窃盗福岡4

窃盗福岡4

福岡高等裁判所/平成15年(う)第620号

主文
原判決を破棄する。
本件を長崎地方裁判所に差し戻す。

理由
1 本件控訴の趣意は,弁護人有岡利夫提出の控訴趣意書に記載されたとおりであるから,これを引用する(弁護人は,控訴趣意は量刑不当の主張であると釈明した。)。
2 量刑不当の論旨に対する判断に先立ち,職権をもって調査する。
(1)本件は,被告人が,〔1〕平成15年7月7日午前2時30分ころ,駐車中の軽四輪貨物自動車からガソリンを窃取しようとして未遂に終わったという窃盗未遂,〔2〕同日午前5時35分ころ,普通乗用自動車を無免許運転したという道路交通法違反の事案であるところ,被告人には,平成11年4月9日長崎地方裁判所で殺人未遂罪により懲役3年6月に処せられ,平成14年11月19日その刑の執行を受け終わった前科(本件の累犯前科)があるから,本件につき懲役刑の宣告がなされた場合には,法律上その刑の執行を猶予することができないことが明らかであった。
 
しかるところ,記録及び関係証拠によれば,原判決宣告の手続に関して,次の事実が認められる。すなわち,平成15年10月1日の第2回公判期日(判決宣告期日)において,原審裁判官は,判決の宣告を開始し,被告人に対して,懲役刑を宣告した上,その刑の執行を猶予する旨告げたところ,検察官から判決主文に誤りがあるとの指摘を受けたので,理由の朗読に進む前に,言渡しを中断していったん休廷した上,再度開廷し,在廷していた被告人及び検察官に対し(弁護人は不出頭),判決は再検討の上改めて言い渡すこととし,判決宣告期日を同月8日に変更する旨告げて閉廷し,新たな期日(第3回公判期日)に,改めて被告人を懲役10月に処し,未決勾留日数中30日をその刑に算入する旨の判決を宣告した。
(2)ところで,判決は,主文・理由の朗読又は主文の朗読と理由の要旨の告知(刑訴規則35条),上訴期間等の告知(同220条)等,一連の手続を終え,判決宣告のための公判期日を終了した場合には,もはや当該裁判所にとっても内容そのものの変更が許されない状態となるが,反面,それまでの間は,いったん宣告した判決の内容を変更し,改めてこれを宣告することも違法ではないと解される(最高裁昭和51年11月4日第一小法廷判決・刑集30巻10号1887頁参照)。しかし,そうであるとしても,宣告終了前であれば,判決内容を変更した後の手続に何ら制約がないと解するのは相当ではなく,裁判所は,途中で判決内容を変更をした場合でも,原則として,当該判決宣告期日において,その判決の宣告手続を完結させることが当然のこととして要請されていると解される。本件のように,判決の最も重要な部分である主文を言い渡した後,その宣告手続を中断し,これを撤回し又は撤回することを前提として,判決宣告のために他の日時を指定して改めて判決を宣告することは,許されていないと解するのが相当である。
(3)その理由は,以下のとおりである。
 
判決は,いうまでもなく,裁判所が,被告事件につき当事者の主張と証拠関係を検討した上,判決に熟すると判断した場合に審理を終結して,これを言い渡すべきものであり,事件に対する検討は既に審理と並行してなされているほか,審理の終結後更に検討する必要があれば,そのために必要な期間を置いて宣告することが通常であり,判決宣告の途中で,その内容を変更するために改めて期日を指定するような事態が生じることは考え難く,実際上も稀であると考えられる。翻っていえば,むしろ,そのような事態が生じることのないように,十分熟考した上で判決を宣告すべきことが要請されている。
 
また,判決宣告は,その審級の訴訟手続の終結点であり,とくに第一審判決宣告によって,勾留関係など被告人の立場などに大きな変化が生じる。例えば,無罪や懲役・禁錮刑の執行猶予の判決宣告があれば,勾留中の被告人はこれを直ちに釈放しなければならないし,懲役・禁錮刑の実刑判決の宣告により,保釈等は効力を失い,権利保釈や,勾留更新の制限の規定は適用されなくなるのであるから,判決宣告手続は1回的で,しかも明確でなければならない。
 
さらに,もし,複数期日にわたる判決の宣告,例えば,判決の内容を一部朗読するなどした上,次回の判決宣告期日を指定することが可能であり,しかも,判決宣告手続の終了前に,既に朗読等をした内容を変更することも許されるものとすれば,判決の明確性を害し,いたずらに被告人の地位を不安定にするだけでなく,裁判に対する信頼をも失いかねない。また、判決の言い渡しを終えるまでの間に,裁判への不当な圧力や介入を招く原因ともなりかねない。
(4)以上のとおりであるから,原審において第2回及び第3回公判期日にわたってなされた判決宣告手続は全体として違法なものというべきであり,これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。 
3 よって,控訴趣意に対する判断をするまでもなく,刑訴法397条1項,379条により原判決を破棄し,本件においては,原審で適法な手続により判決宣告がなされたとはいえないから,その手続を正すために,同法400条本文により本件を原裁判所である長崎地方裁判所に差し戻すこととし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 虎井寧夫 裁判官 林田宗一 裁判官 向野剛)

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