窃盗福岡2

窃盗福岡2

福岡高等裁判所/平成15年(う)第527号

主文
原判決を破棄する。
本件を福岡地方裁判所に差し戻す。

理由
 
本件控訴の趣意は,弁護人長戸和光提出の控訴趣意書記載のとおりであり,これに対する答弁は,検察官望田耕作提出の答弁書記載のとおりであるから,これらを引用する。
 
所論に対する判断に先立ち,職権により記録を調査し,当審における事実取調べの結果を併せて,原判決の訴訟手続につき検討する。
1 まず,記録によれば,原審の審理経過について,次の事実が認められる。すなわち,平成15年4月15日の第1回公判期日において,被告人は,本件各公訴事実を認め,検察官請求の証拠もすべて同意し,これらが取り調べられて検察官の立証が終了し,弁護人請求の情状証人1名の尋問,被告人質問が実施され,同日結審した。同月28日の第2回公判期日(判決宣告期日)において,原審裁判官は,被告人に対し,懲役3年,未決勾留日数30日算入の主文を朗読した上,理由として,罪となるべき事実と法令の適用を告げ,続いて量刑の理由を説示中,道路交通法違反について,パトカーに追跡されて逃走したことに説示が及ぶや,被告人は,「違います」,窃盗について,「私はやっていない」,覚せい剤取締法違反についても,「強制採尿の際,警察官から首を絞められた」などと言い出して,その説示を遮った。同裁判官は,宣告手続を中断して被告人の言い分を聴取し,その言い分に理由のないことを被告人に納得させようとしたものの,被告人は,その言い分を容易には撤回しなかったので,同裁判官は,証拠調べを実施する必要があり,そのためには弁論再開もやむなしと考え,検察官と弁護人双方の意見を聴いた上,弁論再開を予定して,第3回となる公判期日を同年5月12日午前10時20分と指定して閉廷し,第2回公判期日は終了した(なお,第2回公判調書の記載には,「証拠調べ等のため弁論再開予定につき,本日の公判期日を平成15年5月12日午前10時20分に変更する。」とあるが,一旦開廷し,判決宣告手続に着手していることは上記認定のとおりであるから,宣告した判決を取り消さなければ,判決宣告期日の変更をすることはおよそ考えられないが,そこまで厳密に考えた記載かどうかは不明である。)。
 
そして,同裁判官は,第3回公判期日において,職権により弁論を再開し(必ずしも明らかではないが,第2回公判期日において宣告した判決は,遅くともこの段階で取消したものと推認される。),被告人質問を実施した上で,第4回公判期日(同年6月10日),第5回公判期日(同年7月7日)を通じ,被告人が新たに否認するに至った原判示第2(窃盗)及び同第3(覚せい剤取締法違反)の各事実につき検察官に補充立証をさせ,第6回公判期日(同月14日)においては,弁護人請求の情状証人1名の尋問を実施して証拠調べを終え,再度の論告弁論を経て結審し,改めて第7回の公判期日(同年9月1日)において,被告人に対し,懲役3年,未決勾留日数60日算入を主文とする判決を宣告した。
2 そこで考えるに,「判決は,公判廷において宣告によりこれを告知し(刑訴法342条),宣告によりその内容に対応した一定の効果が生ずるものと定められている(刑訴法342条ないし346条)。そうして,判決の宣告は,必ずしもあらかじめ判決書を作成したうえこれに基づいて行うべきものとは定められていない(最高裁昭和25年(れ)第456号同年11月17日第二小法廷判決・刑集4巻11号2328頁,刑訴規則219条参照)。これらを考えあわせると,判決は,宣告により,宣告された内容どおりのものとして効力を生じ,たとい宣告された内容が判決書の内容と異なるときでも,上訴において,判決書の内容及び宣告された内容の双方を含む意味での判決の全体が法令違反として破棄されることがあるにとどまると解するのが,相当である。」「また,決定については一定の限度で原裁判所の再度の考案による更正が認められているのに対し(刑訴法423条2項),判決については,上告裁判所の判決に限り,一定の限度でその内容の訂正が認められているだけであって(刑訴法415条),第一審及び控訴審の裁判所の判決については,判決の訂正の制度が設けられていない。このことは,第一審及び控訴審の裁判所の判決は,その宣告により,もはや当の裁判所によっても内容そのものの変更が許されないものとなることを意味する。」のであり,したがって,判決の訂正変更は,宣告のための公判期日が終了するまでに行わなければならないと解される(最高裁昭和51年11月4日第一小法廷判決・刑集30巻10号1887頁参照)。
 
そして,裁判官が主文を朗読し,遅くとも,理由の要旨即ち罪となるべき事実と法令の適用を告げた時点において,既に当該事件に対する裁判所の判断が公開の法廷で明らかにされ,判決の外部的成立を見たも同然というべきであるが(判決宣告手続が完結するまでは,判決の効力が発生しないことはもちろんである。),このような段階に至った以上は,もはや判決宣告手続の取消(撤回)は許されないと解すべきである。もとより,その期日が終了するまでの間に,「判決書又はその原稿の朗読を誤った場合にこれを訂正することはもとより,いったん宣告した判決の内容を変更してあらためてこれを宣告すること」は許容されてはいるものの(前記最高裁判決参照),同期日において,その判決の宣告手続を完結させることが当然のこととして要請されていると解される。すなわち,判決宣告は,その審級の訴訟手続の終結点であり,とくに第一審判決宣告によって,勾留関係など被告人の立場などに大きな変化が生じるから(無罪や懲役・禁錮刑の執行猶予の判決宣告があれば,勾留中の被告人はこれを直ちに釈放しなければならないし,懲役・禁錮刑の実刑判決の宣告により,保釈等は効力を失い,権利保釈や,勾留更新の制限の規定は適用されなくなる。),判決宣告手続は明確でなければならない。これに反して,宣告した判決を全面的に取消(撤回)した上で,弁論を再開し又は判決宣告期日を続行したり,あるいは判決宣告手続を中断し,次回期日に取り消すことを予定して続行したりすることは法の予定するところではないばかりか,判決の明確性,法的安定性が損なわれること著しく,被告人の立場を不安定にし,ひいては,裁判の威信を危うくするおそれがある(当該裁判への違法不当な介入を招くおそれすら考えられる。)から、許されないというべきである。
3 これを本件についてみるに,前記認定の事実によれば,原審裁判官が,判決宣告期日である第2回公判期日において,判決宣告手続の途中で,これを完結させることなく,次回期日を指定し,第3回公判期日において,弁論を再開の上,さらに証拠調べを行うなどし,第7回公判期日(判決宣告期日)において改めて判決宣告をしたことは,結局,外部的に成立を見たも同然の判決の宣告手続をその判決宣告期日において完結させず,その期日又は次回期日においてこれを黙示的に取消し,弁論を再開した点において,第2回公判期日以降の訴訟手続に法令違反がある。すなわち,第2回公判期日の判決宣告手続並びにそれ以降の第7回公判期日における判決宣告を含む公判手続はいずれにも訴訟手続の法令違反があり(第7回公判期日の判決宣告が違法であることは上述したところから明らかであり,また,第2回公判期日に宣告された判決については,本来発生してしかるべき効力の発生を滞らせ,これに対応する判決書も作成されていないという違法がある。),第2回公判期日に宣告された判決と第7回公判期日に宣告された判決の双方を含む意味での判決の全体が違法となり(訴訟当事者にとっていずれが上訴の対象となるべき判決であるかも,定かではないといえる。),その違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。 
 
よって,控訴趣意(事実誤認,量刑不当)に対する判断をするまでもなく,刑訴法397条1項,379条により原判決を破棄し,同法400条本文により本件を原裁判所である福岡地方裁判所に差し戻すこととし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 虎井寧夫 裁判官 林田宗一 裁判官 大崎良信)

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