,X男の指示により,Y女がV男に対し,お年玉の隠し場所を教えるなら買ってきた弁当を与えるなどと申し向けたが,同人が答えなかったため,同日午後8時30分ころ,被告人両名は立腹し,共謀の上,V男が自宅内に入らず,そのまま屋外に居続けることがあり得ることを認識しながら,同人をそのまま放置することとし,同人を被告人両名方居宅内に招じ入れるなど,その生存に必要な保護をせず,よって,同月7日午前5時ころ,同庭内において,同人を凍死させた。
(証拠の標目)(略)
(事実認定の補足説明)
第1 争点
 
判示第2の事実について,弁護人は,〔1〕V男は当時6歳で,居宅内にも自由に出入りできる状態であったのだから,V男の生命・身体に対する抽象的な危険は発生しておらず,保護義務違反もない,〔2〕仮に抽象的危険の発生及び保護義務違反の事実が認められるとしても,被告人両名にはその認識がなく故意がないとして無罪を主張し,被告人両名も,公判において,これに沿う供述をするので,以下検討する。
第2 犯行に至る経緯等
 
前掲各証拠によれば,次の事実が認められる。
1 V男は,平成3年10月16日に,X男とその前妻との間の子として出生した。当時,X男らは,X男の両親方に同居していたが,平成4年11月ころに前妻が別居し,同年12月ころにはX男も単身生活を始め,V男はX男の両親に預けられた。X男と前妻は平成7年5月2日に協議離婚した。
2 Y女は,前夫との間に○○(昭和61年3月7日生),○○(昭和62年2月18日生),○○(平成元年12月29日生),○○(平成3年6月26日生)、○○(平成5年1月16日生)の5人の子供をもうけたが,平成7年6月15日に前夫と協議離婚し,Y女が5人の子供の親権者となった。
3 X男とY女は,平成6年8月ころテレホンクラブで知り合い,平成7年6月ころから親しく交際するようになり,平成8年2月26日に現住居に入居し,X男の実家からV男を引き取って8人で同居を始めた。そして,X男とY女は,同年3月29日に婚姻し,同日,X男はY女の実子5人と,Y女はV男とそれぞれ養子縁組をした。その後,X男とY女の間には平成8年7月26日に○○が,平成9年7月9日に○○が,平成11年5月11日には○○がそれぞれ出生している。 
4 V男は,平成8年4月に○○幼稚園に入園したが,ほとんど通うことなく5月に退園して,○○保育所に移り,さらに同年末には○○保育所に移り,平成9年4月からA保育園に通い始めたが,同保育園の5歳児クラスにはV男と○○が,4歳児クラスには○○が,零歳児クラスには○○がそれぞれ在籍した。
5 A保育園でのV男は,異常な食欲を見せ,時に盗み食いをすることはあったものの,他に特段の問題行動はなく,排泄の点でも特に問題はなかった。V男は何日も同じ服を着てくるなど,不衛生な面が目立ち,保母が保育園の服を貸して着替えさせたこともあったが,その際,Y女は,V男を特別扱いしたとして,保育園に苦情を言った。X男が保育園を訪れることはほとんどなく,V男らの送り迎えは専らY女が行っていたが,V男は,Y女が現れると,体を硬直させるなど,それまでとは態度を一変させていた。
6 平成9年4月のA保育園入園当初から,V男の顔や体には青あざなどが見られ,同年5月1日の朝には,X男がV男の頭を木刀で殴り,頭頂部から出血したが,Y女が傷口に絆創膏をはっただけの状態でV男を保育園に連れてきたため,保母がV男を病院に連れて行き,V男が傷口を2針縫合する治療を受けるということがあった。その後もV男の体には傷が絶えなかったが,保母がその理由を尋ねてもV男は答えなかった。一方,A保育園に通う甲野家の他の子供にはそのような傷は認められなかった。
7 同年6月初めころ,V男が空の弁当箱を持って登園するということがあり,保母がY女に理由を尋ねたところ,Y女は,V男が朝出かける前に弁当を食べていたからだと答えた。また,そのころ,保母がY女に対し,V男の食事に関して注意したところ,V男が急に過食になり太ったことがあった。また,同じころ,保母がY女に対し,V男の頭のシラミについて指摘したところ,V男が丸坊主にされるということもあった。
8 同年7月7日から同月16日までの間,V男は,Y女の出産のために,児童相談所に一時保護となったが,その際心理判定を行った判定員は,V男について,知的な発達としては,ボーダーラインレベルから普通のレベルの間にいるが,情緒的な面では,攻撃性が高く,かなり問題があると感じ,同月16日にV男を引き渡す際,Y女に対し,V男に精神疾患はないが,落ち着きがなく,嫌がる時の感情の高ぶり方が激しいので,育てにくい子供だと思うと伝えた。
9 同年9月初めころ,V男は,X男とY女によって腰の辺りに灸をすえられ,その痕が化膿していたため,保母が病院に連れて行って治療を受けさせた。同月12日に,A保育園の副園長が,Y女と話し合いを持ち,V男をX男の両親の元に戻すことや児童相談所に預けることを提案したが,Y女がこれを容れなかったため,副園長は,Y女に対して,V男を九州大学付属病院の小児精神科で受診させるよう勧めた。
10 Y女は,同月25日に,V男を連れて,同小児精神科を訪れて,V男を受診させたが,Y女は,問診票に,V男に関して,「2才のころからの毎日の盗癖。夜中起きてまでする。自分のもっていないもの,他人のものを故意にこわす。集団生活ができない。めだつためにわざと困らすようなことをする。便のきたなさがわからず大便を壁等につけたり遊んだり,おしっこ(トイレ等)で遊んだりする。」と記載し,診察を受けた目的については「10月より,児童相談所にあずける予定(検査,治療の為)で,脳や心など医学的な面でのことをおしえて頂きたい。」と記載した。診察に当たった○○医師のV男に対する精神的所見は,「うす汚れた服をだらしなく着た,やせっぽちの男の子。表情に乏しい。最初から母親から離れて自分から箱庭のタナの方に行き,箱庭においたり,他のオモチャを捜したりする。おとなしい。診察室にいる間,一言もしゃべらない。呼びかけるとふりむきはするが,すぐにではない。全体的に生彩に欠ける。」というもので,Y女に対する精神的所見は,「周りの反対をおし切ってまでptをひきとり,自分の子の世話をさしおいてでもこの子の世話をしているという,けなげな母親であるかのような話をされる。多弁で,この子のために苦労していることをむしろ自慢しているかのような印象をうける。世話に疲れたところは感じられない。話はきいていてすべて本当かどうかあやしい感じをうける。児相入所の予定であるのに当科を受診し,評価を求められる真意が不明。」というものであった。同日の診察の際,V男の左眼瞼に,かなりはっきりした内出血の痕が認められ,同医師は,診療録に「―child abuseの可能性大 ―現在 市児童相談所(南区大楠)が,この母子(親子)のcaseを検討中」と記載した。なお,A保育園の保育日誌の同月22日欄には,V男に関して「左目の付近にすごい青あざができていた(V男くんが便器に便をなすりつけて遊んだ為,父親が怒ったとの事だった。)」との記載がある。
 
同年10月5日に,同小児精神科で再度受診した際のV男の状況は,まとまった遊びができず,箱庭療法で使う動物の模型をおもちゃのハンマーで叩くなど攻撃性が見られ,自分の意見,自分の気持ちについては,問いかけられても言わないというものであった。この際,同医師は,同席したX男に対して,躾けであっても,これほどのあざを作れば児童虐待である旨述べた。
 
その後,V男は同小児精神科で受診することはなかった。
11 また,そのころ,園でのV男の様子に危機感を持ったA保育園の園長が児童相談所等の関係機関に相談し,これを受けて,児童相談所の職員が被告人両名方を訪れた。両名は,いったんは,V男を,養護施設に平成10年4月までの間預けることを了承したが,Y女は,平成9年10月末に児童相談所に電話をし,「児童相談所と保育園がぐるになってV男を虐待していると言っているから,預けることはできない。」と告げた。同年11月と12月にも,児童相談所の職員が被告人両名方を訪れたが,結局,V男は,養護施設には預けられなかった。
12 同年11月上旬ころから,V男は,急激に衰弱し,保育園で眠り込んでしまうこともあったが,Y女は,保母の問いに対し,家では元気である旨述べた。そのころから,V男は保育園を休みがちとなり,同年12月以降は全く登園しなくなった。
 
なお,V男の保育園への出席状況は,
平成9年 4月 出席19日,欠席 6日
     
5月 出席23日,欠席 2日
     
6月 出席21日,欠席 4日
     
7月 出席13日,欠席13日
     
8月 出席 7日,欠席19日
     
9月 出席17日,欠席 7日
    
10月 出席19日,欠席 7日
    
11月 出席 7日,欠席16日
    
12月 出席 0日,欠席23日
である。
13 同年10月ころ,被告人両名は,V男の夜間の行動を抑制するため,V男の手首を着物のひもなどで縛って寝かせていたが,それでもV男の問題行動が十分に抑制できないとして,同年11月ころからは,ステレオのスピーカー用のコードをV男の足首に巻き付けて結び,コードの反対側の端を洗面所の洗濯機の下の台の部分に結び,そこに布団を敷いて寝かせるようになった。
14 同年12月上旬の深夜に,Y女が,家の外で凍えて朦朧としているV男に気付き,被告人両名は,慌ててV男を風呂に入れてその体を暖め,V男が一命を取り留めるということがあった。
 
なお,この約1年前の平成8年末か平成9年初めには,早朝,新聞配達員が,被告人両名方の玄関ドア前で,ジャージの上下を着て座っているV男を見て心配し,同玄関のチャイムを鳴らしてそのことを知らせ,出てきたY女が,V男を居宅内に入れるということがあった。
15 被告人両名は,平成10年1月2日,V男を含めた家族全員で,X男の実家に赴き,子供達はお年玉をもらったが,V男はもらったお年玉を中身も見ずにY女に手渡した。その際のV男は,やせて,元気がなく,歩くのもやっとという状態であった。
16 同月5日の夕方,子供達のお年玉が少しずつ抜き取られていることがわかり,被告人両名は,V男が盗ったものと考えて,V男を追及した。初めはこれを認めなかったV男も,やがて,盗ったこと自体は認めたが,それを隠した場所を言わなかったため,X男は,同日午後9時ころ,判示第1の傷害の犯行に及び,さらにV男を殴ろうとするX男をY女が止めた。その際,V男は,上半身には半袖のシャツとその上に長袖のトレーナーを,下半身にはパンツとジャージのズボンをはいていたが,同日から翌6日までの間にパンツとズボンを汚したため,それを脱いで下半身裸となり,以後そのままの状態であった。また,V男は,同月5日の夕食以降,Y女が作った食事は食べなかった。
17 同月6日午後3時ころ,被告人両名は,V男以外の子供を連れて買い物に出かけ,同日午後8時ころ帰宅した。その際,Y女は,ベランダに置いてあるエアコンの室外機のすぐ横の地面に座っているV男を認めたため,そのことをX男に告げたところ,X男はY女に対し「弁当を見せて,金の隠し場所を聞いてみろ。」と言った。そこで,Y女は外に出て,V男に対し,お年玉の隠し場所を教えるなら買ってきた弁当を与えるなどと言って問い質したが,やはりV男は答えなかった。同日午後8時30分ころ,立腹したY女が居宅内に入り,X男に対して,V男が答えなかった旨告げると,X男も立腹し,Y女に対して「ほっとけ。言えば済む話だ。言うまでは俺は知らん。」と言い,被告人両名は,V男をそのままにしておくこととした。
 
被告人両名は,買ってきた弁当をV男以外の子供達と食べた後,リビングのコタツに入り,「もうこれ以上,V男の面倒は見きれないかもしれない。施設に預けるほうがいいかもしれない。」などと話し合ったが,そのうち両名とも寝入ってしまった。
18 同月7日午前11時30分ころ,被告人両名は目を覚まし,Y女がリビングのサッシを開けて外を見ると,V男が,前記のエアコンの室外機の側に倒れていたため,Y女はV男を抱えて居宅内に入った。そして,Y女は,V男の異変をX男に知らせた後,1人でV男を車にのせて病院に運んだが,V男は既に死亡していた。X男は遅れて病院に到着し,V男の死亡を知った。
19 福岡市中央区所在の福岡管区気象台の観測によれば,V男の死亡推定時刻前後の地上気温(摂氏)は
平成10年 1月6日 20時 7.6度
           
21時 6.8度
           
22時 6.1度
           
23時 5.8度
           
24時 4.7度
        
7日  1時 4.2度
            
2時 3.9度
            
3時 3.3度
            
4時 3.3度
            
5時 3.6度
            
6時 3.6度
            
7時 4.0度
で,7日の最低気温は3.2度(午前3時21分)であった。
20 V男の死体は,九州大学医学部法医学教室の○○教授により解剖されたが,その結果,V男の直接的死因は凍死で,死亡したのは,同日午前5時ころと推定された。
 
V男の死体には,頭部,顔面等に皮下出血がみられたほか,背部,腰部,臀部に円形の瘢痕が,左右前腕や右手背に円形,楕円形の瘢痕が,左右上肢,下肢に表皮剥脱がみられた。また,V男の胃内には固形物はなく,胸腺は高度に萎縮して実質が確認できず,左右下肢は双方とも下腿から足にかけて浮腫状となっていた。
 
同教授によれば,円形及び楕円形の瘢痕は熱傷によるもので,そのうち,背部から臀部にかけての5つの瘢痕と右前腕部の3つの瘢痕は,2度から3度の熱傷が治癒し,あるいは治癒途上のものである。胃の内容物の状態からは,V男が食事をしたのは最低でも死の4~5時間前で,何日も食べていないということもあり得る。また,6歳児の場合は胸腺が14グラムから15グラムあってもおかしくない。被虐待児の場合に胸腺の高度の萎縮が見られることは法医学の常識になっている。また,左右下肢が浮腫状となっているのは飢餓状態の症状である。胸腺が萎縮するにはいろいろなストレスが絡むが,一番萎縮しやすいのが飢餓状態に置かれた場合で,死体の胸腺の萎縮の程度からすると,V男は,比較的長期間ストレスを被っていたとみられる。
 
また,同教授によれば,気温が15度以下の状態に置かれれば人は凍死する可能性があり,10度以下の状態で4,5時間置かれれば,十分凍死に至る。凍死に至る場合の行動としては,歩き回る行動と,うずくまって寒さをしのぐ行動が考えられるが,気温が3度から4度といった低温の場合は,早期にうずくまった状態となり,そのまま睡眠状態に入って心停止に至ると考えられる。小児は寒冷状態に強く,V男の場合,死亡の1,2時間前に適切な処置をとれば救命できたと考えられる。V男の健康状態の悪化が凍死に影響を及ぼしたという解剖所見はない。
第3 争点に対する判断
 
上記のとおり,被告人両名が,平成10年1月6日午後8時ころに帰宅した際,V男は下半身裸で,上半身に半袖のシャツとその上に長袖のトレーナーを着ただけの状態で屋外に居たが,同日午後8時の福岡市は地上気温摂氏7.6度という寒さであったこと,上記のような経緯から,被告人両名とV男とは反目した状態にあり,とりわけ同月5日以降,V男は,被告人両名のお年玉についての追及に対して反抗的な態度をとり続け,X男から判示第1のとおりの暴行を受けた後はさらに反抗心を募らせていたと考えられること,平成9年12月上旬の深夜には,Y女が,家の外で凍えて朦朧としているV男に気付き,被告人両名が,慌ててV男を風呂に入れてその体を暖め,V男が一命を取り留めるということがあったばかりであったことなどからすると,V男が,さらに気温が低下に向かう屋外に,そのまま居続ける可能性は極めて高かったといえる。そして,そのようなV男に対して適切な保護を行える者は,被告人両名以外にはおらず,被告人両名がV男を放置することとした時点で,V男の生命に対する高度の危険性が発生していたことは明らかである。そして,被告人両名には,このような,V男の生命に対する危険を基礎づける事実の認識に欠けるところはなく,それにもかかわらず,V男の生存に必要な保護を行わなかった結果,V男が凍死したこともまた明らかである。
 
したがって,判示第2の事実は優にこれを認定することができ,弁護人の主張は採用できない。
(法令の適用)
1 被告人甲野X男について
罰条
 
第1の事実 刑法204条
 
第2の事実 刑法60条,219条(218条),刑法10条により重い同法205条の刑で処断
刑種の選択
 
第1の事実 懲役刑を選択
併合罪加重
 
刑法45条前段,47条本文,10条(重い第2の罪の刑に14条の制限内で加重)
刑の執行猶予
 
刑法25条1項
訴訟費用の不負担
 
刑事訴訟法181条1項ただし書
2 被告人甲野Y女について
罰条
 
第2の事実 刑法60条,219条(218条),刑法10条により重い同法205条の刑で処断
刑の執行猶予
 
刑法25条1項
訴訟費用の不負担
 
刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
 
本件は,当時6歳の被害者が他の子供らがもらったお年玉を盗って隠したとして,実父であるX男がその顔面を殴打して全治約2週間の傷害を負わせ,さらに,X男と養母であるY女が,夜間,厳寒の屋外に居る被害者を放置した結果,同人を凍死させたというX男の傷害及び被告人両名の保護責任者遺棄致死の事案である。
 
被害者は,4歳までX男の両親に育てられ,X男との交流は乏しく,X男とY女の結婚に伴い,被告人両名の元に引き取られ,Y女の実子5人とも同居したが,やがて厳しい体罰を受けるようになり,食事も十分に与えられず,衰弱した末,齢6歳にして自宅の庭で凍死したもので,その間,被害者が長期間にわたり強度のストレスにさらされていたことは,その遺体に残る多くの傷跡や,胸腺がほとんど消失していたことからも明らかであって,誠に悲惨としか言いようがない。
 
被告人両名は,前記のとおり,関係者らの助言により,被害者に対する接し方を改め,あるいは被害者を養護施設に預けるなどの方法によって危機的な状況を回避する機会を具体的に与えられていたにも拘わらず,そのような助言を受け入れず,被害者を自宅内に留置き,その行動を物理的に抑制しようとした結果,最悪の事態を招いたものである。
 
X男にあっては,被害者に対して,日常的に強度の体罰を加え続けた末に判示第1の犯行に及び,判示第2の犯行においても,Y女に対して被害者を放置するよう申し向け,その翌朝も,被害者の様子を気に懸けることはなく,Y女から被害者の異変を知らされた後も,同人の病院への搬送をY女1人に委ねたものであって,犯情は悪質である。
 
また,Y女にあっては,関係者らの助言を極めて被害的に受け止めて適切な対応を怠り,判示第2の犯行時も,被害者を放置して寝た後,午前3時ころに目覚め,被害者が屋外にいることに気付いたにも拘わらず,さらに被害者を放置したと認められ,朝になって起床した後も,被害者の様子を気に懸けることはなく,他の子供を保育園に送り届けるなどして帰宅し,昼近くになって,ようやく被害者の異変に気付いたものであって,やはり犯情は悪質で,公判において関係者に対する責任転嫁的な供述に終始したことも誠に遺憾である。
 
以上のような事情に照らせば,被告人両名の刑責は重く,両名に対しては実刑をもって臨むことも十分考慮に値するといわなければならない。
 
しかしながら,本件第2の犯行は,直接的な加害行為の結果被害者が死亡したというような傷害致死の事案ではなく,前示のとおり保護責任者遺棄致死の事案であること,被告人両名は,多くの子供を抱え,生活に追われる中,被害者の問題行動に困惑し,本件当時は相当に疲弊していた事情も窺われること,Y女は,被害者の異変に気付くと,自ら直ちに病院に搬送していることといった事情が認められるほか,被告人両名は,現在は被害者を死亡させたことについて反省し,被害者を供養し,子供に対する接し方についても改める努力をしているとみられること,被告人両名とも体調が不良であること,Y女の生い立ち等には同情すべき点も認められること,そして何よりも被告人両名が現に2歳から15歳までの8人の子供を養育していることなどの事情を合わせ考慮すると,被告人両名を直ちに実刑に処するよりは,これらの子供達のためにも法定の最長期間刑の執行を猶予して社会内でその養育に当たらせるなかで自力更生の途を歩ませることの方が刑政の目的にも適うものと判断した。
 
そこで,被告人両名に対しては,主文の刑を科した上,法定の最長期間その執行を猶予することとした。
 
よって,主文のとおり判決する。
(検察官壬生隆明,国選弁護人南谷知成(主任),同南谷敦子各出席)
(求刑―いずれも懲役4年)
平成13年12月6日
福岡地方裁判所第1刑事部
裁判長裁判官 谷敏行 裁判官 家令和典 裁判官 古庄研

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