その他福岡2(銃刀法違反)

その他福岡2(銃刀法違反)

福岡地方裁判所/平成12年(わ)第1005号

主文
被告人を罰金10万円に処する。
未決勾留日数のうち,その1日を金5000円に換算してその罰金額に満つるまでの分を,その刑に算入する。
押収してある折りたたみ式ナイフ1本(平成12年押第217号の1)を没収する。
平成12年8月25日付起訴状記載の公訴事実につき,被告人は無罪。

理由
(罪となるべき事実)
 
被告人は,業務その他正当な理由による場合でないのに,平成12年8月14日午後9時20分ころ,福岡市博多区東光寺町2丁目1番26号のパチンコ店「Eスペース」店内において,刃体の長さ約8・9センチメートルの折りたたみ式ナイフ1本(平成12年押第217号の1)を携帯した。
(証拠の標目)省略
(事実認定の補足説明)
第1 判示罪となるべき事実を認定した理由
1(1)平成12年12月15日付起訴状記載の公訴事実は,「被告人は,平成12年8月14日午後9時20分ころ,福岡市博多区東光寺町2丁目1番26号のパチンコ店「Eスペース」店内において,同店従業員Aに対し『お前,何か。』などと語気鋭く申し向け,所携の刃体の長さ約8・9センチメートルの折りたたみ式ナイフ1本(平成12年押第217号の1)を示すなどして同人の生命,身体等に危害を加えかねない気勢を示し,もって,兇器を示して脅迫した。」というものである。
(2)この点,Aの第8回公判における供述によれば,〔1〕男子トイレ内でAを追い越した被告人が振り向き,「お前,何か。」と言ったので,何だろうと思い,「何ですか。」と言うと,被告人がズボンの後ろポケットから物を取り出して手のひらに出したので,ナイフと分かった,〔2〕被告人がおぼつかない手つきで刃の部分を出そうとしていたので,やばいと思いすぐに逃げた,というのである。
(3)次に,被告人の第9回公判における供述によれば,〔1〕コンビニから賞味期限切れの弁当が出る時間になったので拾いに行こうとして,日頃本件ナイフを箸代わりにして弁当を食べていたので,このときも箸代わりにするつもりで,自転車のかごに入れていたポーチの中から本件ナイフを取り出してズボンの後ろポケットに入れた,〔2〕パチンコ店のトイレに行った後であれば弁当が出るころになると思ってトイレへ行った,〔3〕トイレ室の扉の前でAと出会ったところ,Aが咳払いをしてトイレ室に入ったので被告人も後について行くと,男子トイレの中でAが被告人を見てにやにやしながら「何ですか。」と小馬鹿にしたように言ったので,「またばかにしている。」と思い,「お前,何か。」と言ってズボンの後ろポケットから本件ナイフを取り出した,〔4〕被告人が,ナイフの刃を出すような格好を示して「もう嫌がらせするな。」と言ってAを脅すつもりで,ポケットから出した本件ナイフの刃を引っ張り出す素振りをしたところ,Aは逃げて行った,というのである。
(4)この両名の供述に基づいて検討すると,〔1〕被告人がズボンの後ろポケットから本件ナイフを取り出したのは,Aに対し,今後被告人を馬鹿にするような態度を取らせないために本件ナイフを示して脅すつもりであったこと,〔2〕Aは,被告人が手に持っているのがナイフだと分かった時点で直ちに逃げ去ったこと,〔3〕そのため,被告人は,ナイフの刃を出しておらず,Aにナイフを向けたこともなく,「もう嫌がらせをするな。」などの言葉をAに対して発していないことが認められる。
(5)そうすると,被告人は,Aに対してナイフを示そうとしたが,未だナイフを示すには至っていなかったものであり,ナイフを取り出した後Aに害悪の告知を内容とするような言葉も発していなかったのであるから,「兇器を示して脅迫した」との構成要件となる行為には至っていないというべきである。したがって,被告人の行為は,暴力行為等処罰に関する法律には該当しないものである。
2 しかしながら,上記認定のとおり,被告人は,トイレ内において本件ナイフを取り出した当時,Aを脅すつもりであったことが認められ,そうすると,そのナイフの携帯には正当な理由は認められず,違法なものであるから,銃砲刀剣類所持等取締法違反に該当するものというべきである。
 
なお,本件事実関係に照らせば,暴力行為等処罰に関する法律違反の公訴事実には,銃砲刀剣類所持等取締法違反の主張も含まれているものと解されるので,訴因変更の手続は不要と考える。
3 以上の理由から,平成12年12月15日付起訴状記載の公訴事実について,判示の罪となるべき事実を認定したものである。
第2 平成12年8月25日付起訴状記載の公訴事実について無罪とした理由
1(1)その公訴事実は,「被告人は,業務その他正当な理由による場合でないのに,平成12年8月14日午後9時53分ころ,福岡市博多区東光寺町2丁目1番8号付近路上において,刃体の長さ約8・9センチメートルの折りたたみ式ナイフ1本(平成12年押第217号の1)を携帯した。」というものであり,それは,上記の判示事実よりも約33分後に,上記パチンコ店から約30メートル離れた路上で,被告人が駐車していた自転車の前かご内に乗せたポーチの中に本件ナイフを仕舞っていたところ,その事実が銃刀法に違反するとして起訴したものである。
(2)ところで,第2回及び第3回公判における被告人の供述や捜査段階における供述調書等によれば,被告人は,上記のとおり,弁当を食べるときに箸代わりにするつもりで本件ナイフを持っていたが,パチンコ店の男子トイレ内でAを脅そうとして本件ナイフを取出し,その後,本件ナイフをポケットに仕舞い,トイレを済ませてパチンコ店を出てからコンビニの弁当が出ているかを見たがまだ出ていなかったので待っていたところ弁当が出たのでそれを拾い,本拠にしている公園に帰って食べようと思い,本件ナイフをポーチに仕舞い,自転車の前かごに入れて帰ろうとしていたところを警察官に呼び止められたことが認められる。
(3)その事実によれば,その携帯の態様は,ポーチに入れて自転車のかご内に置いていたものであり,携帯の目的は,公園へ帰って弁当を食べるときに箸代わりに使用するというものであることや,被告人は,日頃,本件ナイフを拾い集めた導線のビニールの被覆を剥がすのに使ったり,弁当を食べるときの箸代わりに使っていたことなどに照らせば,その自転車における本件ナイフの携帯は,社会生活上の相当性の範囲内にあるものであって,正当な理由のない違法なものとまでは認められないというべきである。
(4)検察官は,30分くらい前の,パチンコ店内におけるAに対する行為から自転車での携帯までを一連の行為の流れと考え,パチンコ店内の携帯の違法な状態が自転車での携帯にまで及ぶと考えたものと思われるが,日時や場所の推移とともに,携帯の目的や態様も変化し,パチンコ店における携帯と自転車における携帯とは,社会的事実が異なるものとなったのであって,一連のものとか同一の社会的事実とはいえないので,違法性は別個に検討されなければならない。
(5)また,ホームレスにとって,箸を常時携帯することができないため,仕事に使うナイフを箸代わりにして,拾った弁当を食べるということもあり得ることであって,それを嘘と断言することはできないし,被告人の検察官調書中には,緊急な事態に遭遇したときに,護身のためにナイフを使うことがある旨を理詰めの尋問で供述させた形跡も窺え,本件ナイフを護身用に携帯していたとの供述部分は,信用性に乏しいものである。
2 したがって,自転車のかご内における携帯は違法ではないので,銃刀法に該当せず,被告人は無罪である。
第3 公訴権濫用の主張について
1 弁護人は,検察官が,銃刀法違反の第1起訴が無罪になるおそれがあることに気づいて訴因変更をしようとしたが,訴因変更が許されないことから,暴力行為違反の第2起訴がなされたもので,当初第2起訴の予定はなかったなどの事情によれば,第2起訴は第1起訴の失敗を糊塗する代替策としてなされたことは明らかであり,このような検察官の起訴の意図は裁量権の範囲を逸脱するものであり,公訴権の濫用に当たる,というのである。
2 ところで,〔1〕起訴事実と証拠上認められる事実とが同一の社会的事実に属するときには訴因変更の手続によって同一手続内で新たな事実について審理することができるのであるが,公訴事実の同一性がない場合には別起訴の手続きを取らざるを得ないこと,〔2〕本件では,自転車のかご内の携帯とパチンコ店内の携帯とは近接した事実であって,事実関係や,その違法性の評価に関して微妙な問題点があったこと,〔3〕したがって,その後の審理の結果,第1起訴にかかる携帯の違法性に疑問が生じたことから,訴因変更が検討されることとなったが,公訴事実の同一性の判断に関して見解が別れる可能性があるため,訴因変更によるべきか,別起訴によるべきか慎重な判断が要求されたこと,〔4〕第2起訴にかかる犯罪が,暴力行為違反若しくは銃刀法違反の罪で,反社会性や法定刑に照らし,社会的に見過ごすことのできない事犯であって,適正な刑罰権の行使が要求される事案であること,などの事情が認められ,これらの事情に鑑みれば,本件第2起訴をもって,検察官が裁量を逸脱した違法があるものとは認めることはできない。
第4 本件第2起訴が起訴状一本主義に違反するとの主張について
1(1)第1起訴と第2起訴とは、社会的事実を異にするとはいえ,それは近接したものであり,当初検察官は一体のものと捉えていたため,第1起訴において,第2起訴事実に係る証拠をも併せて第1起訴事実の立証のために提出したものであるところ,それが同一の社会的事実に属するものであれば訴因変更の手続で処理され,提出証拠をそのまま援用することができるため予断排除の問題は生じないのであるが,社会的事実の同一性が認められないために別起訴の手続きを取るほかなく,その結果,第1起訴での請求証拠を第2起訴の証拠として別途請求する必要が生じたため,検察官は第2起訴後に新たに証拠請求をしたものである。
(2)ところで,刑訴法は,審判の対象を公訴事実を同一とする範囲内の事実に限定することにより,被告人の防御の対象と範囲を明確にすることによって被告人の利益を図っていることは明らかであり,それと同時に,併合罪関係にある事実について1回の訴訟手続で解決するという同時審判を受ける利益を図っていることは刑法の規定に照らしても明らかである。 
(3)そうすると,上記のように,刑罰権の適正な行使の要請から起訴価値を有すると認められる第2起訴事実に関し,訴訟手続上の制約から第1起訴事実の訴因変更ではなく別起訴がなされたとき,第1起訴に係る証拠を第2起訴の立証のために請求することとなる事態をもって,第2起訴が行われた段階で,それが直ちに起訴状一本主義に違反するものということはできないというべきである。
(4)検察官が第1起訴に当たり,社会的事実の同一性の判断を誤り,第1起訴事実の立証のために第2起訴事実に係る証拠をも提出していたときには,その後は,第2起訴は起訴状一本主義に違反するので,たとえ起訴価値を有する犯罪であっても別起訴は許されないとすることは,現行法の解釈としては採用できない。
2 したがって,第2起訴が起訴状一本主義に反するとの弁護人の主張は採用できない。

(法令の適用)
罰条
平成11年法律第160号による改正前の銃砲刀剣類所持等取締法32条4号,22条
刑種の選択
罰金刑
未決勾留日数の算入
刑法21条
没収
刑法19条1項1号,2項本文
訴訟費用の不負担
刑事訴訟法181条1項ただし書
 
よって,当裁判所は,判示パチンコ店内で被告人が折りたたみ式ナイフを携帯した事実を銃刀法違反の犯罪事実と認定し,犯情に照らし,罰金刑相当と判断した。
(検察官松本卓史,国選弁護人美奈川成章)
(求刑 懲役6月及びナイフの没収)
(福岡地方裁判所第3刑事部)

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