暴行福岡1

暴行福岡1

福岡高等裁判所/平成13年(う)第385号

主文
原判決中有罪部分を破棄する。
本件を福岡地方裁判所に差し戻す。

理由
 
本件控訴の趣意は,主任弁護人美奈川成章,弁護人松永摂子が連名で提出した控訴趣意書,「控訴趣意書の補充・訂正申立」と題する書面に記載のとおりであり,これに対する答弁は検察官小泉昭が提出した答弁書記載のとおりであるから,これらを引用する。
 
論旨は,要するに,原判決は,平成12年12月15日付け起訴状記載の暴力行為等処罰に関する法律違反の公訴事実については無罪としつつ,同公訴事実には銃砲刀剣類所持等取締法違反の主張も含まれているものと解して,同法違反の事実を認定し,被告人に対し,罰金10万円に処する旨の判決を宣告したが,これは刑事訴訟法378条3号後段の「審判の請求を受けない事件について判決をした」場合に当たり、いわゆる不告不理の原則に違反しているから,原判決を破棄した上,被告人に無罪の言渡をすべきである,というのである。
 
そこで,所論にかんがみ,検討するに,原審記録によれば,
1 検察官は,
〔1〕平成12年8月25日付け起訴状をもって,
「被告人は,業務その他正当な理由による場合でないのに,平成12年8月14日午後9時53分ころ,福岡市博多区東光寺町2丁目1番8号付近路上において,刃体の長さ約8.9センチメートルの折りたたみ式ナイフ1本を携帯した」(以下,この公訴事実を「8月25日付け公訴事実」という。)として起訴し,
〔2〕同年12月15日付け起訴状をもって,
「被告人は,平成12年8月14日午後9時20分ころ,福岡市博多区東光寺町2丁目1番26号のパチンコ店『Eスペース』店内において,同店従業員Aに対し,『お前,何か。』などと語気鋭く申し向け,所携の刃体の長さ約8.9センチメートルの折りたたみ式ナイフ1本を示すなどして同人の生命,身体等に危害を加えかねない気勢を示し,もって兇器を示して脅迫した」(以下,この公訴事実を「本件公訴事実」という。なお,上記起訴状中には,「A」との記載があるが,「A」の誤記と認める。)として起訴したこと,
2 これを受けた原審は,これらを併合審理して原判決をしたのであるが,上記各公訴事実と原判決の主文及び理由中の認定,判断を対比すると,原判決は,
〔1〕8月25日付け公訴事実については,被告人は無罪であることを理由中で説示するとともに,その旨主文でも言い渡したが,
〔2〕本件公訴事実については,被告人は無罪であることを理由中では説示しているものの,その旨主文では言い渡さず,
〔3〕被告人の上記パチンコ店内におけるナイフの携帯には正当な理由は認められず,違法なものであるから,銃砲刀剣類所持等取締法22条に違反しており,かつ,本件公訴事実には「銃砲刀剣類所持等取締法違反の主張も含まれているものと解されるので,訴因変更の手続きは不要と考える」として,原判決の罪となるべき事実の項において,「被告人は,業務その他正当な理由による場合でないのに,平成12年8月14日午後9時20分ころ,福岡市博多区東光寺町2丁目1番26号のパチンコ店『Eスペース』店内において,刃体の長さ約8.9センチメートルの折りたたみ式ナイフ1本を携帯した」(以下,「本件犯罪事実」という。)との事実を認定し,この事実について被告人を罰金10万円に処すとともに,上記ナイフ1本を没収する旨主文で宣告したこと,
以上の事実が認められるところ,所論も指摘するとおり,暴力行為等処罰に関する法律1条に定める示凶器脅迫行為と銃砲刀剣類所持等取締法22条で禁止されている刃物の携帯とは,法益,罪質はもとより,行為態様といった構成要件要素や違法性阻却事由の内容も異にしていることからすると,両者は,吸収,包含される関係にはなく,また,1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるとも認められないのであって,これらの法条に触れる行為は別個の犯罪として成立し,両罪は併合罪の関係にあると解するのが相当である。そうすると,本件犯罪事実が本件公訴事実に含まれていると解することはできないし,原審記録によって認められる審理経過に照らしても,本件公訴事実について,検察官が本件犯罪事実のような銃砲刀剣類所持等取締法違反の罪についても処罰を求める意思があったと認めるに足りる事情は見出せないのであるから,本件公訴事実には銃砲刀剣類所持等取締法違反の主張も含まれると解して本件犯罪事実を認定した原判決には,審判の請求を受けない事件について判決をした違法があるというべきであり,破棄を免れない。 
 
また,本件公訴事実と本件犯罪事実とは1罪(科刑上一罪を含む。以下,同じ。)の関係にはなく,併合罪の関係にあることからすると,本件公訴事実についても被告人は無罪であると判断したのであれば,その旨主文においても言い渡さなければならないが,上記のとおり,原判決は,本件公訴事実につき,被告人は無罪であることを理由中では説示しながらも,その旨主文では言い渡していないのであって,この点では,審判の請求を受けた事件について判決をしなかった違法があり,刑事訴訟法378条3号前段の事由によっても破棄を免れない。
 
なお,所論は,いわゆる攻防対象論を根拠に,被告人のみが控訴を申し立て,検察官においては控訴を申し立てていない以上,本件公訴事実は当事者間における攻防の対象から外されたことになり,控訴審が職権調査によって本件公訴事実に関する原判決の事実認定を審査することは許されないから,当審としては,原判決を破棄した上,本件公訴事実について,主文中で無罪を宣告すべきであると主張する。しかしながら,先に検討したとおり,本件公訴事実と本件犯罪事実とは1罪の関係にはないのに,原判決は,これらが1罪の関係にあるとの誤解から,上記2〔2〕〔3〕のとおり判示したもので,これが刑事訴訟法378条3号前段,後段の事由に該当することは明らかで,違法の程度が大きく,この誤りを是正すべき必要性が強いこと,このような破棄事由が認められることからすると,本件公訴事実について被告人が適法に無罪とされたとするには疑問の余地があること,本件公訴事実と本件犯罪事実の罪数関係に原審の審理経過を併せ考えると,検察官としては,本来,本件公訴事実については処罰を求めていたが,本件犯罪事実については処罰意思を持ち合わせておらず,公訴を提起してもいなかったのであって,これらの事実に関する原判決の認定判断は明らかに検察官の当初の処罰意思に反するものであるから,検察官が控訴の申し立てをしなかったことをもって,検察官としては,本件犯罪事実について被告人に刑罰を科すことで満足し,その代わりに本件公訴事実についての処罰意思を放棄したものと認めるにはいささか飛躍があること,以上のような諸事情からすると,本件は攻防対象論が妥当する典型例とはいいがたい。のみならず,所論によれば,本件公訴事実に関する原判決の事実認定が当審における職権調査の対象から外れるばかりか,更に進んで,当審において,本件公訴事実について被告人は無罪である旨を判決主文中で宣言しなければならないというのであるが,職権調査の対象とするのを禁止されているということから,控訴審としては,原判決の事実認定に拘束された上で,原判決が脱漏した主文を控訴審の判決主文中で宣言するために自判する義務をも負わされているということが必然的に導き出されるわけではないものと思われるし,先に指摘したとおり,原判決には少なからぬ問題が認められることからすると,本件については,まずは原審に差戻し,原判決の不備を是正し,あるべき姿に整えさせるのが肝要であると思料される。したがって,これと異なる所論を直ちに採用することはできない。
 
以上の次第であるから,原判決の破棄を求める限度で,論旨は理由がある。
 
よって,刑事訴訟法397条1項,378条3号により原判決中有罪部分を破棄し,同法400条本文により,本件を福岡地方裁判所に差し戻すこととし,主文のとおり判決する。
(福岡高等裁判所第二刑事部)

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