背任福岡2

背任福岡2

福岡地方裁判所/平成12年(わ)第266号

主文
1 被告人A1を懲役2年に処する。
未決勾留日数中230日をその刑に算入する。
2 被告人B1を懲役2年に処する。
未決勾留日数中80日をその刑に算入する。
3 訴訟費用は被告人らの連帯負担とする。

理由
(犯罪事実)
 
被告人A1は,昭和51年2月2日から平成12年2月17日までの間,L2大学工学部等の私立学校の設置を目的とする学校法人M2の理事長として,同M2の業務全般を統括し,同M2が資産を取得するに当たっては,取得する資産の同M2にとっての有用性,有益性を十分吟味し,理事会の決定によることなど法令,寄附行為の定めを遵守するなどして,同M2のため忠実にその職務を遂行すべき任務を有していたもの,被告人B1は,N2株式会社の代表取締役であり,被告人A1から,特別研究費名下に同M2の資金を出捐させるなどしていたものであるが,被告人両名は,ポリ塩化ビフェニールの処理事業を目的として平成6年11月設立されたO2株式会社の取締役にいずれも設立と同時に就任した。当時M2においては,理事会で被告人A1とその姉であり同M2理事であるC1との対立により互いに双方の派の理事の地位の無効を主張する民事訴訟が提起されるなどの内紛が続いており,平成6年12月これらの民事訴訟が確定した後も理事会の開催通知さえ出されず,理事会が開催されない状況が続いていた。
 
被告人両名は,共謀の上,岡山県倉敷市a1b1番c1ほか23筆の土地(通称Y2島)をO2株式会社にポリ塩化ビフェニール処理場の設置用地として使用させて同会社等の利益を図る目的で,被告人A1の前記任務に背き,M2の理事会の議決を得ることなく,平成7年1月23日開催された同M2の評議員会において,Y2島をO2株式会社に貸与することを秘したまま,M2の学校用地として確保し教育目的に使用する旨虚偽の説明をして評議員会にかけて承認を得たのみで,同年3月16日,大阪市d1区e1f1丁目g1番h1号所在のD1司法書士事務所において,M2がE1から同人所有の前記Y2島を代金7億円で買い取る旨の売買契約を締結した上,その手付金の支払に充てるため,福岡市i1区j1k丁目l番m号所在の株式会社P2銀行j1支店に開設された学校法人M2理事長A1名義の普通預金口座から大阪市n区op丁目q番r号所在の株式会社Q2支店o支店に開設されたD1事務所所長D1名義の普通預金口座に1億4000万円を振り込み,同振込金を原資として振り出された同支店長作成名義の保証小切手4通(額面合計1億4000万円)を,同月22日,前記D1司法書士事務所において,E1の代理人F1に交付して手付金の支払に充て,さらに,E1とM2の間で発生した前記売買契約に関する民事紛争に際し,売買代金を4億5000万円に減額する旨の裁判上の和解が平成8年9月9日成立したことに基づき,その和解後の前記売買契約に基づく売買代金の残金の支払に充てるため,平成9年2月28日,前記株式会社P2銀行j1支店に開設されたM2理事長A1名義の普通預金口座から別段預金口座に振り替えられた3億1000万円を原資として振り出された同支店長作成名義の保証小切手1通(額面3億1000万円)を,同年3月3日,大阪市n南st丁目u番v号所在のG1法律事務所において,F1に交付して残金の支払に充て,もって,M2に対し,合計4億5000万円相当の財産上の損害を加えた。
(事実認定の補足説明)
第1部 弁護人らの主張(争点)
 
被告人A1の弁護人は,「〔1〕被告人A1は,通称Y2島の土地購入に関して形式的にはM2の理事会の承認を受けていないが,同M2では内紛によって理事会の開催が事実上不可能な状態にあり,評議員会が理事会の機能を代替しており,Y2島の購入につき評議員会の承認を受けているのであるから,Y2島の購入手続に実質的な任務違背はない。〔2〕被告人A1は,O2株式会社(以下,「O2」という。)にポリ塩化ビフェニール(以下,「PCB」という。)処理場の設置用地として使用させるためにY2島を購入したものではなく,学校用地として利用する目的で購入したもので,購入段階ではO2に貸与する予定はなかったのであるから,被告人A1には自己又は他者の利益を図るという図利加害の目的はない、〔3〕本件売買契約におけるY2島の売買価格7億円がその後裁判上の和解により4億5000万円に減額されており,Y2島の客観的価値は減額された購入価格に比して低いものとはいえないから,被告人A1は,Y2島の購入によりM2に対し,財産上の損害を与えていない,〔4〕仮に,これらの主張が認められないとしても,被告人A1には背任罪の故意がない,〔5〕被告人A1の検察官調書には信用性がない,したがって,被告人A1は無罪である。」旨主張し,被告人A1は公判廷において弁護人の前記主張に沿う供述をしている。
 
被告人B1(以下,「被告人B1」という。)の弁護人は,被告人A1の弁護人の主張を援用するとともに,〔1〕被告人B1には,被告人A1の任務違背に対する認識はなく,〔2〕Y2島の購入において,その売買の意思決定,売買契約,代金交付はいずれも被告人A1が単独で行っており,被告人B1の加功はないから,被告人B1は共犯となり得ない,〔3〕被告人B1の検察官調書には任意性に疑問があり,信用性もない,したがって,被告人B1は無罪である。」旨主張し,被告人B1も公判廷では弁護人の前記主張に沿う供述をしている。 
 
したがって,本件の主たる争点は,〔1〕M2がY2島を購入した目的,〔2〕被告人A1に背任罪にいう任務違背が存在するかどうか,〔3〕Y2島購入によりM2に財産上の損害を与えたのかどうか,〔4〕被告人A1と被告人B1との間の共謀の成否等にある。
 
当裁判所は,被告人両名に背任罪が成立するとの結論に達した。以下では,M2がY2島を購入した目的,被告人A1の任務違背,その他の背任罪の要件の順で当裁判所の判断を示すことにする。
 
なお,証人の供述について,それが公判供述なのか公判調書中の供述部分なのかという点については,前記証拠の標目に記載したとおりであるので,以下の説明中で引用する場合は,それを区別せず,「証言」と,あるいは公判回数のみを記載する。
第2部 M2がY2島を購入した目的
第1 前提事実
 
関係各証拠によれば,以下の各事実が認められる。
1 M2の概要,被告人A1の地位・任務
 
M2は,昭和31年6月6日設立され(当初の名称は学校法人R2。その後,昭和32年現在の名称に変更された。),主たる事務所は,福岡市w区xy丁目z番a2号に所在する。教育基本法及び学校教育法に従い私立学校を設置することを目的とし,L2大学工学部,S2短期大学,埼玉S2短期大学,L2大学附属U2高等学校,L2大学附属V2高等学校,L2大学附属中学校,S2短期大学附属幼稚園を設立している(登記簿謄本(甲2ないし9))。
 
各学校の所在地は,L2大学工学部,S2短期大学,L2大学附属U2高等学校,L2大学附属中学校はいずれも福岡市w区xy丁目z番a2号に,埼玉S2短期大学は埼玉県羽生市b2c2番地に,L2大学附属V2高等学校は埼玉県北葛飾郡d2町e2f2番地にそれぞれ所在する(電話聴取書(甲77))。
 
被告人A1は,昭和51年2月2日から平成12年2月17日までの間,M2の理事長として,同M2の業務全般を統括し,同M2が資産を取得するに当たっては,取得する資産の同M2にとっての有用性,有益性を十分吟味するとともに,法令,寄附行為の定めを遵守するなどして,同M2のため忠実にその職務を遂行すべき任務を有していた(登記簿謄本(甲2)等)。
2 Y2島についての売買契約の成立等
 
本件売買契約の前日である平成7年3月15日,Y2島の売主であるE1の代理人であるF1,H1,I1,J1,K1がD1司法書士事務所(大阪市d1区e1f1丁目g1番h1号所在)において,契約書の内容を確認した。同日,被告人A1は,M2の経理課長であるL1に指示して,D1司法書士の銀行口座に,本件売買契約の手付金1億4000万円を振り込ませた(証人L1の証言(第7回公判),証人D1の証言(第2回,第3回公判))。同月16日,E1が所有する岡山県倉敷市a1b1番c1ほか23筆の土地(以下,単に「Y2島」という。)につき,M2とE1(平成8年11月13日死亡)との間で売買代金を7億円,手付金を1億4000万円とする土地売買契約(以下,「本件売買契約」という。)が締結された。同契約書には,当初,特約条項15条(ハ)として,「買主は,本件物件を取得したる後 公害処理企業に賃貸することを予定しているのでそ のためにする建物・工作物の設置等につき 法令・慣習等の水準を超える特段の制限がないこと 漁業権 その他につき同様な補償を要しないことを売主は保証する」との条項が存在したが,売買契約時に同条項は削除された(添付資料集(甲69)番号14,15)

 
その後,Y2島に埋蔵文化財が存在すること,官有の里道が存在することなどが問題となり,売買代金支払に関してF1側とM2との間で紛争が生じ,平成8年4月24日,F1側から,M2を被告とする売買代金支払請求訴訟が福岡地方裁判所に提起された。その後同訴訟は,平成8年9月9日,売買代金を4億5000万円に減額すること等を内容とする裁判上の和解が成立した。
 
平成9年2月14日,Y2島の土地の一部につき,倉敷市からの官有地の払い下げ手続が完了したため,同日F1により所有権保存登記なされ(2677番2の土地),あるいは同月20日倉敷市からF1に所有権移転登記がなされ(2676番8の土地)),同月28日ころ,被告人A1はL1に指示して,本件土地の残代金3億1000万円分の保証小切手を振出した。被告人A1は,被告人B1に対し,この保証小切手を交付し,被告人B1は被告人A1の指示により,同年3月3日,残代金の支払として前記小切手をF1に交付した。同日,Y2島につきいずれもM2に所有権移転登記がなされた(全部事項証明書(甲19),資料入手報告書(甲20),L1の検察官調書(甲21,22。ただし,甲21については被告人A1の不同意部分を除く。),添付資料集(甲69))。
 
被告人A1は,Y2島を購入した後,その旨所轄庁である文部大臣,県知事に報告していないし,事務方にその旨報告するように指示もしていない。
3 M2における承認方法等
 
私立学校法上,「学校法人の業務は,寄附行為に別段の定めがないときは,理事の過半数をもって決する」とされ(36条),M2の寄附行為において,「この法人の業務の決定は理事をもって組織する理事会によって行う(6条1項)」,「理事会の議事は法令に特別の規定がある場合及びこの寄附行為に別段の定めがある場合を除くほか理事総数の過半数で決し可否同数の場合は,議長の決するところによる(6条6項)」,「予算をもって定めるものを除くほか新たに業務の負担をし又は権利の放棄をしようとするときは理事の3分の2以上の同意がなければならない(25条)」とされている(「刑事訴訟法第197条第2項による捜査関係事項の照会について(回答)」と題する書面(甲1))。したがって,M2の寄附行為によれば,被告人A1は,本件売買契約前にその契約につきM2の理事会の議決を受けなければならなかったが,M2においては,被告人A1とその姉でありM2の理事であるC1の対立から,互いに理事の地位の無効確認を求める等の民事訴訟が提起されるなどしたため,理事会が昭和56年ころから開催されていないこともあって,被告人A1は,理事会の議決を受けることなく,本件売買契約を締結した(M1の検察官調書(甲25),N1の検察官調書(甲26)等)。
 
なお,M2の寄附行為においては理事会のほか,評議員20名をもって組織する評議員会の規定が存在し(13条),評議員会の議決事項としては,予算・借入金及び重要な資産の処分に関する事項,予算外の新たな義務の負担又は権利の放棄等が定められている(14条)(「刑事訴訟法第197条第2項による捜査関係事項の照会について(回答)」と題する書面(甲1))。被告人A1は,本件売買契約前の平成7年1月23日に開催された評議員会において,本件売買契約の締結について,「学校用地確保のため」との説明のもと,Y2島を購入する案件を報告して承認を得た(捜査報告書(甲76),O1の検察官調書(甲54)等)。
本件売買契約締結後の平成7年3月29日,評議員会において,被告人A1から,岡山の土地買収の件として説明がなされた(評議員会議事録の写し(弁6))。
 
M2の理事の地位をめぐる前記民事訴訟は平成6年12月最高裁判所の判断が出て確定したが,被告人A1はその後も理事会の招集手続をとらず,平成7年12月になって理事会の開催通知を出したが理事会に出席した理事が定足数に満たなかったため,理事会が成立しなかった。その後平成9年4月18日開催の理事会で理事が改選されて理事会が定足数を満たすようになり,同年5月26日開催された理事会で,昭和56年度から平成8年度までの評議員会で承認議決され執行された重要案件の一つとして,Y2島購入についても,Y2島を「岡山と倉敷中間沖合2キロにあり,学生のレクリエーション用に買収」として報告し,同理事会において承認手続が履践された(M1(甲25),P1(甲30)の検察官調書)。
4 Y2島の状況
 
本件売買契約の対象となった土地は,通称Y2島と呼ばれ,岡山県倉敷市a1b1番c1ほか23筆の土地で,瀬戸内海に浮かぶ無人島である。その敷地面積は,約18万500平方メートル,地目は「山林」あるいは「雑種地」となっている。M2が設置している学校等は,前記のようにいずれの学校も福岡市内あるいは埼玉県内にあり,Y2島まではかなり距離がある上,船の定期便もないので,学生,生徒,教職員がY2島に行くには,かなりの費用と時間がかかる。
5 被告人A1,被告人B1,H1の関係
 
被告人A1は,昭和54年ころ,M2が埼玉県に高等学校を開設するに当たり,学校用地を紹介した人物の従兄弟が被告人B1であったことから,同被告人と知り合った。
 
H1(平成9年4月15日死亡)は,被告人B1の古くからの知り合いであり,平成5年ころ,H1がハワイで所有しているマンションを被告人B1の仲介によりM2に売却した際被告人A1と知り合った。
6 被告人A1と被告人B1の共同事業の状況
 
被告人両名は,前記のように昭和54年ころ知り合って以降親交を深めていき,被告人A1は,被告人B1が持ちかける事業の企画や物件の購入などに興味を示し,それらの事業等にM2の資産を投入するようになった。
 
被告人B1は,平成3年6月ころ,朝鮮人参の加工販売等を営むN2株式会社(以下,「N2」という。)を設立し,平成4年8月21日代表取締役となり,同日被告人A1も同社の取締役に就任し(登記簿謄本(甲13ないし18)),平成5年初めころまでの間に,M2から朝鮮人参の研究費名下に総額1億数千万円以上の出資がなされた。被告人A1は,中華人民共和国にM2が経営する日本語学校を設立しようと考え,M2大学準備委員会を中国で作り,日本語学校設立に向けた事業を行い,平成6年秋ころから,平成7年初めころまでの間に,合計約25億円を同委員会に送金したが,この日本語学校設立事業に被告人B1が途中から参加し,その後,日本語学校設立という計画が,途中から中国における高速道路建設事業に変わった。前記日本語学校設立に投入されたM2の資産が,高速道路の建設資金として転用されるなどした。その他,被告人A1は,被告人B1の仲介でハワイにあるH1所有のマンションをM2の保養施設として購入するなどした。
 
平成7年7月ころ,被告人B1から被告人A1に対して,当時,H1が経営していたZ2株式会社をM2が買取ってはどうかという話が持ち込まれ,その関係で,被告人A1が同年12月22日,M2事業部の口座を開設し,同口座から3億円を支払ってZ2を買い取った。以後,同口座の預金通帳と銀行印を被告人B1が管理するようになった。
7 O2の概要 
 
O2は岡山県倉敷市g2h2丁目i2番j2号を本店として,資本金2億円で化学工業薬品の無害化処理の研究,開発,化学工業薬品の無害化処理による副産物の販売,工業所有権の取得,譲渡,貸与及びこれらの事業に附帯関連する一切の業務を目的として平成6年11月22日設立され,設立と同時に被告人A1及び被告人B1は取締役に就任した(登記簿謄本(甲11,12),添付資料集(甲69))。
 
被告人A1は,O2設立に際して,平成6年11月21日,H1及び被告人B1の依頼によりM2理事会等の承認を得ることなく,当時の経理課長であるL1に指示して,経理関係の帳簿に記載しないまま,M2の資金から見せ金2億円を出金し,O2の株式払込金として使用し,同年12月1日,M2の口座に2億1,929円が返金された(L1の検察官調書(甲21。ただし,被告人A1の不同意部分を除く。),証人L1の証言(第7回))。
第2 M2のY2島購入目的(被告人両名の自白調書を除いた証拠関係)
 
M2がY2島を購入した目的及びそれに対する被告人両名の認識につき検討するに,検察官は,被告人両名は,Y2島をM2で購入し,これをO2に貸与して,Y2島にPCB処理施設を建設させてPCB処理事業を行わせる目的であった旨主張し,これに対し,公判廷において,被告人A1は,「H1,I1,被告人B1からY2島をPCB処理施設を建設させるために利用させて欲しいとの話はあったが,PCB処理事業は危険で,公害を発生させるおそれがあったので,本件売買契約前に断った。M2の学校用地として利用するつもりでY2島を購入した。」旨供述し,被告人B1も「平成7年2月25日のY2島視察中にH1も同行している前で被告人A1は『この島でPCBはやらない。』『M2の関係する仕事ではない。』と言い,自分もそれに賛同した。この時点でM2がY2島を購入する目的は,学校用地として使用するためであり,O2にPCB処理施設用地として貸与する目的はなかった。」旨供述している。
 
そこで,まず,被告人両名の自白調書を除いた証拠関係を検討する。
1 Y2島の状況等
 
前述したとおり,Y2島は,瀬戸内海に浮かぶ無人島であり,電気,ガス,電話,使用可能な水道等もないこと,M2が設置している学校等は,福岡市あるいは埼玉県内にあり,学生・生徒,教職員がY2島へ行くには,かなりの距離があり,Y2島への船の定期便もないので,かなりの費用と時間がかかるなど交通の便が極めて悪いこと,その上,Y2島に学校関係の施設を作る場合には,建設,土木関係の調査,その費用の積算等もしなければならず,Y2島に施設を建設する当たっては,売買契約を締結する前に検討,解決しなければならない諸種の問題がある場所であることが認められる。したがって,Y2島は,福岡市に主たる事務所を置き,設置している学校等も福岡市内あるいは埼玉県内に所在するM2が,学校用地として利用施設等を建設するには極めて条件が悪い土地である。
2 Y2島購入の件が被告人B1にもたらされた経緯や状況
 
証人D1,同I1,同J1,同F1,同K1らの各証言及びそのほかの関係各証拠によれば,I1は,PCB処理の研究を行っていたQ1と共同してPCB処理事業を行おうと計画し,同計画に参画するようになったH1と,PCB処理施設の設置用地を探していたこと,他方,E1は,その所有にかかるY2島を売却しようと考え,K1を通じて買い手を探していたところ,I1は,仲介者であるJ1を通じて,その売却話を知り,遅くとも平成6年夏ころまでにはY2島の土地をPCB処理施設の設置用地として利用しようと企図するようになったこと,そのころ,被告人B1は,旧知の間柄であったH1から「有害物質であるPCBを無害化する特許を持ったQ1やI1らとPCB処理事業を計画している。PCBの無害化処理は国家的懸案事項であり,これが成功すれば莫大な利益になる。この処理事業を立ち上げるために通産省OBでありM2理事長である被告人A1の協力を取り付けてほしい。」旨の依頼を受け,被告人B1は自ら事業に参画するとともに,被告人A1の事業への協力を取り付けることとしたことが認められる。 
3 Y2島の件が被告人A1にもたらされた経緯や状況
〔1〕被告人B1が被告人A1にY2島購入をもちかけた経緯等
 
その後,被告人B1が,被告人A1に対し,PCB処理事業についての話をもちかけた状況につき,被告人A1は,公判廷においても,被告人B1からY2島にPCB処理施設を作る話を聞いていたと供述している上,被告人A1の手帳(平成13年押第57号の1及び2)は被告人A1が毎日の出来事を覚え書として綴っていたもので,その記載内容には信用性が認められるところ,その記載をみると,本件売買契約前の記載として,平成6年9月10日の欄に,「B2の用件はvictoria島の別荘の話,大阪泉北の病院払い下げの話,岡山県の公害処理地の島の話,いずれも多額,面白そうだが危険」とあり,このころ,被告人B1が被告人A1にY2島をPCB処理事業と関連づけて話を持ち込んでいることがうかがわれる。さらに同年10月7日の欄には,「B2君来,環境会社を作っては,政府からの援助あり」,同年11月12日の欄に,「B214日にくると。岡山の小島での公害除去工場の件,やる意思のないものを無理に言う。」,同月14日の欄に,「早朝よりB2来訪,(途中省略)下水島の件,(途中省略)2時頃,I1氏来訪B2と共にPCBの話」,同月17日の欄に,「B21時半に来る。Y2島のPCB工場の件」,平成7年1月23日の欄に,「評議員会(途中省略)上小島」(「上小島」は「Y2島」の誤記と認められる)などの記載が見られ,被告人B1やI1が,被告人A1にPCB処理事業への参画を執拗に訴えていることやY2島の購入とPCB処理事業とが関連付けられている状況,反面では平成6年11月12日の時点では被告人A1がPCB処理事業へ参画することに躊躇を感じている状況がうかがわれる。
〔2〕I1の証言内容
 
更に,H1らと共にY2島でのPCB処理事業を計画していた証人I1は,「平成6年11月14日,被告人A1に対してPCB事業に参加するように説得するためM2を訪れた。説明の内容は,PCB処理の有益性,必要性であり,Y2島にPCB焼却処分場を建設して事業を行えば年間約68億円余の粗利が出ることも説明した。M2でY2島を買ってもらった後,買い戻す計画は福田にも話している。この時,B2も同席しており,最終的に,被告人A1に島を買ってくださいとお願いしたら,分かったよというような顔をしていた。実際に買い取りましょうと約束をしてくれた。」と証言している。
〔3〕O2への資金の提供と同社の取締役への就任
 
前記のように被告人B1やI1からPCB処理事業へ参画するように執拗な説得を受けた後被告人A1は,O2設立に際して,平成6年11月21日,H1及び被告人B1の依頼により理事会等の承認を得ることなく,当時の経理課長であるL1に指示して,M2の会計帳簿に記載しないまま,M2の資金から見せ金として2億円を出金し,それはO2の株式払込金として使用され,同年12月1日,M2の口座に2億1,929円が返金された。同年11月22日,岡山県倉敷市g2h2丁目i2番j2号を本店として,資本金2億円で化学工業薬品の無害化処理の研究開発,化学工業薬品の無害化処理による副産物の販売,工業所有権の取得,譲渡,貸与及びこれらの事業に附帯関連する一切の業務を目的としたO2が設立され,代表取締役にQ1,取締役にはH1,被告人A1,被告人B1らが就任した(なお,その後,被告人両名は,平成8年4月1日O2の取締役を辞任した。)

 
この点,被告人A1は,公判廷で2億円の出金については,「H1からイリノイ州知事の斡旋で石油タンクの掃除をしなければならなくなったので,その資金として貸して欲しいと頼まれて貸した。O2の設立資金として使われることは全く知らなかった。」旨供述するが,被告人A1に無断で同被告人が取締役とされてしまうこと自体考え難い上,2億円が見せ金として使用され短期間で返済されるという約束があったからこそこのような大金が被告人A1の独断で出金されたものと思われるし,2億円の出金に関与した当時の経理課長であるL1は,被告人A1から2億円の出金,送金を指示された際,「A1理事長から何日間かという見せ金みたいなものだからというふうな指示は,たしか,あったと思う。」旨供述している(第7回公判(33項))上,そもそも被告人A1とH1とは,当時それほどの信頼関係があったことはうかがえないところ,一時的な貸与とはいえ,前記のようなH1からの依頼内容でM2の資産である2億円もの大金を被告人A1の危険においてH1に貸与するのは不自然というほかないことに照らし,被告人A1の前記公判供述は信用し得ず,被告人A1は2億円が見せ金としてO2の株式払込金として使用されることの認識を有していたものと認められる。
〔4〕本件売買契約時の状況 
 
証人D1(第2回及び第3回公判),同F1(第4回公判),同R1(第4回公判)の各証言によれば,本件売買契約前日の,平成7年3月15日,H1,F1ら関係者がD1司法書士の事務所に集まって話し合いをしていること,契約書の作成にはH1が主に関与しており,被告人B1も入って3人で話をする場面もあったこと,本件売買契約の手付金に相当する1億4000万円が被告人B1の発案に基づいてD1司法書士の銀行口座に振り込まれたこと,被告人B1は,事実上M2の代理人のように動き,D1司法書士事務所での本件売買契約の際には被告人A1とともに立ち会ったこと,特約条項15条(ハ)はH1の意向を受けて作成されたものと考えられること,契約締結の際,同条項についてF1,R1が異議を述べて削除を求めたこと,被告人A1,被告人B1からは,当初の契約書案について異議は出なかったが,売主のF1側が強く抵抗し,D1は,必要な条項だということで突っ張ったものの,最終的には,売主側の意向を酌んで削除されることになったことが認められる。このうち,特約条項15条(ハ)が削除された経緯,特に,削除の理由が売主側であるF1の意向によるものであったことについては,D1司法書士事務所に保管されていた「不動産売買契約書(控)」と題する書面(添付資料集(甲69)番号15))のうち第15条(ハ)の部分が線を引かれて削除されており,その横に「F1の申出による削除」と記載されていることからも明白である。
 
この点,被告人A1は,公判廷で「15条(ハ)の特約条項を読んで驚いた。O2にY2島を貸すつもりがないことはこれまでも何度も伝えたことで,自己の意思とは反するので削除してもらわなければならないと思い,削除を要求した。」旨供述するが,前記証人D1,同F1,同R1の各証言とも明らかに齟齬しており,信用し得ない。
 
更に,本件売買契約は4条で残代金の決済期日(Y2島の引き渡し期日)が契約から約1年後の平成8年3月末日とされ,7条で「売主は,買主の請求がある場合には買主の指定する第三者の名義に所有権移転登記の手続きをしなければならない」とされているところ,この意味につきD1は,引き渡し期日までにO2名義に所有権移転登記をする場合があるという意味であると証言している(第2回公判)。このことも,O2がY2島をPCB焼却処分場として使用することを前提としていたものと理解することを裏付けるものである。
〔5〕Y2島の本件売買契約締結後の状況
 
被告人A1の手帳(平成13年押第57号の2)の平成7年7月10日の欄には,「PH(「C」の誤記と理解できる)Bの問題は自分も躊躇していたのでH1に返事したらH1も素直に応じてくれた。」との記載がある。平成7年7月9日付けで作成されたH1作成の「証」と題する書面には、「今回O2の事業推進に関しA1並びにB2氏の意向に賛同しPCBの処理工場設立は断念致します」と記載され(添付資料集(甲69)番号35),I1が使用していた手帳の同年9月8日の欄には,「M2でPCB不可」と記載されている(I1証言(第5回公判),同人の検察官調書(甲35。被告人A1の不同意部分を除く。))。
 
証人D1は(第2回,第3回公判),平成7年中の,本件売買契約後にPCBをやめるとの話を聞き,その後,リゾート開発の話を平成8年2月20日までの間に聞いた(第2回公判241ないし250項等)と証言し,証人I1も(第5回公判),平成7年9月8日,M2PCB不可とノートに書き留めた,被告人B1は,平成8年の8月末頃から,Y2島で,レクリエーション施設かキャンプ場のようなものにして学生が利用できるものをやってくれないか等といっていた旨証言している。 
 
当時,O2の代表取締役であったQ1は検察官調書(甲37)において,「平成7年春ころI1から,M2が島を買った話を聞いた。I1らは,O2設立後もY2島においてPCB処理施設設置に向け努力している様子であった。しかし,同人らが漁業協同組合の同意書を取ってこず,施設が作れるか不安になり,役員に名を連ねていても何もならないと思いH1が死ぬ平成9年4月少し前頃,H1にO2の役員を辞職する旨の届けをした。」旨供述する。
 
学校法人M2理事長A1(担当者S1)名義で平成8年8月12日付けで作成された,岡山県倉敷地方振興局長宛に作成されたY2島取引に係る「回答書」(添付資料集(甲69)番号45)には,土地の利用目的として「当初化学工業薬品の無害化処理場,のちにM2Y2島野外研修センターの建設」との記載がなされている。S1弁護士がこのような記載をしたのは,D1司法書士からY2島はM2がO2にPCB処理事業を行わせるためと聞いていたので,最初,「当初PCBの化学処理場,のちにM2Y2島野外研修センターの建設」と記載していたのを被告人B1の意向を受けて書き直し,最終的な記載内容については被告人A1の了承を得たものである(S1の検察官調書(甲48。ただし,被告人A1の不同意部分を除く。))。
 
以上によれば,被告人A1は,平成7年7月ころまでには,Y2島をO2に貸してPCB焼却処分場とする考えを放棄したことが認められる。
〔6〕Y2島購入後のM2の扱い
 
まず,L2大学工学部教授であったT1の検察官調書(甲66)によると,同人は長年に渡って海水から金属資源を取り出す研究に携わっていたところ,平成10年4月ころ被告人A1に対して,M2が瀬戸内海に島を所有していて何も利用されていないと聞いていたので,その島に実験施設の建設を頼んでみたが応答がなく,その後,平成11年7月ころ被告人A1に,実験施設の建設を再度頼み,同年8月下旬被告人両名らと共にY2島を見に行ったが,しばらく実験施設の話は立ち消えになっており,その後,突然,被告人A1から,「Y2島に実験施設を造ろうか。倉敷市に申請するので,研究の構想を文章にまとめて提出するように。」と言われ,同年12月1日,研究構想を文章にまとめ,被告人A1に提出したがその後音沙汰がないことが認められる。
 
本件当時,倉敷市建設局都市開発部開発指導課主幹であったU1の検察官調書(甲67)によると,平成5年6月ころT2株式会社代表取締役であるK1がY2島に,Y2島産業廃棄物管理型最終処分場の建設をしたいという話をもってきた。その後,平成10年度にM2のY2島取得を知り,国土利用計画法にもとづき,購入目的につき電話で照会したところ,M2の保養施設を作る目的と回答してきた。平成11年11月12日,M2企画室のV1なる人物から「Y2島に研究施設を計画しているので,その手続きなどについて相談に伺いたい。」と電話があり,同年12月3日,M2総合企画室長V1,弁護士W1が来て「M2施設の研究施設,保養施設,船着場を建設したいが,どのような手続きが必要であるか」等聴取に来たものの,それ以降は,何の連絡もないこと,岡山県倉敷地方振興局水島港湾事務所維持管理課管理係に勤務するX1の検察官調書(甲68)によると,平成9年9月16日,被告人B1に対してY2島の桟橋の撤去を指示したこと,平成10年4月4日,M2事業部参事の肩書をもつ被告人B1が友人を連れて「Y2島に花を植えたい,色々計画はあるがまとまっていない,規制を教えて欲しい。」と相談に来たこと,同年6月10日,被告人B1から港湾区域内工事と水域占用許可申請の手続きについて教えて欲しいとの電話連絡があったこと,平成11年7月21日,U2代表取締役Y1からY2島に乗下船用桟橋を仮設したい旨の相談があり,同年12月3日,前記V1,W1が「Y2島の開発などの方向性などについては,これまでB2が相談役をしていたと思うが,今後はV1とW1弁護士が窓口になる。」旨の申入れをしてきたが,それ以降の接触は特にないことが認められる。
4 被告人両名の公判供述の信用性
 
被告人A1は,公判廷で「Y2島の購入目的はM2が学校用地として利用するためである。M2の校地面積が不足している旨を文部省や県から指摘されていたため,昭和60年前後から不動産取得に向けて動いていた。しかし,価格の点や,交通の便などから土地の取得までには至らなかった。そこに被告人B1がY2島を買わないかとの話を持ち込んできた。平成7年2月25日,Y2島に行った際,この島でPCBはやらないと明言した(第15回公判)。Y2島購入の件は,20年来探していたまとまった土地であり,文部省などからも校地が不足して基準を満たしていない旨の指摘を受けていたところであり,この機会を逃すとさらに先送りにってなってしまうため緊急案件ということで評議員会の承認を得た(第15回公判)。」旨供述し,被告人B1も公判廷において,「平成7年2月25日のY2島視察中にH1も同行している前で被告人A1は『この島でPCBはやらない。』『M2の関係する仕事ではない。」と言い,自分もそれに賛同した。この時点でM2がY2島を購入した目的は,M2施設用として使用するためで,PCB処理施設を建設させる目的ではなかった。」旨供述している。
 
確かに,関係各証拠によれば,従前からM2では文部省等により学校用地が基準を満たしていないとの指摘を受け,学校用地に適した土地を探していたこと,被告人A1は,平成7年1月23日,Y2島についての売買契約の締結について,評議員会に対して,「学校用地獲得のため」との説明のもと,Y2島購入の案件を報告して承認を得ていることが認められる。
 
しかしながら,被告人A1の公判供述は,Y2島に最初に行った時期につき記憶の混乱が見られ,本件売買契約の特約条項15条(ハ)について,削除を申し立てたのは自分である,H1に対して貸した2億円はO2関連ではなかった旨客観的事実に反する内容を供述するなど,信用性の高い証人F1や同L1らの証言と食い違いが認められる。被告人A1は公判廷で,Y2島を購入したのは,M2の学校用地獲得目的である旨弁解するが,弁解通りであればY2島を購入後,速やかに所轄庁である文部大臣や県知事に対してその旨の報告をすると思われるのに,M2が,文部大臣や県知事に対してY2島を学校用地として取得した旨の報告をした形跡はなく,前記認定のように現実にM2施設としての利用のめども立っていない。更に前述したようにY2島は交通の便が極めて悪い遠方の無人島で,同島には電気,ガス,電話,使用可能な水道等もなく,Y2島に施設を作る場合には,建設,土木関係の調査,その費用の積算等もしなければならず,売買契約を締結する前に検討,解決しなければならない諸種の問題がある場所である。したがって,福岡市に主たる事務所を置き,設置している学校等も福岡市内あるいは埼玉県内に所在する学校法人が,かような交通の便が悪い遠方の島に学校用地を確保し,そこに学校関係の施設等を建設するつもりで土地を購入し,しかも,契約締結時の売買代金が7億円という高額なものであることを考えると,通常であれば,売買契約前からM2の関係者等により前記問題点につき調査,検討がなされるべきものである。しかしながら,本件売買契約締結のころ,これらの点につき,M2の学校関係者等により調査,検討がなされた形跡はない。また,当時M2の校地が基準を満たさなければM2運営を継続し難い状況までは認められず,前記問題点につき慎重な検討等を経ることなく,学校用地を確保しなければならない緊急な事情も見当たらない。それなのに,被告人A1は,評議員会の承認を受けてわずか2か月足らずの平成7年3月16日売買代金7億円で本件売買契約を締結し,被告人A1は前記のように交通の便が極めて悪く,悪条件が重なるY2島をM2が教育目的に使用する用地として購入するのであれば当然検討すべき問題を検討していない。しかもM2の用地を取得しようとしているのに本件売買契約の交渉にM2内部の職員は被告人A1以外に誰も関与しておらず,被告人A1は本件売買契約の交渉を被告人B1ら外部の者に委ねている。教育目的に使用するための用地を購入しようとする者の行動としては極めて不合理かつ不自然である。被告人両名の公判供述は信用できない。
第3 小括
 
以上検討したところをまとめると,被告人両名の各自白を内容とする検察官調書を除いた証拠(被告人A1については同被告人及び被告人B1の検察官調書を除いた証拠,被告人B1については同被告人及び被告人A1の検察官調書を除いた証拠)のみによっても,被告人A1がM2の代表者として締結した本件売買契約の目的は,Y2島をO2に貸与してPCB焼却処分場を建設させてPCB処理事業を行わせることにあったものと認められる。また,そのことにつき,被告人A1と被告人B1の間で意思疎通は行われており,被告人両名ともそのことを認識理解していたものと認められる。
第4 被告人両名の捜査段階における供述の信用性等
1 被告人A1の検察官調書
 
被告人A1は,平成12年3月11日付け検察官調書(乙2)においては,「被告人B1が,平成6年9月10日ころ,Y2島にPCBの処理工場を造るのでM2で買わないかとのY2島の購入話を持ち込んだ。このとき,私は事業が軌道に乗れば収益も上がり,有益な事業であると思い興味を持つと共に,公害の危険性から,躊躇を感じた。同年10月7日,被告人B1が,M2に来てPCB処理事業の会社を作る話をした。このとき,被告人B1は,被告人A1にも名前や力を貸してもらいたいと依頼したが,公害問題などの危険性もあったため躊躇し,明確な返事をしなかった。同年11月14日,午前中に被告人B1は,M2を訪れ,Y2島にPCB処理を行う会社を設立することへの協力を依頼すると共に,午後にI1がM2を訪れ,被告人B1と共にPCB処理事業の有用性や収益性について説明し,PCB処理工場をY2島に造りたいので力を貸して欲しいとの説明を受け,公害処理企業を設立するのでその会社設立に当たり,取締役として名前を貸して欲しいと頼まれ,その意向に添う方向での返事をしたが,PCBの危険性について気になり,Y2島に処理施設を造ることについてはまだ躊躇していた。同月17日,再度,被告人B1がM2を訪れ,Y2島にPCB処理工場を造ることを説得し,これを受けて被告人A1は,M2がY2島を買い,そこにPCB処理施設を造ることを了承したと被告人B1に返事をした。同月下旬ころ被告人B1とH1がM2を訪れ,PCB処理企業であるO2を設立するので,被告人A1に取締役になり,出資金2億円を一時出して欲しいとの依頼を受け,経理課長に指示してM2の口座から2億円を出金してO2の出資金とした。」旨供述している。
2 被告人B1の検察官調書
 
被告人B1は,平成12年3月12日付け検察官調書(乙6)等において,「平成6年秋ころ,H1は,被告人B1に『有害物質であるPCBの無害化技術の特許を持ったQ1という人がいて,その技術を使ってPCB処理事業を行う計画をしている。PCBは,保管したまま処理に困っている大企業がたくさんあり,その無害化事業ができるとなれば大儲けできる。その事業には,通産省などの政府機関から補助金が出る。通産省OBのA1に,その企業の取締役として名前を連ねてもらえば,企業の出資も集めやすいし,政府機関の補助金も下りやすい。A1に取締役になってもらえるように頼んでくれ。取締役報酬としては十分にお礼はする。』とPCB処理事業の話を持ち込み,被告人B1にPCB処理会社の取締役になるように要請するとともに被告人A1への取締役への就任依頼をした。そこで,被告人B1は,被告人A1にO2の取締役になって欲しいとの話を伝えたところ,被告人A1は,この話を了承した。またH1は,同じころY2島を買い取り,そこにPCB処理施設を作るという話をしてきた。無人島であるY2島に施設を作れば,住民の反対に対応する必要がなく,事業が進めやすいのではないかと考えた。したがって,私は,被告人A1に対して,Y2島にPCB処理施設を作り,PCBの無害化事業を行うので,その事業に取締役として参加して貰いたいと頼んだ。ところが,平成6年11月ころ,被告人A1は,通産省のZ1という人に電話をかけPCB処理事業について尋ねたところ,技術的に危険もあるし,実現はなかなか難しいとの話を聞き,PCB処理事業から手を引きたいと言い出した。そのため被告人B1は,これをH1に伝えたところ,何日か経った同月14日I1がM2を訪れ,被告人A1をPCB処理事業から手を引くことを考え直すように説得し,被告人A1は,これに応じて,再度取締役になることを引き受けた。その後,1週間ほどしてH1が,O2の資本金2億円を被告人A1に貸し付けてもらえるように依頼し,被告人A1はこれを了承し2億円を一時,O2の口座に振り込んだ。その後,平成6年末から平成7年初めころ,H1は被告人B1に対して,Y2島をM2で購入し,それをO2に貸して欲しい,そこにPCB処理施設を設置し,事業が軌道に乗ったらM2からO2が10億円くらいで買い取る旨持ちかけ,M2でY2島を買うことについて被告人A1はこれを了承した。」旨供述する。
3 検討
 
被告人両名の前記検察官調書は,前記被告人A1の手帳の記載や前記各証人の証言から認められる各事実ともほぼ符合するなど,基本的に信用し得るものである。
 
なお,被告人A1の弁護人は,被告人A1の検察官調書について,〔1〕被告人A1は高齢であり,初めての勾留に起因する緊張感などから,調書作成に当たっては,判断能力に問題があったこと,〔2〕検察官調書は,基本的に手帳の記載内容に基づくものであるにすぎないこと,〔3〕調書の文章自体,意味が理解しにくくなっていること等から,その信用性に疑義を述べる。しかし,被告人A1は備忘録的に作成された手帳の記載を基に供述している上,被告人A1が使用していた手帳の記載は断片的な記載にとどまるものであって,その記載内容を合理的に連結させ説明するのは被告人の供述を待たないとできない事柄であり,被告人A1の検察官調書の内容は断片的な手帳の記載内容の不足部分を補うと共に,手帳の記載内容を連結させているものであることに照らせば,むしろ検察官調書の信用性は高まると考えられる。その記載内容についても,核心であるY2島の購入目的については,契約の時点でも「Y2島にPCB処理施設を作らせることを予定していたが,この施設が技術的な面で完全に安全であるかどうかという不安もあった。」(乙2)旨供述しており,目的について明確に述べているのであり,弁護人主張の点を考え合わせても,被告人A1の検察官調書の核心部分についても十分信用し得るものである。
 
また,被告人B1は,捜査段階における検察官の取調の際,「〔1〕A2検察官から,暴言を吐かれ,机を叩くなど脅迫的取調を受け,被告人B1が主張したことは調書に記載してもらえなかった。〔2〕身柄の拘束中,たばこが吸えず思考力が落ちた。〔3〕検察官調書には読み聞けされていないものがあり,数通しか署名した記憶がない。放心状態で相手に言われるまま署名指印したに近い状態であった,ただし,言うべき点はきちんと主張した。〔4〕昭和58年ころから患っていた狭心症の発作があり,平成12年3月12日の取調の際には,同発作が激しくなり,取調の最中にニトログリセリンを服用したが,特に取調を中止して欲しいとは言わなかった。このときは,調書の読み聞けもなかったが,体力が落ちて思考力もなくなっていたので署名指印してしまった。」旨主張し,被告人B1の弁護人は,被告人B1の捜査段階における供述には任意性に疑問があるし,信用性も認められない旨主張する。
しかしながら,捜査段階において被告人B1を取り調べた検察官である証人A2は,「被告人B1は,当初,被疑事実について否認していたが,逮捕又は勾留から三,四日目ころ,Y2島の購入の話の時期は平成6年秋ころと言いながら,PCB事業の話が出た時期について変遷があったことから追及したところ自白し始めた。平成12年3月12日付の検察官調書(乙6)は,同年3月11日から12日の午前中までの間にこれまでの取調により作成していた調書,メモや,記憶を基に草稿を作っていた。これに,当日,更に被告人B1から足りない部分を取り調べて補充して作った。作成した調書の読み聞けはした。勾留延長から何日かしたころの夜,被告人B1は,被告人A1が枕元に出てきてPCB処理施設を作るため買ったのではないと言うのでやはり違うという話をしたので,あまりにばかばかしく,机を叩いたことは1回あった。ただ,叩いたことで供述が変わったということはなかった。供述内容がころころ変わるので大きな声を出したこともあった。被告人B1が心臓が悪く,薬を常用していることも早い段階から知っていた。取調中に,錠剤を服用したことがあった。このときは,被告人B1が具合が悪いと言うので,大丈夫かと言ったら,飲めば大丈夫と言って飲んでいた。心臓以外で腹が痛いと言ってトイレへ行ったこともあった。心臓の調子が悪いので取調を止めて欲しいと言われたことはなかった。調書は全て読み聞かせた。被告人B1が自白したきっかけは,自分が言っていることのつじつまが合わなくなり,その度に供述を変えていたが,結局,嘘をつききれなくなって自白したという感じだった。損害の点についても当初は否認していたが,その後,Y2島を購入した目的を自白した時期より後に損害についても認める供述を始めた。被告人B1が供述を変えた際,被告人A1がかわいそうでかばっていたと言っていた。」旨証言する。
 
被告人B1の検察官調書の任意性,信用性について検討するに,被告人B1は平成12年2月24日A2検察官に逮捕され,弁解録取,勾留質問の段階ではY2島の購入目的につきM2の学校用地としての目的であった旨供述して否認していたが,同月27日からY2島の購入目的はO2に貸してPCB処理事業を行わせるためであった旨自白し,その後一貫して自白を内容とする多数の検察官調書が作成され,否認から自白に転じた理由も合理的な内容が説明されている。しかも,自白調書を検察官から読み聞かされて追加訂正を申し立てたものもある(乙12,19)。取調状況に関するA2検察官の供述は具体的かつ合理的であり,同人の証言と被告人B1の供述経過も合致が見られ信用性は高い。他方,被告人B1の任意性に関する公判供述は,取調中,Y2島購入目的がPCB処理事業としてO2に貸すことではなかったという否認を内容とすることを言うべきこととして言ったが,署名指印の点になると記憶がない,手書による訂正部分を見た記憶がないと供述するにもかかわらず手書きの追加訂正を申し立てた部分があるなど,矛盾が見られること,乙6ないし8以外に自ら署名した記憶は1,2通しかないというが,現実には乙6ないし8までの検察官調書以外に被告人B1の署名指印がなされている12通の検察官調書(乙11ないし22)が存在することなどからすると,被告人B1の前記公判供述は信用できない。
 
この点,被告人B1の弁護人は,被告人B1の弁解が調書化されていないこと,被告人B1の平成12年3月12日付けの調書(乙6)は従前の取り調べ結果を基に作成されている点を指摘し,検察官調書の任意性,信用性について疑義を述べるものの,A2検察官は,被告人B1が弁解をしていたこと自体は法廷において証言しているのであり,被告人B1の弁解を遮り聞くことすらなかった状況は認められない。また,平成12年3月12日付け検察官調書(乙6)については,被告人B1のその時点における供述をまとめたものにすぎず,証人A2の証言によれば最終的には読み聞かせた旨の証言がなされていることからすれば,その内容を確認した上で被告人B1が署名指印したものと認められ,これらの点を考慮すれば,その信用性を疑わせる事情とはなり得ない。
 
これらによれば,被告人B1の検察官調書には任意性,信用性が認められる。
第5 総合評価
1 証拠関係
 
各弁護人が信用性等を争っている被告人両名の各自白を内容とする検察官調書を除いた証拠関係のみによっても(被告人A1については同被告人の検察官調書のみならず,被告人B1の検察官調書をも除いた証拠関係。被告人B1については同被告人の検察官調書のみならず,被告人A1の検察官調書をも除いた証拠関係。),被告人A1はY2島をO2に貸与してPCB処理場を建設させPCB処理事業を行わせる目的で購入したものと認められる。各被告人の自白を内容とする検察官調書の信用性(被告人B1については任意性を含む)に問題はなく,これを各被告人の事実認定の証拠として使用することに疑念はない。被告人A1の関係では,被告人B1の検察官調書(乙6,7)は刑訴法321条1項2号書面の要件を満たしている。
2 まとめ
 
以上の証拠関係をもとに認定できる事実をまとめると,被告人B1やI1らは被告人A1に対し,PCB処理事業への参加や資金援助等を執拗に求め,被告人A1がそれに説得されてY2島を購入している状況が認められる。M2がY2島を購入することになった経緯についても,その時期は必ずしも明確ではないものの,最終的にはY2島を購入する主体はM2になっているにもかかわらず,H1らO2関係者が積極的にかつ深く売買契約書の作成等に関与しており,Y2島へ現地視察に行った際にも被告人両名のみならず,H1が同行している。売買契約当日の被告人らの行動を見ても,契約書中の前記特約条項15条(ハ)には買主が公害処理企業にY2島を賃貸することが予定されている旨記載されているのに,被告人らは,この条項について問い質す等の行動をとっておらず,逆にF1ら売主側が削除を求めており,Y2島をM2の学校用地として使用することを目的とした者の行動として極めて不自然である。更に,平成8年8月12日付で実質的にS1弁護士が作成した回答書にも「当初化学工業薬品の無害化処理場,のちにM2Y2島野外研修センターの建設」との記載がなされている(添付資料集(甲69)番号45)。
 
これらの事情に更に前記認定の本件売買契約後のM2によるY2島の利用状況や,捜査段階においては,被告人両名とも,本件売買契約の目的はM2にY2島を購入させ,O2にその土地を貸与してその上にPCB処理施設を造ることにあったことを認める供述をしていたことを併せ考慮すると,本件売買契約当時,被告人A1は,Y2島をM2の学校用地として利用する意思はなく,O2に貸与してPCB処理施設を建設させPCB処理事業を行わせる目的で本件売買契約を成立させ,被告人B1もそのことを十分に認識した上で本件売買契約に加功したものと認められる。その後,H1がPCB処理施設の建設を断念する旨の前記「証」を作成した平成7年7月ころまでには、被告人両名は,Y2島をO2に貸与する考えをやめてM2用地として利用しようと考えるようになったものと認められる。
 
この点についての,被告人両名の各弁護人の主張は採用できない。 
第3部 背任罪の要件の充足
第1 任務違背
1 Y2島購入の評価
 
被告人A1は,M2の理事長であるところ,理事長は,対外的には学校法人の業務について学校法人を代表し(私立学校法37条1項),対内的には学校法人内部の事務を総括する(同条2項)。理事長は,法人の目的達成のためその事務を執行する義務を有するのであり,M2が資産を取得する際には,理事会の決定によることなど法令,寄附行為の定めを遵守し,法人の資金を使って資産を購入する場合には,その資産のM2にとっての有用性,有益性等を十分に吟味するなどして,M2のために忠実に職務を遂行する任務を負っている。
 
背任罪にいう任務違背とは,その事務処理者として当該事情のもとで信義則上当然なすべく期待される行為をしなかったことをいい,何が信義則上期待される行為であり,どのような行為が任務違背となるかは処理すべき事務の性質,内容,行為当時における具体的状況に照らし,法律の規定,寄附行為,契約の内容,慣習,条理などにもとづいて具体的な場合ごとに個別的に判断される。事務処理に関して法令,寄附行為,事務処理規則,契約等による手続的制約が加えられている場合に,これに違反すれば常に任務違背があるとすべきではなく,任務違背かどうかは信義則にもとづき実質的に判断されなければならない。
〔1〕Y2島の評価
 
Y2島は前述したとおり,瀬戸内海に浮かぶ無人島であり,同島へ行く定期船等はなく,桟橋も整備されていないなど,交通の便は極めて悪い。大正時代には銅の精錬所があった(B2の検察官調書(甲63))。また,Y2島には,埋蔵文化財が存在するところ,遺跡・遺構の範囲内に土木工事が及ぶ場合には文化財保護法の適用を受けることになる。全面発掘調査の対象となる個所が5か所に点在し(合計約3万6000平方メートル。島全体の約19.9パーセント),発掘調査費用は1平方メートル当たり約1万5000円を要する(通船費用を含む。)旨の報告書が作成されたことがあり(B2の検察官調書(甲63)),そのため,開発にも問題を抱えている。前所有者のE1は相続税の節減対策に購入したにすぎず,購入後M2に転売するまでY2島に格別手をつけていない。Y2島は瀬戸内海環境保全特別措置法等の規制を受けるし,都市計画法上の地域指定がないため,同法上の開発許可が不要であるが,1ヘクタール以上の土地開発には森林法に基づく林地開発若しくは岡山県県土保全条例による規制があり,倉敷市が同市土地利用審査会による開発目的等の適正の有無の判断を行う。面積が1ヘクタール未満の土地開発については,倉敷市土砂等による土地の埋立て等の規制に関する条例による許可が必要になる。他にも倉敷市が所管する手続として建築基準法,文化財保護法,国立公園法に基づく手続等があるほか,地理的にも,Y2島は,水島臨海工業地帯に近く,同工業地帯には煙突等が林立し,保養施設等には眺望の点で難がある上,このような工業地帯の近くで,しかも,かなり以前とはいえ,銅の精錬所があった島での海水浴にも難があるように思われる(U1の検察官調書(甲67))。
平成5年6月ころ,T2株式会社の代表取締役であるK1から倉敷市に対してY2島に産業廃棄物管理型最終処分場を建設したいという話が持ち込まれ,同年6月4日同市の関係各課が協議検討した結果,そのような処分場を建設することにはいろいろな問題があってあまり好ましくないという結論になり,平成6年5月11日K1に対して,岡山県と再協議するように指導したという経緯もある(U1の検察官調書(甲67))。Y2島に桟橋ないし港を建設する場合には,Y2島が港湾区域内に位置するため港湾法に基づく許可が必要になり,この際にはこの水域に漁業権を有する漁業協同組合の同意も必要になる(X1の検察官調書(甲68))。
Y2島には,電気,電話,ガス,使用可能な水道の設備もないので,ここで生活するとなれば,それらの設備が必要になる。水については,本件売買契約後,平成7年1月に発生した阪神大震災で神戸付近の造り酒屋が水不足に陥った際,Y2島から地下水を汲み上げて売って欲しいという話が持ち上がったため,井戸を掘って水質検査をしたところ,Y2島の地下水には塩分が多く,販売には適さないとして地下水の販売事業が実現しなかったという経緯がある(被告人B1の検察官調書(乙6))。
このような点を考えると,Y2島の用途はなかなか見い出しにくい。
 
更に,M2は本件売買後,Y2島をM2関係施設等として使ったことはなく,M2施設を建設し,教育目的に使用するためには,さらなる投資が必要であり,Y2島を購入したことによる利益は現時点では見られないことからすれば,M2にとっての有用性,有益性は存在しない。
〔2〕O2への貸与目的の評価
 
M2がY2島を購入する目的は,O2にY2島を貸与してPCB処理施設を建設させPCB処理事業を行わせることにある。関係証拠を検討しても,M2とO2との間でのY2島に関する賃貸借契約書が存在しないので,M2がO2にY2島を貸す条件がどこまで煮詰まっていたのか明確ではなく,将来的に貸与により賃料収入を伴うのであれば,私立学校法上の収益事業の問題が発生し,同法26条は,私立学校の教育に支障のない限りその収益を私立学校の経営に充てるため収益を目的とする事業を行うことができるものとしている。その趣旨は,学校法人として好ましくない事業を排除し,学校法人としてふさわしい事業に限定しようという趣旨にほかならない。M2においては登記簿に記載されている「目的」の中に,収益事業は記載されていない。教育機関であるM2がPCB処理事業を行うO2にY2島を貸与し賃料収入を得るとなれば,それが果たして教育目的と相容れるのか疑問が残る。また,M2は,いずれ同M2の当初の購入価格に3億円程度上乗せした10億円程度でY2島をO2に売却する考えであったことも窺われるが(I1証言等),O2への貸与が賃料収入を伴わないものであれば,なおさら賃料収入さえないものをM2が購入することについて疑問が強くなる。いずれにしても,教育を目的とするM2がPCB処理事業を経営するO2への貸与目的にY2島を購入するとなれば,それが教育目的と相容れるのか批判を受けたり,教育機関としての評価を落とすことになりかねず,所轄庁からも指摘を受けかねない。
 
加えて,I1,H1らの目論見は頓挫し,O2の事業は実現しないままになっているところ,そもそもO2がPCB処理施設を建設してPCB処理事業を経営すること自体,莫大な設備投資が必要になるとされており,技術的にも難しい面を有し,果たしてH1,I1らの目論見通りにPCB処理施設を建設してPCB処理事業を軌道に乗せることができるのかその実現可能性については,かなり難しかったのであるし,そのようなO2のためにM2の資産をY2島の貸与という形をとるにしろY2島を購入することは,O2の経営が軌道にのるかどうかということ自体の危険性があるのであるから,そのような高いリスクを抱える事業に投資すること自体についても,慎重な検討が必要であるのに,この点についても,被告人A1の独断で進められており,検討すべき問題が数多くあるにもかかわらず,M2内部の者は誰も検討していない。この点でも被告人A1は,理事長として,M2にとっての検討すべき問題を検討していない。
〔3〕被告人A1及びM2の検討状況
 
M2がY2島を購入するに際し,被告人A1は,後述する評議員会での承認を求めた他は,購入の是非につき格別の検討を行っていない。即ち,前述したようなY2島の交通の便の悪さ,電気,電話,ガス,水道設備等がなく,Y2島にM2の学校関係施設を作る場合には,建設,土木関係の調査,その費用の積算等諸種の解決しなければならない問題が多いと思われるところ,本件売買契約前にそれらの点につき,M2の内部の者により調査,検討がなされたことは窺えない。更に,Y2島の開発にも種々の規制があり,遺跡の問題もある上,開発には相当多額の費用を要することなどが予想され,そのような多数の問題点を抱えるY2島を購入することが果たしてM2にとって,有用,有益であるかという点につき,M2内部で検討も行われておらず,したがって,Y2島購入につきM2内部での担当者もいないし,多数の問題点の重さ,M2が購入する必要性,M2にとっての有用性,有益性の検討もなく,いわば,被告人A1の独断で実質的に購入が決められている。
〔4〕まとめ
 
以上述べた事情から考えると,M2理事長として代表権を有する被告人A1が,M2にとって有用性,有益性のないY2島をPCB処理事業を経営することが目論まれているO2に貸与する目的で購入したこと自体が,まずもって理事長としての任務に違背していることが明らかである。
2 理事会を開催しなかったこと
 
前述のとおり,被告人A1は本件売買契約の際,理事会の議決を得ないままY2島を購入している。M2では寄附行為において,私立学校法を受けて,この法人の業務の決定は理事をもって組織する理事会によって行う(6条1項),理事の数は7名とされ(5条1号),理事会は理事の3分の2以上の出席がなければその議事を開き議決することが出来ない(6条5項),理事会の議事は法令に特別の規定がある場合及びこの寄附行為に別段の定めがある場合を除くほか理事総数の過半数で決し可否同数の場合は,議長の決するところによる(6条6項)とされている(「刑事訴訟法第197条第2項による捜査関係事項の照会について(回答)」と題する書面(甲1))。
 
更に私立学校法41条により学校法人に評議員会を置くことが義務づけられ,その性格は同法の定める事項についての諮問機関とされているが(同法42条1項),同条2項は寄附行為により同法所定の事項についての議決機関とすることもできると定めており,これを受けてM2の寄附行為では,評議員会は20名の評議員をもって組織するとされた上で(13条1項),評議員会は評議員の3分の2以上の出席がなければその議事を開き議決することができない(13条5項),評議員会の議事は評議員総数の過半数で決し可否同数の場合は,議長の決するところによる(13条6項)とされ,私立学校法上の諮問事項とされているものを議決事項と規定している(14条)。この議決事項とされているものの中に,重要な資産の処分に関する事項(14条1号)があり,本件売買契約は,契約時の購入価格が7億円,裁判上の和解の時点でも4億5000万円もする高額なものであるから,評議員会の議決事項に該当するものと理解できる。しかしながら,本件売買契約の締結は,そもそも寄附行為6条1項により理事会の議決事項とされている「業務の決定」にも該当するのであるから,まずもって,理事会での議決が必要であった。平成6年12月理事の地位をめぐる民事訴訟につき最高裁判所の判断が示されて確定したものの,依然として理事会の内紛状態が続いているため理事会の開催通知を出しても定足数が集まる見込みがないとして理事会の開催通知さえ出されない状況が続いており,被告人A1は,理事会の議決という私立学校法上及び寄附行為上の手続を踏まなかった。
 
Y2島の購入は,M2にとって理事会の開催通知さえ出せないほどの緊急を要する事項であったものとは考えられない。しかも,理事の地位をめぐる民事訴訟の判決が確定しており,M2の登記簿には判決の確定を受けて,理事3名につき昭和59年及び昭和60年の理事選任決議不存在として平成6年12月20日最高裁判所の判決が確定した旨,平成7年1月24日に登記されている(登記簿謄本(甲2))。したがって,理事会の内紛のいわば根本原因となっていた理事の地位をめぐる民事訴訟が確定したことにより,それまでの状況とは様相がかなり異なったのであるから,理事会の開催通知を出して招集手続がとられなければならない。したがって,理事会の開催通知さえ出さないまま理事会を開催せず,理事会の議決を得なかったことも,任務違背にあたる。
3 評議員会で虚偽の説明をしたこと
 
次に,被告人A1は,平成7年1月23日の評議員会において,Y2島購入の承認を得ていることから,この点をどのように評価すべきか検討する。
 
まず,評議員会議事録をみると,本件売買契約締結前である平成7年1月23日の評議員会議事録(捜査報告書(甲76))には,「岡山地区用地買収の件」として「岡山市郊外,市の沖合い2キロにある6万坪の島(瀬戸内国立公園外地)を6億で買収する件について説明し異議なく可決された」旨の記載があり,同契約締結後の同年3月29日の評議員会議事録(評議員会議事録の写し(弁6))には,「岡山の土地買収の件」として,鉱業権,漁業権について問題はないこと,植生は竹藪と雑木程度であること,海水浴のできる砂浜が四,五か所あること,井戸があること,電気,通信の問題,往復のために船を購入しなければならないこと,これらの説明に対して,評議員のH2から,水の点,船の接岸,港湾施設の点,通信について,土地に対する法的規制の確認等の意見が具申された旨の記載がある。
更に,この点につき各評議員の供述を検討するに,当時の評議員であるO1(甲54),C2(甲55),D2(甲56),E2(甲57),F2(甲58),G2(甲62)は各検察官調書において,被告人A1は,評議員らに対して,Y2島をM2施設として購入する旨の説明をしたものと理解していた旨供述している。
 
このように,平成7年1月23日の評議員会議事録(捜査報告書(甲76))には,Y2島購入目的がO2にPCB処理事業を行わせるためという説明がなされた記載が全くない上,同年3月29日の評議員会議事録(評議員会議事録の写し(弁6))には,「ここで問題は,往復のため船を購入しなければならない点にある。」と記載されていることや,飲料水,電気,通信等の問題点が質疑されていることを考えると,評議員会において,Y2島購入目的は学校用地として使用する旨虚偽の内容が説明されたものと理解できる。仮に,PCB焼却処分場として公害処理企業であるO2にY2島を賃貸するとすれば,当然質疑の対象になるであろう問題点が議論されていないこともこれを裏付けている。
 
M2がY2島を購入する真の目的は,O2にY2島を貸与してPCB処理施設を建設させPCB処理事業を行わせることにあるところ,このような真の目的を秘匿し評議員会で虚偽の購入目的を説明したのであるから,評議員会で承認を得たことをもって,本件売買契約のM2にとっての有用性,有益性について十分な検討がなされたといえないことは明らかである。
更に,前述したとおり,被告人A1は,O2設立に際して,平成6年11月21日,理事会等の承認を得ることなく,経理関係の帳簿に記載しないまま,M2の資金から見せ金として支出された2億円をO2の株式払込金として使用し(同年12月1日,M2の口座に2億1,929円が入金されて返済された。)たのであるから,公害処理企業と被告人A1自身が密接な関わり合いがあるにもかかわらず,このような関係も秘匿したのである。

 被告人A1がY2島の真の購入目的を秘したのも,評議員らの抵抗を予想したためと理解できる。しかも,当時被告人A1はO2の取締役に就任していたのであるから,Y2島の購入,O2への貸与は,同社の取締役を兼ねる被告人A1個人を経済的に利する側面を有しているのであるからなおさらである。
 
被告人A1の弁護人は,平成7年1月23日に開催された評議員会において,Y2島の取得について承認されており,形式的手続は履践されていると共に,同年3月29日の評議員会においては,評議員の一部から具体的な意見が具申ないし表明されていることからすれば,実質的に協議がなされており,被告人A1には任務違背行為がない旨主張するけれども,被告人A1は,Y2島を取得後,O2に貸与することを秘したままに評議員会にかけたにすぎないのであるから,実質的な協議があったとは到底評価することはできない。平成6年12月,M2の理事の地位に関する前記民事訴訟につき最高裁判所の判断が示されてM2の理事の地位をめぐる民事訴訟が解決したが,被告人A1はその後も理事会の招集手続をとらず,平成7年12月になって理事会の開催通知を出したが理事会に出席した理事が定足数に満たなかったため,理事会が成立しなかった。その後平成9年4月18日開催の理事会で理事が改選されて理事会が定足数を満たすようになり,被告人A1は,同年5月26日理事会を開催し,その際,昭和56年度から平成8年度までの評議員会で承認議決され執行された重要案件の一つとして,Y2島購入についても,Y2島を「岡山と倉敷中間沖合2キロにあり,学生のレクリエーション用に買収」として報告し,同理事会において承認手続が履践されている(M1の検察官調書(甲25))が,本件売買契約からかなり期間が経過してしまっている上,この事後的な理事会においても,「学生のレクリエーション用に買収」と虚偽の説明がされているのであるから,事後的な理事会でのY2島購入自体の承認によって瑕疵は治癒されない。
 
したがって,平成7年1月23日開催された評議員会で被告人A1が虚偽の説明をしたことも,任務違背にあたる。
4 まとめ
 
以上のとおりであり,M2理事長として代表権を有する被告人A1がY2島をO2への貸与目的で購入したこと,Y2島購入に当たり理事会を開催せず,評議員会で虚偽の購入目的を説明したことは,M2理事長としての任務に違背するものと認められる。
第2 財産上の損害
1 M2が購入する以前のY2島の売買等
〔1〕前所有者の購入・売却経緯
 
Y2島の前所有者であるE1(平成8年11月13日死亡)がY2島を取得した経緯をみると,同人は個人で材木販売業を営んでいたところ,昭和23年ころ,法人化して経営にあたり,昭和六二,三年ころ同人の長男のF1に代表取締役を譲った後も経営に関与していた。E1は,長年材木販売業をしていた関係から山林を所有するなどしておりF1ともども不動産に興味をもっていた。昭和63年ころ,姫路市の不動産会社がF1に対してY2島の購入を持ちかけてきた。F1は,当時,不動産を購入後5年間所有すると,相続税の課税基準が売買価格ではなく,評価額で決められており,Y2島を借金で購入すればY2島の評価額は相当低いので,負債が増加し,その分相続税の軽減になると考え,E1に購入を勧めた結果,同人が購入することにし,昭和63年5月19日売主株式会社V2との間でY2島の売買予約契約を締結した(売買価格6億5000万円)。F1やE1にY2島を将来どのように利用するとかいう具体的な考えはなかった。E1の死後F1がこれを相続した。売買予約契約書上は売主が株式会社A3となっているが,同社は仲介業者であり,実質的な売主はB3有限会社だった。売買予約契約書自体にも埋蔵文化財が存在することが明記されているが,F1側の購入目的が相続税の節減対策にあったので,この点を問題視しなかった。F1側は,銀行から購入資金を借入れ,昭和63年5月19日手付金1000万円を,同年6月20日,残代金6億4000万円を支払った。
F1側としては,節税対策としてY2島を購入したものであるから,転売を考えていなかったところ,K1がF1に対して,本件売買の話を持ち込んだ。F1側としては,節税対策として購入したものの,借金の返済に困り,売却することにした。
〔2〕Y2島購入後のM2の利用状況,転売話等
 
現在のM2の法人事務局事務局長であり,本件当時経理課に所属していた証人I2は要旨以下のような証言をしている。
 
I2は,平成9年4月1日経理課長に就任後,同年秋口に倉敷市のW2株式会社のJ2から売却話が持ち込まれた。この話は,被告人A1にも伝えられ,J2に対して電話で価格の折衝をし6億円位から5000万円単位で価格が上がっていっていたが,島の用途についてJ2は明らかにしなかった。平成11年秋ころ,8億5000万円か9億円であれば話をしても良いことになり被告人A1にこの価格を伝えたところ,売らないと言明されたためこの話は一旦途絶えた。その後,平成12年暮れころ,再びJ2からY2島の売買についての連絡があり,仲介者として岡山県倉敷のX2のK2を紹介された。このとき,購入目的は,関西国際空港の2期工事の埋立て用の土砂採取という話をJ2から聞いた。同13年4月20日ころ,6億円の金額が出て,買付証明を出すかとの話も出たが,買主が銀行からの融資が下りなかったため頓挫した。
 
この他にも,同年3月頃には,県の私学振興課の方から,知り合いが買いたいといっているとの話などもあったが,価格が1億5000万円程度だったのでこれは断った。
 
M2にとって,今のところY2島を購入したことによる恩恵はない。M2はY2島の関係の税金を,年間約560万円支払っている。
2 損害の存否
 
刑法247条にいう,「本人に財産上の損害を加えたとき」とは,経済的見地において本人の財産状態を評価し,被告人の行為によって,本人の財産状態が減少したとき又は増加すべかりし価値が増加しなかったときをいうと解すべきであるところ(最決昭和58年5月24日),本件においては,M2はY2島に関して,所有権移転登記も具備し完全な形で所有権を取得していることから,本件売買に伴って,このような反対給付を得ている点をいかに評価すべきか問題となる。
 
この点,検察官は,M2の資産構成につき,流動性の高い預金を流動性・市場性の低い無人島に転換することによって,資産運用の自由度と利息を得る機会を喪失させた損害である旨主張し,これに対して,被告人両名の弁護人は,代金を支払って物を取得する行為が,財産上の損害発生と評価されるには,取得された物の客観的価値のみで決されるものではなく,その利用価値といったものも斟酌されるものではあるが,まずは,物の価値判断が重要な要素となり,前所有者であるE1が昭和63年に取得した際の取得価格は,6億5000万円であり,本件売買後には9億円ないし8億5000万円での買受け打診があること,和解の過程においても,Y2島の正当な価額について,その価額が不当であるとする疑問が提起されていないことなどからすれば、Y2島の客観的価値は高く,財産上の損害は存在しない旨主張する。
 
そこで検討するに,Y2島は前述したとおり,瀬戸内海に浮かぶ無人島であり,交通の便は極めて悪いことや,Y2島には,埋蔵文化財が存在するところ,それに関連する問題点も前述したとおりである。Y2島には都市計画法上の制限はないが,瀬戸内海環境保全特別措置法等の種々の規制を受ける。土地開発にも,森林法,種々の条例に基づく規制がある。他にも建築基準法,文化財保護法,国立公園法等による規制を受ける。Y2島は,水島臨海工業地帯に近く,しかも,かなり以前とはいえ,銅の精錬所があったのであるから,保養施設等の面でも難がある。平成5年6月ころ,T2株式会社の代表取締役であるK1から倉敷市に対してY2島に産業廃棄物管理型最終処分場を建設したいという話が持ち込まれたが,同市の結論はあまり好ましくないというものであった。Y2島に桟橋ないし港を建設する場合には,港湾法に基づく許可が必要になる。Y2島に電気,ガス,水道,電話の設備もない。 
このような点を考えると,Y2島の用途はなかなか見い出しにくいから,これを転売しようとしても,買い手は相当見つけにくいものと思われ,Y2島の流動性,市場性はかなり低い。確かに,被告人A1の弁護人が主張するように,一方で,8億5000万円から9億円や6億円の買入れの打診があることは否定できないものの,他方で,1億5000万円での買入れ打診があることからすれば,Y2島の土地の客観的価値は不確定であり,そもそも買入れ打診があったにすぎないというのであるから,これをもって,Y2島の経済的な価値を計ることは困難である。
 
更に,M2は本件売買後,Y2島をM2関係施設等として使ったことはなく,M2施設を建設し,教育目的に使用するためには,さらなる投資が必要であり,Y2島を購入したことによる利益は現時点では見られないことからすれば,M2にとっての有用性,有益性は存在しない。
もとより,背任罪は危険犯ではなく侵害犯であるが,現在においてもY2島はM2にとって使い道がないまま,しかも,転売もできない状態のまま所有する事態が続く危険性が高い。そうすると,少なくとも,本件売買契約当時,裁判上の和解当時,更に同和解に基づいて3億1000万円の支払いがなされた時点のいずれにおいても,Y2島が学校用地として利用される目途は立っておらず,その利用価値はなく,しかも,他に転売できる可能性もかなり低かったことは明らかである。したがって,M2は本件売買契約を締結し,その結果4億5000万円の代金を支払ったことによる代金支払額相当の利益がM2に帰属しているとは認められず,M2が被った損害額については,売買代金相当額と考えられ,M2には代金相当額である4億5000万円の損害が発生したものと認められる。
第3 故意
1 任務違背行為の認識・認容
 
被告人両名は,O2に貸与する目的のもとにY2島を購入しており,被告人A1においては,この目的を評議員会に秘して虚偽の目的を説明して付議し,M2にとっての有用性,有益性等について実質的な検討がなされないままに本件売買契約が締結されていることを十分認識しているのであるから,任務違背の認識認容について欠けることはなく,背任罪の故意が認められる。
 
被告人B1の弁護人は,同被告人は,M2がY2島を購入するにあたって理事会の議決がなかったことすら認識しておらず,この点の認識認容に欠ける旨を主張し,被告人B1もこれに沿う供述をする。しかし,信用性の高い被告人B1の検察官調書(乙6,7)によれば,被告人B1は,平成6年11月被告人A1が理事会の承認なしに,見せ金として2億円をO2の株式払込金として振り込み送金した際,当時M2において理事会が正常に機能していなかったため理事会が開催されていない状態が続いていたので,本件売買契約の締結についても理事会の承認を得ていないことを十分認識するとともに,被告人A1にはM2の財産を同M2のために適正に使う義務があり,理事会の承認なしに被告人A1が取締役となるO2の設立のためにM2の資金を使うことを理事会が認めるはずがないという認識をもっていたし,Y2島の購入についても,理事会が開催されないことや,M2がY2島を購入する目的は,Y2島をO2に貸与し,O2がY2島にPCB処理施設を建設してPCB処理事業を営むことを知悉しており,PCB処理事業を行うO2のためにY2島を購入することが被告人A1の任務に違反することは当然であるという認識をもっており,理事会を開催したとしても承認が得られるはずがないと考えていたことが認められる。このような被告人B1の認識,理解からみると,Y2島の購入につき理事会の開催通知さえ出されなかったことや,評議員会で虚偽の説明がなされたことを被告人B1が知らなくても,M2がY2島を購入すること自体につき,被告人A1がM2理事長としての任務に違反しているという認識を持っていたのであるから,任務違背の認識・認容に欠けるところはなく,背任罪の故意があるといえる。
2 財産上の損害の認識・認容 
 
被告人両名ともに,公判廷において,Y2島自体の客観的価値は高く,M2に損害は発生していないとの認識である旨供述するものの,被告人両名は,実際にY2島に足を運び,その位置関係等について熟知しており,前述のとおり,M2において教育目的に使用するのは困難であることは明確であり,このことは当然,被告人らも認識していたものと認められるから,被告人両名は,財産上の損害について認識しかつ認容していたことが認められる。
第4 図利加害目的
 
被告人A1は,前述のように,Y2島をO2に貸与してPCB処理施設を建設させ,PCB処理事業を経営させることを目論んでいたのであるから,O2の利益を図る目的が認められ,更に,I1らからO2の収益性について説明を十分受けていることに照らせば,O2の取締役として就任していた自己の利益についても期待していたものと認められる。被告人A1がO2の取締役としてどの程度の利益を期待していたのか明確ではないが,O2の創立総会議事録には,取締役の年収は7000万円以内と記載されている(I1の検察官調書(甲35。被告人A1の不同意部分を除く。))。
 
また,被告人B1も,被告人A1をO2の取締役に就任するように要請すると共に,自らも,同社の取締役に就任しているのであり,O2,ひいては取締役としての自己に対する報酬等の利益を目論んでいたものと認められる。
 
したがって,被告人両名には,本件当時,O2及び自己を利しようとの図利加害目的が認められる。
第5 共謀及び被告人B1の加功行為の有無
 
被告人B1の弁護人は,被告人B1は,Y2島の売買についての仲介人的な立場であり,買主であるM2の理事長としての被告人A1の意思決定に対して決定的な影響力を有するものでもなく,共同実行の意思も共同実行の事実もなく共犯たり得ない旨主張する。
 
そこで検討するに,背任罪において身分ある者と身分なき者との共謀の成立については,共同加功の意思としての任務違背・損害発生の具体的認識及び図利加害目的並びに共同加功が必要であると解されるところ,前記認定のとおり,被告人B1には共同加功の意思としての任務違背・損害発生の具体的認識及び図利加害目的が認められる。
 
次に,被告人B1の加功行為について検討するに,被告人B1は,H1の依頼により,被告人A1に対して,Y2島におけるPCB処理事業の話を持ち込み,O2の取締役に就任することを依頼し承諾を得た上,被告人A1が一度はPCB目的での購入を断念しようとした際には,I1をM2において被告人A1と引き合わせてY2島購入を説得させ購入の了承を得,O2の資金不足からH1に依頼されて,M2でY2島を購入してこれをO2に貸与する話を被告人A1に持ちかけて了承を得たこと,本件売買契約時にも被告人A1に同行した上,契約の場においては特約条項15条(ハ)について特に異議を述べていないなど,本件売買契約の締結に向けて尽力したこと,その後の本件売買契約をめぐる民事訴訟においても事実上M2の代理人のように行動していることなどからすれば,被告人B1は,本件売買契約において不可欠の存在であり,被告人A1の任務違背行為に対して積極的に加功したものである。
 
したがって,被告人B1には,被告人A1との間の共謀及び同人の背任行為に対する加功が認められる。
第4部 結論
 
以上から,被告人A1は,M2理事長としての任務に背き,O2及び自己の利益を図るため,O2にY2島を貸与してPCB処理施設を建設させてPCB処理事業を経営させることを目的としてY2島を購入し,その結果M2に対して損害を与えており,このことを十分認識していたのであるから背任罪が成立する。同様に被告人B1は,被告人A1の任務違背及び図利加害目的並びにM2の財産上の損害を伴うことを十分認識しながら,O2及び自己の利益などを図る目的で,被告人A1に働きかけを行い,自らもY2島購入に関して積極的に関与したのであり,前述のごとく,両被告人の間には共謀が成立していることが認められ,背任罪の共同正犯が成立する。したがって,被告人両名の各弁護人の主張は採用できない。
(適用法令)
罰条 刑法60条,247条(被告人B1につき更に同法65条1項)
刑種の選択 懲役刑
未決勾留日数の算入 刑法21条
訴訟費用の負担 刑事訴訟法181条1項本文,182条
(量刑の理由)
 
本件は,学校法人M2の理事長であった被告人A1及び従前から同被告人と親密な関係にあった被告人B1が共謀の上,被告人らが取締役を務めていたPCB処理事業を目的として設立されたO2の利益を図るなどのため,Y2島購入後同会社へ貸与されるのに,それを秘して被告人A1の理事長たる地位を悪用してY2島の購入代金としてM2に4億5000万円を支出させ,瀬戸内海の無人島であるY2島を購入して,M2に損害を与えたという背任の事案である。
 
本件犯行の結果Y2島がM2資産として残っているものの,それは前述したように流動性,市場性はかなり低い上,現在に至るまでM2用地として利用されておらず,同M2としての使い道もなく,むしろ税金の負担があるのみで同M2にとり有用性,有益性は存在しない。M2にはY2島購入代金相当額の4億5000万円もの損害が発生していることになり,本件犯行により,M2が被った財産的被害には甚大なものがある。しかも,本件が発覚し大きく報道された結果,M2の学生,生徒,その父兄,教職員等のM2関係者に大きな衝撃を与えたことが容易に推認され,M2の教育機関としての社会的信用性も傷つけられた。かようにM2に多大な損害を与え,同M2関係者の信頼を裏切った被告人両名の行為には強い社会的非難が加えられなければならない。被告人両名は,M2の教育目的に思いを致すことなく,O2に莫大な収益が入ることにより,同社の取締役としての報酬が期待できるとの利欲的目的もあって本件犯行に及んでいるのであり,その利欲的かつ自己中心的な動機に酌量の余地はない。加えて,被告人両名は,前述のようにM2に対し,多大な財産的損害を与えたにもかかわらず,損害の填補を行っていないばかりか,公判廷において,それぞれ不自然,不合理な弁解に終始しているなど,反省の情は乏しい。
 
各被告人の個別の情状を見るに,被告人A1は,M2の理事長として,同M2のため忠実にその職務を遂行すべき任務を負い,M2資産を法令,寄附行為等に従って運用すべき立場にあったのに,M2を私物化し,同M2理事会の議決を経ず,評議員会においても,真のY2島購入目的を秘して虚偽の説明をするなど,O2及び自らの利益を図るために本件犯行に及んでいる。教育機関である学校法人の理事長としての責任ある立場を忘れ,O2及び自己の利益を優先させ,公私を混同した被告人A1の行為は,悪質というほかなく,厳しく非難されなければならない。
 
被告人B1は,被告人A1に巧みに取り入り,被告人A1に言葉巧みに話を持ちかけてはM2資産を流出させる中で,H1から持ち込まれたO2によるPCB処理事業の話を被告人A1に持ちかけ,同被告人が,一旦はその危険性の高さ故に同事業に対する参加を躊躇するや,H1らに連絡の上,I1と共にM2に赴き,被告人A1に対し,事業への参加を再度説得して,これを承諾させ,Y2島の視察や,売買契約締結の際にも同席するなどし,積極的に被告人A1に本件売買の実現に向けた働きかけを行い実現へ導いている。かように被告人A1から信任を受けていることを奇貨として,自己の利益のためにはM2の利益を犠牲にすることを顧みない被告人B1の身勝手極まりない行為には,厳しい非難が加えられなければならない。
 
これらの事情によると,被告人両名の刑事責任はいずれも重いものである。
 
そうすると,O2のPCB処理施設建設計画自体が途中で頓挫したためとはいえ,被告人両名は本件犯行により結局特段の利益を得てはいないこと,被告人A1がM2のために長年に渡り尽力してきた功績には少なくないものがあるものと思料されること,被告人両名はそれぞれ高齢であり,被告人B1は病を抱えていることなど被告人両名にとり斟酌すべきそれぞれの事情を最大限考慮しても,本件は刑の執行を猶予するのを相当とする事案ではないから,主文掲記の実刑を科すこととした。
 
よって,主文のとおり判決する。
(求刑 被告人両名につきそれぞれ懲役3年)
平成14年7月11日
福岡地方裁判所第2刑事部
裁判長裁判官 林秀文 裁判官 一木泰造 裁判官 永井美奈

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