覚せい剤福岡9

覚せい剤福岡9

福岡高等裁判所/平成13年(う)第671号

主文
不詳

理由
 
論旨は,要するに,原判決は,被告人による覚せい剤使用の公訴事実について,その直接証拠である被告人の尿の鑑定書2通につき,採尿手続自体は何らの強制も加えられることなく,被告人の承諾に基づいて行われたものであることを認定しながら,本件恐喝未遂事件及び覚せい剤の所持で逮捕された後の弁解録取の際,被告人から弁護士への連絡の申出を受けながら,これを怠った警察官の行為には,弁護人依頼権を侵害する違法があり,その違法は採尿手続に影響し,これを軽視することはできないとして,被告人の尿の鑑定書2通の証拠能力を否定し,その上で,覚せい剤使用の事実については,犯罪の証明がないとして無罪を言い渡したが,これは弁解録取から採尿手続に至る間の経緯等につき,関係証拠の評価を誤って事実を誤認するとともに,証拠能力に関する法令の解釈,適用を誤って,上記鑑定書2通の証拠能力を否定したもので,この原審の訴訟手続には判決に影響を及ぼすことの明らかな法令違反がある,というのである。
 
そこで,検討するに,関係各証拠によれば,弁解録取から採尿手続に至るまで,及びその前後の経緯について,以下の事実が認定できる。
〔1〕被告人は,平成12年4月5日午後零時20分ころ,原判示罪となるべき事実に記載の甲野パレス乙山店駐車場において,本件恐喝未遂事件により通常逮捕され,引き続いて行われた捜索差押の際に覚せい剤を所持していたことが判明して,同日午後零時53分ころ,その嫌疑でも現行犯人逮捕され,武雄警察署に引致された。
〔2〕武雄警察署刑事課所属のM巡査部長は,同日午後2時5分ころ,被告人から本件恐喝未遂事件についての弁解を聴取したが,その際,被告人は,M巡査部長に対し,Xを恐喝した覚えはないと述べて犯行を否認するとともに,弁護人については,H弁護士とI弁護士をお願いしますと述べて,両弁護士への連絡を依頼した。続いて、N巡査部長が,同日午後2時25分ころ,被告人から覚せい剤所持の事件についての弁解を聴取したが,その際,被告人は,N巡査部長に対し,覚せい剤所持の外形的事実は認めたものの,覚せい剤とは知らないで所持していた旨述べて,犯意を否認するとともに,弁護人については,H弁護士とI弁護士をお願いしますと述べて,両弁護士への連絡を依頼した。
 
ところが,M,Nの両巡査部長をはじめ,武雄警察署の警察官らは,被告人が指定した弁護士への連絡をとらなかった。 
〔3〕N巡査部長は,同日中の取調べの際,被告人に対し,尿の提出を促したが,被告人は尿が出ないと述べたことから,採尿には至らなかった。
〔4〕N巡査部長は,翌6日の取調べの際にも被告人に尿の提出を促し,被告人は,同日午後5時ころ,これに応じて,同署2階の便所において,採尿容器に放尿し,これを提出した。
〔5〕被告人は,同日午後6時30分ころ,同署留置係員に対し,H弁護士への連絡を依頼し,これを受けた同署留置係員は,同日午後6時35分ころ,同弁護士の事務所に電話をしたが,連絡がつかず,その旨被告人に伝えて納得させた。
 
以上の事実が認定できる。なお,被告人は,以上のほかにも,逮捕以来,再三にわたり,警察官や検察官らに対し,H弁護士らに連絡してくれるようにも申し出たが,聞き入れてもらえなかったと供述するが,原判決が争点に対する判断中の第2の3「弁護人選任権侵害の主張について」の項で説示するとおり,関係各証拠に照らして考えると,被告人が,その供述するほど執拗に弁護士への連絡を求めていたとの事実は認められない。
 
以上に認定した事実によれば,M,Nの両巡査部長ら被告人からの弁解録取に立ち会った警察官は,被告人から依頼された弁護士への連絡を怠ったもので,この警察官の行為が,被告人の弁護人依頼権を侵害していることは明らかである。
 
そして,所論も主張するとおり,不当な抑留,拘禁からの解放を確保し,人身の自由に対する侵害を抑止する趣旨で弁護人依頼権が保障されたものである以上,弁護人依頼権の侵害は,違法な身柄拘束の状態を招くのであって,このような違法な身柄拘束の状態を利用して被告人に対する採尿手続が行われた場合には,その採尿手続も違法性を帯びるものといわざるをえない。さらに,原判決が掲げる最高裁判例の趣旨を援用すれば,この採尿手続が帯びる違法性の程度が重大であり,これによって採取された尿の鑑定書を証拠として許容することが,将来における不当な抑留,拘禁や違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められるときには,この鑑定書の証拠能力が否定されるというべきである。

 そこで,本件について更に検討を加えるに,関係各証拠によれば,被告人は,本件恐喝未遂事件や覚せい剤所持の事件については争う姿勢を見せていたものの,尿の提出については当初から応じる意向を示していたもので,採尿手続自体は強制にわたる場面もなく,被告人の承諾に基づいて行われていることが認められる。なお,弁護人は,採尿に対する被告人の同意には瑕疵があると主張するが,当時の被告人は,本件恐喝未遂事件等については否認を貫く姿勢を示していたわけであるし,尿を提出すれば,これが鑑定の資料に用いられ,覚せい剤使用事実の判定に供されることは,被告人においても十分に理解していたものと推測されるのであって,このような事情からすれば,採尿に対する被告人の同意に瑕疵があったとは認められない。また,このような被告人の様子からすれば,捜査機関としては,被告人と弁護人との接見を妨害しないことには,被告人から尿の提出を受けられないといった状況には立たされておらず,接見を妨害する必要を感じてもいなかったものと考えられる。
 
ところで,証人Jは,当審公判廷において,当時の武雄警察署においては,被疑者から弁護士への連絡を依頼された際の取扱いに関する取り決めがなく,しかも,生活安全課長の立場にあった同人は,着任後日が浅く,捜査に慣れていなかったため,N巡査部長から被告人が弁護士への連絡を依頼していると聞いた際にも,N巡査部長の方で連絡をしてくれるものと考え,他人任せにしてしまった旨供述しているところ,先に触れたような尿の提出に関する被告人の応対や捜査機関の状況に,本件恐喝未遂事件については,武雄警察署の刑事課が捜査を担当し,覚せい剤所持の事件については,生活安全課が捜査を担当するといったように,事件ごとに担当部署が分かれていたこと,さらに,N巡査部長においても,原審公判廷において,自らは弁護士への連絡をしなかった旨悪びれることなく供述していることからすると,証人Jの上記供述は,被告人に対する捜査に携わった警察官らの弁護人依頼権に対する意識を素直に表現したものと考えられるのであって,弁護人依頼権の重要性を十分に認識していなかった点は厳に戒められなければならないものの,これらの警察官らには,被告人から尿の提出を得る目的で違法な身柄拘束の状態を利用しようとする意図はなく,本件では,担当部署や警察官相互の連絡に手抜かりがあったことで,弁護士への連絡が行われなかったものと認められる。
 
以上のような諸事情からすると,被告人に対する採尿手続が違法性を帯びるとしても,その違法性の程度は,いまだ重大であるとはいえず,これによって採取された尿の鑑定書2通を証拠として許容することが,将来における不当な抑留,拘禁や違法な捜査の抑制の見地からして相当でないとは認められないから,これら鑑定書の証拠能力は否定されるべきではない。
 
以上の次第であるから,「捜査官において被疑者の身柄拘束状態を採尿のために効果的に利用したと見ざるを得ない」とした上で,被告人に対する採尿手続の帯びる違法性は重大であるとして,尿の鑑定書2通の証拠能力を否定した原審の訴訟手続には,法令の違反があり,その違反が判決に影響を及ぼすことが明らかであるといえるから,原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。

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